(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767429
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】固体分散剤中の結晶化阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/32 20060101AFI20150730BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20150730BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20150730BHJP
A61K 31/216 20060101ALI20150730BHJP
A61K 31/343 20060101ALI20150730BHJP
A61K 31/427 20060101ALI20150730BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20150730BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20150730BHJP
A61K 47/34 20060101ALI20150730BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20150730BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20150730BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20150730BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20150730BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
A61K47/32
A61K9/20
A61K9/48
A61K31/216
A61K31/343
A61K31/427
A61K31/513
A61K45/00
A61K47/34
A61K47/38
A61P3/06
A61P31/10
A61P31/18
A61P43/00 111
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2001-536119(P2001-536119)
(86)(22)【出願日】2000年11月10日
(65)【公表番号】特表2003-513904(P2003-513904A)
(43)【公表日】2003年4月15日
(86)【国際出願番号】US2000031072
(87)【国際公開番号】WO2001034119
(87)【国際公開日】20010517
【審査請求日】2007年10月26日
【審判番号】不服2013-10234(P2013-10234/J1)
【審判請求日】2013年6月4日
(31)【優先権主張番号】09/438,994
(32)【優先日】1999年11月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512212195
【氏名又は名称】アッヴィ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリル,ステイーブン・ケイ
(72)【発明者】
【氏名】フオート,ジエイムズ・ジエイ
(72)【発明者】
【氏名】ロウ,デバリーナ
(72)【発明者】
【氏名】シユミツト,エリツク・エイ
(72)【発明者】
【氏名】チウ,イーホン
【合議体】
【審判長】
新居田 知生
【審判官】
冨永 保
【審判官】
小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】
特表平7−504162(JP,A)
【文献】
特開昭61−205208(JP,A)
【文献】
特表平9−502715(JP,A)
【文献】
特表平11−505542(JP,A)
【文献】
国際公開第96/23499(WO,A1)
【文献】
米国特許第5914322(US,A)
【文献】
International Journal of Pharmaceutics,1997年,Vol.156,p.79−88
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K6/00-135/00
A61P1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リトナビル分子分散剤を、親水性の非晶質ポリマー及び水溶性担体を含む基質中に有する固体医薬組成物であって、
前記非晶質ポリマーが、ポリビニルピロリドン(PVP)であり、
前記水溶性担体が、ポリエチレングリコール(PEG)である、
前記医薬組成物。
【請求項2】
前記基質内の、ポリビニルピロリドン(PVP):ポリエチレングリコール(PEG)の含有比が1:99〜15:85(重量基準)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(2S,3S,5S)−2−(2,6−ジメチルフェノキシアセチル)アミノ−3−ヒドロキシ−5−[2S−(1−テトラヒドロ−ピリミド−2−オンイル)−3−メチル−ブタノイル]アミノ−1,6−ジフェニルヘキサンをさらに含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
50℃で272時間保持した前記組成物において、2kW標準評点X線管搭載のX線粉末回折によって結晶化リトナビルが検出されない、請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、圧縮された錠剤となっている、請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、カプセルに封入されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
医薬的に許容される充填剤、希釈剤、潤滑剤、または崩壊剤をさらに含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
リトナビルを有機溶媒に溶解する段階、
前記リトナビルと、前記組成物の1以上の付加成分とを混合する段階、及び、
前記溶媒を除去する段階、
を有する請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【請求項9】
カプセルに前記組成物を封入する段階、または前記組成物を圧縮して錠剤とする段階をさらに含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記有機溶媒がエタノールである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
リトナビルを有機溶媒に溶解する段階、
前記リトナビルと、前記非晶質ポリマーとを混合する段階、及び、
前記溶媒を除去する段階、
を有する請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
(技術分野)
本発明は、製薬および有機化学の分野に関するものであり、結晶化阻害を示す新規な固体分散剤医薬製剤を提供する。
【0002】
(背景技術)
医薬品の経口製剤の有用性に関しての一つの評価基準は、製剤を経口投与した後に観察される生物学的利用能である。経口投与した場合には、薬剤の生物学的利用能には多くの因子が影響を与え得る。それらの因子には、水溶解度、消化管全体での薬剤吸収、投与強度および初回通過効果などがある。水溶解度は、これら因子の中で最も重要なものである。薬剤の水溶解度が低いと、水溶解度が向上した薬剤の塩その他の誘導体を特定する試みが必要とされる場合が多い。薬剤の塩その他の誘導体が良好な水溶解度を有すると確認されると、その塩または誘導体の水溶液製剤が至適な経口生物学的利用能を与えることが一般に認められている。薬剤の水系経口液剤の生物学的利用能は、他の経口製剤を評価する上での標準的または理想的な生物学的利用能として用いられる。
【0003】
患者コンプライアンスおよび味マスクなどの各種理由により、カプセルまたは錠剤などの固体製剤の方が液体製剤より好まれるのが普通である。しかしながら薬剤の経口固体製剤は一般に、その薬剤の経口液剤より生物学的利用能が低い。好適な固体製剤開発の一つの目的は、薬剤の経口水溶液製剤によって示される理想的な生物学的利用能にできるだけ近い薬剤の生物学的利用能を得ることにある。
【0004】
別の製剤は固体分散剤である。固体分散剤という用語は、溶融(または融解)法、溶媒法または溶融−溶媒法によって製造される固体状態での不活性な担体または基剤中における1以上の有効成分の分散体を指す(Chiou and Riegelman, Journal of Pharmaceutical Sciences, 60, 1281 (1971))。物理的混合による固体希釈剤中での薬剤または複数薬剤の分散剤は、このカテゴリーには含まれない。固体分散剤は、固体状態分散剤とも称することができる。
【0005】
レトロウィルスプロテアーゼ阻害性化合物は、in vitroおよびin vivoでHIVプロテアーゼを阻害する上で有用であり、HIV(ヒト免疫不全ウィルス)感染の阻害およびAIDS(後天性免疫不全症候群)の治療において有用である。HIVプロテアーゼ阻害性化合物は代表的には、経口での生物学的利用能が低いという特徴を有する。HIVプロテアーゼ阻害性化合物の例としては、
(2S,3S,5S)−5−(N−(N−((N−メチル−N−((2−イソプロピル−4−チアゾリル)メチル)アミノ)カルボニル)L−バリニル)アミノ−2−(N−((5−チアゾリル)メトキシ−カルボニル)−アミノ)−アミノ−1,6−ジフェニル−3−ヒドロキシヘキサン(リトナビル(ritonavir));
(2S,3S,5S)−2−(2,6−ジメチルフェノキシアセチル)アミノ−3−ヒドロキシ−5−[2S−(1−テトラヒドロ−ピリミド−2−オンイル)−3−メチルブタノイル]−アミノ−1,6−ジフェニルヘキサン(ABT−378);
N−(2(R)−ヒドロキシ−1(S)−インダニル)−2(R)−フェニルメチル−4(S)−ヒドロキシ−5−(1−(4−(3−ピリジルメチル)−2(S)−N’−(t−ブチルカルボキシアミド)−ピペラジニル))−ペンタンアミド(インジナビル(indinavir));
N−tert−ブチル−デカヒドロ−2−[2(R)−ヒドロキシ−4−フェニル−3(S)−[[N−(2−キノリルカルボニル)−L−アスパラギニル]アミノ]ブチル]−(4aS,8aS)−イソキノリン−3(S)−カルボキシアミド(サクイナビル(saquinavir));
5(S)−Boc−アミノ−4(S)−ヒドロキシ−6−フェニル−2(R)−フェニルメチルヘキサノイル−(L)−Val−(L)−Phe−モルホリン−4−イルアミド;
1−ナフトキシアセチル−β−メチルチオ−Ala−(2S,3S)−3−アミノ−2−ヒドロキシ−4−ブタノイル1,3−チアゾリジン−4−t−ブチルアミド;
5−イソキノリノキシアセチル−β−メチルチオ−Ala−(2S,3S)−3−アミノ−2−ヒドロキシ−4−ブタノイル−1,3−チアゾリジン−4−t−ブチルアミド;
[1S−[1R−(R−),2S
*])−N
1[3−[[[(1,1−ジメチルエチル)アミノ]カルボニル](2−メチルプロピル)アミノ]−2−ヒドロキシ−1−(フェニルメチル)プロピル]−2−[(2−キノリニルカルボニル)アミノ]−ブタンジアミド;
VX−478;DMP−323;DMP−450;AG1343(ネルフィナビル(nelfinavir));BMS186318;SC−55389a;BILa1096BS;およびU−140690またはこれらの組合せなどがある。
【0006】
一部の薬剤は有機溶媒中で良好な溶解度を有することが期待されると考えられるが、そのような溶液の経口投与がその薬剤の良好な生物学的利用能を与えるとは必ずしも言えないと考えられる。
【0007】
ポリエチレングリコール(PEG)固体分散剤製剤は一般に、多くの化合物の溶解および生物学的利用能を向上させることが知られている。しかしながらアウングストら(Aungst et al.)は最近、それによっては、DMP323と称される環状尿素構造骨格を有するHIVプロテアーゼ阻害薬の生物学的利用能を改善することができなかったことを示している(Aungst et al., International Journal of Pharmaceutics, 156, 79 (1997))。
【0008】
さらに一部の薬剤は、溶液の状態とすると、製剤時に問題となり得る結晶を形成する傾向がある。
【0009】
ポリビニルピロリドン(PVP)は、薬剤の結晶化を阻害することが知られている(Yohioka, M. et al., J. Pharm. Sci., 84, 983, 1995)。しかしながら本発明以前では、ポリエチレングリコールなどの第2のポリマー基材中にPVPを組み込む技術は確立されていなかった。
【0010】
米国特許4610875号には、PVPを含む安定な医薬ジピリダモール組成物の製造方法が記載されている。
【0011】
米国特許4769236号には、PVPを含む消化管中での溶解速度が高い安定な医薬組成物の製造方法が記載されており、その方法において医薬品はヒドロフルメチアジド、ジピリダモール、ヒドロクロロチアジド、シクロチアジド、シクロペンチアジド、ポリチアジド、メチルドーパ、スピロノラクトン、キニジン、シアニドール(cyanidol)、メトロニダゾール、イブプロフェン、ナプロキセン、エリスロマイシン、グラフェニン(glaphenin)、フロセミド、スロクチジル、ニトロフラントイン、インドメタシン、フラボキサート、フェノバルビトール、シクランデラート、ケトプロフェン、ナトリドロフリル(natridrofuryl)またはトリアムテレンである。
【0012】
そこで、結晶化を起こさない安定な固体分散剤医薬製剤を提供することは、当業界に対して大きく貢献することになると考えられる。
【0013】
(発明の開示)
本発明は、医薬化合物;ポリエチレングリコール(PEG)などの水溶性担体;ならびにポリビニルピロリドン(PVP)またはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などの結晶化阻害剤を含む安定な固体分散剤医薬製剤を提供する。
【0014】
さらに本発明は、上記の安定な固体分散剤を、さらに別の医薬的に許容される担体、希釈剤または賦形剤とともに含む医薬組成物をも提供する。
【0015】
さらに本発明は、上記の安定な固体分散剤の製造方法をも提供する。
【0016】
本発明はさらに、治療を必要とする哺乳動物に対して、有効量の上記安定な固体分散剤を投与する段階を有する治療方法をも提供する。
【0017】
(図面の簡単な説明)
図1は、非晶質ABT−538がPEG単独内で分離し得ることを示すPXDパターンを示す図である。
図2は、非晶質ABT−538がPVP/PEGで分離し得ることを示すPXDパターンを示す図である。
図3は、PEG、ABT−538、それら2種類の物理的混合物および固体分散剤のDSC自記温度記録図を示す図である。分散剤中にABT−538の溶融がないことは、分散剤中に存在する非晶質ABT−538を示す上記のPXDデータを裏付けるものである。
図4は、PVP/PEG、ABT−538、それら2種類の物理的混合物および固体分散剤のDSC自記温度記録図を示す図である。分散剤中にABT−538の溶融がないことは、分散剤中に存在する非晶質ABT−538を示す上記のPXDデータを裏付けるものである。
図5は、非晶質リトナビルの結晶化速度に対するPEGまたはPVPの効果を示す図である。融解熱を用いて結晶化パーセントを計算した。PVP存在下では、結晶化速度は相対的に遅い。
図6は、PVPを用いた結晶化の阻害を示す図である。
図7は、50℃で保存したPVPを用いた場合およびそれを用いない場合のABT−538分散剤のPXDパターンを示す図である。このデータは、保存時の非晶質ABT−538の物理的安定性が改善されたことを示している。
図8は、PVPを用いた場合およびそれを用いない場合のフェノフィブレート分散剤のPXDパターンを示す図である。
図9は、PVPおよびPEGを用いた場合およびそれを用いない場合のフェノフィブレート分散剤のPXDパターンを示す図である。
図10は、PEGを用いた場合およびそれを用いない場合のフェノフィブレート分散剤のPXDパターンを示す図である。
図11は、10%PVPおよびPEGを用いた場合およびそれを用いない場合のフェノフィブレート分散剤のPXDパターンを示す図である。
図12は、PEGを用いた場合およびそれを用いない場合のグリセオフルビン分散剤のPXDパターンを示す図である。
図13は、PEGおよびPVPを用いた場合およびそれを用いない場合のグリセオフルビン分散剤のPXDパターンを示す図である。
図14は、PEGを用いた場合およびそれを用いない場合のグリセオフルビン分散剤のPXDパターンを示す図である。
図15は、PEGおよびPVPを用いた場合およびそれを用いない場合のグリセオフルビン分散剤のPXDパターンを示す図である。
【0018】
(発明を実施するための最良の形態)
本発明は、結晶化性を示さない医薬品用の固体分散剤系の製造に関するものである。
【0019】
本発明には、低い水溶解度を示す医薬品の親水性基質中での分散が関与する。そのような製剤の意図は、水溶解特性を改善し、最終的には生物学的利用能の改善を達成することにある。代表的にはそのような系の意図は、前記基質内で非晶質(高エネルギー)薬剤の分散剤を形成することにある。高エネルギーの薬剤形態が存在することで、溶解速度が改善される。しかしながら、その系は物理的に安定な場合が少ない。その薬剤は経時的に結晶化して、所望の特性の喪失および貯蔵寿命の短縮を生じる場合がある。本発明は、そのような製剤の物理的安定性を促進することで、その種類の製剤をさらに使用可能性の高いものとする。
【0020】
本発明においては、親水性基質としてPEG
8000を用いている。この製剤ではポリビニルピロリドン(PVP)も用いているが、これは親水性の非晶質ポリマーの例であり、結晶化を阻害するのに使用される。他の親水性の非晶質ポリマーには、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)その他の医薬的に許容される親水性の非晶質ポリマーなどがある。具体的にはPVP PF17をPEG基質内で使用して、対象薬剤の結晶化を阻害する。1%〜95%(重量基準)の範囲のPVPを用いることができ、好ましくは1%〜15%(重量基準)の範囲である。
【0021】
PVPをPEG基質中に組み込む利点は2点ある。第1に、PVPの加工はそれが吸湿性であることから困難な場合がある。第2に、PVPが溶解すると、固体−液体界面の粘稠層が形成される。この粘稠層が薬剤の溶解を妨害することができる。PVP添加の別の利点は、薬剤が入ることができるポリマー基質の非晶質容量が増加するという点である。ポリエチレングリコール類は結晶性が高い傾向を有することから、この非晶質容量の増加は、迅速な溶解にとっては重要であると考えられる。PVPにはさらにTgが高いという利点もあり、それによって移動性が低下することで非晶質領域が安定化される。従って本発明は、PVPの特定とともに分散剤にPEG特性の利点を与えるものである。
【0022】
HIVプロテアーゼ阻害化合物を含む固体(分子)分散剤は、HIVプロテアーゼ阻害化合物を十分な量の有機溶媒に溶解もしくは分散させ、次に分散液を好適な水溶性担体中に分散させることで製造することができる。好適な有機溶媒には、メタノール、エタノールその他の前記プロテアーゼ阻害薬が可溶である有機溶媒などの医薬的に許容される溶媒などがある。好適な水溶性担体には、ポリエチレングリコール(PEG)、プルロニクス(pluronics)、ペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール・テトラアセテート、ポリオキシエチレン・ステアレート類、ポリ−ε−カプロラクトンのようなポリマーなどがある。
【0023】
次に、有機溶媒(好ましくはエタノール)を留去して、溶融基質に分散/溶解した薬剤を残すことができ、それを冷却する。固体基質には、薬剤の溶解が維持されるような形で化合物が細かく分散されていることから(分子分散)、溶解速度に制限される吸収を示す薬剤の生物学的利用能が向上する。製造が容易である点も、この種の製剤の特徴である。有機溶媒を留去して固体団塊が得られると、その団塊を粉砕し、篩いにかけ、適宜に製剤して適切な投与系とすることができる。そうして水溶性の低い薬剤の溶解性を向上させることで、好適な担体中の薬剤を固体としてゼラチンカプセルに充填することができるか、あるいは基材を圧縮して錠剤とすることが可能である。
【0024】
本発明の投与系によって溶解度および生物学的利用能が高くなり、HIVプロテアーゼ阻害性化合物の溶解速度が向上する。
【0025】
他の医薬的に許容される賦形剤を製剤に加えてから、所望の最終製剤を形成することができる。好適な賦形剤には、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウムその他の医薬的に許容される充填剤、希釈剤、潤滑剤、崩壊剤など、カプセルまたは錠剤を製造する上で必要になると考えられるものなどがある。
【0026】
そうしてえられる医薬化合物を含む組成物は、直接経口投与用に調薬したり、経口投与用に適切な媒体中に希釈したり、カプセル充填したり、または経口投与用の錠剤としたり、あるいは当業者には明らかな何らかの他の手段によって投与することができる。その組成物を用いて、前記HIVプロテアーゼ阻害性化合物の経口での生物学的利用能および溶解度を高めることができる。
【0027】
前記医薬化合物の総1日用量は、例えば0.001〜1000mg/kg/日から、しかしより普通には0.1〜50mg/kg/日の量で単回投与または分割投与にてヒトに投与することができる。単位製剤組成物には、それの約数分として1日用量を構成するような量を含有させることができる。しかしながら、特定の患者についての具体的な用量レベルは、年齢、体重、全身の健康、性別、食事、投与の時刻、排泄速度、併用薬剤および治療対象となる特定の疾患の重度などの各種要素によって決まる。
【0028】
本発明の実施において用いることができるある種の医薬化合物はHIVプロテアーゼ阻害薬である。HIVプロテアーゼ阻害薬の例としては、ABT−538(リトナビル)であり、それの化学構造は式Iの化合物として以下に示してある。
【0030】
式Iの化合物は、一般名リトナビルである商品名ノルビル(Norvir;登録商標)にてアボット社(Abbott Laboratories)が市販しているHIVプロテアーゼ阻害薬である[(2S,3S,5S)−5−(N−(N−((N−メチル−N−((2−イソプロピル−4−チアゾリル)−メチル)アミノ)カルボニル)−L−バリニル)アミノ−2−(N−((5−チアゾリル)メトキシ−カルボニル)−アミノ)−1,6−ジフェニル−3−ヒドロキシヘキサン]。この化合物および他の化合物ならびにそれらの製造方法は、米国特許5648497号および5541206号に開示されており、それらの開示内容は引用によって本明細書に含まれるものとする。
【0031】
本発明の固体分散剤に製剤することができる別のHIVプロテアーゼ阻害薬には、下記式IIの化合物などがある。
【0033】
式IIの化合物はABT−378として知られる((2S,3S,5S)−2−(2,6−ジメチルフェノキシアセチル)−アミノ−3−ヒドロキシ−5−(2S−(1−テトラヒドロピリミド−2−オンイル)−3−メチルーブタノイル)アミノ−1,6−ジフェニルヘキサン)。この化合物および他の化合物ならびにそれらの製造方法は、米国特許5914332号に開示されており、その開示内容は引用によって本明細書に含まれるものとする。
【0034】
本発明の実施において用いることができる他の種類の医薬化合物には、抗菌剤、グリセオフルビンなどの抗真菌剤、化学療法剤、フェノイフィブレート(fenoifibrate)などの高脂血症治療用の薬剤などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するために提供されるものである。
【0036】
実施例
装置:
DSC
DSC測定はメトラー(Mettler)DSC30ユニットを用いて行った。サンプル(4〜7mg)を、蓋に穴が1個開けてある標準的な40μLアルミニウム製ルツボに封入した。同じ型の空のルツボを基準品として用いた。
【0037】
X線粉末回折分析
2kW標準評点X線管および液体窒素冷却ゲルマニウム固体状態検出器を搭載したシンタグ(Scintag;登録商標)XDS2000θ/θ回折システムを用いて、X線粉末回折(XPD)パターンを得た。
【0038】
等温熱量分析(TAM)
30%ABT−538のPEGまたはPEG:PVP(95:5)中での固体分散剤における再結晶反応を、40℃での等温熱量分析(サーモメトリック(Thermometric)2277熱量計)を用いてモニタリングした。結晶化は発熱プロセスであることから、電力出力が正であるということは結晶化を示す。いずれかの時点での電力出力の大きさは、結晶化速度に比例する。XPDを用いて結晶化の確認を行った。
【0039】
HPLC
全ての分散剤の力価および溶解サンプル濃度は、HPLCを用いて測定した。
【0040】
各分散系(薬剤とポリマー)における薬剤の結晶化速度に対するPVPの効果を適切な実験法によって調べた。その試験の結果を
図1〜15に示してある。
【0041】
特性の異なる3種類の医薬品を用いて、本発明の一般的利用可能性を示した。これらの化合物は以下の表1に示してある。
【0043】
実施例1
分散製剤
A.リトナビル(ABT−538)分散製剤:
250mL丸底フラスコ中、少量の200プルーフエタノールにABT−538を溶かすことでサンプルを調製した。フラスコを渦撹拌し、75℃に維持した水浴に入れた。PEGが溶融するまで連続的に振り混ぜながら、熱アルコール溶液にPEG8000を加えた。フラスコをロータリーエバポレータに取り付け、減圧下に15分間水浴(75℃)に入れておくことでエタノールを除去した。大半のエタノールを留去した後、フラスコを15分間にわたって氷浴に入れた。フラスコの内容物を室温で終夜真空乾燥して、残留アルコールを除去した。分散剤をフラスコから取り出し、軽く粉砕し、篩い分けして40〜100メッシュ径とした。これらの分散剤に用いた薬剤負荷量は10重量%、20重量%および30重量%であった。
【0044】
B.ABT−378分散剤製剤
250mL丸底フラスコ中、少量の200プルーフエタノールにABT−538およびPVP17PFを溶かすことで、95:5PEG8000:PVP中の30%ABT−538固体分散剤を調製した。以降の工程は上記と同様に行った。薬剤を含まないPEG8000中の10%または20%PVP17PFの分散剤と同様に、85:15PEG8000:PVP中の30%ABT−538固体分散剤も調製した。
【0045】
C.フェノフィブレート分散剤製剤
PEG8000中の15%フェノフィブレート
フェノフィブレートおよびPEG8000の両方を篩い分けして40〜100メッシュとしてから、スパーテルを用いて秤量紙上で混和した。次に、混合物を25mLビーカーに入れ、材料が全て溶融するまで水浴で85℃まで加熱した。溶融溶液を、冷却したX線サンプルホルダーに注ぎ込んで、溶液を急速に固化させた。ただちに固体サンプルを用いて、X線粉末回折を介して結晶化速度のモニタリングを行った。
【0046】
90:10PEG8000:PVP中の15%フェノフィブレート
フェノフィブレート(40〜100メッシュ)を、やはり篩いにかけて40〜100メッシュとした90:10PEG8000:PVP対照分散剤(上記参照)に加え、秤量紙1枚上でスパーテルを用いて混合した。混合物を、PEG8000中の15%フェノフィブレート分散剤について前述した方法で処理した。
【0047】
D.グリセオフルビン分散剤製剤
PEG8000中の15%グリセオフルビン
グリセオフルビンとPEG8000の両方を篩いにかけて40〜100メッシュとしてから、スパーテルを用いて秤量紙上で混和した。次に、得られたサンプルを4mLステンレス製容器に入れ、それをN
2雰囲気下に封止した。次に容器を180℃に維持した油浴に入れた。サンプルを時々振盪して、溶融内容物を混和した。5分後、容器を液体N
2浴に30分間入れた。容器内容物を取り出し、軽く粉砕し、篩いにかけて40〜100メッシュとした。
【0048】
80:20PEG8000:PVP中の15%グリセオフルビン
80:20PEG8000:PVP対照分散剤を用いて、PEG8000中の15%グリセオフルビンについて前述した方法と同様にして、標題分散剤を調製した。
【0049】
E.結果
ABT−538
図1には、ABT−538、加工PEG8000、これら2成分の混合物および30%固体分散剤のX線粉末回折(XPD)パターンを示してある。基質にPVPを組み込んだ場合についての同様のプロットを
図2に示してある。これらの図から、いずれの基質中でもABT−538が結晶化していないことがわかる。
図3には、ABT−538、PEG8000、30%物理的混合物および分散剤のDSC自記温度記録図を示してある。PEG:PVP分散剤についての同様のプロットが
図4にある。薬剤溶融に関連する吸熱は、他の成分から明瞭に識別することができる。従って、DSC測定を介してABT−538結晶化の反応速度を追跡することが可能である。結晶化の反応速度は、サンプルを85℃まで加熱し、所定の時間にわたってサンプルを等温状態に維持してから、ABT−538の溶融遷移温度を通過して加熱することで測定した。融解熱を測定し、物理的混合物での薬剤溶融の融解熱との比を求めることで、結晶化率を得た。等温(85℃)保持時間の関数としての結晶化率を
図5に示してある。この実験から、基質中にPVPが存在することで、ABT−538の結晶化速度が抑制されることが明らかである。
【0050】
等温熱量分析を用いたABT−538の結晶化に関連する熱を用いても、結晶化速度を追跡した。
図6における結晶化ピークの形状および大きさは、ABT−538がPEG:PVP基質と比較してPEG基質中での方が容易に結晶化することを示している。このPVPの安定化効果は、完全結晶化に要する時間(基底線に達するための時間)においても反映されており、PEGでは<10時間であったのに対してPEG:PVP(95:5)では>30時間であった。これらのデータは、前記のDSC結果を裏付けるものである。
【0051】
15%PVPを含む分散剤を用いて、別の試験を行った。サンプルを50℃(ABT−538のT
gより高い)に保持し、X線回折パターンを経時的に測定して、結晶ABT−538の出現をモニタリングした。
図7からは、PVP存在下では272時間後でも結晶ABT−538が存在しないが、PEG8000単独では、233時間(およびそれ以前。ただしデータは示していない)後に結晶薬剤が検出されることがわかる。
【0052】
フェノフィブレート
図8には、PEG8000、フェノフィブレート、15%物理混合物および15%フェノフィブレート固体分散剤のXPDパターンを示してある。図には、フェノフィブレートが基質内でX線非晶質であることを示している。90:10PEG8000:PVP基質中の15%フェノフィブレート分散剤についてのXPDパターンでの同様のプロットを
図9に示してある。やはりフェノフィブレートは非晶質である。25℃で保存すると、フェノフィブレートは1時間以内にPEG8000基質で結晶化し始める(
図10)。実験を終了した12時間までさらに結晶化があった。PVPが存在すると(
図11)、実験の時間枠ではフェノフィブレートは結晶化しない。これは明らかに、PEG8000基質中での結晶化に対するPVPの阻害効果を示している。
【0053】
グリセオフルビン
PEG8000基質中および80:20PEG8000:PVP基質中のグリセオフルビン分散剤についての同様のXPDパターンをそれぞれ
図12および13に示してある。いずれの場合も、個々の基質中で非晶質グリセロフルビンが分離している。結晶化実験のXPD速度は、25℃で1時間後に、グリセオフルビンが結晶化を始めることを示している(
図14)。しかしながら、PVP存在下(
図15)では、同条件下で15時間後であっても結晶化は認められない。これもやはり、PEG基質中での非晶質薬剤結晶化に対するPVPの効果を示すものである。
【0054】
E.結論
示されたデータから、PEG8000などの親水性基質中に組み込まれたPVPが、各種物理化学的性質を有する医薬分子の結晶化を阻害することが明らかである。そこで本発明は、高エネルギー非晶質(非結晶)型の薬剤が望まれる製品化可能な固体分散剤製剤の開発において広い用途を有するものである。
【0055】
実施例2
溶融PEG8000中での分散剤の安定性
70℃で溶融状態のPEG8000中でのABT−538の分散剤の安定性を調べた。それぞれ約5mg量の分散剤(室温で6週間経過させたもの)を4mLガラス製バイアルに入れた。開始時点を除き、これらのバイアルを70℃の乾燥機に入れ、所定の時間間隔でサンプリングを行い、氷水で冷却し、HPLC分析まで冷凍庫に入れた。サンプルを全て回収した後、それについてHPLCでABT−538含有量を分析した。HPLCシステムは、日立AS4000オートサンプラー、SP8800三元(ternary)ポンプ、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)783検出器およびPEネルソン(PE Nelson)データ取得システムから構成されていた。他のクロマトグラフィーの詳細には、レジス・リトル・チャンプ(Regis Little Champ)5cm C−18カラム、10mM過塩素酸テトラメチルアンモニウム(TMAP)/アセトニトリル/メタノール(55/40/5)水溶液中の0.1%トリフルオロ酢酸水溶液からなる移動層などがあった。流量は1mL/分であり、検出波長は205nmであり、注入容量は100μLであった。ABT−538のピーク面積の標準曲線と対象範囲での濃度との関係を、実験的に得られた面積カウントと比較した。
【0056】
実施例3
経口生物学的利用能試験のプロトコール
イヌ(ビーグル犬、両性、体重7〜14kg)を投与に先だって絶食させる。ただし、水は自由に摂取させる。投与の約30分前に、各イヌに対して100μg/kgのヒスタミンの皮下投与を行う。各イヌには、5mg/kgの薬剤用量に相当する単一固体製剤を投与する。投与後には、水約10mLを投与する。投与前ならびに薬剤投与から0.25時間、0.5時間、1.0時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、10時間および12時間に、各動物からの採血を行う。遠心によって赤血球から血漿を分離し、分析まで冷凍する(−30℃)。血漿サンプルの液−液抽出後の低波長UV検出を用いた逆相HPLCによって、親薬剤の濃度を求める。時間曲線下の親薬剤面積を、試験経過時間にわたる台形法によって計算する。単一静脈投与から得られるものと経口投与後の曲線下面積とを比較することで、各試験組成物の絶対的な生物学的利用能を計算する。各カプセルまたはカプセル組成物を、6匹以上のイヌがいる群で評価する。報告の値は各イヌ群についての平均である。
【図面の簡単な説明】
【
図1】 非晶質ABT−538がPEG単独内で分離し得ることを示すPXDパターンを示す図である。
【
図2】 非晶質ABT−538がPVP/PEGで分離し得ることを示すPXDパターンを示す図である。
【
図3】 PEG、ABT−538、それら2種類の物理的混合物および固体分散剤のDSC自記温度記録図を示す図である。
【
図4】 PVP/PEG、ABT−538、それら2種類の物理的混合物および固体分散剤のDSC自記温度記録図を示す図である。
【
図5】 非晶質リトナビルの結晶化速度に対するPEGまたはPVPの効果を示す図である。
【
図6】 PVPを用いた結晶化の阻害を示す図である。
【
図7】 50℃で保存したPVPを用いた場合およびそれを用いない場合のABT−538分散剤のPXDパターンを示す図である。
【
図8】 PVPを用いた場合およびそれを用いない場合のフェノフィブレート分散剤のPXDパターンを示す図である。
【
図9】 PVPおよびPEGを用いた場合およびそれを用いない場合のフェノフィブレート分散剤のPXDパターンを示す図である。
【
図10】 PEGを用いた場合およびそれを用いない場合のフェノフィブレート分散剤のPXDパターンを示す図である。
【
図11】 10%PVPおよびPEGを用いた場合およびそれを用いない場合のフェノフィブレート分散剤のPXDパターンを示す図である。
【
図12】 PEGを用いた場合およびそれを用いない場合のグリセオフルビン分散剤のPXDパターンを示す図である。
【
図13】 PEGおよびPVPを用いた場合およびそれを用いない場合のグリセオフルビン分散剤のPXDパターンを示す図である。
【
図14】 PEGを用いた場合およびそれを用いない場合のグリセオフルビン分散剤のPXDパターンを示す図である。
【
図15】 PEGおよびPVPを用いた場合およびそれを用いない場合のグリセオフルビン分散剤のPXDパターンを示す図である。