(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767345
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】鋼帯の金属被覆を増強する方法
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20150730BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
C23C26/00 E
C25D5/50
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-555807(P2013-555807)
(86)(22)【出願日】2012年1月2日
(65)【公表番号】特表2014-512454(P2014-512454A)
(43)【公表日】2014年5月22日
(86)【国際出願番号】EP2012050012
(87)【国際公開番号】WO2012116847
(87)【国際公開日】20120907
【審査請求日】2014年1月27日
(31)【優先権主張番号】102011000984.1
(32)【優先日】2011年3月1日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513213841
【氏名又は名称】ティッセンクルップ ラッセルシュタイン ゲー エム ベー ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホーエン,ウインフライド
(72)【発明者】
【氏名】オーバーホッファー,ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】リーブシャー,ベンジャミン ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】サウワー,ライナー
【審査官】
宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−060053(JP,A)
【文献】
特開2002−206191(JP,A)
【文献】
特開2002−371377(JP,A)
【文献】
特開平02−199372(JP,A)
【文献】
特開昭63−076885(JP,A)
【文献】
特開昭61−204380(JP,A)
【文献】
特開昭61−113757(JP,A)
【文献】
特開平09−296280(JP,A)
【文献】
特開平09−241863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00 − 30/00
C25D 5/00 − 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯上または鋼板上の金属被覆を増強する方法であって、前記金属被覆は、その金属被覆を構成する材料の融点以上への加熱によって溶融され、前記加熱は、長くとも10マイクロ秒である制限された照射時間の所定パワー密度の電磁放射線による前記金属被覆表面への照射によって実行され、前記電磁放射線よって前記金属被覆内に導入されるエネルギー密度および前記電磁放射線の所定照射時間は、前記鋼帯の境界層に至る前記金属被覆の厚み全体を完全に溶融させるように選択され、薄い合金層が前記金属被覆と前記鋼帯との間の前記境界層において形成されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記加熱は、長くとも100ナノ秒である制限された照射時間の所定パワー密度の電磁放射線による前記金属被覆表面への照射によって実行されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記被覆表面は、所定パワー密度のレーザ光線により照射されることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記レーザ光線は、最大パルス幅10マイクロ秒のパルスであることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
金属被覆された前記鋼帯は、前記電磁放射線の照射源に対して相対的に移動することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
金属被覆された前記鋼帯は、帯速度(Vstrip)で前記鋼帯の長手方向に移動することを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記電磁放射線の前記照射源は、照射源速度(Vsource)で前記鋼帯の横断方向に移動することを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記金属被覆表面の照射のために複数の照射源が使用され、当該照射源は前記金属被覆表面に対して所定パワー密度の電磁放射線を放射することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記電磁放射線は前記金属被覆表面に焦点され、当該焦点の直径は、前記金属被覆表面の所定点が長くとも10マイクロ秒の所定照射時間(tA)内に当該焦点の直径を通過するよう、前記帯速度(Vstrip)に適合するように設計されていることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記照射源から放射される電磁放射線の放射線パワー密度は、106W/cm2から2×108W/cm2であることを特徴とする請求項1または8記載の方法。
【請求項11】
前記照射時間(tA)内の電磁放射線によって、エネルギー密度0.01J/cm2から5.0J/cm2が前記金属被覆表面に対して照射されることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記金属被覆表面への照射によって、エネルギー密度0.03J/cm2から2.5J/cm2が前記金属被覆表面に対して照射されることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記合金層の厚みは0.05g/m2から0.3g/m2に相当することを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記電磁放射線によって前記金属被覆内に導入されるエネルギー密度および前記電磁放射線の所定照射時間は、前記鋼帯の境界層に至る前記金属被覆の厚み全体を完全に溶融させるが、非合金被膜領域は表面に残留するように選択されることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
1m2/秒以上の割合で面積が処理されることを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記被覆材料は、錫、亜鉛またはニッケルであることを特徴とする請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に記された鋼帯あるいは鋼板の金属被覆の増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、錫メッキ鋼板(ブリキ)の製造における電気メッキ被覆された鋼帯の製造においては、メッキ被覆プロセスによる被覆の溶融によって被覆の腐食抵抗性を増強させる方法は知られている。この目的で、鋼帯に電気メッキされた被覆が被覆材料の融点以上に加熱され、続いて水槽で急冷される。被覆の溶融によって被覆の表面には光沢が付与され、被覆の孔質度は減少し、その腐食抵抗性は増加し、例えば有機酸である腐食性物質の浸透度は減少する。
【0003】
被覆の溶融は、例えば、被覆された鋼帯の誘導加熱または電気抵抗加熱によって実行される。例えば、DE1277896は、金属被覆された鉄帯あるいは鉄板の腐食防止性を増強する方法を開示する。そこでは金属被覆は、被覆材料の融点以上に加熱されて溶融され、融点と再結晶温度との間の温度範囲での結晶化プロセス中に高周波振動に曝露される。DE1186158−Aには、特に、鋼帯の電気メッキ被覆の溶融のための金属帯の誘導加熱が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】DE1277896公報
【特許文献2】DE1186158A公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鋼帯または鋼板の金属被覆の溶融のための知られた方法では、原則的に被覆を含んで鋼帯または鋼板全体が被覆材料の融点以上に加熱され、続いて、例えば水槽内で常温にまで冷却される。このためには相当量のエネルギー消費が必要である。
【0006】
従って、本発明の目的は、従来の方法と比べてエネルギー効率が改善されている鋼帯または鋼板の金属被覆を増強するための方法を提供することである。この方法はさらに、薄い被覆層の場合であっても、この方法に従って処理された被覆に高腐食抵抗性を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの目的は請求項1の特徴を含んだ方法によって達成される。本発明の方法の好適実施形態は従属請求項において示されている。
【0008】
本発明の方法によって、被覆材料をその融点以上に加熱することで、被覆の少なくとも表面および厚みの一部で金属被覆は溶融される。この加熱は、せいぜい10マイクロ秒である限定された照射時間の高パワー密度(強度)の電磁放射線による被覆表面への照射によって実施される。必要エネルギーは金属板の厚みとは無関係である。両面を溶融する場合、例えば、0.2ミリのブリキの場合には、中程度である標準厚と比較して、金属帯にはせいぜい10マイクロ秒の照射時間内で、約90%も少ない熱エネルギーを必要とするだけであるという事実は驚くべきことである。全エネルギー必要量のためには、照射線の波長、被覆の表面特性、等々による吸収度および照射源の効率が考慮されなければならない。
【0009】
よって、制限された照射時間は、最大パルス長(時間)が10マイクロ秒である短パルスの電磁放射線を放射するパルス式照射源の利用によって達成可能である。照射時間も最大値10マイクロ秒に制限が可能であり、電磁放射線を連続的に放射する照射源が使用され、この照射源は被覆された鋼帯に比べて高速で移動される。本発明のこの実施形態は、特に、被覆された鋼帯をその長手方向に被覆装置内を高速で通過させる金属帯被覆装置を利用する。金属帯錫メッキ装置でのブリキの製造においては、例えば、錫の電気分解メッキでは鋼帯700m/分までの金属帯移動速度が達成される。本発明は、そのような高速金属帯移動速度によって、電磁放射線を被覆表面に焦点(合わせ)させることにより、電磁放射線のパルス放射を必要とすることなく、せいぜい10マイクロ秒の照射時間を維持できる。
【0010】
好適には、鋼帯または鋼板の被覆表面の照射は高パワー密度のレーザビームによって実行される。従来はパルス長がナノ秒(ns)の範囲の高出力レーザビームを放射する短パルスレーザを利用していた。このような短パルスレーザにより、本発明の方法に従った照射時間も100ナノ秒以下の値に短縮できる。これら照射時間の達成は連続(cw)レーザによっても可能である。
【0011】
短い照射時間による、被覆表面上に放射される電磁放射線は、被覆表面および被覆の厚みの一部または全体を被覆材料の融点以上に加熱するだけである。被覆の下側の鋼帯または鋼板は非実質的に加熱されるだけである。鋼表面の最上部内への多少のエネルギー入力を伴うだけの被覆表面の照射による実質的なエネルギー入力は本発明の方法によって実現される。このように、被覆の短時間の溶融後に、冷状態にある鋼帯または鋼板によって被膜内に導かれた熱を除去することが可能である。よって、本発明の方法においては、被覆の溶融後の温度処理は、冷状態にある鋼帯または鋼板を通して被覆内の熱を除去することによって自動的に行われる。従来式の水槽内での急冷は不要である。このように、従来には、鋼帯または鋼板全体を被覆材料の融点以上に加熱し、その後に水槽内で急冷するのに必要であったエネルギーの相当程度が節約できる。
【0012】
本発明の方法の1好適実施例では、電磁放射線を放射する照射源は、被覆の加熱のため、鋼帯速度で移動する鋼帯の横断方向に移動される。好適には、被覆表面の照射のために複数の放射源を使用することも可能である。それらの放射は、被覆表面全体が照射されるように被覆表面上にガイドされる。好適には、個々の照射源の光線は、被覆表面の一部で重なるように次々に導かれる。従って、これら様々な照射源は被覆された鋼帯に対して移動することもできる。被覆された鋼帯は鋼帯の長手方向に所定の帯移動速度で継続的に移動する。
【0013】
照射源から放射される電磁放射線は偏向/焦点装置によって被覆表面に焦点される。好適には、焦点の直径または広がりは、被覆表面の特定点が、最大で10マイクロ秒の特定照射時間内で鋼帯移動方向に焦点の広がりを通過するよう、移動する帯鋼の速度(鋼帯速度)に適合するように設計されている。これで、被覆表面の各点が電磁照射線によって最大照射時間よりも長く照射されないようにしている。
【0014】
照射源は、全被覆表面が可能な限り均等に照射され、10マイクロ秒の最大照射時間を超えずに照射されるようにアレンジされている。好適には、毎秒1m
2以上の面積が被覆表面の照射によって電磁放射線で処理される。
【0015】
好適には、電磁放射線によって被覆に導入されるエネルギー密度および所定の照射時間は、被覆を、その全厚にわたって鋼帯との境界層にまで完全に溶融させるように相互協調的に選択される。よって、導入された熱の一部は鋼帯にも伝導され、エネルギー損失または熱損失が発生する。しかし、この好適方法で本発明の方法を実施するにあたって、驚くことに(被覆の厚みと比較して)薄い合金層が被覆と鋼帯との間の境界層に形成される。その合金層は鉄原子と被覆材料の原子とで成るものである。好適にはエネルギー密度は、鋼帯または鋼板との被覆合金の一部のみ、すなわち非合金被覆が溶融後に存在し続けるように選択される。よって、錫メッキされた鋼帯では、例えば、非常に薄い鉄/錫合金層は錫被覆と鋼との間で境界層を形成する。従って、この合金層の厚みは、選択されたプロセスパラメータにもよるが、略0.05から0.3g/m
2である単位面積あたりの重量に対応するものとなる。これで、例えば、2.0g/m
2の薄い錫層においても、非常に良好な腐食抵抗性合金層が光学的に魅力的な表面を備えて提供される。この非常に薄い合金層は、被覆された鋼の向上した腐食抵抗性と、鋼帯または鋼板の被覆の向上した接着性とを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明を以下において、添付図面に図示するいくつかの実施例を利用して詳細に解説する。それら図面は以下の通りである。
【
図1】
図1は、本発明の方法を実行するための装置の第1実施例の概略図であり、金属被覆された鋼板の断面が示されている。
【
図2】
図2は、被覆された鋼帯の平面図であり、移動する鋼帯上の金属被覆を増強する別例の概略図である。
【
図3】
図3は、被覆された鋼帯の平面図であり、移動する鋼帯上の金属被覆を増強する別例の概略図である。
【
図4】
図4は、被覆された鋼帯の平面図であり、移動する鋼帯上の金属被覆を増強する別例の概略図である。
【
図5】
図5は、被覆された鋼帯の平面図であり、移動する鋼帯上の金属被覆を増強する別例の概略図である。
【
図6】
図6は、被覆された鋼帯の平面図であり、移動する鋼帯上の金属被覆を増強する別例の概略図である。
【
図7(a)】
図7(a)は、モデル計算から得られた図であり、被覆表面の温度(表面温度400℃)に対する照射時間の関数として、電磁放射線による照射によって被覆された鋼帯内または鋼板内に導かれた単位面積あたりの熱量を示す。
【
図7(b)】
図7(b)は、モデル計算から得られた図であり、被覆表面の温度(表面温度700℃)に対する照射時間の関数として、電磁放射線による照射によって被覆された鋼帯内または鋼板内に導かれた単位面積あたりの熱量を示す。
【
図7(c)】
図7(c)は、モデル計算から得られた図であり、被覆表面の温度(表面温度1000℃)に対する照射時間の関数として、電磁放射線による照射によって被覆された鋼帯内または鋼板内に導かれた単位面積あたりの熱量を示す。
【
図8】
図8は、本発明の方法(
図8aと
図8b)と従来の方法とを実行する際に鋼表面との境界層の領域の被覆の溶融時に形成される合金層の顕微鏡写真である。
【
図9】
図9は、様々な照射時間tに対して、鋼帯の厚み、あるいは被覆の厚みを通して、被覆された鋼表面を電磁放射線で照射する際に得られる温度プロフィール(T(x))を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施例は、錫層電気メッキによる帯材の錫メッキ装置で被覆された錫メッキ鋼板または鋼帯の増強に関するものである。しかし、本発明の方法は、錫メッキされた鋼帯の増強のためのみに利用するものではなく、鋼帯または鋼板上の金属被覆の増強のために一般的に利用できる。金属被覆は、例えば、亜鉛またはニッケルの被覆であってもよい。
【0018】
図1は、鋼板の金属被覆の増強、例えば、錫メッキ鋼板の増強のための本発明の方法を実行する装置を概略的に示す。鋼板は符号1で示され、錫被覆は符号2で示されている。例えば、電気メッキ法で形成された錫被覆2の厚みは、典型的には0.1g/m
2から11g/m
2である。被覆2の溶融のために電磁放射線6を放射する照射源5が提供される。放射線6は偏向/焦点装置によって被覆2の表面に焦点される。この実施例では、偏向/焦点装置は偏向鏡7と焦点レンズ8とを含む。被覆2の表面での放射線6の焦点は、
図1では符号9で示されている。
【0019】
例えば、照射源5は高パワー密度レーザビームを放射するレーザでよい。本発明の1実施例による方法では、レーザビーム6はパルスレーザビームでよい。よってパルス長は所望の照射時間に対応する。これは、本発明によれば、せいぜい10マイクロ秒であり、好適には100ナノ秒未満である。少なくともその表面およびその厚みの一部で被覆2を溶融させるため、十分な量の熱の放射が必要であるが、本発明によれば、これはせいぜい10マイクロ秒の非常に短い照射時間内で被覆を被覆材料の融点以上に加熱する量である。例示としてここで示されている錫被覆2の場合には、この融点は232℃である。この目的で、照射源5(パルスレーザ)によって放射される電磁放射線は1×10
6から2×10
8W/cm
2の範囲のエネルギー密度を有し、照射時間(t
A)内で電磁放射線によって被覆表面に照射されるエネルギー密度は0.01J/cm
2から5.0J/cm
2の範囲である。
【0020】
パルスレーザビーム6で被覆2の表面全体を照射可能にするため、照射源5(レーザ)またはレーザビーム6は被覆2が提供されている鋼板1に対して可動である。この目的で、例えば
図1で示す実施例においては、偏向鏡7と焦点レンズ8とで成る偏向/焦点装置が鋼板1に対して横断方向に移動できる。被覆された鋼板の全表面照射のため、偏向/焦点装置は、焦点9が被覆2の表面を移動するように、鋼板1に対して横断方向に少しずつ移動する。
【0021】
高エネルギーレーザ放射線(ビーム)6の照射によって(レーザビーム6の選択された性能によるが)被覆2は所定の照射時間内でその表面が短時間加熱され、その厚みの一部または全部が被覆材料の融点以上に加熱される。よって被覆2は部分的または完全に溶融される。溶融によって被覆2の表面には光沢が与えられ、被覆2の構造は加密化される。
図1では、焦点9の被覆2の表面での移動中に溶融した被覆2の表面領域は符号3で示されている。
【0022】
短い照射時間内に、被覆2が厚み全体で溶融するような高エネルギー密度の放射線が被覆2に照射されると、非常に薄い合金層が鋼板1との被覆2の境界層に形成される。錫被覆2では、例えば、鉄/錫合金層が形成されるが、これには
図1では符号4が付与されている。鉄/錫合金層の厚みは
図4ではスケール通りには表されていない。形成された鉄/錫合金層は一般的に非常に薄く、典型的には0.05から0.3g/m
2の単位面積当たりの重量を備えた合金層に該当する。
【0023】
被膜2をせいぜい10マイクロ秒程度の短い照射時間内に、少なくともその表面で溶融させるためには、0.01J/cm
2から5.0J/cm
2のエネルギー密度の放射線が被覆表面に照射されなければならない。照射されるエネルギー密度の好適範囲は0.03J/cm
2から2.5J/cm
2である。
【0024】
パルスレーザ5を利用する代わりに、電磁放射線6を連続的(非パルス式)に放射する照射源を利用することも可能である。よって、例えば、連続(cw)レーザが使用できるが、これは十分に高パワー密度であるレーザ線を放射する。最大10マイクロ秒の短い照射時間を維持するためには、電磁放射線6は被覆された鋼帯1と比べて高速で移動されなければならない。
【0025】
照射源5または放射される電磁放射線6が鋼帯2に対して移動する対応した実施例が
図2から
図6にかけて概略的に図示されている。
図2は、例示として鋼帯1を示すが、これは、鋼帯1の長手方向に帯移動速度V
Bで移動する。帯錫メッキ装置では、例えば700m/分までの分速数百メートルの速度が達成される。典型的な帯移動速度は10m/秒である。
図2の実施例では、cwレーザ5(
図2では非図示)のレーザビーム6が被覆された鋼帯1の表面に焦点される。この焦点は線状焦点9として形成され、鋼帯の横断方向に広がっており、鋼帯の長手方向に広がり部分X
Lを有する。この代わりとして、いくつかの照射源5(レーザ)が利用でき、その開始放射線6は被覆された鋼帯1の表面に点状焦点として焦点され、種々な照射源5の放射線6の焦点のための光学構造は、個々の点状焦点が被覆表面に次々に現れるように設計されており、被覆表面に縞状放射帯10を提供する。よって線状焦点9または照射帯10が安定して提供され、鋼帯1は線状焦点9または照射帯10に対して帯速度V
Bで帯移動方向に移動する。線状焦点9または照射帯10の帯移動方向の広がりは、例えば、10マイクロ秒の所定の最大照射時間および10m/秒から0.1mmの帯移動速度で提供される。
【0026】
図3は、本発明の方法を実行する装置の別実施例を示す。この実施例では、いくつかの照射源5(例えば、いくつかのcwレーザ)が使用される。この放射線6は、帯移動速度V
Bで移動する被覆された鋼帯1の表面に点状焦点9の形態で焦点される。よって、個々の焦点9は、
図3で概略的に示すように、被覆2の表面上でグリッド(格子)形態にアレンジされている。個々の焦点9の広がりは帯移動速度V
Bと、最大10マイクロ秒である特定照射時間t
Aに対応するものである。好適には、焦点9で形成され、
図3で示されている“放射線グリッド”は、
図3で示すように鋼帯1の長手方向に対して角α傾斜している。被覆表面の個別の焦点9の選択された広がり部X
Lは、例えば15°である傾斜角度では0.0966mmとなる。
【0027】
焦点9で形成される“放射線グリッド”、特にそのグリッド間隔および傾斜角αは、帯移動速度V
Bで移動する鋼帯1の被覆2の全表面が電磁放射線(レーザ光)で照射されるようにアレンジされている。
【0028】
図4は本発明の方法を実行する別実施例の構成を示す。この実施例では、cwレーザ5のレーザ光6は焦点装置によって被覆表面に焦点される。焦点9は、帯移動速度V
Bで移動する鋼帯の長手方向に広がり部y
Laserを有し、その横断方向に広がり部x
Laserを有する。焦点9は鋼帯1に対して速度V
x,Laserで鋼帯の全幅b
Bにわたって横断方向に移動する。鋼帯1に対する最大照射時間10マイクロ秒を維持するため、焦点9の選択速度(V
x,Laser)は、例えば、焦点の所定の広がり部X
Laser=5mmでは500mm/分である。
図5では、Uマークは被覆表面で隣接する光線の重なり部分を表す。
【0029】
図5と
図6は本発明の方法を実行するための別実施例を図示する。ここでは放射線は、帯移動速度V
Bで移動する被覆された鋼帯表面に焦点9として照射される。
図5の実施例では、焦点9は、V
x,Laserの速度で鋼帯の長手方向に対して傾斜したスキャナー光学装置を介して提供される。放射線の焦点9が鋼帯の縁部に到達すると、鋼帯を通過して鋼帯の反対側縁部に導かれ、この動作を反復する。鋼帯はさらに帯移動速度V
Bで移動する。被覆表面に形成される連続的放射線帯は重なり合い、確実に表面全体に放射線を到達させる。
【0030】
図6の実施例では、焦点9は鋼帯に対して2軸で移動する。すなわち長手方向(x方向)に速度V
x,Laserで、および横断方向(y方向)に速度V
y,Laserで移動する。横断方向(y方向)の速度V
y,Laserは、均質に重なり合うUがy方向で鋼帯の幅b
B全体に維持されるように調整される。
【0031】
図9は、温度プロフィールT(x)を示す。これは、様々な照射時間tに対おける、被覆の厚み(x)および下側の鋼帯に対する電磁放射線の照射による被覆の加熱中に発生する。
図9のグラフの温度プロフィールから理解されようが、急勾配温度プロフィールT(x)はナノ秒およびマイクロ秒の範囲の非常に短い照射時間tで提供される。10マイクロ秒以上の照射時間では平坦な温度プロフィールである。すなわち、照射エネルギーの実質的部分は鋼帯に向けて偏向される。一方、最大10マイクロ秒である非常に短い照射時間では、本質的には被覆だけが加熱され、その下側の鋼帯は加熱されない。
【0032】
図7では、被覆された鋼帯に導入される単位面積あたりの熱量が、様々な表面温度に対する照射時間の関数として適用されている。計算は損失を考慮に入れることなく実行される。比較として“最大エネルギー密度”(最大エネルギー)が考慮される。必要とされる最大エネルギーは、完全な断面の均質加熱に必要とされるエネルギー量である。
【0033】
図7から理解されようが、本発明によれば、最大エネルギーと比較して、せいぜい10マイクロ秒の照射時間により、熱のたった12%が被覆された鋼帯に導入されるだけである。この非常に少量の熱の導入にも拘わらず、被覆は鋼帯境界層にまで完全に溶融可能である。溶融に決定的に必要とされることは、ただ単に材料の融点を超える温度にまで被覆を(短時間)加熱することだけである。従って、本発明の方法によれば、被覆を完全に溶融させるため、最大エネルギーの12%程度の少量エネルギーを最大10マイクロ秒の所定照射時間を維持して被覆された鋼帯に導入できる。本発明によれば、最大10マイクロ秒である所定照射時間が、被覆の厚みxと鋼帯(
図9)に対して、どのような温度プロフィールが提供されるかを決定する。(被覆の融点を超える温度が必須である)特定の表面温度のために選択された照射時間が長いほど、さらに多くの熱が鋼帯深くに浸透する。その結果、表面に特定温度(本発明によれば、融点以上の温度)を達成するためには、さらに多くの熱が必要となる。もし、十分に短い照射時間tが選択されたら、照射エネルギーの相当部分を被覆領域に限定することができ、熱エネルギーを下側の鋼帯に流入させないことが可能になる。よって、被覆の溶融後の水槽内の急冷工程を省略できる。なぜなら、被覆の熱は(加熱されない)鋼帯によって奪われるからである。
【0034】
十分に高エネルギー密度の照射で、金属被覆の厚みによっては、被覆を完全に溶融することが可能である。すなわち、鋼表面にまで完全に溶融することが可能である。被覆の完全な溶融により、(被覆の厚みに比べて)薄く、被覆材料の原子と鉄原子とで成る非常に高密度の合金層が形成される。形成される合金層は非常に薄く、錫メッキと共に0.05から0.3g/m
2の合金層に該当する。
【0035】
例えば、錫メッキされた鋼表面に対して、比較実験およびモデル計算によって、短い照射時間のため、合金層の形成が被覆材料の融点よりも明確に高い温度でのみ開始するということを示すことができる。本発明の方法による処理で形成される合金層は、基本的には従来の方法による合金とは異なる顕微鏡外見を有する。これは
図8に示されるマイクプローブ写真から明らかである。
図8aと
図8bは合金層のマイクロプローブ写真(非合金錫剥離後)を示す。この合金層は、本発明の方法の実行中に、鋼板上の錫被覆の溶融により、鋼表面との境界層領域に形成されたものである。一方、
図8cは鉄/錫合金層(非合金化錫剥離後)のマイクロプローブ写真を示す。この合金層は、従来の溶融プロセスに従って、錫メッキされた鋼板表面の溶融中に形成されたものである。対応的に処理された錫メッキサンプルの腐食抵抗性が調査された比較実験は、本発明の処理プロセスにより処理されたサンプルが、従来のプロセスによって処理されたサンプルと比較して大きく改善された腐食抵抗性を有することを示した。錫メッキの腐食抵抗性は、例えば、いわゆるATC値(ASTN規準1998年A623N−92、章A5「電気分解錫メッキに対するATC(合金−錫カップリング)試験の方法」として出版)の決定のための標準プロセスによって測定できるが、経験によれば、合金層の厚みの増加と共に増加する。典型的な合金層は、ラッカー処理された錫メッキでは0.5から0.8g/m
2の範囲であり、腐食抵抗性のための増加した要求により、ラッカー処理されていない錫メッキでは0.8から1.2g/m
2の範囲である。同じ腐食抵抗性のため、すなわち同じATC値のため、本発明の方法と同様に、従来方法では少なくとも2倍の厚みの合金層が必要である。
【0036】
本発明の方法によれば、鉄原子および被覆材料の原子で成り、被覆の厚みに比べて薄いが密度が高い合金層が、被覆との間の鋼の境界層に形成されている鋼帯または鋼板を製造することが可能である。よって、合金層の厚みは0.3g/m
2の合金層に相当する。従って、例えば、2.8g/m
2未満、特に、2.0g/m
2未満である比較的に薄い錫層にも拘わらず、十分に良好な腐食抵抗性を備えた錫メッキされた鋼帯または鋼板が製造される。比較実験は、例えば、本発明の処理による略1.4g/m
2の錫層を備えた錫メッキされた鋼板では、略0.05g/m
2を備えた合金層の鉄/錫合金層が形成され、錫メッキされた鋼板では、0.15μA/cm
2(ASTN規準による)のATC値を測定することが可能であることが示された。