【発明が解決しようとする課題】
【0006】
道床の不等沈下を防止する対策としては、道床と該道床の天端に載置されるまくらぎとの間に粘弾性材を介在させたり(特許文献1〜3)、まくらぎ直下の荷重を分散させたり(特許文献4)、道床の間隙に固結材を充填したり(特許文献5)、道床とまくらぎとの連結強度を高めたり(特許文献6)といった手法が知られている。
【0007】
しかしながら、上述した対策を既設のバラスト軌道に適用しようとすると、大規模な工事が必要となり、経済性に乏しいという問題や、工事期間中は列車の運行を停止せねばならないという問題を生じており、道床の沈下を防止する対策としては必ずしも十分ではなかった。
【0008】
また、道床の間隙に固結材を充填させる方法では、道床の構造が変化してしまい、騒音や振動を低減できるバラスト軌道特有の長所が失われてしまうという問題も生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、列車運行に支障を来したり道床の構造を変化させたりすることなく、道床の沈下をより確実かつ経済的に防止可能なまくらぎの制振構造を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るまくらぎの制振構造は請求項1に記載したように、バラストからなる道床の天端近傍に載置されたまくらぎに同調質量ダンパーを設置し、該同調質量ダンパーの固有振動数を、前記まくらぎに生ずる列車走行時の振動のうち、前記道床の沈下を引き起こす振動に対応する振動数をターゲット振動数として該ターゲット振動数にほぼ一致させ
ることで、前記まくらぎの振動が抑制されるように構成したものである。
また、本発明に係るまくらぎの制振構造は、前記同調質量ダンパーを、質量体としての鋼板と該質量体を振動自在に支持する弾性体としてのゴムシートとを互いに積層して構成するとともに、前記固有振動数が前記ターゲット振動数にほぼ一致するように前記鋼板の質量と前記ゴムシートの剛性とを定めたものである。
【0011】
また、本発明に係るまくらぎの制振構造は、前記ターゲット振動数を、前記まくらぎに生ずる列車走行時の振動を実測してその時刻歴振動データを周波数分析することで求めたものである。
【0012】
また、本発明に係るまくらぎの制振構造は、前記ターゲット振動数を、前記まくらぎの振動モデルに対して固有値解析を行うことで求めたものである。
【0013】
また、本発明に係るまくらぎの制振構造は、前記ターゲット振動数を、前記まくらぎの両端が中央部と逆位相になる水平軸線廻りの曲げモードに対応する固有振動数としたものである。
【0014】
また、本発明に係るまくらぎの制振構造は、前記同調質量ダンパーを前記まくらぎの両端近傍に取り付けたものである。
【0015】
また、本発明に係るまくらぎの制振構造は、前記まくらぎのうち、レール同士の継目又は路盤の構造が変化する部位の近傍に配置されたまくらぎに前記同調質量ダンパーを設置したものである。
【0016】
バラスト軌道は、路盤の上に例えば断面台形状に積み上げられたバラストからなる道床と、該道床の天端近傍に道床の材軸方向に沿って列状に複数配置されたまくらぎと、該まくらぎの上に敷設されたレールとからなり、該レール上を走行する列車からの動的荷重は、レールからまくらぎ、まくらぎから道床へと順次伝達されるが、本発明に係るまくらぎの制振構造においては、バラストからなる道床の天端近傍に載置されたまくらぎに同調質量ダンパーを設置し、該同調質量ダンパーの固有振動数を、前記まくらぎに生ずる列車走行時の振動のうち、前記道床の沈下を引き起こす振動に対応する振動数をターゲット振動数として該ターゲット振動数にほぼ一致させてある。
【0017】
このようにすると、道床沈下を招くまくらぎの振動は、同調質量ダンパーによってすみやかに収斂するとともに、振動の収斂に伴い、まくらぎから道床に伝達される運動エネルギーも減少する。
【0018】
したがって、まくらぎから道床への動的荷重の載荷を原因としたバラストの損傷が防止されることとなり、かくして道床の沈下を未然に回避することが可能となる。また、まくらぎに同調質量ダンパーを取り付けるだけなので、簡易な工事で足りるとともに、列車の運行に与える影響を最小限にとどめることができる。
【0019】
同調質量ダンパーは、TMD(Tuned Mass Damper)とも呼ばれるものであって、質量体及び該質量体を振動自在に支持する弾性体を備えてなり、本発明においては上述したように、まくらぎに生ずる列車走行時の振動のうち、道床の沈下を引き起こす振動に対応する振動数をターゲット振動数とし、該ターゲット振動数に同調質量ダンパーの固有振動数がほぼ一致するように、質量体及び弾性体を構成する。
【0020】
同調質量ダンパーは、道床の沈下を引き起こす振動、すなわちターゲット振動数における振動と同じ方向、例えば鉛直方向に質量体が振動するように構成する。具体的に説明すると、質量体を鋼板、弾性体をゴムシートとし、それらを互いに積層して構成する例において、ターゲット振動数における振動が鉛直方向の場合には、ゴムシートの軸方向剛性で鋼板を振動させ、ターゲット振動数における振動が水平方向の場合には、ゴムシートのせん断剛性で鋼板を振動させるように構成すればよい。
【0021】
ターゲット振動数をどのように求めるかは任意であって、例えば、まくらぎに生ずる列車走行時の振動を実測してその時刻歴振動データを周波数分析することにより、あるいはまくらぎを必要に応じてレールや道床とともにモデル化し、その振動モデルに対し固有値解析を行うことにより、それぞれ求めることができる。
【0022】
ここで、固有値解析でターゲット振動数を求める場合、ターゲット振動数を、まくらぎの両端が中央部と逆位相になる水平軸線廻りの曲げモードに対応する固有振動数としたならば、まくらぎから道床に作用する動的荷重のうち、該まくらぎの底面にわたって不均一となる荷重の伝達が抑制されることとなり、かかる不均一な動的荷重に起因したバラストの損傷を未然に防止することが可能となる。
【0023】
同調質量ダンパーは、道床沈下を招くまくらぎの振動を抑制することができる限り、まくらぎへの設置場所は任意であって、まくらぎの中央部に設置することも考えられるが、まくらぎの両端近傍に取り付けるようにした場合には、道床の沈下を引き起こす振動を確実に抑制することができる。
【0024】
すなわち、本出願人が行ったまくらぎの固有値解析によれば、まくらぎ全体が振動する剛体モードや、まくらぎの両端が中央部と逆位相になる水平軸線廻りあるいは鉛直軸線廻りの曲げモードが低次に出現する傾向にあり、ゆえに、いずれの振動モードが卓越するにしろ、両端の振動を抑えてやることで、まくらぎ全体の振動を抑制することが可能となる。
【0025】
また、かかる構成においては、同調質量ダンパーの設置作業がレールの側方のみにとどまり、レール間には及ばないため、列車の運行を止めずとも同調質量ダンパーの設置作業を行うことが可能となる。
【0026】
同調質量ダンパーは、列状に配置された複数のまくらぎのうち、どのまくらぎに設置するかは任意であって、例えば全てのまくらぎに設置してもかまわないが、道床沈下は、大きな衝撃が加わる箇所で生じやすい。そのため、かかる箇所に限定してまくらぎを設置するようにすれば、わずかな費用でより大きな効果を得ることができる。
【0027】
大きな衝撃を加わる箇所としては例えば、締結部や溶接部といったレール同士の継目や路盤の構造が変化する部位、例えば橋梁における構造物境界が該当する。