特許第5767577号(P5767577)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5767577LED用リードフレームおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767577
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】LED用リードフレームおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/62 20100101AFI20150730BHJP
   H01L 23/48 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   H01L33/00 440
   H01L23/48 Y
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-277610(P2011-277610)
(22)【出願日】2011年12月19日
(65)【公開番号】特開2013-128076(P2013-128076A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2013年9月18日
【審判番号】不服2014-26603(P2014-26603/J1)
【審判請求日】2014年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】393017111
【氏名又は名称】神鋼リードミック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【復代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(74)【復代理人】
【識別番号】100123249
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 順
(72)【発明者】
【氏名】桂 翔生
(72)【発明者】
【氏名】西村 昌秦
【合議体】
【審判長】 恩田 春香
【審判官】 吉野 公夫
【審判官】 山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−053564(JP,A)
【文献】 特開2009−267040(JP,A)
【文献】 特開2007−149881(JP,A)
【文献】 特開2011−066073(JP,A)
【文献】 特開2005−303287(JP,A)
【文献】 特開2011−009707(JP,A)
【文献】 特開2010−135277(JP,A)
【文献】 特開2008−147511(JP,A)
【文献】 特開2010−027643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuまたはCu合金からなる基板と、
前記基板上の少なくとも片面側に形成されたAgまたはAg合金からなる膜厚0.6μm以上8μm以下の第1膜と、
前記第1膜上に形成されたTi、Zr、Ti合金、Zr合金のいずれかからなる膜厚1nm以上15nm以下の第2膜と、
前記第2膜上に形成されたPd,Ptから選択される1種以上からなる膜厚2nm以上50nm以下の第3膜と、を備えることを特徴とするLED用リードフレーム。
【請求項2】
請求項1に記載されたLED用リードフレームの製造方法であって、
前記基板上にめっき処理により形成された前記第1膜上に、Ti、Zr、Ti合金、Zr合金のいずれかからなる金属蒸発源を用いて、物理蒸着法により前記第2膜を成膜し、
前記第2膜上に、Pd,Ptから選択される1種以上からなる貴金属蒸発源を用いて、物理蒸着法により前記第3膜を成膜することを特徴とするLED用リードフレームの製造方法。
【請求項3】
前記金属蒸発源と前記貴金属蒸発源とを順番に用いて、物理蒸着法により、非酸化性雰囲気で、前記第1膜上に前記第2膜および前記第3膜を連続して成膜することを特徴とする請求項2に記載のLED用リードフレームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイのバックライト、照明器具、自動車のヘッドランプやリアランプ等に用いられる発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を光源とする発光装置を構成するLED用リードフレームに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LEDを光源とする発光装置が、省エネルギかつ長寿命である利点を活かして、広範囲の分野に普及し、各種機器に適用されている。LEDチップを光源とする発光装置の一例として、表面実装型の発光装置の構造および動作について、図2を参照して説明する。図2はLEDチップを光源とする表面実装型の発光装置の外観図であり、(a)は斜視図、(b)は平面図(上面図)である。
【0003】
図2(a)、(b)に示すように、発光装置10は、LEDチップと、LEDチップの電極(図示省略)に電気的に接続して当該LEDチップに駆動電流を供給するための導体である一対のリードフレーム1a,1cと、これらを支持する支持部材2と、を備える。詳しくは、支持部材2は、LEDチップが収容される凹状のLEDチップ実装部22が形成されて、LEDチップ実装部22の上方が広がって開口したカップ状である。リードフレーム1a,1cは、帯状で、それぞれが支持部材2の外側からLEDチップ実装部22内へ貫通している。リードフレーム1a,1cのそれぞれにおいて、LEDチップ実装部22の底面に配設された領域をインナーリード部、支持部材2の外側に延出された領域をアウターリード部と称する。
【0004】
LEDチップは、LEDチップ実装部22の底面の略中央に載置され、この位置に配設されている一方のリードフレーム1aの上面に、図示しない接着剤で固定される。さらにLEDチップは、その電極が一対のリードフレーム1a,1cのそれぞれのインナーリード部にボンディングワイヤ(ワイヤ)で接続されている。また、LEDチップ実装部22内は、エポキシ樹脂等の透明な封止樹脂(図示省略)が充填されて封止されている。すなわち、この発光装置は、LEDチップを封入したいわゆるパッケージである。なお、本明細書における「上」とは、原則として、リードフレームのLEDチップが搭載される側を指す。
【0005】
このような発光装置10は、リードフレーム1a,1cのアウターリード部を外部端子の電極として、図示しない外部の電源を接続して使用される。具体的には、発光装置10は、例えばリードフレーム1a,1cのアウターリード部が支持部材2の底面に接触するように折り曲げられて、プリント配線基板等の配線にはんだ等で電気的に接続されて実装される。配線基板の配線およびリードフレーム1a,1cを介してLEDチップに駆動電流が供給されて、LEDチップが発光し、この光がLEDチップ実装部22の開口部から発光装置10の外部へ照射される。詳しくは、駆動電流によりLEDの発光部(発光層)が発光して、この発光部を中心に光を放射してLEDチップから全方位へ照射される。
【0006】
LEDチップから照射された光のうち、上方へ照射された光は直接、LEDチップ実装部22の開口部から発光装置10の外部へ出射して照明光等として利用される。しかし、それ以外の、側方や下方へ照射された光は、LEDチップ実装部22の側面および底面ならびにこの底面上のリードフレーム1a,1c(インナーリード部)表面に入射する。そこで、これらの面がLEDチップから入射した光をよく反射させるように、支持部材2やリードフレーム1a,1cは表面の光反射率(以下、反射率という)を高くすることが求められている。例えば支持部材2は、白色樹脂で形成され、あるいはLEDチップ実装部22の各面に反射膜を形成する(図示省略)。一方、リードフレーム1a,1cは、導電性に優れてリードフレーム材料として一般的な銅(Cu)またはCu合金を基板(銅基板)として、その表面に反射膜を形成したものが知られている。このような反射膜の材料としては、銀(Ag)が金属の中で最も高い反射率を示して多くの光を反射させるために最適であり、さらにAgは、LEDチップを接続するためのワイヤボンディング性が良好で、また外部の電源に接続するためのはんだ付け性が銅基板と同様に良好であるために適用されている。また、トランジスタ等の半導体装置全般のリードフレームにおいても、ワイヤボンディング性を高くするために、銅基板の表面にAgやAuの貴金属膜を形成したものが知られている。
【0007】
しかし、Agは、発光装置10の使用時間の経過と共に、大気や封止樹脂に含まれるハロゲンイオンや硫黄と反応して表面に塩化物(AgCl)等のハロゲン化物や硫化物(Ag2S)を形成するため、これらの生成物により反射膜の表面が黒褐色に変色したり凝集して表面が荒れ、またAgはLEDチップから発生する熱によっても凝集するため、反射率が劣化するという問題がある。また、封止樹脂にエポキシ樹脂を用いた場合には、この透明なエポキシ樹脂に反射膜中のAgが拡散してAgのナノ粒子として析出し、褐色に変色させて光透過性を劣化させる。また、トランジスタ等の半導体装置に適用されるリードフレームは、チップの搭載(ダイボンディング)や樹脂による封止(モールド)において大気中で高温に加熱されるために、Ag膜が塩化腐食する虞があり、はんだ付け性が低下する。
【0008】
この問題を解決するために、例えば、特許文献1には、封止樹脂にシリコーン樹脂を適用し、反射面の純Agめっき層に、塩化物や硫化物を形成し難いAg−Au合金めっき層をさらに被覆した光半導体装置用リードフレームが記載されている。また、特許文献2には、Ge,Biを含有するAg合金膜をめっき等で成膜した後、熱可塑性樹脂でリフレクタ(図2の支持部材2に相当)を形成することで、あるいは熱処理を行うことで、その際の加熱により前記Ag合金膜のGe,Biを拡散させて表面に濃化させ、ハロゲン化銀を形成し難くした光半導体装置用リードフレームが記載されている。特許文献3,4には、Ag膜上に、耐食性に優れ、ワイヤボンディング性およびはんだ付け性の良好なPd膜を被覆した半導体装置用リードフレームが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−91818号公報
【特許文献2】特開2008−192635号公報
【特許文献3】特開平9−223771号公報
【特許文献4】特開平9−275182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載されたリードフレームのAg−Au合金膜は、塩化物や硫化物を形成し難くするためにAg含有量を50質量%未満に制限したAuを主成分とする合金からなり、Ag膜と比較して反射率に劣り、さらにコストも高くなる。特許文献2に記載されたリードフレームは、その製造において、めっきでGe,Bi濃度を制御したAg合金膜を成膜することが困難である上、その後の熱処理によりAg合金膜表面で安定してGe,Biを濃化させることも困難であり、特に、硫化物形成を防止するGeの拡散には温度および時間が不十分である。このような方法で成膜された特許文献2のAg合金膜では硫化物の形成が十分に抑制できない上、封止樹脂とするシリコーン樹脂には、樹脂の硬化触媒として塩化白金酸のような金属塩化物や金属硫化物等が含まれている。
【0011】
特許文献3,4に記載されたリードフレームでは、LEDも含めた半導体装置のチップの実装(ダイボンディング)やはんだ付け等の際に150〜250℃程度に加熱されて、下地のAgがPd膜中を拡散して表面まで移動するため、発光装置に適用されると、リードフレーム表面に移動したAgが、雰囲気中の塩素や硫黄との反応を生じることになる。また、雰囲気中の硫黄成分等がPd膜のピンホールを介してAg膜に到達する虞がある。しかし、表面へのAgの拡散を防止し、またピンホールが形成されないようにするためには、Pd膜を100nm程度以上に厚く形成することになり、コストが高くなる。
【0012】
本発明の課題は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、容易に形成することができて、硫黄成分により変色等することなく高い反射率を長期間維持できる反射膜を備え、ワイヤボンディングによる実装やはんだ付けに好適なLED用リードフレームおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、基板上に反射率の高いAgで反射膜を形成し、最表面に良好なワイヤボンディング性およびはんだ付け性を有する貴金属膜を設ける一方、この貴金属膜によらずにAg膜の劣化を防止する保護膜を設けることに想到した。そして、本願発明者らは、この貴金属膜の下地として、Ag膜上に、Ag膜の高反射率を阻害しない程度の薄膜であっても十分に緻密な膜を形成して、Agが熱拡散し難く耐硫化性に優れた金属で中間膜を設けることを見出した。
【0014】
すなわち本発明に係るLED用リードフレームは、CuまたはCu合金からなる基板と、この基板上の少なくとも片面側に形成されたAgまたはAg合金からなる膜厚0.6μm以上8μm以下の第1膜と、この第1膜上に形成されたTi、Zr、Ti合金、Zr合金のいずれかからなる膜厚1nm以上15nm以下の第2膜と、この第2膜上に形成されたPd,Ptから選択される1種以上からなる膜厚2nm以上50nm以下の第3膜と、を備えることを特徴とする。
【0015】
このようなLED用リードフレームは、反射率の高いAgまたはAg合金で第1膜を形成され、最表面に所定の貴金属からなる第3膜を備えることで、十分なワイヤボンディング性およびはんだ付け性が付与される。そしてLED用リードフレームは、第3膜の下地に第2膜として所定の金属または合金からなる中間膜を第1膜上に備えることで、第1膜のAgに外部からハロゲンイオンや硫黄が接触することを、第3膜によらずに防止することができるため、耐久性に優れる。
【0016】
前記の本発明に係るLED用リードフレームに設けられた第2膜および第3膜は、それぞれの膜材料からなる蒸発源を用いて、物理蒸着法により成膜することができる。すなわち本発明に係るLED用リードフレームの製造方法は、CuまたはCu合金からなる基板上にめっき処理により形成されたAgまたはAg合金からなる第1膜上に、Ti、Zr、Ti合金、Zr合金のいずれかからなる金属蒸発源を用いて、物理蒸着法により第2膜を成膜し、この第2膜上に、Pd,Ptから選択される1種以上からなる貴金属蒸発源を用いて、物理蒸着法により第3膜を成膜することを特徴とする。さらに、本発明に係るLED用リードフレームの製造方法は、前記金属蒸発源と前記貴金属蒸発源とを順番に用いて、物理蒸着法により、非酸化性雰囲気で、前記第1膜上に前記第2膜および前記第3膜を連続して成膜することが好ましい。
【0017】
このような手順によるLED用リードフレームの製造方法では、第2膜と第3膜とを安定した成分および膜厚で備えることができる。また、非酸化性雰囲気で連続して成膜することで、第2膜の表面に自然酸化膜のない状態で第3膜を成膜するので、第2膜と第3膜との密着性のよいLED用リードフレームを容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のLED用リードフレームは、LEDチップを搭載してワイヤボンディングにより接続することができて、その発光した光を高効率で利用して照明光の明るさを向上させ、使用時間の経過による照明光の減衰等の劣化を抑え、さらに配線基板等へのはんだ付けによる実装が可能な発光装置とすることができる。また、Agに耐久性を付与する元素を反射率が損なわれない範囲で添加する等、反射膜の成分を厳密に制御する必要がなく、容易に形成することができ、さらにPd等の貴金属を含む膜を厚く設ける必要がないため、高コストにならない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係るLED用リードフレームの構成を示す断面図である。
図2】LEDチップを光源とする表面実装型の発光装置の構造を示す外観図であり、(a)は斜視図、(b)は平面図である。
図3】本発明に係るLED用リードフレームを使用した発光装置の構造を示す断面図であり、図2(b)のA−A線矢視断面図に対応する図である。
図4】本発明の別の実施形態に係るLED用リードフレームおよびその基板の模式図であり、(a)は基板の平面図、(b)はLED用リードフレームに支持部材を設けた平面図で(a)の部分拡大図に対応する図、(c)は(b)のB−B線矢視断面図である。
図5】本発明の実施例におけるはんだ付け性の評価方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のLED用リードフレームは、LEDチップを光源として実装される発光装置を構成するための部品であり、発光装置の形状および形態、ならびにLEDチップの実装形態、製品としてユーザに提供する形態等に応じて、所要の形状および形態に構成される。以下、本発明のLED用リードフレームについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
〔リードフレーム〕
本発明の実施形態に係るLED用リードフレーム(以下、リードフレーム)について、図1を参照して説明する。本発明に係るリードフレーム1は、例えば図2および図3に示す発光装置10に組み立てたときに、光源であるLEDチップにこのLEDチップを発光させる駆動電流を供給するための配線であり、かつ、LEDチップの発光した光を反射させる反射板である。
【0022】
図1に示す実施形態に係るリードフレーム1は、基板11と、基板11の少なくとも一方の面に形成されたAgめっき膜(第1膜)12と、その上に形成された金属中間膜(第2膜)13と、さらにその上に形成された貴金属膜(第3膜)14と、を備える。さらには、Agめっき膜12、金属中間膜13、および貴金属膜14は、リードフレーム1において、少なくとも、当該リードフレーム1が発光装置にされたときにLEDチップの発光した光が入射する領域に形成されていればよい。すなわち基板11の前記一方の面とは、基板11のLEDチップが搭載される側の面になる上面(以下、適宜表面という)を指す。リードフレーム1は、裏面や、表面の前記領域以外においては、表面と同様に3層すべての膜12,13,14が形成されていてもよいし、基板11が露出していてもよいし(例えば図3参照)、Agめっき膜12のみ(例えば図4(c)参照)、または金属中間膜13と貴金属膜14の2層のみが形成されていてもよい。なお、後記の製造方法にて説明するように、リードフレーム1においては、金属中間膜13と貴金属膜14を連続的に成膜するため、原則として金属中間膜13が露出する領域は存在しない。
【0023】
(基板)
基板11は、銅(Cu)またはCu合金からなり、リードフレーム1の形状に成形される。Cu合金としては、Cuを主成分とし、Ni,Si,Fe,Zn,Sn,Mg,P,Cr,Mn,Zr,Ti,Sb等の元素の1種または2種以上を含有する合金、例えばCu−Fe−P系銅合金を用いることができる。基板11は、圧延等により、所要の厚さの素板(圧延板)とし、これをプレス加工やエッチング加工等により所要の形状に成形することによって製造することができる。基板11の板厚は特に限定されないが、形状と同様に、発光装置の形状および形態等に応じて決定される。
【0024】
さらに、基板11は、硝酸を主成分とする強酸の混合液(キリンス酸)等の酸による表面のエッチングを行ったり、コイニングにより基板11の表面の凹凸を潰しておくことにより、表面が平滑化されていることが好ましい。前記したように、基板11はCuまたはCu合金からなる圧延板を成形加工して製造されるので、圧延面に形成された酸化膜や、この酸化膜が脱落して圧延により埋め込まれた酸化物を除去するために、圧延後の研磨工程が必須である。この工程により研磨痕が表面に残るため、研磨工程後においては基板11は表面が粗くなる。ここで、リードフレーム1の表面の凹凸が激しい(高い突起や深い谷が多い)と、そのような表面に入射した光は拡散反射による反射が多くなって正反射率が減少する。リードフレーム1において、表面の正反射率が低く、拡散反射による反射が多いと、発光装置としたときに光の取出し効率が低下する。リードフレーム1の表面は、後記のAgめっき膜12により平滑化されるものの、基板11の表面が粗いほどAgめっき膜12を厚く形成する必要があり、コストが高くなる。そのため、基板11はできるだけ表面を平滑化しておくことが好ましい。
【0025】
(Agめっき膜)
本発明に係るリードフレーム1において、Agめっき膜12は、当該リードフレーム1を発光装置としたときに、LEDチップが発光した光を反射する役割を有する。Ag膜はスパッタリング法等の物理蒸着によっても成膜できるが、0.6μm以上の厚膜の形成は時間がかかり生産性に劣る。また、物理蒸着による膜は、めっき膜と異なり、厚く形成されても下地の表面形状が膜の表面形状に保持される。すなわち、Agめっき膜12は、基板11の表面の凹凸を埋めるように形成されて表面が平滑になるため、Agの有する高反射率だけでなく、リードフレーム1の反射面を平滑にして反射率をいっそう高くする。また、Agめっき膜12の上に成膜される金属中間膜13および貴金属膜14は膜厚が数nm程度からと比較的薄く、かつ物理蒸着による膜であるために下地の表面形状が保持されることから、Agめっき膜12の表面粗さがリードフレーム1の表面粗さと略一致する。すなわちAgめっき膜12の表面が平滑でないと、リードフレーム1は、表面(反射面)が平滑にならないために、発光装置としたときに反射における拡散反射が多くなって出射光の光量の損失が多くなる。さらに、Agのめっき膜は結晶粒径が比較的大きく、熱によりAgが凝集することを抑制する作用(耐凝集性)が得られる。
【0026】
Agめっき膜12は、平滑な表面を形成するめっき膜であれば、公知のめっき方法で形成される無光沢Agめっき、半光沢Agめっき、光沢Agめっきのいずれであってもよいが、発光装置としたときにLEDチップから照射された光を高効率で外部へ出射するためには光沢Agめっきが最も好ましい。また、成分はAg単体(純Ag)に限定されず、Agの高反射率が保持されればAg合金で形成されるめっき膜であってもよい。例えば、Ag−Au合金やAg−Pd合金のような貴金属との合金、あるいはAg−Bi合金等が挙げられる。
【0027】
Agめっき膜12の膜厚は0.6μm以上8μm以下とする。前記した基板11の表面粗さに対するAgめっき膜12による表面の平滑化は、当該Agめっき膜12の膜厚が厚いほど、効果が大きい。また、Agめっき膜12の表面が平滑であるほど、このAgめっき膜12を下地として形成される金属中間膜13が、薄い膜でもピンホールが形成され難くなるために、後記するように、Agめっき膜12の保護膜として十分な効果を有するものとなる。さらに、リードフレーム1が発光装置として使用されたときに、熱により基板11からCuがAgめっき膜12に拡散するため、Agめっき膜12の膜厚が不足していると、Agめっき膜12の表面(上面)までCuが到達し、Agめっき膜12の表面が変色して反射率が低下する虞がある。Agめっき膜12の膜厚が0.6μm未満では、基板11の表面粗さにも影響されるが、Agめっき膜12の表面が十分に平滑にならない場合があり、またCuによりAgめっき膜12の表面が変色する虞がある。したがって、Agめっき膜12の膜厚は、0.6μm以上とし、好ましくは0.7μm以上、より好ましくは1μm以上である。一方、Agめっき膜12は、膜厚が8μmを超えて厚くても表面の平滑化等の効果が飽和し、また厚く形成されるにしたがいリードフレーム1のコストが高くなるため、Agめっき膜12の膜厚は8μm以下とし、好ましくは7μm以下、より好ましくは6μm以下である。
【0028】
(金属中間膜)
金属中間膜13は、Agめっき膜12上に設けられ、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、Ti合金、Zr合金のいずれかで形成される。Ti合金、Zr合金は、それぞれTi,Zrを基とする合金を指し、具体的にはTiまたはZrを50at%超含有する。これらの金属または合金はAgが熱拡散し難いことから、金属中間膜13は、リードフレーム1を発光装置に組み立てる際のLEDチップの実装や、前記発光装置をはんだ付けする等の際の加熱、さらには発光装置として使用されたときの熱によって、Agめっき膜12のAgが貴金属膜14中に拡散して、さらにリードフレーム1の表面に到達することを防止するためのバリア層としての役割を有する。また、Ti,Zr、およびこれらを基とする合金は、硫黄やハロゲンイオンと反応し難く、また膜厚1nm以上であれば物理蒸着により緻密な膜を形成する。そのため、金属中間膜13は、硫黄成分等が、貴金属膜14のピンホールを介して金属中間膜13まで到達しても、Agめっき膜12までは到達させず、Agめっき膜12を保護する保護膜の役割としての役割を有する。すなわちリードフレーム1は、金属中間膜13を備えることにより、Agめっき膜12のAgが、大気や封止樹脂に含まれるハロゲンイオンや硫黄と反応して黒褐色化や凝集により反射率が劣化したり、封止樹脂に拡散して光透過性を劣化させることがない。
【0029】
金属中間膜13の膜厚は1nm以上15nm以下とする。金属中間膜13は、膜厚が厚いほど保護膜等としての効果が高く、膜厚が1nm未満では、ピンホールを有する場合があるためAgめっき膜12の保護膜として不十分であり、さらに薄くなるとバリア層としても不十分になる。したがって、金属中間膜13の膜厚は1nm以上とし、好ましくは1.2nm以上、より好ましくは1.5nm以上である。一方、金属中間膜13は、膜厚が厚くなると光を多く吸収し、膜厚が15nmを超えると、リードフレーム1の反射率の低下が顕著になる。したがって、金属中間膜13の膜厚は15nm以下とし、好ましくは13nm以下である。このように、金属中間膜13は、膜厚が数〜十数nm程度と比較的薄くかつその許容範囲も狭く、均一な膜厚に形成されることが好ましいため、スパッタリング法のような膜厚の制御の容易な物理蒸着法にて、当該金属中間膜13の成分すなわちTi、Zr、Ti合金、Zr合金のいずれかで形成された蒸発源を用いて成膜することが好ましい(後記の製造方法にて詳細に説明する)。
【0030】
ここで、Ti,Zr、およびこれらを基とする合金は、それぞれ大気中等で表面に安定した酸化膜(不働態皮膜)を形成する。この酸化膜は、耐硫化性等は優れているがワイヤボンディングにおけるワイヤとの圧着性やはんだ付け性が低く、またCu等の酸化膜と異なり、一般的なはんだに添加されるフラックスでは除去され難いため、金属中間膜13が最表面に設けられたリードフレームでは、LEDチップとの間や外部の配線基板等との間で接続不良を生じる虞がある。なお、はんだ付け性が高いとは、はんだの溶滴に接触した部分で溶融してはんだと合金化することと、はんだの溶滴の濡れ性が高いことを指す。Ti,Zr、およびこれらを基とする合金ははんだ付け性を有するが、これらの金属酸化物ははんだと合金化せず濡れ性も低い。そこでリードフレーム1は、以下の通り、金属中間膜13上すなわち最表面に、ワイヤとの圧着性およびはんだ付け性に優れた貴金属膜14を備える。
【0031】
(貴金属膜)
貴金属膜14は、金属中間膜13上の、リードフレーム1の最表面に設けられ、パラジウム(Pd)、白金(Pt)のいずれか、またはPd−Pt合金で形成される。貴金属膜14は、リードフレーム1がLEDチップを実装されて発光装置に組み立てられる際のワイヤボンディング性、および組み立てられた発光装置を配線基板等に実装する際のはんだ付け性を付与する。すなわちPd,Ptは、Au等からなるワイヤの圧着性がよく、また、はんだ付け性(はんだとの合金化容易性、はんだの濡れ性)も十分有し、極めて薄い膜であっても十分なワイヤボンディング性およびはんだ付け性が得られる。また、Pd,Ptは、その表面に不働態皮膜を形成しないにも関わらず耐食性に優れているので、リードフレーム1の配線としての導電性を低下させることがなく、また反射率が比較的高いので、リードフレーム1の反射率がAgめっき膜12の高反射率から大きく低下することがない。
【0032】
貴金属膜14の膜厚は2nm以上50nm以下とする。リードフレーム1において、Agめっき膜12の保護膜は金属中間膜13であり、貴金属膜14はリードフレーム1に十分なワイヤボンディング性およびはんだ付け性を付与することができればよい。そのために、貴金属膜14の膜厚は2nm以上とし、好ましくは2.5nm以上、より好ましくは3nm以上である。一方、貴金属膜14は、膜厚が50nmを超えて厚くてもワイヤボンディング性等の効果が飽和し、また材料のコストが高いため、厚く形成されるにしたがいリードフレーム1のコストが高くなるため、膜厚は50nm以下とし、好ましくは40nm以下である。このように、貴金属膜14は、金属中間膜13と同様に膜厚が比較的薄くかつ均一に形成されることが好ましいため、スパッタリング法のような膜厚の制御の容易な物理蒸着法にて、当該貴金属膜14の成分すなわちPd,Pt、またはPd−Pt合金で形成された蒸発源を用いて成膜することが好ましい(後記の製造方法にて詳細に説明する)。
【0033】
ここで、貴金属膜14は、下地となる金属中間膜13の表面に酸化膜が形成された状態では密着性が低く、このようなリードフレームにLEDチップをワイヤボンディング実装すると、貴金属膜14が剥離して圧着したワイヤごと離脱する虞がある。さらに、リードフレームのはんだ付けにおいて、はんだの溶滴に接触して表面が溶融すると、貴金属膜14の下の酸化膜が露出することになり、貴金属膜14が設けられない場合と同様に、はんだの濡れ性が低下する。そのため、リードフレーム1は、金属中間膜13と貴金属膜14の界面に(貴金属膜14が形成される前の金属中間膜13の表面に)酸化膜が形成されていないようにする(後記の製造方法にて詳細に説明する)。なお、スパッタリング法でPd,Ptが数nm以下の薄い膜に形成された場合、貴金属膜14はピンホールを有する膜になり易いが、ワイヤボンディング性やはんだ付け性が低下することはなく、またピンホールを介して金属中間膜13の表面(界面)における間隙に不働態皮膜が形成されても、貴金属膜14の密着性が劣化することはない。
【0034】
金属中間膜13、貴金属膜14のそれぞれの膜厚は、X線光電子分光分析(XPS)法で測定することができる。具体的にはX線光電子分光分析装置を用いて、リードフレーム1の表面(貴金属膜14の表面)から深さ(膜厚)方向へ、貴金属膜14に含有される金属元素(PdまたはPt)、金属中間膜13に含有される金属元素(TiまたはZr)、およびAgめっき膜12に含有されるAgの各濃度を測定し、表面から深さ方向へのプロファイルを得る。そして、例えば貴金属膜14がPdで、金属中間膜13がTiで、それぞれ形成されたリードフレーム1においては、表面からPdの濃度(含有率)が、最高値の1/2まで減少した深さまでを貴金属膜14の膜厚と規定し、前記の深さからTiの濃度が、最高値の1/2まで減少した深さまでを金属中間膜13の膜厚と規定することができる。
【0035】
また、リードフレーム1は、Agめっき膜12の下地として、より安価なNiでめっき膜を備えてもよい(図示省略)。Niめっき膜もAgめっき膜12と同様に基板11の表面の凹凸を平滑化することができるため、その分、Agめっき膜12を薄くしてコストを低減することができる。さらに、NiはAgよりもCuが熱拡散し難いため、Niめっき膜が形成されることにより、Agめっき膜12を薄膜化しても、その表面の変色を防止することができる。これらの効果を十分に得るために、Niめっき膜の膜厚は0.5μm以上とすることが好ましい。このようなリードフレーム1とする場合、例えば、基板11に光沢Niめっきを施し、連続的に光沢Agめっきを施してAgめっき膜12を形成することができる。
【0036】
リードフレーム1の平面視形状は特に限定されず、発光装置の形状および形態等に応じて設計され、例えば、後記の発光装置の基板11A(図4(a)参照)のように、リードフレーム1が複数個連結された構成としてもよい。また、リードフレーム1はコイル状の条材等でもよく、この場合は、発光装置の製造時に当該発光装置の形状等に応じて切断、成形等加工される。
【0037】
〔リードフレームの製造方法〕
本発明に係るリードフレームは、前記の構成を形成できる方法であれば特に制限されず、いずれの方法により製造してもよい。例えば、リードフレーム1は、基板11を作製する基板作製工程S1、基板11にAgめっき膜12を形成するAgめっき工程S2、そして、Agめっき膜12の表面に金属中間膜13を、さらにその表面に貴金属膜14を連続的に形成する積層膜形成工程S3を含む方法によって製造することができる(図示省略)。なお、各工程には説明のために符号を付す。以下に、リードフレーム1の製造方法の一例を説明する。
【0038】
(基板作製工程)
基板作製工程S1は、材料のCuまたはCu合金を連続鋳造して鋳造板(例えば、薄板鋳塊)を製造し、次に、焼鈍、冷間圧延、中間焼鈍および時効処理、さらに、仕上げ圧延、研磨等の工程を経て、所要の厚さの素板を製造する。この素板を切断やプレス加工等によりリードフレーム1の形状に成形して基板11を得ることができる。
【0039】
(Agめっき工程)
Agめっき膜12の成膜に際して、予め基板11を脱脂液による脱脂、電解脱脂、および酸溶液によって前処理を行うことが好ましい。前処理は、例えば、基板11を、脱脂液に浸漬して脱脂した後、対極をステンレス鋼(SUS304)として、リードフレーム側がマイナスとなるようにして直流電圧を印加して30秒間程度電解脱脂を行い、さらに、10%硫酸水溶液に10秒程度浸漬することによって行うことができる。
【0040】
Agめっき膜12は、例えば、シアン浴、チオ硫酸塩浴等の公知のめっき浴を用い、Ag(純度99.99%)板を対極とし、電流密度5A/dm2、めっき浴温度15℃等の条件で電気めっきを行うことによって成膜することができる。また、光沢剤を添加しためっき浴を用いて光沢Agめっき膜とすることもできる。この電気めっきにおいては、電流密度やめっき通板速度(めっき時間)等を調整することによって、所望の膜厚のAgめっき膜12を得ることができる。また、基板11の片面(上面)のみ、あるいはさらに一部の領域のみにAgめっき膜12を形成する場合は、下面や前記領域以外にマスキングテープ等でマスキングした後、めっき浴で電気めっきを行うことによって、基板11の所望の部位のみにAgめっき膜12を形成することができる。
【0041】
(積層膜形成工程)
金属中間膜13および貴金属膜14は、それぞれスパッタリング法のような物理蒸着法にて、当該金属中間膜13、貴金属膜14の各組成に合わせた金属または合金でそれぞれ形成された蒸発源(ターゲット)を用いて成膜することができる。そして、前記した通り、本発明に係るリードフレーム1は、金属中間膜13と貴金属膜14の界面に酸化膜が形成されていないように構成される。そこで、リードフレーム1の製造において金属中間膜13の表面に酸化膜が形成されないように、真空等の非酸化性雰囲気で金属中間膜13を成膜し、大気に開放されることなく引き続いて貴金属膜14を成膜する積層膜形成工程S3を行うことが好ましい。そのために、金属中間膜13および貴金属膜14の各ターゲットを同時に設置することができるように、2基以上の電極を備え、電圧を印加する電極の切換えの可能なスパッタリング装置を用いることで、金属中間膜13、貴金属膜14を連続して成膜する。
【0042】
金属中間膜13とAgめっき膜12との密着性をよくするために、積層膜形成工程S3においては、成膜前に表面にArイオンビームを照射したり、Ar雰囲気中で高周波を印加することにより、Agめっき膜12表面に存在する汚れを除去することが好ましい。まず、金属中間膜13用のターゲット(金属蒸発源)と貴金属膜14用のターゲット(貴金属蒸発源)とを別々の電極に設置し、Agめっき膜12を形成した基板11をスパッタリング装置のチャンバー内に載置する。次に、チャンバー内を1.3×10-3Pa以下の圧力まで真空排気した後、チャンバー内にArガスを導入して、チャンバー内圧力を所定の圧力、例えば2×10-2Pa程度に調整する。そして、イオンガンに所定の放電電圧を印加してArイオンを発生させ、さらに所定の加速電圧とビーム電圧を印加することにより、ArイオンビームをAgめっき膜12表面に照射する。その後、チャンバー内にArガスを導入しながら、チャンバー内の圧力を0.27Pa程度に調整し、金属中間膜13用のターゲットに直流電圧(出力100W)を印加することによりスパッタリングを行って、金属中間膜13を成膜する。Agめっき膜12上に金属中間膜13が形成されたら、前記ターゲットへの電圧印加を停止して金属中間膜13の成膜を完了し、引き続いて貴金属膜14用のターゲットに直流電圧(出力100W)を印加することによりスパッタリングを行って、貴金属膜14を成膜することでリードフレーム1を製造できる。それぞれのターゲットへの電圧印加時間を制御して、金属中間膜13および貴金属膜14を所望の膜厚に形成することができる。
【0043】
このように、同一のスパッタリング装置を用いてチャンバー内をAr等により低酸素雰囲気として金属中間膜13および貴金属膜14を連続して成膜すると、金属中間膜13表面が大気に曝されることがないため、酸化膜(不働態皮膜)が形成されることなく、貴金属膜14が金属中間膜13上に密着性よく形成される。
【0044】
なお、金属中間膜13、貴金属膜14を異なる成膜装置で形成したり、金属中間膜13の形成後にチャンバーを開放して蒸発源を交換する等により、金属中間膜13表面が大気に曝された場合は、貴金属膜14を成膜する前に、金属中間膜13表面に形成された自然酸化膜を除去する。具体的には、金属中間膜13の成膜前に行った、チャンバー内の真空排気やArガスによる圧力調整等の一連の作業を再び行った後、金属中間膜13にArイオンビームを照射したり、Ar雰囲気中で高周波を印加することにより、金属中間膜13表面に形成された自然酸化膜を除去することができる。すなわち、金属中間膜13の成膜前のAgめっき膜12表面の汚れの除去と同様の処理を行えばよい。
【0045】
以上のように、前記工程S1,S2,S3をこの順に行うことによりリードフレーム1を製造することができる。また、Agめっき工程S2において、基板11(11A)をマスキングせず全面(両面および端面)にAgめっき膜12を形成し、積層膜形成工程S3にて、片面(表面)にのみ金属中間膜13および貴金属膜14を形成すると、図4(c)に示すリードフレーム1を製造することができる。また、基板作製工程S1における基板11の所望の形状への成形前に、Agめっき工程S2、あるいはさらに積層膜形成工程S3を行ってから、所望の形状に加工して製造することもできる。さらに、Agめっき膜12の下地としてNiめっき膜を形成する場合は、Agめっき工程S2の前に、基板11にNiめっきを施す。以下、Niめっきについて説明する。
【0046】
Niめっき膜は、例えば、ワット浴、ウッド浴、スルファミン酸浴等の公知のめっき浴を用い、Ni板を対極とし、電流密度5A/dm2、めっき浴温度50℃等の条件で電気めっきを行うことによって成膜することができる。また、光沢剤を添加しためっき浴を用いて光沢Niめっき膜とすることもできる。この電気めっきにおいては、Agめっき工程S2と同様に、電流密度やめっき通板速度(めっき時間)等を調整することによって、所望の膜厚のNiめっき膜を得ることができる。また、Niめっき前にAgめっき工程S2と同様の前処理を基板11に行うことが好ましく、さらに、Niめっき膜を成膜(Niめっき)した後の基板11をめっき浴から引き上げて水洗し、表面を乾燥させることなく連続してAgめっき工程S2を行うことが好ましい。
【0047】
〔発光装置〕
次に、本発明に係るリードフレームを組み込んだ発光装置についてその一例を説明する。図2に示す発光装置10は、前記した通り、一般的な表面実装型の発光装置である。図2および図3に示すように、発光装置10において、本発明に係るリードフレーム1は帯状の一対のリードフレーム1a,1cとして、凹状のLEDチップ実装部22が形成されたカップ状の支持部材2により支持される。詳しくは、リードフレーム1a,1cは、それぞれが支持部材2の外側からLEDチップ実装部22内へ貫通して、金属中間膜13および貴金属膜14が形成された側の面を上にしてLEDチップ実装部22の底面に配設されている。そして、LEDチップ実装部22の底面における略中央に載置されるように、リードフレーム1a上に、LEDチップが接着されている。LEDチップは、その電極が、LEDチップ実装部22において一対のリードフレーム1a,1c(インナーリード部)にボンディングワイヤ(ワイヤ)で接続されている。また、LEDチップ実装部22内は、透明な封止樹脂(図示省略)が充填されて封止されている。
【0048】
このような発光装置10は、リードフレーム1(1a,1c)が貫通するように支持部材2を形成した後、LEDチップを実装し、封止することにより製造される。以下、本発明に係るリードフレーム1を組み込んで、発光装置10を製造する方法の一例を説明する。
【0049】
支持部材2は、絶縁材料である樹脂を成形してなる。したがって、支持部材2は、その外側から内側(LEDチップ実装部22)へリードフレーム1a,1cがそれぞれ貫通するように、射出成形(インサート成形)等によって、リードフレーム1a,1cと一体的に成形されることが好ましい。樹脂は、耐熱性が200℃以上のものであればよく、ポリアミド(PA)樹脂等のエンジニアリングプラスチック、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂等のスーパーエンジニアリングプラスチック等を用いることができる。
【0050】
支持部材2により支持されたリードフレーム1a,1cに、LEDチップを実装する。まず、LEDチップ実装部22の底面の略中央におけるリードフレーム1a(インナーリード部)の表面にシリコーンダイボンド材等からなる接着剤(図示省略)を塗布して、その上にLEDチップを接着して搭載する。次に、ワイヤボンディングにより、金ワイヤでLEDチップの電極を、リードフレーム1a,1cのLEDチップ実装部22底面に配設された領域(インナーリード部)に接続する。そして、LEDチップ実装部22内にエポキシ樹脂等の封止樹脂を充填することにより封止して、LEDチップを光源として搭載した発光装置10となる。なお、図4(a)に示す基板11Aで複数個を連結されたリードフレーム1の場合は、連結された状態で図4(b)、(c)に示すように支持部材2Aが成形され、LEDチップを実装、封止してから、太破線で切り離されて個片化した発光装置に製造される。
【0051】
リードフレーム1は、例えば砲弾型の発光装置のような、支持部材2を備えない発光装置に使用されてもよい(図示せず)。砲弾型の発光装置を製造するには、基板11を、異形条材(圧延幅方向に板厚の異なる圧延板)の板厚の厚い部位をプレス鍛造でカップ形状に成型して、このカップ形状の外側に板厚の薄い部位が帯状に延出された形状に作製する。そして、この基板11のカップ形状の内側表面に、Agめっき膜12、金属中間膜13、および貴金属膜14を形成してリードフレームとする。カップ形状の内面がリードフレーム1aのインナーリード部とLEDチップ実装部22とを兼ね、帯状の部位がアウターリード部となる。これに、別部材で作製したリードフレーム1c(基板11のみで構成されてもよい)を合わせて一組のリードフレームとする。このようなリードフレームでは、LEDチップはカップ形状の内底面に搭載されて実装され、カップ形状の内部に封止樹脂を充填して封止されて発光装置となる。このような構造の発光装置は、リードフレーム1で、LEDチップの下方の反射面のみならず側方の反射面を構成することができる。
【0052】
リードフレーム1を用いて得られる発光装置において、反射面すなわちリードフレーム1の表面は、Agめっき膜12により、LEDチップが発光する光の多くを正反射させて拡散反射を抑えられるため、LEDチップを搭載した発光装置の明るさを向上させることができる。そして、このAgめっき膜12は、金属中間膜13に被覆されていることにより、LEDチップの熱によるAgの凝集や変色が生じ難く、さらにハロゲンイオンや硫黄等によるAgの凝集を引き起こさず耐久性に優れ、LEDチップが発光した光を安定して反射して発光装置から光として取り出すことができる。さらに、Agめっき膜12は、Agのナノ粒子の析出を引き起こさず、エポキシ樹脂等の封止樹脂を変色させることがないため、LEDチップが発光した光を高効率で利用することを可能とする。
【0053】
さらに、このような発光装置は、リードフレーム1の表面に設けられた貴金属膜14によって、はんだ付けにより配線基板等に実装することが可能であり、また当該発光装置が組み立てられた際のワイヤボンディング性が良好なため、接合不良が生じない。
【0054】
以下、本発明の実施例によって、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0055】
〔試料作製〕
下記のようにして、図1に示す積層構造のリードフレーム1の試料を、Agめっき膜、金属中間膜、および貴金属膜のそれぞれの成分および膜厚を変化させて作製した。基板として、厚さ0.1mmのCu−Fe−P系銅合金板(KLF194H、株式会社神戸製鋼所製)を適用した。
【0056】
(めっき前処理)
前記基板を、めっき前処理として、脱脂液に浸漬して、対極をステンレス鋼(SUS304)として、基板側がマイナスとなるようにして直流電圧を印加して30秒間電解脱脂を行った後、10%硫酸水溶液に10秒浸漬した。
【0057】
(Agめっき膜の形成)
前処理後の基板に、下記の方法で表1に示す膜厚および組成のAgめっき膜を形成した。
組成がAg(純Ag)であるAgめっき膜(試料No.1〜9,12〜15)は、下記成分、液温50℃のシアン浴で、対極をAg(純度99.99%)板とし、電流密度:5A/dm2で、光沢Agめっきを施して形成した。Agめっき膜を形成した後、めっき浴から引き上げて水洗した。
Agめっき浴成分
シアン化銀カリウム(I):50g/L
シアン化カリウム :40g/L
炭酸カリウム :35g/L
添加剤 :3ml/L
【0058】
組成がAg−0.2at%Bi合金であるAgめっき膜(試料No.10,11)は、液温25℃の、Bi濃度:100mg/LのAg−Bi合金めっき浴で、対極をPt板とし、電流密度:3A/dm2で、Ag−Bi合金めっきを施して形成した。Agめっき膜を形成した後、めっき浴から引き上げて水洗した。なお、Agめっき膜の組成を分析するために、ステンレス304をダミー基板として前記と同じ条件でめっき膜を形成した。このめっき膜をダミー基板から剥離させて硝酸で溶解後、溶解した硝酸の液を、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析装置(ICPS−8000、株式会社島津製作所製)を用いて分析することにより、組成を求めた。
【0059】
Agめっき膜の膜厚は、めっき速度に基づいてめっき時間を調整することで制御した。詳しくは、試料と同じ前記の条件でダミー基板に一定時間めっきを施した。そして、Ag(純Ag)めっき膜については、ダミー基板のめっき前との重量差を測定することによりAgの付着量を求め、この付着量をめっき面積、Agの理論密度、およびめっき時間で割ることにより単位時間に析出するAgめっき膜厚(めっき速度)を算出した。Ag(Ag−Bi合金)めっき膜については、ダミー基板のめっき膜の厚さを断面SEM観察により測定してめっき速度を算出した。それぞれのAgめっき膜について、めっき速度から所望の膜厚を形成するめっき時間を算出した。
【0060】
(金属中間膜、貴金属膜の成膜)
Agめっき膜を形成した基板に、下記の方法で金属中間膜および貴金属膜を形成した。スパッタリング装置に、表1に示す金属中間膜および貴金属膜の組成に合わせたそれぞれの金属からなるターゲット(直径10.16cm(4インチφ)×厚さ5mm)を設け、チャンバー内に基板を載置した。次に、真空ポンプでチャンバー内圧力が1.3×10-3Pa以下となるように真空排気した後、Arガスをチャンバー内に導入してチャンバー内圧力を0.27Paに調整した。この状態で、金属中間膜用のターゲット、貴金属膜用のターゲットに順次、直流電圧(出力100W)を印加してスパッタリングを行い、表1に示す膜厚の金属中間膜および貴金属膜の2層膜を成膜し、リードフレーム1の試料を作製した。なお、試料No.15は、金属中間膜、貴金属膜を成膜せず、Agめっき膜のみを形成した。
【0061】
(金属中間膜、貴金属膜の膜厚の測定)
作製したリードフレームの試料にX線光電子分光分析(XPS)を行って、金属中間膜、貴金属膜の各膜厚を測定した。試料の表面について、全自動走行型X線光電子分光分析装置(Physical Electronics社製Quantera SXM)を用いて、貴金属膜を形成する金属元素、金属中間膜を形成する金属元素、およびAgの各濃度を、表面から深さ方向へ測定した。測定条件は、X線源:単色化Al−Kα、X線出力:43.7W、X線ビーム径:200μm、光電子取出し角:45°、Ar+スパッタ速度:SiO2換算で約0.6nm/分とした。金属酸化膜に含まれる金属元素の濃度が、最高濃度の1/2まで減少した深さを金属酸化膜の膜厚とした。表面からPdまたはPtの濃度(含有率)が、最高値の1/2まで減少した深さまでを貴金属膜の膜厚とし、前記の深さから金属中間膜を形成する金属元素の濃度が、最高値の1/2まで減少した深さまでを金属中間膜の膜厚とし、表1に示す。
【0062】
〔測定、評価〕
リードフレームの試料について、下記の方法で、表面の反射率、耐熱性、耐硫化性、ワイヤボンディング性、およびはんだ付け性を評価した。
【0063】
(反射率評価)
自動絶対反射率測定システム(日本分光株式会社製)を用いて、入射角5°、反射角5°の条件で、波長250〜850nmにおける分光反射率を測定して正反射率を求めた。正反射率50%以上を合格基準とした。正反射率を表1に示す。
【0064】
(耐熱性評価)
耐熱試験として、試料を、恒温槽内で150℃で6時間加熱し、引き続き260℃で5分間加熱した。試験後、表面の正反射率を前記と同様の方法で測定し、耐熱試験による正反射率の低下が5ポイント未満のものを合格とした。正反射率および正反射率の試験によるポイント減を表1に示す。
【0065】
(耐硫化性評価)
耐硫化試験として、硫化水素濃度3ppm、温度40℃、湿度80%に調整したチャンバー内に、試料を96時間暴露した。試験後、表面の正反射率を前記と同様に測定し、耐硫化性試験による正反射率の低下が20ポイント未満のものを合格とした。正反射率およびポイント減を表1に示す。
【0066】
(ワイヤボンディング試験)
試料の図4(b)に示すリード部材1a,1c間(インナーリード部、図2(b)参照)を、マニュアルボンダ(KULICKE and SOFFA INDUSTRIES社製、Model 4127)を用いて、ワイヤとして線径φ25μmの金(純Au)線(田中貴金属工業株式会社製)でワイヤボンディングした。そして、光学顕微鏡で観察しながら金線の中央をピンセットで掴んで引っ張ることにより試験を行った。その結果、金線が試料のボンディング箇所から剥離することなく金線を切ることができた場合をワイヤボンディング性が良好であるとして合格とし、表1に「○」で表す。一方、金線が切れる前に少なくとも一方のボンディング箇所から金線が剥離した場合を不良とし、表1に「×」で表す。
【0067】
(はんだ付け性評価)
試料をホットプレートで250℃に加熱し、直径約5mmのはんだボール(Sn−3.0at%Ag−0.5at%Cu)を溶融させて、試料の表面に垂らした後、試料をホットプレートから外して冷却してはんだを凝固させた。そして、凝固したはんだ溶滴の試料表面における濡れ接触角を測定した。図5に示すように、試料を側面視で(試料の表面に水平な方向から見て)観察し、はんだ溶滴の端点と頂点とを結ぶ線分(図中に破線で示す)が試料表面となす角θを測定し、2θをはんだ溶滴の濡れ接触角であるとした。はんだ溶滴の濡れ接触角2θが小さいほどはんだの濡れ性がよいことを示し(図5(a)参照)、濡れ接触角2θが大きくなるとはんだの濡れ性が低下する(図5(b)参照)。濡れ接触角2θが80°以下であれば、はんだの濡れ性を十分に有してはんだ付けによる実装が可能であるので、はんだ付け性合格とし、特に2θ<45°をはんだ付け性優良として「◎」、45°≦2θ≦80°をはんだ付け性良好として「○」で、それぞれ表1に表す。一方、濡れ接触角2θが80°を超えて大きいとはんだ付けによる実装が困難になり、80°<2θ≦90°を「△」で、2θ>90°を「×」で、それぞれ表1に表す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、試料No.1〜11は、Agめっき膜に、所定の金属材料および膜厚の金属中間膜、貴金属膜を被覆した本発明に係るリードフレームの実施例であるため、優れた耐熱性および耐硫化性、ならびに良好なワイヤボンディング性およびはんだ付け性を示した。
【0070】
これに対して、試料No.15はAgめっき膜のみを設けたため、初期反射率は高かったが、耐熱試験、耐硫化試験によるAgめっき膜の劣化が著しく、反射率が大きく低下した。また、試料No.13は金属中間膜の膜厚が不足したため、耐熱性は有するものの、耐硫化試験において、貴金属膜のピンホールから浸入した硫化水素雰囲気を遮蔽することができず、Agめっき膜が劣化した。試料No.14は貴金属膜の膜厚が不足したため、ワイヤボンディングすることはできたものの金線の圧着が弱く、ボンディング箇所で金線が離脱し、またはんだ付け性が低下した。一方、試料No.12は、金属中間膜に高融点のTaを適用したため、耐熱性および耐硫化性は良好であったが、金線の圧着が弱く、ボンディング箇所で金線が離脱し、またはんだの濡れ性が低下した。
【符号の説明】
【0071】
1,1a,1c リードフレーム(LED用リードフレーム)
11,11A 基板
12 Agめっき膜(第1膜)
13 金属中間膜(第2膜)
14 貴金属膜(第3膜)
図1
図2
図3
図4
図5