(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767592
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】樹脂製ヘルール継手
(51)【国際特許分類】
F16L 23/04 20060101AFI20150730BHJP
F16J 15/06 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
F16L23/04
F16J15/06 L
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-12275(P2012-12275)
(22)【出願日】2012年1月24日
(65)【公開番号】特開2013-151964(P2013-151964A)
(43)【公開日】2013年8月8日
【審査請求日】2014年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163647
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 英治
(72)【発明者】
【氏名】平岡 朋子
【審査官】
杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3104291(JP,U)
【文献】
特開2003−240172(JP,A)
【文献】
特開平02−102991(JP,A)
【文献】
特開2004−225833(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0093844(US,A1)
【文献】
米国特許第06045033(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 23/04
F16J 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製ヘルール継手構造であって、ヘルールフランジと該ヘルールフランジの外面に接するバックアップフランジとを備え、該ヘルールフランジの該バックアップフランジと接する表面が環状に凸状部を有し、該バックアップフランジの該ヘルールフランジと接する表面が環状に凹状部を有し、該凸状部と該凹状部とが嵌合する、継手構造。
【請求項2】
さらに、前記ヘルールフランジの末端面に接するヘルールガスケットを備え、該へルールガスケットの該ヘルールフランジと接する表面が外周端近くで環状に凸状部を有し、該ヘルールフランジの該ヘルールガスケットと接する表面が環状に該ヘルールガスケットの該凸状部と嵌合する凹状部を有し、該ヘルールフランジの前記バックアップフランジに接する表面の環状の該凸状部が該ヘルールフランジの該ヘルールガスケットに接する表面の環状の該凹状部に沿った形状である、請求項1に記載の継手構造。
【請求項3】
前記ヘルールフランジの材質が、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体である、請求項1または2に記載の継手構造。
【請求項4】
前記バックアップフランジの材質が、ステンレスである、請求項1から3のいずれかの項に記載の継手構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製ヘルール継手に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品の製造工程の配管は清浄であることが不可欠である。したがって、配管は継目なく製造するか、容易に分解洗浄できるように、IDF(International Dairy Federation)規格に定められたヘルール継手により接続する。
【0003】
配管は、金属製が一般的であるが、ボトリングに用いる飲料移送用の配管のように衛生環境適合性・耐腐食性が求められる場合には、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などの樹脂製の配管が好まれる。
【0004】
従来の樹脂製配管のヘルール部(ヘルール継手)を
図2に示す(ただし、下半分は省略されている。以下の図においても同様)。従来の樹脂製へルール継手150は、配管4の末端5と接液部7とを含む樹脂製ヘルールフランジ15と、ヘルールフランジ15の外面に接する、ヘルールフランジ15を補強するための金属製のバックアップフランジ25とを備える。ヘルールフランジ15はバックアップフランジ25と接する側でテーパー状の表面を有し、バックアップフランジ25はヘルールフランジ15と接する側およびその反対側でテーパー状の表面を有する。ヘルールフランジ15とバックアップフランジ25とはテーパー状の表面を介して当接している。すなわち、バックアップフランジ25は、厚さがほぼ均一で、ヘルールフランジ15の外面形状に沿った単純なテーパー形状を有する。
【0005】
ヘルールフランジ15は末端面でヘルールガスケット3と接し、へルールガスケット3のヘルールフランジ15と接する表面は外周端近くで環状に凸状部(すなわち、周方向にリップ形状)を有し、ヘルールフランジ15のヘルールガスケット3と接する表面は環状にヘルールガスケット3の凸状部と嵌合する凹状部(すなわち、周方向に溝形状)を有する。ヘルールフランジ15とヘルールガスケット3とは環状に形成された凹凸状部(すなわち、周方向の溝−リップ形状)における嵌合を介して接することにより、樹脂製ヘルール継手150のシール性を高めている。ヘルールガスケット3を挟んだ2つのヘルールフランジ15の外面に接する2つのバックアップフランジ25の外面をクランプバンドで締め付けることにより、樹脂製ヘルール継手150のシール性が確保される。
【0006】
ヘルール継手150は、配管本体とは溶着部6を介して接続される。ストッパー8は、バックアップフランジ25を固定するための金属性のワンカットリングであり、バックアップフランジ25のシール面の背面側の側面に沿って、ヘルールフランジ15の外周面に設けられた溝に嵌合する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の樹脂製ヘルール継手150を長期間使用すると、外面を拘束されたヘルールフランジ15は、長期の締め付けによるクリープや配管4を通る液体の熱サイクルあるいは配管4に繰返し負荷される引張力、圧縮力により変形してシール性が損なわれ、配管4を通る液体がヘルール継手150から漏れるおそれがあった。
【0008】
具体的には、
図3に示すように、ヘルールフランジ15は、長期間の使用の間に、樹脂内部の応力および熱収縮などにより配管末端5の接液部7で径方向中心側にΔd変形し、配管末端5の端面がθの角度でテーパー状に変形する。これに伴い、ヘルールガスケット3に接する外周端近くの凹状部で径方向中心側にΔC変形し、外周端で径方向中心側にΔD変形する。このため、Δdおよびθによるヘルールガスケット3とヘルールフランジ15との間で締付面圧が不足してシール性が低下し、ΔCおよびΔDによるヘルールガスケット3とヘルールフランジ15との間で締付面圧が不足してシール性が低下する結果、配管4を通る液体がヘルール継手150から漏れるおそれがあった。
【0009】
本発明は、長期間使用してもほとんど変形しない樹脂製ヘルール継手構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、ヘルールフランジとバックアップフランジとが接する表面に嵌合可能な環状の凹凸状部を設けることによって、樹脂製ヘルールフランジの変形を抑えることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は樹脂製ヘルール継手構造を提供し、該継手構造は、ヘルールフランジと該ヘルールフランジの外面に接するバックアップフランジとを備え、該ヘルールフランジの該バックアップフランジと接する表面は環状に凸状部を有し、該バックアップフランジの該ヘルールフランジと接する表面は環状に凹状部を有し、該凸状部と該凹状部とは嵌合する。
【0012】
1つの実施態様では、上記継手構造はさらに、上記ヘルールフランジの末端面に接するヘルールガスケットを備え、該へルールガスケットの該ヘルールフランジと接する表面は外周端近くで環状に凸状部を有し、該ヘルールフランジの該ヘルールガスケットと接する表面は環状に該ヘルールガスケットの該凸状部と嵌合する凹状部を有し、該ヘルールフランジの上記バックアップフランジに接する表面の環状の該凸状部は該ヘルールフランジの該ヘルールガスケットに接する表面の環状の該凹状部に沿った形状である。
【0013】
1つの実施態様では、上記ヘルールフランジの材質は、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体である。
【0014】
1つの実施態様では、上記バックアップフランジの材質は、ステンレスである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長期間使用してもほとんど変形しない樹脂製ヘルール継手構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の樹脂製ヘルール継手構造の一実施態様を示す縦断面図(ただし、下半分は省略)である。
【
図2】従来の樹脂製ヘルール継手の実施態様を示す縦断面図(ただし、下半分は省略)である。
【
図3】従来の樹脂製ヘルール継手の実施態様で生じる変形を示す縦断面図(ただし、下半分は省略)である。
【
図4】本発明の樹脂製ヘルール継手構造の変形例を示す縦断面図である。
【
図5】本発明の樹脂製ヘルール継手構造の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の樹脂製ヘルール継手構造の一実施態様を
図1に示す。本発明の一実施態様の樹脂製へルール継手100は、配管4の末端5と接液部7とを含む樹脂製ヘルールフランジ10と、ヘルールフランジ10の外面に接する、ヘルールフランジ10を補強するためのバックアップフランジ20とを備える。ヘルールフランジ10のバックアップフランジ20と接する表面は環状(同心円状)に凸状部(すなわち、周方向にリップ形状)を有し、バックアップフランジ20のヘルールフランジ10と接する表面は環状に凹状部(すなわち、周方向に溝形状)を有する。ヘルールフランジ10のバックアップフランジ20と接する表面の環状の凸状部とバックアップフランジ20のヘルールフランジ10と接する表面の環状の凹状部とは嵌合する。
【0018】
本発明の樹脂製ヘルール継手100はさらに、従来の樹脂製ヘルール継手150と同様に、ヘルールフランジ10の末端面に接するヘルールガスケット3を備える。へルールガスケット3のヘルールフランジ10と接する表面は外周端近くで環状に凸状部(すなわち、周方向にリップ形状)を有し、ヘルールフランジ10のヘルールガスケット3と接する表面は環状にヘルールガスケット3の凸状部と嵌合する凹状部(すなわち、周方向に溝形状)を有する。ヘルールフランジ10とヘルールガスケット3とは環状の凹凸状部(すなわち、周方向の溝−リップ形状)における嵌合を介して接することにより、樹脂製ヘルール継手100のシール性を高めている。ヘルールガスケット3を挟んだ2つのヘルールフランジ10の外面に接する2つのバックアップフランジ20の外面をクランプバンドで締め付けることにより、樹脂製ヘルール継手100のシールが確保される。
【0019】
本発明の樹脂製ヘルール継手100は、従来の樹脂製ヘルール継手150と同様に、配管本体とは溶着部6を介して接続される。ストッパー8は、バックアップフランジ20を固定するために、バックアップフランジ20のシール面の背面側の側面に沿って、ヘルールフランジ10の外周面に設けられた溝に嵌合する。
【0020】
ヘルールフランジ10のバックアップフランジ20と接する表面の環状の凸状部の形状は、凸状であって、対向するバックアップフランジ20の表面の凹状部に嵌合可能である限り、特に限定されない。好ましくは管軸に沿う断面の形状が半円状である。同様に、バックアップフランジ20のヘルールフランジ10と接する表面の環状の凹状部の形状は、凹状であって、対向するヘルールフランジ10の表面の凸状部に嵌合可能である限り、特に限定されない。好ましくは管軸に沿う断面の形状が半円状である。
【0021】
ヘルールフランジ10とバックアップフランジ20とが接する表面に嵌合可能な環状の凹凸状部(すなわち、周方向の溝−リップ形状)を設けることによって、ヘルールフランジ10は、長期間の使用においても、配管末端5の接液部7で径方向中心側に変形することが抑制され、配管末端5の端面がθの角度でテーパー状に変形することも抑制されるため、ヘルールガスケット3とヘルールフランジ10との間のシール性を長期間にわたって維持できる結果、配管4を通る液体がヘルール継手100から漏れることを効果的に防止することができる。
【0022】
好ましくは、ヘルールフランジ10のバックアップフランジ20に接する表面の環状の凸状部(すなわち、周方向のリップ形状)はヘルールフランジ10のヘルールガスケット3に接する表面の環状の凹状部(すなわち、周方向の溝形状)に沿った形状である。この場合、ヘルールフランジ10は、管軸方向に厚さがほぼ均一になるため、長期の締め付けによるクリープや配管4を通る液体の熱サイクルあるいは配管4に繰返し負荷される引張力、圧縮力に対する耐性が増大するので、ヘルールフランジ10が内方に変形してシール性が低下する結果、配管4を通る液体がヘルール継手100から漏れることを効果的に防止することができる。
【0023】
前述の実施形態においては、ヘルールフランジ10のバックアップフランジ20と接する側面の形状、およびバックアップフランジ20のヘルールフランジ10と接する側面の形状は、ヘルールフランジ10のヘルールガスケット3と接する側面の凹溝形状に沿う湾曲形状とする場合について説明したが、例えば、凹溝形状に沿う傾斜形状(
図4参照)または段形状(
図5参照)であってもよい。
【0024】
本発明のヘルールフランジの材質としては、特に限定されず、例えば、PFA、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PVdF(ポリフッ化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素樹脂、あるいはシリコン、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、ナイロンなどの汎用樹脂が挙げられる。食品や医薬品の製造工程に使用されるヘルール継手には、クリーン性や非粘着性が要求されることから、好ましくはフッ素樹脂である。より好ましくは、PFAである。
【0025】
本発明のバックアップフランジの材質としては、ヘルールフランジよりも熱膨張率が低い限り、特に限定されない。例えば、金属、あるいはPEEK、POM(ポリオキシメチレン(ポリアセタール樹脂))、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)などの樹脂が挙げられる。金属としては、例えば、ステンレスが挙げられる。好ましくは、ステンレスである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、長期間使用してもほとんど変形しない樹脂製ヘルール継手構造を提供することができる。本発明の樹脂製ヘルール継手構造は、増し締めやガスケットの交換などのメンテナンスの負担を大幅に低減することができる。
【符号の説明】
【0027】
10 本発明のヘルールフランジ
15 従来のヘルールフランジ
20 本発明のバックアップフランジ
25 従来のバックアップフランジ
3 ヘルールガスケット
4 配管
5 配管末端
6 溶着部
7 接液部
8 ストッパー
100 本発明の樹脂製ヘルール継手
150 従来の樹脂製ヘルール継手
θ 変形角度
ΔC 変形寸法
ΔD 変形寸法
Δd 変形寸法