(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
主軸部と該主軸部に対して偏心して形成された偏心軸部とを有するクランクシャフトの複数が、それぞれ、その軸方向が互いに平行な状態で所定の間隔を隔ててフレームに回転可能に支持されて、該主軸部の中心軸を回転中心とする該クランクシャフトの回転に基づく該偏心軸部の変位によって、一端部が該偏心軸部に連結されたコネクションロッドの他端部側に連結されたスライドを往復駆動するプレス機であって、
前記複数のクランクシャフトのうちの一つに入力される回転駆動力を、他のクランクシャフトに伝達して、それら複数のクランクシャフトを互いに同期して回転せしめるための第一の連結レバーが複数設けられており、それら複数の第一の連結レバーのそれぞれによって、互いに隣り合う前記クランクシャフトの前記偏心軸部同士が連結されていると共に、該複数の第一の連結レバーが、前記コネクションロッドの一端部が連結されている部位を挟んで、それぞれ、該偏心軸部の軸方向において互い違いになるように配設されている一方、
前記複数のクランクシャフトの前記フレームから外方に突出せしめられた一端部に、それぞれ、前記主軸部の軸方向に直角な方向に延出する偏心レバーが設けられ、更にそれら偏心レバーに対して、該主軸部に対する前記偏心軸部とは異なる周方向位置において、該主軸部の軸方向と平行な方向に突出し、且つその突出方向の端部が該クランクシャフトの一端部よりも外方に位置するピンが、それぞれ設けられると共に、それらピンの突出方向の端部に対して、第二の連結レバーがそれぞれ取り付けられて、かかる第一及び第二の連結レバーの協働作用によって、前記回転駆動力が前記他のクランクシャフトに円滑に伝達せしめられるようになっていることを特徴とするプレス機。
前記スライドが平面視において長手の矩形形状を呈しており、前記複数のクランクシャフトが、それらの軸方向が該スライドの長手方向に対して直角な方向となるようにして、該スライドの長手方向に互いに間隔を隔てて配置されている請求項1に記載のプレス機。
前記主軸部の中心軸に対する前記ピンの中心軸の偏心量が、該主軸部の中心軸に対する前記偏心軸部の中心軸の偏心量よりも大きくされている請求項1又は請求項2に記載のプレス機。
【背景技術】
【0002】
従来から、クランクシャフトを用いて駆動するようにしたプレス機として、複数のクランクシャフトを同期して回転させることにより、プレス型が取り付けられたスライドを往復移動させるプレス機が、知られている。そして、そのようなプレス機の一つとして、本願出願人は、先に、特開平9−155595号公報(特許文献1)において、複数のクランク軸のうち少なくとも1つのクランク軸の回転運動を、ヨークによって他のクランク軸に伝達するようにしたプレス機を、明らかにした。そこでは、回転駆動せしめられるクランク軸(駆動クランク軸)の回転運動が、ヨークによって伝達されて、他のクランク軸(従動クランク軸)が、かかる駆動クランク軸と同期して回転運動せしめられるようになっている。
【0003】
ところが、そのようなヨークを用いた伝達構造においては、複数のクランク軸のそれぞれの主部の中心軸(回転中心軸)と偏心部の中心軸の全てが、一つの平面上に位置したときに、ヨークによる力の伝達方向が直線的となって、一時的に従動クランク軸の回転方向が定まらなくなるポイント、所謂思案点が、存在することとなる。そのため、複数のクランク軸間において、回転運動を滑らかに伝達することが困難となるという問題を内在するものであった。
【0004】
かかる状況下、実開昭52−53476号公報(特許文献2)に開示の、プレスにおけるスライド駆動装置にあっては、左右に各スライドを有するプレスのスライド駆動装置において、一方のスライド側に与えたスライド駆動力を他方のスライド側に伝達すべく、左右のスライド駆動用歯車同士を位相差をもつ2本のリンクによって連結することにより、離隔して配置された歯車への回転力伝達が滑らかに且つ強力に行ない得ることが、明らかにされている。
【0005】
しかしながら、そのような構成にあっては、慣性モーメント(慣性力)の大きい歯車部材が多く用いられているところから、プレス機全体として、それらの歯車部材による慣性モーメントが極めて大きなものとなっており、そのために、プレス機の始動時及び停止時における応答性、所謂プレス機のスタート・ストップ性能が悪いという問題がある。また、一方のスライド側(駆動源)から、他方のスライド側に駆動力を伝達するのに、リンク及び複数の歯車を介する構造であるため、応答性(スタート・ストップ性能)や同期精度が悪い。更に、プレス機の始動時及び停止時に、慣性モーメントによってクランクシャフトの回転量乃至はスライドの変位量が変動してしまい、加工精度が悪化する恐れがあることに加えて、プレス機の成形サイクルを速くすることが困難であるという問題も内在している。
【0006】
しかも、かかる特許文献2においては、リンク同士の干渉や、各リンクと歯車(アイドラ歯車)又はその回転軸部材との干渉を避けるために、アイドラ歯車を同軸的に回転する2つの歯車に分割して、各リンクをそれぞれの歯車に連結すると共に、幅広の中間歯車を介して、その分割されたアイドラ歯車同士の同期を取るようにした構成が採用されているところから、装置全体の構造が極めて複雑なものとなっているのである。更に、そこでは、部品点数が多いことに加え、左右のスライドを同期的に駆動させるために、各歯車の精度やバックラッシを調整する必要があるところから、その対策によって、装置全体のコストが高騰してしまうという問題をも、内在しているのである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、複数のクランクシャフト間における回転駆動力の伝達を円滑にすることが出来、更にプレス機のスタート・ストップ性能の改善及び加工精度の向上を図ると共に、成形サイクルの高速化が可能となるように改良された構造を備えるプレス機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明にあっては、かくの如き課題を解決するために、主軸部と該主軸部に対して偏心して形成された偏心軸部とを有するクランクシャフトの複数が、それぞれ、その軸方向が互いに平行な状態で所定の間隔を隔ててフレームに回転可能に支持されて、該主軸部の中心軸を回転中心とする該クランクシャフトの回転に基づく該偏心軸部の変位によって、一端部が該偏心軸部に連結されたコネクションロッドの他端部側に連結されたスライドを往復駆動するプレス機であって、前記複数のクランクシャフトのうちの一つに入力される回転駆動力を、他のクランクシャフトに伝達して、それら複数のクランクシャフトを互いに同期して回転せしめるための第一の連結レバーが
複数設けられており、それら複数の第一の連結レバーのそれぞれによって、互いに隣り合う前記クランクシャフトの前記偏心軸部同士が連結されていると共に、該複数の第一の連結レバーが、前記コネクションロッドの一端部が連結されている部位を挟んで、それぞれ、該偏心軸部の軸方向において互い違いになるように配設されている一方、前記複数のクランクシャフトの前記フレームから外方に突出せしめられた一端部に、それぞれ、前記主軸部の軸方向に直角な方向に延出する偏心レバーが設けられ、更にそれら偏心レバーに対して、該主軸部に対する前記偏心軸部とは異なる周方向位置において、該主軸部の軸方向と平行な方向に突出し、且つその突出方向の端部が該クランクシャフトの一端部よりも外方に位置するピンが、それぞれ設けられると共に、それらピンの突出方向の端部に対して、第二の連結レバーがそれぞれ取り付けられて、かかる第一及び第二の連結レバーの協働作用によって、前記回転駆動力が前記他のクランクシャフトに円滑に伝達せしめられるようになっていることを特徴とするプレス機を、その基本的構成とするものである。
【0010】
なお、かかる本発明に従うプレス機の好ましい態様の一つによれば、前記スライドは、平面視において長手の矩形形状を呈しており、前記複数のクランクシャフトが、それらの軸方向が該スライドの長手方向に対して直角な方向となるようにして、該スライドの長手方向に互いに間隔を隔てて配置されている。
【0011】
また、本発明にあっては、前記主軸部の中心軸に対する前記ピンの中心軸の偏心量が、該主軸部の中心軸に対する前記偏心軸部の中心軸の偏心量よりも大きくされている構成が、好ましく採用されることとなる。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明に従うプレス機にあっては、複数のクランクシャフトの偏心軸部のそれぞれに対して、第一の連結レバーが取り付けられている一方、複数のクランクシャフトの一端部において、偏心レバーを介して、主軸部に対する偏心軸部とは異なる周方向位置に設けられたピンに、第二の連結レバーがそれぞれ取り付けられているところから、それら第一及び第二の連結レバーの協働作用によって、複数のクランクシャフトのうちの一つに入力される回転駆動力が、他のクランクシャフトに円滑に伝達せしめられるようになっているのである。
【0014】
従って、本発明に従うプレス機によれば、クランクシャフトの回転駆動に対する、第一の連結レバーの取付部の位相と第二の連結レバーの取付部の位相とが、クランクシャフトの回転方向においてそれぞれ異ならしめられていることにより、第一の連結レバーによる回転駆動力の伝達機構において、他のクランクシャフトが思案点に到達した場合であっても、第二の連結レバーによって他のクランクシャフトの回転方向を決める力が加えられることとなって、プレス機全体として、複数のクランクシャフト間の回転駆動力の伝達における思案点が存在しなくなるのであり、それ故に、それら複数のクランクシャフト間において、回転駆動力を円滑に伝達せしめることが出来ることとなるのである。
【0015】
また、本発明に従うプレス機にあっては、歯車部材を必要としない構成であるところから、かかる歯車部材が有する大きな慣性モーメントによる悪影響を受けることがなく、そのために、プレス機のスタート・ストップ性能が有利に改善され得ることとなると共に、所望のプレス加工が、高い加工精度で行なわれ得るようになるのであり、更に、プレス機の成形サイクルを効果的に高速化することが可能となる利点がある。そして、歯車部材が不要となるところから、プレス機全体としての構造が簡略化されると共に、装置の製造コストが低減されるという特徴も発揮されることとなるのである。
【0016】
しかも、偏心レバーが、複数のクランクシャフトのフレームから外方に突出せしめられた一端部に、それぞれ設けられてなる構造が採用されているところから、第二の連結レバーを取り付けるためにフレームを大きくする必要はなく、そのために、フレームにて支持される主軸部(軸受)間の距離が大きくなることはなく、それら主軸部同士の同心度が確保し易いという利点も有しているのである。
【0017】
さらに、本発明に従うプレス機にあっては、第二の連結レバーが取り付けられるピンの突出方向の端部が、クランクシャフトの一端部よりも外方に位置しているところから、第二の連結レバーとクランクシャフトとの干渉が、有利に回避され得るようになっているのである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0020】
先ず、
図1には、本発明に従うプレス機の一例が、一部断面部分を含む正面図の形態で示されている。そこにおいて、プレス機10は、下部フレーム12、中間フレーム14、及び上部フレーム16からなる一体構造のフレーム18を備えており、その下部フレーム12上に固定的に載置されたボルスタ20の上面には、下型22が取り付けられている一方、中間フレーム14内に配設されたスライド24の下面には、かかる下型22と共にプレス型を構成する上型26が取り付けられている。なお、スライド24は、中間フレーム14の内壁面に対向して設けられた一対のスライドガイド28、28により、上下方向に移動可能に案内される状態で配設されている。また、後述するように、上部フレーム16には、主軸部30と偏心軸部32とを有する複数(ここでは、3つ)のクランクシャフト34、34、34が、回転可能に支持されている。
【0021】
また、スライド24は、その上面から鉛直方向上方へ延びるように一体的に設けられたロッド部36、36、36において、コネクションロッド38、38、38を介して、クランクシャフト34、34、34と連結されている。具体的には、各コネクションロッド38、38、38が、それぞれ、その一端部(上端部)において、スリーブ40を介してクランクシャフト34の偏心軸部32に回動可能に組み付けられる一方、他端部(下端部)において、クランクピン42によってスライド24のロッド部36の上端部に回動可能に組み付けられている。これにより、主軸部30の中心軸(P)を回転中心とするクランクシャフト34の回転に基づく偏心軸部32の変位によって、スライド24が上下方向に往復駆動せしめられるようになっている。そのようなスライド24の往復運動(上下動)に伴なって、上型26が下型22に対して接近/離隔移動せしめられ、それら上型26と下型22との間に配置された被加工材に対して、従来と同様にして、所定のプレス加工が行なわれるようになっている。
【0022】
ここで、
図2に示されるように、各クランクシャフト34、34、34は、それぞれ、同軸的に形成された主軸部30、30において、軸受44、44を介して、フレーム18(上部フレーム16)に回転可能に支持されている。これにより、主軸部30、30の中心軸:Pが、クランクシャフト34の回転中心軸となるように構成されている。なお、
図2には明示されていないが、本実施形態においては、スライド24が、平面視において長手の矩形形状を呈する厚肉の平板からなっており、それに合わせて、上部フレーム16の断面が、平面視で長手の矩形枠体形状を呈するように構成されている。そして、クランクシャフト34、34、34は、それぞれ、それらの軸方向がスライド24の長手方向に対して直交する方向に延びるように、換言すれば、それらの回転中心軸:Pが上部フレーム16の短手方向に延びるようにして、スライド24(上部フレーム16)の長手方向に互いに間隔を隔てて配置されている。
【0023】
さらに、クランクシャフト34の偏心軸部32は、主軸部30、30間において、かかる主軸部30と平行に、且つ主軸部30に対して、その周方向(軸方向に直角な方向)の一方向(ここでは、
図2における左方向)に所定距離(X)離れた位置に、偏心して形成されている。ここで、主軸部30の中心軸:Pと偏心軸部32の中心軸:Qの軸直角方向における距離:Xが、偏心軸部32の偏心量:Xとなる。そして、かかる偏心軸部32は、中央部を構成する大径部32aと、それを挟むようにして両端部を構成する小径部32b、32bとが、同軸的に形成されて構成されており、更にその大径部32aに対して、コネクションロッド38の一端部が組み付けられているのである。なお、それら大径部32aと小径部32b、32bとの間には、それぞれ、小片状の仕切板部46、46が一体的に形成されている。
【0024】
そして、本実施形態のプレス機10にあっては、互いに隣り合う2つのクランクシャフト34、34同士が、それぞれ、長手板状の第一の連結レバーとしての回転駆動力伝達レバー48(以下、伝達レバー48と略称する)によって連結されている。また、それら伝達レバー48、48は、それぞれ、クランクシャフト34の偏心軸部32に対して、スリーブ50を介して、回転可能に取り付けられている(
図3及び
図4参照)。
【0025】
より具体的には、
図2及び
図3から明らかなように、図において最も左側のクランクシャフト34と中央のクランクシャフト34とが、それらクランクシャフト34、34の一端部側(
図2における下側)の小径部32b、32bにおいて、伝達レバー48によって連結されている一方、
図2及び
図4から明らかなように、図において最も右側のクランクシャフト34と中央のクランクシャフト34とが、それらクランクシャフト34、34の他端部側(
図2における上側)の小径部32b、32bにおいて、伝達レバー48によって連結されている。このようにして、中央のクランクシャフト34においては、取り付けられる2つの伝達レバー48、48が、コネクションロッド38の連結されている部位(大径部32a)を挟んで、それぞれ、偏心軸部32の軸方向において互い違いになるように配設されているのである。
【0026】
また、
図2及び
図5、
図6に示されるように、各クランクシャフト34、34、34の上部フレーム16から外方に突出せしめられた一端部(
図2における下側の端部)には、それぞれ、主軸部30の周方向であって、主軸部30に対する偏心軸部32の偏心方向とは異なる方向(ここでは、
図5及び
図6における上方向であって、偏心軸部32の上記偏心方向に対して90°の位相差を有する方向)で同方向に延出する板状の偏心レバー52、52、52が、設けられている。
【0027】
さらに、そのような偏心レバー52の延出方向の端部部位に対して、主軸部30の軸方向と平行な方向に突出する細径丸棒状のピン54が、一体的に設けられている。即ち、ピン54は、主軸部30と平行に、且つ主軸部30に対して、かかる主軸部30に対する偏心軸部32とは異なる周方向位置に、偏心して形成されているのである。そして、本実施形態においては、
図5に示されるように、主軸部30の軸方向から見て、主軸部30に対する偏心軸部32の偏心方向と、主軸部30に対するピン54の偏心方向とが、角度:θ(ここでは、90°)をもって異ならしめられている。ここで、主軸部30の中心軸:Pとピン54の中心軸:Rの軸直角方向の距離:Yが、ピン54の偏心量:Yとなるが、そのような偏心量:Yは、先に述べた、偏心軸部32の偏心量:Xよりも大きくなるように構成されている。
【0028】
加えて、ピン54、54、54は、
図2及び
図6から明らかなように、その突出方向の端部が、クランクシャフト34、34、34(主軸部30、30、30)の一端部よりも外方に位置するように、配設されている。
【0029】
そして、
図5に示されるように、それらピン54、54、54の突出方向の端部に対して、長手板状の第二の連結レバーとしての思案点脱却レバー56(以下、脱却レバー56と略称する)が、それぞれ、取り付けられている。かかる脱却レバー56は、ピン54、54、54に対して、それぞれ、スリーブ58、58、58を介して、回転可能に取り付けられている。このようにして、複数クランクシャフト34、34、34は、それぞれ、その一端部において、偏心レバー52及びピン54を介して、脱却レバー56により連結されているのである。
【0030】
なお、本実施形態においては、
図2に示されるように、中央のクランクシャフト34の上部フレーム16から外方に延出せしめられた他端部(
図2における上側の端部)に、クラッチ機構60が、一体的に組み付けられていると共に、フライホイール62が、図示しないボールベアリング等の機構を介して、回転可能に支持されている。かくして、本実施形態のプレス機10においては、複数のクランクシャフト34、34、34のうちの一つである中央のクランクシャフト34が、フライホイール62の等速回転運動をクラッチ機構60を介して受けて、回転駆動せしめられるクランクシャフト34(以下、駆動クランクシャフト34とも称する)とされている。これに対し、両側のクランクシャフト34、34は、それぞれ、かかる駆動クランクシャフト34の回転駆動力を受けて回転せしめられるクランクシャフト34(以下、従動クランクシャフト34とも称する)とされているのである。
【0031】
そして、上述のような構造のプレス機10においては、駆動クランクシャフト34に入力される回転駆動力が、主として、伝達レバー48、48により、従動クランクシャフト34、34に伝達されることによって、それら複数のクランクシャフト34、34、34が、互いに同期した状態で回転駆動せしめられるようになっている。
【0032】
ところで、
図1乃至
図6においては、プレス機10の稼働中における一つの時点での作動状態が示されているのであるが、ここでは、
図3及び
図4から明らかなように、伝達レバー48により連結された隣り合うクランクシャフト34、34間において、それぞれの主軸部30の中心軸:Pと、伝達レバー48が取り付けられた偏心軸部32の中心軸:Qの全てが、同一平面(紙面に垂直な方向に延びる仮想直線Lにて示される面)上に位置し、且つ伝達レバー48の中心線上に位置せしめられている。
【0033】
このような状態にあっては、例えば、駆動クランクシャフト34が、
図3及び
図4に向かって時計回り(図中、細線矢印参照)に回転駆動せしめられたとしても、伝達レバー48により連結されている従動クランクシャフト34が、一時的に、時計回り及び逆時計回りの両方に回転することが可能となっているために、一義的に従動クランクシャフト34の回転方向が定まらなくなっているのである。即ち、伝達レバー48による回転駆動力の伝達機構においては、従動クランクシャフト34が思案点に位置しているのである。
【0034】
これに対し、同じ時点における、各クランクシャフト34、34、34と脱却レバー56の連結部分にあっては、
図5に示されるように、それぞれ、クランクシャフト34の主軸部30に対するピン54の偏心方向が、主軸部30に対する偏心軸部32の偏心方向に対して角度:θだけ異なるものとされている、換言すれば、脱却レバー56のクランクシャフト34に対する取付部(ピン54)の回転位相が、伝達レバー48のクランクシャフト34に対する取付部(偏心軸部32)の回転位相と、θだけ異なるものとされているところから、そのような脱却レバー56によって、従動クランクシャフト34、34を、駆動クランクシャフト34と同じ方向に回転させる力が加えられることとなる。
【0035】
そして、このようにして脱却レバー56から加えられる力をきっかけとして、従動クランクシャフト34、34が、伝達レバー48、48による回転駆動力の伝達機構における思案点から脱却されることとなる。かくして、伝達レバー48、48及び脱却レバー56の協働作用によって、従動クランクシャフト34、34が、所定の回転方向に回転駆動せしめられる駆動クランクシャフト34に対して、同期した状態で、同一の回転方向に回転駆動せしめられるようになるのである。
【0036】
さらに、
図7乃至
図9には、クランクシャフト34、34、34の回転駆動中における他の一つの時点での状態、即ち、スライド24が下死点にある状態が例示されている。ここにおいて、
図7に示されるように、駆動クランクシャフト34は、左側の従動クランクシャフト34を回転させるために、伝達レバー48を介して、左側の従動クランクシャフト34の偏心軸部32を右向きに押すように作用する。すると、駆動クランクシャフト34は、その反作用力として、伝達レバー48から右向き(
図7中、白抜き矢印にて示す)の力を受けることとなる。
【0037】
これに対し、
図8に示されるように、駆動クランクシャフト34は、右側の従動クランクシャフト34を回転させるために、伝達レバー48を介して、右側の従動クランクシャフト34の偏心軸部32を左向きに引っ張るように作用する。すると、駆動クランクシャフト34は、その反作用力として、伝達レバー48から右向き(
図8中、白抜き矢印にて示す)の力を受けることとなる。このようにして、
図9に示されるように、駆動クランクシャフト34は、回転駆動に際し、コネクションロッド38を挟んだ両側部位において、略同じ大きさ及び同じ方向の力を受けるようになっているのである。
【0038】
以上の説明から明らかなように、本実施形態では、複数のクランクシャフト34、34、34のそれぞれの偏心軸部32に対して、第一の連結レバーとしての伝達レバー48、48が取り付けられている一方、複数のクランクシャフト34、34、34の一端部において、偏心レバー52、52、52を介して、主軸部30に対する偏心軸部32とは異なる周方向位置に設けられたピン54、54、54に対して、第二の連結レバーとしての脱却レバー56がそれぞれ取り付けられているところから、それら伝達レバー48、48及び脱却レバー56の協働作用によって、駆動クランクシャフト34に入力される回転駆動力が、他のクランクシャフト34、34に円滑に伝達せしめられるようになっているのである。
【0039】
すなわち、駆動クランクシャフト34の回転駆動に対して、伝達レバー48、48の取付部(偏心軸部32)の位相と脱却レバー56の取付部(ピン54)との位相が、それぞれ異なるものとなっているため、伝達レバー48、48による回転駆動力の伝達機構において、従動クランクシャフト34、34が思案点に到達した場合であっても、脱却レバー56によって、その回転方向が一義的に決められることとなる。従って、プレス機10全体として、複数のクランクシャフト34、34、34を同期して回転させる際の思案点が存在しなくなるのであり、それ故に、それら複数のクランクシャフト34、34、34間において、回転駆動力を円滑に伝達せしめることが出来ることとなるのである。
【0040】
しかも、本実施形態のプレス機10は、歯車部材を全く必要としない構成であるところから、かかる歯車部材が有する大きな慣性モーメントによる悪影響を何等受けることがない構成となっており、以て、プレス機10のスタート・ストップ性能(応答性)が有利に改善されると共に、所望のプレス加工が、高い加工精度をもって行なわれ得ることとなり、更に、プレス機10の成形サイクルを効果的に高速化することが可能となる利点がある。要するに、プレス機10においては、クランクシャフト34によって、直接、コネクションロッド38が駆動せしめられる構造であるところから、応答性に優れており、成形サイクルの高速化が有利に実現可能となっているのである。
【0041】
さらに、歯車部材が不要となるところから、プレス機10全体としての構造が簡略化されると共に、部品点数も削減され、装置の製造コストが低減されるという特徴も発揮することとなる。
【0042】
また、偏心レバー52、52、52が、それぞれ、クランクシャフト34の上部フレーム16から外方に突出せしめられた一端部に設けられているところから、脱却レバー56を取り付けるために上部フレーム16乃至はフレーム18全体を大きくする必要がない特徴を有している。従って、上部フレーム16にて支持される主軸部30、30(軸受44、44)間の距離が大きくなることがなく、そのため、それら主軸部30、30同士の同心度が確保し易いという利点がある。
【0043】
しかも、そのように、上部フレーム16によってクランクシャフト34の主軸部30、30が短い間隔(スパン)で支えられるようになっているところから、クランクシャフト34において、たわみ変形に対する強度が効果的に発揮されることとなる。即ち、クランクシャフト34においては、主軸部30、30の間に形成され、上部フレーム16内に配置される偏心軸部32に対して、伝達レバー48から大きな力(反作用力)が作用せしめられることとなるのであるが、かかる偏心軸部32が、短い間隔で支えられるようになっているところから、そのたわみ変形が有利に抑制されることとなるのである。また、その結果として、クランクシャフト34自体を軽量化(細径化)することが可能となり、以て、クランクシャフト34の慣性モーメントをより小さくすることが出来、応答性や同期精度の向上や、更なる高速化が可能となるという利点もある。
【0044】
さらに、脱却レバー56が取り付けられるピン54、54、54の突出方向の端部が、それぞれ、クランクシャフト34の一端部よりも外方に位置しているところから、脱却レバー56と各クランクシャフト34との干渉が有利に回避され得るようになっているのである。
【0045】
そして、幅の広い被加工材をプレス加工するために、スライド24が平面視において長手の矩形形状を呈している場合であっても、複数のクランクシャフト34、34、34を、それらの軸方向がスライド24の長手方向に対して直角な方向(即ち、スライド24の短手方向)となるように、スライド24の長手方向に互いに間隔を隔てて配置することが可能となり、これによって、クランクシャフト34の主軸部30、30(軸受44、44)間の距離が大きくなることがなく、そのため、それら主軸部30、30同士の同心度を確保し易く、クランクシャフト34の製造自体が容易になる、という利点がある。
【0046】
また、ここでは、主軸部30に対するピン54の偏心量:Yが、偏心軸部32の偏心量:Xよりも大きくされている。即ち、クランクシャフト34の回転駆動において、支点となる主軸部30の中心軸:Pから、作用点となるピン54の中心軸:Rまでの距離:Yが、距離:Xに対して、相対的に大きくされているところから、ピン54及び脱却レバー56に掛かる力(荷重)が伝達レバー48と比べて小さくなることとなる。そのため、ピン54及び脱却レバー56をより薄肉乃至は細径の部材とすることが出来、以て、軽量化を図ると共に、慣性モーメントを小さくすることが可能となっている。
【0047】
さらに、本実施形態においては、伝達レバー48が複数設けられており、それら複数の伝達レバー48、48のそれぞれによって、互いに隣り合うクランクシャフト34、34の偏心軸部32、32同士が連結されていると共に、2つのクランクシャフト34、34間に挟まれるように配設されたクランクシャフト34(ここでは、駆動クランクシャフト34)においては、複数の伝達レバー48、48が、コネクションロッド38の一端部が連結されている部位(大径部32a)を挟んで、それぞれ、偏心軸部32の軸方向において互い違いになるように配設されている。このため、駆動クランクシャフト34において、伝達レバー48、48から作用せしめられる軸直角方向の力が、軸方向において偏らず、従って、かかるクランクシャフト34の中心軸:Pを回転乃至は傾かせるような力が働かないようになっている。それ故に、そのようなクランクシャフト34のねじれ(軸の回転)が防止されると共に、主軸軸30、30の同心度が確保されることとなり、その結果、クランクシャフト34をよりスムーズに回転させることが可能となるのである。
【0048】
次に、
図10には、本発明に従う構造を有するプレス機の別の実施形態が、
図2に対応する断面図の形態において示されている。なお、
図10に示されるプレス機64において、先の実施形態と同様な構造の部分には、同一の符号を付して、詳細な説明は省略することとする。
【0049】
すなわち、かかる
図10に示されるプレス機64においては、複数のクランクシャフト34、34、34が、1つの伝達レバー48によって連結されてなる構造となっている。このような形態にあっても、伝達レバー48と脱却レバー56との協働作用によって、駆動クランクシャフト34に入力される回転駆動力を、従動クランクシャフト34、34に円滑に伝達せしめることが出来る。
【0050】
また、かかるプレス機64にあっては、クランクシャフト34、34、34のそれぞれの偏心軸部32において、大径部32aと小径部32b、32bとの偏心方向が対称にされている。即ち、クランクシャフト34の回転駆動に対して、大径部32aの位相と小径部32b、32bの位相が、180°異なるものとされているのである。このような形態においては、伝達レバー48が連結されていない小径部32b、32bに対して、公知のダイナミックバランス(図示せず)を連結する構成を採用することにより、スライド24の往復駆動に伴なう振動を相殺し、プレス機64全体としての振動を軽減することが出来る特徴がある。
【0051】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0052】
例えば、偏心軸部32に対するピン54の周方向位置は、何等例示の位置に限られるものではない。即ち、主軸部30に対する、偏心軸部32の偏心方向とピン54の偏心方向とのなす角度:θは、0°及び180°を除く角度とされておれば良い。ここで、0°及び180°を除くとしたのは、かかる角度:θが0°又は180°とされると、伝達レバー48の取付部(偏心軸部32)と脱却レバー56の取付部(ピン54)とが同時に思案点に到達することとなり、伝達レバー48と脱却レバー56の協働作用が得られず、従動クランクシャフト34が有利に思案点を脱却することが不可能となるためである。なお、かかる角度:θは、好ましくは90°とされ、それによって、ピン54の位相が、偏心軸部32の位相に対して、クランクシャフト34の回転方向に90°異ならしめられていることが好ましい。
【0053】
また、クランクシャフト34の本数も、何等例示の本数に限られるものではなく、複数(2本以上)のクランクシャフト34を備えていれば良い。ここで、
図11においては、4本のクランクシャフト34、34、34、34を有するプレス機66の形態が例示されている。そして、ここでも、複数の伝達レバー48、48、48は、クランクシャフト34の軸方向において互い違いに配設されていることが好ましい。これにより、駆動クランクシャフト34に加え、2つのクランクシャフト34、34間に配設された従動クランクシャフト34(ここでは、左側から2番目のクランクシャフト34)においても、先述した、軸のねじれ防止効果を有利に享受することが出来ることとなる。
【0054】
さらに、偏心レバー52の延出方向乃至形態も、上述の態様に何等限定されるものではなく、例えば偏心レバー52が、中間部位にて屈曲せしめられたL字形状等とされていても、何等差支えない。要するに、そのような偏心レバー52に対して一体的に設けられるピン54の周方向位置が、偏心軸部32と異なる位置となるようにされておればよいのである。
【0055】
なお、駆動クランクシャフト34に回転駆動力を入力せしめるための機構としては、公知の各種の機構を適宜に採用することが可能である。また、構造によっては、そのような機構と脱却レバー56とを、クランクシャフト34の同一側の端部に設けることも可能となる。
【0056】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、そして、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【課題】複数のクランクシャフト間における回転駆動力の伝達を円滑にすることが出来、更にプレス機のスタート・ストップ性能を改善して加工精度の向上を図ると共に、成形サイクルの高速化が可能となるように改良された構造を備えるプレス機を提供すること。
【解決手段】プレス機10において、主軸部30と偏心軸部32とを有する複数のクランクシャフト34、34、34を互いに同期して回転せしめるための第一の連結レバー48、48を、偏心軸部32、32、32のそれぞれに対して取り付ける一方、それらクランクシャフト34、34、34に対して、主軸部30に対する偏心軸部32とは異なる周方向位置において一体的に設けられたピン54、54、54のそれぞれに対して、第二の連結レバー56を取り付けて、構成した。