特許第5767353号(P5767353)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767353
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】冷媒R32用冷凍機油
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20150730BHJP
   C10M 105/44 20060101ALN20150730BHJP
   C10M 129/10 20060101ALN20150730BHJP
   C10M 133/12 20060101ALN20150730BHJP
   C10M 129/18 20060101ALN20150730BHJP
   C10M 133/22 20060101ALN20150730BHJP
   C10M 137/04 20060101ALN20150730BHJP
   C09K 5/04 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20150730BHJP
【FI】
   C10M169/04
   !C10M105/44
   !C10M129/10
   !C10M133/12
   !C10M129/18
   !C10M133/22
   !C10M137/04
   !C09K5/04
   C10N20:00 Z
   C10N20:02
   C10N30:00 A
   C10N30:06
   C10N40:30
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-51314(P2014-51314)
(22)【出願日】2014年3月14日
(62)【分割の表示】特願2010-50207(P2010-50207)の分割
【原出願日】2010年3月8日
(65)【公開番号】特開2014-111795(P2014-111795A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2014年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JX日鉱日石エネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 朋也
(72)【発明者】
【氏名】奈良 文之
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−298572(JP,A)
【文献】 特開平04−220497(JP,A)
【文献】 特表2001−507334(JP,A)
【文献】 特表2000−516970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
C10N10/00−80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリメチロールプロパン及び/又はネオペンチルグリコールと炭素数2〜12の二塩基酸とを反応させたエステル中間体を、さらに炭素数1〜12の一価アルコール又は炭素数2〜12の一価脂肪酸でエステル化した酸価が0.1mgKOH/g以下であるエステルを基油とし、当該基油に、ヒンダードフェノール化合物、芳香族アミン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド、リン酸エステルのいずれか1種以上を合わせて、冷凍機油全量基準で0.05〜5.0重量%添加したことからなる100℃における動粘度が2〜30mm/sである冷媒R32用冷凍機油。
【請求項2】
二塩基酸がアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸及びセバシン酸から選ばれる1種以上であり、一価アルコールが分岐アルコール、一価脂肪酸が分岐脂肪酸である請求項1に記載の冷媒R32用冷凍機油。
【請求項3】
一価アルコールが2‐エチルヘキサノール及び/又は3,5,5‐トリメチルヘキサノール、一価脂肪酸が2‐エチルヘキサン酸及び/又は3,5,5‐トリメチルヘキサン酸である請求項1又は2に記載の冷媒R32用冷凍機油。
【請求項4】
トリメチロールプロパンの1モルに対して、二塩基酸を1.5モル超、3モル未満で反応させたエステル中間体を、さらに2‐エチルヘキサノール及び/又は3,5,5‐トリメチルヘキサノールでエステル化したエステルを基油とする請求項1〜3のいずれかに記載のR32用冷凍機油。
【請求項5】
ヒンダードフェノール化合物、芳香族アミン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド、リン酸エステルのいずれか1種以上が、エポキシ化合物とカルボジイミドの両者である請求項1〜4のいずれかに記載のR32用冷凍機油。
【請求項6】
体積抵抗率が1011Ω・cm以上である請求項1〜5のいずれかに記載の冷媒R32用冷凍機油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球温暖化係数の低いR32(ジフルオロメタン、CH22)を冷媒として
使用する冷凍機油に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍機、空調機、冷蔵庫等には、冷媒としてフッ素と塩素を構成元素とするフロ
ン、例えばクロロフルオロカーボン(CFC)であるR‐11(トリクロロモノフルオロ
メタン)、R‐12(ジクロロジフルオロメタン)、ハイドロクロロフルオロカーボン(
HCFC)であるR‐22(モノクロロジフルオロメタン)等のフロンが使用されてきた
が、最近のオゾン層破壊問題に関連し、国際的にその生産及び使用が規制され、現在では
、塩素を含有しない、例えば、テトラフルオロエタン(R‐134またはR‐134a)
や混合冷媒であるR410A、R407Cなどの新しい水素含有フロン冷媒に転換されて
きている。しかし、これらのHFCは、オゾン層を破壊しないものの温室効果が大きく、
近年問題となっている地球温暖化の観点からは必ずしも優れた冷媒ではない。
【0003】
そこで、R32がオゾン層を破壊することなく、地球温暖化への影響も前記の塩素系あ
るいは非塩素系フッ化炭化水素に比べて非常に低いことから、最近、注目されている。こ
の化合物は冷媒として、上記フロン系冷媒で培われた圧縮機、凝縮器、絞り装置、蒸発器
等からなるルームエアコン、産業用冷凍機等の冷却効率の高い冷凍システムに採用するこ
とが検討されており、現在、ルームエアコン用冷媒として幅広く使用されているハイドロ
フルオロカーボン(HFC)の混合冷媒であるR410Aと比較すると地球温暖化係数は
1/3程度であり、効率も良く、エアコンの大掛かりな設計変更も必要なしで経済的に温
暖化への影響を大幅に削減できる可能性があります。しかし、わずかな燃焼性があるため
、安全に使用するための技術開発と、潤滑剤としてこの冷媒と相溶性のある冷凍機油の選
定が課題となっている。
【0004】
特許文献1および2には、R32(ジフルオロメタン、CH22)を冷媒として用る冷
凍装置、あるいは冷凍サイクル、空気調和機が提示され、冷凍機油として、ポリビニルエ
ーテル、ポリオールエステル、炭酸エステル、アルキルベンゼン、鉱油、または40℃に
おける動粘度が32cSt以上のエステル油、エーテル油又はPAG油等が挙げられている

しかしながら、冷凍機油に必須の性能である相溶性、溶解性、冷媒混合状態での潤滑性
等は、冷媒の種類により異なるので、炭素が一個であり高圧で使用される冷媒R32にも
、どのような冷凍機油でもそのまま良好に用いることができるとは一概にはいえない。特
に、冷媒との相溶性は重要であり、冷凍システム内での油戻りの観点から、相溶しない冷
凍機油は使用できない。冷凍サイクルの場合、コンプレッサーから持ち出された油が冷媒
と相溶せずに、サイクル内に滞留してコンプレッサーに戻らないと、しゅう動部に供給さ
れる潤滑油(冷凍機油)が少なくなり、摩耗さらには焼付きに至り、システムが壊れる原
因となる。すなわち、冷媒R32に好適な潤滑剤は、冷媒との相溶性を有するとともに、
上述したような性能を評価することにより分かるものであるが、未だそれはなされておら
ず、適切な冷凍機油は提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−153439号公報
【特許文献2】特開2005−83704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決したもので、冷媒R32に対して適度の相溶性、溶解性を有
し、潤滑性を損なわない粘度を保持でき、冷媒の充填量を少なくすることができるととも
に、優れた安定性や潤滑性等を有する冷凍機油を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、特定のエステルが、冷
媒R32に対し程良い相溶性、溶解性を有するとともに、高い安定性、低い吸湿性、良好
な潤滑性を有しており、冷媒R32用の冷凍機油として優れていることを見出し、本発明
に想到した。
【0008】
上記課題を解決するための手段としての本発明は次のとおりである。
(1)トリメチロールプロパン及び/又はネオペンチルグリコールと炭素数2〜12の二
塩基酸とを反応させたエステル中間体を、さらに炭素数1〜12の一価アルコール又は炭
素数2〜12の一価脂肪酸でエステル化した酸価が0.1mgKOH/g以下であるエステルを基
油とする100℃における動粘度が2〜30mm2/sである冷媒R32用冷凍機油。
【0009】
(2)二塩基酸がアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸又はセバシン酸か
ら選ばれるいずれか1種以上であり、一価アルコールが分岐アルコール、一価脂肪酸が分
岐脂肪酸である上記(1)に記載の冷媒R32用冷凍機油。
(3)一価アルコールが2‐エチルヘキサノール及び/又は3,5,5‐トリメチルヘキサ
ノール、一価脂肪酸が2‐エチルヘキサン酸及び/又は3,5,5‐トリメチルヘキサン酸
である上記(1)又は(2)に記載の冷媒R32用冷凍機油。
【0010】
(4)トリメチロールプロパンの1モルに対して、二塩基酸を1.5モル超、3モル未満
で反応させたエステル中間体を、さらに2‐エチルヘキサノール及び/又は3,5,5‐ト
リメチルヘキサノールでエステル化したエステルを基油とする上記(1)〜(3)のいず
れかに記載のR32用冷凍機油。
(5)ヒンダードフェノール化合物、芳香族アミン化合物、エポキシ化合物、カルボジイ
ミド又はリン酸エステルのいずれか1種以上を合わせて、冷凍機油全量基準で0.05〜
5.0重量%添加したことからなる上記(1)〜(4)のいずれかに記載の冷媒R32用
冷凍機油。
(6)体積抵抗率が1011Ω・cm以上である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の冷媒
R32用冷凍機油。
【発明の効果】
【0011】
本発明の冷凍機油は、冷媒R32に対し程良い相溶性、溶解性を有するとともに、高い
電気絶縁性、低い吸湿性、良好な潤滑性、高い熱酸化安定性を有しているため、冷媒の充
填量を少なくすることができ、冷媒R32用冷凍機油として総合性能に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、ネオペンチルポリオールであるトリメチロールプロパン及び/又はネオペ
ンチルグリコールと炭素数2〜12の二塩基酸とを反応させたエステル中間体を合成し、
さらにこれと一価アルコール又は一価脂肪酸でエステル化したエステルを基油として用い
る。
冷媒R32は極性が大きいため、従来のHFC冷媒用として使用されてきたネオペンチ
ルグリコールと一価脂肪酸で合成されたポリオールエステルでは低分子量、つまり低粘度
のものでないと相溶しないため、冷凍コンプレッサーに必要な適正粘度では、冷媒R32
と相溶する冷凍機油を選定することができない。
【0013】
本発明では、二段階のエステル化により、より極性が大きくてR32と相溶しやすくす
るとともに、冷凍コンプレッサーに必要な粘度を有するエステルとする。すなわち、第一
段階のトリメチロールプロパン及び/又はネオペンチルグリコールと二塩基酸とエステル
化反応させ、それらの使用モル比を調整して中間体としてカルボキシル基あるいは水酸基
が残るものを任意に得、カルボキシル基が残る場合は一価アルコールで、水酸基が残る場
合は一価脂肪酸でさらにエステル化して、所望の性能を有するエステルを得る。この場合
、ネオペンチルポリオールのうち炭素数が7を超えるものは、炭化水素部分が大きくなり
すぎて、これから合成されたエステルは冷媒R32との相溶性、溶解性が低い。冷媒R3
2との相溶性を有し、かつ高粘度のエステルを合成できるため、トリメチロールプロパン
が特に好ましい。
【0014】
要するに、トリメチロールプロパンを用いる場合は、先ず、トリメチロールプロパン1
モルに対し、二塩基酸を、等モルである1.5モルより過剰又は過少、好ましくは、0.1
モル以上、1.5モル未満、或いは1.5モル超、5モル以下を用いてエステル化反応を行
う。次いで、二塩基酸が1.5モル未満の場合、残存する水酸基を一価脂肪酸を用いてエ
ステル化させ、残存する一価脂肪酸を常圧あるいは減圧下の蒸留により除去する。また、
二塩基酸が1.5モル超の場合は、残存するカルボキシル基を一価アルコールを用いてエ
ステル化させ、残存する一価アルコールを常圧あるいは減圧下の蒸留により除去する。
なお、第一段でトリメチロールプロパンの1モルに対して、二塩基酸を1.5モル超、
3モル未満用い、第二段で残存するカルボキシル基を2‐エチルヘキサノール及び/又は
3,5,5‐トリメチルヘキサノールでエステル化させると、冷媒R32に対する相溶性及
び潤滑性に極めて優れたエステルが得られるため、より好ましい。
【0015】
一方、ネオペンチルグリコールを用いる場合は、ネオペンチルグリコール1モルに対し
、二塩基酸を、等モルである1モルより、過剰又は過少、好ましくは、0.1モル以上、
1モル未満、或いは1モル超、5モル以下を用いてエステル化反応を行う。次いで、二塩
基酸が1モル未満の場合、残存する水酸基を一価脂肪酸を用いてエステル化させ、残存す
る一価脂肪酸を蒸留により除去する。二塩基酸が1モル超の場合は、残存するカルボキシ
ル基を一価アルコールを用いてエステル化させ、残存する一価アルコールを蒸留により除
去する。
なお、得られたエステルは、白土吸着などの方法により酸価が0.1mgKOH/g以下となる
ようにする。
【0016】
炭素数2〜12の二塩基酸としては、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グ
ルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スバリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカ二
酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、ジメチルマロン酸、メチルコハク酸、2,2‐ジ
メチルコハク酸、2,3‐ジメチルコハク酸、2‐エチル‐2‐メチルコハク酸、2‐メ
チルグルタル酸、3‐メチルグルタル酸、3,3‐ジメチルグルタル酸、3‐メチルアジ
ピン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸
、メサコン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等
の芳香族ジカルボン酸等を用いることができる。
特には、次の構造を有する、
HOOC(CH2)nCOOH (nは1〜10の正数)
炭素数3〜12の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸が好適であり、nが4〜8のアジピン酸、
ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸が極性が比較的大きく、R32と相
溶性に優れるエステルを合成できるので、特に好ましい。
【0017】
炭素数1〜12の一価アルコールとしては、直鎖及び分岐鎖の飽和アルコールが好適で
、メタノール、エタノール、n‐プロパノール、n‐ブタノール、n‐ペンタノール、n
‐ヘプタノール、n‐オクタノール、n‐ノナノール等の直鎖アルコール或いは前記直鎖
アルコールの構造異性体である分岐アルコールのいずれも用いることができる。
R32とより相溶性に優れるエステルを合成するためには分岐アルコールが好ましく、
なかでも2‐エチルヘキサノール、3,5,5‐トリメチルヘキサノールがより好ましい。
【0018】
炭素数2〜12の直鎖の一価脂肪酸としては、直鎖及び分岐鎖の飽和脂肪酸が好適で、
酢酸、n‐プロパン酸、n‐ブタン酸、n‐ペンタン酸、n‐ヘプタン酸、n‐オクタン
酸、n‐ノナン酸等の直鎖脂肪酸又は前記直鎖脂肪酸の構造異性体である分岐鎖1価脂肪
酸のいずれも用いることができる。相溶性、溶解性及び最適の潤滑性を得るためには分岐
脂肪酸が好ましく、なかでも2‐エチルヘキサン酸、3,5,5‐トリメチルヘキサン酸ま
たはそれらの混合物を用いることがより好ましい。
【0019】
本発明エステルは、上記特定のネオペンチルポリオールと二塩基酸、さらには特定の一
価アルコールあるいは一価脂肪酸との脱水反応によるエステル化反応、あるいは脂肪酸の
誘導体である酸無水物、酸クロライド等を経由しての一般的なエステル化反応や各誘導体
のエステル交換反応によって得ることができる。
【0020】
また、上記方法で得られるエステルは、未反応で残存する酸および水酸基を特に制限す
るものではないが、カルボキシル基は残存しないことが好ましい。カルボキシル基の残存
量が多いと、冷凍機内部に使用されている金属との反応により金属石けんなどを生成し、
沈殿するなどの好ましくない現象も起こるため、酸価が0.1mgKOH/g以下のエステルを基
油として用い、冷凍機油としての酸価も0.1mgKOH/g以下とする。また、水酸基の残存量
が多すぎると、冷凍機油が低温において白濁し、冷凍サイクルのキャピラリー装置を閉塞
させる等、好ましくない現象が起こるため、エステル及び冷凍機油の水酸基価をともに1
00mgKOH/g以下とすることが好ましく、30mgKOH/g以下がより好ましい。
【0021】
さらに、本発明の冷凍機油は、冷凍機を適正に作動させ、かつ高い効率を確保するため
、100℃における動粘度が2〜30mm2/sになるようする。この動粘度は、好ましくは
、5〜15mm2/sであり、コンプレッサーの耐摩耗の信頼性を高める適正な粘度としては
8〜12mm2/sがより好ましい。
【0022】
上記エステルを主成分とする本発明の冷凍機油は、冷媒R32用の冷凍機油として、低
温から高温までの広い領域で、相互に適切な相溶性、溶解性を示してその潤滑性及び熱安
定性を大幅に向上させることができる。さらに、代替フロン用冷凍機油として用いられて
いるポリアルキレングリコール(PAG)等に較べると、はるかに電気絶縁性が高く、か
つ吸湿性も小さい。
【0023】
なお、本発明に係る冷凍機油には、冷凍機油としての機能を満足する範囲において、他
のタイプのエステル、PAGやポリビニルエーテル(PVE)などのエーテルあるいは炭
化水素系であるアルキルベンゼンや鉱油等の潤滑油を適宜混合できる。
本発明の冷凍機油には、さらに冷媒と冷凍機油の混合物流体の安定性を高めるため、安
定性向上添加剤を添加するとよい。この安定性向上添加剤として、ヒンダードフェノール
化合物、芳香族アミン化合物、エポキシ化合物、またはカルボジイミドのうち1種以上を
添加するとよく、さらにはエポキシ化合物とカルボジイミドを合わせて添加することがよ
り好ましい。また、耐摩耗剤としてのリン酸エステルの添加も有効であり、これらの添加
剤は、冷凍機油全量基準で合計量として0.05〜5.0重量%添加すれば十分である。
【0024】
ヒンダードフェノール化合物としては、2,6‐ジ‐ターシャリーブチルフェノール、
2,6‐ジ‐ターシャリ‐ブチル‐P‐クレゾール、4,4‐メチレン‐ビス‐(2,6‐
ジ‐ターシャリ‐ブチル‐P‐クレゾール)などが、芳香族アミン化合物としてはα‐ナ
フチルアミン、p,p'‐ジ‐オクチル‐ジフェニルアミンなどが、エポキシ化合物として
は、グリシジルエーテル基含有化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステル類、エポキシ化油
脂、エポキシシクロアルキル基含有化合物などが好適である。また、リン酸エステルとし
てはトリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェートなどが好適である。
【0025】
また従来、冷凍機油に使用されている有機硫黄化合物などの摩耗防止剤、アルコール、
高級脂肪酸類などの油性剤、ベンゾトリアゾール誘導体などの金属不活性化剤、シリコー
ンオイルなどの消泡剤等の添加剤を適宜添加することができる。
【0026】
冷媒R32はルームエアコンなどに用いられることから、モーター内蔵型(密閉タイプ
)のコンプレッサーに適した冷凍機油の特性、つまり高い電気絶縁性を有することも必要
である。そこで、本発明の冷凍機油は添加剤配合の後で、体積抵抗率が1011Ω・cm以上
であることが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものでは
ない。
(実施例の供試油)
次のエステルを実施例の基油として供した(いずれもエステルの混合物となっている)

基油A:ネオペンチルグリコール(NPG)1モルとアジピン酸(AA)1.5モルと
で反応させたエステル中間体に、さらに2‐エチルヘキサノールを過剰に(1.5モル)
加えてエステル化し、残存したアルコールを蒸留で除去して得たエステル。
基油B:ネオペンチルグリコール1モルとアジピン酸0.5モルとで反応させたエステ
ル中間体に、さらに3,5,5‐トリメチルヘキサン酸を1.1モル加えてエステル化し、
残存した脂肪酸を蒸留で除去して得たエステル。
基油C:トリメチロールプロパン(TMP)1モルとアジピン酸2モルとで反応させた
エステル中間体に、さらにtert.‐ブタノールを過剰に(1.5モル)加えてエステル化し
、残存したアルコールを蒸留で除去して得たエステル。
基油D:トリメチロールプロパン1モルとスベリン酸(SA)1モルとで反応させたエ
ステル中間体に、さらに2‐エチルヘキサン酸を1.1モル加えてエステル化し、残存し
た脂肪酸を蒸留で除去して得たエステル。
なお、これらの供試エステルについては、最終工程で吸着処理(白土処理)を行い、微
量の不純物を除去した。これらの供試エステルの全酸価は、全て0.01mgKOH/g以下であ
った。
【0028】
(添加剤)
添加剤としては次のものを用いた。
ヒンダードフェノール化合物:ジ‐tert.‐ブチル‐p‐クレゾール(DBPC)
芳香族アミン化合物:ジオクチル‐ジフェニルアミン(DODA)
エポキシ化合物 :2‐エチルヘキシルグリシジルエーテル(2‐EHGE)
カルボジイミド :ジフェニルカルボジイミド(DPCI)
リン酸エステル :トリクレジルフォスフェート(TCP)
【0029】
(比較例の供試油)
次の油を比較例の基油として供した。
基油E:ペンタエリスリトール(PE)と3,5,5‐トリメチルヘキサン酸のエステル

基油F:ペンタエリスリトール1モルとアジピン酸1.5モルとで反応させたエステル
中間体に、さらに2‐エチルヘキサン酸を1.1モル加えてエステル化し、残存した脂肪
酸を除去したエステル。
基油G:トリメチロールプロパンとオレイン酸のエステル。
基油H:ポリアルキレングリコール(PAG、末端がブチル基と水酸基であり骨格部がオ
キシプロピレン、平均分子量が1200)、全酸価;0.01mgKOH/g。
基油I:ポリアルファオレフィン(PAO、デセンの重合体)、全酸価;0.01mgKOH/g

なお、これらのうちエステルについては、最終工程で吸着処理(白土処理)を行い微量
の不純物を除去した。これらのエステルの全酸価は、全て0.01mgKOH/g以下であった。
【0030】
各供試油の添加剤配合量ならびに性状を表1に示した。
なお、動粘度はJIS K2283に、全酸価及び水酸基価はJIS K2501に準拠し、測定した。
【0031】
【表1】
【0032】
上記供試油について、冷凍機油としての次の各性能を、次に示す条件の下で測定、評価
し、その結果を表2に示した。
(相溶性)
JIS K2211の「冷媒との相溶性試験方法」に準じ、冷媒R32との油分率10質量%で
の二層分離温度を測定した。
(熱安定性)
ANSI/ASHRAE 97‐1983に準じ、供試油(20g)と冷媒R32(20g)と触媒(鉄、銅
、アルミニウムの各線)をステンレス製ボンベ(100ml)に封入し、175℃に加熱し
て14日間保持した後、供試油の色相(ASTM表示)および酸価を測定した。
(潤滑性)
ASTM D-3233-73に準拠し、ファレックス(Falex)焼付荷重を冷媒R32の吹き込み制
御雰囲気下(70ml/min)で測定した。
(電気絶縁性)
JIS C2101に基づき、80℃における体積抵抗率を求めた。
【0033】
【表2】
【0034】
表1および表2から分かるように、本発明に係るエステルは冷媒R32と広い温度範囲で相溶し、熱安定性を含めた冷凍機油としての特性が良好である。なかでも添加剤を配合した実施例〜8は熱安定性試験後の全酸価の上昇が少なく、特にエポキシ化合物とカルボジイミドの両者を添加した実施例8では全酸価の上昇がなかった。比較例1〜3のエステルの場合、冷媒R32と相溶せず、冷凍機油としての特性を満足していない。比較例4のエーテルは冷媒と相溶せず、また、体積抵抗率で示される電気特性が本発明のエステルより約1000倍悪く、冷凍機油として適さないことが分かる。比較例5の合成炭化水素油であるPAOは極性が無いためR32とは全く相溶せず、使えない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の冷凍機油は、R32を冷媒として用いる冷凍機の潤滑油として用いられ、特に
は、圧縮機、凝縮器、絞り装置(膨張弁またはキャピラリーチューブ等の冷媒流量制御部
)、蒸発器等を有し、これらの間で冷媒を循環させる冷却効率の高い冷凍システムで、ロ
ータリータイプ、スイングタイプ、スクロールタイプコンプレッサ等のコンプレッサを有
する冷凍機における潤滑油として用いることができ、ルームエアコン、パッケージエアコ
ン、産業用冷凍機等に好適に使用できる。