特許第5767605号(P5767605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767605
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】道路標示材用処理剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20150730BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20150730BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20150730BHJP
   C09D 145/00 20060101ALI20150730BHJP
   C09D 193/04 20060101ALI20150730BHJP
   E01C 23/20 20060101ALI20150730BHJP
   E01F 9/04 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D5/00 D
   C09D7/12
   C09D145/00
   C09D193/04
   E01C23/20 Z
   E01F9/04
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-111529(P2012-111529)
(22)【出願日】2012年5月15日
(65)【公開番号】特開2013-237777(P2013-237777A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2014年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190172
【氏名又は名称】信号器材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】前島 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 明
(72)【発明者】
【氏名】和田 欣也
(72)【発明者】
【氏名】宍倉 歩
【審査官】 安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−116513(JP,A)
【文献】 特開平01−170669(JP,A)
【文献】 特開昭63−037170(JP,A)
【文献】 特開2008−222740(JP,A)
【文献】 特開2005−213466(JP,A)
【文献】 特開平08−302316(JP,A)
【文献】 特開平11−172290(JP,A)
【文献】 特開2008−007690(JP,A)
【文献】 特開2000−154399(JP,A)
【文献】 特開2013−001835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00〜C09D201/10
E01C1/00〜E01C23/24
E01F9/00〜E01F9/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘結樹脂、エラストマー、可塑剤及び有機溶剤が配合され、
前記有機溶剤が、芳香族炭化水素、イソブチルアルコール及びプロピレングリコールモノメチルエーテルのうちのいずれかの可燃性溶剤と、臭素系不燃性溶剤との混合物であり、前記可燃性溶剤と前記臭素系不燃性溶剤との混合重量比が1:20〜1:5であることを特徴とする道路標示材用処理剤。
【請求項2】
前記有機溶剤の配合量が75〜90重量%であることを特徴とする請求項1記載の道路標示材用処理剤。
【請求項3】
前記臭素系不燃性溶剤は、主成分が1−ブロモプロパンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の道路標示材用処理剤。
【請求項4】
前記粘結樹脂が、テルペン系樹脂又はロジン系樹脂であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の道路標示材用処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路標示材の接着性を高めるための道路標示材用処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートやアスファルトの路面等に、車線区分線や横断歩道等の交通標識を道路標示材で施工したり、道路上の既設塗膜の補修等を行ったりする際、道路標示材の被着面を活性化させて接着性を高めるために、該被着面を清掃した後、予め処理剤を塗布することが行われている。
【0003】
前記処理剤としては、粘結樹脂、エラストマー及び可塑剤からなる接着成分と溶剤を配合したものが用いられる。
従来、前記処理剤に配合される溶剤としては、トルエン、アセトン、酢酸エチル等の可燃性溶剤が用いられていた。また、過去には、トリクロロエタンやトリクロロエチレン、塩化メチレン等の塩素系の不燃性溶剤が用いられていたこともある(特許文献1参照)。
【0004】
また、接着成分である前記粘結樹脂としては、かつては、天然樹脂が使用されていたが、近年は、コスト等の観点から、C5系石油樹脂が一般に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−116513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、可燃性溶剤を用いた処理剤は、その塗布面上に施工される道路標示材の施工機が火を使用しており、十分に乾燥してから道路標示材の施工を行わないと、引火する危険性がある。また、可燃性溶剤を用いた処理剤は、第4類第1石油類に属する危険物であるため、消防法により貯蔵や運搬時の規制があり、安全な取り扱いに留意しなければならない。
一方、塩素系不燃性溶剤は、化学物質審査規制法(化審法)に基づいて、生体に有害であるとして指定された物質であるため、使用規制が厳しい。
【0007】
また、粘結樹脂としてC5系石油樹脂を用いた処理剤は、特に、気温が低い冬期の施工時において、既設塗膜上への塗布面が滑りやすくなり、自転車やバイク等の転倒がしばしば見られ、このような滑りやすい点について、現場からの強い改善要望があった。
【0008】
したがって、塗布性を低下させることなく、より安全で、かつ、低温時の施工の際にも塗布面が滑りにくい処理剤が求められている。
【0009】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、不燃性かつ非危険物であり、しかも、低温時の施工の際においても、塗布面が滑りにくく、施工上の安全性が高い、道路標示材の塗布に好適な道路標示材用処理剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る道路標示材用処理剤は、粘結樹脂、エラストマー、可塑剤及び有機溶剤が配合され、前記有機溶剤が、芳香族炭化水素、イソブチルアルコール及びプロピレングリコールモノメチルエーテルのうちのいずれかの可燃性溶剤と、臭素系不燃性溶剤との混合物であり、前記可燃性溶剤と前記臭素系不燃性溶剤との混合重量比が1:20〜1:5であることを特徴とする。
上記のような配合組成によれば、不燃性かつ非危険物であり、また、道路標示材の被着面の接着性を保持しつつ、塗布面が滑りにくい処理剤を提供することができる。
【0011】
前記道路標示材用処理剤においては、有機溶剤の配合量が75〜90重量%であることが好ましい。
有機溶剤を上記範囲内の配合量とすることにより、施工上、適度な粘度の処理剤とすることができ、また、道路標示材の被着面に良好な接着性を付与することができる。
【0013】
前記臭素系不燃性溶剤は、主成分が1−ブロモプロパンであることが好ましい。
適度の揮発性を有しており、低毒性であり、安定剤が添加された不燃性の洗浄剤として市販されており、入手しやすく、また、処理剤に好適に適用することができる。
【0014】
また、前記粘結樹脂は、テルペン系樹脂又はロジン系樹脂であることが好ましい。
このような天然樹脂由来の粘結樹脂を用いることにより、塗布面をより滑りにくくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る道路標示材用処理剤は、不燃性かつ非危険物であり、塩素系不燃性溶剤が用いられていた、かつての不燃性処理剤に比べて、環境への負荷も小さく、生体への安全性も高い。しかも、低温時の施工の際においても、道路標示材の被着面の接着性を保持しつつ、塗布面を滑りにくくすることができ、施工上の安全性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、より詳細に説明する。
本発明に係る道路標示材用処理剤は、粘結樹脂、エラストマー、可塑剤及び有機溶剤が配合されたものである。そして、前記有機溶剤が、芳香族炭化水素、イソブチルアルコール及びプロピレングリコールモノメチルエーテルのうちのいずれかの可燃性溶剤と、臭素系不燃性溶剤との混合物であることを特徴とするものである。
すなわち、本発明に係る処理剤は、粘結樹脂、エラストマー及び可塑剤が接着剤成分であり、該接着剤成分が揮発性の有機溶剤で希釈されたものである。
【0017】
前記可燃性溶剤は、施工上、比較的揮発性の低いものが好ましく、イソブチルアルコール又はプロピレングリコールモノメチルエーテルが好適に用いられ、また、芳香族炭化水素の場合は、トルエン又はキシレンが好適に用いられる。
また、前記可燃性溶剤と混合される臭素系不燃性溶剤としては、1−ブロモプロパンを主成分(含有量95重量%以上)とし、安定剤が添加された不燃性溶剤を好適に用いることができる。なお、このような溶剤は、臭素系洗浄剤として市販されている(例えば、アブゾールJG:アルベマール社製、TA−1000:日東化学産業株式会社製)。このような臭素系不燃性溶剤は、適度の揮発性を有しており、低毒性であり、取り扱い上好ましいものである。
【0018】
前記可燃性溶剤と臭素系不燃性溶剤とが混合された前記有機溶剤は、その混合重量比が1:20〜1:5の範囲内であることが好ましい。
このような割合で混合することにより、臭素系不燃性溶剤と同程度に引火性を抑えることができ、該処理剤は非危険物となり、取り扱いが容易となる。
臭素系不燃性溶剤の重量が可燃性溶剤の重量の5倍未満の場合、該処理剤の引火性を十分に抑えることができない。一方、20倍を超える場合、混合有機溶剤の揮発性が高くなりすぎ、塗布施工上取り扱いにくくなり、また、コスト高となるため好ましくない。
【0019】
前記有機溶剤の配合量は、処理剤のうちの75〜90重量%であることが好ましい。
上記範囲内とすることにより、接着剤成分である粘結樹脂、エラストマー及び可塑剤を適度な粘度に希釈することができ、施工しやすくなり、また、道路標示材の被着面に良好な接着性を付与することができる。
前記配合量が75重量%未満の場合、処理剤の粘度が高くなり、塗布施工しにくくなる。一方、90重量%を超えると、該処理剤による十分な接着性が得られない。
【0020】
前記粘結樹脂としては、従来から使用されている石油樹脂を用いた場合にも、該処理剤の塗布面のすべりを改善することが可能であるが、より滑りにくくする観点から、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジンエステル樹脂等のテルペン系樹脂又はロジン系樹脂を用いることが好ましい。
このような天然樹脂由来の粘結樹脂を用いることにより、気温の低い冬期の施工時においても、塗布面を滑りにくくすることができ、施工時の安全性をより向上させることができる。
【0021】
なお、前記エラストマー及び可塑剤は、従来の処理剤に用いられているものと同様のものを適用することができる。
前記エラストマーとしては、例えば、合成ゴムやスチレン−イソブチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブチレンブロック共重合体(SBS)を用いることができる。
また、可塑剤としては、例えば、アルキッド樹脂やフタル酸エステル、エポキシ化油、鉱物油等を用いることができる。
【0022】
本発明に係る処理剤においては、前記粘結樹脂、エラストマー及び可塑剤は、それぞれ、1種類ずつ配合してもよく、あるいはまた、2種類以上を配合してもよい。
【0023】
上記のような本発明に係る道路標示材用処理剤の塗布方法は、特に限定されるものではなく、従来の処理剤と同様に、スプレー塗布、刷毛塗り、モップ塗り又はローラー塗り等の方法で塗布することができる。
【0024】
なお、本発明に係る処理剤の塗布面上に施工される道路標示材は、特に限定されるものではなく、例えば、加熱溶融型塗料、加熱溶融型シート又は感圧貼付型シート等を適用することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0026】
(実施例1)
下記に示す配合組成からなる道路標示材用処理剤を調製した。
粘結樹脂 :テルペンフェノール樹脂 10.7重量%
エラストマー :スチレン−イソブチレン共重合体 2.0重量%
可塑剤 :アルキッド樹脂 1.9重量%
可燃性溶剤 :トルエン 7.8重量%
臭素系不燃性溶剤:臭素系洗浄溶剤(主成分:1−ブロモプロパン)
78.1重量%
【0027】
(実施例2)
下記に示す配合組成からなる道路標示材用処理剤を調製した。
粘結樹脂 :テルペンフェノール樹脂 10.4重量%
エラストマー :スチレン−イソブチレン共重合体 2.1重量%
可塑剤 :アルキッド樹脂 1.9重量%
可燃性溶剤 :トルエン 13.9重量%
臭素系不燃性溶剤:臭素系洗浄溶剤(主成分:1−ブロモプロパン)
71.7重量%
【0028】
(比較例)
粘結樹脂としてC5系石油樹脂、有機溶剤として可燃性溶剤のみを使用した、下記に示す配合組成からなる従来品の道路標示材用処理剤を比較例とした。
粘結樹脂 :C5系石油樹脂(主原料:1,3−ペンタジエン)
16.0重量%
エラストマー :スチレン−イソブチレン共重合体 3.8重量%
可塑剤 :アルキッド樹脂 6.1重量%
可燃性溶剤 :トルエン 74.1重量%
【0029】
上記実施例1の処理剤について、JIS−K2265に準じた方法により、タグ密閉式引火点試験及びクリーブランド開放式引火点試験を行った結果、72℃以下において引火点を示さず、不燃性であることが確認された。
【0030】
上記実施例及び比較例の各処理剤について、塗布後のすべり抵抗を、ポータブルスキッドレジスタンステスターを用いて測定した。
これらの測定結果を表1にまとめて示す。なお、測定条件は、気温24℃、湿度60%である。また、測定値は、BPN(British Pendulum Number)と呼ばれる固有値であり、20℃補正値であり、数値が大きいほど、すべり抵抗が大きいことを示している。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示した測定結果から、実施例1,2の処理剤は、従来品である比較例に比べて、塗布面が滑りにくいことが確認された。