(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2のPWM信号生成手段は、前記各相の補正後指令値信号の差分信号から、1周期の波形が、1/3周期の期間でゼロとなり、続く1/3周期の期間で位相が0から2π/3の区間の正弦波の波形となり、残りの1/3周期の期間で前記正弦波の位相がπ/3からπの区間の波形となる第1のNVS指令値信号と、この第1のNVS指令値信号に対して位相が2π/3だけ進んだ第2のNVS指令値信号と、前記第1のNVS指令値信号に対して位相が2π/3だけ遅れた第3のNVS指令値信号とを生成し、当該各NVS指令値信号と下限値がゼロとなるキャリア信号とに基づいて前記第2のPWM信号を生成する、請求項1ないし4のいずれかに記載のインバータ制御回路。
前記第2のPWM信号生成手段は、各相のNVS指令値信号を、1/3周期の期間をゼロとし、続く1/3周期の期間を当該相の補正後指令値信号から当該相より相順が一つ前の補正後指令値信号を差し引いて得られる差分信号とし、残りの1/3周期の期間を当該相の補正後指令値信号から当該相より相順が一つ後の補正後指令値信号を差し引いて得られる差分信号として生成する、請求項5に記載のインバータ制御回路。
前記不平衡検出手段は、前記三相電力系統のいずれかの相の電圧信号の電圧実効値と他の相の電圧信号の電圧実効値との差が所定の値以上の場合、または、前記三相電力系統のいずれかの相の電圧信号の位相と三相平衡時の位相との位相差が所定の位相差以上の場合に、前記不平衡状態であることを検出する、請求項1ないし7のいずれかに記載のインバータ制御回路。
前記不平衡検出手段は、前記各相の電圧信号から回転座標系のベクトル成分であるq軸成分とd軸成分とを抽出し、前記q軸成分が所定の値以上の場合、または、前記d軸成分が所定の値以上の場合に、前記不平衡状態であることを検出する、請求項1ないし7のいずれかに記載のインバータ制御回路。
コンピュータを、直流電力を交流電力に変換して三相電力系統に出力するインバータ回路をPWM制御するためのインバータ制御回路として機能させるためのプログラムであって、
前記コンピュータを、
電圧検出手段によって検出される前記三相電力系統の各相の電圧信号のそれぞれから、前記インバータ回路より出力すべき各相の電圧を指令するための各相の指令値信号を生成する指令値信号生成手段と、
所定の測定手段によって測定される前記インバータ回路の入出力に関する測定値を所定の目標値に制御するための各相の補正値信号を生成する補正値信号生成手段と、
前記各相の指令値信号をそれぞれ対応する相の前記補正値信号に基づいて補正して、各相の補正後指令値信号を出力する指令値信号補正手段と、
前記各相の補正後指令値信号に基づいて、前記インバータ回路をPWM制御するための各相の第1のPWM信号を生成する第1のPWM信号生成手段と、
前記各相の補正後指令値信号の差分信号に基づいて生成される、1/3周期の期間でゼロになる各相のNVS指令値信号に基づいて、各相の第2のPWM信号を生成する第2のPWM信号生成手段と、
前記三相電力系統の各相の電圧信号が不平衡状態であることを検出する不平衡検出手段と、
前記不平衡検出手段によって前記不平衡状態であることが検出されている場合は前記第1のPWM信号を前記インバータ回路に出力し、前記不平衡検出手段によって前記不平衡状態であることが検出されていない場合は前記第2のPWM信号を前記インバータ回路に出力する出力手段と、
直流電圧検出手段によって検出される、前記インバータ回路に入力される直流電圧を取得する直流電圧取得手段と、
して機能させ、
前記指令値信号生成手段は、
前記各相の電圧信号の電圧実効値を算出する実効値算出手段と、
前記各相の電圧信号の位相と三相平衡時の位相との位相差を検出する位相差検出手段と、
前記各相の電圧実効値の前記直流電圧に対する比と、前記各相の位相差とから、各相の指令値を算出する指令値算出手段と、
を備え、
前記指令値算出手段によって算出された各相の指令値を前記各相の指令値信号として出力する、
ことを特徴とするプログラム。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光などの自然エネルギーを用いた分散型電源が普及拡大の傾向にある。また、分散型電源によって生成される直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を備え、変換された交流電力を接続された負荷や電力系統に供給する系統連系インバータシステムも開発されている。系統連系インバータシステムには、大きすぎる電流(過電流)が流れることによるインバータ回路の損傷を防ぐために、過電流を検出してインバータ回路を停止させる機能が設けられている。
【0003】
図12は、三相電力系統B(以下、「系統B」と略称する。)に電力を供給するための従来の系統連系インバータシステムA’を説明するためのブロック図である。
【0004】
系統連系インバータシステムA’において、インバータ回路2はインバータ制御回路10’から入力されるPWM信号に基づいて電力変換動作を行う。インバータ制御回路10’は、系統電圧センサ9および電流センサ7からそれぞれ系統電圧信号Vs(Vsu,Vsv,Vsw)および交流電流信号I(Iu,Iv,Iw)を入力されて、以下のように、PWM信号を生成する。すなわち、電流センサ7から入力される交流電流信号Iを回転座標系の各成分に変換する。なお、以下では、当該変換を「dq変換」とし、変換された各成分を「d軸成分」と「q軸成分」とする。dq変換後のd軸成分Id,q軸成分Iqとそれぞれの目標値Id’,Iq’との偏差量を「0」にするための補正値ΔXd,ΔXqを算出する。また、系統電圧センサ9から入力される系統電圧信号Vsもdq変換して、d軸成分Vsd,q軸成分Vsqを算出する。各成分Vsd,Vsqにそれぞれ補正値ΔXd,ΔXqを加算し、静止座標系に逆変換して指令値Xu,Xv,Xwを算出する。なお、以下では、当該逆変換を「逆dq変換」とする。逆dq変換された指令値Xu,Xv,Xwに基づいて、PWM信号を生成する。
【0005】
各dq変換および逆dq変換は、系統電圧センサ9から入力される系統電圧信号Vsから検出されるU相の系統電圧の位相θに基づいて変換を行う。このとき、位相θは、各相の系統電圧信号Vsu,Vsv,Vswが平衡状態(各相の電圧の振幅が共通し、各相の電圧の位相差がそれぞれ2π/3である状態)であること、すなわち、系統Bの各相の電圧が平衡状態であることを前提として検出されている。つまり、系統Bの各相の電圧位相は、系統電圧信号Vsがdq変換されたd軸成分Vsd,q軸成分Vsqに反映されておらず、Vsd,Vsqに基づいて算出される指令値Xu,Xv,Xwにも反映されていない。
【0006】
したがって、系統Bの各相の電圧が不平衡状態になった場合、実際の系統Bの各相の電圧位相が不平衡にもかかわらず、指令値Xu,Xv,Xwは各相の電圧位相が平衡状態で算出される。これにより、インバータ回路2の出力電流の制御精度は悪化し、出力電流のアンバランスが増大する。このとき、過電流が検出されるとインバータ回路2が停止され、系統連系インバータシステムA’が系統Bから解列される。系統Bに対して系統連系インバータシステムA’の規模が大きい場合、系統連系インバータシステムA’が系統Bから解列することにより、さらに系統Bの電圧不平衡状態が拡大したり瞬時電圧低下が発生する場合がある。この場合、系統Bに接続している他の系統連系インバータシステムも一斉に解列する可能性がある。
【0007】
本発明者は、系統Bが不平衡状態になった場合でもインバータ回路2が安定して運転を継続することができるようにPWM信号を生成するインバータ制御回路を発明した。
【0008】
図13は、系統Bが不平衡状態になった場合でもインバータ回路2が安定して運転を継続することができるようにPWM信号を生成するインバータ制御回路を説明するためのブロック図である。
【0009】
同図に示すように、インバータ制御回路10”は、系統指令値生成部12’が生成した系統指令値信号Ku,Kv,Kwと補正値生成部11’が生成した補正値信号ΔXu,ΔXv,ΔXwとを加算部13’で加算し、算出された指令値信号Xu,Xv,Xwに基づいてPWM信号生成部14’でPWM信号を生成するものである。
【0010】
指令値信号Xu,Xv,Xwの基準となる系統指令値信号Ku,Kv,Kwは、系統指令値生成部12’で系統Bの各相の電圧に基づいて相毎に生成される。したがって、系統Bの各相の電圧が不平衡状態となった場合でも、不平衡状態の各相の電圧に応じた各相の指令値信号が生成されるので、インバータ回路2からの出力電圧も系統Bの各相の電圧と同様の不平衡状態となる。これにより、インバータ回路2の出力電流の制御精度は悪化せず、出力電流のアンバランスが増大することを抑制することができるので、過電流が検出されることを抑制することができる。したがって、接続している系統Bが電圧不平衡状態になった場合でも、インバータ回路2が安定して運転を継続することができる。
【0011】
一方、本発明者は、
図12に示す系統連系インバータシステムA'において、インバー
タ回路2に内蔵されているスイッチング素子(図示せず)のオン・オフ動作の回数を削減させることで電力変換のロス(一般に「スイッチングロス」と呼ばれる。)を減少させる発明を行った。当該発明は、三相の中性点電位を1/3周期毎に遷移させて1/3周期ずつ各相の電位をゼロに固定することで、各相のスイッチングを当該ゼロに固定された期間停止させるという制御を行うものである。当該制御方法は中性点電位を遷移させることに特徴があり、以下では、「NVS(Neutral Voltage Shift)制御」という。NVS制御
は、1/3周期がゼロである特殊な波形となる指令値信号(以下では、「NVS指令値信号」という。)を生成し、当該NVS指令値信号に基づいて生成されたPWM信号でインバータ回路2を制御することで行われる。当該PWM信号はNVS指令値信号がゼロである期間でローレベルを継続するので、この期間のスイッチング素子のオン・オフ動作は停止する。したがって、スイッチング素子のオン・オフ動作の回数が2/3に削減されるので、スイッチングロスを低減することができる。
【0012】
図14は、NVS指令値信号を生成して、当該NVS指令値信号に基づいてPWM信号を生成するNVS制御用PWM信号生成部14”の内部構成を説明するためのブロック図である。なお、NVS制御用PWM信号生成部14”は、
図12のPWM信号生成部に相当するものである。
【0013】
NVS制御用PWM信号生成部14”は、線間電圧指令値信号生成部14a”、NVS指令値信号生成部14b”、およびパルス信号生成部14c”を備えている。
【0014】
線間電圧指令値信号生成部14a”は、逆変換部(
図12のインバータ制御回路10'
参照)より入力される指令値信号Xu,Xv,Xwから線間電圧指令値信号Xuv,Xvw,Xwuを生成するものである。系統電圧センサ9は系統Bの各相の相電圧を検出するものなので、逆変換部から入力される指令値信号Xu,Xv,Xwは各相の相電圧を指令するための指令値信号である。線間電圧指令値信号生成部14a”は、各相の相電圧を指令するための指令値信号Xu,Xv,Xwから、線間電圧を指令するための線間電圧指令値信号Xuv,Xvw,Xwuを生成して、NVS指令値信号生成部14b”に出力する。線間電圧指令値信号生成部14a”は、XuとXvの差分信号をXuvとし、XvとXwの差分信号をXvwとし、XwとXuの差分信号をXwuとして生成する。
【0015】
NVS指令値信号生成部14b”は、U相の系統電圧の位相θと線間電圧指令値信号生成部14a”から入力される線間電圧指令値信号Xuv,Xvw,Xwuに基づいて、NVS指令値信号Xu',Xv',Xw'を生成して、パルス信号生成部14c”に出力する
ものである。NVS指令値信号生成部14b”は、1/3周期毎に、線間電圧指令値信号Xuv,Xvw,Xwu、値がゼロであるゼロ信号、および、線間電圧指令値信号Xuv,Xvw,Xwuの極性を反転させた信号Xvu,Xwv,Xuwを切り替えることで、NVS指令値信号Xu',Xv',Xw'を生成する。
【0016】
図15は、NVS指令値信号生成部14b”が生成するNVS指令値信号Xu',Xv',Xw'の波形を説明するための図である。
【0017】
同図(a)に示す波形Xuv,Xvw,Xwuは、それぞれ線間電圧指令値信号Xuv,Xvw,Xwuの波形であり、それぞれ系統電圧のU相、V相、W相の目標とする線間電圧信号の波形と一致する。同図(b)は、NVS指令値信号Xu'の波形を説明するた
めの図である。同図(b)に示す波形Xuvは、線間電圧指令値信号Xuvの波形であり、同図(a)に示す波形Xuvと同じものである。同図(b)に示す波形Xuwは、線間電圧指令値信号Xwuの極性を反転した信号Xuwの波形である。同図(b)に示す波形Xu’は、NVS指令値信号Xu'の波形である。
【0018】
同図(b)に示すように、NVS指令値信号Xu'の波形は、3π/6≦θ≦7π/6
の期間は線間電圧指令値信号Xuvの波形となり、7π/6≦θ≦11π/6の期間はゼロとなり、11π/6≦θ≦15π/6の期間は信号Xuwの波形となる。同様に、NVS指令値信号Xv'の波形は、同図(c)に示すように、3π/6≦θ≦7π/6の期間
はゼロとなり、7π/6≦θ≦11π/6の期間は線間電圧指令値信号Xuvの極性を反転した信号Xvuの波形となり、11π/6≦θ≦15π/6の期間は線間電圧指令値信号Xvwの波形となる。また、NVS指令値信号Xw'の波形は、図示していないが、3
π/6≦θ≦7π/6の期間は線間電圧指令値信号Xvwの極性を反転した信号Xwvの波形となり、7π/6≦θ≦11π/6の期間は線間電圧指令値信号Xwuの波形となり、11π/6≦θ≦15π/6の期間はゼロとなる。
【0019】
パルス信号生成部14c”は、その内部で生成されたキャリア信号(例えば三角波信号)と、NVS指令値信号生成部14b”から入力されるNVS指令値信号Xu',Xv',Xw'とから、それぞれ各相のPWM信号を生成して、インバータ回路2に出力するもの
である。
【0020】
図16は、NVS指令値信号Xu'とキャリア信号とからPWM信号を生成する方法を
説明するための図である。同図においては、NVS指令値信号Xu'を波形X、キャリア
信号を波形C、PWM信号を波形Pで示している。パルス信号生成部14c”は、NVS指令値信号Xu'がキャリア信号より大きい期間にハイレベルとなり、NVS指令値信号
Xu'がキャリア信号以下となる期間にローレベルとなるパルス信号をPWM信号として
生成する。したがって、同図において、波形Xが波形Cより大きい期間に波形Pがハイレベルとなっており、波形Xが波形C以下となる期間に波形Pがローレベルとなっている。なお、NVS指令値信号Xu'の最小値がキャリア信号の最小値に一致するように、キャリア信号は、NVS指令値信号Xu'の0レベル以上の範囲で変化するような下限値がゼ
ロとなる三角波信号として生成されている。なお、キャリア信号は三角波信号に限定されず、例えば下限値がゼロののこぎり波などであってもよい。
【0021】
同図の波形Pが示すように、パルス信号生成部14c”から出力されるPWM信号は、NVS指令値信号Xu'(波形X)がゼロである期間でローレベルを継続するので、この
期間のスイッチング素子のオン・オフ動作は停止する。したがって、スイッチング素子のオン・オフ動作の回数が2/3に削減されるので、スイッチングロスを低減することができる。なお、
図15(d)に示すように、NVS指令値信号Xu'とXv'との差分信号Xuv'は、線間電圧指令値信号Xuv(同図(a)参照)と一致する。したがって、インバー
タ回路2は、線間電圧指令値信号Xuvと同一波形の線間電圧信号を出力することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、
図13に示すインバータ制御回路10”において
図14に示すNVS制御用PWM信号生成部14"を適用した場合、系統Bが不平衡状態になると、インバータ
回路2が安定して運転を継続することができないという問題がある。
【0025】
図17は、
図13に示すインバータ制御回路10”において
図14に示すNVS制御用PWM信号生成部14"を適用した場合の、インバータ回路2の出力線間電圧信号の波形
を説明するための図である。同図においては、W相の相電圧のみが60%低下した不平衡状態の場合を示している。
【0026】
同図(a)は、当該不平衡時の系統電圧の線間電圧(以下、「系統線間電圧」とする。)の波形を示している。W相の相電圧が低下しているので、W相に対するV相の線間電圧とU相に対するW相の線間電圧とが低下している。
【0027】
同図(b)は、NVS指令値信号生成部14b”が生成するNVS指令値信号Xu',
Xv',Xw'の波形を示している。W相の相電圧が低下しており、系統指令値信号Ku,Kv,Kwが系統指令値生成部12’で系統Bの各相の電圧に基づいて相毎に生成されるので、指令値信号Xu,Xv,Xwは不平衡状態となる。NVS指令値信号Xu',Xv',Xw'は、不平衡状態の指令値信号Xu,Xv,Xwの差分信号である線間電圧指令値
信号Xuv,Xvw,Xwuから生成されるので、同図(b)に示すように、歪んだ形状の波形となる。
【0028】
同図(c)は、インバータ回路2から出力される線間電圧信号の波形を示している。同図(b)に示すように、NVS指令値信号Xu',Xv',Xw'は歪んだ形状の波形とな
っており、インバータ回路2から出力される相電圧信号も同じ形状となる。したがって、インバータ回路2から出力される線間電圧信号の波形は、NVS指令値信号Xu',Xv',Xw'の差分信号と同じ形状の波形となり、同図(c)に示す形状の波形となる。
【0029】
同図(a)および(c)に示すように、インバータ回路2から出力される線間電圧信号の波形が系統線間電圧の波形とは著しく異なる形状となり、出力線間電圧と系統線間電圧とで差が発生し、発生した電位差により電流が増大する。増大した電流によって過電流が検出された場合、インバータ回路2は停止させられるので、安定して運転を継続することができない。
【0030】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、接続している三相電力系統が電圧不平衡状態になった場合でもインバータ回路が安定して運転を継続することができ、かつ、スイッチングロスを低減することができるようにPWM信号を生成するインバータ制御回路を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0032】
本発明の第1の側面によって提供されるインバータ制御回路は、直流電力を交流電力に変換して三相電力系統に出力するインバータ回路をPWM制御するためのインバータ制御回路であって、電圧検出手段によって検出される前記三相電力系統の各相の電圧信号のそれぞれから、前記インバータ回路より出力すべき各相の電圧を指令するための各相の指令値信号を生成する指令値信号生成手段と、所定の測定手段によって測定される前記インバータ回路の入出力に関する測定値を所定の目標値に制御するための各相の補正値信号を生成する補正値信号生成手段と、前記各相の指令値信号をそれぞれ対応する相の前記補正値信号に基づいて補正して、各相の補正後指令値信号を出力する指令値信号補正手段と、前記各相の補正後指令値信号に基づいて、前記インバータ回路をPWM制御するための各相の第1のPWM信号を生成する第1のPWM信号生成手段と、前記各相の補正後指令値信号の差分信号に基づいて生成される、1/3周期の期間でゼロになる各相のNVS指令値信号に基づいて、各相の第2のPWM信号を生成する第2のPWM信号生成手段と、前記三相電力系統の各相の電圧信号が不平衡状態であることを検出する不平衡検出手段と、前記不平衡検出手段によって前記不平衡状態であることが検出されている場合は前記第1のPWM信号を前記インバータ回路に出力し、前記不平衡検出手段によって前記不平衡状態であることが検出されていない場合は前記第2のPWM信号を前記インバータ回路に出力する出力手段と
、直流電圧検出手段によって検出される、前記インバータ回路に入力される直流電圧を取得する直流電圧取得手段とを備えており、前記指令値信号生成手段は、前記各相の電圧信号の電圧実効値を算出する実効値算出手段と、前記各相の電圧信号の位相と三相平衡時の位相との位相差を検出する位相差検出手段と、前記各相の電圧実効値の前記直流電圧に対する比と、前記各相の位相差とから、各相の指令値を算出する指令値算出手段とを備え、前記指令値算出手段によって算出された各相の指令値を前記各相の指令値信号として出力することを特徴とする。
【0033】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記指令値信号補正手段は、前記各相の指令値信号にそれぞれ対応する相の前記補正値信号を加算することで補正する。
【0035】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記指令値算出手段は、前記各相の電圧実効値Veu,Vev,Vewと前記各相の位相差φu,φv,φwとから、下記式によって、前記各相の指令値Ku(t),Kv(t),Kw(t)を算出する。なお、ωは前記三相電力系統の角周波数であり、ωtはU相の系統電圧の現在の位相であり、Cmは三相平衡時の指令値信号Ku(t),Kv(t),Kw(t)の振幅であり、Vinは前記インバータ回路に入力される直流電圧であり、Ktは前記インバータ回路の出力電圧を変圧する変圧手段の変圧比である。
【数1】
【0036】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記補正値信号生成手段は、電流検出手段によって検出される前記インバータ回路の各相の出力電流信号を回転座標系の各成分に変換する変換手段と、前記測定値に対する前記目標値からの偏差量に基づいて、フィードバック制御のための第1の補正値を算出する第1の補正値算出手段と、前記各成分のいずれかに対する前記第1の補正値からの偏差量に基づいて、フィードバック制御のための第2の補正値を算出する第2の補正値算出手段と、前記第2の補正値を静止座標系の各相の補正値に逆変換する逆変換手段とを備え、前記各相の補正値を前記各相の補正値信号として出力する。
【0037】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第2のPWM信号生成手段は、前記各相の補正後指令値信号の差分信号から、1周期の波形が、1/3周期の期間でゼロとなり、続く1/3周期の期間で位相が0から2π/3の区間の正弦波の波形となり、残りの1/3周期の期間で前記正弦波の位相がπ/3からπの区間の波形となる第1のNVS指令値信号と、この第1のNVS指令値信号に対して位相が2π/3だけ進んだ第2のNVS指令値信号と、前記第1のNVS指令値信号に対して位相が2π/3だけ遅れた第3のNVS指令値信号とを生成し、当該各NVS指令値信号と下限値がゼロとなるキャリア信号とに基づいて前記第2のPWM信号を生成する。
【0038】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第2のPWM信号生成手段は、各相のNVS指令値信号を、1/3周期の期間をゼロとし、続く1/3周期の期間を当該相の補正後指令値信号から当該相より相順が一つ前の補正後指令値信号を差し引いて得られる差分信号とし、残りの1/3周期の期間を当該相の補正後指令値信号から当該相より相順が一つ後の補正後指令値信号を差し引いて得られる差分信号として生成する。
【0039】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第1のPWM信号生成手段は、前記補正後指令値信号と所定の周波数の第1の三角波信号との比較結果から前記第1のPWM信号を生成し、前記第2のPWM信号生成手段は、前記NVS指令値信号と前記所定の周波数の第2の三角波信号との比較結果から前記第2のPWM信号を生成する。
【0040】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記不平衡検出手段によって前記不平衡状態であることが検出された後、前記第1の三角波信号または第2の三角波信号が最小値になったタイミングで、前記インバータ回路に出力するPWM信号を前記第2のPWM信号から前記第1のPWM信号に切り替え、前記不平衡検出手段によって前記不平衡状態であることが検出されなくなった後、前記第1の三角波信号または第2の三角波信号が最小値になったタイミングで、前記インバータ回路に出力するPWM信号を前記第1のPWM信号から前記第2のPWM信号に切り替える。
【0041】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記不平衡検出手段は、前記三相電力系統のいずれかの相の電圧信号の電圧実効値と他の相の電圧信号の電圧実効値との差が所定の値以上の場合、または、前記三相電力系統のいずれかの相の電圧信号の位相と三相平衡時の位相との位相差が所定の位相差以上の場合に、前記不平衡状態であることを検出する。
【0042】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記不平衡検出手段は、前記各相の電圧信号から回転座標系のベクトル成分であるq軸成分とd軸成分とを抽出し、前記q軸成分が所定の値以上の場合、または、前記d軸成分が所定の値以上の場合に、前記不平衡状態であることを検出する。
【0043】
本発明の第2の側面によって提供される系統連系インバータシステムは、前記インバータ回路と、本発明の第1の側面によって提供されるインバータ制御回路とを備えている。
【0044】
本発明の第3の側面によって提供されるプログラムは、コンピュータを、直流電力を交流電力に変換して三相電力系統に出力するインバータ回路をPWM制御するためのインバータ制御回路として機能させるためのプログラムであって、前記コンピュータを、電圧検出手段によって検出される前記三相電力系統の各相の電圧信号のそれぞれから、前記インバータ回路より出力すべき各相の電圧を指令するための各相の指令値信号を生成する指令値信号生成手段と、所定の測定手段によって測定される前記インバータ回路の入出力に関する測定値を所定の目標値に制御するための各相の補正値信号を生成する補正値信号生成手段と、前記各相の指令値信号をそれぞれ対応する相の前記補正値信号に基づいて補正して、各相の補正後指令値信号を出力する指令値信号補正手段と、前記各相の補正後指令値信号に基づいて、前記インバータ回路をPWM制御するための各相の第1のPWM信号を生成する第1のPWM信号生成手段と、前記各相の補正後指令値信号の差分信号に基づいて生成される、1/3周期の期間でゼロになる各相のNVS指令値信号に基づいて、各相の第2のPWM信号を生成する第2のPWM信号生成手段と、前記三相電力系統の各相の電圧信号が不平衡状態であることを検出する不平衡検出手段と、前記不平衡検出手段によって前記不平衡状態であることが検出されている場合は前記第1のPWM信号を前記インバータ回路に出力し、前記不平衡検出手段によって前記不平衡状態であることが検出されていない場合は前記第2のPWM信号を前記インバータ回路に出力する出力手段と
、直流電圧検出手段によって検出される、前記インバータ回路に入力される直流電圧を取得する直流電圧取得手段として機能させ、
前記指令値信号生成手段は、前記各相の電圧信号の電圧実効値を算出する実効値算出手段と、前記各相の電圧信号の位相と三相平衡時の位相との位相差を検出する位相差検出手段と、前記各相の電圧実効値の前記直流電圧に対する比と、前記各相の位相差とから、各相の指令値を算出する指令値算出手段とを備え、前記指令値算出手段によって算出された各相の指令値を前記各相の指令値信号として出力することを特徴とする。
【0045】
本発明の第4の側面によって提供される記録媒体は、本発明の第3の側面によって提供されるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、三相電力系統の各相の電圧信号が不平衡状態である場合は第1のPWM信号がインバータ回路に出力され、三相電力系統の各相の電圧信号が不平衡状態でない場合は第2のPWM信号がインバータ回路に出力される。各相の第1のPWM信号は不平衡状態の各相の電圧に応じた各相の補正後指令値信号に基づいて生成されているので、インバータ回路からの出力電圧も三相電力系統の各相の電圧と同様の不平衡状態となる。これにより、インバータ回路の出力電流の制御精度は悪化せず、出力電流のアンバランスが増大することを抑制することができるので、過電流が検出されることを抑制することができる。したがって、三相電力系統の各相の電圧信号が不平衡状態である場合でも、インバータ回路は安定して運転を継続することができる。
【0047】
一方、各相の第2のPWM信号は1/3周期の期間でゼロとなる各相のNVS指令値信号に基づいて生成されているので、インバータ回路のスイッチング素子のスイッチング回数を低減することができる。したがって、三相電力系統の各相の電圧信号が不平衡状態でない場合に、スイッチングロスを低減することができる。
【0048】
これにより、インバータ回路は、三相電力系統が平衡状態の時にはスイッチングロスを低減することができ、三相電力系統が不平衡状態になった場合でも安定して運転を継続することができる。
【0049】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係るインバータ制御回路を系統連系インバータシステムに用いた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0052】
図1は、本発明に係るインバータ制御回路を備えた系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
【0053】
同図に示すように、系統連系インバータシステムAは、直流電源1、インバータ回路2、フィルタ回路3、変圧回路4、開閉器5、直流電圧センサ6、電流センサ7,8、系統電圧センサ9、およびインバータ制御回路10を備えている。
【0054】
直流電源1は、インバータ回路2に接続している。インバータ回路2、フィルタ回路3、および変圧回路4は、この順で、U相、V相、W相の出力電圧の出力ラインに直列に接続されており、開閉器5を介して三相交流の電力系統B(系統B)に接続している。直流電圧センサ6は、直流電源1とインバータ回路2との間の接続線に設置されており、電流センサ7は、インバータ回路2とフィルタ回路3との間の接続線に設置されている。電流センサ8は、変圧回路4と開閉器5との間の接続線に設置されており、系統電圧センサ9は、開閉器5と系統Bとの間の接続線に設置されている。インバータ制御回路10は、インバータ回路2に接続されている。系統連系インバータシステムAは、開閉器5によって系統Bに連系して、直流電源1が出力する直流電力を交流電力に変換して系統Bに供給する。なお、系統連系インバータシステムAの構成は、これに限られない。例えば、インバータ回路2の制御に必要ないセンサを設けていなくてもよいし、変圧回路4に代えて、直流電源1とインバータ回路2との間にDC/DCコンバータ回路を設ける、いわゆるトランスレス方式であってもよい。
【0055】
直流電源1は、直流電力を出力するものであり、例えば太陽電池を備えている。太陽電池は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することで、直流電力を生成する。直流電源1は、生成された直流電力を、インバータ回路2に出力する。なお、直流電源1は、太陽電池により直流電力を生成するものに限定されない。例えば、直流電源1は、燃料電池、蓄電池、電気二重層コンデンサやリチウムイオン電池であってもよいし、ディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機や風力タービン発電機などにより生成された交流電力を直流電力に変換して出力する装置であってもよい。
【0056】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換して、フィルタ回路3に出力するものである。インバータ回路2は、三相インバータであり、図示しない3組6個のスイッチング素子を備えたPWM制御型インバータ回路である。インバータ回路2は、インバータ制御回路10から入力されるPWM信号に基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換する。
【0057】
フィルタ回路3は、インバータ回路2から入力される交流電圧から、スイッチングによる高周波成分を除去するものである。フィルタ回路3は、リアクトルとコンデンサとからなるローパスフィルタを備えている。フィルタ回路3で高周波成分を除去された交流電圧は、変圧回路4に出力される。なお、フィルタ回路3の構成はこれに限定されず、高周波成分を除去するための周知のフィルタ回路であればよい。変圧回路4は、フィルタ回路3から出力される交流電圧を系統Bの系統電圧とほぼ同一のレベルに昇圧または降圧する。
【0058】
開閉器5は、系統連系インバータシステムAと系統Bとを接続したり、当該接続を切り離すものである。開閉器5は、系統連系インバータシステムAが系統Bに電力を供給できる状態になったときに、系統連系インバータシステムAと系統Bとを接続する。また、開閉器5は、系統Bで系統事故などの異常が発生した場合に、系統連系インバータシステムAと系統Bとの接続を切り離す。実際には、系統Bで異常が発生した場合などに、図示しない遮断器によって系統連系インバータシステムAが系統Bから解列される。このとき、系統連系インバータシステムAが単独運転状態となることを回避するために、系統連系インバータシステムAと遮断器との間に接続されている図示しない負荷を切り離すために、開閉器5が開放される。
【0059】
直流電圧センサ6は、直流電源1から出力される直流電圧を検出するものである。検出された直流電圧信号Vinは、インバータ制御回路10に入力される。電流センサ7は、インバータ回路2から出力される各相の交流電流を検出するものである。検出された交流電流信号I
1(I
1u,I
1v,I
1w)は、インバータ制御回路10に入力される。電流センサ8は、変圧回路4から出力される各相の交流電流(すなわち、系統連系インバータシステムAの出力電流)を検出するものである。検出された交流電流信号I
2(I
2u,I
2
v,I
2w)は、インバータ制御回路10に入力される。系統電圧センサ9は、系統Bの
各相の系統電圧を検出するものである。検出された系統電圧信号Vs(Vsu,Vsv,Vsw)は、インバータ制御回路10に入力される。なお、系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧は、系統電圧とほぼ一致している。
【0060】
インバータ制御回路10は、インバータ回路2を制御するものである。インバータ制御回路10は、直流電圧センサ6から入力される直流電圧信号Vin、電流センサ7から入力される交流電流信号I
1、電流センサ8から入力される交流電流信号I
2、および、系統電圧センサ9から入力される系統電圧信号Vsに基づいて、PWM信号を生成してインバータ回路2に出力する。インバータ制御回路10は、インバータ回路2が出力する出力電圧の波形を指令するための指令値信号を各センサから入力される検出信号に基づいて生成し、当該指令値信号に基づいて生成されるパルス信号をPWM信号として出力する。インバータ回路2は、入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、指令値信号に対応した波形の交流電圧を出力する。インバータ制御回路10は、指令値信号の波形を変化させることでインバータ回路2の出力電圧の波形を変化させることで出力電流を制御している。これにより、インバータ制御回路10は、各種フィードバック制御を行っている。
【0061】
本実施形態においては、インバータ制御回路10は、直流電圧制御(入力直流電圧が予め設定された電圧目標値となるように行うフィードバック制御)、無効電力制御(出力無効電力が予め設定された目標値「0」となるように行うフィードバック制御)、および出力電流制御(インバータ回路2の出力電流をdq変換して、d軸成分が無効電力制御の補正値となるように行うフィードバック制御と、q軸成分が直流電圧制御の補正値となるように行うフィードバック制御)を行っている。なお、インバータ制御回路10が行う制御の手法は、これに限られない。例えば、出力電圧制御や有効電力制御を行うようにしてもよい。
【0062】
インバータ制御回路10は、補正値生成部11、系統指令値生成部12、加算部13、およびPWM信号生成部14を備えている。
【0063】
補正値生成部11は、後述する系統指令値生成部12から出力される系統指令値信号を補正するための補正値信号を生成するものである。補正値生成部11は、直流電圧センサ6から直流電圧信号Vinを入力され、電流センサ7から交流電流信号I
1を入力され、
電流センサ8から交流電流信号I
2を入力され、系統電圧センサ9から系統電圧信号Vs
を入力され、系統指令値生成部12から不平衡状態検出信号を入力されて、補正値信号ΔXu,ΔXv,ΔXwを生成して加算部13に出力する。補正値信号ΔXu,ΔXv,ΔXwは、各センサによる検出値等とその目標値との偏差を「0」にするための補正値の信号である。
【0064】
図2は、補正値生成部11の内部構成を説明するためのブロック図である。
【0065】
補正値生成部11は、位相検出部111、PI制御部112、無効電力算出部113、PI制御部114、dq変換部115、PI制御部116、PI制御部117、逆dq変換部118、および不平衡電流補償部119を備えている。
【0066】
位相検出部111は、系統電圧センサ9より入力される系統電圧信号VsからU相の系統電圧の位相θを検出するものであり、例えばPLL(Phase-Locked Loop)回路である
。検出された位相θは、dq変換部115および逆dq変換部118に出力される。
【0067】
PI制御部112は、直流電圧センサ6より入力される直流電圧信号Vinと予め設定されている目標直流電圧Vin
*との偏差に基づいてPI制御を行い、補正値を出力する
ものである。無効電力算出部113は、電流センサ8より入力される交流電流信号I
2と
系統電圧センサ9より入力される系統電圧信号Vsとから出力無効電力Qを算出して出力するものである。PI制御部114は、無効電力算出部113が出力する出力無効電力Qと予め設定されている目標無効電力Q
*との偏差に基づいてPI制御を行い、補正値を出
力するものである。
【0068】
dq変換部115は、電流センサ7より入力される交流電流信号I
1をdq変換するも
のである。dq変換部115は、電流センサ7より交流電流信号I
1を入力され、位相検
出部111より位相θを入力される。dq変換部115は、3相の交流電流信号I
1を2
相の信号に変換し、位相θとの位相差成分であるd軸成分Idと同相成分であるq軸成分Iqとに変換して出力する。
【0069】
PI制御部116は、PI制御部112が出力する補正値とdq変換部115が出力するd軸成分Idとの偏差に基づいてPI制御を行い、補正値ΔXdを出力するものである。PI制御部117は、PI制御部114が出力する補正値とdq変換部115が出力するq軸成分Iqとの偏差に基づいてPI制御を行い、補正値ΔXqを出力するものである。逆dq変換部118は、PI制御部116より入力される補正値ΔXdとPI制御部117より入力される補正値ΔXqとを逆dq変換するものである。逆dq変換部118は、PI制御部116より補正値ΔXdを入力され、PI制御部117より補正値ΔXqを入力され、位相検出部111より位相θを入力される。逆dq変換部118は、d軸成分の補正値ΔXdとq軸成分の補正値ΔXqとを逆dq変換により、2相の補正値に変換してから3相の補正値に変換して、補正値信号ΔXu,ΔXv,ΔXwとして出力する。
【0070】
不平衡電流補償部119は、不平衡電流を補償するためのものである。不平衡電流補償部119は、電流センサ7より入力される交流電流信号I
1の逆相成分を「0」にするた
めの補正値を算出して出力する。不平衡電流補償部119から出力された補正値は、補正値信号ΔXu,ΔXv,ΔXwに加算される。不平衡電流補償部119によって、交流電流信号I
1の逆相成分が「0」となるように制御されるので、不平衡電流は瞬時に抑制さ
れる。不平衡電流補償部119は、系統指令値生成部12から不平衡状態検出信号を入力されており、不平衡状態検出信号が「ON」の場合(すなわち、不平衡状態が検出されている場合)に上記補償動作を行うが、不平衡状態検出信号が「OFF」の場合(すなわち、不平衡状態が検出されていない場合)には上記補償動作を行わない。
【0071】
図1に戻って、系統指令値生成部12は、直流電圧センサ6から直流電圧信号Vinを入力され、系統電圧センサ9から系統電圧信号Vsを入力されて、系統指令値信号Ku,Kv,Kwを生成して加算部13に出力する。系統指令値信号Ku,Kv,Kwはインバータ回路2が出力する出力電圧の波形を指令するための指令値信号の基準となるものであり、系統指令値信号Ku,Kv,Kwが補正値信号ΔXu,ΔXv,ΔXwで補正されることにより指令値信号が生成される。
【0072】
図3は、系統指令値生成部12の内部構成を説明するためのブロック図である。
【0073】
系統指令値生成部12は、実効値算出部121u,121v,121w、フィルタ部122u,122v,122w、位相差検出部123u,123v,123w、フィルタ部124u,124v,124w、U相系統指令値算出部125u、V相系統指令値算出部125v、W相系統指令値算出部125w、および不平衡状態検出部129を備えている。
【0074】
実効値算出部121u,121v,121wは、系統電圧信号Vs(Vsu,Vsv,Vsw)のそれぞれの実効値を算出するものである。実効値算出部121uはU相の系統電圧信号Vsuの実効値Veuを算出してフィルタ部122uに出力し、実効値算出部121vはV相の系統電圧信号Vsvの実効値Vevを算出してフィルタ部122vに出力し、実効値算出部121wはW相の系統電圧信号Vswの実効値Vewを算出してフィルタ部122wに出力する。
【0075】
実効値Veu,Vev,Vewは、下記(1)、(2)、(3)式によって、系統電圧信号Vsu,Vsv,Vswから算出される。
【数2】
なお、Vsu(ωt)はU相の系統電圧の現在の瞬時値であり、Vsu(ωt−π/2)はU相の系統電圧のπ/2前の瞬時値である。V相、W相についても同様である。なお、実効値は他の方法で算出するようにしても構わない。
【0076】
フィルタ部122u,122v,122wは、それぞれ実効値算出部121u,121v,121wが算出した実効値Veu,Vev,Vewから、高周波成分を除去するローパスフィルタである。フィルタ部122u,122v,122wで高周波成分を除去された実効値Veu,Vev,Vewは、それぞれU相系統指令値算出部125u、V相系統指令値算出部125v、およびW相系統指令値算出部125wに出力される。なお、フィルタ部122u,122v,122wの構成はこれに限定されず、高周波成分を除去するための周知のフィルタであればよい。
【0077】
位相差検出部123u,123v,123wは、系統電圧信号Vs(Vsu,Vsv,Vsw)の位相と平衡時の位相との位相差を検出するものである。インバータ制御回路10の制御系は、系統電圧のU相の位相θに同期して処理される。位相θは、位相検出部111(
図2参照)によって検出される。系統Bが電圧平衡状態であれば、系統電圧信号Vsu,Vsv,Vswの位相は、それぞれθ,(θ−2π/3),(θ+2π/3)となる。位相差検出部123u,123v,123wは、実際に検出された系統電圧信号Vsu,Vsv,Vswの位相の、平衡状態におけるそれぞれの位相θ,(θ−2π/3),(θ+2π/3)に対する位相差φu,φv,φwを検出するものである。位相差検出部123uはU相の系統電圧信号Vsuの位相差φuを検出してフィルタ部124uに出力し、位相差検出部123vはV相の系統電圧信号Vsvの位相差φvを検出してフィルタ部124vに出力し、位相差検出部123wはW相の系統電圧信号Vswの位相差φwを検出してフィルタ部124wに出力する。
【0078】
図4は、位相差を検出する方法を説明するための図である。
【0079】
同図(a)は、電圧平衡状態における系統電圧信号Vsu,Vsv,Vswの波形を示している。太線の波形が系統電圧信号Vsuの波形であり、細線の波形が系統電圧信号Vsvの波形であり、破線の波形が系統電圧信号Vswの波形である。なお、右側の矢印は、系統電圧信号Vsu,Vsv,Vswの関係を示すベクトル図である。系統電圧信号Vsuは系統電圧の位相θに基づく同期パルスと同期しており、同期パルスの立ち上がりと系統電圧信号Vsuの立ち上がりゼロクロス(電圧がマイナスからプラスに変わるゼロを通過するタイミング)とが一致している。系統電圧信号Vsvは系統電圧信号Vsuより位相が2π/3遅れており、系統電圧信号Vsvの立ち上がりゼロクロスは同期パルスの立ち上がりより2π/3遅れている。系統電圧信号Vswは系統電圧信号Vsuより位相が2π/3進んでおり、系統電圧信号Vswの立ち上がりゼロクロスは同期パルスの立ち上がりより2π/3進んでいる。
【0080】
同図(b)は、電圧不平衡状態における系統電圧信号Vsu,Vsv,Vswの波形を示している。同図(b)における電圧不平衡状態は例えばV相とW相とが地絡した場合の電圧不平衡状態を示しており、系統電圧信号Vsv,Vswの位相と振幅が変動している。系統電圧信号Vsvは平衡状態(同図(a)の波形Vsv参照)より位相が2π/9遅れており、系統電圧信号Vsvの立ち上がりゼロクロスは同期パルスの立ち上がりより8π/9(=2π/3+2π/9)遅れている。系統電圧信号Vswは平衡状態(同図(a)の波形Vsw参照)より位相が2π/9進んでおり、系統電圧信号Vswの立ち上がりゼロクロスは同期パルスの立ち上がりより8π/9(=2π/3+2π/9)進んでいる。つまり、位相差φu,φv,φwは、同期パルスの立ち上がりを基準として、系統電圧信号Vsu,Vsv,Vswの立ち上がりゼロクロスとそれぞれの平衡時の立ち上がりゼロクロスとを比較することで算出することができる。
【0081】
例えば、位相差φvは、同期パルスの立ち上がりから系統電圧信号Vsvの立ち上がりゼロクロスまで基準クロックをカウントするなどして位相差を計測し、同期パルスの立ち上がりから平衡時の立ち上がりゼロクロスまで基準クロックをカウントするなどしてあらかじめ計測されている位相差を差し引くことで算出される。同図(b)の例の場合、位相差φvは、系統電圧信号Vsvの立ち上がりゼロクロスと同期パルスの立ち上がりとの位相差−8π/9(系統電圧信号Vsvの立ち上がりゼロクロスの方が同期パルスの立ち上がりより遅れるのでマイナスとしている。)から、平衡時の立ち上がりゼロクロスと同期パルスの立ち上がりとの位相差−2π/3を差し引いて、φv=−8π/9−(−2π/3)=−2π/9と算出される。
【0082】
また、位相差φwは、系統電圧信号Vswの立ち上がりゼロクロスから同期パルスの立ち上がりまで基準クロックをカウントするなどして位相差を計測し、平衡時の立ち上がりゼロクロスから同期パルスの立ち上がりまで基準クロックをカウントするなどしてあらかじめ計測されている位相差を差し引くことで算出される。同図(b)の例の場合、位相差φwは、系統電圧信号Vswの立ち上がりゼロクロスと同期パルスの立ち上がりとの位相差8π/9から、平衡時の立ち上がりゼロクロスと同期パルスの立ち上がりとの位相差2π/3を差し引いて、φw=8π/9−2π/3=2π/9と算出される。
【0083】
フィルタ部124u,124v,124wは、それぞれ位相差検出部123u,123v,123wが検出した位相差φu,φv,φwから、高周波成分を除去するローパスフィルタである。フィルタ部124u,124v,124wで高周波成分を除去された位相差φu,φv,φwは、それぞれU相系統指令値算出部125u、V相系統指令値算出部125v、およびW相系統指令値算出部125wに出力される。なお、フィルタ部124u,124v,124wの構成はこれに限定されず、高周波成分を除去するための周知のフィルタであればよい。
【0084】
U相系統指令値算出部125u、V相系統指令値算出部125v、およびW相系統指令値算出部125wは、系統指令値を算出するものである。U相系統指令値算出部125uは、フィルタ部122uより入力される実効値Veu、フィルタ部124uより入力される位相差φu、および、直流電圧センサ6より入力される直流電圧信号Vinから、U相の系統指令値Kuを算出する。V相系統指令値算出部125vは、フィルタ部122vより入力される実効値Vev、フィルタ部124vより入力される位相差φv、および、直流電圧センサ6より入力される直流電圧信号Vinから、V相の系統指令値Kvを算出する。W相系統指令値算出部125wは、フィルタ部122wより入力される実効値Vew、フィルタ部124wより入力される位相差φw、および、直流電圧センサ6より入力される直流電圧信号Vinから、W相の系統指令値Kwを算出する。算出された系統指令値Ku,Kv,Kwは、系統指令値信号として加算部13に出力される。
【0085】
系統指令値Ku(t),Kv(t),Kw(t)は、下記(4)、(5)、(6)式によって算出される。
【数3】
【0086】
なお、ωは系統Bの角周波数であり、ωtはU相の系統電圧の現在の位相である。Cmは系統Bが電圧平衡状態である場合の系統指令値信号Ku(t),Kv(t),Kw(t)の振幅である。φu,φv,φwは、それぞれ位相差検出部123u,123v,123wから入力される位相差φu,φv,φwであり、Veu,Vev,Vewは、それぞれ実効値算出部121u,121v,121wから入力される系統電圧信号の実効値Veu,Vev,Vewである。Ktは変圧回路4の変圧比であり、系統B側の1次巻き数をN
1としインバータ回路2側の2次巻き数をN
2とした場合、Kt=N
1/N
2となる。Vinは直流電圧センサ6から入力される直流電圧信号Vinである。
【0087】
以下に、上記(4)、(5)、(6)式を算出する方法について、説明する。
【0088】
後述するように、不平衡時PWM信号生成部142は、系統指令値信号Ku,Kv,Kwから生成された指令値信号と所定のキャリア信号(例えば、三角波信号)とを比較してPWM信号を生成する。
図5に示すように、指令値信号Xとキャリア信号Cとを比較するためには、指令値信号Xの振幅をキャリア信号Cの振幅Cmに一致させるのが望ましい。したがって、系統Bが電圧平衡状態である場合の系統指令値信号Ku,Kv,Kwの振幅をキャリア信号Cの振幅Cmとする。
【0089】
本実施形態では、PWM信号生成部14での比較処理は、デジタル処理で行っている。したがって、キャリア信号Cの振幅のPeak-to-peak値であるCm×2をデジタル処理上の分解能(例えばビット幅を12bitとした場合は、分解能は2
12 = 4096[ビット数]となる)とすると、1ビット数当たりの系統連系インバータシステムAの出力電圧変化幅ΔVは、
ΔV=Vin・Kt/(2・Cm)[V] ・・・・・・(7)
となる。ここで、系統指令値信号Kuの出力ゲインをGuとすると、系統指令値信号Kuによって生成される系統連系インバータシステムAの出力電圧の実効値Vinvは、
Vinv=(ΔV・2・Cm・Gu/2)/√2
=ΔV・Cm・Gu/√2 [Vrms] ・・・・・・(8)
となる。これから、系統連系インバータシステムAと系統Bの電圧レベルを一致させるためには、Vinv=Veuとなる出力ゲインGuを算出すればよい。
【0090】
上記(8)式および(7)式より、
Veu=Vinv=ΔV・Cm・Gu/√2
={Vin・Kt/(2・Cm)}・Cm・Gu/√2
Gu=Veu・2√2/(Vin・Kt)
=(2√2/Kt)・(Veu/Vin)
【0091】
よって、出力ゲインGu、振幅Cmおよび位相差φuを用いて、系統指令値信号Kuは、
Ku=Gu・Cm・SIN(ωt+φu)
で表される。同様に、系統指令値信号Kvの出力ゲインGvおよび系統指令値信号Kwの出力ゲインGwは、
Gv=(2√2/Kt)・(Vev/Vin)
Gw=(2√2/Kt)・(Vew/Vin)
となり、系統指令値信号Kvおよび系統指令値信号Kwは、
Kv=Gv・Cm・SIN(ωt−2π/3+φv)
Kw=Gw・Cm・SIN(ωt+2π/3+φw)
で表される。
【0092】
図3に戻って、不平衡状態検出部129は、系統Bの不平衡状態を検出するものである。不平衡状態検出部129は、フィルタ部122u,122v,122wよりそれぞれ実効値Veu,Vev,Vewを入力され、フィルタ部124u,124v,124wよりそれぞれ位相差φu,φv,φwを入力されて、系統Bが不平衡状態であるか否かを判断し、不平衡状態検出信号を補正値生成部11の不平衡電流補償部119およびPWM信号生成部14の切替部143(後述する)に出力する。なお、本実施形態では、不平衡状態を検出した場合に不平衡状態検出信号を「ON」とし、不平衡状態を検出しない場合に不平衡状態検出信号を「OFF」としている。不平衡状態検出部129は、不平衡電圧差検出部126、不平衡位相差検出部127、およびOR演算部128を備えている。
【0093】
不平衡電圧差検出部126は、フィルタ部122u,122v,122wより入力される実効値Veu,Vev,Vewから系統Bの不平衡状態を検出し、不平衡電圧差検出信号をOR演算部128に出力するものである。不平衡電圧差検出部126は、各実効値Veu,Vev,Vewの差のいずれかが所定の閾値である不平衡電圧差検出レベル以上の場合に、系統Bが不平衡状態であると判断し、不平衡電圧差検出信号を「ON」にする。一方、各実効値Veu,Vev,Vewの差のいずれもが不平衡電圧差検出レベル未満の場合は、不平衡電圧差検出信号を「OFF」にする。
【0094】
図6は、不平衡電圧差検出部126の内部構成の1例を説明するための図である。
【0095】
同図に示すように、不平衡電圧差検出部126は、減算部126a,126b,126c、絶対値変換部126d,126e,126f、ヒステリシスコンパレータ126g,126h,126i、OR演算部126j、遅延フィルタ126kを備えている。
【0096】
まず、減算部126a,126b,126cおよび絶対値変換部126d,126e,126fが、実効値Veuと実効値Vevとの差、実効値Vevと実効値Vewとの差、および、実効値Vewと実効値Veuとの差を算出する。次に、ヒステリシスコンパレータ126g,126h,126iが、算出された各差と不平衡電圧差検出レベルとをそれぞれ比較し、各差が不平衡電圧差検出レベル以上の場合、「ON」信号を出力する。なお、チャタリングを抑制するために、ヒステリシスが設けられている。OR演算部126jは、ヒステリシスコンパレータ126g,126h,126iの出力の論理和を演算して出力する。したがって、各差のいずれかが不平衡電圧差検出レベル以上の場合、不平衡電圧差検出信号が「ON」として出力される。なお、遅延フィルタ126kは、不平衡電圧差検出信号の立ち下がり時間を遅延させるものであり、チャタリングを抑制するために設けられている。すなわち、不平衡状態が検出されない状態が所定時間継続した場合に平衡状態であると判断することで、過渡時のチャタリングを抑制している。
【0097】
なお、不平衡電圧差検出部126の内部構成は、これに限られない。例えば、遅延フィルタ126kを設けていなくてもよいし、遅延フィルタ126kが不平衡電圧差検出信号の立ち上がり時間を遅延させるものであってもよい。また、ヒステリシスコンパレータ126g,126h,126iに代えて、ヒステリシスを設けないコンパレータを用いるようにしてもよい。
【0098】
図3に戻って、不平衡位相差検出部127は、フィルタ部124u,124v,124wより入力される位相差φu,φv,φwから系統Bの不平衡状態を検出し、不平衡位相差検出信号をOR演算部128に出力するものである。不平衡位相差検出部127は、各位相差φu,φv,φwの絶対値のいずれかが所定の閾値である不平衡位相差検出レベル以上の場合に、系統Bが不平衡状態であると判断し、不平衡位相差検出信号を「ON」にする。一方、各位相差φu,φv,φwの絶対値のいずれもが不平衡位相差検出レベル未満の場合は、不平衡位相差検出信号を「OFF」にする。
【0099】
図7は、不平衡位相差検出部127の内部構成の1例を説明するための図である。
【0100】
同図に示すように、不平衡位相差検出部127は、絶対値変換部127d,127e,127f、ヒステリシスコンパレータ127g,127h,127i、OR演算部127j、遅延フィルタ127kを備えている。
【0101】
まず、絶対値変換部127d,127e,127fが、位相差φu,φv,φwの絶対値を算出する。次に、ヒステリシスコンパレータ127g,127h,127iが、算出された各位相差の絶対値と不平衡位相差検出レベルとをそれぞれ比較し、各位相差の絶対値が不平衡位相差検出レベル以上の場合、「ON」信号を出力する。なお、チャタリングを抑制するために、ヒステリシスが設けられている。OR演算部127jは、ヒステリシスコンパレータ127g,127h,127iの出力の論理和を演算して出力する。したがって、各位相差の絶対値のいずれかが不平衡位相差検出レベル以上の場合、不平衡位相差検出信号が「ON」として出力される。なお、遅延フィルタ127kは、不平衡位相差検出信号の立ち下がり時間を遅延させるものであり、チャタリングを抑制するために設けられている。すなわち、不平衡状態が検出されない状態が所定時間継続した場合に平衡状態であると判断することで、過渡時のチャタリングを抑制している。
【0102】
なお、不平衡位相差検出部127の内部構成は、これに限られない。例えば、遅延フィルタ127kを設けなくてもよいし、遅延フィルタ127kが不平衡位相差検出信号の立ち上がり時間を遅延させるものであってもよい。また、ヒステリシスコンパレータ127g,127h,127iに代えて、ヒステリシスを設けないコンパレータを用いるようにしてもよい。
【0103】
図3に戻って、OR演算部128は、不平衡電圧差検出部126から入力される不平衡電圧差検出信号と不平衡位相差検出部127から入力される不平衡位相差検出信号との論理和を演算し、不平衡状態検出信号として出力する。すなわち、OR演算部128は、不平衡電圧差検出信号と不平衡位相差検出信号の少なくともいずれかが「ON」の場合に不平衡状態検出信号を「ON」とし、両方が「OFF」の場合に不平衡状態検出信号を「OFF」とする。
【0104】
図1に戻って、加算部13は、系統指令値生成部12から入力される系統指令値信号Ku,Kv,Kwに、補正値生成部11から入力される補正値信号ΔXu,ΔXv,ΔXwを加算して、指令値信号Xu,Xv,XwとしてPWM信号生成部14に出力する。
【0105】
PWM信号生成部14は、加算部13から入力される指令値信号Xu,Xv,Xwに基づいてPWM信号Pu,Pv,Pwを生成し、インバータ回路2に出力するものである。
【0106】
PWM信号生成部14は、NVS制御用PWM信号生成部141、不平衡時PWM信号生成部142、および切替部143を備えている。PWM信号生成部14は、系統Bが平衡状態のときにはNVS制御用PWM信号生成部141で生成されたPWM信号を出力し、系統Bが不平衡状態のときには不平衡時PWM信号生成部142で生成されたPWM信号を出力する。
【0107】
NVS制御用PWM信号生成部141は、加算部13より入力される指令値信号Xu,Xv,XwからNVS制御用のPWM信号を生成し、切替部143に出力する。
【0108】
図8は、NVS制御用PWM信号生成部141の内部構成の一例を説明するためのブロック図である。
【0109】
NVS制御用PWM信号生成部141は、線間電圧指令値信号生成部141a、NVS指令値信号生成部141b、およびパルス信号生成部141cを備えている。
【0110】
線間電圧指令値信号生成部141aは、入力される指令値信号Xu,Xv,Xwから線間電圧指令値信号Xuv,Xvw,Xwuを生成するものである。系統電圧センサ9は系統Bの各相の相電圧を検出するものなので、系統電圧センサ9から入力される系統電圧信号Vsに基づいて生成されている指令値信号Xu,Xv,Xwは各相の相電圧を指令するための指令値信号である。線間電圧指令値信号生成部141aは、各相の相電圧を指令するための指令値信号Xu,Xv,Xwから、線間電圧を指令するための線間電圧指令値信号Xuv,Xvw,Xwuを生成して、NVS指令値信号生成部141bに出力する。線間電圧指令値信号生成部141aは、XuとXvの差分信号をXuvとし、XvとXwの差分信号をXvwとし、XwとXuの差分信号をXwuとして生成する。
【0111】
NVS指令値信号生成部141bは、位相検出部111より入力されるU相の系統電圧の位相θと線間電圧指令値信号生成部141aより入力される線間電圧指令値信号Xuv,Xvw,Xwuとに基づいて、NVS指令値信号Xu',Xv',Xw'を生成して、パ
ルス信号生成部141cに出力するものである。NVS指令値信号生成部141bは、1/3周期毎に、線間電圧指令値信号Xuv,Xvw,Xwu、値がゼロであるゼロ信号、および、線間電圧指令値信号Xuv,Xvw,Xwuの極性を反転させた信号Xvu,Xwv,Xuwを切り替えることで、NVS指令値信号Xu',Xv',Xw'を生成する(
図15参照)。
【0112】
なお、NVS指令値信号Xu',Xv',Xw'の生成方法は、これに限定されない。例
えば、線間電圧指令値信号Xuv,Xvw,Xwuとその極性を反転させた信号Xvu,Xwv,Xuwとを用いる代わりに、線間電圧指令値信号Xuv,Xvw,Xwuの全波整流信号を用いて生成するようにしてもよい。
【0113】
パルス信号生成部141cは、その内部で生成されたキャリア信号(例えば、三角波信号)と、NVS指令値信号生成部141bより入力されるNVS指令値信号Xu',Xv',Xw'とから、それぞれ各相のPWM信号を生成するものである。パルス信号生成部1
41cは、NVS指令値信号Xu',Xv',Xw'の0レベル以上の範囲で変化するキャ
リア信号を生成し、当該キャリア信号とNVS指令値信号Xu',Xv',Xw'とを比較
することでPWM信号を生成する。パルス信号生成部141cは、NVS指令値信号Xu'がキャリア信号より大きい期間にハイレベルとなり、NVS指令値信号Xu'がキャリア信号以下となる期間にローレベルとなるパルス信号をU相のPWM信号として生成する(
図16参照)。同様に、NVS指令値信号Xv',Xw'をキャリア信号と比較することにより、それぞれV相、W相のPWM信号を生成する。生成されたPWM信号は切替部143に出力される。
【0114】
なお、PWM信号は、NVS指令値信号Xu',Xv',Xw'とキャリア信号との比較
による方法以外の方法で生成するようにしてもよい。例えば、PWMホールド法を用いて線間電圧指令値信号Xuv,Xvw,Xwuからパルス幅を算出し、算出された線間電圧に対するパルス幅から変換された相電圧に対するパルス幅に基づいてPWM信号を生成することもできる。
【0115】
不平衡時PWM信号生成部142は、加算部13から入力される指令値信号Xu,Xv,Xwと所定の周波数(例えば、4kHz)の三角波信号として生成されたキャリア信号とに基づいて、三角波比較法によりPWM信号を生成する。三角波比較法では、
図5に示すように、指令値信号Xとキャリア信号Cとが比較され、例えば、指令値信号Xがキャリア信号Cより大きい場合にハイレベルとなり、指令値信号Xがキャリア信号Cより小さい場合にローレベルとなるパルス信号PがPWM信号として生成される。生成されたPWM信号は切替部143に出力される。
【0116】
切替部143は、NVS制御用PWM信号生成部141および不平衡時PWM信号生成部142がそれぞれ生成したPWM信号を入力され、系統指令値生成部12の不平衡状態検出部129から入力される不平衡状態検出信号に応じて、出力するPWM信号を切り替えるものである。切替部143は、不平衡状態検出信号が「ON」の場合、すなわち系統Bが不平衡状態であると判断されている場合、不平衡時PWM信号生成部142から入力されたPWM信号(以下、「不平衡時PWM信号」とする。)をPWM信号Pu,Pv,Pwとしてインバータ回路2に出力する。一方、不平衡状態検出信号が「OFF」の場合、すなわち系統Bが平衡状態であると判断されている場合、NVS制御用PWM信号生成部141から入力されたPWM信号(以下、「NVS用PWM信号」とする。)をPWM信号Pu,Pv,Pwとしてインバータ回路2に出力する。
【0117】
図9は、切替部143におけるPWM信号の切り替えのタイミングを説明するためのタイミングチャートである。同図上側の波形はキャリア信号を示しており、中央の波形は不平衡状態検出信号を示しており、下側の波形はPWM信号の切り替えタイミングを示している。
【0118】
同図に示すように、切替部143は、不平衡状態検出信号のONとOFFの切り替えのタイミングでPWM信号を切り替えているのではなく、不平衡状態検出信号のONとOFFの切り替え後のキャリア信号の最小値になるタイミングでPWM信号を切り替えている。すなわち、同図の場合、不平衡状態検出信号がOFFからONに切り替わった後、キャリア信号が最小値になったタイミングで、出力するPWM信号をNVS用PWM信号から不平衡時PWM信号に切り替え、不平衡状態検出信号がONからOFFに切り替わった後、キャリア信号が最小値になったタイミングで、出力するPWM信号を不平衡時PWM信号からNVS用PWM信号に切り替えている。なお、NVS制御用PWM信号生成部141のパルス信号生成部141cで生成されるキャリア信号と不平衡時PWM信号生成部142で生成されるキャリア信号とは、振幅が異なるものであるが、同じクロック信号に基づいて生成されているので、周波数と位相が共通している。したがって、キャリア信号が最小値になるタイミングは共通している。
【0119】
切替部143がPWM信号の切り替えを上記のタイミングとしているのは、過渡的に出力電流が跳ね上がったり、上下短絡が生じたりすることを抑制し、切り替えをスムーズに行うためである。なお、キャリア信号の最小値になるタイミングに代えて、キャリア信号が最大値になるタイミングでPWM信号を切り替えるようにしてもよい。
【0120】
インバータ回路2のU相、V相、W相のスイッチング素子は、それぞれU相、V相、W相のPWM信号Pu,Pv,Pwに基づいてオン・オフ動作する。なお、NVS制御用PWM信号生成部141および不平衡時PWM信号生成部142は、それぞれU相、V相、W相のPWM信号を反転したパルス信号も生成しており、切替部143は、当該パルス信号を逆相のPWM信号としてインバータ回路2に出力する。インバータ回路2のU相、V相、W相の各スイッチング素子に直列接続されているスイッチング素子は、それぞれ逆相のPWM信号に基づいて、U相、V相、W相の各スイッチング素子とは反対にオン・オフ動作する。
【0121】
なお、インバータ制御回路10は、アナログ回路として実現してもよいし、デジタル回路として実現してもよい。また、各部が行う処理をプログラムで設計し、当該プログラムを実行させることでコンピュータをインバータ制御回路10として機能させてもよい。また、当該プログラムを記録媒体に記録しておき、コンピュータに読み取らせるようにしてもよい。
【0122】
本実施形態において、不平衡状態検出部129は、系統Bが不平衡状態であるか否かを判断し、不平衡状態検出信号を補正値生成部11の不平衡電流補償部119およびPWM信号生成部14の切替部143に出力する。
【0123】
不平衡状態の場合、不平衡電流補償部119は不平衡電流を補償する動作を行い、PWM信号生成部14は不平衡時PWM信号生成部142が生成したPWM信号をPWM信号Pu,Pv,Pwとしてインバータ回路2に出力する。この場合、PWM信号Pu,Pv,Pwは不平衡状態の各相の電圧に応じた各相の指令値信号Xu,Xv,Xwに基づいて生成されているので、インバータ回路2からの出力電圧も系統Bの各相の電圧と同様の不平衡状態となる。これにより、インバータ回路2の出力電流の制御精度は悪化せず、出力電流のアンバランスが増大することを抑制することができるので、過電流が検出されることを抑制することができる。したがって、インバータ回路2は安定して運転を継続することができる。
【0124】
一方、平衡状態の場合(不平衡状態を検出しない場合)、不平衡電流補償部119は不平衡電流を補償する動作を行わず、PWM信号生成部14はNVS制御用PWM信号生成部141が生成したPWM信号をPWM信号Pu,Pv,Pwとしてインバータ回路2に出力する。この場合、PWM信号Pu,Pv,Pwは周期の3分の1の期間がゼロとなるNVS指令値信号Xu',Xv',Xw'に基づいて生成されているので、インバータ回路
2のスイッチング素子のスイッチング回数を低減することができる。したがって、スイッチングロスを低減することができる。
【0125】
これにより、インバータ回路2は、系統Bが平衡状態の時にはスイッチングロスを低減することができ、系統Bが不平衡状態になった場合でも安定して運転を継続することができる。
【0126】
図10は、接続された系統が電圧不平衡状態になった場合のシミュレーションにおける、インバータ回路2の出力線間電圧信号の波形を説明するための図である。
【0127】
同図(a)は、系統Bが平衡状態である場合のものであり、上側の波形図が系統線間電圧の各波形を示しており、下側の波形図がインバータ回路2の出力線間電圧信号の波形を示している。系統Bが平衡状態なので、NVS制御用PWM信号生成部141が生成したPWM信号によってインバータ回路2が制御され、出力線間電圧信号も平衡状態となっている。
【0128】
同図(b)は、系統Bが不平衡状態(
図17と同様、W相の相電圧のみが60%低下した不平衡状態)である場合のものであり、上側の波形図が系統線間電圧の各波形を示しており、下側の波形図がインバータ回路2の出力線間電圧信号の波形を示している。系統Bが不平衡状態なので、不平衡時PWM信号生成部142が生成したPWM信号によってインバータ回路2が制御され、出力線間電圧信号も系統線間電圧と同様の不平衡状態となっている。
【0129】
同図(b)の上側および下側の波形図が示すように、系統Bが不平衡状態となった場合でも、インバータ回路2の出力線間電圧信号の波形が系統線間電圧の波形と一致するので、出力線間電圧と系統線間電圧とで差が発生しない。したがって、出力線間電圧と系統線間電圧との電位差によって生じる過電流が検出されないので、インバータ回路2は安定して運転を継続することができる。
【0130】
なお、上記実施形態では、系統Bが平衡状態の場合でも、系統指令値生成部12が系統Bの各相の電圧に基づいて相毎に系統指令値信号Ku,Kv,Kwを生成するが、これに限られない。系統Bが平衡状態の場合、系統指令値生成部12が系統BのU相の電圧に基づいた平衡状態の系統指令値信号Ku,Kv,Kwを生成して出力するようにしてもよい。また、NVS制御用PWM信号生成部141がU相のNVS指令値信号Xu'のみを生
成し、当該Xu'から位相をそれぞれ2π/3ずつずらすことでXv',Xw'を生成する
ようにしてもよい。また、U相のPWM信号のみを生成し、これをずらすことでV相およびW相のPWM信号を生成するようにしてもよい。
【0131】
上記実施形態では、不平衡状態検出部129は不平衡電圧差検出部126と不平衡位相差検出部127とを備え、少なくともいずれか一方で不平衡状態を検出した場合に、系統Bの不平衡状態を検出しているが、不平衡状態検出部129の構成はこれに限られない。以下に、別の構成の不平衡状態検出部の例を説明する。
【0132】
図11は、不平衡状態検出部の他の実施例の内部構成を説明するためのブロック図である。
【0133】
不平衡状態検出部129'は、系統Bの不平衡状態を検出するものである。不平衡状態
検出部129'は、系統電圧センサ9から系統電圧信号Vs(Vsu,Vsv,Vsw)
を入力されて、系統Bが不平衡状態であるか否かを判断し、不平衡状態検出信号を補正値生成部11の不平衡電流補償部119およびPWM信号生成部14の切替部143に出力する。なお、本実施例では、不平衡状態を検出した場合に不平衡状態検出信号を「ON」とし、不平衡状態を検出しない場合に不平衡状態検出信号を「OFF」としている。不平衡状態検出部129’は、dq変換部129a’、フィルタ部129b’,129c’、ヒステリシスコンパレータ129d’,129e’、およびOR演算部129f’を備えている。
【0134】
dq変換部129a’は、入力された系統電圧信号Vs(Vsu,Vsv,Vsw)を二相の信号に変換して逆相dq変換を行い、d軸成分およびq軸成分を出力する。フィルタ部129b’は、dq変換部129a’から入力されるd軸成分から基本波成分(50Hzまたは60Hz)以外を除去して、系統電圧レベル差として出力する。フィルタ部129c’は、dq変換部129a’から入力されるq軸成分から基本波成分(50Hzまたは60Hz)以外を除去して、系統電圧位相差として出力する。
【0135】
ヒステリシスコンパレータ129d’は、フィルタ部129b’から入力される系統電圧レベル差とあらかじめ設定されている不平衡電圧差検出レベルとを比較し、系統電圧レベル差が不平衡電圧差検出レベル以上の場合、「ON」信号を出力する。ヒステリシスコンパレータ129e’は、フィルタ部129c’から入力される系統電圧位相差とあらかじめ設定されている不平衡位相差検出レベルとを比較し、系統電圧位相差が不平衡位相差検出レベル以上の場合、「ON」信号を出力する。なお、チャタリングを抑制するために、ヒステリシスコンパレータ129d’および129e’にはヒステリシスが設けられている。
【0136】
OR演算部129f’は、ヒステリシスコンパレータ129d’,129e’の出力の論理和を演算し、不平衡状態検出信号として出力する。すなわち、OR演算部129f’は、系統電圧レベル差が不平衡電圧差検出レベル以上であるか、系統電圧位相差が不平衡位相差検出レベル以上である場合、不平衡状態検出信号を「ON」とし、系統電圧レベル差が不平衡電圧差検出レベル未満であり、系統電圧位相差が不平衡位相差検出レベル未満である場合、不平衡状態検出信号を「OFF」とする。
【0137】
なお、上記実施形態では、系統連系インバータシステムに本発明のインバータ制御回路を用いた場合について説明したが、これに限られない。従来のインバータ制御回路に上述した方法でPWM制御を行なわせるプログラムをコンピュータ読み取り可能に記録したROMなどの記録媒体からコンピュータに読み込んで、そのプログラムを実行させることにより、本発明のインバータ制御回路を実現してもよい。
【0138】
本発明に係るインバータ制御回路、および、このインバータ制御回路を備えた系統連系インバータシステムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るインバータ制御回路、および、このインバータ制御回路を備えた系統連系インバータシステムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。