(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767447
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】Cu、In、GaおよびSeの元素を含有する粉末の製造方法、及びCu、In、GaおよびSeの元素を含有するスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
C01B 19/00 20060101AFI20150730BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20150730BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20150730BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20150730BHJP
C22C 9/00 20060101ALN20150730BHJP
C22C 28/00 20060101ALN20150730BHJP
【FI】
C01B19/00 Z
C23C14/34 A
B22F9/08 A
B22F1/00 L
B22F1/00 R
!C22C9/00
!C22C28/00 B
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-147618(P2010-147618)
(22)【出願日】2010年6月29日
(65)【公開番号】特開2012-12229(P2012-12229A)
(43)【公開日】2012年1月19日
【審査請求日】2012年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000130259
【氏名又は名称】株式会社コベルコ科研
(73)【特許権者】
【識別番号】592216384
【氏名又は名称】兵庫県
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(74)【代理人】
【識別番号】100125173
【弁理士】
【氏名又は名称】竹岡 明美
(72)【発明者】
【氏名】得平 雅也
(72)【発明者】
【氏名】南部 旭
(72)【発明者】
【氏名】柏井 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】福住 正文
【審査官】
壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−135495(JP,A)
【文献】
特開2008−163367(JP,A)
【文献】
特開2009−287092(JP,A)
【文献】
菊地麻樹他,太陽電池向け薄膜用化合物,電子材料,日本,2010年 6月25日,7月号別冊,p.32-36,http://www.kojundo.co.jp/Japanese/Development/pdf/denshi_1007.pdf
【文献】
N. BENSLIM et al.,XRD and TEM characterizations of the mechanically alloyed CuIn0.5Ga0.5Se2 powders,J. Alloy. Compd.,2010年 1月21日,Vol.489, No.2,p.437-440
【文献】
海野貴洋他,化合物半導体の製造技術とデバイスへの応用 材料編化合物太陽電池用スパッタターゲット,電子材料,日本,株式会社工業調査会,2009年11月 1日,Vol.48, No.11,p.42-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00−99/00
C01B 13/00−13/36
C04B 35/00−35/84
C23C 14/00−14/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu、In、GaおよびSeの元素を含有する粉末の製造方法であって、
(1)InおよびGaを含有するCu基合金の溶湯をアトマイズして、In、GaおよびCuの元素を含有する粉末を得る第一の工程と、
(2)前記In、GaおよびCuの元素を含有する粉末に、Se粉末を混合し、混合粉末を得る第二の工程と、
(3)前記混合粉末を500℃以上、1000℃以下で10〜240分間熱処理し、Cu−In−Ga−Se系化合物および/またはCu−In−Se系化合物を含有する反応物を得る第三の工程と、
(4)前記第三の工程で得られた反応物を粉砕して、Cu、In、GaおよびSeの元素を含有し、Cu−In−Ga−Se系化合物および/またはCu−In−Se系化合物を、合計で60質量%以上含有する粉末を得る第四の工程
とを包含することを特徴とする粉末の製造方法。
【請求項2】
前記第四の工程で得られる粉末がIn−Se系化合物を20質量%以下および/またはCu−In系化合物を20質量%以下含有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第四の工程で得られる粉末中のCu、In、GaおよびSeの合計量を100原子%とするとき、
Cu:20原子%以上、30原子%以下、
In:10原子%以上、25原子%以下、
Ga:0.1原子%以上、15原子%以下、
Se:40原子%以上、60原子%以下
である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記Se粉末の平均粒径が0.1〜10μmである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
Cu、In、GaおよびSeの元素を含有するスパッタリングターゲットであって、
Cu−In−Ga−Se系化合物およびCu−In−Se系化合物を、合計で60質量%以上含有し、
前記スパッタリングターゲットの表面において、0.24mm×0.24mmの範囲のEPMAマッピング分析で、In含有量が36質量%以上であるIn系化合物の面積率が10%以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項6】
In−Se系化合物を20質量%以下および/またはCu−In系化合物を20質量%以下含有する請求項5に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
相対密度が90%以上である請求項5または6に記載のスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の光吸収層を形成するために好適に用いられるCu、In、GaおよびSeの元素を含有する粉末、焼結体、およびスパッタリングターゲット、並びにCu、In、GaおよびSeの元素を含有する粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CIGS系薄膜太陽電池の光吸収層の形成には、従来、スパッタリングにより形成されたCu−Ga膜およびIn膜を積層し、得られた積層膜についてSeを含有するガス雰囲気中で熱処理してCu−In−Ga−Se系化合物膜を形成する方法が用いられていた(例えば、特許文献1)。しかし、このような成膜方法では、Cu−Ga二元系合金およびInのそれぞれの成膜用チャンバーとスパッタリングターゲット材が必要であり、更にSe雰囲気中で熱処理を行うために熱処理炉も必要であり、製造コストが高いものであった。
【0003】
そこで、Cu−In−Ga−Se系化合物膜を効率的に成膜するため、Cu−In−Ga−Se系化合物粉末を用いた印刷法や、Cu−In−Ga−Se系化合物を用いた蒸着法、またCu−In−Ga−Se系化合物スパッタリングターゲット材を用いたスパッタリング法の開発が行われている。しかし、通常の粉末焼結法(例えばCu、In、GaおよびSeのそれぞれの粉末を用意し、焼結する方法)や、溶解鋳造法でCu−In−Ga−Se系化合物を作製しようとすると、Inの溶解と同時にSeと激しく反応し、爆発が起こるという危険があった。このような危険を回避するため、例えば特許文献2では、SeにCuを投入してCu−Se二元系合金溶湯を作製し、このCu−Se二元系合金溶湯にInを投入してCu−Se−In三元系化合物溶湯を作製し、得られたCu−Se−In三元系化合物溶湯にGaを投入してCu−In−Ga−Se四元系化合物溶湯を作製する方法が開示されている。しかしこの方法でも、Cu−Se二元系合金溶湯にSeが単体で残存すると、Inと激しく反応するなど、爆発の可能性があり、安全性や安定性の面で改善の余地がある。また、例えば特許文献3では、Cu−Se二元系合金粉末、Cu−In二元系合金粉末、Cu−Ga二元系合金粉末、Cu−In−Ga三元系合金粉末を用意し、これらを混合してホットプレスすることによってホットプレス体を作製する方法が開示されている。この方法は、混合粉末をホットプレスすることによって化合物化と焼結を同時に行う方法であるため、化合物化の際にチャンバー内にガスが発生することを考慮するとホットプレスの温度をあまり上げることができず(例えば140℃程度)、その結果、得られたホットプレス体の相対密度を上げることができず機械的強度が不十分なものとなるか、ホットプレス中またはホットプレス後の加工時に割れが起こる可能性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3249408号公報
【特許文献2】特開2008−163367号公報
【特許文献3】特開2009−287092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、爆発等の危険を伴うことなく、CIGS系薄膜を成膜するのに好適なCu、In、GaおよびSeの元素を含有する粉末およびその製造方法を提供するとともに、焼結時や加工時に割れの発生しないCu、In、GaおよびSeの元素を含有する粉末、およびこれを用いた焼結体およびスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成した本発明は、Cu、In、GaおよびSeの元素を含有する粉末であって、Cu−In−Ga−Se系化合物および/またはCu−In−Se系化合物を、合計で60質量%以上含有することを特徴とする粉末であり、In−Se系化合物を20質量%以下および/またはCu−In系化合物を20質量%以下含有していても良い。前記粉末中のCu、In、GaおよびSeの合計量を100原子%とするとき、Cu:20原子%以上、30原子%以下、In:10原子%以上、25原子%以下、Ga:0.1原子%以上、15原子%以下、Se:40原子%以上、60原子%以下であることが好ましい。
【0007】
また、本発明は上記に記載のいずれかの粉末の製造方法であって、(1)InおよびGaを含有するCu基合金の溶湯をアトマイズして、In、GaおよびCuの元素を含有する粉末を得る第一の工程と、(2)前記In、GaおよびCuの元素を含有する粉末に、Se粉末を混合し、混合粉末を得る第二の工程と、(3)前記混合粉末を熱処理し、Cu−In−Ga−Se系化合物および/またはCu−In−Se系化合物を含有する反応物を得る第三の工程と、(4)前記第三の工程で得られた反応物を粉砕して、Cu、In、GaおよびSeの元素を含有する粉末を得る第四の工程とを包含する粉末の製造方法も提供する。前記Se粉末の平均粒径が0.1〜10μmであること、また前記第三の工程における熱処理温度が500℃以上、1000℃以下であることも好ましい。
【0008】
さらに本発明は、(i)Cu、In、GaおよびSeの元素を含有する焼結体であって、Cu−In−Ga−Se系化合物および/またはCu−In−Se系化合物を、合計で60質量%以上含有することを特徴とする焼結体、および(ii)Cu、In、GaおよびSeの元素を含有するスパッタリングターゲットであって、Cu−In−Ga−Se系化合物および/またはCu−In−Se系化合物を、合計で60質量%以上含有することを特徴とするスパッタリングターゲットも包含する。前記焼結体およびスパッタリングターゲットにおいて、In−Se系化合物を20質量%以下および/またはCu−In系化合物を20質量%以下含有することも好ましい。また前記スパッタリングターゲットの表面において、0.24mm×0.24mmの範囲のEPMAマッピング分析で、In含有量が36質量%以上であるIn系化合物の面積率が10%以下であることが好ましく、またスパッタリングターゲットの相対密度は90%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、Cu、In、GaおよびSeの元素を含有する粉末を、爆発等の危険を伴うことなく製造することができる。また本発明の粉末は、粉末に含有される化合物相が適切に調整されているため、該粉末を用いた焼結体およびスパッタリングターゲットは、焼結時や加工途中での割れを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、後記する実施例(実験例1)のCu−In−Ga−Se系粉末のX線回折結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、後記する実施例(実験例1)のCu−In−Ga−Se系スパッタリングターゲットのEMPAマッピング分析結果を示す図である。
【
図3】
図3は、後記する実施例(実験例6)のCu−In−Ga−Se系粉末のX線回折結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、InとSeの発熱反応による爆発を起こさせることなくCu、In、GaおよびSeを含有する粉末を作製するべく検討を重ねた。その結果、Cu、InおよびGaの元素を含有する三元系粉末(以下、「Cu−In−Ga系粉末」と呼ぶ)をアトマイズ法によって予め作製して粉末内にIn相を取りこみ、このCu−In−Ga系粉末とSe粉末を熱処理すれば、InとSeの接触面積を減らすことができ、直接接触による急激な発熱反応を抑制して徐々に反応させることができる結果、安全にCu、In、GaおよびSeの元素を含有する反応物を得ることができ、これを粉砕することでCu、In、GaおよびSeを含有する粉末が得られることが明らかとなった。また、本発明の製造方法によって得られた粉末は、焼結時や加工途中の割れを低減できることが判明した。以下、本発明の製造方法および粉末について順に説明する。
【0012】
本発明の製造方法は以下の四つの工程を包含する。
【0013】
第一工程
第一工程では、InおよびGaを含有するCu基合金(InおよびGaを含有し、残部がCu及び不可避不純物である合金)をその融点以上に加熱(およそ900〜1200℃)して溶湯とし、この溶湯をノズルから流下させ、その周囲からガス(例えば窒素などの不活性ガス)を溶湯に吹き付けて微粒化させるアトマイズを行う。このようにガスアトマイズすることで、半溶融状態→半凝固状態→固相状態に急冷されたCu−In−Ga系粉末を得ることができる。第一工程で得られたCu−In−Ga系粉末の平均粒子径(得られた全微粒子の球相当直径のメディアン径)は、200μm以下とすれば粉末内の結晶組織を微細化することができ、その結果、スパッタリングターゲットの平均結晶粒径をより小さくして強度を向上させることができるので好ましい。さらに、続く第二工程でSe粉末との混合むらを低減し、また最終的に得られるCu、In、GaおよびSeの元素を含有する粉末(以下、「Cu−In−Ga−Se系粉末」と呼ぶ。)を構成する化合物相を所望の化合物相に調整するためには、Cu−In−Ga系粉末の平均粒子径は1〜50μmとするのがより好ましい。そのために、アトマイズ粉を粉砕するか、もしくはふるいにかけるなどして粒径を上記範囲(1〜50μm)になるように細かくするのが好ましい。Cu−In−Ga系粉末の平均粒子径を前記したように200μm以下とするためには、例えば前記Cu基合金の溶解温度を900℃程度、ガス圧を50kg/cm
2程度、ノズル径をφ2.0mm程度に適宜調整すれば良い。前記Cu−In−Ga系粉末は、Cu−In−Ga化合物を含有する他、In単体を含有している。また、Cu−In−Ga系粉末の組成が、例えばCuとInとGaの合計量に対してCu:40〜60原子%、In:30〜50原子%、Ga:0.2〜20原子%となるように、Cu基合金の組成を適宜調整すれば良い。
【0014】
第二工程
第二工程では、第一工程で得られた前記Cu−In−Ga系粉末と、Se系粉末を混合して混合粉末を得る。Se系粉末の混合比率は、Cu−In−Ga系粉末中のCu、In、Gaの元素の合計量に対して、原子比で同量以上の割合とすることが好ましく、最終的に得られるCu−In−Ga−Se系粉末の組成が後述するものとなるように適宜調整すれば良い。前記Se系粉末は、Cu−In−Ga系粉末との混合むらを低減し、また最終的に得られるCu−In−Ga−Se系粉末を構成する化合物相を所望の化合物相に調整するため、0.1〜10μmとすることが好ましく、より好ましくは0.1〜5μmである。第二工程で用いる混合機は、混合むらが少ないものが好ましく、例えばV型混合機を用いることができる。混合時間は通常15分〜2時間である。
【0015】
第三工程
第三工程では、前記第二工程で得られた混合粉末を熱処理して反応させ、Cu−In−Ga−Se系化合物および/またはCu−In−Se系化合物を含有する反応物(以下、「Cu−In−Ga−Se系反応物」と呼ぶ。)を得る。熱処理は例えば電気管状炉を用いて、Arなどの不活性ガス雰囲気下で行うことができる。熱処理のヒートパターンは、400℃以下の温度で30分以上保持した後、昇温速度0.1〜5℃/minで500〜1000℃まで昇温して該温度範囲で10〜240分間保持(以下では、500〜1000℃の範囲での保持温度を「熱処理温度」と呼ぶ)するのが好ましい。このようなヒートパターンで熱処理することによって、特に熱処理温度を500〜1000℃とすることによって所望の化合物相を有するCu−In−Ga−Se系粉末を得ることができるので好ましい。熱処理温度は700℃以上がより好ましく、更に好ましくは800℃以上(特に900℃以上)である。また、上記熱処理温度の調整に加えて、400℃以下の温度での保持を1時間以上とすれば、Cu−In−Ga−Se系反応物中に占めるCu−In−Ga−Se系化合物の比率を大きくすることができ、その結果、前記反応物を粉砕して得られるCu−In−Ga−Se系粉末中に占めるCu−In−Ga−Se系化合物および/またはCu−In−Se系化合物の合計量を増大できるので好ましい。
【0016】
第四工程
第四工程では、前記第三工程で得られたCu−In−Ga−Se系反応物を粉砕してCu−In−Ga−Se系粉末を得る。粉砕には、例えばボールミルを用いることができ、30分〜5時間程度粉砕することで、500μm以下のCu−In−Ga−Se系粉末を得ることができる。Cu−In−Ga−Se系粉末の平均粒径は、焼結体の相対密度を向上させる観点から、下限値は特に限定されず、細かいほど良い。
【0017】
次に、上記製造工程によって得られた本発明のCu−In−Ga−Se系粉末について説明する。
【0018】
本発明のCu−In−Ga−Se系粉末は、Cu−In−Ga−Se系化合物(四元系化合物)および/またはCu−In−Se系化合物(三元系化合物)を、合計で60質量%以上含有する。よって、前記四元系化合物および/または三元系化合物の内訳は、四元系化合物のみから構成されていても良いし、三元系化合物をさらに含んでいても良いし、或いは三元系化合物のみから構成されていても良い。Cu−In−Ga−Se系化合物およびCu−In−Se系化合物は、融点が高い化合物であり(およそ950〜1050℃程度)、粉末中にこれらの化合物を60質量%以上含有させることによって、焼結時の溶け出しを抑制することができ、割れの発生しにくい焼結体およびスパッタリングターゲットを作製することができる。これら化合物の合計量は、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上(特に98質量%以上)である。Cu−In−Se系化合物としては、例えばCuInSe
2、Cu
3In
5Se
9などが挙げられ、Cu−In−Ga−Se系化合物としては、前記Cu−In−Se三元系化合物のInをGaで一部置換した化合物、例えばCu(In
1−xGa
x)Se
2(但し、0<x<1)が挙げられる。
【0019】
本発明のCu−In−Ga−Se系粉末は、In−Se系化合物を20質量%以下および/またはCu−In系化合物を20質量%以下(いずれも二元系化合物)含有していても良い。In−Se系化合物および/またはCu−In系化合物を含有させ、Cu−In−Ga−Se系化合物および/またはCu−In−Se系化合物との混合組織とすることによって、更に焼結性を向上させることができる。このような効果を有効に発揮させるため、In−Se系化合物およびCu−In系化合物はいずれも1質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは5質量%以上である。一方、これら化合物を過剰に含有すると却って焼結性が悪くなる。そこでIn−Se系化合物およびCu−In系化合物はいずれも20質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。In−Se系化合物としては、InSe、In
2Se
3、In
6Se
7などが挙げられ、またCu−In系化合物としてはCu
2In、Cu
4In、Cu
16In
9などが挙げられる。
【0020】
本発明のCu−In−Ga−Se系粉末を、上記したような所望の化合物相を含有するようにし、また該粉末から得られる太陽電池薄膜の性能を確保するためには、粉末中のCu、In、Ga、Seの含有量を調整することが好ましい。すなわち、粉末中のCu、In、Ga、Seの元素の合計量を100原子%とするとき、それぞれの元素の含有量は、Cu:20原子%以上、30原子%以下、In:10原子%以上、25原子%以下、Ga:0.1原子%以上、15原子%以下、Se:40原子%以上、60原子%以下とすることが好ましい。上記Cu、In、GaおよびSeの含有量は、それぞれCu:23〜27原子%、In:18〜22原子%、Ga:3〜7原子%、Se:45〜55原子%とすることがより好ましい。
【0021】
本発明のCu−In−Ga−Se系粉末は、上記した化合物の他、二元系化合物としては例えばCu−Ga化合物、Cu−Se化合物を含んでいても良い。また、Cu、In、GaまたはSeの単体を含有していてもよいが、焼結性を向上させる観点からは特に低融点のIn、GaおよびSeは単体で含有しないことが好ましい。
【0022】
上記した本発明のCu−In−Ga−Se系粉末を焼結することによって、Cu、In、GaおよびSeの元素を含有する焼結体(以下では、「Cu−In−Ga−Se系焼結体」と呼ぶ。)を得ることができ、さらにCu−In−Ga−Se系焼結体を機械加工することによって、本発明のCu、In、GaおよびSeを含有するスパッタリングターゲット(以下、「Cu−In−Ga−Se系スパッタリングターゲット」と呼ぶ。)を得ることができる。機械加工方法は、スパッタリングターゲットの作製に通常用いられる方法を適用することができる。焼結方法は、公知の方法を採用することができ、例えばホットプレス法を用いることができる。ホットプレス条件は例えば10MPa以上の圧力下、400〜600℃の温度で15分〜2時間とすれば良い。
【0023】
このようにして得られた本発明のCu−In−Ga−Se系焼結体およびCu−In−Ga−Se系スパッタリングターゲットは、上記したCu−In−Ga−Se系粉末と、化合物の種類およびその含有量について同様である。なぜなら、本発明の焼結体およびスパッタリングターゲットは、上記した通り好ましくは400〜600℃の温度で焼結され、このような温度範囲での焼結では、化合物の種類と含有量にはほとんど影響がないからである。従って、本発明の粉末において化合物の種類と含有量を測定しておけば、焼結体およびスパッタリングターゲットの化合物の種類と含有量は粉末の測定結果をそのまま採用して良い。つまり、本発明の焼結体およびスパッタリングターゲットは、Cu−In−Ga−Se系化合物および/またはCu−In−Se系化合物を、合計で60質量%以上含有している。また、前記焼結体およびスパッタリングターゲットはいずれも、In
−Se系化合物を20質量%以下および/またはCu
−In系化合物を20質量%以下含有していることが好ましい。これら化合物の好ましい含有量は、上記した粉末の場合と同様である。
【0024】
また、本発明のCu−In−Ga−Se系スパッタリングターゲットは、その表面の0.24mm×0.24mmの範囲をEPMAマッピング分析したときに、In含有量が36質量%以上であるIn系化合物の面積率が10%以下であることが好ましい。EPMAマッピング分析は、偏析のマクロ観を把握できると共に、結果を数値化できる利点がある。前記In系化合物とは、少なくともInを含有する化合物を意味し、In単体は含まない。具体的には、Cu、GaおよびSeのうちの少なくとも1種とInとの化合物を意味する。In含有量を36質量%以上に多く含有するIn系化合物は、焼結時の割れと密接に関係しており、前記In系化合物が過剰に存在するものは、焼結性が悪いものであり、焼結時や加工時の割れの原因となる。そこで、In含有量が36質量%以上であるIn系化合物の面積率は10%以下とすることが好ましく、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0025】
さらに、本発明のスパッタリングターゲットは相対密度が90%以上であることが好ましい。相対密度を90%以上とすることによって、スパッタリングターゲットの強度をより高めることが可能であり、焼結時や加工時の割れを抑制することができる。スパッタリングターゲットの相対密度は、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは98%以上であり、熱処理温度を高めにすることにより(より好ましくは700℃以上、さらに好ましくは800℃以上、特に900℃以上)ホットプレス時の溶け出しを少なくすることができ、ホットプレス温度を高くすることもできる。その結果、相対密度を向上させることができる。相対密度は、後記する実施例で説明する通り、アルキメデス法によって測定される密度である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0027】
実験例1
Inが40原子%、Gaが10原子%、残部がCu及び不可避不純物であるCu−In−Ga合金溶湯を、誘導溶解炉で1000℃に加熱した後、この溶湯を誘導溶解炉の下部に設けたノズルから流出させ、流出した溶湯に窒素ガスを吹き付けることによってガスアトマイズを行い、Cu−In−Ga系粉末を作製し、粉砕を行った。このとき、Cu−In−Ga系粉末の平均粒子径は45μmであった。また、Cu−In−Ga系粉末は、Cu−In−Ga化合物相、In相を含有していた。
【0028】
次に、Se粉末(平均粒径:2μm)を、Cu、InおよびGaの合計量と、原子比にして同量用意し、前記Cu−In−Ga系粉末と該Se系粉末をV型混合機で混合し、混合粉末を得、該混合粉末を300℃で120分保持した後、昇温速度:5℃/minで800℃まで昇温し、800℃(熱処理温度)で30分間保持して反応させることにより、Cu−In−Ga−Se系反応物を得た。得られたCu−In−Ga−Se系反応物をボールミルで30分間粉砕し、平均粒径が150μmのCu−In−Ga−Se系粉末とした。得られた粉末中のCu、In、Ga、Seの元素の含有量は、これら元素の合計量を100原子%とすると、Cu:25原子%、In:20原子%、Ga:5原子%、Se:50原子%であった。このCu−In−Ga−Se系粉末を、550℃、50MPaの条件下、ホットプレスを行って焼結し、Cu−In−Ga−Se系焼結体(φ110mm×t10mm)を得た。Cu−In−Ga−Se系焼結体は、機械加工してφ102mm×t8mmのスパッタリングターゲットとした。
【0029】
実験例2
実験例1の熱処理温度を500℃、ホットプレス条件を500℃、60MPaとしたこと以外は、実験例1と同様にして、Cu−In−Ga
−Se系粉末、焼結体およびスパッタリングターゲットを作製し、実験例2とした。
【0030】
実験例3〜5
実験例1の熱処理温度を600℃、700℃、900℃としたこと以外は、実験例1と同様にしてCu−In−Ga−Se系粉末、焼結体およびスパッタリングターゲットを作製し、それぞれ実験例3〜5とした。
【0031】
実験例6〜7
実験例1の熱処理温度を300℃、400℃にしたこと以外は、実験例1と同様にしてCu−In−Ga−Se系粉末を作製し、それぞれ実験例6、7とした。
【0032】
上記実験例1〜7について、以下の方法で評価した。
【0033】
(1)化合物相の同定
実験例1〜7で得られたCu−In−Ga−Se系粉末について、X線回折装置(リガク製、RINT1500)を用いて結晶構造解析を行い、その後走査型電子顕微鏡(日本FEI社製、Quanta200FEG)を用いてEDS分析(エネルギー分散型X線分析)を行い、前記粉末の同定を行った。X線回折の測定条件は以下の通りである。
走査速度:2°/min
サンプリング幅:0.02°
ターゲット出力:40kV、200mA
測定範囲(2θ):15°〜100°
【0034】
(2)化合物相の定量
上記と同じX線回折装置を用いて、参照強度比(Reference Intensity Ratios:RIR法)によって定量を行った。
【0035】
(3)焼結性の評価
実験例1〜7で得られた焼結体に関し、ホットプレス時の溶け出しおよび端部割れがみられない場合を、焼結性に非常に優れる(◎)と評価した。また、溶け出しは見られないが、端部に少しでも割れがあるもの(加工によって除去可能)について、焼結性が良好(○)と評価し、溶け出しがあるものについては不良(×)と評価した。
【0036】
(4)相対密度の測定
アルキメデス法によって、実験例1〜5で得られたCu−In−Ga−Se系スパッタリングターゲットの相対密度を算出した。
【0037】
(5)In系化合物相の測定
実験例1〜5で得られたCu−In−Ga−Se系スパッタリングターゲットの表面の任意の0.24mm×0.24mmについて、構成元素(Cu、In、GaおよびSe)のEPMAマッピング分析を行い、各元素の含有量および面積率について測定、Inを36質量%以上含有するIn系化合物の面積率の総和を算出した。なお、EPMAマッピング分析の条件は以下の通りである。
加速電圧:15kV
照射電流:5.020×10
-8A
ビーム径:1μm(最小)
測定時間(1点あたり):100ms
点数(X軸×Y軸):480×480
間隔:X軸0.5μm、Y軸0.5μm
【0038】
上記(1)〜(5)の測定結果を表1に、実験例1の粉末のX線回折結果を
図1に、実験例1のスパッタリングターゲットのEPMAマッピング分析結果を
図2に、実験例6の粉末のX線回折結果を
図3に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
実験例1〜5における粉末の製造方法によれば、爆発等を起こすことなく安全にCu−In−Ga−Se系粉末を作製することができた。また、熱処理温度が500〜1000℃の範囲である実験例1〜5は、Cu−In−Ga−Se系化合物および/またはCu−In−Se系化合物が60質量%以上含有されているため、焼結性が良好であった。特に、熱処理温度が高く、四元系および三元系の化合物の割合が多かった実験例1、4、5では焼結性が向上し、相対密度がより高いものとなった。また、
図1より、実験例1の粉末が、CuGa
0.3In
0.7Se
2、Cu
2In、InSeを含有していることが分かり、
図2より、実験例1のスパッタリングターゲットにおいてIn含有量が36質量%以上と多く含まれるIn系化合物の面積率が少ない(2%)ことが分かった。
【0041】
一方、実験例6、7では、得られた粉末を実験例1と同様の方法で焼結し、焼結体の作製を試みたが、焼結途中で溶け出したため、焼結体を作製することができなかった。
図3は、実験例6の粉末にSeおよびInの単体が多く残存していることを示している。これは、実験例6では熱処理温度が300℃と低かったために、SeおよびInが残存し、融点の低いこれら元素が焼結時に溶け出したことによって焼結体が作製できなかったものと考えられる。