特許第5767854号(P5767854)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767854
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】有機性廃水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20150730BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20150730BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   C02F3/12 FZAB
   C02F3/12 S
   C02F3/12 V
   C02F1/44 F
   C02F3/12 M
   C02F11/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-109739(P2011-109739)
(22)【出願日】2011年5月16日
(65)【公開番号】特開2012-239940(P2012-239940A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄住金環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100169812
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛志
(72)【発明者】
【氏名】中島 佐和子
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一郎
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−247565(JP,A)
【文献】 特開平11−047784(JP,A)
【文献】 特開2000−051886(JP,A)
【文献】 特開2005−211879(JP,A)
【文献】 特開2009−039709(JP,A)
【文献】 特開2006−305448(JP,A)
【文献】 特開2006−043586(JP,A)
【文献】 特開2006−247566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00−3/34
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
C02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂を30〜1000mg/L含有する有機性廃水を、前記油脂を除去することなく細菌槽に導入し、前記細菌槽内で原生動物の実質的不存在下で細菌処理し、前記油脂の少なくとも一部を酸化分解するとともに非凝集性細菌に変換して一次処理廃水を得る工程と、
得られた前記一次処理廃水を、活性汚泥を含む膜分離活性汚泥槽に導入し、前記非凝集性細菌を原生動物に捕食除去させた後、分離膜により固液分離する工程と、を有し、
沈澱池又は沈殿槽で固液分離する工程を有さず、
前記細菌槽と前記膜分離活性汚泥槽の合計のBOD容積負荷が、1.0〜3.5kg/(m3・日)であることを特徴とする有機性廃水の処理方法。
【請求項2】
前記活性汚泥の少なくとも一部を抜き出して活性汚泥処理槽に導入し、前記活性汚泥に含まれる細菌の少なくとも一部を殺菌又は溶菌した後、前記細菌槽及び/又は前記膜分離活性汚泥槽に導入する工程をさらに有する請求項1に記載の有機性廃水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物性又は植物性の油脂を含有する有機性廃水の効率的な処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物を含有する有機性廃水の処理(浄化)方法として、好気性微生物を含んだ活性汚泥を利用する活性汚泥法がある。活性汚泥法は、浄化能力が高く、処理経費が比較的少なくて済む等の利点がある。このため、活性汚泥法を採用した種々の有機性廃水の処理方法が提案されており、下水処理や産業廃水処理等において広く一般に使用されている。
【0003】
ただし、従来の活性汚泥法は、(1)微生物濃度の指標であるMLSS(汚泥濃度)が低く、単位容積当りの処理効率が低い、(2)汚泥が増加した場合に広大な沈澱池が必要である、(3)沈澱池の上澄み水(処理水)を放流する際に、活性汚泥の状態が悪いと汚泥が沈降せずに処理水側に流出してしまう等の問題があった。
【0004】
このような問題を解消すべく、例えば図5に示すような、限外濾過膜等の分離膜25を膜分離槽20(活性汚泥槽)に浸漬し、吸引等により処理水を膜濾過する膜分離活性汚泥法が提案されている(特許文献1及び2参照)。膜分離活性汚泥法では、MLSSを大幅に上昇させることが可能であるため、処理効率が向上する。また、分離膜25によって固液分離された処理水をそのまま放流することが可能であり、汚泥流出の問題が解消されうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−237693号公報
【特許文献2】特開平3−254896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、動物油又は植物油等の油脂を含有する有機性廃水を、特許文献1及び2等で開示された膜分離活性汚泥法によって処理しようとすると、生成する汚泥の粘度が上昇しやすいために、分離膜の際の差圧が上昇してしまい、処理効率が低下するといった問題が生ずる。
【0007】
これらの問題を解消する手法として、例えば、分離膜が浸漬された活性汚泥槽の前段(上流側)に、加圧浮上設備や油水分離槽などの油分(油脂)を除去するための設備等を配設することが考えられる。しかしながら、このような設備等は、規模が大きいとともに複雑である。このため、設備増設の手間、処理装置の複雑化、処理スペース確保の必要性等を考慮すると、上記の設備等を活性汚泥槽の上流側に組み込むことは必ずしも実用的であるとは言えなかった。
【0008】
したがって、本発明の課題は、油脂を除去するための大掛かりな設備や工程が不要であり、汚泥転換率が低く、低い膜圧差で安定して処理することが可能な有機性廃水の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、油脂を30〜1000mg/L含有する有機性廃水を、前記油脂を除去することなく細菌槽に導入し、前記細菌槽内で原生動物の実質的不存在下で細菌処理し、前記油脂の少なくとも一部を酸化分解するとともに非凝集性細菌に変換して一次処理廃水を得る工程と、得られた前記一次処理廃水を、活性汚泥を含む膜分離活性汚泥槽に導入し、前記非凝集性細菌を原生動物に捕食除去させた後、分離膜により固液分離する工程と、を有し、沈澱池又は沈殿槽で固液分離する工程を有さず、前記細菌槽と前記膜分離活性汚泥槽の合計のBOD容積負荷が、1.0〜3.5kg/(m3・日)であることを特徴とする有機性廃水の処理方法が提供される。
【0010】
本発明においては、前記活性汚泥の少なくとも一部を抜き出して活性汚泥処理槽に導入し、前記活性汚泥に含まれる細菌の少なくとも一部を殺菌又は溶菌した後、前記細菌槽及び/又は前記膜分離活性汚泥槽に導入する工程をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機性廃水の処理方法によれば、油脂を除去するための大掛かりな設備や工程が不要でありながらも、汚泥転換率を低減しつつ、低い膜圧差で安定して有機性廃水を処理することができる。また、本発明においては、活性汚泥の少なくとも一部を抜き出して活性汚泥処理槽に導入し、活性汚泥に含まれる細菌の少なくとも一部を殺菌又は溶菌した後、細菌槽及び/又は膜分離活性汚泥槽に導入することで、汚泥の発生量をさらに減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】経過日数(日)に対して、膜差圧(kPa)をプロットしたグラフである。
図2】経過日数(日)に対して、汚泥の粘度(mPa・s)をプロットしたグラフである。
図3】本発明の有機性廃水の処理方法に用いる処理装置の一例を示す模式図である。
図4】本発明の有機性廃水の処理方法に用いる処理装置の他の例を示す模式図である。
図5】従来の有機性廃水の処理方法に用いる処理装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図3は、本発明の有機性廃水の処理方法に用いる処理装置の一例を示す模式図である。図1に示すように、本発明の有機性廃水の処理方法は、(1)油脂を30〜1000mg/L含有する有機性廃水(被処理水)を細菌槽10に導入し、細菌槽10内で原生動物の実質的不存在下で細菌処理し、油脂の少なくとも一部を酸化分解するとともに非凝集性細菌に変換して一次処理廃水を得る工程(以下、単に「工程(1)」とも記す)と、(2)得られた一次処理廃水を、活性汚泥を含む膜分離槽20(膜分離活性汚泥槽)に導入し、非凝集性細菌を原生動物に捕食除去させた後、分離膜25により固液分離する工程(以下、単に「工程(2)」とも記す)と、を有する。以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。
【0014】
(工程(1))
工程(1)では、先ず、油脂を含有する有機性廃水を細菌槽に導入する。有機性廃水に含まれる油脂の濃度は30〜1000mg/Lであり、好ましくは30〜300mg/Lである。油脂の濃度が上記数値範囲内であると、大掛かりな設備や工程が不要であるとともに、汚泥転換率が低減され、かつ、低膜圧差であるといった本発明の効果が有効に発揮される。なお、油脂の濃度が1000mg/L超であると、油脂の濃度が高過ぎるので、加圧浮上設備や油水分離槽などの油脂を除去するための設備等が別途必要になる場合がある。
【0015】
油脂は、通常、脂肪酸とグリセリンとのエステルである。有機性廃水に含まれる油脂の種類は特に限定されないが、具体的には動物性油脂や植物性油脂(以下、併せて「動植物性油脂」ともいう)等を挙げることができる。動物性油脂の具体例としては、豚脂(ラード)、牛脂(ヘット)、魚油、肝油、鯨油、バター等を挙げることができる。また、植物性油脂の具体例としては、ココナッツ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、パーム油、ピーナッツ油、菜種油、ごま油、大豆油、ヒマワリ油、アーモンド油、亜麻仁油、こめ油等を挙げることができる。
【0016】
一般的に、動物性油脂の融点は、植物性油脂の融点よりも高い。本発明の有機性廃水の処理方法においては、融点が比較的高い動物性油脂を含有する有機性廃水であっても、効率的に処理することができる。なお、油脂を構成する脂肪酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸等の飽和脂肪酸;オレイン酸、パルミトレイン酸等の一価不飽和脂肪酸;リノール酸、リノレン酸等の多価不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0017】
工程(1)では、細菌槽内で原生動物の実質的不存在下で有機性廃水を細菌処理し、油脂の少なくとも一部を酸化分解するとともに、非凝集性細菌に変換する。これにより、一次処理廃水を得ることができる。ここで、「原生動物の実質的不存在下」とは、原生動物の増殖が抑制され、その結果、細菌処理過程中に殆ど原生動物の新たな出現が見られない状態を意味する。
【0018】
細菌槽で使用する細菌は、好気性のものであれば任意であり、例えば、アルカリゲネス属菌、シュウドモナス属菌、バチルス属菌、アエロバクター属菌、フラボバクテリウム属菌等を挙げることができる。これらの中でも、バチルス属菌を使用することが好ましい。これらの細菌は、通常、廃水中に生存しており、廃水中の有機物を栄養源として増殖する。このため、有機性廃水を被処理水とする本発明においては、特に外部から添加する必要はない。しかしながら、有機性廃水の浄化処理を円滑に行なうためには、必要に応じて適当な種菌を浄化処理の開始時に外部から添加してもよい。その際に使用する種菌としては、例えば、「バイオコア BP」、「OF−10」、「サーブワン」(以上、商品名、日鉄環境エンジニアリング社製)等の微生物製剤を好適に利用できる。
【0019】
(工程(2))
工程(2)では、先ず、工程(1)で得られた一次処理廃水を、活性汚泥を含む膜分離活性汚泥槽に導入し、一次処理廃水を処理する。膜分離活性汚泥槽内には、原生動物が存在している。そして、膜分離活性汚泥槽へと導入される一次処理廃水には、非凝集性細菌が含まれている。すなわち、工程(2)においては、一次処理廃水に含まれる非凝集性細菌を原生動物に捕食除去させる、いわゆる「二相式活性汚泥処理」を行う。
【0020】
一次処理廃水に含まれる非凝集性細菌は、それぞれの菌体に分散しており、原生動物に極めて捕食され易い状態となっている。このため、膜分離活性汚泥槽内での原生動物による細菌除去率は極めて高くなる。この結果、本発明の有機性廃水の処理方法は、従来の活性汚泥法に比して高負荷運転が可能になるとともに、余剰汚泥発生量を低減することができる。このため、本発明の有機性廃水の処理方法は経済性に優れた方法である。
【0021】
膜分離活性汚泥槽で使用する「原生動物」は、非凝集性細菌を捕食して除去することが可能なものであればその種類は特に限定されない。このような原生動物としては、例えば、従来の活性汚泥槽に用いられる公知の原生動物を使用することができる。
【0022】
膜分離活性汚泥処理は、活性汚泥を用いた有機物除去手法の一種で、通常の活性汚泥法で行われている沈澱池での固液分離を、好気タンク(曝気槽)内に浸漬した分離膜(膜ユニット)で行う方法である。分離膜による直接ろ過で処理水を得る構成であるため、曝気槽内の活性汚泥を高濃度に保持することができる。さらに、沈澱池での固液分離を行わないため、短時間での処理が可能である。また、沈澱槽が不要であるため、従来の活性汚泥方法よりも省スペースであるという利点もある。
【0023】
本発明の有機性廃水の処理方法によれば、油脂を含有する有機性廃水であっても、汚泥転換率を低減しつつ、低い膜圧差で安定して処理することができるとともに、従来の活性汚泥法に比して高負荷運転が可能である。具体的には、工程(1)における細菌槽と、工程(2)における膜分離活性汚泥槽の合計のBOD容積負荷を、好ましくは1.0〜3.5kg/(m3・日)とすることができ、さらに好ましくは1.0〜3.0kg/(m3・日)とすることができる。
【0024】
(活性汚泥処理工程)
本発明の有機性廃水の処理方法においては、図4に示すように、膜分離槽30内の活性汚泥の少なくとも一部を抜き出して活性汚泥処理槽30に導入し、活性汚泥に含まれる細菌の少なくとも一部を殺菌又は溶菌した後、細菌槽10及び/又は膜分離槽20に導入する工程(以下、「活性汚泥処理工程」ともいう)をさらに有することが好ましい。このような活性汚泥処理を行うことで、生成する処理水の水質を悪化させることなく、余剰汚泥発生量をさらに低減することが可能になるとともに、有機性廃水の浄化処理が簡易且つ経済的になされるといった利点がある。
【0025】
活性汚泥に含まれる細菌の殺菌又は溶菌する方法は特に限定されないが、例えば、(1)pH又は温度の制御、(2)アルカリ剤、酸若しくは廃酸、殺菌若しくは溶菌作用を有する化合物、又は金属イオンを触媒とする酸化剤の添加等を挙げることができる。なお、これらの方法を組み合わせてもよい。
【0026】
pHを制御する具体的な方法としては、後述するアルカリ剤、酸、又は廃酸等のpH調整成分を活性汚泥処理槽に添加する方法等を挙げることができる。これらのpH調整成分を、例えば活性汚泥処理槽内のpHを4.5以下、好ましくは2.5〜3.5とするか、又は9.5以上、好ましくは10〜12とすればよい。
【0027】
温度を制御して殺菌又は溶菌する場合には、例えば、活性汚泥処理槽内の温度を40〜100℃、好ましくは40〜80℃に制御すればよい。なお、加熱にかかるコストを考慮すると、40〜50℃に制御することがさらに好ましい。
【0028】
アルカリ剤の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、アンモニア等を挙げることができる。これらのアルカリ剤は、細菌の細胞壁(膜)に損傷を生じさせて破壊し、細菌を殺菌又は溶菌させる機能が大きく、さらには細菌を構成している細胞質を加水分解して機能障害を生じさせる機能を有し、しかも安価な化合物であるので好ましい。
【0029】
酸の具体例としては、硫酸、硝酸、塩酸等を挙げることができる。また、各種工場等から廃棄物として出される廃酸を有効に使用することもできる。なかでも、廃硝酸を使用することが好ましい。これらの酸又は廃酸は、細菌の細胞壁(膜)に損傷を生じさせて破壊し、細菌を殺菌又は溶菌させる機能があり、しかも安価な化合物であるので好ましい。
【0030】
殺菌又は溶菌作用を有する化合物の具体例としては、ソルビン酸、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸カルシウム、グルタルアルデヒド等のアルデヒド類、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、塩素化合物類、ポリアミン類、脂肪族アミン類、フェノール類、ニトロフラン類、トリクロルアルキルチオ基を有する化合物類、ジチオカルバメート類、アルコール類、プロテアーゼ、グルカナーゼ、アミラーゼ、モノパーオキシフタレートマグネシウム、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過炭酸ナトリウム、炭化ナトリウム等を挙げることができる。これらの化合物は、殺菌作用又は溶菌作用を有するにもかかわらず、強い毒性を有さず、さらにはpH依存性や温度依存性等の活性汚泥の性状に影響を及ぼすことがなく、コスト的にも有用である。
【0031】
酸化剤としては、例えば従来公知の化学酸化方法において使用されている酸化剤を挙げることができる。より具体的には、過酸化水素、過酸化カルシウム、過硫酸アンモニウム、アルキルヒドロペルオキシド、過酸化エステル、過酸化ジアルキル又はジアシル等を挙げることができる。なかでも、コストや副生物等の点からみて過酸化水素が最も好ましい。
【0032】
触媒として用いられる金属イオンとしては、鉄、チタン、セリウム、銅、マンガン、コバルト、バナジウム、クロム、鉛のイオン等を挙げることができる。なかでも、鉄イオンが好ましい。なお、これらの金属イオンを生ずるものであれば、金属単体、金属酸化物、金属塩、及び錯体等いずれであってもよい。
【実施例】
【0033】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の単なる例示であって、本発明の限定を意図するものではない。
【0034】
(被処理水の調製)
グルコース、ポリペプトン、酵母エキス、尿素、リン酸二水素カリウム、及び硫酸マグネシウムを成分とした模擬排水に、市販の大豆油を油脂分として300mg/Lとなるように添加し、BOD 2000mg/Lとした被処理水(1)を調製した。また、油脂分を加えないこと以外は被処理水(1)と同様にして、BOD 2000mg/Lとした被処理水(2)を調製した。調製した被処理水(1)及び(2)の水質を表1に示す。
【0035】
【0036】
(実施例1)
図3に示す処理装置を使用して被処理水(1)(水温:25℃)の生物処理を行った。なお、細菌槽10の容量は1L、及びHRT(水理学的滞留時間)は4.8時間であり、浸漬型の膜分離槽20の容量は5.7L、HRTは27.2時間、及びSRT(汚泥滞留時間)は30日であった。また、細菌槽10に対するBOD容積負荷を10kg/(m3・日)、処理槽全体(細菌槽10と膜分離槽20の合計)に対するBOD容積負荷を1.5kg/(m3・日)、及びHRTを32時間とする条件で処理を行った。処理を3ヶ月間実施し、処理水の水質、分離膜25における膜圧差、汚泥の粘度、及び汚泥濃度(MLSS)を測定するとともに、汚泥転換率を算出した。処理水の水質及び汚泥濃度の測定結果、並びに汚泥転換率の算出結果を表2に示す。また、処理日数(日)に対して、膜圧差(kPa)をプロットしたグラフを図1に示す。さらに、処理日数(日)に対して、汚泥の粘度(mPa・s)をプロットしたグラフを図2に示す。
【0037】
(実施例2、比較例1、及び参考例1)
表2に示す条件としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして被処理水(1)及び(2)の生物処理を行った。処理水の水質及び汚泥濃度の測定結果、並びに汚泥転換率の算出結果を表2に示す。また、処理日数(日)に対して、膜圧差(kPa)をプロットしたグラフを図1に示す。さらに、処理日数(日)に対して、汚泥の粘度(mPa・s)をプロットしたグラフを図2に示す。
【0038】
(実施例3)
表2に示す条件としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして被処理水(1)の生物処理を行った。なお、汚泥処理槽30を使用した殺菌又は溶菌処理は、以下の通りに実施した(図4参照)。すなわち、膜分離槽20中の汚泥の5体積%を汚泥処理槽30へと導入した後、pH2.5となるように68質量%の硝酸を添加し、常温(20℃)、HRT3時間で殺菌又は溶菌処理を行った。また、殺菌又は溶菌処理後の汚泥は、膜分離槽20へと返送し、通常のフローに従って生物処理を継続した。処理水の水質及び汚泥濃度の測定結果、並びに汚泥転換率の算出結果を表2に示す。また、処理日数(日)に対して、膜圧差(kPa)をプロットしたグラフを図1に示す。さらに、処理日数(日)に対して、汚泥の粘度(mPa・s)をプロットしたグラフを図2に示す。
【0039】
【0040】
(考察)
有機性廃水の処理に際しては、一般的に、分離膜における膜圧差が20kPa未満、及び汚泥の粘度が100mPa・s未満であれば、膜分離槽を用いた膜分離活性汚泥法を適用可能であると判断することができる。図1及び2に示すように、細菌槽を有する処理装置を使用した実施例1〜3では、処理開始から約3ヶ月間、膜差圧は20kPa未満、汚泥の粘度は100mPa・s未満で安定して推移した。これに対して、細菌槽を有しない処理装置を使用した比較例1では、処理開始から約1ヶ月には、膜圧差が上昇して20kPa以上になるとともに、汚泥の粘度も上昇して100mPa・s以上になった。
【0041】
表2に示すように、実施例1〜3で得られた処理水の水質は、比較例1で得られた処理水の水質と同等であった。このため、実施例1〜3では十分な生物処理を行えたことが明らかである。以上より、比較的高い濃度で油脂を含有する被処理水であっても、膜分離槽の前段(上流側)に細菌槽を設置した処理装置を使用することで、低い膜差圧で安定して処理できるとともに、余剰汚泥発生量を大幅に削減可能であることが判明した。
【0042】
また、実施例2と比較例1を比較すると、実施例2で使用した処理装置を構成する膜分離槽の容量(2.7L)は、比較例1で使用した処理装置を構成する膜分離槽の容量(6.7L)に比して大幅に小さい。しかしながら、実施例2では、比較例1に比して高いBOD容積負荷としても、長期間にわたって低い膜差圧で安定して処理できることが明らかである。
【0043】
なお、実施例3では、実施例2に比して、汚泥転換率をより低く抑えることができた。すなわち、汚泥処理槽を組み合わせ、活性汚泥の一部を殺菌又は溶菌処理することにより、余剰汚泥発生量をさらに削減可能であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の有機性廃水の処理方法を用いれば、動植物油等の油脂を含有する有機性廃水を、油脂を除去するための大掛かりな設備を増設することなく、安定して処理することができる。
【符号の説明】
【0045】
10:細菌槽
20:膜分離槽
25:分離膜
30:汚泥処理槽
図1
図2
図3
図4
図5