【実施例1】
【0024】
抵抗率が1Ωcm以下のウェーハを製造すべく、リンをドーパントとして添加したシリコン単結晶インゴットを、CZ法で成長させた。所望量の多結晶シリコンを酸化ケイ素製の坩堝の中に入れ、更に所望量の赤リンを投入して、加熱溶融した後に、種結晶からシリコン単結晶インゴットを引上げた。所定の雰囲気条件、温度条件、引き上げ速度のような引き上げ条件、坩堝の回転速度等を用いた。このうち、赤リンの投入量の増加はドーパント量を増加させ、抵抗率を減少させる方向に作用し、坩堝の温度上昇は、赤リンの蒸発又は分解(昇華を含む)を促進し、ドーパントとしてのリンの濃度を減少させ、抵抗率を上昇させる方向に作用する。
【0025】
このようにして、成長させた単結晶インゴットに対し、トップとボトムを切断した後に、円筒研削(外周研削とも言う)を実施し、円筒(又は円柱)形状のインゴットを得た。このインゴットを以下に述べる簡易型の抵抗率測定機により、外周における抵抗率を、結晶成長軸方向(又は成長方向、軸方向)に、100mmピッチで計測した。抵抗率測定機による測定方法を
図1を参照して以下に説明する。
【0026】
図1は、インゴットの抵抗率測定機による測定システム10の概要を模式的に示したものである。被測定物であるインゴット12をそのトップ位置12aを左にボトム位置12bを右にして、絶縁性の基台14の上に固定し、インゴットのトップ12aから所定の位置(x)における抵抗率を計測する。計測には、直線上に等間隔Tで並んだ4本の探針16a、16b、16c、16dと、インゴット12に一定の電流を供給する定電流電源20と、インゴットに流れる電流を計測する電流計22と、インゴットの抵抗による電圧降下を測定する電位差計24と、からなる抵抗率測定機を用いる。
図1では4つの探針を大きく描いているが、実際にはこれらは点xに収まるような小さなものである。このような抵抗率測定機の例としては、ナプソン株式会社製のRT70/TS7Dを用いることができるが、他の装置であってもよい。
【0027】
このような測定回路を用いて、インゴットの抵抗率を測定するには、絶縁性の基台に固定されたインゴット12の外周の表面に、間隔Tの等間隔に垂直配置した4つの探針16a、16b、16c、16d(以下「4探針」という)を加圧接触させる。ここで、4探針のうち、一番左側に垂直配置されている探針16aには、定電流電源20が電流計22を介して接続されている。この定電流電源20によりインゴット12
に供給される一定電流Iが、電流計22で測定される。一方、4探針の中側に垂直配置されている2本の探針16b、16c間には、電位差計24が接続され、この電位差計24により、この間の電位差Vが測定される。さらに、一番右側に垂直配置されている探針16dは、定電流源20に接続されている。
【0028】
このようにしてそれぞれ電流計22で測定したインゴット12に流れる電流I[A]、電位差計24で測定した探針間の電位差V[V]、各探針の間の距離T[cm]により、次式のようにして抵抗率ρ[Ωcm]が得られる。
ρ=2πTV/I[Ωcm]
【0029】
このような測定を100mm間隔で、それぞれの位置xにおいて計測し、距離xと抵抗率ρの関数としてプロットした。
図1に示す測定システム10による測定は、簡易型抵抗率測定であるので、その簡易型抵抗率測定機の測定値と、実際に複数のブロックに切断した後に各切断端面で抵抗率測定を行い、キャリブレーションしておくことが好ましい。相対的な抵抗値は得られるが、絶対的な抵抗値が違った場合、却ってブロック切断位置を誤ることもあるからである。両者の測定値の違いを、予め両者の相関から近似式を導出することにより、キャリブレーションできることはいうまでもない。
【0030】
図2は、抵抗率が低いシリコン単結晶インゴットについて、複数のブロックに切断し、それぞれのブロックからサンプリングした試料を用いて抵抗率を測定した結果を、元のインゴットのトップからの距離(位置)に対してプロットしたものである。この図からわかるように、抵抗率にはかなりのばらつきは見られるものの、トップ側で抵抗率が高く、ボトム側で抵抗率が低い。即ち、本インゴットから抵抗率が、0.0018Ωcmから0.0019Ωcmの抵抗率範囲Pのウェーハを製造するためには、トップからの位置が範囲A内にあるところから、素材となるブロックを切り出す必要があることがわかる。また、抵抗率が、0.0015Ωcmから0.0016Ωcmの抵抗率範囲Qのウェーハを製造するためには、トップからの位置が範囲B内にあるところから、素材となるブロックを切り出す必要があることがわかる。逆に言えば、このインゴットを10等分した場合、トップから1〜3個目のブロックが抵抗率範囲Pのウェーハを得るために用いられるが、3個目のブロックは、抵抗率範囲Pに入るものが少なそうであり、不必要な部分を多く含むブロックになった可能性が高い。また、1個目と2個目のブロックの境目が最も好ましい範囲と考えられるので、そのような場所を切断のための切り代で失うと、歩留まりが低下する。一方、4個目から10個目のブロックが抵抗率範囲Qのウェーハを得るために用いられるが、トップから抵抗率を測定していた場合、インゴットの半分以上を占める適正ブロックを選択するために、少なくとも4個のブロックの抵抗率を測定した後でなければ、適性なブロックを見出すことが難しい。そのために、時間的ロスが大きく、生産性が低い。また、2個目のブロックでは抵抗率のバラツキが特に大きく、同ブロックからサンプリングした試料で抵抗率を測定した場合、同ブロックの抵抗率の範囲を把握し難い。しかし、他のブロックの抵抗率が予め分かっていれば、2個目のブロックの抵抗率の上下限が把握され易くなる。
【0031】
図3は、CZ法で成長させた別のシリコン単結晶インゴットに本発明の実施例について抵抗率測定を行った結果を示すグラフである。インゴットは、上述したCZ法で作製し、トップとボトムを切断した後に、円筒研削を実施し、円筒形状に成形した。
図1の抵抗率測定機により、インゴットの側面である外周における抵抗率を、結晶成長軸方向に、100mmピッチで計測し、それを成長方向の長さに対してグラフに示すものである。一方、複数のブロックに切断後、それぞれのブロックの端面において、抵抗率を測定し、その結果を元のインゴットの成長方向の長さに合わせてプロットしたグラフである。この図からわかるように、インゴットの側面で簡易型の抵抗率測定機により行った抵抗率の結果は、各ブロックの端面で行った抵抗率の測定結果とよく一致しており、この簡易型の抵抗率測定は、複数のブロックからのサンプリングによる測定を代替し得ることが分かる。
【0032】
更に、トップでは、抵抗率が大きいが、ボトムに向うにつれて抵抗率は急激に下り、ボトムに近づくと抵抗率はほぼ一定となる。このような傾向は、
図2の結果とも共通するが、このようなプロファイルを利用して、シリコン単結晶インゴットをブロックに切断する方法について、
図4を参照して説明する。
【0033】
図4は、
図3の結果を利用して、抵抗率範囲R、S、Tのウェーハを得るためのブロック切断方法及び切断位置決定方法について解説する。
図3のグラフに相当するグラフの下に配置されているのは、シリコン単結晶インゴット模擬したものである。左端がトップで、右端がボトムである。抵抗率範囲Rでウェーハを得ようとするならば、抵抗率範囲Rの中央値で水平な線を描き、測定して得た抵抗率曲線にぶつかったところで、垂直に線を降ろして得られる相対距離Cの位置を中心とするブロックを切り出せばよいことが分かる。また、抵抗率範囲Sでウェーハを得ようとするならば、抵抗率範囲Sの中央値で水平な線を描き、測定して得た抵抗率曲線にぶつかったところで、垂直に線を降ろして得られる相対距離Dの位置を中心とするブロックを切り出せばよいことが分かる。このとき、傾きが急なところでぶつかった相対距離Cでは、抵抗率範囲Rの抵抗率を備えるブロックの長さが短い。一方、急な傾きがなだらかになる抵抗率範囲Sの抵抗率を備えるブロックの長さは、中央位置Dの左側が短く、右側が長くなる。そのため、好ましい切り出し箇所は、相対距離Dに対してボトム側に長い非対称を呈する。この図では、所望の抵抗率範囲の上限及び下限に相当するインゴット位置をインゴット位置の下限及び上限としている。これ以外に、所望の抵抗率の値に相当するインゴット位置の+側及び−側の傾きが、それぞれ(0.001759−0.001738)/(0.400−0.344)=0.000021/0.056=3.75×10
−4及び(0.001794−0.001759)/(0.344−0.300)=0.000035/0.044=7.95×10
−4であるので、インゴット位置の−側が+側に対して、これらの比0.47となるように範囲を決めることができる。つまり、インゴット位置の下限を0.300とすると、(0.344−0.300)/0.47+0.300=0.394がインゴット位置の上限となる。
【0034】
また、抵抗率範囲Tの抵抗率を備えるブロックでは、抵抗率のグラフがほぼフラットであるので、中央位置を特に見つける必要もなく、抵抗率範囲Tに入るところ(上限下限の間にある部分)をトップからボトムへの相対距離において抽出することができる。そのような抵抗率範囲Tに対応するインゴットの範囲は、相対距離Eを含むほぼインゴットのボトム側半分に相当する。ここでは、抵抗率があまり変化せず一定であるので、抵抗率の品質保証の程度が高いと予想される。また、ここで、切断するブロックの長さ(厚みとも言う)は、次工程での処理に適する長さであり、必要とされるウェーハを供給できる長さであり、製品の品質保証や歩留を考慮した生産性の高さを基準として決定されてよい。
【0035】
ここで、抵抗率が低いことに関して考察する。上述してきたように1Ωcm以下の抵抗率のシリコン単結晶インゴットでは、それよりも大きな抵抗率のものとは異なる特性を備えることが分かった。特にドーパントと狙いの抵抗率が、(A)アンチモン:0.03Ωcm以下、(B)砒素:0.01Ωcm以下、(C)リン:0.007Ωcm以下、の場合には抵抗率の成長方向におけるバラツキが大きくなり予測が難しくなる。そして、インゴットを複数のブロックにしてからウェーハ形状のサンプルを切り出して抵抗率を測定する方法では、所望の抵抗率範囲の製品を得るのに時間ロス・サンプル及び製品ロスが大きく、生産性、歩留まりが低下する。しかしながら、本発明によれば、低抵抗であるため測定が可能となるインゴット長さ方向の抵抗率を測定しプロファイルを取ることで、(1)ブロックにしてから抵抗率を測定することなく切断位置を確定でき、(2)抵抗率のプロファイルを結晶ごとに測定することで抵抗率の変化(バッチ内、およびバッチ間の経時変化など)をモニターし、変化があればそれを補償するようすぐ次の引き上げにフィードバックすることができ、(3)抵抗率に影響を与える引上げ条件を確定し、その条件を適切に制御することができる。これにより、抵抗率を安定化させ、効率よく歩留まりの高い低抵抗シリコン単結晶の製造方法を提供することができる。
【0036】
ここで、低抵抗であるため測定が可能となると述べたのは次のような理由による。酸素濃度はアンチモンの場合蒸発量に影響を与えるが、高抵抗の場合サーマルドナーとして電子を与えるので、そのまま測定するとPタイプの場合は抵抗が実際よりも高く、Nタイプでは実際よりも低く測定される。このため抵抗率測定前に熱処理が必要である。例えば、インゴットのまま熱処理をして、側面で長さ方向の抵抗率を測定することも可能であるが、径が100mm以上では、実質的にインゴットでの熱処理は不可能である。インゴットの中心部を急冷することが難しいので、中心部でドナーが消えないためである。そのため、大口径ではウェーハサンプルを切り出して熱処理後抵抗率を測定する必要があった。しかし、1Ωcm以下の低抵抗であればドナーの量に比べてドーパント濃度が十分に高く、熱処理をしなくてもドナーの影響が少ないので、インゴットのままでも(即ち、熱処理をしなくても)抵抗率を測定できる。
【0037】
また、抵抗率に直接的に影響を及ぼすドーパントのシリコン単結晶インゴット中の濃度は、シリコン融液中のドーパント濃度、偏析係数、ドーパントの蒸発又は分解(昇華を含む)のし易さから調整することができる。例えば、偏析係数は、リンの場合0.35であり、砒素の場合0.3であり、アンチモンの場合0.02である。因みにホウ素の偏析係数は0.8である。このことから、ホウ素に比べて偏析係数が小さく、引き上げ時間と共に、シリコン融液中のドーパント濃度が上がる可能性があり、また、アンチモン、砒素、リン内においても、偏析係数の小さい順から、アンチモン、砒素、リンとなるので、引き上げ中のドーパント濃度の変化について、これらの順に注意し調整することが好ましいことが分かる。
【0038】
以上述べてきたように、抵抗率が小さいインゴットについては、その抵抗率測定結果を製品としてのウェーハにも活用できることを見出し、本願のような画期的な発明をすることができた。このブロック切断前の抵抗率測定は、ウェーハの製造において、歩留まりの向上、品質の向上等、種々の点で非常に有効であることがわかる。