特許第5767700号(P5767700)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767700
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】短絡アーク溶接システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20150730BHJP
【FI】
   B23K9/073 545
   B23K9/073 525
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-512765(P2013-512765)
(86)(22)【出願日】2010年5月28日
(65)【公表番号】特表2013-527037(P2013-527037A)
(43)【公表日】2013年6月27日
(86)【国際出願番号】EP2010057406
(87)【国際公開番号】WO2011147460
(87)【国際公開日】20111201
【審査請求日】2012年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】512306232
【氏名又は名称】エサブ・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100071010
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 行造
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100138438
【弁理士】
【氏名又は名称】尾首 亘聰
(74)【代理人】
【識別番号】100138519
【弁理士】
【氏名又は名称】奥谷 雅子
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100161539
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 美子
(74)【代理人】
【識別番号】100166637
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100177356
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 弘昭
(72)【発明者】
【氏名】ムニヒ、アンジェイ
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−206159(JP,A)
【文献】 特開平11−267835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源装置(5)から溶接電極(32)への電圧フィードバックループ(13)に含まれる電流調節器(3)と短絡位相の間に電流ランプを前記溶接電極(32) に提供するよう構成されたランプ波発生器(11)とを備える短絡アーク溶接のための直流アーク溶接装置(20)において溶接電流を制御するためのシステム (12)であって、前記電流調節器(3)および前記ランプ波発生器(11)は並列に接続され且つ前記電源装置(5)に対する基準電流(Iref)を前記溶 接電極(32)に提供することを特徴とする、システム(12)。
【請求項2】
前記基準電流(Iref)は、前記電流調節器(3)からの出力電流(Ireg)と前記ランプ波発生器(11)から提供される電流ランプ(Iramp)との和であることを特徴とする、請求項1に記載の溶接電流を制御するためのシステム。
【請求項3】
前記電圧フィードバックループ(13)は、測定されたアーク電圧(Uarc)と基準電圧(Uref)との差からフィードバック誤差(E)が生成される減算ノード(1)を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の溶接電流を制御するためのシステム。
【請求項4】
前記電圧フィードバックループ(13)は、開回路状態が存在することを検出するよう構成された開回路検出器(6)を備え、前記開回路検出器(6)は、開回路状態が前記開回路検出器(6)により検出されるとフィードバック誤差(E)を抑制するよう構成されたことを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の溶接電流を制御するためのシステム。
【請求項5】
前記開回路検出器(6)は、開回路状態が検出されたか否かに応じて前記電流調節器(3)の入力(3a)と前記減算ノード(1)の出力とを接続または切断するよう構成されたスイッチ(2)に接続されていることを特徴とする、請求項4に記載の溶接電流を制御するためのシステム。
【請求項6】
前記電流調節器(3)は比例積分調節器であることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の溶接電流を制御するためのシステム。
【請求項7】
前記システム(12)は、短絡状態を検出するための閾値レベル(Uth)を有する短絡状態検出器(7)をさらに備え、前記閾値レベル(Uth)は前記電源 装置(5)に供給される前記基準電流(Iref)の強度に依存することを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の溶接電流を制御するためのシステム。
【請求項8】
電源(5)と前記電源(5)に接続された溶接トーチ(26)とを備える直流短絡アーク溶接システム(20)であって、前記電源は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の溶接電流を制御するためのシステム(12)により制御されることを特徴とする、直流短絡アーク溶接システム(20)。
【請求項9】
請求項8に記載の短絡アーク溶接のための直流短絡アーク溶接システム(20)において電源(5)を制御するための方法であって、前記短絡位相の間に電源装置の出力電流を制御することと、前記アーク位相の間に前記出力電圧を制御することとにより特徴づけられる、方法。
【請求項10】
前記開回路状態が検出されると、前記電圧フィードバックループ(13)における電流調節器(3)に、出力電圧(Uarc)と基準電圧(Uref)との差からなるフィードバック誤差(E)が入力されることを抑制することにより特徴づけられた、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短絡アーク溶接のための直流アーク溶接装置において溶接電流を制御するためのシステムに関する。本発明は、特に、電圧フィードバックループに含まれる電流調節器と、短絡の間に電流ランプを提供するように構成されたランプ波発生器とを備える短絡アーク溶接のための直流アーク溶接装置において溶接電流を制御するためのシステムに関する。本発明は、さらに、電源を制御するための方法にも関する。
【0002】
本発明は、短絡アーク溶接のための直流アーク溶接装置において溶接電流を制御するためのシステムに関する。短絡アーク溶接は、金属移行のプロセスにおいて、溶融金属の溶滴が、消耗電極から分離される前に、溶融池に落下する、ガスメタルアーク溶接における金属移行状態である。
【背景技術】
【0003】
ガスメタルアーク溶接において、消耗電極は溶接区域に向かって連続的に供給される。一般に、金属アーク溶接のためのシステムは、溶接トーチ、母材、電源、ワイヤ供給ユニット、およびシールドガス供給源を備える。金属アーク溶接のためのシステムは、電源の溶接電流を制御するためのシステムをさらに備える。この溶接電流を制御するためのシステムは、電源に対する基準電流を生成するために提供されたものである。この基準電流は、ワイヤ電極の溶融と、母材への溶融金属の移行とが、要望通りに制御され得るよう、電源を制御する。溶接電流および電圧は、溶接が所望の金属移行状態で行われることを確保するよう、制御される。
【0004】
金属活性ガス溶接(MAG:Metal Active Gas welding)および金属不活性ガス(MIG:Metal Inert Gas)溶接の両方を含むガスメタルアーク溶接(GMAW)においては、電気アークが母材と消耗ワイヤ電極との間に確立される。アークは、アークが溶融池に供給されるにつれて、ワイヤを連続的に溶融させる。アークおよび溶融物質は、不活性ガスまたは活性ガス混合物の流れにより大気からシールドされる。MIG溶接処理およびMAG溶接処理は、通常、ワイヤ電極を陽極としてD.C.(直流)で実施される。これは、「逆」極性として知られる。ワイヤ電極から母材への溶融金属の移行が良好ではないため、「正」極性の使用頻度はより低いものとなっている。50アンペアから600アンペアを越える溶接電流が、15Vから32Vの溶接電圧において一般に用いられる。安定した自動的に修正するアークは、定電圧電源と一定のワイヤ供給速度とを用いることにより、獲得され得る。継続的な開発の結果、MIG処理は、鉄鋼、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、その他いくつかの商業上重要な全ての金属に対して適用可能となった。
【0005】
MIG溶接処理およびMAG溶接処理は、低量生産および多量生産の両方の用途に関しては、手動および自動の金属接合において多数の利点を提供する。その組み合わされた利点は、手動金属アーク溶接(MMA)、サブマージドアーク(SAW)、およびタングステン不活性ガス(TIG)と比較すると、
1)溶接がすべての位置において可能である。
2)スラグ除去が不必要である。
3)溶接金属堆積速度が高い。
4)溶接完了に必要な全体時間が、被覆アーク溶接棒の溶接完了全体時間の約1/2である。
5)溶接速度が高い。母材の歪みがより小さい。
6)溶接品質が高い。
7)より大きい間隙の充填または穴埋めがより容易となり、それにより特定種類の補修溶接がより効果的となる。
8)棒電極の場合におけるようなスタブ損失がない。
ことである。
【0006】
MIG溶接技術およびMAG溶接技術においては、異なる金属移行状態、すなわち、短絡アーク移行状態、混合アーク(球形)移行状態、スプレーアーク移行状態、パルススプレーアーク移行状態の間で区別がなされる。
【0007】
短絡アーク移行状態の間においては、かなり大きい溶融液滴が生成される。この溶融液滴は、溶融液滴により電極と溶融池との間の間隙が穴埋めされる状態へと成長する。電源の短絡とアークの消滅とが瞬間的に生じる。ピンチ効果がランプ波発生器により制御されることにより、溶融池への溶融液滴の移行は完了する。短絡アーク溶接は比較的低い電圧および溶接電流において行われる。
【0008】
溶接電流および電圧が短絡アーク溶接に対する最大推奨値を越えて増加するにつれて、混合アーク移行が生じる。寸法において異なる液滴は、短絡液滴と非回路液滴との混合から構成される。この金属移行の状態は、スパッタおよびヒュームが多量に発生する不規則な状態となり得る。
【0009】
スプレーアーク溶接状態においては、小さい溶融液滴が電極からランダムに移行される。これらの小さい溶融液滴はアークを短絡しない。スプレーアーク溶接においては、アークは安定し、問題となるスパッタがまったく生じない。
【0010】
パルススプレーアーク溶接状態においては、パルス溶接電流を制御することにより、小さい溶融液滴がアークを短絡することなく電極からランダムに1つずつ移行される。パルスアーク溶接においては、複雑且つ高価な溶接装置が必要となる。
【0011】
短絡アーク溶接は比較的低い電圧および溶接電流において行われる。ワイヤの供給速度は、溶融金属の液滴が母材と接触すると母材に移行するよう、溶接電流に適応した速度である。液滴寸法は、スプラッタがおよそ回避されるよう設定されるべきである。
【0012】
短絡アーク溶接は、通常、直径0.030インチ(0.76mm)から0.045インチ(1.1mm)の範囲の小さいワイヤを使用し、低いアーク長(低電圧)および溶接電流で動作する。小さく且つ高速に凝固する溶融池が獲得される。この溶接技術は、任意の位置における肉薄材料の接合、垂直位置または頭上位置における肉厚材料の接合、および大きい間隙の充填に対して、特に有用である。短絡アーク溶接は、母材の歪みが最小化されることが要求される状況でも用いられるべきである。金属は、ワイヤと溶融池とが接触する時すなわち各短絡時においてのみ、ワイヤから溶融池に移行される。ワイヤは、毎秒20〜200回、母材に短絡する。
【0013】
図1は1回の完全な理想的短絡アークサイクルを概略的に示す。溶融物質の液滴が電極の端部において発達する。液滴が溶融池に接触する(A)と、アークが短絡して溶接電流が上昇し始め、液滴が移行する。その後、アークが再点弧される。ワイヤは、液滴が分離する前に液滴と溶融池とが接触することが可能となる速度で、供給される。液滴を介して電極と溶融池とが接触する間、アークは他の短絡により消滅されるであろう(I)。その後、サイクルは再開する。アーク期間の間は金属は移行されない。金属移行は短絡時に限られる。このサイクルは、いわゆる開回路状態が生じないという意味で、理想的である。
【0014】
開回路状態は、アークも電極の短絡も存在しないときの状態である。開回路状態においては、アーク状態と比較して、電極と母材との間の電圧がより高くなる。開回路状態におけるより高い電圧は、短絡状態からアーク状態へのより迅速な遷移を可能にする。
【0015】
短絡アーク溶接処理は、その性質により、確率的および乱流的である。短絡位相およびアーク位相における溶接処理の制御は困難であり、開回路状態が生じると短絡アーク溶接処理の制御はより複雑となる。通常、開回路状態は好ましい状態ではなく、ランダムに生じる。
【0016】
電圧フィードバックループにおいては、電極と溶融池との間の電圧が測定される。この測定された電圧は、基準電圧と比較される。電流調節器は、従来の方法による調節誤差を低減するために、検知された電圧と基準電圧との差に応じて出力電流を調節する。この目的のために比例積分調節器を用いることが好適であり得る。
【0017】
短絡アーク溶接を制御するための先行技術に係るシステムにおいては、アーク位相は、通常、電流上昇リミッタに直列に接続された電圧調節器により電圧制御される。このことによりアークおよび短絡状態の制御が困難となる。なぜなら、電圧調節器は電流上昇リミッタに影響を与え、逆に電流上昇リミッタも電圧調節器に影響を与えるためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、短絡アーク溶接処理のさらなる安定化を図るために、短絡アーク溶接装置において溶接電流を制御するためのシステムをさらに改良することである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、短絡アーク溶接のアーク位相および短絡位相の両方における正確な制御を支援する、短絡アーク溶接のための直流装置において溶接電流を制御するためのシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
これらの目的は、請求項1に係る短絡アーク溶接のためのアーク溶接装置において溶接電流を制御するためのシステムにより達成される。この溶接電流を制御するためのシステムは、電源装置から溶接電極への電圧フィードバックループに含まれる電流調節器を備える。この電源は、入力される基準電流に応じて溶接電極と母材との間の電流を制御する、定電流電源である。電圧フィードバックループにおいて、溶接電圧は検知されて電圧基準値と比較され、それにより電圧フィードバックループに含まれる電流調節器に対する入力が形成される。アーク位相の間、電極上の電圧は、電圧フィードバックループにおける電流調節器により制御される。したがって、定電流電源は、アーク位相の間に基準電流の電圧フィードバック制御が行われるため、アーク位相の間は定電圧特性を有する。
【0021】
ランプ波発生器は、短絡位相の間において電流ランプを提供するよう構成される。短絡位相の間に提供される電流ランプは、溶融池への溶融液滴の移行を完了するために提供される。このことは、電流ランプに起因するピンチ効果により行われる。安定した溶接条件を生成するためには、短絡位相の間の溶接電流の形状が重要である。スプラッタを回避し溶接処理を安定的に制御するためには、電流ランプの形状を良好に制御することが好ましい。ランプ波発生器およびその機能は当業者にはよく知られている。したがって、当業者は、ランプ波発生器の構成品を従来の方法において選択し、それにより電流ランプの所望の形状を達成し得る。ランプ波発生器により生成される電流ランプを、電圧フィードバックループにおける電流調節器からの出力電流に加えることにより、電源装置に対する基準電流が形成される。
【0022】
短絡位相の間における電流応答は溶接処理の安定性に大いに責任がある。本明細書において、電流応答とは例えば短絡の発生時または短絡状態からアーク状態への変化時に生じる負荷の変化に応じて生じる電極における出力電流の変動を意図するものである。電流応答は、電源装置への基準電流を制御するフィードバックループの構造に、並びに、ランプ波発生器により提供されるランプの形状に、依存する。
【0023】
電圧フィードバックループにおいてランプ波発生器と電流調節器とを分離し、ランプ波発生器と電流調節器とを並列に配置することにより、アーク状態におけるアーク上の電圧制御を実現すること、および短絡状態における電流制御を実現することが、実行可能となる。電圧フィードバックループにおける電流調節器は、出力電圧と基準電圧との間の調節誤差を低減するために、基準電流を制御する。電流調節器は平均電圧を制御することができる比例積分調節器である。電流調節器における積分は電流調節器からの応答を遅延させるので、短絡位相の間に出力電圧が変化しても、電流調節器からの出力電流が直ちに訂正されることはないであろう。したがって、電源装置は、短絡位相の間は電流制御されアーク位相の間は電圧制御されるため、アーク位相においては定電圧電源としてアーク位相の間は定電流電源として機能することとなるであろう。電流制御とは電源の出力電流が制御されることを意図するものである。電圧制御とは電源の出力電圧が制御されることを意図するものである。電源装置への基準電流は、前記電流調節器からの前記出力電流と前記電流調節器から提供される前記電流ランプとの和である。ランプ波発生器と電流調節器とを並列に配列することにより、電圧フィードバックループにおける電流調節器の影響が低減されるため、基準電流の精密な制御が支援される。
【0024】
電圧フィードバックループは減算ノードを備えてもよい。なお、この減算ノードにおいて、測定されたアーク電圧と基準電圧との差からフィードバック誤差が生成される。
【0025】
電圧フィードバックループは開回路検出器を備えてもよい。なお、この開回路検出器は、開回路状態が存在することを検出し開回路状態が検出されるとエラー信号を抑制するよう構成されたものである。
【0026】
短絡溶接において、開回路状態はランダムに存在し得る。開回路状態の間は、溶接処理が中断し、したがって電極においてアークも短絡も生じない。開回路状態において、開回路電圧が電極と母材との間に存在する。開回路電圧は電源の組み込まれた特徴である。開回路電圧は、通常は、短絡位相の間、またはアーク位相の間、稼働電圧よりも相当に高い。短絡アーク溶接の間の開回路状態は、短絡範囲のより低い範囲、すなわち平均電圧およびワイヤ供給速度が低い場合に生じる。短絡アーク溶接における電源は、先行技術に係るシステムにおいては、電源からのフィードバックループにおける電圧調節器により制御される。なお、この調節器は、短絡位相およびアーク位相の間の平均電圧を制御パラメータとして用いる。開ループ状態は平均出力電圧を増加させる。電源が、開回路状態の間の開ループ電圧を補償しない電圧調節器により制御される場合、電圧調節器は電源の出力電圧を低下させるであろう。
【0027】
電源の出力電圧の低下によりアーク位相は短縮され、それにより多くの開回路位相を起こす。その結果、電圧調節器は、溶接の生産的位相(すなわち短絡位相およびアーク位相)の間において実際には電圧が低いときに、その動作状況を、出力電圧が見かけ上高いものであるとして解釈してしまう。したがって、システムは、開回路状態が頻繁に生じる状態に保持されることとなるであろう。その結果、溶接が不十分且つ低品質となってしまう。
【0028】
本発明の実施形態により示されるように、開回路状態検出時の電流調節器のエラー信号を抑制することにより、開回路状態の間における高電圧の誤解釈を回避することが可能である。したがって、アーク形状における動作状態は、ランダムに出現する開回路状態に影響されることなく、電圧フィードバックループにおける電流調節器により正確に制御されることが可能となる。
【0029】
特に、開回路検出器は、開回路状態が検出されたか否かに応じて前記減算ノードの出力と前記電流調節器の入力とを接続または切断するよう構成されたスイッチに接続されてもよい。
【0030】
このシステムは、短絡状態を検出するための閾値レベルを有する短絡状態検出器をさらに備えてもよい。なお、この閾値レベルは電源に供給される基準電流の強度に依存するものである。
【0031】
本発明は、電源と電源に接続された溶接トーチとを備える短絡アーク溶接システムにも関する。なお、この電源は上述のシステムに制御される。
【0032】
本発明は、電源装置から溶接電極への電圧フィードバックループに含まれる電流調節器と短絡位相の間に電流ランプを前記溶接電極に提供するよう構成されたランプ波発生器とを備える短絡アーク溶接のための直流アーク溶接装置において電源を制御するための方法にさらに関する。本発明に係るこの方法において、短絡位相の間は電源の出力電流が制御される。アーク位相の間は、電源の出力電圧が制御される。
【0033】
本発明に係るこの方法は、アーク位相の間における電圧の単純な制御を可能にする一方で、短絡位相の間における電流ランプ形状の良好な制御を可能にする。
【0034】
本発明の実施形態において、開回路状態の期間における調節誤差の抑制を可能にするために、開回路状態が検出される。したがって開回路状態が電流基準値に影響を与えることがなくなるであろう。その結果、開回路状態において、高い精度で出力電圧を制御することと、電極と母材との間の高電圧による基準電流のドリフトを防ぐこととが可能となる。
【0035】
本発明の実施形態について、以下の添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】現状技術による短絡アーク溶接処理を概略を示す図である。
図2】本発明に係る短絡アーク溶接のためのアーク溶接装置における溶接電流を制御するためのシステムの概略図である。
図3】溶接システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図2は、短絡アーク溶接のためのアーク溶接装置20(図3)において溶接電流を制御するためのシステム12を示す。
【0038】
電圧フィードバックループ13は、定電流電源に接続された溶接電極における電圧を制御する。
【0039】
この定電流電源は電流フィードバックループ5aを備える。なお、この電流フィードバックループ5aは、アーク溶接装置20(図3)において溶接電流を制御するために、出力電流とシステム12から提供される基準電流とを比較する。定電流電源装置5に含まれる電流調節器は、基準電流と出力電流との間の調節誤差に応じて、電源装置の出力電流を制御する。
【0040】
電圧フィードバックループ13は減算ノード1を備え、この減算ノード1において出力電圧Uarcが基準電圧Urefから減算される。出力電圧Uarcと基準電圧Urefとの差が調節誤差Eとなる。なお、この調節誤差Eはスイッチ2を介して比例積分調節器3に入力信号として供給される。
【0041】
電圧フィードバックループ13は、電流調節器、好適には比例積分調節器3と、スイッチ2と、開回路状態検出器6とをさらに備える。
【0042】
スイッチ2は開回路状態検出器6からの信号により駆動される。なお、この開回路状態検出器6はローパスフィルタ6aと比較器6bとを備える。開回路電圧閾値Uo.c.は、この値を越えると開回路状態のみが可能となる閾値レベルである。電流調節器3はスイッチ2に接続された入力3aを有する。スイッチ2は開回路状態が開回路状態検出器6により検知されると開かれる。その結果、比例積分調節器への入力電圧はゼロに設定される。なお、この入力電圧は調節誤差に対応する。
【0043】
したがって比例積分調節器3は開回路状態の間における電極と母材との電圧が適正であると想定する。比例積分調節器への入力信号が開回路状態の間において抑制されると、比例積分調節器は、比例積分調節器の現在状態に保持され、内部電荷も、比例積分調節器からの出力電流Iregも、変化されない。このように、電圧調節フィードバックループは、非アーク位相の間において増加されたフィードバック電圧を考慮に入れないことになる。
【0044】
電源装置5に対して基準電流信号Irefを提供する加算ノード4において、比例積分調節器3からの信号がランプ波発生器11からの信号に加えられる。
【0045】
短絡の状態は短絡検出器7により検出される。なお、この短絡検出器7はローパスフィルタ8と比較器10とを備える。検出された電圧Uarcが閾値Uthより低いとき(低いか否かは基準電流に依存し得る)、ランプ波発生器が接続されて電流ランプが生成される。
【0046】
比較器10の閾値は電流に依存し得る。電流基準Irefに比例する信号とゼロ電流閾値電圧Us.c.oとを加えることにより、閾値信号が加算ノード9において作られる。短絡検出器が短絡状態を検出すると、ランプ波発生器11は、所定のアップスロープおよびダウンスロープを有する追加的なランプ波電流Irampを生成する。
【0047】
図3は短絡アーク溶接のためのアーク溶接装置20を概略的に示す。短絡アーク溶接システム20は、電源21と、溶接制御システム22と、ワイヤリール23と、ワイヤ供給モータ24と、シールドガス供給源25と、溶接トーチ26とを備える。この図面に示すシステムは、溶接母材27上で溶接動作を実行するよう設定されたものである。
【0048】
本発明に係る溶接電流を制御するためのシステム28は、溶接動作中の溶接電流を制御するために電源に接続される。溶接電流を制御するためのシステム28が電源21の筐体に一体化されていると好都合である。
【0049】
電源の出力電圧と溶接電流とが、図2で説明した回路により制御され得る。1本の電源からの電源ケーブル29aが母材27に接続され、他方の電源ケーブル29bが、所望により溶接制御システム22を介して、溶接トーチ26の電極32に接続される。
【0050】
シールドガス供給源25はチューブシステムにより溶接トーチ2に接続される。ガスの量は溶接制御システム22を介して調節され得る。
【0051】
さらに冷却経路が溶接トーチに存在してもよい。冷却液体流入口および流出口経路30および31が溶接トーチの冷却経路に接続されてもよい。
【0052】
ワイヤ供給モータ24は、溶接動作中、溶接電極の供給を制御する。
図1
図2
図3