特許第5767496号(P5767496)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5767496セルロース誘導体フィルムおよびその製造方法
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  • 特許5767496-セルロース誘導体フィルムおよびその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767496
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】セルロース誘導体フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20150730BHJP
【FI】
   C08J5/18CEP
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-77446(P2011-77446)
(22)【出願日】2011年3月31日
(65)【公開番号】特開2012-211252(P2012-211252A)
(43)【公開日】2012年11月1日
【審査請求日】2013年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】川崎 真一
(72)【発明者】
【氏名】荘所 大策
(72)【発明者】
【氏名】若林 完爾
(72)【発明者】
【氏名】林 蓮貞
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−273197(JP,A)
【文献】 特開2010−235872(JP,A)
【文献】 特開2008−257220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00〜 5/02
5/12〜 5/22
C08K 3/00〜 13/08
C08L 1/00〜101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルローストリアセテートと9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物とを含むフィルムであって、前記フルオレン化合物の割合が、前記セルローストリアセテート100重量部に対して、1〜60重量部であるフィルム
【請求項2】
フルオレン化合物が、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類および9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類から選択された少なくとも1種である請求項記載のフィルム。
【請求項3】
さらに、フェノール系化合物、アミン系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物及びエポキシ系化合物から選択された少なくとも一種の安定化剤を含む請求項1又は2記載のフィルム。
【請求項4】
安定化剤の割合が、セルローストリアセテート及びフルオレン化合物の合計100重量部に対して0.001〜10重量部である請求項記載のフィルム。
【請求項5】
延伸フィルムである請求項1〜のいずれかに記載のフィルム。
【請求項6】
レタデーション値−3〜0nmを有する延伸フィルムである請求項1〜のいずれかに記載のフィルム。
【請求項7】
セルローストリアセテートおよび9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物を含む樹脂組成物をフィルム状に成形するフィルム成形工程を含む請求項1〜のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
【請求項8】
さらに、少なくともセルローストリアセテートおよび9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物を溶融混合する溶融混合工程を含み、フィルム成形工程において、この溶融混合工程を経て得られた溶融混合物をフィルム成形する請求項記載の製造方法。
【請求項9】
フィルム成形工程を経て得られたフィルムを、さらに、延伸処理する延伸工程を含む請求項又は記載の製造方法。
【請求項10】
延伸工程を経て、レタデーション値−3〜0nmを有する延伸フィルムを得る請求項記載の製造方法。
【請求項11】
延伸工程において、フィルムを各方向に1.3倍以上の延伸倍率で二軸延伸する請求項又は10記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース誘導体(セルローストリアセテートなど)フィルム(光学フィルムなど)およびこのフィルムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルローストリアセテート(TAC)などのセルロースエステルは、その優れた耐熱性、光透過率や、低ヘーズ、低光弾性係数、偏光フィルム素材であるポリビニルアルコール(PVA)との接着性に優れるといった特徴から、液晶デバイス等に用いられる光学フィルムに使用される他、磁気テープ用支持体、コンデンサー用フィルム、離型フィルムなど様々な用途に使用されている。しかしながら、熱成形性に乏しいために、溶媒にTACを溶かして薄く展開させた後、溶媒を揮発させてフィルムを得る溶媒キャスト法によって製造されている(例えば、Macromol. Symp., vol.208, 323-333 (2004)(非特許文献1))。しかし、このようなキャスト法においては、溶剤を乾燥するために多大なエネルギーを要するほか、溶剤の回収コストなど生産コストが大きいといった問題を有する。
【0003】
このような中、熱成形性を改善するための試みもなされている。例えば、特開2009−40868号公報(特許文献1)には、セルロースエステルのエステル基の一部を二塩基酸エステルとし、成形性が改善されたセルロースエステル誘導体が開示されている。しかし、この文献の方法では、セルロースエステルを二塩基酸エステルで変性するという煩雑な製法が必要であり、また、光学フィルムなどとしての利用には至っていない。
【0004】
また、光学フィルムには、光透過率や低ヘーズといった特性はもちろん、種々の特性が求められている。例えば。光学補償フィルムなどにおいては、延伸などにより所望の複屈折へと調整できることなど様々な機能が求められており、これらが、セルロース誘導体の光学フィルムへの利用を困難としている。
【0005】
なお、フルオレン骨格(9,9−ビスフェニルフルオレン骨格など)を有する化合物は、屈折率、耐熱性などにおいて優れた機能を有することで知られる材料である。このようなフルオレン骨格を有する化合物の優れた機能を発現するため、フルオレン骨格を有する化合物を、汎用の樹脂に添加する試みがなされている。例えば、特開2005−162785号公報(特許文献2)には、フルオレン骨格を有する化合物(例えば、9,9−ビス(モノ乃至トリヒドロキシフェニル)フルオレン類又はそのC2−4アルキレンオキシド付加体、9,9−ビス(モノ乃至トリヒドロキシフェニル)フルオレン類又はそのC2−4アルキレンオキシド付加体のグリシジルエーテルなど)と、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂など)とで構成された樹脂組成物が開示されている。
【0006】
この文献には、フルオレン骨格を有する化合物を添加する熱可塑性樹脂として、セルロース誘導体については何ら開示されていない。また、この文献では、フルオレン骨格を有する化合物を、単に、熱可塑性樹脂にフルオレン骨格を有する化合物由来の特性(例えば、高屈折率など)を付与するための成分として使用しており、熱可塑性樹脂の可塑化を想定していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−40868号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2005−162785号公報(特許請求の範囲、段落番号[0007])
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Macromol. Symp., vol.208, 323-333 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、セルロース誘導体を含んでいても、成形性又は成形加工性を改善又は向上できるフィルム(例えば、光学フィルム)およびその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、延伸性が改善又は向上されたセルロース誘導体フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、延伸により、所望の複屈折を付与できるセルロース誘導体フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特定のフルオレン化合物が、セルロース誘導体を効果的に可塑化し、セルロース誘導体の成形性又は加工性を改善すること、また、セルロース誘導体フィルムの延伸性を向上させること、さらに、延伸によりセルロース誘導体フィルムの複屈折が調整可能であることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明のフィルム(又は樹脂組成物)は、セルロース誘導体と9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物とを含む。前記セルロース誘導体は、特に、セルローストリアセテートで構成されていてもよい。また、前記フルオレン化合物は、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類および9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類から選択された少なくとも1種であってもよい。
【0014】
本発明のフィルムにおいて、前記フルオレン化合物の割合は、例えば、セルロース誘導体100重量部に対して、1〜60重量部程度であってもよい。
【0015】
また、本発明のフィルムは、さらに、フェノール系化合物、アミン系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物及びエポキシ系化合物から選択された少なくとも一種の安定化剤を含んでいてもよい。このようなフィルムにおいて、前記安定化剤の割合は、例えば、セルロース誘導体及びフルオレン化合物の合計100重量部に対して0.001〜10重量部程度であってもよい。
【0016】
本発明のフィルムは、延伸性に優れているため、特に、延伸フィルムであってもよい。このような延伸フィルムは、特に、レタデーション値−3〜0nmを有する延伸フィルム(例えば、二軸延伸フィルム)であってもよい。また、このように延伸性に優れる本発明のフィルムはレタデーション上昇剤などの添加により、任意のレタデーション値に制御することも可能である。
【0017】
本発明には、前記フィルムを製造する方法も含まれる。このような方法は、セルロース誘導体および9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物を含む樹脂組成物をフィルム状に成形するフィルム成形工程を含む。
【0018】
本発明の方法は、さらに、少なくともセルロース誘導体および9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物を溶融混合する溶融混合工程を含み、フィルム成形工程において、この溶融混合工程を経て得られた溶融混合物(樹脂組成物、溶融混合物としての樹脂組成物)をフィルム(又はシート)成形(又はフィルム状又はシート状に成形)する方法であってもよい。例えば、このような方法は、少なくともセルロース系樹脂および9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物を押出機中にて溶融混合後、Tダイからフィルムを押出成形し、ロール状に巻き取るような連続プロセスであってもよく、押出機などにより溶融混合後、ペレタイズを行い、得られたペレットをホットプレスなどによりフィルム(またはシート)成形する方法であってもよい。
【0019】
前記方法は、フィルム成形工程を経て得られたフィルム(又はシート)を、さらに、延伸処理する延伸工程を含んでいてもよい。なお、延伸工程は、前記溶融混合工程や前記フィルム成形工程を含む連続プロセス中に組み込まれていてもよい。このような延伸工程を含む方法では、レタデーション値の制御が可能となる。このような方法では、特に、延伸工程を経て、レタデーション値−3〜0nmを有する延伸フィルム(例えば、二軸延伸フィルム)を得てもよい。代表的には、前記延伸工程において、フィルム状物(フィルム)を各方向に1.3倍以上の延伸倍率で二軸延伸してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、セルロース誘導体と特定のフルオレン化合物とを組み合わせることで、フルオレン化合物がセルロース誘導体を効率よく可塑化するためか、セルロース誘導体を含んでいても、フィルムの成形性又は成形加工性を改善又は向上できる。特に、本発明のフィルムは、セルローストリアセテートであっても、溶融成形プロセスを経て得ることができ、著しく成形性が改善されている。しかも、このような溶融成形プロセスを経ているにもかかわらず、得られるフィルムは、透明性などに優れており、光学フィルムとして十分に利用可能なものである。また、本発明のフィルムでは、セルロース誘導体とフルオレン化合物とが複合化した樹脂組成物で形成されており、単に成形性だけでなく、透明性、耐熱性、耐溶剤性、耐水性、表面硬さなどの特性においても優れている。
【0021】
さらに、本発明のセルロース誘導体フィルムでは、フルオレン化合物により、意外にも、延伸性が改善又は向上されている。そのため、セルロース誘導体フィルムの各種特性(例えば、透明性、引張強さ、衝撃強さ、耐熱性など)などをより一層改善又は向上できる。
【0022】
さらにまた、本発明では、セルロース誘導体とフルオレン化合物とを組み合わせることにより、フィルム(特に延伸フィルム)において、延伸倍率などを調整又は制御することにより、レタデーション値を調整又は制御できる。特に、本発明では、実質的に光学等方性のセルロース誘導体フィルムを得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施例で得られた延伸前のフィルムの透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のフィルム(例えば、光学フィルム)は、セルロース誘導体と9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物とを少なくとも含む。換言すれば、本発明のフィルムは、セルロース誘導体と9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物とを少なくとも含む樹脂組成物(セルロース誘導体組成物)で形成されている。すなわち、この樹脂組成物は、フィルム(例えば、光学用フィルム)を形成するための樹脂組成物ということもできる。そのため、本発明には、このようなセルロース誘導体組成物も含むものとする。
【0025】
[セルロース誘導体]
セルロース誘導体としては、特に制限されず、種々のセルロース誘導体、例えば、セルロースエステル、セルロースカーバメート(例えば、セルロースフェニルカーバメートなど)、セルロースエーテルなどが使用できる。
【0026】
セルロースエステルとしては、例えば、セルロースジアセテート(DAC)、セルローストリアセテート(TAC)などのセルロースアセテート;セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどのセルロースC3−5アシレート;セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)などのセルロースアセテートC3−5アシレートなどのセルロースアシレートが挙げられる。
【0027】
また、セルロースエーテルとしては、アルキルセルロース(例えば、メチルセルロース、エチルセルロースなどのC1−4アルキルセルロースなど)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などのヒドロキシC2−4アルキルセルロースなど)、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのヒドロキシC2−4アルキルC1−4アルキルセルロースなど)、カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロース(CMC)など)、アルキル−カルボキシアルキルセルロース(メチルカルボキシメチルセルロースなど)、これらの誘導体[例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのCMC塩(アルカリ金属塩など)など]などが例示できる。
【0028】
セルロース誘導体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。セルロース誘導体のうち、セルロースエステル、セルロースエーテルなどが好ましく、特に、セルロースエステル(セルロースアシレート)、例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートC3−4アシレートなどが好ましい。より具体的には、セルロース誘導体として、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースエステルを好適に用いてもよい。
【0029】
このようなセルロース誘導体(セルロースエステルなど)は、熱分解温度と、融点又は軟化点とが近く、加熱により流動化することが困難である。そのため、通常、熱可塑性樹脂に利用される樹脂の溶融状態又は流動性を利用したコンパウンド化、成形又は加工方法などを、セルロース誘導体に適用できない場合が多い。中でもセルロースアセテート(特に、セルロースジアセテート及びセルローストリアセテート)は、溶剤に対する溶解性が低い上、加熱により流動化させるのが極めて困難である。また、従来の可塑剤により、セルロースエステルなどのセルロース誘導体を可塑化する場合には、多量の可塑剤を用いる必要があり、得られる樹脂組成物では、セルロース誘導体の特性を維持できない。しかし、フルオレン化合物とセルロース誘導体とを組み合わせると、セルロース誘導体の特性を維持しながらも、フルオレン化合物の使用により、結晶化度を低減でき、ガラス転移温度、融点、又は軟化点などを低下することができ、加熱により融解(溶融)又は軟化できるため、流動性を大きく改善できる。そのため、セルロースエステル(セルロースアセテートなど)などのセルロース誘導体を使用するにも拘わらず、溶融混練系であっても、セルロース誘導体を可塑化することができる。そのため、セルロース誘導体と、フルオレン化合物を含むセルロース誘導体組成物を溶融混練系で、コンパウンド、成形又は加工することが可能である。
【0030】
また、セルロース誘導体の結晶化度を低減(すなわち、非結晶部分の割合を大きく)できるため、ガラス転移温度及び/又は融点を低下させることができる。特に、セルロースジアセテートなどを用いると、融点の観測が困難になるほど、非結晶化することができる。また、従来、可塑化が極めて困難であったセルローストリアセテートを用いても、フルオレン化合物の作用により、ガラス転移温度及び融点を低下させることができ、高い可塑化効果が得られる。そのため、本発明の樹脂組成物は、後述するように、溶融混練により得ることが可能である。
【0031】
特に、フルオレン化合物は、セルロース誘導体(特に、セルロースジアセテート及び/又はセルローストリアセテートなどのセルロースアセテート)の可塑化に有効である。また、従来全く知られていなかったセルローストリアセテートの外部可塑化、特に、溶融混練系での可塑化は、フルオレン化合物により初めて達成されたものである。
【0032】
そのため、セルロース誘導体は、特に、セルローストリアセテートで構成してもよい。セルロース誘導体は、セルローストリアセテートのみで構成してもよく、セルローストリアセテートと他のセルロース誘導体(セルローストリアセテート以外のセルロース誘導体)とで構成してもよい。他のセルロース誘導体と組み合わせる場合、セルローストリアセテートの割合は、セルロース誘導体全体に対して、例えば、30重量%以上(例えば、40〜99.9重量%)、好ましくは50重量%以上(例えば、60〜99.5重量%)、さらに好ましくは70重量%以上(例えば、80〜99重量%)であってもよい。
【0033】
[フルオレン化合物]
セルロース誘導体組成物(又はフィルム)は、フルオレン化合物を含む。このようなフルオレン化合物は、前記のように、前記セルロース誘導体の可塑剤として機能しているようである。なお、フルオレン化合物は、セルロース誘導体との間の化学的相互作用のためか、分子レベル又は分子レベルに近い状態でセルロース誘導体に相溶可能である。そのため、従来、困難であったセルロース誘導体(特に、セルローストリアセテートなど)の溶融成形プロセスを可能にする。しかも、フルオレン化合物の割合が多くても、ブリードアウトを防止又は抑制することができるとともに、比較的少量でも、セルロース誘導体を効果的に可塑化可能である。そのため、本発明では、フルオレン化合物の使用により、樹脂組成物において、流動性(溶融流動性)、耐水性、表面硬さなどの諸特性を付与又は改善(又は向上)することもできる。
【0034】
また、本発明では、フルオレン化合物により、セルロース誘導体組成物(又はフィルム)の延伸性が著しく改善される。そのため、従来延伸性に乏しかったセルロース誘導体フィルムを所望の延伸倍率で延伸でき、諸特性をさらに改善又は向上できる。しかも、このような延伸により、レタデーションの制御が可能となり、特に、光学等方性のフィルム(実質的にレタデーション値が0のフィルム)を形成することも可能である。
【0035】
さらには、フルオレン化合物は、さまざまな化合物との相溶性に優れているため、レタデーション上昇剤、波長分散調整剤などの第三成分との組み合わせが可能であり、これにより、任意のレタデーション制御が可能となる他、より高度な光学特性の付与が可能となる。
【0036】
このようなフルオレン化合物は、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物であればよく、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するモノマー(例えば、後述の9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類など)を重合成分とする樹脂であってもよいが、通常、例えば、下記式(1)で表されるフルオレン化合物であってもよい。
【0037】
【化1】
【0038】
(式中、Aは少なくともベンゼン環骨格を有する芳香族炭化水素環を示し、Xはヘテロ原子含有官能基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは、炭化水素基(アルキル基、アリール基など)、エーテル基(置換ヒドロキシル基)、チオエーテル基(置換チオール基)、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又はN,N−二置換アミノ基を示し、Rは、炭化水素基(アルキル基、アリール基など)、ヒドロキシル基、エーテル基(置換ヒドロキシル基)、メルカプト基、チオエーテル基(置換チオール基)、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基又は置換アミノ基を示し、kは0又は1以上の整数を示し、mは1〜3の整数を示し、n及びpは、同一又は異なって、0〜4の整数を示す。)
上記式(1)において、環Aで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環の他、少なくともベンゼン環骨格を有する縮合多環式芳香族炭化水素環[例えば、縮合二環式炭化水素環(インデン環、ナフタレン環などのC8−20縮合二環式炭化水素環、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素環など)、縮合三環式炭化水素環(アントラセン環、フェナントレン環など)などの縮合二乃至四環式炭化水素環など]などが挙げられる。なお、フルオレンの9位に置換する2つの環Aは、異なっていてもよく、同一であってもよいが、通常、同一の環である場合が多い。環Aのうち、ベンゼン環、ナフタレン環(特にベンゼン環)などが好ましい。
【0039】
なお、フルオレンの9位に置換する環Aの置換位置は、特に限定されない。例えば、環Aがナフタレン環の場合、フルオレンの9位に置換する環Aに対応する基は、1−ナフチル基、2−ナフチル基などであってもよい。
【0040】
前記式(1)において、Xで表されるヘテロ原子含有官能基としては、ヘテロ原子として、酸素、イオウ及び窒素原子から選択された少なくとも一種を有する官能基などが例示できる。このような官能基に含まれるヘテロ原子の数は、特に制限されないが、通常、1〜3個、好ましくは1又は2個であってもよい。前記官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、エポキシ含有基(エポキシ基、グリシジル基など)などの酸素原子含有官能基;メルカプト基などのイオウ原子含有官能基;アミノ基又はN−一置換アミノ基[例えば、メチルアミノ、エチルアミノ基などのN−モノアルキルアミノ基(N−モノC1−4アルキルアミノ基など)、ヒドロキシエチルアミノ基などのN−モノヒドロキシアルキルアミノ基(N−モノヒドロキシC1−4アルキルアミノ基など)など]などの窒素原子含有官能基などが例示できる。Xのうち、ヒドロキシル基、エポキシ含有基(グリシジル基など)、アミノ基又はN−一置換アミノ基などが好ましく、特に、ヒドロキシル基が好ましい。
【0041】
前記式(1)において、基Rで表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,2−ブタンジイル基、テトラメチレン基などのC2−6アルキレン基、好ましくはC2−4アルキレン基、さらに好ましくはC2−3アルキレン基が挙げられる。これらのアルキレン基のうち、特に、エチレン基が好ましい。なお、kが2以上の整数である場合、各オキシアルキレンユニットにおけるアルキレン基は、同一であってもよく、異なっていてもよいが、通常、同一である場合が多い。また、2つの環Aにおいて、基Rは同一であっても、異なっていてもよく、同一である場合が多い。
【0042】
オキシアルキレン基(OR)の繰り返し数(平均付加モル数)を示すkは、0〜15(例えば、0〜10)程度の範囲から選択でき、例えば0〜6、好ましくは0〜4(例えば、0〜3)、さらに好ましくは0〜2、特に、0又は1であってもよい。2つの環Aに結合するオキシアルキレン基は、同一であってもよく、異なっていてもよいが、通常、同一である場合が多い。
【0043】
前記式(1)において、環Aに置換した基−(OR−Xの個数を示すmは、好ましくは、1〜3の整数であり、さらに好ましくは1又は2であり、特に、1であってもよい。なお、基−(OR−Xの環Aにおける置換位置は特に制限されず、例えば、環Aがベンゼン環である場合には、フルオレン骨格の9位との結合位置(1位)に対して、2位、3位及び/又は4位のいずれであってもよい。例えば、mが2である場合、上記置換位置は、2位及び3位、2位及び4位、3位及び5位などであってもよいが、3位及び4位である場合が多い。また、環Aがナフタレン環の場合には、環Aとは直接結合していないベンゼン環の適当な置換位置(3級炭素原子)に置換してもよいが、環Aに結合したベンゼン環の適当な置換位置(3級炭素原子)に置換するのが好ましい。
【0044】
前記式(1)において、R及びRで表される炭化水素基としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基、好ましくはC1−4アルキル基、さらに好ましくはC1−3アルキル基、特にメチル基又はエチル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−8シクロアルキル基、好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(モノ又はジメチルフェニル基(トリル基、2−メチルフェニル基、キシリル基など)、ナフチル基などのC6−10アリール基、好ましくはフェニル基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などが例示できる。
【0045】
また、R及びRで表されるエーテル基としては、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基などが例示できる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−6アルコキシ基(好ましくはC1−4アルコキシ基、さらに好ましくはC1−3アルコキシ基など)が例示でき、シクロアルコキシ基としては、シクロへキシルオキシ基などのC5−8シクロアルキルオキシ基(C5−6シクロアルキルオキシ基など)が例示できる。さらに、アリールオキシ基としては、フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基などが例示でき、アラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基などが例示できる。
【0046】
また、R及びRで表されるチオエーテル基(置換チオール基又は置換メルカプト基)としては、上記エーテル基に対応するチオエーテル基(アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基など)などが例示できる。
【0047】
及びRで表されるアシル基としては、アセチル基などのC2−7アシル基(C2−5アシル基など)などが例示でき、アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基などが例示できる。
【0048】
及びRで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが例示できる。
【0049】
で表されるN,N−二置換アミノ基としては、N,N−ジアルキルアミノ基(N,N−ジメチルアミノ基などのジC1−6アルキルアミノ基、好ましくはジC1−4アルキルアミノ基など)、N,N−ジアシルアミノ基などが挙げられる。また、Rで表される置換アミノ基としては、N−一置換アミノ基[例えば、メチルアミノ、エチルアミノ基などのN−モノアルキルアミノ基(N−モノC1−6アルキルアミノ基、好ましくはN−モノC1−4アルキルアミノ基など)、ヒドロキシエチルアミノ基などのN−モノヒドロキシアルキルアミノ基(N−モノヒドロキシC1−6アルキルアミノ基、好ましくはN−モノヒドロキシC1−4アルキルアミノ基など)など]、N,N−二置換アミノ基[N,N−ジアルキルアミノ基(N,N−ジメチルアミノ基などのジC1−6アルキルアミノ基、好ましくはジC1−4アルキルアミノ基など)など]が例示できる。
【0050】
なお、基Rは、フルオレン骨格の9位に置換した2つの環Aにおいて、それぞれ異なっていてもよく、同一であってもよい。また、環Aが複数の基Rを有する場合、Rの種類は一部又は全部が同一であってもよく、全てが異なっていてもよい。基Rは、フルオレン骨格の2つのベンゼン環において、それぞれ異なっていてもよく、同一であってもよい。また、ベンゼン環が、複数の基Rを有する場合、Rの種類は、一部又は全部が同一であってもよく、全てが異なっていてもよい。
【0051】
基Rの個数(置換数)を示すn、及び基Rの個数を示すpは、それぞれ、好ましくは0〜3、さらに好ましくは0〜2の整数であってもよい。nとpとは、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、nは、フルオレン骨格の9位に置換した2つの環Aにおいて、それぞれ異なっていてもよいが、同一である場合が多い。pも、フルオレン骨格の2つのベンゼン環について、それぞれ異なっていてもよく、同一であってもよい。
【0052】
前記式(1)において、例えば、下記の化合物(a)〜(e)などが好ましい。
【0053】
(a)環Aがベンゼン環又はナフタレン環であり、Xが、ヒドロキシル基、エポキシ含有基、アミノ基、又はN−一置換アミノ基であり、RがC2−4アルキレン基であり、Rが、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はシアノ基であり、Rが、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基又はN−一置換アミノ基であり、kが0〜3の整数であり、mが1又は2であり、n及びpが、同一又は異なって、0〜3の整数である化合物;
(b)環Aがベンゼン環又はナフタレン環であり、Xがヒドロキシル基であり、RがC2−4アルキレン基であり、Rが、C1−6アルキル基、フェニル基、ハロゲン原子又はシアノ基であり、RがC1−6アルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基又はN−モノC1−6アルキルアミノ基であり、kが0〜2の整数であり、mが1であり、n及びpが、同一又は異なって、0〜2の整数である化合物;
(c)環Aがベンゼン環であり、Xがヒドロキシル基であり、RがC2−3アルキレン基であり、Rが、C1−4アルキル基又はフェニル基であり、RがC1−4アルキル基、ヒドロキシル基であり、kが0又は1であり、mが1であり、n及びpが、同一又は異なって、0又は1である化合物;
(d)環Aがベンゼン環であり、Xがヒドロキシル基であり、RがC2−3アルキレン基であり、kが0又は1であり、mが1であり、n及びpが0である化合物;及び
(e)環Aがベンゼン環であり、Xがヒドロキシル基であり、Rがエチレン基であり、RがC1−3アルキル基であり、RがC1−3アルキル基であり、kが0又は1であり、mが1であり、n及びpが、同一又は異なって、0又は1である化合物など。
【0054】
代表的なフルオレン化合物には、例えば、(A)9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類{例えば、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−10アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(ジ乃至トリヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレンなど]などの(A1)9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類(又は前記式(1)においてAがベンゼン環、kが0、Xがヒドロキシ基、mが1〜3である化合物);9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレンなど]などの(A2)9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類(又は前記式(1)においてAがナフタレン環、kが0、Xがヒドロキシ基、mが1〜3である化合物)など}、(B)9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類{例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)などの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス[3−メチル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(C6−10アリール−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス[ジ乃至トリ(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]フルオレン[例えば、9,9−ビス[ジ乃至トリ(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]フルオレンなど]などの(B1)9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類(又は前記式(1)においてAがベンゼン環、kが1以上(例えば、1〜4)、Xがヒドロキシ基、mが1〜3である化合物);9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン[例えば、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス[ヒドロキシC2−4アルコキシナフチル]フルオレン]などの(B2)9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類(又は前記式(1)においてAがナフタレン環、kが1以上(例えば、1〜4)、Xがヒドロキシ基、mが1〜3である化合物)など}などが挙げられる。
【0055】
これらのフルオレン化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0056】
フルオレン化合物の割合は、セルロース誘導体100重量部に対して、0.1〜100重量部(例えば、0.3〜80重量部)程度の範囲から選択でき、例えば、0.5〜70重量部(例えば、0.7〜65重量部)、好ましくは1〜60重量部(例えば、1.5〜50重量部)、さらに好ましくは2〜40重量部(例えば、2.5〜35重量部)、特に3〜30重量部(例えば、3.5〜25重量部)程度であってもよい。なお、フルオレン化合物の量を調整することにより、延伸性を調整することができる。例えば、フルオレン化合物の量を比較的大きくすると、より一層延伸性を向上できる。また、フルオレン化合物の量を比較的大きくすると、光学的等方性のフィルムを得やすい。
【0057】
[他の成分]
本発明の樹脂組成物は、使用される用途などに応じて、本発明の効果を損なわない範囲で必要により、慣用の添加剤、例えば、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤(耐熱安定剤)など)、難燃剤、難燃助剤、他の可塑剤、耐衝撃改良剤、充填剤(又は補強剤)、分散剤、帯電防止剤、発泡剤、抗菌剤、滑剤、レタデーション上昇剤、波長分散調整剤などが挙げられる。これらの添加剤は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0058】
本発明では、これらの添加剤のうち、成形体の着色を抑制できる点から、安定化剤を好適に配合してもよい。特に、このような安定化剤は、セルローストリアセテートのような着色しやすいセルロース誘導体を用いる場合などにおいて有効である。安定化剤には、フェノール系化合物、アミン系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物(例えば、ジ−ラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステルなどのチオジC2−4カルボン酸ジC10−20アルキルエステル)、エポキシ系化合物[例えば、エポキシ化油脂(エポキシ化大豆油など)、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル(エポキシ化ステアリン酸メチルなど)、エポキシ化ポリブタジエンなど]などが挙げられる。
【0059】
フェノール系化合物(フェノール系酸化防止剤)としては、ヒンダードフェノール系化合物(分岐アルキル基を有するフェノール化合物)、例えば、2,2−メチレンビス(6−t−ブチル−4−メチル)フェノールなどのC1−4アルキレンビス(モノ又はジ−分岐C3−8アルキルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタンなどのトリス(4−ヒドロキシ−モノ又はジ−分岐C3−8アルキルフェニル)C1−4アルカン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどトリス(モノ又はジ−分岐C3−8アルキル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどの1,3,5−トリアルキル−2,4,6−トリス(モノ又はジ分岐C3−8アルキル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン;テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどのテトラキス[アルキレン−3−(モノ又はジ−分岐C3−8アルキル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]C1−4アルカン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのペンタエリスリチルテトラキス[3−(モノ又はジ−分岐C3−8アルキル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、ヒドラジン化合物{N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジンなど}、(メタ)アクリロイル基を有するヒンダードフェノール系化合物{例えば、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレートなどの}などが挙げられる。フェノール系化合物は、例えば、チバ・ジャパン(株)製、商品名「Irganox1010」、「Irganox1076」、「Irganox1330」、住友化学(株)製、「SUMILIZER GS」などとして入手できる。
【0060】
アミン系化合物(又はアミン系酸化防止剤)としては、例えば、テトラカルボン酸トリ又はテトラピペリジルエステル[例えば、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)エステルなどのテトラカルボン酸テトラキス(テトラメチルピペリジル)エステル;ポリ[[6−[(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ]−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)イミノ]]などのヒンダードアミン系化合物(HALS);ナフチルアミン系化合物(フェニル−α−ナフチルアミンなど);ジフェニルアミン系化合物(p−イソプロポキシジフェニルアミンなど);p−フェニレンジアミン系化合物(N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンなど)などが挙げられる。
【0061】
リン系化合物(リン系酸化防止剤、リン系耐熱安定剤)としては、例えば、分岐アルキルフェニル基を有するリン系化合物{トリス(モノ又はジ−分岐C3−8アルキル−ブチルフェニル)ホスファイト[トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなど]、テトラキス(モノ又はジ−分岐C3−8アルキルフェニル)−ビスC6−10アリーレンホスファイト[テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスファイトなど]、6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフィンなどの複数の分岐アルキルフェニル基を有するリン系化合物など};トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト;トリ−2,4−ジメチルフェニルホスフィン、トリ−2,4,6−トリメチルフェニルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、トリ−o−アニシルホスフィン、トリ−p−アニシルホスフィンなどのホスフィン化合物などが挙げられる。なお、リン系化合物は、例えば、チバ・ジャパン(株)製、商品名「IRGAFOS 168」、住友化学(株)製、「SUMILIZER GP」などとして入手できる。
【0062】
これらの安定化剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの安定化剤のうち、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物などが好ましく、ヒンダードフェノール系化合物と、リン系化合物(例えば、分岐アルキルフェニル基を有するリン系化合物)との組み合わせ[特に、複数の分岐C3−8アルキル(t−ブチルなど)フェニル基を有するヒンダードフェノール系化合物と、複数の分岐C3−8アルキル(t−ブチルなど)フェニル基を有するリン系化合物との組み合わせ]なども好ましい。ヒンダードフェノール系化合物と、リン系化合物(例えば、分岐アルキルフェニル基を有するリン系化合物など)との割合(重量比)は、前者/後者=99/1〜1/99程度の範囲から選択でき、例えば、5/95〜95/5、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20程度であってもよい。
【0063】
安定化剤の割合は、セルロース誘導体及びフルオレン化合物の合計100重量部に対して、例えば、0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜7重量部、さらに好ましくは0.1〜5重量部であってもよい。
【0064】
[樹脂組成物の製造方法]
前記樹脂組成物は、前記各成分(少なくともセルロース誘導体とフルオレン化合物と)を混合することにより製造できる。このような混合により、セルロース誘導体が、フルオレン化合物により可塑化される。
【0065】
混合には、必要により、セルロース誘導体のドープを調製するのに使用される溶媒(溶剤)などを用いて行うこともできるが、本発明では、通常、溶媒を添加しなくても、効率よく、両者を混合し、セルロース誘導体を可塑化することができる。特に、本発明では、フルオレン化合物の作用により、セルロース誘導体とフルオレン化合物とを溶融混合(又は溶融混練)することが可能である。そのため、混合には、慣用の熱可塑性樹脂組成物の調製法と同様の方法、例えば、押出機(一軸又は二軸押出機など)により溶融混練する方法などが利用できる。すなわち、前記樹脂組成物は、特に、少なくともセルロース誘導体およびフルオレン化合物(および必要に応じて安定化剤などの添加剤)を溶融混合する溶融混合工程を経て得てもよい。例えば、セルロース誘導体とフルオレン化合物とを押出機に供給し、押出機内で溶融混合(溶融混練)した後、ペレット状の樹脂組成物を得てもよい。また、後述するように、溶融状態の樹脂組成物をそのままTダイなどからフィルムを押出成形してもよい。
【0066】
溶融混合温度は、樹脂組成物の分解開始温度及び溶融開始温度などに応じて、適宜選択でき、通常、分解開始温度よりも低く、溶融開始温度よりも高い温度が選択され、分解開始温度よりも80〜150℃、好ましくは90〜140℃、さらに好ましくは95〜135℃程度低い温度である場合が多い。例えば、セルロース誘導体をセルロースアセテート(特にセルローストリアセテート)で構成する場合、溶融混合温度は、200〜330℃、好ましくは220〜320℃、さらに好ましくは240〜310℃、特に250〜300℃(例えば、260〜290℃)程度であってもよい。
【0067】
セルロース誘導体組成物は、溶融混練可能であるため、熱可塑性樹脂組成物に適用される慣用の成形法(例えば、押出成形、圧縮成形など)により、成形することもできる。
【0068】
なお、前記のように、安定化剤を配合することにより、溶融混合による樹脂組成物(特にセルローストリアセテートを含む樹脂組成物)の着色を抑制できるが、さらに、不活性ガス(ヘリウム、窒素、アルゴンなど)の雰囲気下又は流通下で溶融混練することにより、樹脂組成物の着色を効果的に抑制してもよい。
【0069】
[フィルムおよび製造方法]
本発明のフィルムは、セルロース誘導体とフルオレン化合物を含んでおり、各種特性において優れている。例えば、セルロース誘導体としてセルローストリアセテートを用いると、比較的光学的等方性のフィルムを得やすい。また、本発明のフィルムは、セルロース誘導体だけでなく、フルオレン化合物を含んでいるので、光学的特性、耐熱性、耐溶剤性、耐水性などの特性において優れている。
【0070】
また、本発明のフィルムは、フルオレン化合物により可塑化されているためか、延伸性に優れている。そのため、セルローストリアセテートのような極めて延伸性に乏しいセルロース誘導体でフィルムを形成しても、効率よく延伸できる。そのため、フィルムにおいて、透明性、引張強さ、衝撃強さ、耐熱性などをより一層向上できる。
【0071】
しかも、本発明では、延伸により、フィルムの複屈折(レタデーション値)を調整又は制御することができ、光学等方性のフィルムを得ることもできる。
【0072】
なお、通常、溶融成形や延伸によって、正の複屈折を有するフィルムを得られる場合が多いが、セルロース誘導体とフルオレン化合物とを含むフィルムでは、延伸により、意外にも複屈折を有しないか又は負の複屈折を有するフィルムが得られやすいようである。しかも、延伸倍率を高めることなどにより、レタデーション値を0に近づけやすいという特性も有しているようである。
【0073】
上記のように、本発明のフィルムは、延伸性に優れており、延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムは、一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムのいずれであってもよい。これらは所望のレタデーション値などにおいて適宜選択でき、特に、光学等方性のフィルムなどでは、二軸延伸フィルムであってもよい。
【0074】
延伸フィルム(一軸又は二軸延伸フィルム)において、延伸倍率(又は配向度)は、フィルムに付与する複屈折の程度に応じて適宜選択できるが、例えば、少なくとも一方の方向(すなわち、二次軸延伸フィルムでは各方向)に1.05倍以上(例えば、1.1〜10倍)、好ましくは1.2倍以上(例えば、1.25〜8倍)、さらに好ましくは1.3倍以上(例えば、1.4〜6倍)、特に1.5倍以上(例えば、1.5〜5倍)であってもよい。なお、二軸延伸の場合、等延伸又は偏延伸のいずれであってもよい。また、一軸延伸の場合、縦延伸又は横延伸のいずれでであってもよい。
【0075】
特に、一軸延伸フィルムにおいて、延伸倍率は、1.5倍以上(例えば、1.6〜10倍)、好ましくは1.7倍以上(例えば、1.8〜8倍)、さらに好ましくは2倍以上(例えば、2.2〜5倍)であってもよい。
【0076】
また、特に、二軸延伸フィルムにおいて、各方向の延伸倍率は、例えば、1.2倍以上(例えば、1.25〜8倍)、好ましくは1.3倍以上(例えば、1.35〜7倍)、さらに好ましくは1.4倍以上(例えば、1.45〜6倍)、通常1.3〜7倍(例えば、1.35〜6倍、好ましくは1.4〜5倍、さらに好ましくは1.5〜4倍)程度であってもよい。また、二軸延伸フィルムにおいて、一方の方向の延伸倍率をD1、他方の方向(一方の方向に対して垂直な方向)の延伸倍率をD2とするとき、D1×D2の値は、例えば、1.3以上(例えば、1.4〜50)、好ましくは1.5以上(例えば、1.7〜30)、さらに好ましくは1.8以上(例えば、1.9〜20)、さらに好ましくは2以上(例えば、2.2〜18)、特に2.3以上(例えば、2.4〜15)程度であってもよい。このような延伸倍率で延伸すると、安定的に均質な延伸が可能である。また、効率よく光学的等方性のフィルムを得やすい。
【0077】
本発明のフィルムは、光学的異方性のフィルム(正又は負の複屈折を有するフィルム)であってもよく、光学等方性のフィルムであってもよい。このようなフィルムのレタデーション値(フィルム面内のレタデーション値Re)は、セルロース誘導体や添加剤の種類にもよるが、例えば、−300〜300nm(例えば、−200〜200nm)、好ましくは−100〜100nm(例えば、−80〜80nm)、さらに好ましくは−70〜70nm(例えば、−60〜60nm)程度であってもよい。なお、レタデーション値は、延伸倍率の調整やレタデーション上昇剤などの添加などにより容易に調整又は制御できる。
【0078】
なお、本発明では、前記のように、延伸によっても、複屈折を有しないか又は負の複屈折を有するフィルムを得ることができる。このようなフィルムのレタデーション値(フィルム面内のレタデーション値Re)は、セルロース誘導体の種類にもよるが、例えば、−300〜0nm(例えば、−200〜0nm)、好ましくは−100〜0nm(例えば、−80〜0nm)、さらに好ましくは−70〜0nm(例えば、−60〜0nm)程度であってもよく、通常−40〜0nm(例えば、−30〜0nm、好ましくは−20〜0nm、さらに好ましくは−15〜0nm)程度であってもよい。
【0079】
特に、複屈折を有しないか又はほとんど有しないフィルムにおいて、レタデーション値(フィルム面内のレタデーション値Re)は、例えば、−10nm〜0nm(例えば、−8〜0nm)、好ましくは−7〜0nm(例えば、−5〜0nm)、さらに好ましくは−3〜0nm(例えば、−2〜0nm)程度であってもよく、通常0(又はほぼ0)nm程度であってもよい。
【0080】
なお、レタデーション値Reは、フィルム厚みをd(nm)、複屈折をΔnとするとき、次式により算出できる。Δn=Re/d。
【0081】
本発明のフィルム(延伸又は未延伸フィルム)の平均厚みは、用途に応じて適宜選択できるが、例えば、1〜1000μm(例えば、1〜800μm)、好ましくは1.5〜600μm(例えば、2〜500μm)、さらに好ましくは2〜300μm(例えば、2.5〜200μm)、さらに好ましくは3〜150μm(例えば、5〜120μm)程度であってもよい。特に、延伸フィルムの平均厚みは、例えば、1〜200μm、好ましくは5〜150μm、さらに好ましくは10〜120μm(例えば、20〜100μm)程度であってもよい。
【0082】
このような本発明のフィルムは、前記各成分を含む樹脂組成物をフィルム成形(フィルム状に成形)するフィルム成形工程を少なくとも経て製造できる。フィルム成形に供する樹脂組成物は、前記のように、各成分の溶融混合により得られた樹脂組成物(溶融混合物)であってもよく、各成分を含む溶液(ドープ)であってもよい。特に、本発明では、前記のように、溶融混合により樹脂組成物を得ることができるので、溶融混合物としての樹脂組成物をフィルム成形に供してもよい。すなわち、本発明のフィルムは、前記溶融混合工程(前記各成分を溶融混合する溶融混合工程)と、この溶融混合工程を経て得られた溶融混合物をフィルム状に成形するフィルム成形工程とを少なくとも経て得てもよい。
【0083】
溶融混合物を用いる場合、一旦冷却した樹脂組成物(例えば、ペレット)などを慣用の成形法によりフィルム成形してもよく、溶融混合とフィルム成形とを連続的に行ってフィルム成形してもよい(すなわち、溶融製膜してもよい)。例えば、前者の方法では、樹脂組成物(溶融混合物)をプレス(プレス成形)してフィルムに成形してもよい。また、後者の方法(溶融製膜法)では、押出機などで溶融混合することにより得られた溶融状の溶融混合物(樹脂組成物)を、ダイ(例えば、Tダイなど)から押出成形(溶融押出成形)し、冷却することによりフィルムを製造してもよい。なお、溶融製膜法では、押出機のダイから押し出されるフィルム状溶融物を引き取り(ドローし)つつ冷却してもよい。
【0084】
なお、前記のように、溶液(ドープ)を用いる場合には、各成分を溶剤(溶媒)に溶解して、慣用のコーティング又は流延などの方法(溶液キャスト法)によりフィルム成形することもできる。このような場合、溶媒としては、セルロース誘導体の種類に応じて適宜選択でき、例えば、環状エーテル類やハロゲン化炭化水素などを使用できる。環状エーテル類[例えば、環状モノエーテル類(フラン、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロフルフリルアルコール、ピラン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピランなど)、環状ジエーテル(1,2−ジオキソラン、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサンなど)、環状トリエーテル類(トリオキサンなど)など]、ハロゲン化炭化水素[例えば、ジクロロメタン、トリクロロメタン(クロロホルム)、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタンなどのハロアルカン、クロロベンゼンなど]などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0085】
これらのうち、THFなどの環状モノエーテル、1,4−ジオキサンなどの環状ジエーテール、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素、環状ジエーテルとハロゲン化炭化水素との混合溶媒などが好ましい。特に、セルロース誘導体がセルロースジアセテートである場合、THFなどの環状モノエーテルであってもよく、セルローストリアセテートである場合、1,4−ジオキサンなどの環状ジエーテルとジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素との混合溶媒であってもよい。なお、前記溶液において、各成分(非溶媒成分)の濃度は、例えば、1〜50重量%、好ましくは2〜30重量%、さらに好ましくは3〜20重量%(例えば、5〜10重量%)程度であってもよい。
【0086】
本発明のフィルムが延伸フィルムである場合、前記方法は、前記フィルム成形工程を経て得られたフィルム状物(フィルム)を、さらに、延伸処理する延伸工程を含む。このような延伸処理により、前記のように、複屈折(レタデーション値)の調整又は制御が可能となる。延伸工程に供するフィルム状物は、前記のように、溶融製膜法によりフィルム状に成形されたフィルム状物であってもよく、溶液キャスト法によりフィルム状に成形されたフィルム状物であってもよい。特に、本発明では、前者の方法により得られたフィルム状物を好適に用いることができる。
【0087】
延伸処理は、通常、加熱下で行ってもよい(熱延伸であってもよい)。このような熱延伸において、加熱温度(延伸温度)は、例えば、フィルムを構成する樹脂組成物又はセルロース誘導体のガラス転移温度以上の温度であって、融点未満の温度から選択してもよい。具体的な延伸温度としては、セルロース誘導体の種類などに応じて選択でき、例えば、セルロース誘導体をセルロースアセテート(特にセルローストリアセテート)で構成する場合、延伸温度は、100〜220℃、好ましくは130〜210℃、さらに好ましくは150〜190℃程度であってもよい。
【0088】
延伸速度は、例えば、30%/分以下(例えば、1〜30%/分)、好ましくは25%/分以下(例えば、2〜22%/分)、さらに好ましくは20%/分以下(例えば、3〜18%/分)、特に15%/分以下(例えば、5〜12%分)程度であってもよい。また、延伸速度は、例えば、20mm/分以下(例えば、0.1〜15mm/分)、好ましくは10mm/分以下(例えば、0.5〜8mm/分)、さらに好ましくは7mm/分以下(例えば、1〜5mm/分)程度であってもよく、通常0.5〜5mm/分(例えば、0.8〜4mm/分、好ましくは1〜3.5mm/分、さらに好ましくは1.5〜3mm/分)程度であってもよい。
【0089】
なお、延伸において、延伸倍率は、前記の範囲から適宜選択できる。また、延伸方法は、特に制限されず、テンター法が好適に利用される。
【実施例】
【0090】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0091】
なお、各種特性は、以下のようにして測定した。
【0092】
(レタデーション値)
偏光顕微鏡(NIKON製、OPTIPHOT−POL)を用い、複屈折の正負について判断するとともに、コンペンセータ法によるレタデーション値の測定を行った。
【0093】
(光線透過率)
分光光度計((株)島津製作所製、UV3600)を用い、波長200〜800nmの範囲の光線に対する透過率(光線透過率(%))を測定した。
【0094】
実施例1〜13および比較例1〜2
表1に示す成分を表1に示す割合で使用し、二軸押出機(テクノベル社製 KZW15/30 MG)を用いて220〜290℃のシリンダー温度にて溶融混練し、ペレット状のセルロース誘導体組成物を得た。得られたペレット状の樹脂組成物を、プレス成形機でホットプレスし、フィルム(厚み100〜150μm)を作製した。
【0095】
そして、得られたフィルムおよび市販のセルローストリアセテートフィルムを、それぞれ、180℃、延伸速度10%/分(2.5mm/分程度)の条件で、表1に示す延伸倍率にて、一軸延伸(固定端一軸延伸)又は二軸延伸し、得られた延伸フィルムのレタデーション値を測定した。結果を表1に示す。なお、比較例1において、一軸延伸倍率を、実施例1と同様の1.5倍とすると破断したので、延伸倍率1.3倍で延伸した。
【0096】
なお、表1において、使用したセルロース誘導体(TAC)、フルオレン化合物および安定剤は、下記の通りである。
【0097】
TAC:セルローストリアセテート(ダイセル化学工業(株)製、TAC LT55)
BPEF:9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製)
安定剤:リン系酸化防止剤(住友化学(株)製、SUMILIZER GP)
【0098】
【表1】
【0099】
また、図1に、実施例1〜4で得られた延伸前のフィルムの透過率、実施例5〜8で得られた延伸前のフィルムの透過率、および実施例9〜13で得られた延伸前のフィルムの透過率を示すグラフを示す。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のフィルム(又は樹脂組成物)は、光学的特性(高屈折率、高透明性など)などの各種特性に優れている。また、本発明のフィルム(又は樹脂組成物)は、セルロース誘導体で形成されているにもかかわらず、溶融成形可能であり、成形性又は加工性に優れている。さらに、本発明のフィルムは、延伸性に優れており、しかも、このような延伸により、レタデーションの制御が可能となり、光学的等方性のフィルムを得ることもできる。このような本発明のフィルムは、特に、光学用フィルムとして好適である。
【0101】
光学フィルムとしては、保護フィルム(偏光膜の保護フィルムなど)、光学補償フィルムなどに好適に利用が可能であり、その他用途(拡散フィルム、プリズムシート、導光板、輝度向上フィルム、近赤外吸収フィルム、反射フィルム、反射防止(AR)フィルム、反射低減(LR)フィルム、アンチグレア(AG)フィルム、透明導電(ITO)フィルム、異方導電性フィルム(ACF)、電磁波遮蔽(EMI)フィルム、電極基板用フィルム、カラーフィルタ基板用フィルム、バリアフィルム、カラーフィルタ層、ブラックマトリクス層、光学フィルム同士の接着層もしくは離型層など)についても利用可能である。
図1