【実施例1】
【0024】
図1は、本発明の実施例1に係るワイヤロープ1の検査装置の基本構成を示したブロック図である。
【0025】
実施例1に係るワイヤロープ1の検査装置は、複数の鋼線の束を撚り合わせて構成されるワイヤロープ1を長手方向に磁化する磁化手段としての磁化器2と、ワイヤロープ1に近接して配備されると共に、磁化器2により磁化されたワイヤロープ1における漏洩磁束を検出する磁気検出手段としての複数の磁気センサ8a〜8hと、ワイヤロープ1と装置自体との相対速度、並びに磁気センサ8a〜8hにより検出された漏洩磁束からロープピッチを算出すると共に、算出したロープピッチから張力によるワイヤロープ1の伸び量を補正した上でワイヤロープ1の捩れ量を算出するその他の各処理回路から成る演算手段と、を備えている。
【0026】
具体的に云えば、この検査装置は、ワイヤロープ1を磁化器2により長手方向に磁化するもので、ワイヤロープ1は3個の非磁性体の押圧手段となるローラ3、4、5間で3点曲げ状態となるように変形させられて保持される。ここでは、磁化器2の内側であって、ワイヤロープ1の曲げの凸部付近に沿って互いの間隔がワイヤロープ1表面の凹凸の周期と一致するように磁気センサ8a〜8hが配設されている。歪みゲージ6は、磁化器2における磁気センサ8a〜8hが配備される側と反対側の所定箇所に設けられると共に、磁化器2における磁気センサ8a〜8hを挟んだ両側位置の凸部に備えられた非磁性体の一対の押圧手段となるローラ3、5に対して、ワイヤロープ1を挟んだ反対側に備えられた非磁性体の押圧手段であるローラ4によってワイヤロープ1を押圧して3点曲げ状態に変形させた状態でワイヤロープ1の反力に伴って生じる磁化器2における歪みの変化量を計測することにより、ワイヤロープ1の張力を算出する。それ故、磁気センサ8a〜8h並びに歪みゲージ6は、装置内部でワイヤロープ1の張力を計測する装置内部の張力計測手段として機能する。
【0027】
ローラ4には、装置内部の相対速度検出手段としてのエンコーダ7が付設されており、検査装置自体とワイヤロープ1との相対速度を計測する。エンコーダ7は、上述した張力計測手段における3点曲げ状態でのワイヤロープ1との接触部分に設置された回転体を有しており、回転体の回転量の計測結果に基づいて相対速度を算出する。
【0028】
磁気センサ8a〜8hは、ワイヤロープ1表面で凹凸を成す鋼線の束によるストランド凹凸からの漏洩磁束を検出するもので、磁束密度の検出領域(検出エリア)はストランド(鋼線の束)の直径d(後述する
図2中に示す)の外接円以内の領域(鋼線の束が凹凸を成すために係る外接円ではそれらの凸部が円周に接することを示す)である。磁気センサ8a〜8hからの漏洩磁束を示す出力信号はストランド凹凸検出器9に入力される。
【0029】
ストランド凹凸検出器9では、磁気センサ8a〜8hからの漏洩磁束を示す出力信号について、エンコーダ7で算出されたワイヤロープ1と装置自体との相対速度、並びに記憶装置18に格納されたストランド凹凸距離の設計値(ワイヤロープ1の撚りピッチの設計値)からストランドの凹凸が変動する周波数を算出し、その周波数を中心とした一定幅の帯域を濾波して抽出するバンドパスフィルタ(帯域濾波手段)により信号処理して出力する。それ故、ストランド凹凸検出器9は、ストランドの凹凸が変動する周波数を算出する周波数算出手段、その周波数を中心とした一定幅の帯域を抽出する帯域濾波手段として機能する。
【0030】
ストランド凹凸検出器9からの一定幅の帯域を示す出力信号とエンコーダ7からの相対速度を示す信号とは位相補正器10に入力される。各磁気センサ8a〜8hはワイヤロープ1の長手方向に位置ずれされるように配設されているため、ワイヤロープ1の特定の位置がセンサに近接するタイミングは各磁気センサ8a〜8h毎で異なる。このタイミングのずれを補正するため、位相補正器10では磁気センサ8a〜8hからの漏洩磁束の検出値を示す出力信号について、同一のストランドの凹凸に対する信号となるように、エンコーダ7からの相対速度の信号に基づいて各磁気センサ8a〜8hからの出力信号に対する遅らせ時間を計算する。即ち、ここではワイヤロープ1の進行方向に対して手前側にある磁気センサ8aの信号を最も遅らせ、最も奧側にある磁気センサ8hに合わせて各磁気センサ8a〜8hからの出力信号を時刻歴データではなく、ワイヤロープ1の位置に対するデータに位相補正して出力する。それ故、位相補正器10は、磁気センサ8a〜8hからの漏洩磁束を示す出力信号のストランド凹凸検出器9の帯域濾波手段で濾波処理した波形を相対速度に基づいてワイヤロープ1の位置に対するデータに補正して出力する位相補正手段となる。
【0031】
位相補正器10からの位相補正された各磁気センサ8a〜8hに係る漏洩磁束の出力信号は、ピーク検出器11に入力される。一つのストランドに対して、各磁気センサ8a〜8hの個数(ここでは8個)分の出力があるが、これらの出力信号の中央値を各ストランドのピッチデータとしてピーク検出器11により抽出して出力する。それ故、ピーク検出器11は、各磁気センサ8a〜8hでそれぞれ検出された漏洩磁束の検出値についての中央値を抽出する抽出手段、位相補正器10からの出力信号の波形に対してピーク周期を計測することでロープピッチを算出するロープピッチ算出手段となる。ピーク検出器11から出力された各ストランドのピッチデータは、後述する張力補正器12に入力される。
【0032】
一方、ワイヤロープ1の張力を歪みゲージ6からの磁化器2の歪みの変化量として計測した信号は、エンコーダ7からの相対速度を示す信号と合わせて張力変換器13に入力される。張力変換器13では、歪みゲージ6からの歪みの変化量を示す信号とエンコーダ7からの相対速度の信号とを用いて、ワイヤロープ1の位置に対する張力データに変換して張力補正器12へ出力する。それ故、張力変換器13は、エンコーダ7により計測された相対速度、並びに歪みゲージ6により計測された計測結果として入力されるワイヤロープ1の張力を用いてワイヤロープ1の位置に対する張力データに変換する張力変換手段となる。
【0033】
ところで、ワイヤロープ1のロープピッチは、ワイヤロープ1の張力によっても変化する。従って、ワイヤロープ1の捩れ量を精度良く検出する場合には、ワイヤロープ1におけるロープピッチと張力とを同時に評価し、ロープピッチの変動分のうちの張力による分を除く必要がある。そのため、張力補正器12では、各ストランドのピッチデータに対する各位置での張力に基づいてワイヤロープ1の張力に対する伸びの量を算出し、ワイヤロープ1の捩れがない場合の伸び量に対する比率で示される捩れ率を算出し、係る捩れ率をストランド毎に求める。ワイヤロープ1が8本のストランドで撚られている場合、全部で8個分の捩れ率を求めてフィルタ14へ出力する。それ故、張力補正器12は、ロープピッチ算出手段からのロープピッチに対する張力変換器13での張力データに基づいてワイヤロープ1の張力に対する伸びの量を算出すると共に、ワイヤロープ1の捩れがない場合の伸び量に対する比率を示す捩れ率を算出する張力補正手段となる。
【0034】
このストランドの本数分の捩れ率を入力したフィルタ14では、その中央値をワイヤロープ1の捩れ率として出力する。フィルタ14から出力された捩れ率は、捩れ量変換器15に入力される。捩れ量変換器15では、フィルタ14からの捩れ率を記憶装置19に格納されたワイヤロープ1の初期の捩れ率に基づいて1ピッチ毎に捩れ量に変換し、ワイヤロープ1の長手方向の各位置の捩れ量を算出して捩れ量確認器16へ出力する。それ故、捩れ量変換器15は、張力補正器12で得られた捩れ率を予め得られたワイヤロープ1の初期の捩れ率に基づいて1ピッチ毎に捩れ量に変換し、ワイヤロープ1の長手方向の各位置の捩れ量を算出する捩れ量変換手段となる。
【0035】
捩れ量確認器16には、捩れ量変換器15からの捩れ量を示す出力信号と共に位相補正器10からの位相補正された各磁気センサ8a〜8hからの出力信号が入力される。捩れ量確認器16では、
位相補正器10からの出力信号の波形における振幅及び周期
を捩れ量変換器15からの捩れ量を示す出力信号の波形
が記憶装置20に格納された所定の閾値
の範囲に収まっているか否かにより
確認し、ワイヤロープ1の良否を判別
する。それ故、捩れ量確認器16は、位相補正器10からの出力信号の波形を捩れ量変換器15からの捩れ量を示す出力信号の波形が所定の閾値の範囲に収まっているか否かにより確認してワイヤロープ1の良否を判別する捩れ量確認手段となる。
【0036】
そこで、捩れ量確認器16では、捩れ量を示す出力信号の波形の振幅及び周期が所定の閾値の範囲に収まっている場合には、ワイヤロープ1の状態を合格としてその旨の結果を表示器17へ出力表示させ、収まっていない場合には、ワイヤロープ1の状態を不合格としてその旨の結果を表示器17へ出力表示させた後、それ以前に合格したデータのうちの最も新しい値を出力表示させる。また、捩れ量確認器16では、検査終了時にワイヤロープ1の全体での総捩れ量を表示器17へ出力表示させる。因みに、ここでの検査装置がエレベータ設備のワイヤロープ1を検査対象とすると共に、エレベータ設備での使用履歴を認識できる場合、捩れ量確認器16の演算機能を拡張させ、捩れ量変換器15からのワイヤロープ1の捩れ量を示す出力信号、歪みゲージ6で計測されたワイヤロープ1の張力、並びに取得されるエレベータ設備の使用履歴に応じて、ワイヤロープ1についての点検時期及び交換時期の少なくとも一方を他の機器等へ出力する出力手段として機能させることも可能である。
【0037】
図2は、実施例1に係る検査装置に備えられる磁気センサ8a〜8hからの出力信号の波形を例示した概略図である。ワイヤロープ1を磁化器2により長手方向に磁化すると、ワイヤロープ1から磁束が漏洩する。この漏洩磁束は、磁性体中を磁束が通過するときに、磁性体の形状が変化する等、磁束の通過経路上の磁気抵抗の変化により経路が変更されることで生じるものである。ワイヤロープ1の長手方向を見ると、鋼線を撚って構成されるストランドは、ワイヤロープ1の長手方向と平行になっていないので、ワイヤロープ1の表面には凹凸が生じている。これらの凹凸は磁束の通過を乱す要因となり、凹凸部分では磁気抵抗が周囲より高くなっている。これらの部分からは漏洩磁束が生じているため、この漏洩磁束を磁気センサ8a〜8hにより検出すれば、
図2に示されるように時刻に対する磁束密度の変化によりストランドの凹凸が分かるため、ロープピッチを計測することができる。
【0038】
即ち、
図2では、
図1に示したようにワイヤロープ1表面に近接して配置した磁気センサ8a〜8hで漏洩磁束を検出すると、漏洩磁束を示す信号波形のピーク間の距離がストランドの凹凸の距離となる様子を示している。
【0039】
しかしながら、ワイヤロープ1と装置自体との相対速度が変化した場合、検出するワイヤロープ1の漏洩磁束の周期も変化する。
【0040】
図3は、実施例1に係る検査装置に備えられる磁気センサ8a〜8hの出力信号についてのワイヤロープ1と装置自体との相対速度の変化による影響を信号波形で対比して説明したもので、同図(a)は磁気センサ8a〜8hの出力信号についての時刻に対する磁束密度との関係で示される信号波形図、同図(b)はワイヤロープ1と装置自体との相対速度についての時刻に対する相対速度との関係で示される信号波形図である。
図4は、
図3(a)で説明した磁気センサ8a〜8hの出力信号の波形をロープ位置に対する磁束密度との関係に置き換えて示した信号波形図である。
【0041】
ここでは、例えばワイヤロープ1と装置自体との相対速度が
図3(b)のように変化して遅くなると、ワイヤロープ1表面の凹凸からの漏洩磁束が検査装置の磁気センサ8aを通過する周期もそれに対応して遅くなるので、
図4に示されるようにロープ位置に対する磁束密度の関係では信号波形上での変動は発現しないが、
図3(a)に示されるように周期が変化する。
【0042】
図5は、実施例1に係る検査装置に備えられる磁気センサ8a〜8cとワイヤロープ1との時刻変化に伴う位置関係の推移を例示した図であり、同図(a)は時刻t1時点でのワイヤロープ1と磁気センサ8a〜8cとの位置を例示した概略図、同図(b)は時刻t2時点でのワイヤロープ1と磁気センサ8a〜8cとの位置を例示した概略図、同図(c)は時刻t3時点でのワイヤロープ1と磁気センサ8a〜8cとの位置を例示した概略図である。また、
図6は、
図5(a)〜(c)で説明した磁気センサ8a〜8cの時刻変化に伴う出力信号の推移を例示した図であり、同図(a)は第1の磁気センサ8aの出力信号を時刻に対する磁束密度との関係で示した信号波形図、同図(b)は第2の磁気センサ8bの出力信号を時刻に対する磁束密度との関係で示した信号波形図、同図(c)は第3の磁気センサ8cの出力信号を時刻に対する磁束密度との関係で示した信号波形図である。
【0043】
各図を参照すれば、磁気センサ8a〜8h(ここでは磁気センサ8a〜8cを対象としている)は、ワイヤロープ1の長手方向に並んで配設されており、磁気センサ8a〜8cとワイヤロープ1の位置関係が
図5(a)に示されるような場合のとき、
図6(a)に示すように、時刻t1において磁気センサ8aでストランド(1)−(2)間の漏洩磁束に対するピークは、時刻t2、t3に至るとそれぞれ磁気センサ8b、8cに近接する。こうした場合、磁気センサ8b、8cで検出される漏洩磁束の信号波形は、それぞれ
図6(b)、(c)のストランド(1)−(2)間の漏洩磁束に対するピークに示されるように位相がずれる。このように、同じストランドからの漏洩磁束であっても、磁気センサ8a〜8cの位置が異なるために検出するタイミングがずれてしまう。
【0044】
そこで、位相補正器10では、エンコーダ7からのワイヤロープ1の移動速度を示す相対速度、並びに予め認知している磁気センサ8a〜8hの間隔(距離)から磁気センサ8a〜8hの出力信号を位置情報に補正する処理を行うことにより、ロープ位置に対応する磁気センサ8a〜8hの出力信号を得ることができる。
【0045】
図7は、実施例1に係る検査装置に備えられる磁気センサ8a〜8hのワイヤロープ1の状態別に応じた出力信号の変遷を対比して例示した信号波形図であり、同図(a)は正常状態での磁気センサ8a〜8hの出力信号を時刻に対する磁束密度との関係で示した信号波形図、同図(b)は振幅異常状態での磁気センサ8a〜8hの出力信号を時刻に対する磁束密度との関係で示した信号波形図、同図(c)は周期異常状態での磁気センサ8a〜8hの出力信号を時刻に対する磁束密度との関係で示した信号波形図である。
【0046】
ここでは、ワイヤロープ1表面に損傷があったり、或いは鉄粉等の異物が付着していなければ、磁気センサ8a〜8hの出力信号の波形において、
図7(a)に示されるように波形に乱れが生じないが、損傷や異物が付着していれば
図7(b)に示されるように波形の振幅のピークが過大になったり、或いは
図7(c)に示されるように波形の周期が乱れてしまうことを示している。
【0047】
このように、磁気センサ8a〜8hの出力信号の波形に乱れがあると、ストランド凹凸のピーク位置を正しく検出することができない。そこで、こうした磁気センサ8a〜8hの出力信号の波形が乱れる現象に対処するため、ストランド凹凸検出器9により磁気センサ8a〜8hで検出した漏洩磁束の出力信号に対して相対速度の影響を排除した中央値を抽出し、位相補正器10によりワイヤロープ1の位置に対するデータに補正した後にピーク検出器11によりストランド毎のピッチデータの中央値でロープピッチの周期を取得するようにした上、張力補正器12で張力によるワイヤロープ1の伸び量を補正してから漏洩磁束についての元の磁束密度の波形における振幅及び周期が所定の範囲内に収まっているか否かを捩れ量確認器16で確認することによって、波形変動の影響を排除したロープピッチを算出できるため、捩れ量の検出精度を向上させて適確に検査を行うことができる。