(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フルオロプロペン冷媒として、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,2,3,3−テトラフルオロプロペン及び3,3,3−トリフルオロプロペンから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1に記載の冷凍機用作動流体組成物。
前記フルオロプロペン冷媒と、飽和ハイドロフルオロカーボン、炭素数3〜5の炭化水素、ジメチルエーテル、二酸化炭素、ビス(トリフルオロメチル)サルファイド及び3フッ化ヨウ化メタン冷媒から選ばれる少なくとも1種とを含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の冷凍機用作動流体組成物。
前記フルオロプロペン冷媒が、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,2,3,3−テトラフルオロプロペン及び3,3,3−トリフルオロプロペンから選ばれる少なくとも1種であり、前記飽和ハイドロフルオロカーボンが、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、フルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン及び1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンから選ばれる少なくとも1種であり、前記炭素数3〜5の炭化水素が、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、2−メチルブタン及びノルマルペンタンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項3に記載の冷凍機用作動流体組成物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明の冷凍機油は、下記化合物(a)〜(c):
(a)水酸基を2個以上有する化合物若しくはその誘導体、
(b)カルボキシル基を2個以上有する化合物若しくはその誘導体、並びに
(c)カルボキシル基を1個有する化合物若しくはその誘導体及び/又は水酸基を1個有する化合物若しくはその誘導体
を用いて得られるエステル(以下、「本発明にかかるエステル」ともいう。)を含有し、
フルオロプロペン冷媒と共に用いられることを特徴とするものであり、潤滑性、シール性、冷媒相溶性、熱・化学的安定性、電気絶縁性等をバランスよく十分に満足し、圧縮機の潤滑不良や冷凍効率の低下を十分に防止することが可能なものである。また、本発明の冷凍機用作動流体組成物は、上記化合物(a)〜(c)を用いて得られるエステルとフルオロプロペン冷媒とを含有することを特徴とする。ここで、本発明の冷凍機用作動流体組成物には、本発明の冷凍機油と、フルオロプロペン冷媒を含有する態様が包含される。
【0019】
本発明にかかるエステルを構成する化合物(a)は、水酸基を2個以上有する化合物若しくはその誘導体である。適正な粘度を確保すること、及びフルオロプロペン冷媒との相溶性の点から、水酸基の個数は2〜6個であることが好ましい。また、アルコール成分として水酸基を1個有する化合物若しくはその誘導体のみを用いると、得られるエステルにおいて十分な粘度が得られず、潤滑不良や冷凍効率の低下が起こりやすくなり、熱・化学安定性や低温流動性が不十分となる。
【0020】
化合物(a)としては、具体的には、多価アルコール、多価フェノール、多価アミノアルコール及びこれらの縮合物、並びにこれらの化合物の水酸基が酢酸等のカルボン酸でエステル化された化合物等が挙げられるが、中でも、多価アルコール若しくはその縮合物又はその誘導体を用いると、冷媒相溶性、電気絶縁性及び熱安定性がより高められる傾向にあるので好ましい。
【0021】
かかる多価アルコールの炭素数は特に制限されないが、炭素数2〜12の多価アルコールが好ましく用いられる。このような多価アルコールとしては、2価アルコール(ジオール)としては、具体的には例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2ーメチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。また、3価以上のアルコールとしては、具体的には例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜3量体)、1,3,5ーペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの多価アルコール、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオースなどの糖類、ならびにこれらの部分エーテル化物などが挙げられる。これらの中でも、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールが好ましい。
【0022】
また、本発明においては、前述の通り、化合物(a)として水酸基がカルボン酸でエステル化されたものを用いることができる。このような誘導体としては、水酸基が低級カルボン酸でエステル化された化合物が好ましく、具体的には、上記の多価アルコールの説明において例示された化合物の酢酸エステル又はプロピオン酸エステルが好ましく用いられる。
【0023】
本発明にかかるエステルを構成する化合物(b)は、カルボキシル基を2個以上有する化合物若しくはその誘導体である。カルボキシル基の個数は2〜6個であることが好ましい。酸成分としてカルボキシル基を1個有する化合物若しくはその誘導体のみを用いると、得られるエステルにおいて粘度が不十分となり、潤滑不良や冷凍効率の低下が起こりやすくなったり、熱・化学的安定性や低温流動性が不十分となる。
【0024】
化合物(b)としては、具体的には、2〜6価カルボン酸、並びにその酸無水物、エステル、酸ハロゲン化物等のカルボン酸誘導体が挙げられる。
【0025】
かかる2〜4価カルボン酸の炭素数は特に制限されないが、炭素数2〜10の2価カルボン酸が好ましく用いられる。このような2〜6価カルボン酸としては、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、ジメチルマロン酸、メチルコハク酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、2−エチル−2−メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、3−メチルアジピン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸、等が挙げられるが、これらの中でも2価カルボン酸が好ましく、さらには、酸化安定性の点から飽和脂肪族ジカルボン酸がより好ましい。
【0026】
また、本発明においては、前述の通り、化合物(b)としてカルボキシル基を2個有する化合物の誘導体を用いることができる。かかる誘導体としては、エステル、酸無水物、酸ハロゲン化物等が挙げられるが、中でも、上記の2価カルボン酸と低級アルコール(より好ましくはメタノール又はエタノール)とのエステルが好ましく用いられる。
【0027】
本発明にかかるエステルを構成する化合物(c)は、カルボキシル基を1個有する化合物若しくはその誘導体及び/又は水酸基を1個有する化合物若しくはその誘導体である。本発明においては、化合物(c)として、カルボキシル基を1個有する化合物若しくはその誘導体と、水酸基を1個有する化合物若しくはその誘導体とのうちのいずれか一方を単独で用いてもよく、双方の混合物として用いてもよい。なお、酸成分としてカルボキシル基を2個以上有する化合物若しくはその誘導体のみを用い、且つアルコール成分として水酸基を2個以上有する化合物若しくはその誘導体のみを用いた場合には、熱・化学的安定性が不十分となる。
【0028】
本発明にかかるカルボキシル基を1個有する化合物若しくはその誘導体としては、具体的には、1価脂肪酸、並びにその酸無水物、エステル及び酸ハロゲン化物が挙げられる。かかる1価脂肪酸の炭素数は特に制限されず、通常、炭素数1〜24のものが用いられるが、1価脂肪酸の炭素数は3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましく、8以上のものが特に好ましい。1価脂肪酸の炭素数が3未満であると、得られるエステルが本来的に有する潤滑性が不十分となると共に、フルオロプロペン冷媒との相溶性が過剰に高くなり、冷媒により希釈されて粘度が低下して、シール性の低下による冷凍効率の低下や潤滑不良が起こりやすくなる傾向にある。
【0029】
また、当該1価脂肪酸の炭素数は、22以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、18以下であることがさらに好ましい。1価脂肪酸の炭素数が22を超えると、得られるエステルとフルオロプロペン冷媒との相溶性が不十分となり、油戻り性の低下による圧縮機の潤滑不良や冷凍効率の低下が起こりやすくなる傾向にある。
【0030】
化合物(c)としての1価脂肪酸は直鎖状、分枝鎖状のいずれであってもよいが、潤滑性の点からは直鎖状の1価脂肪酸が好ましく、また、熱・加水分解安定性の点からは分枝鎖状の1価脂肪酸が好ましい。また、当該1価脂肪酸は飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。
【0031】
本発明にかかる化合物(c)としての1価脂肪酸としては、具体的には、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、オレイン酸等の直鎖又は分枝のもの、あるいはα炭素原子が4級炭素原子であるもの(ネオ酸)等が挙げられるが、これらの中でも、吉草酸(n−ペンタン酸)、カプロン酸(n−ヘキサン酸)、エナント酸(n−ヘプタン酸)、カプリル酸(n−オクタン酸)、ペラルゴン酸(n−ノナン酸)、カプリン酸(n−デカン酸)、ラウリン酸(n−ドデカン酸)、ミリスチン酸(n−テトラデカン酸)、パルミチン酸(n−ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(n−オクタデカン酸)、オレイン酸(cis−9−オクタデセン酸)、イソペンタン酸(3−メチルブタン酸)、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸が好ましく用いられる。
【0032】
また、本発明にかかる水酸基を1個有する化合物若しくはその誘導体としては、具体的には、1価アルコール、1価フェノール、1価アミノアルコール、並びにこれらの化合物の水酸基が酢酸等のカルボン酸によりエステル化された化合物等が挙げられる。これらの化合物の炭素数は特に制限されないが、得られるエステルにおいて潤滑性と冷媒相溶性との双方がより高められる点から、炭素数1〜24のものが好ましく、中でも、炭素数3〜18の直鎖状の1価アルコール、炭素数3〜18の分枝状の1価アルコール及び炭素数5〜10の1価シクロアルコールが好ましい。
【0033】
炭素数が上記の好ましい範囲内である1価アルコールとしては、具体的には、直鎖状又は分枝状のプロパノール(n−プロパノール、1メチルエタノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のブタノール(n−ブタノール、1−メチルプロパノール、2−メチルプロパノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のペンタノール(n−ペンタノール、1−メチルブタノール、2−メチルブタノール、3−メチルブタノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のヘキサノール(n−ヘキサノール、1−メチルペンタノール、2−メチルペンタノール、3−メチルペンタノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のヘプタノール(n−ヘプタノール、1−メチルヘキサノール、2−メチルヘキサノール、3−メチルヘキサノール、4−メチルヘキサノール、5−メチルヘキサノール、2,4−ジメチルペンタノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のオクタノール(n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、1−メチルヘプタノール、2−メチルヘプタノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のノナノール(n−ノナノール、1−メチルオクタノール、3,5,5−トリメチルヘキサノール、1−(2’−メチルプロピル)−3−メチルブタノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のデカノール(n−デカノール、iso−デカノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のウンデカノール(n−ウンデカノール、iso−ウンデカノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のドデカノール(n−ドデカノール、iso−ドデカノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のトリデカノール(n−トリデカノール、iso−トリデカノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のテトラデカノール(n−テトラデカノール、iso−テトラデカノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のペンタデカノール(n−ペンタデカノール、iso−ペンタデカノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のヘキサデカノール(n−ヘキサデカノール、iso−ヘキサデカノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のヘプタデカノール(n−ヘプタデカノール、iso−ヘプタデカノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のオクタデカノール(n−オクタデカノール、iso−オクタデカノール等を含む)、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ジメチルシクロヘキサノール等が挙げられる。
【0034】
また、本発明においては、化合物(c)として、水酸基がカルボン酸でエステル化された誘導体を用いることもできる。かかる誘導体としては、上記1価アルコールの説明において例示された化合物の酢酸エステル、プロピオン酸エステル等が好ましく使用される。
【0035】
本発明にかかるエステルの中でも、下記化合物(a’)、(b’)及び(c’):
(a’)エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジブチレングリコール及びジブチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種、
(b’)シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、からなる群より選ばれる少なくとも1種、並びに
(c’)吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール、n−ウンデカノール、n−ドデカノール、n−トリデカノール、n−テトラデカノール、n−ペンタデカノール、n−ヘキサデカノール、n−ヘプタデカノール、n−オクタデカノール、iso−ブタノール、iso−ペンタノール、iso−ヘキサノール、iso−ヘプタノール、2−エチルヘキサノール、3,5,5−トリメチルヘキサノール、iso−デカノール、iso−ドデカノール、iso−テトラデカノール及びiso−ヘキサデカノールからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いて得られるエステルが特に好ましい。上記化合物(a’)〜(c’)を用いて得られるエステルを冷凍機油に含有させると、潤滑性、シール性、冷媒相溶性、熱・化学的安定性、電気絶縁性等がよりバランスよく満たされる傾向にある。
【0036】
本発明において、上記化合物(a)〜(c)の組成比は特に制限されないが、潤滑性、シール性、冷媒相溶性、熱・化学安定性、電気絶縁性等がより高水準でバランスよく満たされる傾向にあることから、化合物(a)〜(c)の合計量を基準としてそれぞれ以下に示す範囲内であることが好ましい。
化合物(a):3〜55mol%、好ましくは5〜50mol%、より好ましくは10〜45mol%
化合物(b):3〜55mol%、好ましくは5〜50mol%、より好ましくは10〜45mol%
化合物(c):3〜90mol%、好ましくは5〜80mol%、より好ましくは10〜70mol%。
【0037】
本発明にかかるエステルは、上記化合物(a)〜(c)を、常法に従って、好ましくは窒素等の不活性ガス雰囲気下、エステル化触媒の存在下若しくは無触媒下で加熱しながらエステル化することによって調製される。
【0038】
また、化合物(a)、(c)としてアルコールの酢酸エステル、プロピオン酸エステル等を用いる場合や、化合物(b)、(c)としてカルボン酸の低級アルコールエステル等を用いる場合は、エステル交換反応により本発明にかかるエステルを得ることが可能である。
【0039】
上記のエステル化反応において用いられるエステル化としては、具体的には、アルミニウム誘導体、スズ誘導体、チタン誘導体等のルイス酸類;ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等のアルカリ金属塩;パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸等のスルホン酸類、等が例示されるが、これらの中でも、アルミニウム誘導体、スズ誘導体、チタン誘導体等のルイス酸類を用いると、得られるエステルの熱・加水分解安定性がより高められるので好ましく、さらには、反応効率の点からスズ誘導体が特に好ましい。上記のエステル化触媒の使用量は、例えば、原料である化合物(a)〜(c)の総量に対して0.1〜1質量%程度である。
【0040】
上記のエステル化反応における反応温度としては、150〜230℃が例示され、通常、3〜30時間で反応は完結する。
【0041】
また、エステル化反応終了後、過剰の原料を減圧下又は常圧下において留去し、引き続いて慣用の精製方法、例えば液液抽出、減圧蒸留、活性炭処理等の吸着精製処理等を行うことにより、エステルを精製することができる。
【0042】
上記のエステル化反応において、例えば、化合物(a)として2個の水酸基を有する化合物、化合物(b)として2個のカルボキシル基を有する化合物、化合物(c)として1個のカルボキシル基を有する化合物(以下、「化合物(c−1)」という)及び1個の水酸基を有する化合物(以下、「化合物(c−2)」という)をそれぞれ用いたとき、得られる反応生成物には下記式(1)〜(6):
X
2−COO−R
1−OCO−X
1−COO−R
1−OCO−X
2 (1)
R
2−OCO−X
1−COO−R
1−OCO−X
1−COO−R
2 (2)
X
2−COO−R
1−OCO−X
1−COO−R
2 (3)
X
2−COO−R
1−OCO−X
2 (4)
R
2−OCO−X
1−COO−R
2 (5)
R
2−OCO−X
2 (6)
[式(1)〜(6)中、R
1は化合物(a)から2個の水酸基を除いた残基を表し、R
2は化合物(c−2)から1個の水酸基を除いた残基を表し、X
1は化合物(b)から2個のカルボキシル基を除いた残基を表し、X
2は化合物(c−1)から1個のカルボキシル基を除いた残基を表す]
で表される化合物が包含される(以下、例えば上記式(1)で表される化合物を「化合物(1)」という)。
【0043】
本発明においては、上記のエステル化反応において得られる化合物が上記化合物(1)〜(6)である場合、上記化合物(1)〜(3)のうちの1種を単独で、あるいは上記化合物(1)〜(3)のうちの1種以上と、上記化合物(4)〜(6)のうちの1種以上とを組み合わせて用いることが好ましい。なお、エステルが上記化合物(1)〜(3)のいずれも含まず、上記化合物(4)〜(6)のみで構成される場合には、潤滑性、安定性及び低温流動性の全てをバランスよく満たすことが困難となる傾向にある。
【0044】
また、本発明にかかるエステルが、上記化合物(1)〜(3)の1種以上と、上記化合物(4)〜(6)の1種以上との混合物である場合、各化合物の含有量は特に制限されないが、冷媒相溶性と各種性能とのバランス、並びに製造容易性の点から、混合物全量を基準とした各化合物の含有量は以下に示す範囲内であることが好ましい。
化合物(1):0〜100質量%、好ましくは1〜99質量%、より好ましくは5〜95質量%
化合物(2):0〜100質量%、好ましくは1〜99質量%、より好ましくは5〜95質量%
化合物(3):0〜100質量%、好ましくは1〜99質量%、より好ましくは5〜95質量%
化合物(4):0〜90質量%、好ましくは0〜80質量%、より好ましくは0〜75質量%
化合物(5):0〜90質量%、好ましくは0〜80質量%、より好ましくは0〜75質量%
化合物(6):0〜90質量%、好ましくは0〜80質量%、より好ましくは0〜75質量%
化合物(1)〜(3)の合計:10〜100質量%、好ましくは20〜100質量%、より好ましくは25〜100質量%
化合物(4)〜(6)の合計:0〜90質量%、好ましくは0〜80質量%、より好ましくは0〜75質量%。
【0045】
なお、ここでは、特定の化合物(a)〜(c)を用いたエステル化反応について説明したが、その他の場合であっても、得られる反応生成物は混合物であってもよい。さらには、本発明にかかるエステルが2種以上の化合物の混合物である場合、冷媒相溶性と各種性能とのバランス、並びに製造容易性の点から、化合物(a)と化合物(b)とが直接結合したエステルの含有量は、混合物全量を基準として、10〜100質量%であることが好ましく、20〜100質量%であることがより好ましく、25〜100質量%であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明にかかるエステルの動粘度は特に限定されないが、40℃における動粘度が3〜1000mm
2/sであることが好ましく、4〜700mm
2/sであることがより好ましく、5〜500mm
2/sであることがさらに好ましい。また、当該エステルの100℃における動粘度は1〜50mm
2/sであることが好ましく、1.5〜40mm
2/sであることがより好ましく、2〜30mm
2/sであることがさらに好ましい。エステルの動粘度が上記の範囲内であると、潤滑性、シール性、冷媒相溶性等がよりバランスよく満たされる傾向にある。40℃における動粘度が3mm
2/s未満であると潤滑性や圧縮機の密閉性が低下するという傾向にあり、また、500mm
2/sを越えると、低温条件下で冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が狭くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害が起こりやすくなる傾向にある。
【0047】
また、本発明にかかるエステルの流動点は−10℃以下であることが好ましく、−20〜−50℃であることがより好ましい。流動点が−10℃以上のエステルを用いると、低温時に冷媒循環システム内で冷凍機油が固化しやすくなる傾向にある。
【0048】
本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は上記化合物(a)〜(c)を用いて得られるエステルを含有するものであり、当該エステルのみを単独で用いた場合であっても、低温流動性、潤滑性及び安定性が十分に高く、且つフルオロプロペン冷媒に対する十分に広い相溶領域を有するといった優れた特性を示すものであるが、必要に応じて後述する他の基油や添加剤を添加してもよい。なお、本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物中の当該エステルの含有量については、上記の優れた特性を損なわない限りにおいて特に制限されないが、冷凍機油全量基準で50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上含有することが特に好ましい。当該エステルの含有量が50質量%未満であると、冷凍機油の潤滑性、冷媒相溶性、シール性、熱・化学安定性、電気絶縁性などの各種性能のうちのいずれかが不十分となる傾向にある。
【0049】
本発明の冷凍機油は、本発明にかかるエステルのみからなるものであってもよいが、当該エステル以外の基油及び各種添加剤をさらに含有してもよい。また、本発明の冷凍機用作動流体組成物においても、本発明にかかるエステル以外の基油及び各種添加剤をさらに含有してもよい。なお、以下の説明において、本発明に係るエステル以外の基油及び添加剤の含有量については、冷凍機油全量を基準として示すが、冷凍機用流体組成物におけるこれらの成分の含有量は、冷凍機油全量を基準とした場合に後述する好ましい範囲内となるように選定することが望ましい。
【0050】
本発明にかかるエステル以外の基油としては、鉱油、オレフィン重合体、ナフタレン化合物、アルキルベンゼン等の炭化水素系油、並びに本発明にかかるエステル以外のエステル系基油(モノエステル、ジエステル、ポリオールエステル等)、ポリグリコール、ポリビニルエーテル、ケトン、ポリフェニルエーテル、シリコーン、ポリシロキサン、パーフルオロエーテルなどの酸素を含有する合成油を併用して用いても良い。酸素を含有する合成油としては、上記の中でもポリオールエステル、ポリビニルエーテルが好ましく用いられる。
【0051】
また、本発明の冷凍機油は、必要に応じてさらに各種添加剤を配合した形で使用することもできる。なお、以下の説明において、添加剤の含有量については、冷凍機油組成物全量を基準として示すが、冷凍機用流体組成物におけるこれらの成分の含有量は、冷凍機油組成物全量を基準とした場合に後述する好ましい範囲内となるように選定することが望ましい。
【0052】
本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物の耐摩耗性、耐荷重性をさらに改良するために、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、チオリン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル及び亜リン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のリン化合物を配合することができる。これらのリン化合物は、リン酸または亜リン酸とアルカノール、ポリエーテル型アルコールとのエステルあるいはその誘導体である。
【0053】
具体的には例えば、リン酸エステルとしては、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリトリデシルホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェートなどが挙げられる。
【0054】
酸性リン酸エステルとしては、モノブチルアシッドホスフェート、モノペンチルアシッドホスフェート、モノヘキシルアシッドホスフェート、モノヘプチルアシッドホスフェート、モノオクチルアシッドホスフェート、モノノニルアシッドホスフェート、モノデシルアシッドホスフェート、モノウンデシルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノトリデシルアシッドホスフェート、モノテトラデシルアシッドホスフェート、モノペンタデシルアシッドホスフェート、モノヘキサデシルアシッドホスフェート、モノヘプタデシルアシッドホスフェート、モノオクタデシルアシッドホスフェート、モノオレイルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジペンチルアシッドホスフェート、ジヘキシルアシッドホスフェート、ジヘプチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジノニルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ジウンデシルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジトリデシルアシッドホスフェート、ジテトラデシルアシッドホスフェート、ジペンタデシルアシッドホスフェート、ジヘキサデシルアシッドホスフェート、ジヘプタデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルアシッドホスフェート、ジオレイルアシッドホスフェートなどが挙げられる。
【0055】
チオリン酸エステルとしては、トリブチルホスフォロチオネート、トリペンチルホスフォロチオネート、トリヘキシルホスフォロチオネート、トリヘプチルホスフォロチオネート、トリオクチルホスフォロチオネート、トリノニルホスフォロチオネート、トリデシルホスフォロチオネート、トリウンデシルホスフォロチオネート、トリドデシルホスフォロチオネート、トリトリデシルホスフォロチオネート、トリテトラデシルホスフォロチオネート、トリペンタデシルホスフォロチオネート、トリヘキサデシルホスフォロチオネート、トリヘプタデシルホスフォロチオネート、トリオクタデシルホスフォロチオネート、トリオレイルホスフォロチオネート、トリフェニルホスフォロチオネート、トリクレジルホスフォロチオネート、トリキシレニルホスフォロチオネート、クレジルジフェニルホスフォロチオネート、キシレニルジフェニルホスフォロチオネートなどが挙げられる。
【0056】
酸性リン酸エステルのアミン塩としては、前記酸性リン酸エステルのメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミンなどのアミンとの塩が挙げられる。
【0057】
塩素化リン酸エステルとしては、トリス・ジクロロプロピルホスフェート、トリス・クロロエチルホスフェート、トリス・クロロフェニルホスフェート、ポリオキシアルキレン・ビス[ジ(クロロアルキル)]ホスフェートなどが挙げられる。亜リン酸エステルとしては、ジブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジウンデシルホスファイト、ジドデシルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリウンデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイトなどが挙げられる。また、これらの混合物も使用できる。
【0058】
本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物が上記リン化合物を含有する場合、リン化合物の含有量は特に制限されないが、冷凍機油全量基準(基油と全配合添加剤の合計量基準)で、0.01〜5.0質量%であることが好ましく、0.02〜3.0質量%であることがより好ましい。なお、上記リン化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
また、本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、その熱・化学的安定性をさらに改良するために、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、アリルオキシラン化合物、アルキルオキシラン化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステル及びエポキシ化植物油から選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物を含有することができる。
【0060】
フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、具体的には、フェニルグリシジルエーテルまたはアルキルフェニルグリシジルエーテルが例示できる。ここでいうアルキルフェニルグリシジルエーテルとは、炭素数1〜13のアルキル基を1〜3個有するものが挙げられ、中でも炭素数4〜10のアルキル基を1個有するもの、例えばn−ブチルフェニルグリシジルエーテル、i−ブチルフェニルグリシジルエーテル、sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ペンチルフェニルグリシジルエーテル、ヘキシルフェニルグリシジルエーテル、ヘプチルフェニルグリシジルエーテル、オクチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、デシルフェニルグリシジルエーテルなどが好ましいものとして例示できる。
【0061】
アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、具体的には、デシルグリシジルエーテル、ウンデシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、トリデシルグリシジルエーテル、テトラデシルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールモノグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルなどが例示できる。
【0062】
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、具体的には、フェニルグリシジルエステル、アルキルグリシジルエステル、アルケニルグリシジルエステルなどが挙げられ、好ましいものとしては、グリシジル−2,2−ジメチルオクタノエート、グリシジルベンゾエート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどが例示できる。
【0063】
アリルオキシラン化合物としては、具体的には、1,2−エポキシスチレン、アルキル−1,2−エポキシスチレンなどが例示できる。
【0064】
アルキルオキシラン化合物としては、具体的には、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシトリデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシペンタデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシヘプタデカン、1,1,2−エポキシオクタデカン、2−エポキシノナデカン、1,2−エポキシイコサンなどが例示できる。
【0065】
脂環式エポキシ化合物としては、具体的には、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロペンタン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、エキソ−2,3−エポキシノルボルナン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)−スピロ(1,3−ジオキサン−5,3’−[7]オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、4−(1’−メチルエポキシエチル)−1,2−エポキシ−2−メチルシクロヘキサン、4−エポキシエチル−1,2−エポキシシクロヘキサンなどが例示できる。
【0066】
エポキシ化脂肪酸モノエステルとしては、具体的には、エポキシ化された炭素数12〜20の脂肪酸と炭素数1〜8のアルコールまたはフェノール、アルキルフェノールとのエステルなどが例示できる。特にエポキシステアリン酸のブチル、ヘキシル、ベンジル、シクロヘキシル、メトキシエチル、オクチル、フェニル及びブチルフェニルエステルが好ましく用いられる。
【0067】
エポキシ化植物油としては、具体的には、大豆油、アマニ油、綿実油等の植物油のエポキシ化合物などが例示できる。
【0068】
これらのエポキシ化合物の中でも好ましいものは、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物及びエポキシ化脂肪酸モノエステルである。中でもフェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物及びグリシジルエステル型エポキシ化合物がより好ましく、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエステルもしくはこれらの混合物が特に好ましい。
【0069】
本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物が上記エポキシ化合物を含有する場合、エポキシ化合物の含有量は特に制限されないが、冷凍機油全量基準で、0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.2〜2.0質量%であることがより好ましい。なお、上記エポキシ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
また、本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、その性能をさらに高めるため、必要に応じて従来公知の冷凍機油用添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、例えばジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ビスフェノールA等のフェノール系の酸化防止剤、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N−ジ(2−ナフチル)−p−フェニレンジアミン等のアミン系の酸化防止剤、ジチオリン酸亜鉛などの摩耗防止剤、塩素化パラフィン、硫黄化合物等の極圧剤、脂肪酸等の油性剤、シリコーン系等の消泡剤、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの添加剤の含有量は特に制限されないが、冷凍機油全量基準で、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0071】
本発明の冷凍機油の動粘度は特に限定されないが、40℃における動粘度は、好ましくは3〜1000mm
2/s、より好ましくは4〜700mm
2/s、最も好ましくは5〜500mm
2/sとすることができる。また、100℃における動粘度は好ましくは1〜100mm
2/s、より好ましくは2〜50mm
2/sとすることができる。
【0072】
また、本発明の冷凍機油の水分含有量は特に限定されないが、冷凍機油全量基準で好ましくは300ppm以下、より好ましくは200ppm以下、最も好ましくは100ppm以下とすることができる。特に密閉型の冷凍機用に用いる場合には、冷凍機油の熱・化学的安定性や電気絶縁性への影響の観点から、水分含有量が少ないことが求められる。
【0073】
また、本発明の冷凍機油の酸価は特に限定されないが、冷凍機または配管に用いられている金属への腐食を防止するため、及び本発明の冷凍機油に含有されるエステルの分解を防止するため、好ましくは0.1mgKOH/g以下、より好ましくは0.05mgKOH/g以下とすることができる。なお、本発明において、酸価とは、JISK2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」に準拠して測定した酸価を意味する。
【0074】
また、本発明の冷凍機油の水酸基価は特に限定されないが、水酸基価が20mgKOH/g以下が好ましく、10mgKOH/g以下がより好ましく、5mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0075】
また、本発明の冷凍機油の灰分は特に限定されないが、本発明の冷凍機油の熱・化学的安定性を高めスラッジ等の発生を抑制するため、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下とすることができる。なお、本発明において、灰分とは、JISK2272「原油及び石油製品の灰分並びに硫酸灰分試験方法」に準拠して測定した灰分の値を意味する。
【0076】
本発明の冷凍機油はフルオロプロペン冷媒と共に用いられるものであり、また、本発明の冷凍機用作動流体組成物はフルオロプロペン冷媒を含有するものである。
【0077】
フルオロプロペン冷媒としては、フッ素数が3〜5のフルオロプロペンが好ましく、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC−1234ze)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)、1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC1234ye)、及び3,3,3−トリフルオロプロペン(HFC−1243zf)のいずれかの1種または2種以上の混合物であることが好ましい。冷媒物性の観点からは、HFC−1225ye、HFC−1234ze及びHFC−1234yfから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
【0078】
また、本発明において使用される冷媒は、フルオロプロペン冷媒と他の冷媒との混合冷媒であってもよい。他の冷媒としては、HFC冷媒、バーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、ジメチルエーテル、アンモニア及び炭化水素等の自然系冷媒が挙げられる。
【0079】
HFC冷媒としては、炭素数1〜3、好ましくは1〜2のハイドロフルオロカーボンが挙げられる。具体的には例えば、ジフルオロメタン(HFC−32)、トリフルオロメタン(HFC−23)、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、フルオロエタン(HFC−161)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、及び1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)、またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの冷媒は用途や要求性能に応じて適宜選択されるが、例えばHFC−32単独;HFC−23単独;HFC−134a単独;HFC−125単独;HFC−134a/HFC−32=60〜80質量%/40〜20質量%の混合物;HFC−32/HFC−125=40〜70質量%/60〜30質量%の混合物;HFC−125/HFC−143a=40〜60質量%/60〜40質量%の混合物;HFC−134a/HFC−32/HFC−125=60質量%/30質量%/10質量%の混合物;HFC−134a/HFC−32/HFC−125=40〜70質量%/15〜35質量%/5〜40質量%の混合物;HFC−125/HFC−134a/HFC−143a=35〜55質量%/1〜15質量%/40〜60質量%の混合物などが好ましい例として挙げられる。さらに具体的には、HFC−134a/HFC−32=70/30質量%の混合物;HFC−32/HFC−125=60/40質量%の混合物;HFC−32/HFC−125=50/50質量%の混合物(R410A);HFC−32/HFC−125=45/55質量%の混合物(R410B);HFC−125/HFC−143a=50/50質量%の混合物(R507C);HFC−32/HFC−125/HFC−134a=30/10/60質量%の混合物;HFC−32/HFC−125/HFC−134a=23/25/52質量%の混合物(R407C);HFC−32/HFC−125/HFC−134a=25/15/60質量%の混合物(R407E);HFC−125/HFC−134a/HFC−143a=44/4/52質量%の混合物(R404A)などが挙げられる。
【0080】
また、HFC冷媒のうち、飽和ハイドロフルオロカーボンとしては、ジフルオロメタン(HFC−32)、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、フルオロエタン(HFC−161)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)のいずれかの1種または2種以上の混合物であることが好ましく、冷媒物性の観点から、さらにHFC−32、HFC−125、HFC−134a、HFC−152a、またはHFC−32とHFC−134aの混合物であることが好ましい。
【0081】
炭化水素冷媒としては、炭素数3〜5の炭化水素が好ましく、具体的には例えば、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン、シクロプロパン、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、メチルシクロプロパン、2−メチルブタン、ノルマルペンタンまたはこれらの2種以上の混合物があげられる。これらの中でも、25℃、1気圧で気体のものが好ましく用いられ、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、2−メチルブタンまたはこれらの混合物が好ましい。
【0082】
含フッ素エーテル系冷媒としては、具体的には例えば、HFE−134p、HFE−245mc、HFE−236mf、HFE−236me、HFE−338mcf、HFE−365mcf、HFE−245mf、HFE−347mmy、HFE−347mcc、HFE−125、HFE−143m、HFE−134m、HFE−227meなどが挙げられ、これらの冷媒は用途や要求性能に応じて適宜選択される。
【0083】
本発明において使用される冷媒が混合冷媒である場合、当該混合冷媒は、フルオロプロペン冷媒から選ばれる少なくとも1種(以下、「冷媒(A)」という。)と、飽和ハイドロフルオロカーボン、炭素数3〜5の炭化水素、ジメチルエーテル、二酸化炭素、ビス(トリフルオロメチル)サルファイド及び3フッ化ヨウ化メタン冷媒から選ばれる少なくとも1種(以下、「冷媒(B)」という。)とを含有することが好ましい。
【0084】
また、本発明において使用される冷媒が冷媒(A)と冷媒(B)とを含有する混合冷媒である場合、当該混合冷媒は共沸混合物であることが好ましいが、冷媒として必要な物性を有していれば特に共沸混合物である必要はなく、両者の混合比は1:99〜99:1が好ましく、5:95〜95:5がより好ましい。
【0085】
さらに、本発明において使用される冷媒が冷媒(A)と冷媒(B)とを含有する混合冷媒である場合、当該混合冷媒は、フルオロプロペン冷媒又は飽和ハイドロフルオロカーボン以外のHFC冷媒、バーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、炭素数3〜5の炭化水素以外の炭化水素あるいはアンモニア等の自然系冷媒を更に含有してもよい。
【0086】
本発明の冷凍機油は、通常、冷凍空調機器において、上述したようなフルオロプロペン冷媒あるいは混合冷媒と混合された冷凍機用流体組成物の形で存在している。この組成物における冷凍機油と冷媒との配合割合、並びに本発明の冷凍機用作動流体組成物における冷凍機油と冷媒との配合割合は特に制限されないが、冷媒100質量部に対して冷凍機油が好ましくは1〜500質量部、より好ましくは2〜400質量部である。
【0087】
本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、往復動式や回転式の密閉型圧縮機を有するエアコン、冷蔵庫、あるいは開放型または密閉型のカーエアコンに好ましく用いられる。また、本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、除湿機、給湯器、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷却装置等に好ましく用いられる。さらに、本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、遠心式の圧縮機を有するものにも好ましく用いられる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0089】
[実施例1〜4、比較例1〜2]
実施例1〜4及び比較例1〜2においては、それぞれ以下に示す基油1〜6を用いて冷凍機油を調製した。得られた冷凍機油の各種性状を表1に示す。
【0090】
(基油)
基油1:ネオペンチルグリコール2モルに対し、アジピン酸、コハク酸をそれぞれ1モル、3,5,5−トリメチルヘキサン酸をそれぞれ2モル反応させて得られたエステル。
基油2:トリメチロールプロパン2モルに対し、コハク酸、グルタル酸をそれぞれ1モル、2−メチルブタン酸、2−エチルブタン酸をそれぞれ2モル反応させて得られたエステル。
基油3:ペンタエリスリトール2モルに対し、コハク酸、グルタル酸をそれぞれ1モル、2−メチルブタン酸、2−エチルブタン酸をそれぞれ2モル反応させて得られたエステル。
基油4:ネオペンチルグリコール、3,5,5−トリメチルへキシルアルコールそれぞれ1モルに対し、アジピン酸を2モル反応させて得られたエステル。
基油5:n−ヘプタン酸とペンタエリスリトールとのエステル
基油6:ナフテン系鉱油
【0091】
次に、実施例1〜4及び比較例1〜2の各冷凍機油について、以下に示す評価試験を実施した。
【0092】
(冷媒相溶性の評価)
JIS−K−2211「冷凍機油」の「冷媒との相溶性試験方法」に準拠して、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン18gに対して冷凍機油を2g配合し、冷媒と冷凍機油とが0℃において相互に溶解しているかを観察した。得られた結果を表1に示す。表1中、「相溶」は冷媒と冷凍機油とが相互に溶解したことを意味し、「分離」は冷媒と冷凍機油とが2層に分離したことを意味する。
【0093】
(熱・化学的安定性の評価)
JIS−K−2211に準拠し、水分を100ppm以下に調整した冷凍機油(初期色相L0.5)1gと、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン1gと、触媒(鉄、銅、アルミの各線)とをガラス管に封入した後、150℃に加熱して1週間保持し試験した。試験後は冷凍機油組成物の色相及び触媒の色変化を評価した。色相は、ASTM D156に準拠して評価した。また、触媒の色変化は、外観を目視で観察し、変化なし、光沢なし、黒化のいずれに該当するかを評価した。得られた結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示した結果から明らかなように、実施例1〜4の冷凍機油は、フルオロプロペン冷媒と共に用いた場合に、冷媒相溶性に優れていることがわかる。