(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767647
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】ポリ(A)RNA及びmRNAを検出及び定量するための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20150730BHJP
C12Q 1/68 20060101ALI20150730BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20150730BHJP
G01N 33/542 20060101ALI20150730BHJP
G01N 33/533 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
C12N15/00 A
C12Q1/68 A
G01N33/53 M
G01N33/542 A
G01N33/533
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-541492(P2012-541492)
(86)(22)【出願日】2010年12月1日
(65)【公表番号】特表2013-512665(P2013-512665A)
(43)【公表日】2013年4月18日
(86)【国際出願番号】EP2010068663
(87)【国際公開番号】WO2011067299
(87)【国際公開日】20110609
【審査請求日】2013年11月21日
(31)【優先権主張番号】102009056729.1
(32)【優先日】2009年12月4日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】599072611
【氏名又は名称】キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ファング ナン
【審査官】
柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2004/0076994(US,A1)
【文献】
米国特許第05976797(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の手順工程を含む、ポリ(A)RNA及び/又はmRNAを特異的に検出及び/又は定量するための方法:
i) ポリ(A)RNAを含有する試料及び/又はmRNAを含有する試料を、蛍光色素及び消光剤を含むポリ(dT)オリゴヌクレオチドと接触させる工程であって、上記消光剤は、上記蛍光色素の発光波長においてポリ(dT)オリゴヌクレオチドにおける蛍光をハイブリダイズ状態及び非ハイブリダイズ状態の両者において完全に消光する消光剤である、上記工程;
ii) 蛍光シグナルが変化しない状態で、上記ポリ(dT)オリゴヌクレオチドをポリ(A)RNA及び/又はmRNAにハイブリダイズさせる工程;
iii) 工程ii)で得られたハイブリダイゼーション混合物を、一本鎖特異的ヌクレアーゼと接触させる工程であって、蛍光標識されたヌクレオチドが、ポリ(A)RNA及び/又はmRNAとハイブリダイズしていないポリ(dT)オリゴヌクレオチドから放出され、その結果、蛍光シグナルの増加が生じる、上記工程;
iv) 生じた蛍光シグナルを測定する工程。
【請求項2】
上記ポリ(dT)オリゴヌクレオチドが(dT)ヌクレオチドのみで構成されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記ポリ(dT)オリゴヌクレオチドが、異なる種類の ポリ(dT)含有オリゴヌクレオチドの混合物であって、それら異なる種類のポリ(dT)含有オリゴヌクレオチドは、それらの3’末端に、(dT)ヌクレオチドではない少なくとも1つのさらなるヌクレオチドを有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記ポリ(dT)オリゴヌクレオチドが、10個から100個のヌクレオチド範囲の長さを有することを特徴とする、請求項1から3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
上記ポリ(dT)オリゴヌクレオチドが、18個から25個のヌクレオチド範囲の長さを有することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記ポリ(dT)オリゴヌクレオチドにおける蛍光色素と消光剤との間の距離が、最大で30ヌクレオチドであることを特徴とする、請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
上記ポリ(dT)オリゴヌクレオチドにおける蛍光色素及び消光剤が、当該オリゴヌクレオチドの各反対側の末端に結合していることを特徴とする、請求項1から6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
上記蛍光色素が、6−FAM(商標)、6−JOE(商標)、アレクサ・フロー(Alexa Fluor) (登録商標)568、アレクサ・フロー(Alexa Fluor)633、アレクサ・フロー(Alexa Fluor)680、ボディピィ(Bodipy) (登録商標)、CALフロー(CAL Fluor) (登録商標)、CALフロー・レッド(CAL Fluor Red)610、TAMRA(商標)、HEX(商標)、オレゴン・グリーン(Oregon Green) (登録商標)、TET(商標)、テキサス・レッド(Texas Red) (登録商標)、マリーナ・ブルー(Marina Blue) (登録商標)、エダンズ・ボセル・ブルー(Edans Bothell Blue)、フルオレセイン、ヤキマ・イエロー(Yakima Yellow) (商標)、グロッド(Glod)540、Cy(登録商標)3.5及びCy5を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1から7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
上記消光剤が、DABCYL、BHQ1(登録商標)、BHQ2(登録商標)及びTAMRAを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1から7の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
上記一本鎖特異的ヌクレアーゼがエキソヌクレアーゼであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
上記一本鎖特異的ヌクレアーゼが、エキソヌクレアーゼI、エキソヌクレアーゼT及びRecJを含む群から選択されるか、又はこれらヌクレアーゼの混合物であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記一本鎖特異的エキソヌクレアーゼが、エキソヌクレアーゼI若しくはエキソヌクレアーゼTであるか、又はこれらエキソヌクレアーゼの混合物であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記一本鎖特異的ヌクレアーゼが、エンドヌクレアーゼであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
上記一本鎖特異的エンドヌクレアーゼが、S1ヌクレアーゼ若しくはマング・ビーン・ヌクレアーゼ(mung bean nuclease)、又はこれらエンドヌクレアーゼの混合物であることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(A)RNA及び/又はmRNAを検出及び/又は定量するための方法であって、蛍光色素及び消光剤を含むポリ(dT)オリゴヌクレオチドが、検出される核酸にハイブリダイズされる、上記方法に関する。ハイブリダイズされないポリ(dT)オリゴヌクレオチドは、添加されたヌクレアーゼによって分解され、その結果、蛍光標識されたヌクレオチドが放出され、その結果生じる蛍光シグナルが測定される。
【背景技術】
【0002】
mRNAの正確な添加量の定量は、分子生物学における多くの方法に非常に重要である。より具体的には、例えば定量逆転写PCR(qRT-PCR)及びマイクロアレイ等の様々な遺伝子発現解析においては、このいわゆる正規化が、正確かつ比較可能な実験結果を取得するために重要である。RNAの添加量は、通常、260nmでの吸光度を測定する吸光光度分析法によって定量される。しかし、この手法には、この波長ではmRNAのみならず、DNA、rRNA、tRNA及びさらなる非コードRNA(ノンコーディングRNA)等のさらなる核酸もまた検出され、即ち、存在するmRNAの正確な量がわからないという欠点がある。
【0003】
上記の理由により、一般的には、RNAの定量の前に、精製法を利用してDNAを試料から除去するが、これは、追加の方法工程及び費用を要することを意味する。DNAの除去後、トータルRNAの量を分光光度計で定量し、そこから、存在するmRNAの量を間接的に推定する。しかし、トータルRNAに対するmRNAの割合は一定ではなく、調製毎、さらに異なる出発材料によっても完全に異なり得ることから、トータルRNAを用いて存在するmRNAの量を推定する場合、高い誤差率が生じる。
【0004】
上記方法のさらなる不利な点としては、試料中のmRNAが既に(部分的に)分解されているかどうか確証できない点がある。mRNAの分解は、時に、3’末端におけるポリ(A)テールの除去によって開始し、コード領域の分解がそれに続く。このようなmRNAは、もはや完全でなはく、しばしば分子生物学の実験には使用できない。
【0005】
完全で定量化可能な全mRNAを分子生物学的反応に添加し得るためには、このmRNAは先ず、固相に結合したポリ(dT)ヌクレオチドを用いた、時間がかかる多工程の手順において生物学的試料から精製されなければならない。しかし、この手順は、定量的ではなく、そのため、精製手順の間、生物学的試料からのmRNAの一部は失われる。精製後、このように単離されたmRNAは分光光度法で定量されなければならず、このことは、追加の方法工程を要するだけでなく、単離されたmRNAの一部を損失してしまうことを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、先行技術において知られている方法の不利な点を克服することであり、mRNA及びポリ(A)RNAを特異的に検出及び/又は定量するための、安価かつ時間のかからない方法であって、トータルRNAを、最初にmRNA画分から除去される必要はない上記方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、以下の手順工程を含む、ポリ(A)RNA及び/又はmRNAを特異的に検出及び/又は定量するための請求項1に記載の方法によって達成される:
i) ポリ(A)RNAを含有する試料及び/又はmRNAを含有する試料を、蛍光色素及び消光剤を含むポリ(dT)オリゴヌクレオチドと接触させる工程であって、上記消光剤は、上記蛍光色素の発光波長においてポリ(dT)オリゴヌクレオチドにおける蛍光をハイブリダイズ状態及び非ハイブリダイズ状態の両者において同程度で有意に消光する消光剤である、上記工程;
ii) 蛍光シグナルが変化しない状態で、上記ポリ(dT)オリゴヌクレオチドをポリ(A)RNA及び/又はmRNAにハイブリダイズさせる工程;
iii) 工程ii)で得られたハイブリダイゼーション混合物を、一本鎖特異的ヌクレアーゼと接触させる工程であって、蛍光標識されたヌクレオチドが、ポリ(A)RNA及び/又はmRNAとハイブリダイズしていないポリ(dT)オリゴヌクレオチドから放出され、その結果、蛍光シグナルの増加が生じる、上記工程;
iv) 生じた蛍光シグナルを測定する工程。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】異なるトータルRNA量に対するエキソヌクレアーゼI消化の間の蛍光シグナルの速度論的表示。x軸は時間(分)を示し、y軸は蛍光を示す。
【
図2】添加されたトータルRNAの総量と、時間の経過に渡り生じた蛍光シグナルとの間の直線関係。x軸はRNAの添加量(μg)を示し、y軸は、蛍光シグナルを、RNAなしで測定した蛍光(最大蛍光)とサンプル試料について測定した蛍光との差として示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明による方法は、約10個以上の連続したアデニン・リボヌクレオチドからなる領域を有する全てのリボ核酸を特異的に検出及び定量するのに好適である。これらのリボ核酸は、主に天然のメッセンジャーリボ核酸(mRNA)を含み、これらmRNAは、一般的に、約10個から数百個の連続したアデニン・リボヌクレオチドからなるポリ(A)テールを3'末端に有する。
【0010】
mRNAの分解は、しばしば、3'末端のポリ(A)テールの除去に伴い始まるため、本発明による方法は、完全かつ分解されていないmRNA、即ち分子生物学的反応において完全に機能するmRNAのみを検出及び定量する。
【0011】
加えて、本発明による方法は、一方の末端又は配列中に、約10個以上の連続したアデニン・リボヌクレオチドの領域を有する、人工リボ核酸(ポリ(A)RNA)を検出及び定量することも可能である。これらの人工リボ核酸は、例えば、既知の濃度で添加すれば、mRNAの定量のための内部標準として使用し得る。
【0012】
本発明の方法において、濃度が既知である、ポリ(A)領域を有する人工リボ核酸、又は天然mRNAを、種々の濃度の並列の反応混合物において用いれば、その結果生じる蛍光は、RNA添加量の関数となる。RNAの添加量がより多ければ、検出され得る蛍光は低くなる。既知のRNA添加量を生じた蛍光に関連付けることにより、検量線を作成することができる。この検量線を用いれば、mRNA及び/又はポリ(A)RNAの量が未知である反応混合物において、その検量線を利用することで該反応混合物において検出された蛍光をRNA量に割り当てることによって、当該量を定量することが可能である。
【0013】
mRNA及びポリ(A)RNAを検出及び定量するために用いられ得るポリ(dT)オリゴヌクレオチドは、蛍光色素及び消光剤の両者を含む。
【0014】
本発明の目的のためには、蛍光色素は、特定の波長でにおいて励起した後に、より長い波長の光を発する色素を意味するものと解される。
【0015】
本発明の目的のためには、消光剤は、蛍光分子からのエネルギー移動によって励起状態に移行し、その後エネルギーを再び非放射的に放出する能力を有する分子を意味すると解される。
【0016】
消光剤の種類については、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドからの蛍光色素の放出が検出可能な蛍光の増加を引き起こす程度において、蛍光色素の発光波長において、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドにおける蛍光を消光し得る消光剤を選択する。本発明による方法では、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドが遊離一本鎖であるか、さらなる核酸とハイブリダイズされているかに拘わらず、消光剤は同程度に蛍光色素の蛍光を消光する。ポリ(dT)オリゴヌクレオチドは、遊離しており、かつさらなる核酸に結合していない場合には、蛍光色素と消光剤との間の距離に影響する二次構造を形成しない。従って、蛍光色素及び消光剤がポリ(dT)オリゴヌクレオチド中に存在する場合、蛍光は同レベルに留まる。
【0017】
ポリ(dT)オリゴヌクレオチドにおける蛍光色素と消光剤との間の距離については、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドからの蛍光色素の放出が検出可能な蛍光の増加を引き起こす程度において、消光剤が蛍光色素の蛍光を消光し得るような当該距離を選択する。
【0018】
好ましい実施形態においては、消光剤は、蛍光色素の蛍光を完全に消光する。
【0019】
本発明の方法におけるポリ(dT)オリゴヌクレオチドは、好ましい実施形態においては、10個から100個のヌクレオチド範囲の長さを有する。
【0020】
特に好ましい実施形態においては、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドは、18個から25個のヌクレオチド範囲の長さを有する。
【0021】
本発明のポリ(dT)オリゴヌクレオチドは、(dT)ヌクレオチドのみから構成されてもよい。その結果、ポリ(A)RNA又はmRNAへのポリ(dT)オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションは、これらのRNA中のポリ(A)ヌクレオチドの長さがポリ(dT)オリゴヌクレオチドより長い場合、これらのRNAに対してポリ(dT)オリゴヌクレオチドが寸分違わずに位置する結果には至らない。ポリ(A)ヌクレオチドの長さが、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドの長さの2倍を超えて長い場合、1個を超えるポリ(dT)オリゴヌクレオチドが、検出及び定量されるRNAのこれらポリ(A)ヌクレオチドに結合し得る。
【0022】
さらなる実施形態においては、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドは、異なる種類のポリ(dT)オリゴヌクレオチドの混合物であって、それら異なる種類のポリ(dT)オリゴヌクレオチドは、それらの3'末端に、(dT)ヌクレオチドではない少なくとも1つのさらなるヌクレオチドを有することを特徴とする。3'末端における当該少なくとも1つの非(dT)ヌクレオチドは、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドがリボ核酸のポリ(A)領域の如何なる部位にもハイブリダイズできると言う訳では無くて、リボ核酸におけるポリ(A)領域以外の残りの配列と、この配列の3'末端の後に続くポリ(A)領域との間の移行領域に正確にハイブリダイズすることを確保するアンカーとして作用する。本発明による方法の工程ii)におけるハイブリダイゼーション条件は、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドがリボ核酸の移行領域でのみそのアンカー領域とハイブリダイズすることができ、従って、このリボ核酸分子におけるポリ(A)領域の長さにかかわらず、ちょうど1個のポリ(dT)オリゴヌクレオチドのみがリボ核酸にハイブリダイズできるように調整される。当業者は、ハイブリダイゼーション条件を適切に調整することを可能にするパラメーターを熟知している。
【0023】
アンカー領域のヌクレオチド配列は、用いられる全てのポリ(dT)オリゴヌクレオチドで同一ではなく、本発明による方法の工程ii)のハイブリダイゼーションにおいて、ちょうど1個のポリ(dT)オリゴヌクレオチドが、試料中に存在する全てのmRNAに、ポリ(A)領域と残りのヌクレオチド配列との間の移行領域でハイブリダイズし得ることが確実となるように選択される混合物である。アンカー領域は、1個のみの単一ヌクレオチドを含むものであっても充分であるかもしれないが、2個以上のヌクレオチドも含み得る。
【0024】
好ましい実施形態においては、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドにおける蛍光色素と消光剤との間の距離は、最大で30ヌクレオチドである。蛍光色素及び消光剤の両者は、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドの末端ヌクレオチドに結合され得るし、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドの内部に位置するヌクレオチドに結合し得る。
【0025】
特に好ましい実施形態においては、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドにおける蛍光色素及び消光剤は、オリゴヌクレオチドの各反対側の末端に結合される。本発明による方法においては、こえら2つの分子のうちどちらが5'末端に結合し、またどちらが3'末端に結合するかは問題とならない。
【0026】
好ましい実施形態においては、蛍光色素は、6−FAM、6−JOE、アレクサ・フロー(Alexa Fluor)568、アレクサ・フロー(Alexa Fluor)633、アレクサ・フロー(Alexa Fluor)680、ボディピィ(Bodipy)、CALフロー(CAL Fluor)、CALフロー・レッド(CAL Fluor Red)610、TAMRA、HEX、オレゴン・グリーン(Oregon Green)、TET、テキサス・レッド(Texas Red)、マリーナ・ブルー(Marina Blue)、エダンズ・ボセル・ブルー(Edans Bothell Blue)、フルオレセイン、ヤキマ・イエロー(Yakima Yellow)、グロッド(Glod)540、Cy3.5及びCy5を含む群から選択される。
【0027】
好ましい実施形態においては、消光剤は、DABCYL、BHQ1、BHQ2及びTAMRAを含む群から選択される。
【0028】
本発明による方法の工程ii)において、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドは、試料中に存在するポリ(A)RNA及び/又はmRNAにハイブリダイズする。ポリ(dT)オリゴヌクレオチドは、必然的に二次構造を形成しないので、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドが標的RNAにハイブリダイズした場合にも、蛍光色素と消光剤との間の距離は変化せず、つまり、本発明による方法のハイブリダイゼーション工程の前、間及び後において、蛍光は同一かつ一定の(低)レベルのままである。消光剤として、蛍光色素の蛍光を完全に消光するものを選択した場合、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドが非ハイブリダイズ状態においてなお存在する工程i)の後、及び、ポリ(dT)オリゴヌクレオチドが標的RNAに結合した後である工程ii)の後の両者で、蛍光は検出され得ない。
【0029】
ポリ(dT)オリゴヌクレオチドが、本発明による方法の工程ii)でポリ(A)RNA及び/又はmRNAに結合した後、工程iii)において、一本鎖特異的ヌクレアーゼを、このハイブリダイゼーション混合物と接触させる。ヌクレアーゼは、ハイブリダイゼーション工程の間、ハイブリダイゼーション混合物中に既に存在し得るが、ハイブリダイゼーションが完了した後にのみ、ハイブリダイゼーション混合物と接触させることも出来る。
【0030】
有用な一本鎖特異的ヌクレアーゼは、一本鎖核酸をより短いオリゴヌクレオチド又はそれらヌクレオチドに分解する能力があり、一方で二本鎖核酸を無傷のままにする、任意のヌクレアーゼであり得る。有用なヌクレアーゼは、一本鎖核酸を、その3'末端から(3'→5'エキソヌクレアーゼ)又はその5'末端から(5'→3'エキソヌクレアーゼ)分解するエキソヌクレアーゼであり、また、エンドヌクレアーゼでもある。
【0031】
好ましい実施形態においては、一本鎖特異的ヌクレアーゼは、エキソヌレアーゼI、S1ヌクレアーゼ、マング・ビーン・ヌクレアーゼ(mung bean nuclease)、エキソヌクレアーゼT及びRecJを含む群から選択されるか、又はこれらのヌクレアーゼの混合物である。
【0032】
特に好ましい実施形態においては、一本鎖特異的ヌクレアーゼは、エキソヌクレアーゼであり、極めて好ましくはエキソヌクレアーゼI若しくはエキソヌクレアーゼT、又はこれらエキソヌクレアーゼの混合物である。
【0033】
この工程の間、一本鎖特異的ヌクレアーゼは、全ての遊離非ハブリダイズ・ポリ(dT)オリゴヌクレオチドをより短いオリゴヌクレオチドか、又はそれらの単一ヌクレオチドに分解する。ヌクレアーゼが一本鎖特異的であることから、ポリ(A)RNA及び/又はmRNAにハイブリダイズしているポリ(dT)オリゴヌクレオチドは、このヌクレアーゼによって認識されず、従って、より短いオリゴヌクレオチド又はそれらのヌクレオチドに分解されない。
【0034】
非ハブリダイズ・ポリ(dT)オリゴヌクレオチドが、より短いオリゴヌクレオチドか、又はそれらの単一ヌクレオチドに分解されることにより、工程iii)の後では、蛍光色素又は消光剤を含むヌクレオチドも、より短いオリゴヌクレオチド又は単一ヌクレオチドとして存在する。そうすると、消光剤と蛍光色素との間の空間的近接はもはや提供されないため、消光剤は蛍光色素の発光を消すことができず、結果として蛍光が測定可能な程度に増加する。
【0035】
工程iv)では、蛍光シグナルの増加が測定される。蛍光シグナルの測定には、蛍光色素の励起波長の光を発することが可能であり、かつ蛍光色素の発光波長の光を検出することが可能である、任意の分析器が用いられ得る。有用な分析器としては、例えば、分光光度計、リアルタイムPCRサイクラー、及び蛍光顕微鏡が含まれる。さらに有用な分析器は、当業者によく知られている。
【0036】
生じた蛍光シグナルは、反応混合物中に非ハイブリダイズ・ポリ(dT)オリゴヌクレオチドがより多く存在する場合に、より高い。本発明による方法において、異なる試料に対して同量のポリ(dT)オリゴヌクレオチドを添加すれば、その結果生じる蛍光シグナルは、ポリ(A)RNA及び/又はmRNAの存在量がより少なかった試料において、より大きいが、これは、この試料がより多くの非ハイブリダイズ・ポリ(dT)オリゴヌクレオチドを含有するためであり、従って、試料は互いに相対して定量し得る。
【0037】
より多くのポリ(dT)オリゴヌクレオチドがハイブリダイズしない場合、生じる蛍光シグナルはより高くなるため、本発明による方法は、ポリ(A)RNA及びmRNAの特異的検出だけではなく、それらの相対的(上記参照)及び絶対的(下記参照)定量にも好適である。
【0038】
量が既知である人工ポリ(A)RNA又は天然mRNAの内部標準を用いることにより、一定量のポリ(dT)オリゴヌクレオチドにおいて生ずる蛍光に対するRNA濃度の検量線を作成することが出来る。未知の試料において測定した蛍光を、検量線の対応する蛍光と比較することにより、この未知の試料中のmRNA及び/又はポリ(A)RNAの絶対濃度を定量することが可能である。
【0039】
本発明による方法は、ポリ(A)RNA及びmRNAを迅速かつ容易に検出し、さらにポリ(A)RNA及びmRNAを定量するのにも極めて好適である。本方法は、例えば、定量RT-PCR、マイクロアレイ・アプリケーション及びノーザンブロット等の遺伝子発現解析においてデータを正規化するのに特に有用であるから、これらの方法において、mRNAの正確な添加量を定量することが可能である。本発明による方法のさらなる想定される用途は、当業者によく知られている。
【0040】
図1:異なるトータルRNA量に対するエキソヌクレアーゼI消化の間の蛍光シグナルの速度論的表示。x軸は時間(分)を示し、y軸は蛍光を示す。
【0041】
図2:添加されたトータルRNAの総量と、時間の経過に渡り生じた蛍光シグナルとの間の直線関係。x軸はRNAの添加量(μg)を示し、y軸は、蛍光シグナルを、RNAなしで測定した蛍光(最大蛍光)とサンプル試料について測定した蛍光との差として示す。
【実施例】
【0042】
以下の実施例は、本発明をさらに説明することを意図するものであり、本発明を例示的実施形態に限定することを意図するものではない。
【0043】
実施例1:
ポリ(dT)オリゴヌクレオチドを用いたRNAの検出及び定量
ヒト・ヒーラ(HeLa)細胞培養系から予め単離した、種々の量のトータルRNA(0μg、0.5μg、1μg、2μg)を、5'末端がFAMで標識され、かつ3'末端がTAMRAで標識された、22個のヌクレオチドのポリ(dT)オリゴヌクレオチド0.2μMとハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション混合物は、総量20μLのオムニスクリプト(OmniScript)RTバッファー(キアゲン(QIAGEN))中、室温で調製した。次に、20UのエキソヌクレアーゼI(エピセントレ(Epicentre))を氷上のハイブリダイゼーション反応物に直ちに添加し、ロータージーン(Rotorgene)6000リアルタイムPCRサイクラー(キアゲン)において25℃、60分間で、エキソヌクレアーゼ反応を実施した。生じた蛍光シグナルを、励起波長470nm及び検出波長510nmで毎分測定した。
【0044】
図1は、エキソヌクレアーゼI消化の間の蛍光シグナルの速度論的経過を、添加したRNAの総量の関数として図示したものである。
【0045】
RNAを添加しない試料は、最大の蛍光シグナルを生じることが明らかになったが、これは、この試料が最大量の非ハイブリダイズ・ポリ(dT)オリゴヌクレオチドを含有していたためである。蛍光シグナルは、試料中のRNA量の増加に伴って、徐々に減少した。
【0046】
本実験により、本発明による方法がポリ(A)RNA及びmRNAを特異的に検出するために好適であること、並びにハイブリダイズされなかった一本鎖ポリ(dT)オリゴヌクレオチドのみがエキソヌクレアーゼIによって分解されるが、ハイブリダイズして二本鎖となったポリ(dT)オリゴヌクレオチドは分解されないことが示された。この実験から、さらに、最初の15分のエキソヌクレアーゼI消化の間、種々の添加量のRNAについての曲線は平行であり、反応時間1分後には既に、RNA添加量の関数として、蛍光シグナルの間の差が測定可能であったことが示された。
【0047】
図2は、測定した全ての時点(1分、5分、10分、15分)について、RNA添加量(μg)と測定された蛍光との間に直線関係があることを示している。このことは、標準系列により、未知の試料中のmRNA量が確実に定量され得ることを意味する。
【0048】
測定された種々の時点についての直線の経過から、RNAを添加しない蛍光シグナルとRNAを添加したそれぞれの試料の蛍光シグナルとの間の差に関して、実質的に同一の値が得られたことから、本実験において、反応の経過が、少なくとも最初の15分間に渡って直線的であること、RNAの添加量に対して反応速度に差は無いこと、並びに、従って、本発明による方法が広範な濃度範囲においてRNA量を定量するために適していることも示された。