(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の前記偏光膜の連続ウェブの一方の面に接着剤を介して光学機能フィルムを貼り合せ、他方の面には粘着剤層を形成し、前記粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにしたことを特徴とする光学機能フィルム積層体。
請求項1に記載の前記偏光膜の連続ウェブの一方の面に接着剤を介して第1光学機能フィルムを貼り合せ、他方の面に接着剤を介して第2光学機能フィルムを貼り合せて生成された積層体に、粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにしたことを特徴とする光学機能フィルム積層体。
前記第1光学機能フィルムがTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムであり、第2光学機能フィルムがnx>nz>nyの3次元屈折率の2軸性位相差フィルムであることを特徴とする請求項4に記載の光学機能フィルム積層体。
前記第1光学機能フィルムがアクリル系樹脂フィルムであり、第2光学機能フィルムがλ/4位相差フィルムであって、前記偏光膜の吸収軸と前記λ/4位相差フィルムの遅相軸との貼り合せ角度を45±1°にしたことを特徴とする請求項4に記載の光学機能フィルム積層体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
熱可塑性樹脂基材を用いて薄型偏光膜を安定的に製造することは、すでに特許文献2〜5で見てきた。ところが、主に液晶テレビ用のディスプレイとして求められるコントラスト比1000:1以上、最大輝度500cd/m
2以上の光学特性を満たすような高機能の薄型偏光膜は、これまでのところ実現されてはいない。
【0012】
この技術的課題は以下に示すように単純なことだけに解決のためのハードルは高い。これまでの製法は、いずれも、空中高温環境において、熱可塑性樹脂基材とその上に形成されたPVA系樹脂層とを含む積層体を、延伸するものであった。空中延伸を高温環境で行うのは、一義的には、熱可塑性樹脂基材およびPVA系樹脂は、それぞれのガラス転移温度Tgを下回る温度では延伸できないためである。PVA系樹脂のTgは75〜80℃である。エステル系熱可塑性樹脂のポリエチレンテレフタレート(PET)のTgは80℃である。因みに、イソフタル酸をPETに共重合させた非晶性PETのTgは75℃である。したがって、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層とを含む積層体は、それらの温度を上回る高温で延伸されることになる。当然のことながら、延伸によってPVA系樹脂の配向性が高まる。PVA系樹脂からなる偏光膜の偏光性能は、ヨウ素のような二色性物質が吸着されたPVA系樹脂の配向性に左右される。PVA系樹脂の配向性が高いほど、PVA系樹脂からなる偏光膜の偏光性能が高くなる。
【0013】
しかしながら、オレフィン系であるかエステル系であるかを問わず、結晶性樹脂は、一般的に、加熱温度の高さや延伸配向によって高分子が配列し、結晶化が進む。結晶化によって樹脂の物性が様々に変化する。その典型は、結晶化によって事実上延伸不能になることである。結晶性PETの場合、アモルファスPETであっても120℃周辺で結晶化速度が急上昇し130℃で延伸不能になる。熱可塑性樹脂の一般的材料特性の概説が後述されるように、加熱処理や延伸配向に起因する高分子の配列を阻害することよって結晶化を抑制する手段は周知である。これにより生成される非晶性オレフィン系樹脂や非晶性エステル系樹脂も周知であることはいうまでもない。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)の結晶化を阻害するユニットを共重合させることによって、例えば、結晶化を抑制した非晶性ポリエチレンテレフタレート(PET)を作成することができる。非晶性PETの場合、120℃周辺で結晶化速度が急上昇することはない。結晶化は徐々に進むが、170℃までは安定して延伸できる。それ以上の高温になると、PETの軟化により延伸不能になる。
【0014】
本発明は、光学特性の高い偏光膜、光学特性の高い偏光膜を含む光学フィルム積層体、及び、光学特性の高い偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造に用いるための延伸積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、偏光膜の薄膜化と薄膜化された偏光膜の光学特性とを改善すべく鋭意検討してきた。その結果、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる厚みが10μm以下の偏光膜およびその製造方法を発明するに至った。偏光膜の薄膜化は、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材と、その上に形成されたPVA系樹脂層とを、一体に延伸することによって達成される。
【0016】
本発明者らの研究および分析によると、熱可塑性樹脂基材として非晶性PETを用い、非晶性PET基材に形成されたPVA系樹脂層を含む積層体を延伸温度が120℃以上、延伸倍率が5倍以上になるように自由端一軸に延伸した事例を発見することはできない。本発明者らは、これに挑戦して本発明を実現するに至った。
【0017】
図18〜
図22のイメージ図は、いずれも実験に基づいて表したものである。まず、
図18のイメージ図を参照されたい。
図18は、結晶性PETと非晶性PETとPVA系樹脂のそれぞれの延伸温度と延伸可能倍率との相対関係を実験に基づいて表したイメージ図である。
【0018】
図18の太線は、延伸温度の変化にともなう非晶性PETの延伸可能倍率の変化を表す。非晶性PETは、Tgが75℃であり、これ以下で延伸することはできない。空中高温の自由端一軸延伸によると110℃を越える点で7.0倍以上にまで延伸できる。一方、
図18の細線は、延伸温度の変化にともなう結晶性PETの延伸可能倍率の変化を表す。結晶性PETは、Tgが80℃であり、これ以下で延伸することはできない。
【0019】
図19のイメージ図を参照されたい。これは、ポリエチレンテレフタレート(PET)のTgと融点Tm間での温度変化にともなう結晶性PETと非晶性PETのそれぞれの結晶化速度の変化を表す。
図19からは、80℃から110℃前後のアモルファス状態にある結晶性PETは120℃前後で急速に結晶化することが理解される。
【0020】
また
図18から明らかなように、結晶性PETの場合、空中高温の自由端一軸延伸による延伸可能倍率は4.5〜5.5倍が上限となる。しかも適用され得る延伸温度は極めて限定的な90℃から110℃の温度範囲である。
【0021】
参考例1〜3は空中高温の自由端一軸延伸による事例である。これらはいずれも、200μm厚の結晶性PET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を空中高温延伸によって生成された、3.3μm厚の偏光膜である。それぞれの延伸温度には違いがあり、参考例1は110℃、参考例2は100℃、参考例3は90℃の場合である。注目すべきは延伸可能倍率である。参考例1の延伸倍率の限界は4.0倍であり、参考例2および3は4.5倍である。最終的には積層体自体が破断したことによって、これらを越える延伸処理が不可能であった。しかしながら、この結果においては、結晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層自体の延伸可能倍率が影響を及ぼしている可能性を否定することができない。
【0022】
そこで
図18の破線を参照されたい。これは、PVA系樹脂に属するPVAの延伸可能倍率を表す。PVA系樹脂のTgは75〜80℃であり、これ以下でPVA系樹脂からなる単層体を延伸することはできない。
図18から明らかなように、空中高温の自由端一軸延伸によると、PVA系樹脂からなる単層体の延伸可能倍率は5.0倍を限度とする。このことにより、本発明者らは、以下のことを明らかにすることができた。それは、結晶性PETおよびPVA系樹脂のそれぞれの延伸温度および延伸可能倍率の関係から、結晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体の空中高温の自由端一軸延伸による延伸可能倍率は、90〜110℃の延伸温度範囲において4.0〜5.0倍を限度であるということである。
【0023】
次に、非晶性PET基材を用いたPVA系樹脂層を含む積層体に対する空中高温の自由端一軸延伸による事例を比較例1および2に示す。非晶性PET基材に延伸温度による限界はない。比較例1は、200μm厚の非晶性PET基材に製膜された7μm厚のPVA系樹脂層を含む積層体を、延伸温度を130℃に設定した空中高温の自由端一軸延伸によって生成された偏光膜である。このときの延伸倍率は4.0倍であった。
【0024】
比較表を参照されたい。比較例2は、比較例1と同様に、200μm厚の非晶性PET基材に製膜された7μm厚のPVA系樹脂層を、延伸倍率が4.5倍、5.0倍、6.0倍になるようにそれぞれを延伸することによって生成された偏光膜である。いずれの比較例においても、比較表に示した通り、非晶性PET基材にフィルムの面内で延伸の不均一が生じるか破断が生じ、一方で、延伸倍率4.5倍でPVA系樹脂層に破断が生じている。これにより、延伸温度130℃の空中高温延伸によるPVA系樹脂層の延伸倍率の限界が4.0倍であることを確認した。
【表1】
【0025】
参考例1〜3はいずれも、延伸温度に違いはあるが、結晶性PET基材にPVA系樹脂層を製膜した積層体を4.0〜4.5倍の延伸処理によってPVA分子を配向させた薄膜化されたPVA系樹脂層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成した。具体的には、最終的に生成される薄型偏光膜を構成するPVA系樹脂層の単体透過率が40〜44%になるように、延伸積層体を液温30℃のヨウ素およびヨウ化カリウムを含む染色液に任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層にヨウ素を吸着させた。また薄膜化されたPVA系樹脂層へのヨウ素吸着量を調整することによって単体透過率Tと偏光度Pとを異にする種々の偏光膜を生成した。
【0026】
図26のグラフを参照されたい。
図26は、参考例1〜3の光学特性を表したものである。結晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層は、空中高温延伸によって、ある程度PVA分子が配向される。その一方で、空中高温延伸は、PVA分子の結晶化を促進し、非晶部分の配向を阻害しているものと推定される。
【0027】
そこで本発明者らは、本発明に先立って、比較例3に示す偏光膜およびその製造方法を開発した。これは、Tg以下の延伸温度であってもPET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を延伸することができるという水の可塑剤機能に着目した驚くべき知見に基づいたものである。この方法によれば、PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を延伸倍率が5.0倍まで延伸できることを確認した。これは、本出願人の出願に係るPCT/JP2010/001460において開示した実施例1に相当するものである。
【0028】
本発明者らはさらに研究を進め、延伸倍率の限界が5.0倍であることは、PET基材が結晶性PETによるものであることを確認した。PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体はTg以下のホウ酸水溶液で延伸されるため、PET基材が結晶性であるか非晶性であるかは延伸作用に大きく影響しないとの認識であったが、非晶性PETを用いた場合には、前記積層体を延伸倍率が5.5倍まで延伸できることを確認した。このように、比較例3に示す偏光膜の製造方法によると、延伸倍率の限界が5.5倍であることは、非結晶性のPET基材による制限と推定される。
【0029】
比較例1については、単体透過率Tと偏光度Pを異にする種々の偏光膜を生成し、
図26に参考例1〜3とともに、それらの光学特性を表した。
【0030】
図20のグラフを参照されたい。これは、本発明者らがこうした研究結果を基礎に創意した本発明の空中高温の延伸倍率と総合延伸倍率(以下、「総延伸倍率」という。)との関係を端的に表したものである。横軸は自由端一軸による延伸温度130℃の空中延伸倍率である。縦軸の総延伸倍率は、以下に述べる自由端一軸による空中高温延伸を含む2段階の延伸処理によって、空中高温延伸前の長さである元長を1として、最終的に元長が何倍延伸されたかを表す総延伸倍率である。例えば、延伸温度130℃の空中高温延伸による延伸倍率が2倍であって、次の延伸倍率が3倍であれば、総延伸倍率は6倍(2×3=6)になる。空中高温延伸に続く第2段の延伸方法は、延伸温度65℃のホウ酸水溶液中における自由端一軸延伸(以下、ホウ酸水溶液に浸漬させながら延伸する処理を「ホウ酸水中延伸」という。)である。この二つの延伸方法を組み合わせることによって、
図20に示す以下のような知見を得ることができた。
【0031】
図20の実線は非晶性PETの延伸可能倍率を表している。非晶性PETの総延伸倍率は、空中高温延伸されずに直接ホウ酸水中延伸された時点、すなわち空中高温延伸が1倍のとき、5.5倍が限度である。これ以上の延伸を行うと、非晶性PETは破断する。しかしながら、この時点は非晶性PETの最小延伸倍率を示している。非晶性PETの総延伸倍率は、空中高温延伸時の延伸倍率が大きくなるほど大きくなり、延伸可能倍率は10倍を越える。
【0032】
これに対して、
図20の破線は非晶性PETに製膜されたPVA系樹脂層の延伸可能倍率を表している。空中高温延伸されずに直接ホウ酸水中延伸された場合は、PVA系樹脂層の総延伸倍率は最大倍率を示す7倍である。しかしながら、空中高温延伸時の延伸倍率が大きくなるほどPVA系樹脂層の総延伸倍率は小さくなり、空中高温延伸時の延伸倍率が3倍の時点で、PVA系樹脂層の総合延伸倍率が6倍を下回る。PVA系樹脂層の総合延伸倍率を6倍にしようとすると、PVA系樹脂層が破断する。
図20から明らかなように、非晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を延伸できなくなる原因は、空中高温の延伸倍率の大きさによって、非晶性PET基材に起因するものからPVA系樹脂層に起因するものへと変化する。因みに、PVAの空中延伸倍率は4倍までであり、それ以上は延伸不能になる。この倍率がPVAの総延伸倍率に相当するものと推定される。
【0033】
ここで、
図21のイメージ図を参照されたい。
図21は、結晶性PETと非晶性PETとPVA系樹脂に関する空中高温延伸の延伸温度と空中高温延伸とホウ酸水中延伸との総延伸可能倍率との関係を実験に基づいて表したイメージ図である。
図18のイメージ図は結晶性PETと非晶性PETとPVA系樹脂に関する空中高温延伸の延伸温度を横軸に、空中高温延伸の延伸可能倍率を縦軸に表した。この
図18のイメージ図との違いは、横軸が2倍の空中高温延伸のときの延伸温度を横軸に、空中高温延伸とホウ酸水中延伸との総延伸可能倍率を縦軸に表した点である。
【0034】
本発明は、後述されるように、空中高温延伸とホウ酸水中延伸との二つの延伸方法の組み合わせによって創意することができた。二つの延伸方法の組み合わせは、単なる組み合わせでない。本発明者らが長期間にわたり鋭意研究を重ねた結果、この組み合わせによって、以下に述べる2つの技術的課題を同時に解決する驚くべき知見を得て本発明に至ったのである。これまで解決不能と考えられてきた2つの技術的課題が存在する。
【0035】
第1の技術的課題は、PVA系樹脂の配向性の向上に関わる延伸倍率および延伸温度が、その上にPVA系樹脂を形成する熱可塑性樹脂基材によって大きく制約を受けることである。
【0036】
第2の技術的課題は、延伸倍率および延伸温度の制約を解除できても、PVA系樹脂や熱可塑性樹脂基材としてのPETなどの結晶性樹脂の結晶化と延伸可能性とは対立する物性であるため、PVA系樹脂の延伸がPVA系樹脂の結晶化によって制限されることである。
【0037】
第1の課題は以下の通りである。熱可塑性樹脂基材を用いて偏光膜を製造する際の制約は、
図18で見たように、延伸温度がPVA系樹脂のTg(75〜80℃)以上であり、延伸倍率が4.5〜5.0倍であるというPVA系樹脂の特性に起因する。熱可塑性樹脂基材として結晶性PETを用いると、延伸温度が90〜110℃にさらに限定される。積層体の空中高温延伸によって、その積層体に含まれる熱可塑性樹脂基材に形成されたPVA系樹脂層を薄膜化した偏光膜は、こうした制限を逃れ難いものと考えられてきた。
【0038】
そのため、本発明者らは、水の可塑剤機能の発見に基づき空中高温延伸に代わることができるホウ酸水中延伸方法を提示した。しかしながら、延伸温度が60〜85℃のホウ酸水中延伸によっても結晶性PETを用いると延伸倍率が5.0倍または非晶性PETを用いても延伸倍率の上限が5.5倍という熱可塑性樹脂基材に起因する制約を逃れることができなかった。このことによりPVA分子の配向性向上が制限され、薄膜化された偏光膜の光学特性も限定される結果となった。これが第1の技術的課題である。
【0039】
第1の技術的課題の解決手段は、
図22に示すイメージ図によって説明することができる。
図22は2つの関連図からなる。一つは熱可塑性樹脂基材として用いられるPETの配向性を表す図であり、他の一つはPETの結晶化度を表す図である。いずれも横軸は、空中高温延伸とホウ酸水中延伸との総延伸倍率を表す。
図22の破線は、ホウ酸水中延伸単独による総延伸倍率を表す。PETの結晶化度は、結晶性であるか非晶性であるかに関わりなく、延伸倍率が4〜5倍のところで急上昇する。そのため、ホウ酸水中延伸であっても延伸倍率5倍または5.5倍が限度であった。ここで配向性が上限となり、延伸張力が急上昇する。すなわち延伸不能となる。
【0040】
これに対して、
図22の実線は、延伸温度110℃で延伸倍率が2倍になるように空中高温の自由端一軸延伸を行い、次に延伸温度65℃のホウ酸水中延伸を行った結果を示す。結晶性であるか非晶性であるかに関わりなく、PETの結晶化度は、ホウ酸水中延伸単独の場合と異なり急上昇することはなかった。その結果、総延伸可能倍率は7倍まで高めることができた。ここで配向性が上限となり延伸張力が急上昇する。これは、
図21から明らかなように、第1段の延伸方法として空中高温の自由端一軸延伸を採用した結果である。これに対して、後述される固定端一軸延伸による空中高温延伸を採用すると、総延伸可能倍率を8.5倍にすることができる。
【0041】
図22において、熱可塑性樹脂基材として用いられるPETの配向性と結晶化度との関係は、空中高温延伸による補助延伸によって、結晶性であるか非晶性であるかに関わりなくPETの結晶化を抑制することができることを確認した。しかしながら、
図23を参照されたい。熱可塑性樹脂基材として結晶性PETを用いると、補助延伸後の結晶性PETの配向性は、90℃で0.30以上、100℃で0.20以上、110℃でも0.10以上である。PETの配向性が0.10以上になると、ホウ酸水溶液中における第2段目の延伸において、延伸張力が上昇し、延伸装置にかかる負荷が大きく、製造条件としては好ましくない。
図23は、熱可塑性樹脂基材としては非晶性PETを用いるのが好ましいことを示しており、さらに、より好ましくは、配向関数が0.10以下の非晶性PETであり、さらに好ましくは0.05以下の非晶性PETであることを示唆するものである。
【0042】
図23は、1.8倍の空中高温延伸した空中延伸温度と熱可塑性樹脂基材として用いられるPETの配向関数との関係を表した実験データである。
図23から明らかなように、ホウ酸水溶液中において延伸積層体を高倍率に延伸することができる配向関数が0.10以下のPETは、非晶性PETになる。特に配向関数が0.05以下になると、ホウ酸水溶液中における第2段目の延伸の際に、延伸装置に延伸張力が上昇するなどの大きな負荷をかけることなく、安定して高倍率に延伸することができる。この点は、
図29の実施例1〜18と参考例1〜3との配向関数値からも容易に理解できることである。
【0043】
第1の技術的課題を解決することによって、PET基材に起因する延伸倍率についての制約を取り払い、総延伸の高倍率化によってPVA系樹脂の配向性を高めることができるようになった。そのことにより偏光膜の光学特性は、格段と改善されることとなった。ところが光学特性の改善は、これに止まるものではなかった。これは、第2の技術的課題を解決することによって達成された。
【0044】
第2の技術的課題は以下の通りである。PVA系樹脂や熱可塑性樹脂基材としてのPETなどの結晶性樹脂の特徴の一つは、一般的に加熱や延伸配向によって高分子が配列して結晶化が進む性質を有することである。PVA系樹脂の延伸は、結晶性樹脂であるPVA系樹脂の結晶化によって制限される。結晶化と延伸可能性とは対立する物性であり、PVA系樹脂の結晶化の進展はPVA系樹脂の配向性を阻害するというのが一般的であった。これが第2の技術的課題である。この技術的課題を解決する手段は、
図24によって説明することができる。
図24は、2つの実験結果に基づき算出されたPVA系樹脂の結晶化度とPVA系樹脂の配向関数との関係を実線と破線とで表したものである。
【0045】
図24の実線は、以下の試料のPVA系樹脂の結晶化度とPVA系樹脂の配向関数との関係を表したものである。試料は、まず、同じ条件で生成された非晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を6つの試料として準備した。準備した6つのPVA系樹脂層を含む積層体を、延伸温度のそれぞれが80℃,95℃,110℃、130℃,150℃、および170℃で、延伸倍率のそれぞれが同じ1.8倍の空中高温延伸によって、PVA系樹脂層を含む延伸積層体を生成した。生成されたそれぞれの延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層の結晶化度とPVA系樹脂の配向関数を測定および解析した。測定方法および解析方法の詳細は後述される。
【0046】
図24の破線は、実線の場合と同様に、以下の試料のPVA系樹脂の結晶化度とPVA系樹脂の配向関数との関係を表したものである。試料は、まず、同じ条件で生成された非晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を6つの試料として準備した。準備した6つのPVA系樹脂層を含む積層体を、延伸倍率のそれぞれが1.2倍、1.5倍、1.8倍、2.2倍、2.5倍、および3.0倍で、延伸温度のそれぞれが同じ130℃の空中高温延伸によって、PVA系樹脂層を含む延伸積層体を生成した。生成されたそれぞれの延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層の結晶化度とPVA系樹脂の配向関数を後述の方法により測定および解析した。
【0047】
図24の実線によって、空中高温延伸の延伸温度を高く設定した延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層ほど、PVA系樹脂の配向性が向上することを確認した。また
図24の破線によって、空中高温延伸の延伸倍率を高倍率に設定した延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層ほど、PVA系樹脂の配向性が向上することも確認した。第2段のホウ酸水中延伸前に、PVA系樹脂の配向性を向上させておくこと、すなわちPVA系樹脂の結晶化度を高めておくことは、結果としてホウ酸水中延伸後のPVA系樹脂の配向性も高くなる。さらにPVA系樹脂の配向性が高くなることで、結果としてポリヨウ素イオンの配向性も高くなることを後述される実施例のT−Pグラフからも確認することができる。
【0048】
第1段の空中高温延伸の延伸温度を高く設定しておくかまたは延伸倍率をより高倍率に設定しておくことによって、第2段のホウ酸水中延伸によって生成されたPVA系樹脂層のPVA分子の配向性は、より高めることができるという予期せざる望外の結果を得た。
【0049】
図24のPVA系樹脂の結晶化度(横軸)に着目されたい。PVA系樹脂層を含む延伸積層体の染色のための水溶液に浸漬する着色工程において、PVA系樹脂層の溶解などの不具合を生じさせることなく着色積層体を生成するためには、少なくともPVA系樹脂層の結晶化度が27%以上であることが好ましい。そのことによりPVA系樹脂層を溶解させることなく、PVA系樹脂層を染色することができる。またPVA系樹脂層の結晶化度を30%以上に設定することにより、ホウ酸水溶液中における延伸温度をより高温にすることができる。そのことにより着色積層体の安定した延伸を可能とし、偏光膜を安定的に作製することができる。
【0050】
一方、PVA系樹脂層の結晶化度が37%以上になると、染色性が低く染色濃度を濃くしなければならず、使用材料も増加し、染色時間がかかり、生産性が低下するおそれがでてくる。またPVA系樹脂層の結晶化度が40%以上になると、ホウ酸水溶液中における延伸処理においてPVA系樹脂層が破断するなどの不具合が生じるおそれもでてくる。したがって、PVA系樹脂の結晶化度は、27%以上で40%以下となるように設定されることが好ましい。より好ましくは、30%以上で37%以下に設定することである。
【0051】
次に、
図24のPVA系樹脂層の配向関数(縦軸)に着目されたい。非晶性PETの樹脂基材を用いて高機能の薄型偏光膜を作製するためには、少なくともPVA系樹脂層の配向関数が0.05以上であることが好ましい。また、PVA系樹脂層の配向性が0.15以上になると、PVA系樹脂層を含む着色積層体に対するホウ酸水溶液中における延伸倍率を下げることができる。そのことにより広幅の偏光膜の作製が可能になる。
【0052】
一方、PVA系樹脂層の配向関数が0.30以上になると、染色性が低く染色濃度を濃くしなければならず、使用材料も増加し、染色時間がかかり、生産性が低下するおそれがでてくる。またPVA系樹脂層の配向関数が0.35以上になると、ホウ酸水溶液中における延伸処理においてPVA系樹脂層が破断するなどの不具合が生じるおそれがでてくる。したがって、PVA系樹脂層の配向関数は、0.05以上で0.35以下となるように設定されることが好ましい。より好ましくは、0.15以上で0.30以下に設定することである。
【0053】
第1の技術的課題の解決手段は、非晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を予め第1段の空中高温延伸によって予備的または補助的に延伸しておくことによって、第2段のホウ酸水中延伸によって非晶性PET基材の延伸倍率に制限されることなく、PVA系樹脂層を高倍率に延伸することが可能となり、そのことによりPVAの配向性が十分に向上することを確認した。
【0054】
また第2の技術的課題の解決手段は、予め第1段の空中高温延伸の延伸温度を予備的または補助的により高い温度に設定しておくかまたは延伸倍率を予備的または補助的により高倍率に設定しておくことによって、第2段のホウ酸水中延伸によって生成されたPVA系樹脂層のPVA分子の配向性をより高めるという予期せざる結果をもたらした。いずれの場合も、第1段の空中高温延伸が第2段のホウ酸水中延伸に対する予備的または補助的な空中延伸手段として位置付けることができる。以下、「第1段の空中高温延伸」を第2段のホウ酸水中延伸に対する「空中補助延伸」という。
【0055】
「空中補助延伸」を行うことによる、特に第2の技術的課題の解決メカニズムについて、以下のように推定することができる。空中補助延伸を高温にするかまたは高倍率にするほど、
図24で確認したように、空中補助延伸後のPVA系樹脂の配向性が向上する。これは、高温または高倍率であるほどPVA系樹脂の結晶化が進みながら延伸されるため、部分的に架橋点ができながら延伸されることが要因であると推定される。結果としてPVA系樹脂の配向性が向上していることになる。予めホウ酸水中延伸前に空中補助延伸によりPVA系樹脂の配向性を向上させておくことで、ホウ酸水溶液に浸漬した時に、ホウ酸がPVA系樹脂と架橋し易くなり、ホウ酸が結節点となりながら延伸されるものと推定される。結果としてホウ酸水中延伸後もPVA系樹脂の配向性が高くなる。
【0056】
本発明の実施態様は、以下のとおりである。
本発明の第1の態様は、ヨウ素を吸着し、配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる厚みが10μm以下の連続ウェブの偏光膜であって、
前記偏光膜は、ポリビニルアルコール分子が高次に配向され、吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向して前記偏光膜の光学特性が、
単体透過率をTとし、偏光度をPとしたとき
P>−(10
0.929T−42.4−1)×100(ただし、T<42.3)およびP≧99.9(ただし、T≧42.3)
によって表されるようにしたことを特徴とする偏光膜に関するものである。
【0057】
偏光膜の単体透過率Tと偏光度Pからなる光学特性値がこの不等式によって表される範囲は、一義的には、大型表示素子を用いた液晶テレビ用のディスプレイとして求められる性能である。具体的にはコントラスト比1000:1以上かつ最大輝度500cd/m
2以上である。以下、これを「要求性能」という。他の用途としては、後述されるように、有機ELディスプレイパネルの視認側に貼り合される光学機能フィルム積層体に用いられる。
【0058】
液晶セルに用いられる場合、バックライト側と視認側のいずれか一方の片側偏光膜の偏光性能が少なくともこの範囲になければならない。またバックライト側と視認側のいずれか一方の片側偏光膜として偏光度Pが99.9%以下の偏光膜を用いた場合、他方の片側偏光膜として、偏光性能がいかに優れた偏光膜を用いても、要求性能を達成することができない。
【0059】
第1実施態様において、前記偏光膜の連続ウェブの一方の面に接着剤を介して光学機能フィルムを貼り合せ、他方の面には粘着剤層を形成し、前記粘着剤層を介して前記偏光膜にセパレータを剥離自在に積層するようにした光学機能フィルム積層体を生成することができる。この場合、光学機能フィルムはTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムとすることが好ましい。
【0060】
第1実施態様において、前記偏光膜の連続ウェブの一方の面に接着剤を介して第1光学機能フィルムを貼り合せ、他方の面に接着剤を介して第2光学機能フィルムを貼り合せて生成された積層体に、粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにした光学機能フィルム積層体をさらに、生成することができる。この場合、第1光学機能フィルムをTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムとし、第2光学機能フィルムをnx>nz>nyの3次元屈折率の2軸性位相差フィルムとすることが好ましい。
【0061】
また第1光学機能フィルムをアクリル系樹脂フィルムであり、第2光学機能フィルムをλ/4位相差フィルムであって、前記偏光膜の吸収軸とλ/4位相差フィルムの遅相軸との貼り合せ角度を45±1°とすることもできる。
【0062】
本発明の第2の態様は、連続ウェブの非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材と、該非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜された二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる厚みが10μm以下の偏光膜とを含む光学フィルム積層体であって、前記偏光膜は、単体透過率Tと偏光度Pからなる光学特性値が、以下の不等式、
P>−(10
0.929T−42.4−1)×100(ただし、T<42.3)およびP≧99.9(ただし、T≧42.3)
によって表される範囲にあることを特徴とする光学フィルム積層体に関するものである。
【0063】
第2実施態様において、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みは、製膜されるPVA系樹脂層の厚みの6倍以上であることが好ましく、7倍以上であることがより好ましい。PVA系樹脂層に対する非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みが7倍以上であれば、製造工程の搬送時にフィルム強度が弱く破断するような搬送性、液晶ディスプレイのバックライト側と視認側のいずれか一方の片側偏光膜として用いられる際の偏光膜のカール性や転写性などの不具合は生じない。
【0064】
図1を参照されたい。
図1は、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みとPVA系樹脂層の塗工厚(偏光膜厚)との間に不具合が生じるかどうかを確認したものである。
図1に示したように、5倍程度の厚みでは、搬送性に問題が生じることが懸念される。また一方、厚みが10μm以上の偏光膜は、クラック耐久性に問題が生じることが懸念される。
【0065】
第2実施態様において、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材は、樹脂基材として、イソフタル酸を共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールを共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレートまたは他の共重合ポリエチレンテレフタレートを含む非晶性ポリエチレンテレフタレートであることが好ましく、また透明樹脂とすることができる。
【0066】
ポリビニルアルコール系樹脂に染色させる二色性物質はヨウ素またはヨウ素と有機染料の混合物であることが好ましい。
【0067】
第2実施態様において、前記光学フィルム積層体に含まれる偏光膜の非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜されていない面に、粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにした光学フィルム積層体を生成することができる。この場合、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材が偏光膜の保護フィルムとなるので、樹脂基材が透明でなければならない。
【0068】
第2実施態様において、前記光学フィルム積層体に含まれる偏光膜の非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜されていない面に接着剤を介して光学機能フィルムを貼り合せ、該光学機能フィルムの上に粘着剤層を形成し、該粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにした光学機能フィルム積層体を生成することができる。この場合、第2光学機能フィルムをnx>ny>nzの3次元屈折率の2軸性位相差フィルムとすることが好ましい。
【0069】
本発明の第3の態様は、連続ウェブの非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材と、該非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜された二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる厚みが10μm以下の偏光膜とを含む光学フィルム積層体であって、前記偏光膜は、単体透過率Tと偏光度Pからなる光学特性値が、以下の不等式、
P>−(10
0.929T−42.4−1)×100(ただし、T<42.3)およびP≧99.9(ただし、T≧42.3)
によって表される範囲にあることを特徴とする光学フィルム積層体を製造するための、配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる延伸中間生成物を含む延伸積層体であり、前記非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材は、配向関数が0.10以下に設定された、空中高温延伸処理された非晶性ポリエチレンテレフタレートを用いた延伸積層体に関するものである。
【0070】
第3実施態様において、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みは、製膜されるPVA系樹脂層の厚みの6倍以上であることが好ましく、7倍以上であることがより好ましい。PVA系樹脂層に対する非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みが7倍以上であれば、製造工程の搬送時にフィルム強度が弱く破断するような搬送性、液晶ディスプレイのバックライト側と視認側のいずれか一方の片側偏光膜として用いられる際の偏光膜のカール性や転写性などの不具合は生じない。
【0071】
第3実施態様において、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材は、配向関数を0.10以下に設定した、空中高温延伸処理したイソフタル酸を共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールを共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレートまたは他の共重合ポリエチレンテレフタレートを含む非晶性ポリエチレンテレフタレートであることであることが好ましく、また透明樹脂とすることができる。
【0072】
第3実施態様において、延伸積層体に用いられるPVA系樹脂は、結晶化度が27%以上で40%以下に設定され、配向関数が0.05以上で0.35以下に設定されたPVA系樹脂であることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0074】
偏光膜の背景技術として、本発明に用いられる熱可塑性樹脂基材の材料特性と偏光膜の偏光性能によって表される光学特性について、技術的整理をしておく。
【0075】
ここでは、本発明に用いられる熱可塑性樹脂の一般的材料特性を概説する。
熱可塑性樹脂は、高分子が規則正しく配列する結晶状態にあるものと、高分子が規則正しい配列を持たない、あるいは、ごく一部しか持たない無定形または非晶状態にあるものとに大別できる。前者を結晶状態といい、後者を無定形または非晶状態という。これに対応して、結晶状態をつくる性質の熱可塑性樹脂は結晶性樹脂と呼ばれ、そうした性質をもたない熱可塑性樹脂は非晶性樹脂と呼ばれる。一方、結晶性樹脂であるか非晶性樹脂であるかを問わず、結晶状態にない樹脂または結晶状態に至らない樹脂をアモルファスまたは非晶質の樹脂という。ここでは、アモルファスまたは非晶質の樹脂は、結晶状態をつくらない性質の非晶性樹脂と区別して用いられる。
【0076】
結晶性樹脂としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)を含むオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)を含むエステル系樹脂がある。結晶性樹脂の特徴の一つは、一般的に加熱や延伸配向によって高分子が配列して結晶化が進む性質を有することである。樹脂の物性は、結晶化の程度に応じて様々に変化する。一方で、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)のような結晶性樹脂でも、加熱処理や延伸配向によって起こる高分子の配列を阻害することによって、結晶化の抑制が可能である。結晶化が抑制されたこれらのポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)を非晶性ポリプロピレン、非晶性ポリエチレンテレフタレートといい、これらをそれぞれ総称して非晶性オレフィン系樹脂、非晶性エステル系樹脂という。
【0077】
例えばポリプロピレン(PP)の場合、立体規則性のないアタクチック構造にすることによって、結晶化を抑制した非晶性ポリプロピレン(PP)を作成できる。また例えばポリエチレンテレフタレート(PET)の場合、重合モノマーとして、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジメタノールのような変性基を共重合すること、すなわち、ポリエチレンテレフタレート(PET)の結晶化を阻害する分子を共重合させることによって、結晶化を抑制した非晶性ポリエチレンテレフタレート(PET)を作成することができる。
【0078】
次に、大型表示素子に用いることができる偏光膜の光学特性を概説する。
偏光膜の光学特性とは、端的には、偏光度Pと単体透過率Tとで表す偏光性能のことである。一般に、偏光膜の偏光度Pと単体透過率Tとはトレード・オフの関係にある。この2つの光学特性値を複数プロットして表したグラフがT−Pグラフである。T−Pグラフにおいて、プロットしたラインが単体透過率の高い右方向かつ偏光度の高い上方向にあるほど、偏光膜の偏光性能が優れていることになる。
【0079】
図3の模式図を参照されたい。理想的光学特性は、T=50%で、P=100%の場合である。T値が低ければP値を上げやすく、T値が高いほどP値を上げにくい。また、
図4のプロットしたラインによって画定された範囲に位置する単体透過率Tおよび偏光度Pは、具体的には、「要求性能」として、ディスプレイのコントラスト比1000:1以上かつ最大輝度500cd/m
2以上である。これは、現在または将来、大型表示素子などの偏光膜性能として求められる光学特性である。単体透過率Tの理想値は、T=50%であるが、光が偏光膜を透過する際には、偏光膜と空気との界面で一部の光が反射する現象が起こる。この反射現象を考慮すると、反射の分は単体透過率Tが減少するので、現実的に達成可能なT値の最大値は45〜46%程度である。
【0080】
一方、偏光度Pは、偏光膜のコントラスト比(CR)に変換することができる。例えば99.95%の偏光度Pは、偏光膜のコントラスト比の2000:1に相当する。この偏光膜を液晶テレビ用セルの両側に用いたときのディスプレイのコントラスト比は、1050:1である。ここでディスプレイのコントラスト比が偏光膜のコントラスト比を下回るのは、セル内部において偏光解消が生じているためである。偏光解消は、バックライト側の偏光膜を透過してきた光がセル内部を透過する際に、カラーフィルタ中の顔料、液晶分子層、TFT(薄膜トランジスタ)によって光が散乱および/または反射し、一部の光の偏光状態が変化することにより生じる。偏光膜およびディスプレイのコントラスト比がいずれも大きいほど、液晶テレビはコントラストが優れ、見やすい。
【0081】
ところで、偏光膜のコントラスト比は、平行透過率Tpを直交透過率Tcで除した値として定義される。これに対してディスプレイのコントラスト比は、最大輝度を最小輝度で除した値として定義することができる。最小輝度とは黒表示時の輝度である。一般的な視聴環境を想定した液晶テレビの場合、0.5cd/m
2以下の最小輝度が要求基準になる。これを越える値では色再現性が低下する。また最大輝度とは白表示時の輝度である。一般的な視聴環境を想定した液晶テレビの場合、ディスプレイは、最大輝度が450〜550cd/m
2の範囲のものが用いられる。これを下回ると、表示が暗くなるため液晶テレビの視認性が低下する。
【0082】
大型表示素子を用いた液晶テレビ用のディスプレイとして求められる性能は、コントラスト比が1000:1以上かつ最大輝度が500cd/m
2以上である。これを「要求性能」という。
図4のライン1(T<42.3%)およびライン2(T≧42.3%)は、要求性能を達成するために必要とされる偏光膜の偏光性能の限界値を表している。これは、
図5のバックライト側と視認側との偏光膜の組み合わせに基づく、次のようなシミュレーションによって求められたラインである。
【0083】
液晶テレビ用のディスプレイのコントラスト比と最大輝度は、光源(バックライトユニット)の光量、バックライト側と視認側との2つの偏光膜の透過率、セルの透過率、バックライト側と視認側との2つの偏光膜の偏光度、セルの偏光解消率に基づいて算出される。一般的な液晶テレビの光源の光量(10,000cd/m
2)、セルの透過率(13%)、および偏光解消率(0.085%)の基礎数値を用い、種々の偏光性能の偏光膜を組み合わせ、それぞれの組み合わせ毎に液晶テレビ用のディスプレイのコントラスト比と最大輝度を算出することによって、要求性能を満足する
図4のライン1およびライン2を導き出すことができる。すなわち、ライン1およびライン2に達しない偏光膜は、ディスプレイのコントラスト比が1000:1以下で、最大輝度が500cd/m
2以下であることを示すということである。算出に用いた式は以下の通りである。
【0084】
式(1)は、ディスプレイのコントラスト比を求める式である。式(2)は、ディスプレイの最大輝度を求める式である。式(3)は偏光膜の二色比を求める式である。
式(1):CRD =Lmax/Lmin
式(2):Lmax=(LB×Tp−(LB/2 ×k1B×
DR/100)/2×(k1F-k2F))×Tcell/100
式(3):DR =A
k2/A
k1=log(k2)/log(k1)=log(Ts/100×(1-P/100)/T
PVA)/log(Ts/100×(1+P/100)/ T
PVA)
ここで、
Lmin=(LB×Tc+(LB /2 ×k1B×
DR/100)/2×(k1F-k2F))×Tcell/100
Tp=(k1B×k1F+ k2B×k2F)/2×T
PVA
Tc=(k1B×k2F+ k2B×k1F)/2×T
PVA
k1=Ts/100×(1+P/100)/T
PVA
k2=Ts/100×(1- P/100)/T
PVA
CRD :ディスプレイのコントラスト比
Lmax :ディスプレイの最大輝度
Lmin :ディスプレイの最小輝度
DR :偏光膜の二色比
Ts :偏光膜の単体透過率
P :偏光膜の偏光度
k1 :第1主透過率
k2 :第2主透過率
k1F :視認側偏光膜のk1
k2F :視認側偏光膜のk2
k1B :バックライト側偏光膜のk1
k2B :バックライト側偏光膜のk2
A
k1 :偏光膜の透過軸方向の吸光度
A
k2 :偏光膜の吸収軸方向の吸光度
LB :光源の光量 (10000cd/m2)
Tc :偏光膜の直交透過率(視認側偏光板とバックライト側偏光板の組合せ)
Tp :偏光膜の平行透過率(視認側偏光板とバックライト側偏光板の組合せ)
Tcell :セルの透過率(13%)
PC :セルの偏光解消率(0.085%)
T
PVA :沃素が吸着していないPVAフィルムの透過率 (0.92)。
【0085】
図4のライン1(T<42.3%)は、
図5の偏光膜3の偏光性能によって導き出される。
図5の偏光膜3のうち、偏光性能が座標(T、P)=(42.1%、99.95%)で表されるプロットD(白点)の偏光膜Dを液晶テレビ用のディスプレイのバックライト側と視認側の両側に用いた場合、要求性能を達成することができる。
【0086】
ところが、同じ偏光膜3であっても、単体透過率の低い(より暗い)偏光性能の異なる3つの偏光膜A(40.6%、99.998%)、B(41.1%、99.994%)、またはC(41.6%,99.98%)をバックライト側と視認側の両側に用いた場合、いずれも、要求性能を達成することができない。バックライト側と視認側のいずれか一方の片側偏光膜として偏光膜A、B、またはCを用いた場合、要求性能を達成するためには、例えば、他方の片側偏光膜として偏光膜4に属する偏光膜E、偏光膜5に属する偏光膜F、または偏光膜7に属するGのような偏光膜3に比べ、単体透過率が高く、少なくとも偏光度が99.9%以上の偏光性能の優れた偏光膜を用いなければならない。
【0087】
偏光膜1〜7の偏光性能は式(3)に基づき算出される。式(3)を用いることで偏光膜の偏光性能の指標となる二色比(DR)から単体透過率Tと偏光度Pとを算出することができる。二色比とは偏光膜の吸収軸方向の吸光度を透過軸方向の吸光度で除した値である。この数値が高いほど偏光性能が優れていることを表している。例えば、偏光膜3は二色比が約94となる偏光性能を持つ偏光膜として算出される。この値を下回る偏光膜は要求性能に達しないということになる。
【0088】
またバックライト側と視認側のいずれか一方の片側偏光膜として偏光膜3に比べ偏光性能の劣る、例えば、偏光膜1に属する偏光膜H(41.0%、99.95%)または偏光膜2に属する偏光膜J(42.0%、99.9%)を用いた場合、式(1)(2)から明らかになるように、要求性能を達成するためには、例えば、他方の片側偏光膜として偏光膜6に属する偏光膜I(43.2%、99.95%)または偏光膜7に属する偏光膜K(42.0%、99.998%)のような偏光膜3に比べ、偏光性能がより優れた偏光膜を用いなければならない。
【0089】
液晶テレビ用のディスプレイの要求性能を達成するためには、バックライト側と視認側のいずれか一方の片側偏光膜の偏光性能が少なくとも偏光膜3よりも優れていなければならない。
図4のライン1(T<42.3%)は、その下限値を示す。他方、
図4のライン2(T≧42.3%)は、偏光度Pの下限値を示す。バックライト側と視認側のいずれか一方の片側偏光膜として偏光度Pが99.9%以下の偏光膜を用いた場合には、他方の片側偏光膜として偏光性能がいかに優れた偏光膜を用いても、要求性能を達成することができない。
【0090】
結論としては、大型表示素子を用いた液晶テレビ用のディスプレイとして求められる偏光性能を達成しようとする場合、バックライト側と視認側のいずれか一方の片側偏光膜の偏光性能が少なくともライン1(T<42.3%)およびライン2(T≧42.3%)で表される範囲にある偏光膜、より具体的には、偏光膜3より優れた偏光性能を有し、偏光度が99.9%以上の偏光膜であることが最低条件となる。
【0091】
ここでさらに、熱可塑性樹脂基材を用いて、PVA系樹脂からなる偏光膜を製造する方法において、本発明の実施態様における第1および第2の不溶化方法が重要な技術的課題の一つに位置付けられることについて、以下に述べる。
【0092】
延伸中間生成物(または延伸積層体)に含まれるPVA系樹脂層を染色液に溶解させることなく、ヨウ素をPVA系樹脂層に吸着させることは決して容易なことではない。薄型高機能偏光膜の製造において、薄膜化されたPVA系樹脂層にヨウ素を吸着させることは重要な技術的課題である。通常、染色工程に用いられる染色液のヨウ素濃度は、0.12〜0.25重量%の範囲にあるヨウ素濃度の異なる複数の染色液を用い、浸漬時間を一定にすることよってPVA系樹脂層へのヨウ素吸着量を調整している。こうした通常の染色処理は、薄型偏光膜を製造する場合には、PVA系樹脂層が溶解されるため染色不能になる。ここでは、濃度とは、全
溶液量に対する配合割合のことをいう。また、ヨウ素濃度とは、全
溶液量に対するヨウ素の配合割合のことをいい、例えばヨウ化カリウムなどのヨウ化物として加えられたヨウ素の量は含まない。本明細書の以下においても、濃度及びヨウ素濃度という用語は同様の意味で用いる。
【0093】
この技術的課題は、
図6に示した実験結果から明らかなように、二色性物質のヨウ素濃度を0.3重量%またはそれ以上のヨウ素濃度にすることによって解決することができた。具体的には、PVA系樹脂層からなる延伸中間生成物を含む延伸積層体をヨウ素濃度の異なる染色液を用い、その浸漬時間を調整することによって、着色中間生成物を含む着色積層体を生成し、ホウ酸水中延伸によって種々の偏光性能を有するそれぞれの偏光膜を生成することができる。
【0094】
図7のグラフを参照されたい。
図7は、ヨウ素濃度を0.2重量%、0.5重量%、1.0重量%として作製した偏光膜の偏光性能に有意差はないことを確認したものである。ちなみに、着色中間生成物を含む着色積層体の生成において、安定して、均一性に優れた着色を実現するためには、ヨウ素濃度を濃くして僅かな浸漬時間で染色するよりは、薄くして安定した浸漬時間を確保することができるようにするのが好ましい。
【0095】
図8のグラフを参照されたい。本発明の実施態様における第1および第2の不溶化(以下、「第1および第2の不溶化」という)は、いずれも最終的に製造される偏光膜の光学特性にも影響を与える。
図8は、薄膜化されたPVA系樹脂層に対する第1および第2の不溶化の作用の分析結果とみることができる。
図8は、大型表示素子を用いた液晶テレビ用のディスプレイとして求められる要求性能を満たす4つの実施例1〜4に基づいて製造されたそれぞれの偏光膜の光学特性をプロットしたものである。
【0096】
実施例1は、第1および第2の不溶化工程を経ることなく製造された偏光膜の光学特性である。これに対して、実施例2は、第1の不溶化工程を経ない、すなわち第2の不溶化処理のみが施された偏光膜、実施例3は、第2の不溶化工程を経ない、すなわち第1の不溶化処理のみが施された偏光膜、実施例4は、第1および第2の不溶化処理が施された偏光膜のそれぞれの光学特性である。
【0097】
本発明の実施態様において、第1および第2の不溶化工程を経ることなく要求性能を満たす偏光膜を製造することができる。しかしながら、
図8から明らかなように、実施例1の不溶化処理が施されていない偏光膜の光学特性は、実施例2〜4のいずれの偏光膜の光学特性よりも低い。それぞれの光学特性値を比較すると、実施例1<実施例3<実施例2<実施例4の順に光学特性が高くなる。実施例1および実施例3においては、いずれも染色液のヨウ素濃度を0.3重量%およびヨウ化カリウム濃度2.1重量%に設定した染色液を用いた。これに対して、実施例2および実施例4においては、ヨウ素濃度を0.12〜0.25重量%およびヨウ化カリウム濃度0.84〜1.75重量%の範囲内で変化させた複数の染色液を用いた。実施例1および実施例3のグループと実施例2および実施例4のグループとの決定的な違いは、前者の着色中間生成物には不溶化処理が施されていないが、後者の着色中間生成物には不溶化処理が施されていることである。実施例4は、染色処理前の延伸中間生成物のみならずホウ酸処理前の着色中間生成物に対しても不溶化処理が施されている。第1および第2の不溶化処理によって、偏光膜の光学特性を一段と向上させることができた。
【0098】
偏光膜の光学特性を向上させるメカニズムは、
図7から明らかなように、染色液のヨウ素濃度によるものでない。第1および第2の不溶化処理による効果である。この知見は、本発明の製造方法における第3の技術的課題とその解決手段として位置付けることができる。
【0099】
本発明の実施態様において、第1の不溶化は、延伸中間生成物(または延伸積層体)に含まれる薄膜化されたPVA系樹脂層を溶解させないようにする処理である。これに対して、架橋工程に含まれる第2の不溶化は、後工程の液温75℃のホウ酸水中延伸において着色中間生成物(または着色積層体)に含まれるPVA系樹脂層に着色されたヨウ素を溶出させないようにする着色安定化と、薄膜化されたPVA系樹脂層を溶解させない不溶化とを含む処理である。
【0100】
ところが、第2不溶化工程を省くと、液温75℃のホウ酸水中延伸においては、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出が進み、そのことによりPVA系樹脂層の溶解も進む。ヨウ素の溶出やPVA系樹脂層の溶解を回避しようとすると、ホウ酸水溶液の液温を下げることによって対応することができる。例えば、液温65℃を下回るホウ酸水溶液に着色中間生成物(または着色積層体)を浸漬しながら延伸する必要がある。しかしながら、結果として水の可塑剤機能が十分に発揮されないため、着色中間生成物(または着色積層体)に含まれるPVA系樹脂層の軟化は十分に得られない。すなわち、延伸性能が低下するため、ホウ酸水中延伸によって着色中間生成物(または着色積層体)が破断することになる。当然のことであるが、PVA系樹脂層の所定の総延伸倍率が得られないことにもなる。
【0101】
[製造工程の概要]
図9を参照されたい。
図9は、不溶化処理工程を有しない、偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程の概要図である。ここでは、実施例1に基づく偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造方法について概説する。
【0102】
非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材として、イソフタル酸を6mol%共重合させたイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(以下、「非晶性PET」という)の連続ウェブの基材を作製した。ガラス転移温度が75℃の連続ウェブの非晶性PET基材1と、ガラス転移温度が80℃のPVA層2とを含む積層体7を以下のように作製した。
【0103】
[積層体作製工程(A)]
まず、200μm厚の非晶性PET基材1と、重合度1000以上、ケン化度99%以上のPVA粉末を水に溶解した4〜5%濃度のPVA水溶液とを準備した。次に、塗工手段21と乾燥手段22および表面改質処理装置23を備えた積層体作製装置20において、200μm厚の非晶性PET基材1にPVA水溶液を塗布し、50〜60℃の温度で乾燥し、非晶性PET基材1に7μm厚のPVA層2を製膜した。以下、これを「非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体7」、「7μm厚のPVA層を含む積層体7」、または単に「積層体7」という。
【0104】
PVA層を含む積層体7は、空中補助延伸およびホウ酸水中延伸の2段延伸工程を含む以下の工程を経て、最終的に3μm厚の偏光膜3として製造される。
【0105】
[空中補助延伸工程(B)]
第1段の空中補助延伸工程(B)によって、7μm厚のPVA層2を含む積層体7を非晶性PET基材1と一体に延伸し、5μm厚のPVA層2を含む「延伸積層体8」を生成した。具体的には、オーブン33内に延伸手段31が配備された空中補助延伸処理装置30において、7μm厚のPVA層2を含む積層体7を130℃の延伸温度環境に設定されたオーブン33の延伸手段31にかけ、延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸し、延伸積層体8を生成した。この段階でオーブン30に併設させた巻取装置32によって延伸積層体8のロール8’を製造することができる。
【0106】
ここで、自由端延伸と固定端延伸について概説する。長尺フィルムを搬送方向に延伸すると、延伸する方向に対して垂直方向すなわち幅方向にフィルムが収縮する。自由端延伸は、この収縮を抑制することなく延伸する方法をいう。また縦一軸延伸とは、縦方向にのみに延伸する延伸方法のことである。自由端一軸延伸は、一般に延伸方向に対して垂直方向に起こる収縮を抑制しながら延伸する固定端一軸延伸と対比されるものである。この自由端一軸の延伸処理によって、積層体7に含まれる7μm厚のPVA層2は、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層2へと変化した。
【0107】
[染色工程(C)]
次に、染色工程(C)によって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層2に二色性物質のヨウ素を吸着させた着色積層体9を生成した。具体的には、染色液41の染色浴42を備えた染色装置40において、染色装置40に併設されたロール8’を装着した繰出装置43から繰り出される延伸積層体8を液温30℃のヨウ素およびヨウ化カリウムを含む染色液41に、最終的に生成される偏光膜3を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体8の配向されたPVA層2にヨウ素を吸着させた着色積層体9を生成した。
【0108】
本工程において、染色液41は、延伸積層体8に含まれるPVA層2を溶解させないようにするため、水を溶媒として、ヨウ素濃度を0.30重量%とした。また、染色液41は、ヨウ素を水に溶解させるためのヨウ化カリウム濃度を2.1重量%とした。ヨウ素とヨウ化カリウムの濃度の比は1対7である。より詳細には、ヨウ素濃度0.30重量%、ヨウ化カリウム濃度2.1重量%の染色液41に延伸積層体8を60秒間浸漬することによって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層2にヨウ素を吸着させた着色積層体9を生成した。実施例1においては、ヨウ素濃度0.30重量%、ヨウ化カリウム濃度2.1重量%の染色液41への延伸積層体8の浸漬時間を変えることによって、最終的に生成される偏光膜3の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする種々の着色積層体9を生成した。
【0109】
[ホウ酸水中延伸工程(D)]
第2段のホウ酸水中延伸工程によって、ヨウ素を配向させたPVA層2を含む着色積層体9をさらに延伸し、3μm厚の偏光膜3を構成するヨウ素を配向させたPVA層を含む光学フィルム積層体10を生成した。具体的には、ホウ酸水溶液51のホウ酸浴52と延伸手段53を備えたホウ酸水中延伸処理装置50において、染色装置40から連続的に繰り出された着色積層体9をホウ酸とヨウ化カリウムを含む液温65℃の延伸温度環境に設定されたホウ酸水溶液51に浸漬し、次にホウ酸水中処理装置50に配備された延伸手段53にかけ、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸することによって、光学フィルム積層体10を生成した。
【0110】
より詳細には、ホウ酸水溶液51は、水100重量%に対してホウ酸を4重量%含み、水100重量%に対してヨウ化カリウムを5重量%含むものとして生成した。本工程においては、ヨウ素吸着量を調整した着色積層体9をまず5〜10秒間ホウ酸水溶液51に浸漬した。次いで、その着色積層体9をそのままホウ酸水中処理装置50の延伸手段53である周速の異なる複数の組のロール間に通し、30〜90秒かけて延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸した。この延伸処理によって、着色積層体9に含まれるPVA層は、吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向した3μm厚のPVA層へと変化した。このPVA層が光学フィルム積層体10の偏光膜3を構成する。
【0111】
以上のように実施例1においては、非晶性PET基材1に7μm厚のPVA層2が製膜された積層体7を延伸温度130℃で空中補助延伸して延伸積層体8を生成し、次に、延伸積層体8を染色して着色積層体9を生成し、さらに着色積層体9を延伸温度65度でホウ酸水中延伸して、総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体10を生成した。このような2段延伸によって非晶性PET基材1に製膜されたPVA層2のPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜3を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体10を生成することができた。好ましくは、これに続く洗浄、乾燥、転写工程によって、生成された光学フィルム積層体10は完成する。洗浄工程(G)、乾燥工程(H)、さらに転写工程(I)についての詳細は、不溶化処理工程を組み込んだ実施例4に基づく製造工程と併せて説明する。
【0112】
[他の製造工程の概要]
図10を参照されたい。
図10は、不溶化処理工程を有する、偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程の概要図である。ここでは、実施例4に基づく偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造方法について概説する。
図10から明らかなように、実施例4に基づく製造方法は、染色工程前の第1不溶化工程とホウ酸水中延伸工程前の第2不溶化を含む架橋工程とが実施例1に基づく製造工程に組み込まれた製造工程を想定すればよい。本工程に組み込まれた、積層体の作成工程(A)、空中補助延伸工程(B)、染色工程(C)、およびホウ酸水中延伸工程(D)は、ホウ酸水中延伸工程用のホウ酸水溶液の液温の違いを除き、実施例1に基づく製造工程と同様である。この部分の説明は簡略化し、専ら、染色工程前の第1不溶化工程とホウ酸水中延伸工程前の第2不溶化を含む架橋工程とについて、説明する。
【0113】
[第1不溶化工程(E)]
第1不溶化工程は、染色工程(C)前の不溶化工程(E)である。実施例1の製造工程と同様に、積層体の作成工程(A)において、非晶性PET基材1に7μm厚のPVA層2が製膜された積層体7を生成し、次に、空中補助延伸工程(B)において、7μm厚のPVA層2を含む積層体7を空中補助延伸し、5μm厚のPVA層2を含む延伸積層体8を生成した。次に、第1不溶化工程(E)において、ロール8’を装着した繰出装置43から繰り出される延伸積層体8に不溶化処理を施し、不溶化された延伸積層体8’’を生成した。当然のことながら、不溶化された延伸積層体8’’は不溶化されたPVA層2を含む。以下、これを「不溶化された延伸積層体8’’」という。
【0114】
具体的には、ホウ酸不溶化水溶液61を備えた不溶化処理装置60において、延伸積層体8を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液61に30秒間浸漬する。本工程のホウ酸不溶化水溶液61は、水100重量%に対してホウ酸を3重量%含む(以下、「ホウ酸不溶化水溶液」という。)。本工程は、少なくとも直後の染色工程(C)において、延伸積層体8に含まれる5μm厚のPVA層を溶解させないための不溶化処理を施すことを目的とする。
【0115】
延伸積層体8は不溶化処理されたことによって、染色工程(C)において、実施例1の場合と異なる0.12〜0.25重量%の範囲でヨウ素濃度を変化させた種々の染色液を準備し、これらの染色液を用いて、不溶化された延伸積層体8’’の染色液への浸漬時間を一定にし、最終的に生成される偏光膜の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする種々の着色積層体9を生成した。ヨウ素濃度が0.12〜0.25重量%の染色液に浸漬しても、不溶化された延伸積層体8’’に含まれるPVA層が溶解することはなかった。
【0116】
[第2不溶化を含む架橋工程(F)]
第2不溶化を含む架橋工程(F)は、以下の目的から第2不溶化工程を含むものといえよう。架橋工程は、第1に、後工程のホウ酸水中延伸工程(D)において、着色積層体9に含まれるPVA層を溶解させないようにした不溶化と、第2に、PVA層に着色されたヨウ素を溶出させないようにする着色安定化と、第3に、PVA層の分子同士を架橋することによって結節点を生成する結節点の生成とを目的とする。第2不溶化は、この第1と第2の狙いを実現するものである。
【0117】
架橋工程(F)は、ホウ酸水中延伸工程(D)の前工程である。染色工程(C)において生成された着色積層体9を架橋することによって、架橋された着色積層体9’を生成した。架橋された着色積層体9’は架橋されたPVA層2を含む。具体的には、ホウ酸とヨウ素カリウムとからなる水溶液(以下、「ホウ酸架橋水溶液」という)71を備えた架橋処理装置70において、着色積層体9を40℃のホウ酸架橋水溶液71に60秒間浸漬し、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋することによって、架橋された着色積層体9’を生成した。本工程のホウ酸架橋水溶液は、水100重量%に対してホウ酸を3重量%含み、水100重量%に対してヨウ化カリウムを3重量%含む。
【0118】
ホウ酸水中延伸工程(D)において、架橋された着色積層体9’を75℃のホウ酸水溶液に浸漬し、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸することによって、光学フィルム積層体10を生成した。この延伸処理によって、着色積層体9’に含まれるヨウ素を吸着させたPVA層2は、吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向した3μm厚のPVA層2へと変化した。このPVA層が光学フィルム積層体10の偏光膜3を構成する。
【0119】
実施例4は、まず、非晶性PET基材1に7μm厚のPVA層2が製膜された積層体7を生成し、次に、積層体7を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸し、延伸積層体8を生成した。生成された延伸積層体8を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液61に30秒間浸漬することによって延伸積層体に含まれるPVA層を不溶化した。これが不溶化された延伸積層体8’’である。不溶化された延伸積層体8’’を液温30℃のヨウ素およびヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬し、不溶化されたPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体9を生成した。ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体9を40℃のホウ酸架橋水溶液71に60秒間浸漬し、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋した。これが架橋された着色積層体9’である。架橋された着色積層体9’をホウ酸とヨウ化カリウムを含む液温75℃のホウ酸水中延伸溶51に5〜10秒間浸漬し、次いで、ホウ酸水中延伸によって延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸し、光学フィルム積層体10を生成した。
【0120】
このように、実施例4は、空中高温延伸およびホウ酸水中延伸からなる2段延伸と、染色浴への浸漬に先立つ不溶化およびホウ酸水中延伸に先立つ架橋からなる前処理とによって、非晶性PET基材1に製膜されたPVA層2のPVA分子が高次に配向され、染色によってPVA分子に確実に吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体10を安定的に生成することができた。
【0121】
[洗浄工程(G)]
実施例1または4の着色積層体9または架橋された着色積層体9’は、ホウ酸水中延伸工程(D)において延伸処理され、ホウ酸水溶液51から取り出される。取り出された偏光膜3を含む光学フィルム積層体10は、好ましくは、そのまま、洗浄工程(G)に送られる。洗浄工程(G)は、偏光膜3の表面に付着した不要残存物を洗い流すことを目的とする。洗浄工程(G)を省き、取り出された偏光膜3を含む光学フィルム積層体10を直接乾燥工程(H)に送り込むこともできる。しかしながら、この洗浄処理が不十分であると、光学フィルム積層体10の乾燥後に偏光膜3からホウ酸が析出することにもなる。具体的には、光学フィルム積層体10を洗浄装置80に送り込み、偏光膜3のPVAが溶解しないように液温30℃のヨウ化カリウムを含む洗浄液81に1〜10秒間浸漬する。洗浄液81中のヨウ化カリウム濃度は、0.5〜10重量%程度である。
【0122】
[乾燥工程(H)]
洗浄された光学フィルム積層体10は、乾燥工程(H)に送られ、ここで乾燥される。
次いで、乾燥された光学フィルム積層体10は、乾燥装置90に併設された巻取装置91によって、連続ウェブの光学フィルム積層体10として巻き取られ、偏光膜3を含む光学フィルム積層体10のロールが生成される。乾燥工程(H)として、任意の適切な方法、例えば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥を採用することができる。実施例1および実施例4はいずれにおいても、オーブンの乾燥装置90において、60℃の温風で、240秒間、乾燥を行った。
【0123】
[貼合せ/転写工程(I)]
非晶性PET基材に製膜された3μm厚の偏光膜3を含む光学フィルム積層体10は、光学フィルム積層体10のロールに仕上げ、それを貼合せ/転写工程(I)において、以下のような貼合せ処理と転写処理とを同時に行うことができる。製造される偏光膜3の厚みは、延伸による薄膜化によって10μm以下、通常は、僅か2〜5μm程度にすぎない。偏光膜3を単層体として扱いことは難しい。従って、偏光膜3は、非晶性PET基材に製膜することによって光学フィルム積層体10として扱うか、または、他の光学機能フィルム4に接着剤を介して貼合せ/転写することによって光学機能フィルム積層体11として扱うことになる。
【0124】
図9または10に示す貼合せ/転写工程(I)においては、連続ウェブの光学フィルム積層体10に含まれる偏光膜3と光学機能フィルム4とを接着剤を介して貼合せながら巻き取り、その巻き取り工程において、偏光膜3を光学機能フィルム4に転写しながら非晶性PET基材を剥離することによって、光学機能フィルム積層体11が生成される。具体的には、貼合せ/転写装置100に含まれる繰出/貼合せ装置101によって光学フィルム積層体10が繰り出され、繰り出された光学フィルム積層体10が巻取/転写装置102によって偏光膜3が光学機能フィルムへと転写されながら、光学フィルム積層体10から剥離されて、光学機能フィルム積層体11が生成される。
【0125】
乾燥工程(H)において巻取装置91によって生成された光学フィルム積層体10あるいは貼合せ/転写工程(I)によって生成される光学機能フィルム積層体11には様々なバリエーションがある。
【0126】
図11及び
図12を参照されたい。これは、様々な光学フィルム積層体10あるいは光学機能フィルム積層体11のバリエーションを典型的パターン1から5として示した図である。
【0127】
パターン1およびパターン2を表した
図11は、光学フィルム積層体10とは異なるバリエーションを表す光学フィルム積層体12および光学フィルム積層体13の概略断面図である。光学フィルム積層体12は、光学フィルム積層体10の偏光膜3の上に粘着剤層16を介してセパレータ17を積層したものである。これは、非晶性PET基材1を保護フィルムとすると、
図11の具体例1に示したように、例えばIPS型液晶テレビ用ディスプレイパネル200のバックライト側と視認側に用いられる光学フィルム積層体として用いることができる。この場合、IPS液晶セル202の両側に光学フィルム積層体が粘着剤層16を介して貼り合わされる。この構成においては、一般的に視認側の非晶性PET基材1の表面には表面処理層201が製膜される。
【0128】
光学フィルム積層体13は、光学フィルム積層体10の偏光膜3の上に接着剤層18を介して光学機能フィルム4を積層し、光学機能フィルム4の上に粘着剤層16を介してセパレータ17を積層したものである。光学フィルム積層体13は、光学機能フィルム4を3次元屈折率がnx>ny>nzの2軸性位相差フィルム301とすると、
図11の具体例2に示したように、例えばVA型液晶テレビ用ディスプレイパネル300のバックライト側と視認側に用いられる光学機能フィルム積層体として用いることができる。この場合、VA液晶セル302の両側に光学フィルム積層体が粘着剤層16を介して貼り合わされる。この構成においては、一般的に視認側の非晶性PET基材1の表面には表面処理層201が製膜される。光学フィルム積層体12および13はいずれも、非晶性PET基材1を偏光膜3から剥離することなく、そのまま、例えば偏光膜3の保護フィルムとして機能するように用いたことを特徴とするものである。
【0129】
パターン3およびパターン4を表した
図12は、光学機能フィルム積層体11とは異なるバリエーションを表す光学機能フィルム積層体14および光学機能フィルム積層体15の概略断面図である。光学機能フィルム積層体14は、接着剤18を介して光学機能フィルム4に転写された偏光膜3の非晶性PET基材1が剥離された反対面に粘着剤層16を介してセパレータ17を積層したものである。光学機能フィルム積層体14は、光学機能フィルム4をTAC(トリアセチルセルロース系)フィルム401の保護フィルムとすると、
図12の具体例3に示したように、例えばIPS型液晶テレビ用ディスプレイパネル400のバックライト側と視認側に用いられる光学機能フィルム積層体として用いることができる。この場合、IPS液晶セル402の両側に光学フィルム積層体が粘着剤層16を介して貼り合わされる。この構成においては、一般的に視認側のTAC(トリアセチルセルロース系)フィルム401の表面には表面処理層201が製膜される。
【0130】
光学機能フィルム積層体15は、第1接着剤18を介して光学機能フィルム4に転写された偏光膜3の非晶性PET基材1が剥離された反対面に第2接着剤18を介して第2光学機能フィルム5を積層することによって積層体を生成し、生成された積層体の上に粘着剤16を介してセパレータ17を積層したものである。光学機能フィルム積層体15は、光学機能フィルム4をTAC(トリアセチルセルロース系)フィルム401とし、第2光学機能フィルム5を3次元屈折率がnx>nz>nyの2軸性位相差フィルム501とすると、
図12の具体例4に示したように、例えばIPS型液晶テレビ用ディスプレイパネル500のバックライト側の光学機能フィルム積層体として用いることができる。この場合、IPS液晶セル502のバックライト側に光学フィルム積層体が粘着剤層16を介して貼り合わされる。
【0131】
光学機能フィルム積層体15はさらに、第2光学機能フィルムをλ/4位相差フィルム602とすると、表示装置の表面反射や表示装置内の部材界面で起こる反射を防止する反射防止用フィルム(円偏光板)としても用いることができる。具体的には、光学機能フィルム4をアクリル系樹脂フィルム601、第2光学機能フィルム5をλ/4位相差フィルム602とし、偏光膜3の吸収軸とλ/4位相差フィルム602の遅相軸の貼り合せ角度を45±1°とすると、
図12の具体例5に示したように、例えば、有機ELディスプレイ600の反射防止用フィルムとして用いることができる。この場合、有機ELパネル603の視認側に光学機能フィルム積層体が粘着剤層16を介して貼り合わされる。この構成においては、一般的に視認側のアクリル系樹脂フィルム601の表面には表面処理層201が製膜される。光学機能フィルム積層体14および15はいずれも、偏光膜3を光学機能フィルム4に転写すると同時に非晶性PET基材1を剥離した積層体を用いたことを特徴とするものである。
【0132】
これらの光学機能フィルム積層体11、14、15、および、光学フィルム積層体12、13を構成する各層の光学機能フィルムは、これらに限定されるものではない。光学機能フィルムとしては、TAC(トリアセチルセルロース系)フィルムまたはアクリル系樹脂からなる偏光膜保護フィルム、2軸性位相差フィルム(例えば、3次元屈折率がnx>ny>nz、nx>nz>nyなど)、λ/4位相差フィルム、λ/2位相差フィルム、正分散性位相差フィルム、フラット分散性位相差フィルム、逆分散性位相差フィルムなどの位相差フィルム、輝度向上フィルム、拡散フィルム等を挙げることができる。またこれらを複数枚貼り合わせて用いることもできる。さらに、用いられる粘着剤16または接着剤18は、任意の適切な粘着剤または接着剤を用いることができる。代表的には、粘着剤層はアクリル系粘着剤であり、接着剤層はビニルアルコール系接着剤である。
【0133】
[様々な製造条件による偏光膜の光学特性]
(1)不溶化工程による偏光膜の光学特性の向上(実施例1〜4)
すでに
図8のグラフを用いて説明した。実施例1〜4に基づいて製造されたそれぞれの偏光膜が、いずれも本発明の技術的課題を克服し、これらの光学特性が、本発明の目的である大型表示素子を用いた液晶テレビ用のディスプレイとして求められる要求性能を満たすことは、
図8を用いた説明によってすでに確認した。さらに、
図8のグラフから明らかなように、実施例1の不溶化処理が施されていない偏光膜の光学特性は、第1不溶化処理および/または第2不溶化処理が施された実施例2〜4の偏光膜の光学特性のいずれよりも低い。それぞれの光学特性を比較すると、(実施例1)<(第1不溶化処理のみが施された実施例3)<(第2不溶化処理のみが施された実施例2)<(第1および第2不溶化処理が施された実施例4)の順に光学特性が高くなる。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程に第1および/または第2不溶化工程を有する製造方法によって製造された偏光膜、または偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。
【0134】
(2)PVA系樹脂層の厚みによる偏光膜の光学特性への影響(実施例5)
実施例4においては7μm厚のPVA層を延伸して最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が3μm厚となったのに対して、実施例5においては12μm厚のPVA層を延伸して最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が5μm厚となった。これは、この点を除き実施例4と同様の条件で製造された偏光膜である。
【0135】
(3)非晶性PET基材を異にした偏光膜の光学特性への影響(実施例6)
実施例4においてはイソフタル酸をPETに共重合させた非晶性PET基材を用いたのに対して、実施例6おいては、PETに対して変性基として1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合させた非晶性PET基材を用いた。これは、この点を除き実施例4と同様の条件で製造された偏光膜である。
【0136】
図13のグラフを参照されたい。実施例4〜6に基づく製造方法による偏光膜の光学特性の各々には有意差がない。このことは、PVA系樹脂層の厚みや非晶性エステル系熱可塑性樹脂の種類による影響がないことを示すものと考えられる。
【0137】
(4)空中補助延伸倍率による偏光膜の光学特性の向上(実施例7〜9)
実施例4においては第1段の空中補助延伸および第2段のホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率が1.8倍および3.3倍であるのに対して、実施例7〜9においては、それぞれの延伸倍率が1.2倍および4.9倍と、1.5倍および4.0と、2.5倍および2.4倍とした。これは、この点を除き、例えば延伸温度130℃で液温75℃のホウ酸水溶液を含む実施例4と同様の条件で製造された偏光膜である。実施例8,9の総延伸倍率は6.0倍となり、実施例4の空中補助延伸倍率1.8倍による総延伸倍率5.94倍に匹敵するものであった。しかしながら、これに対して実施例7の総延伸倍率は5.88倍が限界であった。これは、ホウ酸水中延伸において、延伸倍率を4.9倍以上にすることができなかった結果である。このことは、
図20を用いて説明した、第1段の空中補助延伸倍率と総延伸倍率との相関関係に及ぼす非晶性PETの延伸可能倍率の影響と推定される。
【0138】
図14のグラフを参照されたい。実施例7〜9の偏光膜はいずれも、実施例4の場合と同様に、本発明の技術的課題を克服し、本発明の目的である要求性能を満たす光学特性を有する。それぞれの光学特性を比較すると、実施例7<実施例8<実施例4<実施例9の順に光学特性が高くなる。このことは、第1段の空中補助延伸の延伸倍率が1.2倍から2.5倍の範囲内で設定された場合に、第2段のホウ酸水中延伸による最終的な総延伸倍率が同程度に設定されたとしても、第1段の空中補助延伸が高延伸倍率に設定された偏光膜ほど、光学特性が高まることを示している。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程において、第1の空中補助延伸を高延伸倍率に設定することによって、製造される偏光膜、または偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。
【0139】
(5)空中補助延伸温度による偏光膜の光学特性の向上(実施例10〜12)
実施例4においては空中補助延伸温度を130℃に設定したのに対して、実施例10〜12においては、それぞれの空中補助延伸温度を95℃、110℃、150℃に設定した。いずれもPVAのガラス転移温度Tgより高い温度である。これは、この点を除き、例えば空中補助延伸倍率1.8倍、ホウ酸水中延伸倍率3.3倍を含む実施例4と同様の条件で製造された偏光膜である。実施例4の空中補助延伸温度は130℃である。実施例4を含め、これらの実施例は、95,110、130、150℃の延伸温度の違いを除くと製造条件は全て同じである。
【0140】
図15のグラフを参照されたい。実施例4、10〜12の偏光膜はいずれも、本発明の技術的課題を克服し、本発明の目的である要求性能を満たす光学特性を有する。それぞれの光学特性を比較すると、実施例10<実施例11<実施例4<実施例12の順に光学特性が高くなる。このことは、第1段の空中補助延伸温度をガラス転移温度より高く、95℃倍から150℃へと順次高くなるように温度環境を設定した場合には、第2段のホウ酸水中延伸による最終的な総延伸倍率が同じに設定されたとしても、第1段の空中補助延伸温度がより高く設定された偏光膜ほど、光学特性が高まることを示している。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程において、第1の空中補助延伸温度をより高く設定することによって、製造される偏光膜、または偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。
【0141】
(6)総延伸倍率による偏光膜の光学特性の向上(実施例13〜15)
実施例4においては第1段の空中補助延伸倍率が1.8倍および第2段のホウ酸水中延伸倍率が3.3倍であるのに対して、実施例13〜15においては、それぞれの第2段のホウ酸水中延伸倍率のみを2.1倍、3.1倍、3.6倍とした。これは、実施例13〜15の総延伸倍率が5.04倍(約5倍)、5.58倍(約5.5倍)、6.48倍(約6.5倍)になるように設定したことを示すものである。実施例4の総延伸倍率は5.94倍(約6倍)である。実施例4を含め、これらの実施例は、5倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍の総延伸倍率の違いを除くと製造条件は全て同じである。
【0142】
図16のグラフを参照されたい。実施例4、13〜15の偏光膜はいずれも、本発明の技術的課題を克服し、本発明の目的である要求性能を満たす光学特性を有する。それぞれの光学特性を比較すると、実施例13<実施例14<実施例4<実施例15の順に光学特性が高くなる。このことは、いずれの第1段の空中補助延伸倍率を1.8倍に設定し、総延伸倍率を5倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍へと順次高くなるように第2段のホウ酸水中延伸倍率のみを設定した場合には、最終的な総延伸倍率がより高く設定された偏光膜ほど、光学特性が高まることを示している。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程において、第1段の空中補助延伸と第2段のホウ酸水中延伸との総延伸倍率をより高く設定することによって、製造される偏光膜、または偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。
【0143】
(7)固定端一軸延伸の総延伸倍率による偏光膜の光学特性の向上(実施例16〜18)
実施例16〜18は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸方法にある。実施例4においては自由端一軸による延伸方法が用いられているのに対して、実施例16〜18においては、いずれも固定端一軸による延伸方法を採用している。これらの実施例は、いずれも第1段の空中補助延伸倍率を1.8倍に設定し、それぞれの第2段のホウ酸水中延伸倍率のみを3.3倍、3.9倍、4.4倍とした。このことにより、実施例16の場合、総延伸倍率が5.94倍(約6倍)であり、実施例17の場合には、7.02倍(約7倍)、さらに実施例18の場合には、7.92倍(約8倍)となる。実施例16〜18は、この点を除くと製造条件は全て同じである。
【0144】
図17のグラフを参照されたい。実施例16〜18偏光膜はいずれも、本発明の技術的課題を克服し、本発明の目的である要求性能を満たす光学特性を有する。それぞれの光学特性を比較すると、実施例16<実施例17<実施例18の順に光学特性が高くなる。このことは、いずれの第1段の空中補助延伸倍率を1.8倍に設定し、総延伸倍率を6倍、7倍、8倍へと順次高くなるように第2段のホウ酸水中延伸倍率のみを設定した場合には、最終的な総延伸倍率がより高く設定された偏光膜ほど、光学特性が高まることを示している。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程において、固定端一軸延伸方法による第1段の空中補助延伸と第2段のホウ酸水中延伸との総延伸倍率をより高く設定することによって、製造される偏光膜、または偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。さらに、第1段の空中補助延伸に固定端一軸延伸方法を用いる場合は、第1段の空中補助延伸に自由端一軸延伸方法を用いる場合に比べて、最終的な総延伸倍率をより高くすることができることも確認した。
【実施例】
【0145】
実施例1〜18について、製造される偏光膜または該偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造条件の一覧を
図27及び
図28に整理した。また、
図29は、第1段の空中高温延伸された実施例1〜18および参考例1〜3の延伸積層体のそれぞれが有するPET樹脂基材の配向関数値である。
【0146】
[実施例1]
非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材として、イソフタル酸を6mol%共重合させたイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(以下、「非晶性PET」という)の連続ウェブの基材を作製した。非晶性PETのガラス転移温度は75℃である。連続ウェブの非晶性PET基材とポリビニルアルコール(以下、「PVA」という)層からなる積層体を以下のように作製した。ちなみにPVAのガラス転移温度は80℃である。
【0147】
200μm厚の非晶性PET基材と、重合度1000以上、ケン化度99%以上のPVA粉末を水に溶解した4〜5%濃度のPVA水溶液とを準備した。次に、200μm厚の非晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、50〜60℃の温度で乾燥し、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層を製膜した。以下、これを「非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体」または「7μm厚のPVA層を含む積層体」または単に「積層体」という。
【0148】
7μm厚のPVA層を含む積層体を、空中補助延伸およびホウ酸水中延伸の2段延伸工程を含む以下の工程を経て、3μm厚の偏光膜を製造した。第1段の空中補助延伸工程によって、7μm厚のPVA層を含む積層体を非晶性PET基材と一体に延伸し、5μm厚のPVA層を含む延伸積層体を生成した。以下、これを「延伸積層体」という。具体的には、延伸積層体は、7μm厚のPVA層を含む積層体を130℃の延伸温度環境に設定されたオーブンに配備された延伸装置にかけ、延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸したものである。この延伸処理によって、延伸積層体に含まれるPVA層は、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層へと変化した。
【0149】
次に、染色工程によって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成した。以下、これを「着色積層体」という。具体的には、着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素およびヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。本工程において、染色液は、水を溶媒として、ヨウ素濃度を0.12〜0.30重量%の範囲内とし、ヨウ化カリウム濃度を0.7〜2.1重量%の範囲内とした。ヨウ素とヨウ化カリウムの濃度の比は1対7である。
【0150】
ちなみに、ヨウ素を水に溶解するにはヨウ化カリウムを必要とする。より詳細には、ヨウ素濃度0.30重量%、ヨウ化カリウム濃度2.1重量%の染色液に延伸積層体を60秒間浸漬することによって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成した。実施例1においては、ヨウ素濃度0.30重量%でヨウ化カリウム濃度2.1重量%の染色液への延伸積層体の浸漬時間を変えることによって、最終的に生成される偏光膜の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする種々の着色積層体を生成した。
【0151】
さらに、第2段のホウ酸水中延伸工程によって、着色積層体を非晶性PET基材と一体にさらに延伸し、3μm厚の偏光膜を構成するPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。以下、これを「光学フィルム積層体」という。具体的には、光学フィルム積層体は、着色積層体をホウ酸とヨウ化カリウムを含む液温範囲60〜85℃のホウ酸水溶液に設定された処理装置に配備された延伸装置にかけ、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸したものである。より詳細には、ホウ酸水溶液の液温は65℃である。それはまた、ホウ酸含有量を水100重量%に対して4重量%とし、ヨウ化カリウム含有量を水100重量%に対して5重量%とした。
【0152】
本工程においては、ヨウ素吸着量を調整した着色積層体をまず5〜10秒間ホウ酸水溶液に浸漬した。しかる後に、その着色積層体をそのまま処理装置に配備された延伸装置である周速の異なる複数の組のロール間に通し、30〜90秒かけて延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸した。この延伸処理によって、着色積層体に含まれるPVA層は、吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向した3μm厚のPVA層へと変化した。このPVA層が光学フィルム積層体の偏光膜を構成する。
【0153】
以上のように実施例1は、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸積層体を生成し、次に、延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、さらに着色積層体を延伸温度65度のホウ酸水中延伸によって総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。このような2段延伸によって非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成することができた。
【0154】
光学フィルム積層体の製造に必須の工程ではないが、洗浄工程によって、光学フィルム積層体をホウ酸水溶液から取り出し、非晶性PET基材に製膜された3μm厚のPVA層の表面に付着したホウ酸をヨウ化カリウム水溶液で洗浄した。しかる後に、洗浄された光学フィルム積層体を60℃の温風による乾燥工程によって乾燥した。なお洗浄工程は、ホウ酸析出などの外観不良を解消するための工程である。
【0155】
同じく光学フィルム積層体の製造に必須の工程というわけではないが、貼合せおよび/または転写工程によって、非晶性PET基材に製膜された3μm厚のPVA層の表面に接着剤を塗布しながら、80μm厚のTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムを貼合せたのち、非晶性PET基材を剥離し、3μm厚のPVA層を80μm厚のTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムに転写した。
【0156】
[実施例2]
実施例2は、実施例1の場合と同様に、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって倍率が1.8倍になるように延伸した延伸積層体を生成し、しかる後に、延伸積層体を、液温30℃のヨウ素およびヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を生成した。実施例2は、実施例1とは異なる以下の架橋工程を含む。それは、着色積層体を40℃のホウ酸架橋水溶液に60秒間浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士に架橋処理を施す工程である。本工程のホウ酸架橋水溶液は、ホウ酸含有量を水100重量%に対して3重量%とし、ヨウ化カリウム含有量を水100重量%に対して3重量%とした。
【0157】
実施例2の架橋工程は、少なくとも3つの技術的作用を求めたものである。第1は、後工程のホウ酸水中延伸において着色積層体に含まれる薄膜化されたPVA層を溶解させないようにした不溶化作用である。第2は、PVA層に着色されたヨウ素を溶出させないようにした着色安定化作用である。第3は、PVA層の分子同士を架橋することによって結節点を生成するようにした結節点生成作用である。
【0158】
実施例2は、次に、架橋された着色積層体を、実施例1の延伸温度65℃より高い75℃のホウ酸水中延伸浴に浸漬することによって、実施例1の場合と同様に、延伸倍率が3.3倍になるように延伸し、光学フィルム積層体を生成した。また実施例2の洗浄工程、乾燥工程、貼合せおよび/または転写工程は、いずれも実施例1の場合と同様である。
【0159】
なお、ホウ酸水中延伸工程に先立つ架橋工程に求められる技術的作用をより明確にするために、実施例1の架橋されていない着色積層体を延伸温度70〜75℃のホウ酸水中延伸浴に浸漬した場合、着色積層体に含まれるPVA層は、ホウ酸水中延伸浴において溶解し、延伸することができなかった。
【0160】
[実施例3]
実施例3は、実施例1の場合と同様に、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって倍率が1.8倍になるように延伸した延伸積層体を生成した。実施例3は、実施例1とは異なる以下の不溶化工程を含む。それは、延伸積層体を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液に30秒間浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA分子が配向されたPVA層を不溶化する工程である。本工程のホウ酸不溶化水溶液は、ホウ酸含有量を水100重量%に対して3重量%とした。実施例3の不溶化工程に求められる技術的作用は、少なくとも後工程の染色工程において、延伸積層体に含まれるPVA層を溶解させないようにした不溶化である。
【0161】
実施例3は、次に、不溶化された延伸積層体を、実施例1の場合と同様に、液温30℃のヨウ素およびヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を生成した。しかる後に、生成された着色積層体を実施例1の延伸温度である65℃より高い延伸温度である75℃のホウ酸水中延伸浴に浸漬することによって、実施例1の場合と同様に、延伸倍率が3.3倍になるように延伸し、光学フィルム積層体を生成した。また実施例3の洗浄工程、乾燥工程、貼合せおよび/または転写工程は、いずれも実施例1の場合と同様である。
【0162】
なお、染色工程に先立つ不溶化工程に求められる技術的作用をより明確にするために、まず、実施例1の不溶化されていない延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、生成された着色積層体を延伸温度70〜75℃のホウ酸水中延伸浴に浸漬した場合、着色積層体に含まれるPVA層は、実施例2に示したように、ホウ酸水中延伸浴において溶解し、延伸することができなかった。
【0163】
次に、水を溶媒として、ヨウ素濃度を0.12〜0.30重量%の範囲内とした染色液のヨウ素濃度を0.12〜0.25重量%とし、他の条件をそのままの染色液に、実施例1の不溶化されていない延伸積層体を浸漬した場合、延伸積層体に含まれるPVA層は、染色浴において溶解し、染色不能であった。ところが、実施例3の不溶化された延伸積層体を用いた場合には、染色液のヨウ素濃度を0.12〜0.25重量%であっても、PVA層は溶解することなく、PVA層への染色は可能であった。
【0164】
染色液のヨウ素濃度を0.12〜0.25%であってもPVA層への染色が可能な実施例3においては、延伸積層体の染色液への浸漬時間を一定にし、染色液のヨウ素濃度およびヨウ化カリウム濃度を実施例1に示した一定範囲内で変化させることによって、最終的に生成される偏光膜の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。
【0165】
[実施例4]
実施例4は、実施例1の製造工程に実施例3の不溶化工程と実施例2の架橋工程を加えた製造工程によって生成した光学フィルム積層体である。まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。実施例4は、実施例3の場合と同様に、生成された延伸積層体を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液に30秒間浸漬する不溶化工程によって、延伸積層体に含まれるPVA分子が配向されたPVA層を不溶化した。実施例4はさらに、不溶化されたPVA層を含む延伸積層体を、実施例3の場合と同様に、液温30℃のヨウ素およびヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによってヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を生成した。
【0166】
実施例4は、実施例2の場合と同様に、生成された着色積層体を40℃のホウ酸架橋水溶液に60秒間浸漬する架橋工程によって、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋した。実施例4はさらに、架橋された着色積層体を、実施例1の延伸温度65℃より高い75℃のホウ酸水中延伸浴に5〜10秒間浸漬し、実施例2の場合と同様に、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸し、光学フィルム積層体を生成した。また実施例4の洗浄工程、乾燥工程、貼合せおよび/または転写工程は、いずれも実施例1から3の場合と同様である。
【0167】
また実施例4は、実施例3の場合と同様に、染色液のヨウ素濃度を0.12〜0.25重量%であっても、PVA層は溶解することはない。実施例4においては、延伸積層体の染色液への浸漬時間を一定にし、染色液のヨウ素濃度およびヨウ化カリウム濃度を実施例1に示した一定範囲内で変化させることによって、最終的に生成される高機能偏光膜の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。
【0168】
以上のように実施例4は、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。生成された延伸積層体を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液に30秒間浸漬することによって延伸積層体に含まれるPVA層を不溶化した。不溶化されたPVA層を含む延伸積層体を液温30℃のヨウ素およびヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって不溶化されたPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成した。ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を40℃のホウ酸架橋水溶液に60秒間浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋した。架橋されたPVA層を含む着色積層体をホウ酸とヨウ化カリウムを含む液温75℃のホウ酸水中延伸溶に5〜10秒間浸漬し、しかる後に、ホウ酸水中延伸によって倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸した光学フィルム積層体を生成した。
【0169】
実施例4は、このように空中高温延伸およびホウ酸水中延伸からなる2段延伸と染色浴への浸漬に先立つ不溶化およびホウ酸水中延伸に先立つ架橋からなる前処理とによって、非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によってPVA分子に確実に吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を安定的に生成することができた。
【0170】
[実施例5]
実施例5は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は非晶性PET基材に製膜されたPVA層の厚みにある。実施例4は、7μm厚のPVA層で最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が3μm厚であった。これに対して、実施例5は、12μm厚のPVA層で最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が5μm厚であった。
【0171】
[実施例6]
実施例6は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は非晶性PET基材に用いた重合モノマーにある。実施例4は、イソフタル酸をPETに共重合させた非晶性PET基材を用いた。これに対して、実施例6は、PETに対して変性基として1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合させた非晶性PET基材を用いた。
【0172】
[実施例7]
実施例7は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、総延伸倍率が6倍または6倍に近い値になるように空中補助延伸およびホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率を変化させたことにある。実施例4は、空中補助延伸およびホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率が1.8倍および3.3倍とした。これに対して、実施例7は、それぞれの延伸倍率が1.2倍および4.9倍とした。ところで実施例4の総延伸倍率が5.94倍であった。これに対して実施例7の総延伸倍率が5.88倍であった。これは、ホウ酸水中延伸において、延伸倍率が4.9倍以上に延伸することができなかったことによる。
【0173】
[実施例8]
実施例8は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、総延伸倍率が6倍になるように空中補助延伸およびホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率を変化させたことにある。実施例8は、それぞれの延伸倍率が1.5倍および4.0倍とした。
【0174】
[実施例9]
実施例9は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、総延伸倍率が6倍になるように空中補助延伸およびホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率を変化させたことにある。実施例9は、それぞれの延伸倍率が2.5倍および2.4倍とした。
【0175】
[実施例10]
実施例10は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、実施例4の場合、空中補助延伸の延伸温度を130℃に設定したのに対して、実施例10の場合、空中補助延伸の延伸温度を95℃としたことにある。
【0176】
[実施例11]
実施例11は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、実施例4の場合、空中補助延伸の延伸温度を130℃に設定したのに対して、実施例11の場合、空中補助延伸の延伸温度を110℃としたことにある。
【0177】
[実施例12]
実施例12は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、実施例4の場合、空中補助延伸の延伸温度を130℃に設定したのに対して、実施例12の場合、空中補助延伸の延伸温度を150℃としたことにある。
【0178】
[実施例13]
実施例13は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が1.8倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を2.8倍に変化させたことにある。実施例13の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例4の場合の約6倍(正確には5.94倍)のに対して、約5倍(正確には5.04倍)となった。
【0179】
[実施例14]
実施例14は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が1.8倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を3.1倍に変化させたことにある。実施例14の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例4の場合の約6倍(正確には5.94倍)のに対して、約5.5倍(正確には5.58倍)となった。
【0180】
[実施例15]
実施例15は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が1.8倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を3.6倍に変化させたことにある。実施例15の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例4の場合の約6倍(正確には5.94倍)のに対して、約6.5倍(正確には6.48倍)となった。
【0181】
[実施例16]
実施例16は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸方法にある。実施例4は、空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸した。これに対して、実施例16は、空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように固定端一軸に延伸した。
【0182】
[実施例17]
実施例17は、以下の相違点を除き、実施例16と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が1.8倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を3.9倍に変化させたことにある。実施例17の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例16の場合の約6倍(正確には5.94倍)に対して、約7倍(正確には7.02倍)となった。
【0183】
[実施例18]
実施例18は、以下の相違点を除き、実施例16と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が1.8倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を4.4倍に変化させたことにある。実施例18の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例16の場合の約6倍(正確には5.94倍)に対して、約8倍(正確には7.92倍)となった。
【0184】
[比較例1]
比較例1は、実施例4と同様の条件で、200μm厚の非晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、乾燥させて非晶性PET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を生成した。次に、延伸温度を130℃に設定した空中高温延伸によって、7μm厚のPVA層を含む積層体を延伸倍率が4.0倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。この延伸処理によって、延伸積層体に含まれるPVA層は、PVA分子が配向された3.5μm厚のPVA層へと変化した。
【0185】
次に、延伸積層体は染色処理され、PVA分子が配向された3.5μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体が生成された。具体的には、着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素およびヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。このように、PVA分子が配向されたPVA層へのヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。
【0186】
さらに、着色積層体は架橋処理される。具体的には、液温が40℃で、ホウ酸3%、ヨウ化カリウム3%からなるホウ酸架橋水溶液に60秒間、浸漬することによって着色積層体に架橋処理を施した。比較例1は、架橋処理が施された着色積層体が実施例4の光学フィルム積層体に相当する。したがって、洗浄工程、乾燥工程、貼合せおよび/または転写工程は、いずれも実施例4の場合と同様である。
【0187】
[比較例2]
比較例2は、比較例1の延伸積層体を比較例1と同様の条件で、延伸倍率が4.5倍、5.0倍、6.0倍になるように延伸した延伸積層体を生成した。比較表は、比較例1と比較例2とを含めた、200μm厚の非晶性PET基材と該非晶性PET基材に製膜されたPVA層とに発生した現象を示したものである。これにより、延伸温度130℃の空中高温延伸による延伸倍率が4.0倍を限度とすることを確認した。
【表2】
【0188】
[比較例3]
比較例3は、比較例1の場合と同様の条件で、200μm厚のPET基材にPVA水溶液を塗布し、乾燥させてPET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を生成した。次に、積層体を、液温30℃のヨウ素およびヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を生成した。具体的には、着色積層体は、積層体を液温30℃の0.3重量%濃度のヨウ素および2.1重量%濃度のヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。次に、延伸温度を60℃に設定したホウ酸水中延伸によって、ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を延伸倍率が5.0倍になるように自由端一軸に延伸することで、PET樹脂基材と一体に延伸された3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を種々生成した。
【0189】
[参考例1]
参考例1は、樹脂基材として、結晶性ポリエチレンテレフタレート(以下、「結晶性PET」という)の連続ウェブの基材を用い、200μm厚の結晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、乾燥させて結晶性PET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を生成した。結晶性PETのガラス転移温度は80℃である。次に、生成された積層体を110℃に設定した空中高温延伸によって延伸倍率が4.0倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。この延伸処理によって、延伸積層体に含まれるPVA層は、PVA分子が配向された3.3μm厚のPVA層へと変化した。参考例1の場合、延伸温度110℃の空中高温延伸において、積層体を4.0倍以上に延伸することができなかった。
【0190】
延伸積層体は、次の染色工程によって、PVA分子が配向された3.3μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体に生成された。具体的には、着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素およびヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。このように、PVA分子が配向されたPVA層へのヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。次に、生成された着色積層体を架橋処理する。具体的には、液温が40℃で、ホウ酸3%、ヨウ化カリウム3%からなるホウ酸架橋水溶液に60秒間、浸漬することによって着色積層体に架橋処理を施した。参考例1は、架橋処理が施された着色積層体が実施例4の光学フィルム積層体に相当する。したがって、洗浄工程、乾燥工程、貼合せおよび/または転写工程は、いずれも実施例4の場合と同様である。
【0191】
[参考例2]
参考例2は、樹脂基材として、参考例1の場合と同様に、結晶性PET基材を用い、200μm厚の結晶性PET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を生成した。次に、生成された積層体を100℃の空中高温延伸によって延伸倍率が4.5倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。この延伸処理によって、延伸積層体に含まれるPVA層は、PVA分子が配向された3.3μm厚のPVA層へと変化した。参考例2の場合、延伸温度100℃の空中高温延伸において、積層体を4.5倍以上に延伸することができなかった。
【0192】
次に、延伸積層体から着色積層体を生成した。着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素およびヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。参考例2は、参考例1の場合と同様に、PVA分子が配向されたPVA層へのヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。
【0193】
[参考例3]
参考例3は、樹脂基材として、参考例1または2の場合と同様に、結晶性PET基材を用い、200μm厚の結晶性PET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を生成した。次に、生成された積層体を液温30℃のヨウ素およびヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を種々生成した。しかる後に、生成された着色積層体を90℃の空中高温延伸によって、延伸倍率が4.5倍になるように自由端一軸に延伸し、着色積層体から偏光膜に相当するヨウ素を吸着させたPVA層を含む延伸積層体を生成した。この延伸処理によって、着色積層体から生成された延伸積層体に含まれるヨウ素を吸着させたPVA層は、PVA分子が配向された3.3μm厚のPVA層へと変化した。参考例3の場合、延伸温度90℃の空中高温延伸において、積層体を4.5倍以上に延伸することができなかった。
【0194】
[測定方法]
[厚みの測定]
非晶性PET基材、結晶性PET基材、およびPVA層の厚みは、デジタルマイクロメーター(アンリツ社製KC−351C)を用いて測定した。
【0195】
[透過率および偏光度の測定]
薄型偏光膜の単体透過率T、平行透過率Tp、直交透過率Tcは、紫外可視分光光度計(日本分光社製V7100)を用いて測定した。これらのT、Tp、Tcは、JIS Z
8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。
偏光度Pを上記の透過率を用い、次式により求めた。
偏光度P(%)={(Tp−Tc)/(Tp+Tc)}
1/2×100
【0196】
(PETの配向関数の評価方法)
測定装置は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(Perkin Elmer社製、商品名:「SPECTRUM2000」)を用いた。偏光を測定光として、全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定により、PET樹脂層表面の評価を行った。配向関数の算出は以下の手順で行った。測定偏光を延伸方向に対して0°と90°にした状態で測定を実施した。得られたスペクトルの1340cm
−1の強度を用いて、以下に記した(式4)に従い算出した。なお、f=1のとき完全配向、f=0のときランダムとなる。また、1340cm
−1のピークは、PETのエチレングリコールユニットのメチレン基起因の吸収といわれている。
(式4)f=(3<cos
2θ>−1)/2
=(1−D)/[c(2D+1)]
但し
c=(3cos
2β−1)/2
β=90deg⇒f=−2×(1−D)/(2D+1)
θ:分子鎖・延伸方向
β:分子鎖・遷移双極子モーメント
D=(I⊥)/(I//)
(PETが配向するほどDの値が大きくなる。)
I⊥:偏光を延伸方向と垂直方向に入射して測定したときの強度
I//:偏光を延伸方向と平行方向に入射して測定したときの強度
【0197】
(PVAの配向関数の評価方法)
測定装置は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(Perkin Elmer社製、商品名:「SPECTRUM2000」)を用いた。偏光を測定光として、全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定により、PVA樹脂層表面の評価を行った。配向関数の算出は以下の手順で行った。測定偏光を延伸方向に対して0°と90°にした状態で測定を実施した。得られたスペクトルの2941cm
−1の強度を用いて、以下に記した(式4)に従い算出した。また、下記強度Iは3330cm
−1を参照ピークとして、2941cm
−1/3330cm
−1の値を用いた。なお、f=1のとき完全配向、f=0のときランダムとなる。また、2941cm
−1のピークは、PVAの主鎖(−CH
2−)の振動起因の吸収といわれている。
(式4)f=(3<cos
2θ>−1)/2
=(1−D)/[c(2D+1)]
但し
c=(3cos
2β−1)/2
β=90deg⇒f=−2×(1−D)/(2D+1)
θ:分子鎖・延伸方向
β:分子鎖・遷移双極子モーメント
D=(I⊥)/(I//)
(PVAが配向するほどDの値が大きくなる。)
I⊥:偏光を延伸方向と垂直方向に入射して測定したときの強度
I//:偏光を延伸方向と平行方向に入射して測定したときの強度
【0198】
(PVAの結晶化度の評価方法)
測定装置は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(Perkin Elmer社製、商品名:「SPECTRUM2000」)を用いた。偏光を測定光として、全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定により、PVA樹脂層表面の評価を行った。結晶化度の算出は以下の手順で行った。測定偏光を延伸方向に対して0°と90°にした状態で測定を実施した。得られたスペクトルの1141cm
−1および1440cm
−1の強度を用いて、下式に従い算出した。事前に、1141cm
−1の強度の大きさが結晶部分の量と相関性があることを確認しており、1440cm
−1を参照ピークとして下記式より結晶化指数を算出している。(式6)更に、結晶化度が既知のPVAサンプルを用いて、事前に結晶化指数と結晶化度の検量線を作成し、検量線を用いて結晶化指数から結晶化度を算出している。(式5)
(式5) 結晶化度 = 63.8×(結晶化指数)−44.8
(式6) 結晶化指数 = ((I(1141cm
−1)0° + 2×I(1141cm
−1)90° )/ 3)/((I(1440cm
−1)0° + 2×I(1440cm
−1)90° )/ 3)
但し
I(1141cm
−1)0°:偏光を延伸方向と平行方向に入射して測定したときの1141cm
−1の強度
I(1141cm
−1)90°:偏光を延伸方向と垂直方向に入射して測定したときの1141cm
−1の強度
I(1440cm
−1)0°:偏光を延伸方向と平行方向に入射して測定したときの1440cm
−1の強度
I(1440cm
−1)90°:偏光を延伸方向と垂直方向に入射して測定したときの1440cm
−1の強度