特許第5767711号(P5767711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5767711空調装置用の膨張弁の制御システム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767711
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】空調装置用の膨張弁の制御システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/02 20060101AFI20150730BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   F24F11/02 102F
   F25B1/00 304A
【請求項の数】20
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-531917(P2013-531917)
(86)(22)【出願日】2011年9月30日
(65)【公表番号】特表2013-542395(P2013-542395A)
(43)【公表日】2013年11月21日
(86)【国際出願番号】US2011054246
(87)【国際公開番号】WO2012044943
(87)【国際公開日】20120405
【審査請求日】2013年4月3日
(31)【優先権主張番号】12/895,536
(32)【優先日】2010年9月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504398465
【氏名又は名称】トレイン・インターナショナル・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マーサー、ケビン・ビー
(72)【発明者】
【氏名】エデンズ、ジョン・アール
(72)【発明者】
【氏名】ダグラス、ジョナサン・デイビッド
【審査官】 河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−241595(JP,A)
【文献】 特開2010−101558(JP,A)
【文献】 特開2010−091209(JP,A)
【文献】 特開2006−258393(JP,A)
【文献】 特開2008−292073(JP,A)
【文献】 特開2008−190758(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0158764(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0188265(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0031740(US,A1)
【文献】 特開2008−249202(JP,A)
【文献】 米国特許第05303562(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0062207(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/02
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HVACシステムのHVACシステム効率評価のサイクル損失係数を低減させる方法であって、
前記HVACシステムの電子膨張弁の記録されている電子膨張弁位置を用いて前記HVACシステムを動作させるステップと、
前記HVACシステムの動作を停止させるステップと、
前記膨張弁を通過する冷媒の質量流量を前記記録されている電子膨張弁位置での質量流量と比較して増加させることができる電子膨張弁位置を用いて前記HVACシステムの動作を再開させるステップと、
前記HVACシステムを、前記記録されている電子膨張弁位置及び測定された過熱に基づいて動作させる前に、前記HVACシステムを、(1)測定された気化温度及び(2)測定された熱の少なくとも一方及び前記記録されている電子膨張弁位置の関数として動作させるステップとを含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記膨張弁を通過する冷媒の質量流量を増加させることができる電子膨張弁位置を用いて前記HVACシステムを動作させる前記ステップが、前記HVACシステムのコンプレッサを少なくとも部分的にフラッディングさせることを含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、
前記フラッディングを約5分間またはそれ以下の期間で発生させるようにしたことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法であって、
前記HVACシステムの前記電子膨張弁の記録されている電子膨張弁位置を用いて前記HVACシステムを動作させるとともに、前記HVACシステムを記録されている気化温度で動作させることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
前記膨張弁を通過する冷媒の質量流量を前記記録されている電子膨張弁位置での質量流量と比較して増加させることができる電子膨張弁位置を用いて前記HVACシステムの動作を再開させる前記ステップの後に、前記HVACシステムの動作の再開後に前記測定された気化温度に応答して前記電子膨張弁を動作させるステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、
前記測定された気化温度に従って前記電子膨張弁を動作させるとともに、前記HVACシステムの動作の再開後に前記測定された過熱に応答して前記電子膨張弁を動作させるステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法であって、
前記測定された気化温度に従って前記電子膨張弁を動作させた後に、前記HVACシステムの動作の再開後に前記測定された過熱に応答して前記電子膨張弁を動作させるステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、
前記膨張弁を通過する冷媒の質量流量を前記記録されている電子膨張弁位置での質量流量と比較して増加させることができる電子膨張弁位置が、前記記録されている電子膨張弁位置に対して最大で約500%の位置であることを特徴とする方法。
【請求項9】
HVACシステムの電子膨張弁の位置を制御する方法であって、
前記HVACシステムの動作の再開時に、前記電子膨張弁を、以前に記録された電子膨張弁の位置に対する割合に従って動作させるステップと、
前記HVACシステムを、前記記録されている電子膨張弁位置及び測定された過熱に基づいて動作させる前に、前記HVACシステムを、(1)測定された気化温度及び(2)測定された熱の少なくとも一方及び前記記録されている電子膨張弁位置の関数として動作させるステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
前記割合が、100%よりも大きいかまたは小さいことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法であって、
前記割合が、前記HVACシステムのコンプレッサを少なくとも部分的にフラッディングさせるように選択されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、
前記電子膨張弁を動作させて前記コンプレッサをフラッディングさせる期間が前記コンプレッサに損傷を与える可能性のある期間を下回るように制限すべく、前記電子膨張弁を制御するようにしたことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項9に記載の方法であって、
前記電子膨張弁を以前に記録された電子膨張弁の位置に対する割合に従って動作させる前記ステップが、以前に記録された気化温度、以前に記録されたガス温度、及び以前に記録された過熱のうちの少なくとも1つを考慮せずに行うようにしたことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項9に記載の方法であって、
前記電子膨張弁を以前に記録された電子膨張弁の位置に対する割合に従って動作させる前記ステップが、以前に記録された気化温度、及び以前に記録された過熱を考慮せずに行うようにしたことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項9に記載の方法であって、
前記電子膨張弁を動作させる前に、前記割合を、以前に記録された気化温度、以前に記録されたガス温度、及び以前に記録された過熱のうちの少なくとも1つに応答して経時的に変更するようにしたことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、
前記割合の増加率を、前記HVACシステムを定常状態動作に近づけるのに要する時間に影響を与える前記HVACシステムの設計特性に応じて選択するようにしたことを特徴とする方法。
【請求項17】
住宅用のHVACシステムであって、
電子膨張弁と、
前記電子膨張弁の位置を制御するように構成された制御装置とを含み、
前記制御装置が、実質的な定常状態での動作から停止させた後の前記HVACシステムの動作再開に応答して、前記HVACシステムのコンプレッサをフラッディングさせるべく前記電子膨張弁を制御し、かつ前記HVACシステムを、前記記録されている電子膨張弁位置及び測定された過熱に基づいて動作させる前に、前記HVACシステムを、(1)測定された気化温度及び(2)測定された熱の少なくとも一方及び前記記録されている電子膨張弁位置の関数として動作させるように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項18】
請求項17に記載の住宅用のHVACシステムであって、
前記制御装置が、コンプレッサに損傷を与える前に前記コンプレッサのフラッディングを減少させるようにさらに構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項19】
請求項18に記載の住宅用のHVACシステムであって、
前記制御装置が、前記測定された気化温度に応答して前記電子膨張弁の位置を制御するようにさらに構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項20】
請求項19に記載の住宅用のHVACシステムであって、
前記制御装置が、測定されたガス温度及び測定された過熱の少なくとも1つに応答して前記電子膨張弁の位置を制御するようにさらに構成されていることを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調節装置用の膨張弁の制御システム及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかの暖房、換気及び空気調節システム(HVACシステム)は、熱機械的な熱膨張弁(TXV)を含んでおり、TXVは、該TXVの温度検知バルブで検知された温度に応答して、該TXVを通過する冷媒の量を調節する。TXVの温度検知バルブは一般的に、蒸発コイルの出口付近に位置するコンプレッサの吸引ライン上に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0031740A1号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のいくつかの実施形態では、HVACシステムの効率評価のサイクル損失係数を低減させる方法を提供する。本発明の方法は、前記HVACシステムの電子膨張弁の記録されている電子膨張弁位置を用いて前記HVACシステムを動作させるステップと、前記HVACシステムの動作を停止させるステップと、前記膨張弁を通過する冷媒の質量流量を前記記録されている電子膨張弁位置での質量流量と比較して増加させることができる電子膨張弁位置を用いて前記HVACシステムの動作を再開させるステップとを含む。
【0005】
本発明の別の実施形態では、HVACシステムの電子膨張弁の位置を制御する方法が提供される。この方法は、HVACシステムの動作の再開時に、電子膨張弁を、以前に記録された電子膨張弁の位置に対する割合に従って動作させるステップを含む。
【0006】
本発明のさらなる実施形態では、電子膨張弁と、前記電子膨張弁の位置を制御するように構成された制御装置とを含む住宅用HVACシステムが提供される。前記制御装置は、実質的な定常状態での動作から停止させた後のHVACシステムの動作再開に応答して、HVACシステムのコンプレッサをフラッディングさせるべく電子膨張弁を制御するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本発明及びその利点をより良く理解するために、添付図面及び詳細な説明とともに、以下に簡単に説明する。ここで、同様の参照番号は同様の構成要素を示す。
【0008】
図1】本発明による、冷房機能を提供するように構成されたHVACシステムの簡易概略図である。
図2】本発明による、暖房機能を提供するように構成されたHVACシステムの簡易概略図である。
図3】EEVを制御するためのサイクル動作方法を示す簡略化された動作フローチャートである。
図4】EEVのサイクル動作プロファイルの表である。
図5】EEVの別のサイクル動作プロファイルの表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
いくつかのHVACシステムでは、TXVは、HVACシステムの定常動作中に測定される性能効率が許容範囲内となるように、冷媒の流れの制御を提供する。しかし、TXVを有する同じHVACシステムは、HVACシステム動作サイクル効率がHVACシステム効率を求めるための一因子として用いられる試験中に効率期待値を満たさないおそれがある。いくつかの実施形態では、TXVを有するHVACシステムが効率期待値を満たさないことは、少なくとも一部には、不一致(inconsistent)及び/または予測不可能(unpredictable)条件に従ったTXV動作の結果であり得る。したがって、TXVの予測不可能な性能は、HVACシステムの予告不可能な動作につながり、その結果、HVACシステムの動作効率及び/または効率評価の予測が困難なものとなる。HVACシステムの実際の及び/または実験的な効率を高めるために、HVACシステムのサイクル動作中に、膨張弁を予測可能な態様で制御するためのシステム及び方法が求められている。
【0010】
いくつかのHVACシステムは、動作試験を行い、その動作試験の結果に基づいて効率評価を与えることができる。いくつかのHVACシステムでは、定常状態動作中だけでなく、サイクル動作(cyclical operation)中も、予測可能な態様で機能することが望ましい。TXVは本質的に、該TVXの温度検出バルブで検出された温度に従って動作するので、TXVを有するいくつかのHVACシステムは、サイクル動作中に望ましい予測可能性を提供することができない。いくつかの場合では、不一致環境においては、TXVの温度検出バルブで検出された温度は、HVACシステムの動作の様々なランダム因子の関数となる。言い換えれば、TXVを有するHVACシステムのサイクル動作中は、TXVは、第1のセットの動作環境下では冷媒流を第1の態様で制限するが、同じHVACシステムの同じTXVは、第2のセットの動作環境下では冷媒流を第2の態様で制限する。そのため、初期動作環境に関わらず、HVACシステムのサイクル動作中に、より効率的な及び/またはより予想可能なHVACシステム動作を提供する膨張弁を有するHVACシステムが求められている。いくつかの実施形態では、本発明は、好適なCD値(CDは、季節エネルギー効率比(SEER)の計算に用いられる、一般に知られているサイクル損失係数である)及び高いHVACシステムサイクル効率を確実にするために、EEVの所定の態様の動作を定める「EEVサイクリングプロファイル(EEV cycling profile)」を提供する。
【0011】
いくつかのHVACシステムは、該システムのより効率的な及び/またはより予測可能な動作を提供するために、電子膨張弁(EEV)及び/またはモータ制御式膨張弁を備えている。例えば、参照によりその全体が本明細書に援用される特許文献1には、電子膨張弁36、36a、36bを有するHVACシステム10、50、70(図1図2図3)が開示されている。特許文献1には、HVACシステム10、50、70の構成要素及び構造が詳細に開示されており、電子膨張弁36、36a、36bの制御方法がさらに開示されている。具体的には、電子膨張弁36、36a、36bの動作及び制御は、電子膨張弁36、36a、36b(以降、まとめてEEVと呼ぶ)を制御する様々な段階及び方法を含んでおり、段落番号[0037]−[0040]、図5及び7に記載されている。
【0012】
特許文献1には、EEVは、HVACシステムの起動時に予め定められた弁運動プロファイルに従って所定の期間に渡って制御され(図5のステップ98を参照)、その後、HVACシステムの通常動作中は、フィードバック制御モードに従って制御される(図5のステップ100を参照)ことが記載されている。特許文献1の図7には、時間(秒)と、EEVの位置(EEVの初期開始位置に対する開放の割合)との値の表が示されている。したがって、特許文献1には、EEVが、HVACシステムの起動時に予め定められた弁運動プロファイルに従って所定の期間に渡って制御され、その後、EEVの位置を制御するために、フィードバックに基づく制御アルゴリズムが段階的に経時的に行われ、それにより、予め定められた弁運動プロファイルの影響を段階的に取り除くことが記載されている。特許文献1は、EEV(36、36a、36b)を制御及び/または実行するシステム及び方法を提供する。
【0013】
図1を参照して、本発明の一実施形態によるHVACシステム100の簡易概略図が示されている。最も一般的には、HVACシステム100は、冷房機能を提供するように構成されており、室外ユニット102及び室内ユニット104を含む。室外ユニット102は、冷媒を選択的に高圧に圧縮するコンプレッサ106を含む。圧縮された冷媒はその後、室外熱交換器108を経由して、室内ユニット104のEEV110へ送られる。冷媒は、EEV110を通過し、室内熱交換器112へ流れる。いくつかの実施形態では、上述した冷媒の流れは、HVACシステム100の冷房機能に貢献することができる。EEV110は、HVACシステム100の制御装置114によって制御することができる。
【0014】
図2を参照して、本発明の一実施形態によるHVACシステム200の簡易概略図が示されている。最も一般的には、HVACシステム200は、暖房機能を提供するように構成されており、室外ユニット202及び室内ユニット204を含む。室外ユニット202は、冷媒を選択的に高圧に圧縮するコンプレッサ206を含む。圧縮された冷媒はその後、室内熱交換器212を経由して、室外ユニット202のEEV210へ送られる。冷媒は、EEV210を通過し、室外熱交換器208へ流れる。いくつかの実施形態では、上述した冷媒の流れは、HVACシステム200の暖房機能に貢献することができる。EEV210は、HVACシステム200の制御装置214によって制御することができる。
【0015】
図3を参照して、簡略化された動作フローチャートは、より高いHVACシステムサイクル動作効率を達成するための、EEV(例えば、これに限定しないが、特許文献1のHVACシステム10、50、70(図1、2、3)の電子膨張弁36、36a、36b)の制御方法を示している。最も一般的には、EEVは、サイクル動作方法1000に従って制御することができる。方法1000は、HVACシステムが、(特許文献1において概略的に定義されたような)定常状態動作に達するため及び「前回の良好な(last good)EEV位置」及び「前回の良好な気化温度(ET)」値を記録するために十分に動作させた後に、動作を再開したときに、ステップ1002で開始される。最も一般的には、「良好な(good)」EEV値及び「良好な」ET値は、実質的な定常状態におけるHVACシステムの動作中に記録された位置及び値である。いくつかの実施形態では、前回の良好なEEV位置は、HVACシステムの実質的な定常状態での動作中に記録された、前回記録されたEEV位置であり得る。同様に、いくつかの実施形態では、前回の良好なET値は、HVACシステムの実質的な定常状態での動作中に記録された、前回記録されたET値であり得る。さらなる別の実施形態では、方法1000は、HVACシステムの動作状態が定常状態または実質的な定常状態であるかどうかに関わらず、「前回記録されたEEV位置」及び「前回記録されたET値」を単純に記録してもよい。さらに、前回記録されたEEV位置及び前回記録されたET値は、いくつかの場合では、「良好な」値で有り得、別の場合では、単純に前回記録された値であり得る。サイクル動作方法1000は、ステップ1002から、ステップ1004のフェーズI動作へ進む。
【0016】
フェーズI動作は一般的に、前回記録されたEEV位置に或る係数を乗算して、EEVの位置を制御することを含む。多くの実施形態では、前記乗算により得られた、前回記録されたEEV位置よりも開度が大きい開位置まで、EEVを開放する。例えば、いくつかの実施形態では、フェーズIは、前回記録されたEEV位置に重み因子(例えば、これに限定しないが、1.3)を乗算することを含むことができ、前回記録されたEEV位置を100として、EEVの初期開位置を130にすることにより、EEVを通過する冷媒の質量流量を、前回記録されたEEV位置での質量流量と比較して増加させることを可能にする。別の実施形態では、フェーズIに従ったEEVの制御中の或る時点において、前回記録されたEEV位置を、約1.0〜5.0の範囲の重み因子で乗算する。1.0よりも大きい重み因子を乗算することにより、液体冷媒によるコンプレッサへの様々な度合のフラッディング(flooding)を引き起こすことができることを理解されたい(他の全ての動作変数が実質的に一定に保たれる場合)。この状態は、コンプレッサに流入する液体冷媒に起因してコンプレッサが損傷する可能性を防ぐために、約5分間またはそれ以下の発生時間に限定される。冷媒ガス温度(GT)は、飽和液体温度または気化温度(ET)と実質的に同じ値なので、コンプレッサへのフラッディングは、一般的に、コンプレッサに液体冷媒が流入する状態と定義される。ガス温度(GT)と、飽和液体温度または気化温度(ET)との差は、過熱(superheat:SH)と呼ばれる(すなわち、SH=GT−ET)。いくつかの実施形態では、冷媒によるコンプレッサへのフラッディングは、より高いサイクル動作効率及び/または低減されたCD値を提供する。いくつかの実施形態では、起動時にEEVを通過する冷媒の質量流量を増加させると伝熱率及び関連する吸引圧力を増加させることができ、それにより、HVACシステムを定常状態動作に近づけるために十分に長く動作させる前に、サイクル損失を低減させることができる。
【0017】
別の実施形態では、フェーズI動作(定常状態に実質的に到達する前はHVACシステムの動作は中断しない)中の或る時点でEEVが前回記録されたEEV位置よりも開度が大きい位置まで開く限りは、フェーズI動作は、EEVを、前回記録されたEEV位置よりも開度が小さい、等しい及び/または大きい位置まで開く任意の組み合わせを含むことができる。フェーズI動作の別の必要条件は、フェーズI動作の或る時点で、EEVが、電流及び/または前回記録された気化温度(ET)、及び/または電流及び/または前回記録されたガス温度(GT)、及び/または電流及び/または前回記録された過熱値(SH)と実質的に関係なく制御されることである。フェーズI動作後、方法1000は、ステップ1006において第2段階の動作を続ける。
【0018】
フェーズIIの動作は、一般的に、測定されたETを、EEVの位置を制御する因子として組み入れて使用することを含む。最も一般的には、測定されたETを前回の良好なETと比較し、そして、ET重み因子を乗算する。いくつかの実施形態では、フェーズII動作が一般的に開始される時点は、特定のHVACシステムのET値が比較的信頼できるようになる実験的に求めた時間、及び/またはHVACシステムの動作状態の安定指標(stable indicator)と関連する。いくつかの実施形態では、フェーズIIは、前回の良好なETに、0〜約2.0の重み因子を乗算することを含む。フェーズIIにおいて前回の良好なETに様々な重み因子を乗算することができるが、フェーズIIに従ったEEVの制御中の或る時点において(定常状態に実質的に到達する前はHVACシステムの動作は中断しない)、前回記録されたETに或る正または負の重み因子を乗算しなければならない。フェーズII動作は、方法1000がステップ1008のフェーズIIIへ進むまで続く。
【0019】
最も一般的には、フェーズIII動作は、測定されたET及び測定されたGTを、EEVの位置を制御する因子として組み入れて使用することを含む。いくつかの実施形態では、測定されたGTを測定されたETから減算することにより、測定されたSHを求める。最も一般的には、測定されたSHを、前回記録されたSHと比較し、そして、SH重み因子を乗算する。加えて、測定されたSHを、SH設定値と比較し、そして、SH重み因子を乗算する。いくつかの実施形態では、フェーズIII動作が一般的に開始される時点は、特定のHVACシステムのGT値(及びその結果としてSH値)が比較的信頼できるようになる実験的に求めた時間、及び/またはHVACシステムの動作状態の安定指標と関連する。いくつかの実施形態では、フェーズIIIは、前回記録されたSHに、0〜約1.0の重み因子を乗算することを含む。フェーズIIIにおいて前回記録されたSHに様々な重み因子を乗算することができるが、フェーズIIIに従ったEEVの制御中の或る時点において(定常状態に実質的に到達する前はHVACシステムの動作は中断しない)、前回記録されたSHに或る正または負の重み因子を乗算しなければならない。フェーズIIIの動作は、方法1000がステップ1010へ進み終了するまで続く。いくつかの実施形態では、フェーズIII動作は、HVACシステムが、空間を要求温度に調節する要求を満たしたとき(すなわち、サーモスタットにより要求された温度を満たしたとき)に終了する。いくつかの実施形態では、フェーズIII動作は、SHフィードバック制御が完全制御モード(特許文献1に示したような)であり、方法1000が排除されたときに終了する。方法1000は、空間の温度が、要求される温度から十分に逸脱したときに、HVACシステムを再びサイクルオンにするために再開することができる。
【0020】
図4を参照すると、サイクル動作プロファイルの一例が示されている。図4は、制御装置(例えば、これに限定しないが、制御装置114及び214)によってサイクルがONであると判断されてからの時間を示す列と、前回記録されたEEV位置を乗算するのに用いられるEEV位置重み因子の列と、ET重み因子の列と、SH重み因子の列とを含む表である。図4のサイクル動作プロファイルは、時間0〜20のときに、EEV位置が、前回記録されたEEV位置の130%となるように制御されることを示す。次に、図4は、時間20〜100のときに、EEV位置が、前回記録されたEEV位置の130%から前回記録されたEEV位置の100%まで徐々に変更されるように制御される。時間0〜100のときの動作は、ET及びSHを無視しているので(0.0の重み因子が関連付けられている)、フェーズ1動作と見なすことができる。
【0021】
次に、図4は、時間100〜130のときに、EEV位置重み因子を1.0に保つとともに、ET重み因子を0〜0.5へ徐々に増加させる。このように、時間100〜130のときは、測定されたETにより、重み因子0.5まで、EEVの位置に漸増的に影響を与える。この期間中は、SH重み因子は0に保つ。いくつかの実施形態では、EEVの位置の設定に、測定されたETを用いるが、測定されたGT及び/または測定されたSHは用いないので、時間100〜130の期間はフェーズII動作と呼ばれる。
【0022】
次に、図4は、時間130〜150のときに、EEV位置重み因子を1.0に保つとともに、ET重み因子を0.5から1.0へ徐々に増加させ、かつ、SH重み因子を0から1.0へ徐々に増加させることを示す。このように、時間130〜150のときは、測定されたETにより、重み因子1.0まで、EEV位置に漸増的に影響を与え、かつ、測定されたSHにより、重み因子1.0まで、EEV位置に漸増的に影響を与える。いくつかの実施形態では、EEV位置の設定に、測定されたGT及び/または測定されたSHに加えて、測定されたETが用いられるので、時間130〜150の期間はフェーズIII動作と呼ばれ、時間150でトータルフィードバック制御に到達する。
【0023】
いくつかの実施形態では、トータルフィードバック制御を達成する(EEV位置、ET、SHの重み因子が各々1.0となる)のに要する時間は、各々について、最大で約5分間またはそれ以上である。さらに、EEV位置重み因子の割合の1または複数を減少または増加させるときの割合、ET重み因子を減少または増加させるときの割合、SH重み因子を減少または増加させるときの割合は、一般的に、実質的に類似するHVACシステムのトン数(tonnage)が変更されたとき、または、定常状態に近づけるまたは到達するのに必要とされる時間に影響を与える任意の他のHVACシステム設計因子が変更されたときに、増加または減少させることができることに留意されたい。言い換えれば、トン数及び/またはキャパシティが互いに異なるHVACシステムでは、冷媒回路を介して循環される冷媒の流量が互いに異なる傾向があるため、そのような互いに異なるHVACシステムでは、定常状態及び/または略定常状態動作に到達するまでの時間が比較的異なる傾向にある。
【0024】
図5を参照すると、サイクル動作プロファイルの別の例が示されている。図5は、制御装置(例えば、これに限定しないが、制御装置114及び214)によってサイクルがONであると判断されてからの時間を示す列と、前回記録されたEEV位置を乗算に用いられるEEV位置の重み因子の列と、ET重み因子の列と、SH重み因子の列とを含む表である。図5のサイクル動作プロファイルは、時間0〜60のときに、EEEが、EEV位置が前回記録されたEEV位置の110%から、前回記録されたEEV位置の105%となるように徐々に変更されるように制御されることを示す。時間0〜60のときの動作は、ET及びSHが無視されているので(0.0の重み因子が関連付けられている)、フェーズ1動作と見なすことができる。
【0025】
次に、図5は、時間60〜90のときに、EEV位置重み因子を、前回記録したEEV位置の105%から100%へ徐々に変更し、かつ、ET重み因子を0から0.5へ徐々に変更する。このように、時間60〜90のときは、測定されたETにより、重み因子0.5まで、EEV位置に漸増的に影響を与える。この期間中は、SH重み因子も、0から0.5へ徐々に変更する。このように、時間60〜90の期間では、測定されたSHは、0.5の重み因子まで、EEV位置に漸増的に影響を与える。この実施形態では、測定されたGT及び/または測定されたSHを除外するために、測定されたETはEEVの位置を設定するのに用いないので、時間60〜90の期間は、フェーズIII動作の一部と呼ぶことができる。別の言い方をすれば、測定されたET及び測定されたSHが、フェーズI動作の後に同時にかつ即座に用いられるので、図5のサイクル動作プロファイルは、フェーズII動作を含まない。時間90〜105の期間は、EEV位置重み因子は変更しないが、ET及びSHの各重み因子を、0.5から1.0へ徐々に増加させる。時間90〜105の期間はフェーズIII動作と呼ばれ、時間105でトータルフィードバック制御に到達する。
【0026】
例えば図4及び図5で提供された時間値及び様々な重み因子は、HVACシステムの実際の動作を通じて及び/またはHVACシステムのシミュレートされた動作を通じて実験的に求めることができることを理解されたい。いくつかの実施形態では、HVACシステムの定常状態は、まずは、HVACシステムを連続的に少なくとも約60分間動作させることにより得られ、その後は、HVACシステムの動作を単純に継続することによって性能のさらなる大幅な向上が得られないと想定される。HVACシステムを定常状態で動作させている間に、EEV位置、ET値、GT値、及びSH値を記録する。その後、HVACシステムを停止し、周囲環境に長時間曝すことにより、ET値、GT値、SH値、並びに他のHVACシステムの温度及び圧力が実質的に等しくされた動作前の状態に戻す。その後、HVACシステムを再スタートし、EEV位置、ET値、GT値、及びSH値をモニタし、どの経過時間で定常状態動作が最初に達成されるか(すなわち、EEV位置、ET値、GT値、及びSH値の各々が、以前に測定された定常状態値に到達するとき)を求める。一部の例では、ET値は、GT値及び/またはSH値より先に、許容可能値に達する。したがって、正確な定常状態ET値に合理的に関連するET重み因子について実験的に求めた時間は、ET値を、EEV位置の制御因子として重み付けするのを開始する時間として用いることができる。同様に、定常状態GT値及び/または定常状態SH値に合理的に関連するGT値及び/またはSH重み因子について実験的に求めた時間は、GT値及び/または定常状態SH値を、EEV位置の制御因子として重み付けするのを開始する時間として用いることができる。さらに、いくつかの実施形態では、EEV位置に割り当てられる重みは、一部には、定常状態動作中の正確なEEV位置の実験的な決定、及び/または、定常状態動作点を上回る及び下回ることのなくHVACシステムの正確な動作吸引圧力を実現することに基づく。起動時に定常状態吸引圧力に徐々に近づけ、かつ定常状態吸引圧力を下回らないようにすることにより、サイクル効率を高めることができる。
【0027】
上述したEEV制御システム及び方法は、低減したCD値に起因してHVACシステムがより効率的に動作することができる及び/またはより高い効率評価を受けることができるように、HVACシステムの一致したサイクル動作を提供することができる。さらに、上述した一致した動作は、上述した方法及び/またはアルゴリズムを用いて決定することができ、EEV機能及び/または動作を制御するソフトウェアを通じて実施することができる。そしてさらに、いくつかの実施形態では、上述したシステム及び方法は、「前回記録した値(last recorded values)」以外にも、「以前に記録した値(previously recorded values)」または「記録された値(recorded values)」を用いることもできる。言い換えれば、いくつかの実施形態では、各種の位置及び/または値の記録時間において厳密には最後に記録したものではない、記録されたEEV位置、記録されたET値、記録されたGT値、及び記録されたSH値を、本明細書で説明したシステム及び方法に用いることができる。
【0028】
少なくとも1つの実施形態を開示したが、当業者によりなされる前記実施形態及び/または前記実施形態の構成要素の変形例、組み合わせ、及び/または変更例も本開示の範囲に含まれるものとする。前記実施形態の構成要素の結合、統合及び/または省略により得られる別の実施形態も、本開示の範囲に含まれるものとする。数値の範囲または限界が明示的に示されているが、このような明示的範囲または限界は、明示的に示された範囲または限界内に入る同様の大きさの反復範囲または限界を含むものと理解されたい(例えば、約1から約10は、2、3、4などを含み、0.10より大きいとは、0.11、0.12、0.13などを含む)。例えば、下限Rlと上限RUとを有する数値範囲が示されている場合、その範囲内に入る任意の数字が具体的に記載される。特に、前記範囲内の以下の数字が具体的に記載される。R=Rl+k(Ru−Rl)ただし、kは、1パーセントから100パーセントまでの可変範囲である。すなわち、kは、1パーセント、2パーセント、3パーセント、4パーセント、5パーセント、…50パーセント、51パーセント、52パーセント、…95パーセント、96パーセント、97パーセント、98パーセント、99パーセント、または100パーセントである。さらに、上記に定義されたような2つの数字Rによって定義される任意の数値範囲も具体的に開示される。特許請求の範囲の任意の要素に関して「任意選択」という用語を使用することは、主題の要素が必要とされるか、または必要とされないことを意味する。両方の選択肢が特許請求の範囲に入るものとする。備える、含む、有するなどの広義の用語の使用は、〜からなる、本質的に〜からなる、実質的に〜からなるなどの狭義の用語についてのサポートを提供すると理解するべきである。したがって、保護の範囲は、上記の記載によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定され、その範囲は、特許請求の範囲の構成要件の全ての等価物を含む。各請求項及び全請求項は、さらなる態様として本明細書中に組み込まれ、その請求項は、本発明の一実施形態である。
図1
図2
図3
図4
図5