(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術のように、単に、操舵の切り増し時と切り戻し時とで異なった値を設定した場合、操舵状態の切り替わり時にアシストトルクの急変によるショックが発生し、ドライバに違和感を与える虞がある。
【0006】
これに対処し、アシストトルクの急変を抑制すべく、アシスト補正量を一次遅れ処理することも考えられるが、このような一次遅れ処理はアシスト補正量のピーク位相を遅らせることとなり、この場合にもドライバに違和感を与える虞がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、アシストトルクに対する補正量のピークの位相を遅らせることなく、操舵状態の切り替わり時の急激な変化を抑制することができる車両のパワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による車両のパワーステアリング制御装置は、車両の運転状態に応じて操舵トルクのアシストトルクを基本アシストトルクとして演算する基本アシストトルク演算手段と、
車両挙動を示すヨーレートをパラメータとして、前記基本アシストトルクに対する基本アシスト補正量を演算する基本アシスト補正量演算手段と、ドライバによる操舵状態が切り増し状態のときと切り戻し状態のときとで選択的に切り替わる操舵ゲインを生成する操舵ゲイン生成手段と、前記操舵ゲインの立ち上り部分および立ち下がり部分に
当該操舵ゲインが時間の経過ととともに変化する所定の傾きを付与する操舵ゲイン補正手段と、前記操舵ゲイン補正手段による補正後の前記操舵ゲインを前記基本アシスト補正量に乗算してアシスト補正量を演算するアシスト補正量演算手段と、前記アシスト補正量で前記基本アシストトルクを補正して最終的なアシストトルクを演算するアシストトルク演算手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両のパワーステアリング制御装置によれば、アシストトルクに対する補正量のピークの位相を遅らせることなく、操舵状態の切り替わり時の急激な変化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、
図1は車両の操舵系の概略構成図、
図2はパワーステアリング制御ルーチンを示すフローチャート、
図3は基本アシストトルクの特性の一例を示す説明図、
図4はヨーレートに基づく基本アシスト補正量の特性の一例を示す説明図、
図5はレートリミット処理の概念図、
図6は操舵により入力された舵角の一例を示すタイムチャート、
図7は
図6の操舵により発生したヨーレートに基づいて演算した基本アシスト補正量の一例を示すタイムチャート、
図8(a)は
図6の操舵状態に基づいて設定した操舵ゲインの一例を示すタイムチャートであって(b)はレートリミット処理後の操舵ゲインの一例を示すタイムチャート、
図9(a)は
図6の操舵に対して演算したアシスト補正量の一例を示すタイムチャートであって(b)及び(c)はその比較例を示すタイムチャートである。
【0012】
図1において、符号1は電動パワーステアリング装置を示し、この電動パワーステアリング装置1は、ステアリング軸2が、図示しない車体フレームにステアリングコラム3を介して回動自在に支持されており、その一端が運転席側へ延出され、他端がエンジンルーム側へ延出されている。ステアリング軸2の運転席側端部には、ステアリングホイール4が固設され、また、エンジンルーム側へ延出する端部には、ピニオン軸5が連設されている。
【0013】
エンジンルームには、車幅方向へ延出するステアリングギヤボックス6が配設されており、このステアリングギヤボックス6にラック軸7が往復移動自在に挿通支持されている。このラック軸7に形成されたラック(図示せず)に、ピニオン軸5に形成されたピニオン(図示せず)が噛合されて、ラックアンドピニオン式のステアリングギヤ機構が形成されている。
【0014】
また、ラック軸7の左右両端はステアリングギヤボックス6の端部から各々突出されており、その端部に、タイロッド8を介してフロントナックル9が連設されている。このフロントナックル9は、操舵輪としての左右輪10L,10Rを回動自在に支持すると共に、キングピン(図示せず)を介して車体フレームに転舵自在に支持されている。
【0015】
従って、ステアリングホイール4を操作し、ステアリング軸2,ピニオン軸5を回転させると、このピニオン軸5の回転によりラック軸7が左右方向へ移動し、その移動によりフロントナックル9がキングピン(図示せず)を中心に回動して、左右輪10L,10Rが左右方向へ転舵される。
【0016】
また、ピニオン軸5にアシスト伝達機構11を介して、電動モータ12が連設されており、この電動モータ12にてステアリングホイール4に加える操舵トルクをアシストする。電動モータ12は、後述する操舵制御部20で設定される制御量(本実施の形態ではアシストトルクTa)でモータ駆動部21を介して駆動制御される。なお、制御量は、アシストトルクTaに対応する電流値であってもよい。
【0017】
操舵制御部20には、車速Vを検出する車速センサ31、ハンドル角θHを検出するハンドル角センサ32、ステアリングホイール4に加えられた操舵トルクTsを検出する操舵トルクセンサ33、車両挙動(例えば、車両の旋回挙動)を示すパラメータの一例としてのヨーレートγを検出するヨーレートセンサ34が接続されている。
【0018】
そして、操舵制御部20は、車速Vと操舵トルクTsを基に基本アシストトルクTbを演算する。また、操舵制御部20は、基本アシストトルクTbに対する補正量の基本値である基本アシスト補正量ΔTbを車両挙動(例えば、ヨーレートγ)に応じて演算する。また、操舵制御部20は、ハンドル角θHに基づいて、ドライバによる操舵状態が切り増し状態のときと切り戻し状態のときとで選択的に切り替わる操舵ゲインG0を生成し、さらに、生成した操舵ゲインの立ち上がり部分および立ち下がり部分に所定の傾きを付与する補正を行う。具体的には、例えば、生成した操舵ゲインを無次元数に変換してレートリミット処理する。そして、操舵制御部20は、レートリミット処理後の操舵ゲインGを基本アシスト補正量ΔTbに乗算してアシスト補正量ΔTaを演算し、演算したアシスト補正量ΔTaを用いて基本アシストトルクTbを補正することにより最終的なアシスト補正量Taを演算する。このように、本実施形態において、操舵制御部20は、基本アシストトルク演算手段、基本アシスト補正量演算手段、操舵ゲイン生成手段、操舵ゲイン補正手段、アシスト補正量演算手段、及び、アシストトルク演算手段としての各機能を実現する。
【0019】
次に、上述の操舵制御部20で実行されるパワーステアリング制御を、
図2のパワーステアリング制御ルーチンのフローチャートに従って説明する。
【0020】
このルーチンは設定時間毎(例えば、1msec毎)に繰り返し実行されるもので、ルーチンがスタートすると、操舵制御部20は、先ず、ステップS101において、必要なパラメータとして、車速V、ハンドル角θH、操舵トルクTs、ヨーレートγ等を読み込む。
【0021】
続くステップS102において、操舵制御部20は、予め設定しておいたマップ(例えば、
図3に示す)を参照して、車速Vと操舵トルクTsを基に基本アシストトルクTbを演算する。
【0022】
続くステップS103において、操舵制御部20は、予め設定しておいたマップ(例えば、
図4に示す)を参照して、ヨーレートγを基に基本アシスト補正量ΔTbを演算する(例えば、
図7参照)。ここで、本実施形態において、基本アシスト補正量ΔTbは、基本アシストトルクTbに対する減算量であり、ヨーレートγの絶対値が大きくなるほど、手応えを増して操舵フィーリングを向上させるべく、基本アシスト補正量ΔTbの絶対値が大きくなるよう設定される。
【0023】
続くステップS104において、操舵制御部20は、ハンドル角θHと、当該ハンドル角θHの微分値(dθH/dt)とに基づいて、ドライバによる操舵の切り戻し判定を行い、この判定結果に基づき、例えば、「0」或いは「1」が選択的に切り替えられる操舵ゲインG0を生成する(例えば、
図8(a)参照)。
【0024】
具体的に説明すると、操舵制御部20は、ハンドル角θHと、ハンドル角の微分値(dθH/dt)との積(θH・(dθH/dt))が「0」以上であるとき、ドライバによる操舵状態が切り増し状態(本実施形態においては保舵状態を含む)にあると判定し、ゲインG0=1を生成する。一方、操舵制御部20は、ハンドル角θHと、ハンドル角の微分値(dθH/dt)との積(θH・(dθH/dt))が「0」未満であるとき、ドライバによる操舵状態が切り戻し状態にあると判定し、ゲインG0=0を生成する。
【0025】
続くステップS105において、操舵制御部20は、ゲインG0(「0」または「1」を、例えば、8bitの無次元数(「0/256」または「255/256」)へと型変換する。
【0026】
そして、ステップS106に進むと、操舵制御部20は、型変換後のゲインG0’に対して操舵ゲイン補正手段による操舵ゲインの補正処理を行う。具体的に説明すると、操舵制御部20は、例えば、ゲインG0のレートリミット処理をソフト的或いはハード的に行うレートリミット処理部23を有する。このレートリミット処理部23は、例えば、
図5に示すように、第1の減算部24と、スイッチ部25と、最小値選択部26と、乗算部27と、第2の減算部28とを有して構成されている。
【0027】
レートリミット処理部23において、ゲインG0’が入力されると、第1の減算部24は、ゲインG0’の前回値との差分を出力する。これにより、第1の減算部24からは、「−255/256」、「0/256」、或いは、「255/256」の何れかの値が生成される。
【0028】
スイッチ部25は、第1の減算部24からの出力値に基づき、現在入力されているゲインG0’が増加側の値(255/256)であるか或いは減少側の値(0/256)であるかを判定し、増加側の値である場合には予め設定された定数「R」を出力し、減少側の値である場合には予め設定された定数「F」を出力する。
【0029】
最小値選択部26は、第1の減算部24からの出力値の絶対値と、スイッチ部25からの出力値にサンプリング周期を乗算した値(すなわち、例えば、サンプリング周期が1msecである場合、定数「R」または「F」に0.001を乗算した値)が入力され、これら入力値のうち何れか小値を出力する。
【0030】
乗算部27は、第1の減算部24からの出力値の符号と、最小値選択部26からの出力値が入力され、これらの値の乗算値(すなわち、最小値選択部26からの出力値を復号した値)を出力する。
【0031】
第2の減算部28は、乗算部27からの出力値が入力され、前回値との差分を出力する。このようなレートリミット処理により、矩形波からなる操舵ゲインG0の立ち上がり部分および立ち下がり部分に、立ち上がり部分および立ち下がり部分の始点は同じで、その後に所定の漸近的な傾きを有する操舵ゲインGが生成される(
図8(b)参照)。
【0032】
なお、所定の漸近的な傾きは、定数「F」「R」で規定されるものである。ここで、立ち上がり部分と立ち下がり部分で傾きが同じでもよいし、違っていても良い。
【0033】
ステップS106からステップS107に進むと、操舵制御部20は、基本アシスト補正量ΔTbに対して操舵ゲインGの乗算した値(G・ΔTb)を、アシスト補正量ΔTaとして演算する(
図9(a)参照)。
【0034】
そして、ステップS108に進むと、操舵制御部20は、例えば、基本アシストトルクTbに対してアシスト補正量ΔTaを減算することによって最終的なアシストトルクTa(=Tb−ΔTa)を演算し、当該アシストトルクTaをモータ駆動部21に出力した後、ルーチンを抜ける。
【0035】
このような実施形態によれば、ドライバによる操舵状態が切り増し状態のときと切り戻し状態のときとで選択的に切り替わる操舵ゲインG0を生成し、当該操舵ゲインG0を無次元数G0’に変換してレートリミット処理を行い、レートリミット処理後の操舵ゲインGを用いて基本アシストトルクTbを補正して最終的なアシストトルクTaを演算することにより、基本アシストトルクTbに対するアシスト補正量ΔTaのピークの位相を遅らせることなく、操舵状態の切り替わり時の急激な変化を抑制することができる。
【0036】
すなわち、例えば、
図9(b)に示すように、単に、操舵の切り増し時と切り戻し時に「1」と「0」との間でステップ的に変化するゲインG0を基本アシスト補正量ΔTbに乗算してアシスト補正量ΔTaを求めた場合、操舵状態の切り替わり時にアシスト補正量ΔTaが急変してしまう。また、例えば、
図9(c)に示すように、基本アシスト補正量ΔTbを一時遅れ処理した場合、アシスト補正量ΔTaのピーク位相が実際の操舵の切換タイミングよりも遅れてしまう。これに対し、
図9(a)に示すように、操舵ゲインG0を無次元数G0’に型変換してレートリミット処理を行うことにより、ドライバの操舵に対してアシスト補正量ΔTaのピークの位相を遅らせることなく、且つ、操舵状態の切り替わり時の急激な変化を抑制することができる。
【0037】
なお、本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲内である。例えば、上述の実施形態においては、ゲインG0を「0」或いは「1」に設定する一例について説明したが、本発明はこれに限定されるものでないことは勿論である。
【0038】
また、上述の実施形態においては、車両の旋回挙動を示すパラメータの一つであるヨーレートγを用いて基本アシスト補正量ΔTbを演算する一例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の車両挙動を示すパラメータに対しても別途の基本アシスト補正量を演算することも可能である。
【0039】
さらに、車両挙動を示すパラメータ以外のパラメータに対しても別途の基本アシスト補正量を演算することも可能であり、例えば、ハンドル角θHに応じて基本アシスト補正量を演算することが可能である。この場合、例えば、ハンドル角θHの切り増し側のみアシストトルクTaを増加させるよう、ゲインGを設定することが可能である。
【0040】
さらに、基本アシストトルクTbに対する補正は、単一の項目によるもの限定されず、例えば、複数の項目のアシスト補正量を用いて補正してもよいことは勿論である。