(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記トレッド部は、タイヤ赤道を中心とするトレッド展開幅の40%の領域であるクラウン領域と、前記各トレッド端からタイヤ赤道側にトレッド展開幅の20%の領域であるショルダー領域と、前記クラウン領域と前記ショルダー領域との間のミドル領域とを含み、
前記クラウン領域のランド比Lc、ミドル領域のランド比Lm、及び、ショルダー領域のランド比Lsは、次の関係を満たす請求項1記載の自動二輪車用タイヤ。
Lc<Ls
Lc≦Lm≦Ls
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、トレッド部に設けられた各溝の位置及び形状等を改善することを基本として、グリップ性能及び耐摩耗性能を低下させることなくロール特性を向上させた自動二輪車用タイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のうち、請求項1記載の発明は、回転方向が指定されたトレッドパターンが形成されたトレッド部を有する自動二輪車用タイヤであって、
前記トレッド部の前記トレッドパターンを示す展開図において、前記トレッド部は、タイヤ赤道から一方のトレッド端側の第1領域と、タイヤ赤道から他方のトレッド端側の第2領域とを含み、前記第1領域及び前記第2領域それぞれに、タイヤ赤道側に設けられた複数本の内側傾斜溝と、前記トレッド端側に設けられた複数本の外側傾斜溝とが設けられ、前記内側傾斜溝は、前記第1領域に設けられた第1内側傾斜溝と、前記第2領域に設けられた第2内側傾斜溝とを含み、前記第1内側傾斜溝及び前記第2内側傾斜溝は、それぞれ、タイヤ軸方向の内端から、前記回転方向と反対方向に向かって、タイヤ軸方向の外端へのびており、前記外側傾斜溝は、前記第1領域に設けられた第1外側傾斜溝と、前記第2領域に設けられた第2外側傾斜溝とを含み、前記第1外側傾斜溝及び前記第2外側傾斜溝は、それぞれ、タイヤ軸方向の内端から、前記回転方向に向かって、タイヤ軸方向の外端へのびており、前記第1領域及び前記第2領域のそれぞれにおいて、前記外側傾斜溝のタイヤ周方向の長さB1は、前記内側傾斜溝のタイヤ周方向の長さA1よりも小さく、かつ、前記外側傾斜溝のトレッド接地面に沿ったタイヤ軸方向の長さB2は、前記内側傾斜溝のトレッド接地面に沿ったタイヤ軸方向の長さA2よりも大きく、前記第1内側傾斜溝と、前記第2内側傾斜溝とは、タイヤ赤
道に投影されたときに、溝両端において、該内側傾斜溝のタイヤ周方向の長さの0%よりも大かつ10%以下のタイヤ周方向の重なり長さを有し、前記第1外側傾斜溝と、前記第2外側傾斜溝とは、それぞれタイヤ赤
道に投影されたときに互いに重なることなく設けられ、前記第1領域及び前記第2領域それぞれにおいて、前記内側傾斜溝と、前記外側傾斜溝とは、タイヤ周方向に交互に設けられ、かつ、前記外側傾斜溝は、タイヤ軸方向に投影されたときに、前記内側傾斜溝とは重ならず、前記各第1外側傾斜溝は、前記各第2内側傾斜溝
に投影されたタイヤ軸方向の投影領域P2内からはみ出すことなく設けられ、前記第1外側傾斜溝の前記外端と前記第2内側傾斜溝の前記内端とのタイヤ周方向の距離D1と、前記第1外側傾斜溝の前記内端と前記第2内側傾斜溝の前記外端とのタイヤ周方向の距離D2とは、前記長さ(A1−B1)の30〜70%であり、前記各第2外側傾斜溝は、前記各第1内側傾斜溝のタイヤ軸方向
に投影された投影領域P1内からはみ出すことなく設けられ、前記第2外側傾斜溝の前記外端と前記第1内側傾斜溝の前記内端とのタイヤ周方向の距離D1と、前記第2外側傾斜溝の前記内端と前記第1内側傾斜溝の前記外端とのタイヤ周方向の距離D2とは、前記長さ(A1−B1)の30〜70%であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2記載の発明は、前記トレッド部は、タイヤ赤道を中心とするトレッド展開幅の40%の領域であるクラウン領域と、前記各トレッド端からタイヤ赤道側にトレッド展開幅の20%の領域であるショルダー領域と、前記クラウン領域と前記ショルダー領域との間のミドル領域とを含み、前記クラウン領域のランド比Lc、ミドル領域のランド比Lm、及び、ショルダー領域のランド比Lsは、次の関係を満たす請求項1記載の自動二輪車用タイヤである。
Lc<Ls
Lc≦Lm≦Ls
【0012】
また、請求項3記載の発明は、前記各内側傾斜溝の前記内端は、タイヤ赤道からトレッド展開幅の1.5〜5%の範囲に位置し、前記各内側傾斜溝の前記外端は、タイヤ赤道からトレッド展開幅の15〜25%の範囲に位置している請求項1又は2記載の自動二輪車用タイヤである。
【0013】
また、請求項4記載の発明は、前記各内側傾斜溝は、タイヤ周方向に対する角度が、0〜30°であり、前記角度は、タイヤ軸方向の外側に向かって漸増する請求項1乃至3のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤである。
【0014】
また、請求項5記載の発明は、前記各内側傾斜溝は、タイヤ軸方向外側に向かって漸減する溝幅を持っている請求項1乃至4のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤである。
【0015】
また、請求項6記載の発明は、前記各外側傾斜溝の前記内端は、タイヤ赤道からトレッド展開幅の15〜25%の範囲に位置し、前記各外側傾斜溝の前記外端は、タイヤ赤道からトレッド展開幅の32.5〜42.5%の範囲に位置している請求項1乃至5のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤである。
【0016】
また、請求項7記載の発明は、前記各外側傾斜溝は、タイヤ周方向に対する角度が、30〜90°であり、前記角度は、タイヤ軸方向の外側に向かって漸増する請求項1乃至6のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤである。
【0017】
また、請求項8記載の発明は、前記各外側傾斜溝は、タイヤ軸方向外側に向かって漸減する溝幅を持っている請求項1乃至7のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の自動二輪車用タイヤは、回転方向が指定されたトレッドパターンが形成されたトレッド部を有する。トレッド部は、タイヤ赤道から一方のトレッド端側の第1領域と、タイヤ赤道から他方のトレッド端側の第2領域とを含む。
【0019】
第1領域及び前記第2領域それぞれに、タイヤ赤道側に設けられた複数本の内側傾斜溝と、前記トレッド端側に設けられた複数本の外側傾斜溝とが設けられる。内側傾斜溝は、第1領域に設けられた第1内側傾斜溝と、第2領域に設けられた第2内側傾斜溝とを含む。第1内側傾斜溝及び第2内側傾斜溝は、それぞれ、タイヤ軸方向の内端から、前記回転方向と反対方向に向かって、タイヤ軸方向の外端へのびている。外側傾斜溝は、第1領域に設けられた第1外側傾斜溝と、第2領域に設けられた第2外側傾斜溝とを含む。第1外側傾斜溝及び第2外側傾斜溝は、それぞれ、タイヤ軸方向の内端から、前記回転方向に向かって、タイヤ軸方向の外端へのびている。このような自動二輪車用タイヤは、タイヤ軸方向の剛性分布が均一なトレッド部を有し、優れたロール特性を発揮する。
【0020】
第1領域及び第2領域のそれぞれにおいて、外側傾斜溝のタイヤ周方向の長さB1は、内側傾斜溝のタイヤ周方向の長さA1よりも小さく、前記外側傾斜溝のトレッド接地面に沿ったタイヤ軸方向の長さB2は、内側傾斜溝のトレッド接地面に沿ったタイヤ軸方向の長さA2よりも大きい。このような自動二輪車用タイヤは、ショルダー領域のタイヤ軸方向の剛性が、クラウン領域のタイヤ軸方向の剛性よりも大きい。このため、ロール初期ではキャンバー角を与え易くなり、ロール終期ではキャンバー角が抑えられ易くなる。このため、優れたロール特性が得られる。
【0021】
第1内側傾斜溝と第2内側傾斜溝とは、タイヤ赤
道に投影されたときに、溝両端において、該内側傾斜溝のタイヤ周方向の長さの0%よりも大かつ10%以下のタイヤ周方向の重なり長さを有する。このような第1内側傾斜溝及び第2内側傾斜溝は、クラウン領域のトレッド部の剛性を適性にし、グリップ性能及び耐摩耗性能を低下させることなくロール初期のロール特性を向上させる。
【0022】
第1外側傾斜溝と第2外側傾斜溝とは、それぞれタイヤ赤
道に投影されたときに互いに重なることなく設けられる。各第1外側傾斜溝は、各第2内側傾斜溝のタイヤ軸方向
に投影された投影領域P2内からはみ出すことなく設けられる。第1外側傾斜溝の外端と第2内側傾斜溝の内端とのタイヤ周方向の距離D1、及び、第1外側傾斜溝の内端と第2内側傾斜溝の外端とのタイヤ周方向の距離D2は、長さ(A1−B1)の30〜70%である。各第2外側傾斜溝は、各第1内側傾斜溝のタイヤ軸方向
に投影された投影領域P1内からはみ出すことなく設けられる。第2外側傾斜溝の外端と第1内側傾斜溝の内端とのタイヤ周方向の距離D1、及び、第2外側傾斜溝の内端と第1内側傾斜溝の外端とのタイヤ周方向の距離D2とは、長さ(A1−B1)の30〜70%である。
【0023】
このような内側傾斜溝及び外側傾斜溝は、クラウン領域からショルダー領域までのトレッド部の剛性分布を滑らかにし、ロール特性を向上させる。また、内側傾斜溝及び外側傾斜溝は、ミドル領域及びショルダー領域付近のトレッド部の剛性を相対的に大きくする。このため、ロール終期においてキャンバー角が抑えられ易くなり、ロール特性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1には、本実施形態の自動二輪車用タイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)1の正規状態におけるタイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面図が示される。
図2には、タイヤ1のトレッド部2のトレッドパターンを示す展開図である。
図1は、
図2のA−A断面図である。
図1のタイヤ1は、ロードレース用の前輪用タイヤである。
【0026】
前記「正規状態」とは、タイヤ1が正規リム(図示省略)にリム組みされ、かつ、正規内圧が充填された無負荷の状態である。以下、特に言及しない場合、タイヤの各部の寸法等はこの正規状態で測定された値である。
【0027】
前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0028】
前記「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0029】
本実施形態のタイヤ1は、キャンバー角が大きい旋回時においても十分な接地面積が得られるように、トレッド部2のトレッド端2t、2t間の外面2sが、タイヤ半径方向外側に凸の円弧状に湾曲してのびる。トレッド端2t、2t間のタイヤ軸方向距離であるトレッド幅TWは、タイヤ最大幅をなす。
【0030】
タイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内方に配されるベルト層7とを具える。
【0031】
カーカス6は、例えば、1枚のカーカスプライ6Aにより構成される。このカーカスプライ6Aは、本体部6aと折返し部6bとを含む。本体部6aは、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4に埋設されたビードコア5に至る。折返し部6bは、本体部6aに連なりかつビードコア5の回りでタイヤ軸方向内側から外側へ折り返されている。カーカスプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードエーペックスゴム8が配されている。ビードエーペックスゴム8は、硬質ゴムからなり、ビードコア5からタイヤ半径方向の外側にのびている。
【0032】
カーカスプライ6Aは、タイヤ赤道Cに対して、例えば65〜90度の角度で傾けて配列されたカーカスコードを有する。カーカスコードには、例えば、ナイロン、ポリエステル又はレーヨン等の有機繊維コード等が好適に採用される。
【0033】
ベルト層7は、例えば、2枚のベルトプライ7A、7Bからなる。2枚のベルトプライ7A、7Bは、互いのベルトコードが交差する向きにタイヤ半径方向で重ね合わされる。ベルトコードは、例えば、タイヤ赤道Cに対して15〜25°の角度で傾けられている。ベルトコードには、例えば、アラミド又はレーヨン等の有機繊維コードが好適に採用される。
【0034】
図2に示されるように、本発明のタイヤ1は、回転方向Rが指定されている。トレッド部2は、タイヤ赤道Cを中心とするトレッド展開幅TWeの40%の領域であるクラウン領域Crと、各トレッド端2tからタイヤ赤道C側にトレッド展開幅TWeの20%の領域であるショルダー領域Shと、クラウン領域Crとショルダー領域Shとの間のミドル領域Miとを含む。
【0035】
トレッド部2は、タイヤ赤道Cから一方のトレッド端2t側の第1領域11と、タイヤ赤道Cから他方のトレッド端2t側の第2領域12とを含む。
【0036】
トレッド部2の第1領域11及び第2領域12それぞれには、内側傾斜溝30及び外側傾斜溝40が設けられる。内側傾斜溝30は、タイヤ赤道C側に複数本設けられる。外側傾斜溝40は、トレッド端2t側に複数本設けられる。
【0037】
内側傾斜溝30は、第1領域11に設けられた第1内側傾斜溝13と、第2領域12に設けられた第2内側傾斜溝23とを含む。
【0038】
第1内側傾斜溝13と、第2内側傾斜溝23とは、タイヤ赤
道Cに投影されたときに、溝両端において、タイヤ周方向の重なり長さL1を有する。この重なり長さL1は、内側傾斜溝30のタイヤ周方向の長さA1の0%よりも大かつ10%以下である。重なり長さL1が0の場合、または第1内側傾斜溝13と第2内側傾斜溝23とがタイヤ周方向に離間している場合、トレッド部2において、タイヤ周方向の剛性段差が発生し易く、特にブレーキ時の操縦安定性が低下する。逆に、重なり長さL1が内側傾斜溝30の前記長さA1の10%より大きい場合、クラウン領域Crの剛性が低下し、グリップ性能及び耐摩耗性能が低下する。
【0039】
内側傾斜溝30は、タイヤ軸方向の内端30iから、回転方向Rと反対方向に向かって、タイヤ軸方向の外端30oへのびている。本実施形態の内側傾斜溝30は、タイヤ赤道C側に凸の滑らかな略円弧状である。内側傾斜溝30は、タイヤ赤道Cに交差することなくのびる。このような内側傾斜溝30は、トレッド部2のクラウン領域Crの剛性を維持し、ロール初期のロール特性を向上させる。
【0040】
内側傾斜溝30のタイヤ周方向の長さA1は、好ましくはトレッド展開幅TWeの30%以上、より好ましくは35%以上であり、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下である。内側傾斜溝30の長さがトレッド展開幅TWeの30%より小さい場合、直進時のウェット性能が低下するおそれがある。逆に、内側傾斜溝30の長さがトレッド展開幅の50%より大きい場合、クラウン領域Crの剛性が低下し、直進時のグリップ性能及び耐摩耗性能が低下するおそれがある。
【0041】
同様に、内側傾斜溝30のトレッド接地面に沿ったタイヤ軸方向の長さA2は、好ましくはトレッド展開幅TWeの10%以上、より好ましくは13%以上であり、好ましくは20%以下、より好ましくは17%以下である。
【0042】
タイヤ赤道Cから内側傾斜溝30の内端30iまでのトレッド接地面に沿ったタイヤ軸方向の距離W1は、好ましくはトレッド展開幅TWeの1.5%以上、より好ましくは2.5%以上であり、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.0%以下である。前記距離W1がトレッド展開幅TWeの1.5%よりも小さい場合、接地圧が大きいタイヤ赤道Cに内側傾斜溝30が接近し過ぎ、耐摩耗性能が低下するおそれがある。逆に、前記距離W1がトレッド展開幅TWeの5.0%よりも大きい場合、直進時のウェット性能が低下するおそれがある。
【0043】
タイヤ赤道Cから内側傾斜溝30の外端30oまでのトレッド接地面に沿ったタイヤ軸方向の距離W2は、好ましくはトレッド展開幅TWeの15%以上、より好ましくは18%以上であり、好ましくは25%以下、より好ましくは22%以下である。前記距離W2がトレッド展開幅TWeの15%よりも小さい場合、クラウン領域Crのタイヤ軸方向の剛性が低下し、ひいてはロール初期のロール特性が低下するおそれがある。逆に、前記距離W2がトレッド展開幅TWeの
25%よりも大きい場合、ミドル領域Miの剛性が低下し、ロール中期でのロール特性が低下するおそれがある。
【0044】
内側傾斜溝30のタイヤ周方向に対する角度θ3は、好ましくは0〜30°、より好ましくは0〜20°である。内側傾斜溝30のタイヤ周方向に対する角度θ3が30°より大きい場合、クラウン領域Crのタイヤ周方向の剛性が低下して、特に加減速時のグリップ性能が低下するおそれがある。
【0045】
内側傾斜溝30のタイヤ周方向に対する角度θ3は、タイヤ軸方向の内側から外側に向かって漸増するのが望ましい。このような内側傾斜溝30は、タイヤ軸方向の剛性を、タイヤ赤道側Cからトレッド端2t側に向かって漸増させ、特にロール初期のロール特性を向上させる。
【0046】
内側傾斜溝30の最大の溝幅W3は、好ましくは3.0mm以上、より好ましくは3.5mm以上であり、好ましくは5.0mm以下、より好ましくは4.5mm以下である。内側傾斜溝30の溝幅W3が3.0mmよりも小さい場合、クラウン領域Crの剛性が大きくなり、ロール初期のロール特性が低下するおそれがある。逆に、内側傾斜溝30の溝幅W3が5.0mmよりも大きい場合、クラウン領域の剛性が低下して、グリップ性能及び耐摩耗性能が低下するおそれがある。
【0047】
内側傾斜溝30は、タイヤ軸方向外側に向かって漸減する溝幅W3を持っている。このような内側傾斜溝30は、トレッド部2の剛性をタイヤ赤道C側からトレッド端2t側に向かって漸増させ、ロール初期からロール中期にかけて、キャンバー角を抑え、ロール特性をさらに向上させる。
【0048】
同様の観点から、内側傾斜溝30の溝深さd1(
図1に示す)は、好ましくは3.0mm以上、より好ましくは3.5mm以上であり、好ましく5.0mm以下、より好ましくは4.5mm以下である。
【0049】
外側傾斜溝40は、第1領域11に設けられた第1外側傾斜溝14と、第2領域12に設けられた第2外側傾斜溝24とを含む。
【0050】
第1外側傾斜溝14と、第2外側傾斜溝24とは、タイヤ周方向に分散して配置されるように、それぞれタイヤ赤
道Cに投影されたときに互いに重なることなく設けられる。
【0051】
外側傾斜溝40は、タイヤ軸方向の内端40iから、回転方向Rに向かって、タイヤ軸方向の外端40oへのびている。この実施形態では、外側傾斜溝40は、回転方向R側に凸の滑らかな略円弧状である。
【0052】
第1領域11及び第2領域12それぞれにおいて、内側傾斜溝30と、外側傾斜溝40とは、タイヤ周方向に交互に設けられる。また、第1領域11及び第2領域12のそれぞれにおいて、外側傾斜溝40は、タイヤ軸方向に投影されたときに、タイヤ周方向で隣合う内側傾斜溝30とは重ならない。このようなトレッドパターンは、Mi領域のタイヤ軸方向の剛性低下が抑えられ、キャンバー角を抑えてロール中期からロール終期にかけてのロール特性を改善させる。
【0053】
外側傾斜溝40のタイヤ軸方向の外端40oと内側傾斜溝30の外端30oとのタイヤ周方向の離間距離L2は、好ましくはトレッド展開幅TWeの5%以上、より好ましくは10%以上であり、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。前記離間距離L2がトレッド展開幅TWeの5%より小さい場合、ミドル領域Miの剛性が低下してロール特性が低下するおそれがある。逆に、前記離間距離L2がトレッド展開幅TWeの30%より大きい場合、ミドル領域Miの剛性が大きくなり、ロール中期でのキャンバー角が与えられ難くなり、ロール特性が低下するおそれがある。
【0054】
外側傾斜溝40のタイヤ周方向の長さB1は、内側傾斜溝30のタイヤ周方向の長さA1よりも小さい。また、外側傾斜溝40のトレッド接地面に沿ったタイヤ軸方向の長さB2は、内側傾斜溝30のトレッド接地面に沿ったタイヤ軸方向の長さA2よりも大きい。このような外側傾斜溝40及び内側傾斜溝30が設けられた自動二輪車用タイヤ1は、ショルダー領域Shのタイヤ軸方向の剛性が、クラウン領域Crのタイヤ軸方向の剛性よりも大きい。このため、ロール初期ではキャンバー角が与えられ易く、ロール終期ではキャンバー角が抑えられ易いタイヤが得られる。即ち、優れたロール特性を有するタイヤが得られる。
【0055】
外側傾斜溝40のタイヤ周方向の長さB1は、内側傾斜溝30のタイヤ周方向の長さA1の好ましくは32%以上、より好ましくは37%以上であり、好ましくは52%以下、より好ましくは47%以下である。外側傾斜溝40の前記長さB1が内側傾斜溝30の前記長さA1の32%より小さい場合、クラウン領域Crとミドル領域Miとの剛性差が大きくなり、ロール初期からロール中期にかけてのロール特性が低下するおそれがある。逆に、外側傾斜溝40の前記長さB1が内側傾斜溝30の前記長さA1の52%以上である場合、ショルダー領域Sh及びミドル領域Miでのタイヤ軸方向の剛性が低下し、特にロール中期からロール終期にかけてのロール特性が低下するおそれがある。
【0056】
外側傾斜溝40のトレッド接地面に沿ったタイヤ軸方向の長さB2は、内側傾斜溝30のトレッド接地面に沿ったタイヤ軸方向の長さA2の好ましくは1.08倍以上、より好ましくは1.10倍以上であり、好ましくは1.16倍以下、より好ましくは1.14倍以下である。外側傾斜溝40の前記長さB2が内側傾斜溝30の前記長さA2の1.08倍より小さい場合、ショルダー領域Shでの剛性段差が大きくなり、ロール終期でのロール特性が低下するおそれがある。逆に、外側傾斜溝40の前記長さB2が内側傾斜溝30の前記長さA2の1.16倍以上である場合、ロール中期及びロール終期でロール角度が抑えられ難くなり、ロール特性が低下するおそれがある。
【0057】
各第1外側傾斜溝14は、各第2内側傾斜溝23のタイヤ軸方向
に投影された投影領域P2内からはみ出すことなく設けられる。第1外側傾斜溝14の外端14oと第2内側傾斜溝23の内端23iとのタイヤ周方向の距離D1と、第1外側傾斜溝14の内端14iと第2内側傾斜溝23の外端23oとのタイヤ周方向の距離D2とは、内側傾斜溝30のタイヤ周方向の長さA1と外側傾斜溝40のタイヤ周方向の長さB1との差である長さ(A1−B1)の30〜70%である。
【0058】
同様に、各第2外側傾斜溝24は、各第1内側傾斜溝13のタイヤ軸方向
に投影された投影領域P1内からはみ出すことなく設けられる。第2外側傾斜溝24の外端24oと第1内側傾斜溝13の内端13iとのタイヤ周方向の距離D1と、第2外側傾斜溝24の内端24iと第1内側傾斜溝13の外端13oとのタイヤ周方向の距離D2とは、内側傾斜溝30のタイヤ周方向の長さA1と外側傾斜溝40のタイヤ周方向の長さB1との差である長さ(A1−B1)の30〜70%である。
【0059】
このような内側傾斜溝30及び外側傾斜溝40は、クラウン領域Crからショルダー領域Shまでの剛性分布が滑らかなトレッド部2を提供し、ロール特性を向上させる。また、このようなトレッド部2は、ミドル領域Mi及びショルダー領域Sh付近において、大きな剛性を持つ。このため、ロール終期においてキャンバー角が抑えられ易いタイヤが得られる。
【0060】
前記距離D1及び距離D2が、前記長さ(A1−B1)の30〜70%の範囲外である場合、内側傾斜溝30に対する外側傾斜溝40の位置がタイヤ周方向に偏る。このため、クラウン領域Crとミドル領域Miとの間に大きな剛性差が生じ、ロール特性が低下するおそれがある。即ち、外側傾斜溝40は、各投影領域P1又はP2において、タイヤ周方向の中央に位置するのが望ましい。このような観点から、前記距
離D1及び距離D2は、好ましくは前記長さ(A1−B1)の40%以上、より好ましく45%以上であり、好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下である。
【0061】
タイヤ赤道Cから外側傾斜溝40の内端40iまでのトレッド接地面に沿ったタイヤ軸方向の距離W5は、好ましくはトレッド展開幅TWeの15%以上、より好ましくは18%以上であり、好ましくは25%以下、より好ましくは18%以下である。前記距離W5がトレッド展開幅TWeの15%よりも小さい場合、耐摩耗性能が低下するおそれがある。逆に、前記距離W5がトレッド展開幅TWeの25%よりも大きい場合、クラウン領域Crとミドル領域との間に大きな剛性差が生じ、ロール特性が低下するおそれがある。
【0062】
第1領域11及び第2領域12それぞれにおいて、外側傾斜溝40の内端40iと内側傾斜溝30の外端30oとのトレッド接地面に沿ったタイヤ軸方向の距離W6は、好ましくはトレッド展開幅TWeの0%以上、より好ましくは3%以上であり、好ましくは10%以下、より好ましくは7%以下である。外側傾斜溝40と内側傾斜溝30とがタイヤ周方向
に投影されたときに重なり合う場合、ミドル領域Miで剛性が部分的に小さくなり、ロール特性が低下するおそれがある。また、前記距離W6がトレッド展開幅TWeの10%より大きい場合、クラウン領域Crとミドル領域との間に大きな剛性差が生じ、ロール特性が低下するおそれがある。
【0063】
タイヤ赤道Cから外側傾斜溝40の外端40oまでのトレッド接地面に沿ったタイヤ軸方向の距離W7は、好ましくはトレッド展開幅TWeの32.5%以上、より好ましくは35.0%以上であり、好ましくは42.5%以下、より好ましくは40.0%以下である。前記距離W7がトレッド展開幅TWeの32.5%よりも小さい場合、ミドル領域とショルダー領域との間に大きな剛性差が生じ、ロール終期でのロール特性が低下するおそれがある。逆に、前記距離W7がトレッド展開幅TWeの42.5%よりも大きい場合、ショルダー領域Shの剛性が低下し、旋回性能が低下するおそれがある。
【0064】
外側傾斜溝40のタイヤ周方向に対する角度θ4は、上述の各作用を十分に発揮させるために、好ましくは30〜90°、より好ましくは45〜90°である。
【0065】
外側傾斜溝40のタイヤ周方向に対する角度θ4は、タイヤ軸方向の内側から外側に向かって漸増するのが望ましい。このような外側傾斜溝40は、タイヤ軸方向の剛性を、タイヤ赤道側Cからトレッド端2t側に向かって漸増させ、ロール中期からロール終期にかけてのロール特性をさらに向上させる。
【0066】
外側傾斜溝40の最大の溝幅W4は、好ましくは3.0mm以上、より好ましくは3.5mm以上であり、好ましくは5.0mm以下、より好ましくは4.5mm以下である。外側傾斜溝40の溝幅W4が3.0mmよりも小さい場合、旋回時のウェット性能が低下するおそれがある。逆に、外側傾斜溝40の溝幅W4が5.0mmよりも大きい場合、ショルダー領域Shの剛性が低下して、グリップ性能及び耐摩耗性能が低下するおそれがある。
【0067】
外側傾斜溝40は、タイヤ軸方向外側に向かって漸減する溝幅W4を持っている。このような内側傾斜溝30は、ロール中期からロール終期にかけて、キャンバー角を抑え、ロール特性をさらに向上させる。
【0068】
同様の観点から、外側傾斜溝40の溝深さd2(
図1に示す)は、好ましくは3.0mm以上、より好ましくは3.5mm以上であり、好ましく5.0mm以下、より好ましくは4.5mm以下である。
【0069】
上述のトレッドパターンにより、本実施形態のタイヤ1は、トレッド部2のクラウン領域Crのランド比Lc、ミドル領域Miのランド比Lm、及び、ショルダー領域のランド比Lsが、次の関係を満たすのが望ましい。
Lc<Ls
Lc≦Lm≦Ls
【0070】
このようなランド比を有するトレッド部2は、クラウン領域Crからショルダー領域Shまでの剛性が適正となり、ロール初期からロール終期までのロール特性が向上する。
【0071】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0072】
図1の基本構造及び
図2のトレッドパターンを有する自動二輪車用の前輪用タイヤが、表1の仕様に基づき試作された。また、比較例1として、第1外側傾斜溝及び第2傾斜溝がそれぞれ、第2内側傾斜溝の投影領域P2及び第1内側傾斜溝の投影領域P1からはみ出しているトレッドパターンを有するタイヤが試作された。そして、各タイヤについて、ロール特性、グリップ性能及び耐摩耗性能がテストされた。各タイヤの共通仕様及び使用車両は以下の通りである。
タイヤサイズ:120/70ZR17
リムサイズ:MT3.50×17
内圧:170kPa
使用車両:排気量600ccの自動二輪車
テスト方法は以下の通りである。
【0073】
<ロール特性、グリップ性能>
各テストタイヤを装着した車両でサーキットコースを走行したときのロール特性及びグリップ性能が、運転者の官能評価により評価された。結果は、比較例1を50点とする評点であり、数値が大きい程、ロール特性及びグリップ性能が優れていることを示す。
【0074】
<耐摩耗性能>
サーキットコースで一定距離走行した後のテストタイヤの摩耗量が測定された。結果は、タイヤ摩耗量の逆数であり、比較例1の値を50とする指数で表示されている。数値が大きい程耐摩耗性能が優れていることを示す。
テストの結果が表1に示される。
【0075】
【表1】
【0076】
テストの結果、実施例の自動二輪車用タイヤは、グリップ性能及び耐摩耗性能を低下させることなくロール特性が向上していることが確認できた。