特許第5767689号(P5767689)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767689
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】溶射装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/12 20060101AFI20150730BHJP
   B05B 7/20 20060101ALI20150730BHJP
   F27D 1/16 20060101ALN20150730BHJP
【FI】
   C23C4/12
   B05B7/20
   !F27D1/16 B
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-256191(P2013-256191)
(22)【出願日】2013年12月11日
(65)【公開番号】特開2015-113490(P2015-113490A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2014年10月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 佳寛
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−345312(JP,A)
【文献】 特公平08−020183(JP,B2)
【文献】 特開昭56−038462(JP,A)
【文献】 特開平09−248497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00−6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性粉体及び可燃性粉体を含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射装置であって、
前記原料紛体を払い出す払出部を複数有し、
それぞれの払出部に、当該払出部から払い出された原料粉体と前記キャリアガスとを混合し前記混合物とする混合物生成手段と、当該混合物生成手段により生成された前記混合物を噴射する噴射手段とを接続してなり、
これらの噴射手段噴射口を2つ有し、当該噴射口の中心間距離が、前記噴射口の内径の1.4倍以上5.3倍以下である溶射装置。
【請求項2】
前記噴射手段の噴射方向が、前記噴射口の中心間を結ぶ直線に対して50度以上95度以下である請求項1に記載の溶射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火組成物を形成するための溶射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐火組成物を形成するための溶射装置として、可燃性粉体(例えば、金属粉末)と耐火性粉体(耐火性骨材)とを含む原料粉体を、支燃性のキャリアガス(酸素ガス)によって搬送し噴射して着火溶融することで耐火組成物を形成する溶射装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
具体的に特許文献1には、キャリアガスを噴出ノズルによりエジェクター内に導き、エジェクター内で原料粉体とキャリアガスとを混合し、混合した混合物を流路に沿って下流側に導き、噴射手段により混合物を噴射し、噴射した混合物を燃焼させて耐火組成物を形成する技術が記載されている。
【0004】
また、その他の溶射技術として、フレームガンニング法(火炎溶射法)により耐火物内張を補修する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。具体的に特許文献2には、炉の下方から上方に向かってランスを挿入して溶射を行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−043141号公報
【特許文献2】特開昭58−43385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような溶射技術においては、目的とする耐火組成物を効率的かつ迅速に形成するために、耐火組成物の元になる原料紛体の噴射量を多く噴射することが必要である。また、原料粉体を多く噴射する際、被施工面におけるヒープ幅は小さく、噴射された原料粉体を被施工面へ平滑に施工する必要がある。ここで、ヒープ幅とは、原料粉体を被施工面に溶射したときにおける被施工面への溶着部の幅の最大長のことをいう。ヒープ幅が大きいほど被施工面の単位面積当たりの溶着量が少なくなるので、ヒープ幅は小さい必要がある。以下、本明細書では、原料粉体の噴射量が多く、ヒープ幅が小さく、平滑な施工を実現する噴射を大量噴射という。大量噴射を行うには、混合物中の原料紛体の割合(以下「固気比」という。)を大きくすることが有効である。しかし、固気比を大きくすると原料粉体同士が摩擦する頻度が高くなり、発火を生じる危険性が高くなる。
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、大量噴射を行う場合において、発火の発生を防止できる溶射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、耐火性粉体及び可燃性粉体を含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射装置であって、前記原料紛体を払い出す払出部を複数有し、それぞれの払出部に、当該払出部から払い出された原料粉体と前記キャリアガスとを混合し前記混合物とする混合物生成手段と、当該混合物生成手段により生成された前記混合物を噴射する噴射手段とを接続してなり、これらの噴射手段噴射口を2つ有し、当該噴射口の中心間距離が、前記噴射口の内径の1.4倍以上5.3倍以下である溶射装置が提供される。
【0009】
本発明において前記噴射手段の噴射方向は、前記噴射口の中心間を結ぶ直線に対して50度以上95度以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原料紛体を払い出す払出部を複数設け、各払出部に噴射手段を接続し、かつ各噴射手段の噴射口の配置を適正化したことで、固気比を大きくすることなく大量噴射を行うことができる。また、固気比を大きくする必要がないので、発火の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の溶射装置の一実施形態を示す概念図である。
図2】溶射機本体の構成例を示す断面図である。
図3】噴射手段の噴射口の位置関係を示す説明図である。
図4】噴射手段の噴射方向を示す説明図である。
図5】本発明の溶射装置の他の実施形態の要部を示す概念図である。
図6】ヒープ幅の概念を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の溶射装置の一実施形態を示す概念図である。同図の溶射装置は、2台の溶射機本体10を有し、各溶射機本体10に、搬送ホース20及びランス30を介して噴射手段40が接続されている。各噴射手段40は噴射口41を有する。これらの噴射口41は水平方向に並列して配置され、その内径は同一である。
【0013】
図2は、溶射機本体10の構成例を示す断面図である。同図に示す溶射機本体10は、原料粉体Aを貯蔵する貯蔵手段としてのホッパー11と、混合物生成手段としてのエジェクター12とを備える。
【0014】
原料粉体Aは、可燃性粉体(例えば、金属粉末)と耐火性粉体(耐火性骨材)とを含んでなる。ホッパー11は、その底部に原料粉体Aを払い出す払出部11aを有する。エジェクター12は、加圧されたキャリアガス(酸素ガス)の流れにより払出部11aから原料粉体Aを吸入し、キャリアガスと原料粉体Aとを混合し混合物とする。
【0015】
エジェクター12は、ホッパー11底部の払出部11aに連通する内部空間を有する容器部12aと、加圧されたキャリアガスを先端から容器部12aの内部空間に噴出する先細りの噴出ノズル12bと、容器部12aの内部空間に一端が連通し前記混合物を流路に沿って前記一端から他端へ導く吐出導管12cとを備える。すなわち、容器部12aの内部空間において、キャリアガスは、先細りの噴出ノズル12b先端のノズル孔から吐出導管12cの一端(基端)に向けて高速で噴出し、それによって容器部12aの内部空間を負圧(ここでは大気圧よりも低い圧力)にする。一方、容器部12aの内部空間には垂直移送管11bを介してホッパー11の払出部11aが連通している。このためエジェクター12は、加圧されたキャリアガスの流れにより払出部11aから原料粉体Aを容器部12aの内部空間に吸入し、噴出ノズル12b先端のノズル孔から噴出するキャリアガスと原料粉体Aとが容器部12aの内部空間にて混合され混合物となる。
【0016】
この混合物が水平移送管13を介して搬送ホース20に供給され、更に図1に示したランス30を介して噴射手段40に供給され、噴射手段40の噴射口41から被施工面Bに向けて噴射される。なお、水平移送管13は省略することができ、エジェクター12の出側に搬送ホース20を直接接続してもよい。
【0017】
図3は、噴射手段40の噴射口41の位置関係を示す説明図である。本発明において、噴射口41の中心間距離Lは、噴射口41の内径Dの1.4倍以上5.3倍以下に設定する。LがDの5.3倍を超えると目的とする大量噴射を実現できない。すなわち、LがDの5.3倍を超えると、各噴射口41から噴射される原料紛体が被施工面に対して個別に噴射されるのに近い状態となり、大量噴射を実現できない。一方、実機としての設計上の制約から、LはDの1.4倍以上とする。すなわち、実機としての設計上、噴射手段40を近接して配置することには限界がある。
【0018】
本発明において各噴射口41の内径は同一であることが基本である。各噴射口41の内径が異なると均一な溶射が行えないからである。ただし、溶射の均一性が損なわれない程度であれば、各噴射口41の内径は若干異なっていてもよい。この場合、噴射口41の中心間距離Lを規定するときに使用する内径Dは、各噴射口41の内径の平均値とすればよい。
【0019】
同様に溶射の均一性を確保する点から、各噴射口41は図3に示したように並列配置することが基本である。ただし、その並列の方向は鉛直方向や斜め方向であってもよい。
【0020】
図4は、噴射手段40の噴射方向を示す説明図である。本発明において、噴射手段40の噴射方向は、噴射口41の中心間を結ぶ直線に対して50度以上95度以下であることが好ましい。すなわち、図4に示す角度θが50度以上95度以下であることが好ましい。この角度θは、本発明が目的とする大量噴射を実現する点から90度を超えることは想定されない。ただし、設計上の制約及び製作上の誤差を考慮すると、95までは許容範囲である。
【0021】
また、本発明が目的とする大量噴射を実現する点から、角度θは、各噴射口41から噴射された原料紛体が被施工面B上において一点に集束するように設定することが好ましい。このための条件は、被施工面までの距離をRとすると、下記式(1)で表される。
R=0.5L・tanθ …(1)
【0022】
ここで、被施工面までの距離Rは一般的に50〜200mmである。また、噴射口41の中心間距離Lは、噴射口41の内径Dによって変わるが、Dは一般的に10A相当(12.7mm)ないし15A相当(16.1mm)である。この場合、噴射口41の中心間距離Lの最大値は16.1×5.3=85.3mmとなり、被施工面までの距離Rを最小の50mmとすると、角度θは上記式(1)より50度となる。このことから、角度θは50度以上であることが好ましい。
【0023】
なお、図1の実施形態では溶射機本体10を2台設けたが、図5に示すように1台の溶射機本体50に統合することができる。すなわち、原料粉体Aを貯蔵する貯蔵手段としてのホッパー51に2個の払出部51aを設け、それぞれの払出部51aに混合物生成手段としてのエジェクター52を接続する。エジェクター52の構成は図2に示したエジェクター12と同一でよい。ただし、本発明において混合物生成手段はエジェクターには限定されない。エジェクターは払出部から原料粉末を吸引する作用も有するが、エジェクター以外の混合物生成手段を使用するときは、払出部にテーブルフィーダやスクリューフィーダ等の払出手段を設置することもできる。
【実施例】
【0024】
図1の溶射装置にて試験を行い、発火の有無を確認するとともに施工体の平滑性及びヒープ幅を評価した。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
試験では、耐火性粉体としてシリカ(SiO):85質量%と可燃性粉体として金属Si:15質量%とからなる原料粉体(0.1mm以下の粒子:20質量%)を用い、0.5MPaのキャリアガス(酸素ガス)を流すことで原料粉体を噴射した。なお、比較例1及び比較例2では、図1の溶射装置において一方の溶射機本体10のみを使用して1個の噴射手段40から噴射した。
【0027】
原料紛体の噴射量は、比較例2を除き溶射機本体1台あたり50kg/hとし、比較例2は100kg/hとした。噴射手段40の噴射口41の内径、噴射口41の中心間距離、溶射距離(図4で説明した被施工面までの距離R)、及び噴射角度(図4で説明した角度θ)は表1のとおりである。
【0028】
発火の有無については、噴射手段40付近で火花発生の有無を目視で確認した。発火が発生すれば、その火花が搬送ホース20及びランス30内を進み、噴射手段40付近で確認される。
【0029】
施工体の平滑性については、施工体の凹凸の大きさが3mm以下であると優良(◎)、3mm超5mm以下であると良(○)と評価した。
【0030】
ヒープ幅とは、図6に示すように噴射手段(噴射ノズル)を一方向に移動しながら溶射したときの被施工面への溶着部の幅の最大長のことをいい、比較例1のヒープ幅を100として、各例のヒープ幅を指数換算した。このヒープ幅が大きいほど被施工面の単位面積あたりの溶着量が少ないということであり、本試験ではヒープ幅が指数換算値で150を超えると大量噴射の効果が得られていないと評価した。
【0031】
表1に示すとおり、本発明の範囲内にある実施例1〜8は、いずれも発火は確認されず、平滑性も良好であった。また、ヒープ幅は150未満であり、大量噴射の効果も得られた。
【0032】
比較例1は、噴射手段40が1個、噴射量が50kg/hであり、大量噴射の例ではない。比較例2は、噴射手段40が1個で、噴射量を100/kgに増加させた例であるが、固気比が大きいため発火が生じた。
【0033】
比較例3は、噴射口41の中心間距離が大きすぎる例であり、ヒープ幅が180となり大量噴射の効果が得られなかった。比較例4は、噴射角度が50度よりも小さい44度の例である。この場合、被施工面Bに到達する前に、噴射された原料粉体が互いに衝突して飛散する。このため、ヒープ幅は210となり大量噴射の効果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の溶射技術は、コークス炉、転炉、溶解炉、AOD炉、取鍋、タンデッシュ、真空脱ガス炉、混銑車、電気炉、焼却炉、誘導炉、加熱炉、ガラス炉などの工可燃性金属粉体含有溶射が使用される工業窯炉等に利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 溶射機本体
11 ホッパー
11a 払出部
11b 垂直移送管
12 エジェクター(混合物生成手段)
12a 容器部
12b 噴出ノズル
12c 吐出導管
13 水平移送管
20 搬送ホース
30 ランス
40 噴射手段
41 噴射口
50 溶射機本体
51 ホッパー
52 エジェクター
A 原料紛体
B 被施工面
図1
図2
図3
図4
図5
図6