(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767656
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】カレンダー成形用のゴム組成物及びこれを用いたトッピングゴムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20150730BHJP
B29D 30/38 20060101ALI20150730BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20150730BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20150730BHJP
B29C 55/18 20060101ALI20150730BHJP
B60C 1/00 20060101ALN20150730BHJP
【FI】
C08L7/00
B29D30/38
C08L9/00
C08K3/04
B29C55/18
!B60C1/00 C
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-12507(P2013-12507)
(22)【出願日】2013年1月25日
(65)【公開番号】特開2014-144993(P2014-144993A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2014年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】本田 慎一郎
【審査官】
上前 明梨
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−199142(JP,A)
【文献】
特表2006−501338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カレンダーロールによって伸長変形の加工を受けるカレンダー成形用のゴム組成物であって、
ゴム成分が、イソプレンゴム20〜40重量部及び天然ゴム60〜80重量部からなり、カーボンブラックを40〜60重量部含有し、
温度95℃、かつ、せん断速度500〜2000(1/秒)での伸長粘度が102kPa以下であることを特徴とするカレンダー成形用のゴム組成物。
【請求項2】
前記伸長粘度が2kPa以上である請求項1記載のカレンダー成形用のゴム組成物。
【請求項3】
空気入りタイヤのプライのトッピングゴムに用いられる請求項1又は2に記載のカレンダー成形用のゴム組成物。
【請求項4】
前記プライは、前記空気入りタイヤのトレッド部に配されるベルトプライである請求項3記載のカレンダー成形用のゴム組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のゴム組成物を、表面温度が60〜100℃のカレンダーロールを用いて伸長成形することにより、空気入りタイヤのプライのトッピングゴムを60〜140℃の範囲内で成形することを特徴とするトッピングゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性に優れたカレンダー成形用のゴム組成物及びこれを用いたトッピングゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への配慮からタイヤに対する要求性能は長寿命化、低燃費化等多岐にわたる。それに伴って、空気入りタイヤに使用されているカーカスコードやベルトコードなどの各種のタイヤコードを被覆するトッピングゴムとして、剛性、耐熱性、接着性、湿熱接着性及び伸び性能などのバランスの良いゴム組成物が、例えば下記特許文献1で提案されている。また、加工性及び低燃費性に優れ、複素弾性率及び耐久性に優れたゴム組成物が下記特許文献2で提案されている。
【0003】
ところで、トッピングゴム用のゴム組成物は、工業的に生産されなければ価値はなく、そのため加工性の評価が重要になっている。トッピングゴム用のゴム組成物をコードにトッピングする手法としては、通常、カレンダーロールを用いたものが代表的である。
【0004】
従来、ゴム業界において、未加硫ゴムの加工性を評価する指標としてムーニー粘度(ML
1+4)が知られている(例えば、JIS K6300「未加硫ゴムの試験方法」参照)。これまでは、ムーニー粘度が大きい未加硫ゴムほど、加工性が悪いと一律に判断されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3670599号公報
【特許文献2】特開2008−31427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの種々の実験の結果、カレンダー成形の場合、ムーニー粘度を指標として加工性を評価することは、必ずしも適当ではないことが判明した。例えば、トッピングゴムをカレンダーロールで伸長させながらコード配列体に付着させるトッピング工程において、あるゴム組成物Aではゴム欠けが生じてトッピングが不十分となり、コードが露出することがあった。しかし、それよりもムーニー粘度の大きいため、一般に加工性が悪いと考えられているゴム組成物Bを同一のカレンダーロールを用い、同一の温調、回転数及びロール間ギャップの条件で使用した場合、上述のような不具合がない場合がある。
【0007】
このように、カレンダーロールでの加工性の指標として、ムーニー粘度だけを基準とすることは適切ではない。
【0008】
本発明者らは、カレンダーロールによって伸長変形の加工を受けるカレンダー成形用のゴム組成物として、ムーニー粘度よりも、伸長粘度を指標とすることが有効であることを突き止め、さらにカレンダー成形に適した伸長粘度を知見して本発明を完成させるに至った。
【0009】
以上のように、本発明は、伸長粘度を一定範囲に限定することにより、加工性に優れたカレンダー成形用のゴム組成物及びこれを用いたトッピングゴムの製造方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のうち請求項1記載の発明は、カレンダーロールによって伸長変形の加工を受けるカレンダー成形用のゴム組成物であって、
ゴム成分が、イソプレンゴム20〜40重量部及び天然ゴム60〜80重量部からなり、カーボンブラックを40〜60重量部含有し、温度95℃、かつ、せん断速度500〜2000(1/秒)での伸長粘度が102kPa以下であることを特徴とする。
【0011】
また請求項2記載の発明は、前記伸長粘度が2kPa以上であることを特徴とする。
【0012】
また請求項3記載の発明は、空気入りタイヤのプライのトッピングゴムに用いられることを特徴とする。
【0013】
また請求項4記載の発明は、前記プライは、前記空気入りタイヤのトレッド部に配されるベルトプライであることを特徴とする。
【0015】
また
請求項5記載の発明は、
請求項1乃至4のいずれかに記載のゴム組成物を、表面温度が60〜100℃のカレンダーロールを用いて伸長成形することにより、空気入りタイヤのプライのトッピングゴムを60〜140℃の範囲内で成形することを特徴とするトッピングゴムの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のカレンダー成形用のゴム組成物は、カレンダーロールによって伸長変形の加工を受けるカレンダー成形用のゴム組成物であって、温度95℃、かつ、せん断速度500〜2000(1/秒)での伸長粘度が102kPa以下であることを特徴とする。このようなゴム組成物は、カレンダー成形時に薄くかつ十分に伸びることができるため、加工性が向上し、生産性を高めうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】伸長粘度を測定するキャピラリーレオメータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本発明のカレンダーロールによって伸長変形の加工を受けるカレンダー成形用のゴム組成物(以下、単に「ゴム組成物」という。)は、温度95℃、かつ、せん断速度500〜2000(1/秒)での伸長粘度が102kPa以下であることを特徴とする。
【0019】
従来、未加硫ゴムの加工性の良否を示す指標であったムーニー粘度は、JIS−K6300で規定されるように、閉鎖された円筒形のキャビティーの中に円盤状の金属製ローターを装着し、その中にゴムを充填し、一定条件のもとでローターを回転させ、そのときのゴムの抵抗によりローターが受けるトルクがそのゴムのムーニー粘度として測定される。即ち、ムーニー粘度は、ゴムのせん断変形時の力学挙動を検出するものと言える。
【0020】
しかしながら、カレンダー成形工程では、ゴム組成物が一対のカレンダーロール間のギャップを通って成形される間に受ける変形モードは、せん断変形だけでなくむしろ伸長変形の寄与が大きい。ここで、せん断変形は、「ずり」の力によって、例えば、積み重ねたトランプの束が横方向にずれるような変形であり、後者の伸長変形は、引張力によってゴムが引き伸ばされる変形である。また、せん断変形は、伸長に加えて回転運動を伴うことであり、この際の粘度は、ほぼ例外なく変形速度の増加に伴って減少する非ニュートン性を示す。一方、後者の伸長変形では、ゴムの粘度が、高分子の種類によっては鎖の伸びきり効果に起因して増加がある点で大きく相違している。
【0021】
従って、カレンダー成形工程でのゴムの加工性を評価する場合、せん断変形時の力学挙動だけを調べたのでは、カレンダー成形工程でのゴムの流動特性の一側面を捉えているに過ぎず十分ではない。発明者らは、鋭意検討の結果、カレンダー成形に用いられるゴム組成物の加工性を評価する際には、ムーニー粘度ではなく、伸長粘度が重要であること、そして、この伸長粘度を特定の範囲とすることにより、カレンダー成形、とりわけトッピング工程において、ゴム欠け等の加工不良を抑制しうることを見出した。
【0022】
ここで、前記伸長粘度は、例えばキャピラリーレオメータによって測定されるものとし、その測定条件は、ゴム組成物の温度95℃、かつ、せん断速度500〜2000(1/秒)とする。
【0023】
キャピラリーレオメータとしては、例えば、
図1に示されるように、ツインボア式の測定原理を採用したツインキャピラリーレオメータ(例えば、RH7-D & RH10-D CAPILLARY RHEOMETERS)1が好適である。レオメータ1は、軸方向の長さが大きい長ダイ2aによって形成された長キャピラリ2と、該長ダイ2aよりも軸方向の長さが小さい短ダイ3aによって形成された短キャピラリ3との2種類を用い、Bagleyの管長補正を行うこと、及びCogswell法に基づいて伸長粘度を求めるものである。なお、符号4は、各キャピラリの圧力を測定するセンサー、符号5は、ピストンをそれぞれ示している。
【0024】
Bagleyの管長補正については、例えば「1961 vol.5 no.1 P355-368 Trans. Soc. Rheol. Bagley E.B. The separation of elastic and viscous effects in polymer flow」に記載されている。管長補正は、計測された圧力損失の内、入口の降下及び出口の残存分を管長の短い短キャピラリ3での圧力損失として計測し、それらの差分をとることで末端の影響を無くすものである。
【0025】
また、Cogswell法については、例えば「1972 vol.12 P64-73 Polym. Eng. Sci. Cogswell F.N. Converging flow of polymer melts in extrusion dies 」に述べられており、各ダイの入口の流路が細くなる場所で、ゴム組成物の伸長流動が生じることから、次式(1)で算出できる
λ={9(n+1)
2×P
2}/(32η×γ) …(1)
ここで、nはべき乗則流体のべき乗指数、Pはダイ入口の圧力、η、γはそれぞれせん断粘度、せん断速度である。
【0026】
一対のカレンダーロールを用いてトッピング工程を行う場合、ゴムの平均的な温度は60〜100℃ではある。ゴムの温度が高くなると加硫が早期に進行してしまい品質低下が生じるおそれがある。逆にゴムの温度が低くなると、粘度が大きくなって基本的なゴムの加工性が得られない傾向がある。本発明では、加工性を考慮して、トッピング工程でのゴムの温度の範囲から、やや高温域の温度として95℃が特定された。そして、この温度でのゴム組成物の伸長粘度が測定される。
【0027】
カレンダー成形用のゴム組成物として最適な加工性を発揮させるためには、上述の測定条件の下での伸長粘度が102kPa以下とされる。伸長粘度が102kPaを超える従来のものでは、カレンダー成形時にゴム組成物を十分に伸長させることができず、ゴム欠け等が生じやすくなる。伸長粘度の下限値は、特に限定されない。伸張粘度が小さい場合、カレンダー成形時に破断(生地切れ)することがあり、連続体としての構造を保てないおそれがある。伸張粘度は、好ましくは2kPa以上とされる。
【0028】
本発明のゴム組成物は、上述の伸張粘度を満たすものであれば、特にその配合は限定されない。例えば、これまでタイヤコードのトッピングゴムとして用いられていた配合は、本発明のゴム組成物として用いられる。とりわけ、空気入りタイヤのトレッド部の内部かつカーカスの外側に配されるベルトプライのトッピングゴム用のゴム組成物としては、ゴム成分が、天然ゴム55〜100重量部、イソプレンゴム0〜45重量部からなり、カーボンブラックを40〜60重量部含有するものが望ましい。さらに、オイルを5〜10重量部含むことが望ましい。さらに、このようなゴム組成物は、表面温度が60〜100℃のカレンダーロールを用いて伸長成形し、せん断発熱等を利用して、成形時に60〜140℃の範囲にコントロールされることで得ることができる。
【0029】
また、上記ゴム組成物の伸張粘度については、ポリマーのリニアリティ(高分子の枝分かれ鎖の存在程度)、カーボンブラックと天然ゴムとの兼ね合い(割合)、SBRとシリカカップリング剤との兼ね合い、超高分子量成分の少量添加等によってコントロールすることができる。また、ゴム組成物の製造工程では、例えば、カレンダーロールのロール径、ロール間ギャップ、フリクション比、摩擦係数、ロール表面形状、素材等を適宜選択することにより、伸張粘度を上記範囲にコントロールすることができる。
【実施例】
【0030】
本発明の効果を確認するために、表1の配合に基づいて、ゴム組成物が作成された。該ゴム組成物は、表1に示す配合のうち硫黄及び加硫促進剤を除いた配合がバンバリーミキサーを用いて約150℃で5分間混練された後、排出された。各試薬の内容は、次の通りである。
【0031】
天然ゴム:RSS#3
イソプレンゴム:日本ゼオン(株)製のNipol IR2200
カーボンブラック:昭和キャボット(株)製のショウブラックN220(N2SA:125m
2/g)
アロマオイル:(株)ジャパンエナジー製のJOMOプロセスX140
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
コバルト金属塩:DIC社製のステアリン酸コバルト(コバルト成分10%)
【0032】
次に、排出された組成物に、硫黄及び加硫促進剤が加えられ、二軸のオープンロールを用いて温度80℃で5分間練り込まれた。このようにして得られたゴム組成物(ベルトプライ用のトッピングゴム組成物)について、下記のテストが行われた。なお、硫黄及び加硫促進剤は、次の通りである。
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤 TBBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(化学名:N−tert−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
【0033】
<ムーニー粘度>
JIS K6300に準じ、130℃での上記ゴム組成物のムーニー粘度が測定された。結果は、比較例1を100とした指数であり、指数が大きいほど粘度が低いことを示す。
【0034】
<伸長粘度>
上記ゴム組成物について、Malvern社製RosandのRH-7床置き型ツインキャピラリーレオメータ(長ダイ長さ16mm、長ダイ直径1.0mm、短ダイ長さ0.25mm、短ダイ直径1.0mm、ダイ入口角度180度、圧力センサーはダイニスコ社製NP467XL)を用いて温度95℃、かつ、せん断速度1000(1/秒)での伸長粘度が測定された。
【0035】
<カレンダー加工性>
上記ゴム組成物を温度65℃のカレンダーロールに通した際、視認にてゴム欠けが生じることなくシーティングできた場合を「良」、できなかった場合を「悪」とした。
【0036】
<複素弾性率>
上記ゴム組成物を170℃で12分間加熱して得られた加硫ゴムから所定サイズの試験片を作製し、(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターVESを用いて、初期歪10%、動歪1%及び周波数10Hzの条件下で、70℃におけるゴム試験片の複素弾性率(E*)が測定された。測定結果は、比較例1を100とした指数で示した。指数が大きいほど剛性に優れることを示す。
【0037】
<損失正接tanδ>
(株)上島製作所製のスペクトロメーターを用いて、動的歪振幅1%、周波数10Hz、温度60℃で損失正接tanδが測定された。測定されたtanδの逆数の値について、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほど損失正接(タイヤに用いた場合には転がり抵抗)が小さく、良好であることを示している。
【0038】
<耐摩耗性>
上記ゴム組成物をトレッドゴムにも使用したタイヤサイズ195/65R15の空気入りタイヤを製造し、該タイヤを国産FF車に装着し、走行距離8000km後のトレッド部の溝深さが測定され、溝深さが1mm減るときの走行距離を算出し下記の式により指数化した。
(1mm溝深さが減るときの走行距離)÷(比較例1のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)×100
数値が大きいほど、耐摩耗性が良好である。
実施例、比較例の配合(成分の単位はいずれも重量部である。)及び試験結果は、表1に示される。
【表1】
【0039】
テストの結果、実施例のゴム組成物は、いずれも良好なカレンダー加工性を発揮していることが確認できた。
【符号の説明】
【0040】
1 キャピラリーレオメータ
2a 長ダイ
2 長キャピラリ
3a 短ダイ
3 短キャピラリ
4 圧力センサー
5 ピストン