(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルム、及び、前記第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムのそれぞれ非接合部及び接合部の延伸倍率が、いずれも5.25倍以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
まず、本実施形態の偏光フィルムの製造方法を実施するための好ましい延伸装置について図面を参照しつつ説明する。
本実施形態の延伸装置は、帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下「原反フィルム」、あるいは、単に「フィルム」ともいう)がロール状に巻回された原反ロールから前記原反フィルム1が送り出される原反フィルム供給部3と、送り出された原反フィルム1を所定の薬液に浸漬するための複数の浸漬浴4と、該浸漬浴4内に前記原反フィルム1を通すように、原反フィルム1の移動経路を規制する複数のローラ9と、該移動経路中にて原反フィルム1を延伸する延伸部と、複数の浸漬浴4に浸漬され且つ延伸されたフィルムを偏光フィルムとしてロール状に巻き取る偏光フィルム巻取部10とが備えられている。
【0023】
図1、
図2は、好ましい延伸装置の一態様を示す概略斜視図である。
図1に示すように、複数の浸漬浴4として、フィルムの流れ方向上流側から順に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤させる膨潤液の貯留された膨潤浴4a、膨潤されたフィルムを染色する染色液の貯留された染色浴4b、フィルムを構成している樹脂の分子鎖を架橋させる架橋剤液の貯留された架橋浴4c、浴内でフィルムを延伸するための延伸浴4d、及び、該延伸浴4dに通されたフィルムを洗浄する洗浄液が貯留された洗浄浴4eという5種類の浸漬浴4が延伸装置に備えられている。
【0024】
また、本態様の延伸装置には、フィルムの移動経路における洗浄浴4eの下流側で且つ巻取部10の上流側に、フィルムを乾燥させる乾燥装置11、具体的には乾燥オーブンが備えられている。
更に、本態様の延伸装置においては、ロール状に巻回された表面保護フィルム(例えば、トリアセチルセルロースフィルムやシクロオレフィンポリマーフィルム)等の積層用フィルム12が前記乾燥装置11で乾燥されたフィルムの両面側にそれぞれ配されており、乾燥後のフィルムの両面に積層用フィルム12を積層させるためのラミネート装置が備えられている。
【0025】
前記延伸部としては、所謂ロール延伸部9aが採用されている。即ち、前記移動経路中において、フィルムを間で狭持し且つ流れ方向下流側に送り出すように構成された対をなすニップローラ9aが複数組配され且つ流れ方向下流側の組の周速度が上流側よりも高速とされてなる構成が採用されている。
【0026】
更に、本延伸装置は、2以上の原反フィルムを連続的に延伸させ得るように構成されており、この2以上の原反フィルムの内の第一の原反フィルムの末端部と、第二の原反フィルムを連結するための装置が備えられている。すなわち、本延伸装置には、
図2に示すように、先行する第一の原反フィルム1の末端部1aが規制された移動経路に通される前に、具体的には、浸漬浴4に通される前に、この第一の原反フィルム1の末端部1aと該原反フィルム1に次いで移動経路内に通す新たなる原反フィルム(第二の原反フィルム)の先端部1bとをレーザー溶着にて接合させて連結するための連結装置(
図2に図示せず)が備えられている。
尚、
図2に於いては、レーザー照射によって接合された部分(溶着部)を黒塗り部30で示している。
【0027】
次に、
図3を参照しつつ好ましい連結装置について説明する。
この
図3は、レーザー溶着によって原反フィルム同士を接合させて連結する連結装置を示す概略構成図である。
図3は、連結される原反フィルムをその側面からTD方向(幅方向)に向かって見た連結装置の正面図が示されている。
この
図3に示すように、前記連結装置は、平坦な上面部を有するステージ40と、該ステージ40の上方に配され、上下方向に移動可能に配された加圧部材50と、該加圧部材50の上方に配されたレーザー光源(図示せず)とを有しており、先行する第一の原反フィルム1の末端部1aと、これに連結する新たな第二の原反フィルム1の先端部1bとを前記ステージ40上において上下に重ね合わせ、この重ね合わせた部分を前記加圧部材50で加圧しつつ前記レーザー光源からレーザー光Rを照射することにより、前記末端部1aと前記先端部1bとの界面部を加熱溶融させて溶着させ得るように構成されており、前記加圧部材50がレーザー光Rの透過性に優れた透明な部材で構成されている。
【0028】
なお、前記連結装置には、前記末端部1aと前記先端部1bとの界面部におけるレーザー光Rの光吸収性を高め、より効率良く溶着を実施させ得るように、前記界面部において面接させる前記末端部1aか前記先端部1bかのいずれかの表面(又は両面)に予め光吸収剤を塗布する塗布装置を備えさせることも可能である。
【0029】
なお、ここで使用する光吸収剤としては、レーザー光Rを吸収して熱を発生させるものであれば特に限定がされず、カーボンブラック、顔料、染料、水などを用いることが出来る。
例えば、フタロシアニン系吸収剤、ナフタロシアニン系吸収剤、ポリメチン系吸収剤、ジフェニルメタン系吸収剤、トリフェニルメタン系吸収剤、キノン系吸収剤、アゾ系吸収剤、ジインモニウム塩などを用いることが出来る。
また、800nm〜1200nmの波長を有するレーザー光Rを発するレーザー光源を用いる場合には、例えば、米国Gentex社製から商品名「Clearweld(登録商標)」として市販の光吸収剤を用いることが出来る。
【0030】
これらの吸収剤は有機溶媒などで希釈して、前記塗布装置で塗布させることができ、該塗布装置としては、例えば、ディスペンサー、インクジェットプリンター、スクリーン印刷機、2流体式、1流体式又は超音波式スプレー、スタンパー、コーターなどの一般的な塗布装置を採用することができる。
【0031】
また、当該連結装置において利用するレーザー光源の種類も特に限定がされるものではないが、用いるレーザー光は、新旧原反フィルムを重ね合わせた部分における新旧原反フィルムの界面において一方もしくは両方の原反フィルム表面に塗布するなどして配置された光吸収剤によって吸収され、発熱させる役目を担うものであって、用いる光吸収剤の吸収感度の高い波長を有することが好ましい。
【0032】
具体的には、レーザー光の種類としては、可視光域もしくは赤外線域の波長を有する半導体レーザー、ファイバーレーザー、フェムト秒レーザー、ピコ秒レーザー、YAGレーザーなどの固体レーザー、CO
2レーザーなどのガスレーザーが挙げられる。
なかでも、安価で且つ面内均一なレーザービームが容易に得られる半導体レーザーやファイバーレーザーが好ましい。
また、原反フィルムの分解を避けつつ溶融を促す目的においては、瞬間的に高いエネルギーが投入されるパルスレーザーよりも連続波のCWレーザーのほうが好ましい。
レーザー光の出力(パワー)、ビームサイズ及び形状、照射回数、更に走査速度などは、対象となる原反フィルム及び光吸収剤の光吸収率といった光学特性や原反フィルムを構成しているポリマーの融点、ガラス転移点(Tg)といった熱特性などの違いに対して適宜最適化されればよいが、レーザーが照射された部分においてポリビニルアルコール系樹脂を効率的に流動化させて強固な接合を得るために、照射するレーザー光のパワー密度としては、200W/cm
2〜10,000W/cm
2の範囲内であることが好ましく、300W/cm
2〜5,000W/cm
2の範囲内であることがさらに好ましく、1,000W/cm
2〜3,000W/cm
2の範囲内であることが特に好ましい。
【0033】
また、かかるレーザー照射条件は、後述するように、接合部の初期弾性率が、非接合部の初期弾性率に対して65%以上100%以下となるような接合が可能であれば、特に限定されるものではない。
【0034】
また、連結装置において利用するレーザー光源は、新旧原反フィルムの界面において所定の大きさのスポット径(照射幅)でレーザー光を照射しうるものが好ましい。
この照射スポット径(照射幅)としては、前記照射レーザーパワー密度を満たすパワーにて、新旧原反フィルム重ね合わせ幅の1/10以上3倍以下が好ましい。
重ね合わせ幅の1/10未満では、重ね合わせ部の未接合部が大きく、接合後に搬送する際にばたついて、良好な搬送性を阻害するおそれを有する。
また、3倍を超える幅でレーザー光を照射すると、接合及び延伸特性には影響は及ぼさないものの、エネルギー利用効率の観点からは好ましくない。
好ましくは、重ね合わせ幅の1/5以上2倍以下である。
なお、新旧原反フィルムの重ね合せ幅は、小さくなると、繰り返し精度よく広幅な原反フィルムを重ね合わせ配置することが難しくなるおそれがあり、大きくなると、未接合領域が大きくなり、接合後に搬送する際にフィルムのばたつきが発生するおそれがある。従って、かかる新旧原反フィルムの重ね合せ幅は、例えば、このような観点を考慮して適宜設定することができる。
また、レーザー光のビーム形状は、円形であってもよいし、より高いパワー密度を得る観点から線状であってもよい。
【0035】
なお、レーザー光の積算照射量としては、5J/cm
2〜400J/cm
2の範囲内であることが好ましく、10J/cm
2〜300J/cm
2の範囲内であることが更に好ましく、30J/cm
2〜150J/cm
2の範囲内であることが特に好ましい。
したがって、これらの条件を満たすことのできるレーザー光源を連結装置に採用することが好ましい。
【0036】
このようなレーザー光の照射において重ね合わせた前記新旧原反フィルム(旧原反フィルムの末端部1aと新原反フィルムの先端部1b)をステージ上で加圧する加圧部材50としては、用いるレーザー光に対して高い透明性を示すガラス製の部材を用いることが出来る。
レーザー光の照射に際する加圧強度としては、0.5〜100kgf/cm
2の範囲内であることが好ましく、10〜70kgf/cm
2の範囲内であることが更に好ましい。
したがって、前記連結装置において好ましく採用される加圧部材50としては、このような強度で加圧することが可能な部材であればそのガラス部材の形状は特に限定されず、例えば、平板、円筒、球状のものを使用することが出来る。
ガラス部材の厚みは特に限定されないが、薄すぎると歪みによって良好な加圧ができず、厚すぎるとレーザー光の利用効率が下がるため、レーザー光が透過する方向における厚みが3mm以上30mm未満であることが好ましく、5mm以上20mm未満であることが更に好ましい。
【0037】
加圧部材50の材質としては、例えば、石英ガラス、無アルカリガラス、テンパックス、パイレックス(登録商標)、バイコール、D263、OA10、AF45、ゼロデュアなどが挙げられる。
レーザー光Rの利用効率を高めるために、加圧部材50として利用するガラス製部材は、用いるレーザー光波長に対して高い透明性を有することが好ましく、50%以上の光透過率を有していることが好ましく、70%以上の光透過率を有していることが更に好ましい。
【0038】
なお、加圧部材50を上記のようなガラス製の部材を用いて構成させる場合には、より広い面積をより均一に加圧して全域にわたって良好な接合を行わせ得るように、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムと接する部分に、前記ガラス製部材よりもクッション性に優れたクッション層を形成させることもできる。
すなわち、光透過性の良好なラバーシートやクッション性を有する透明樹脂シート等を備えた加圧部材50を採用することもでき、例えば、背面側がガラス製部材で構成され、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムと接する前面側が透明ラバーシートで構成された加圧部材50を採用することができる。
【0039】
前記クッション層の形成には、例えば、シリコンラバー、ウレタンラバーなどのゴム系材料やポリエチレンなどの樹脂材料を用いることが出来る。
このクッション層の厚みは、50μm以上5mm未満であることが好ましく、1mm以上3mm未満が更に好ましい。
50μm未満であると、クッション性に乏しく、5mm以上の場合は、当該クッション層によってレーザー光の吸収や散乱が生じ、前記末端部1aと先端部1bとの接触界面部に到達するレーザー光のエネルギーを低下させるおそれを有する。
このクッション層は、用いるレーザー光波長に対して30%以上の光透過率を有することが好ましく、50%以上が更に好ましい。
また、かかるクッション層と同様のクッション層を、ステージ40の上面に配することもできる。ステージ40上に配する場合には、クッション層を形成するための材料の光学特性、すなわち光透過性は特に限定されず、上記したようなシリコンラバー等に加えて、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ノルボルネン樹脂、シクロオレフィンポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリイミド、トリアセチルセルロースなどを用いることもできる。
【0040】
本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、重ね合わせた新旧原反フィルムの重ね合わせ部分に沿ってレーザー溶着を実施して、ライン状の溶着部を形成させ得るように前記連結装置が構成されていることが好ましく、例えば、集光レンズによって所望のビームサイズに集光されたスポットビームを重ね合わせ部分に沿って走査させるための機構や、シリンドリカルレンズや回折光学素子といった光学部材の使用によってライン状のレーザービームを整形して原反フィルムの重ね合わせ部に照射する機構、更には複数のレーザー光源を重ね合わせ部に沿って配置し、無走査で同時照射することで一括溶融加熱接合する機構などが備えられていることが好ましい。
【0041】
なお、ここでは詳述しないが、上記のような連結装置には、一般的なレーザー溶着装置ならびにその周辺機器において利用されている種々の機構を採用することができる。
【0042】
次いで、このような連結装置を備えた延伸装置を利用して偏光フィルムを製造する方法について説明する。
【0043】
本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、複数の帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用い、各ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを先端側から移動経路に送り入れて該移動経路中で長手方向に延伸する第1の工程と、先行する第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの末端部と次の第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの先端部とを重ね合わせ、溶着により接合して連結する第2の工程と、を有し、連続して偏光フィルムを製造する。
また、前記第2の工程では、接合部の初期弾性率が、非接合部の初期弾性率に対して65%以上100%以下となるように接合する。
【0044】
具体的には、本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、前記第1の工程として、前記原反フィルムを膨潤浴4aに浸漬させて膨潤させる膨潤工程、膨潤されたフィルムを染色浴4bに浸漬させて染色する染色工程、染色されたフィルムを架橋浴4cに浸漬させてフィルムを構成している樹脂の分子鎖を架橋させる架橋工程、及び、該架橋工程後のフィルムを延伸浴4d内で延伸する延伸工程を実施する。
すなわち、本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、最終的に目標の延伸倍率となるように膨潤浴4aから延伸浴4dの各浴において延伸を実施する。
また、本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、前記延伸工程後のフィルムを洗浄する洗浄工程、該洗浄されたフィルムを乾燥装置11で乾燥させる乾燥工程、該乾燥後のフィルムに表面保護フィルムを積層する積層工程を実施する。
【0045】
そして、本実施形態の偏光フィルムの製造方法は、一つの原反ロールを前記原反フィルム供給部3にセットして、この原反フィルム供給部3から原反フィルムを連続的に送り出して、その移動経路において上記の工程を実施させて最終的に積層工程を終えた製品(偏光フィルム)を偏光フィルム巻取部10においてロール状に巻き取る巻取り工程を実施することによってなされるもので、複数の原反ロールを用意しておいて、その内の第一の原反ロールが終了する前に、新たな第二の原反ロールから原反フィルムを繰り出して、この新たな原反フィルムの先端部1bを先行している第一の原反ロールの末端部1aに接合して連結する連結工程を前記第2の工程として別途実施する。
このことにより、引き続き、この新たなる原反ロールから原反フィルムを延伸装置に供給し前記第1の工程を実施して、偏光フィルムを連続的に製造させる。また、かかる第1の工程及び第2の工程を繰り返し実施することにより、順次連続して偏光フィルムを製造させることができる。
【0046】
なお、このような工程に供する原反フィルム(帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルム)としては、以下のようなものが採用可能である。
【0047】
本実施形態の偏光フィルムの製造方法に用いる原反フィルムとしては、偏光フィルムの原材料として用いられるポリビニルアルコール系高分子樹脂材料からなるフィルムを用いることができ、具体的には、例えば、ポリビニルアルコールフィルム、部分ケン化ポリビニルアルコールフィルム又はポリビニルアルコールの脱水処理フィルムなどを用いることができる。
通常、これらの原反フィルムは、上記に述べたようにロール状に巻回された原反ロールの状態で用いる。
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの形成材料であるポリマーの重合度は、一般に500〜10,000であり、1,000〜6,000の範囲であることが好ましく、1,400〜4,000の範囲にあることがより好ましい。
さらに、部分ケン化ポリビニルアルコールフィルムの場合、そのケン化度は、例えば、水への溶解性の点から、75モル%以上が好ましく、より好ましくは98モル%以上であり、98.3〜99.8モル%の範囲にあることがより好ましい。
【0048】
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムとしては、水または有機溶媒に溶解した原液を流延成膜する流延法、キャスト法、押し出し法等任意の方法で成膜されたものを適宜使用することが出来る。
原反フィルムの位相差値は、5nm〜100nmのものが好ましい。
また、面内均一な偏光フィルムを得る為に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム面内の位相差バラツキはできるだけ小さいほうが好ましく、原反フィルムとしてのポリビニルアルコール系樹脂フィルムの面内位相差バラツキは、測定波長1000nmにおいて10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることが更に好ましい。
【0049】
なお、レーザー溶着により接合される時の吸水状態としては、2質量%〜15質量%の吸水率であることが好ましく、4質量%〜10質量%の吸水率が更に好ましい。
連結される前の原反フィルムが15質量%を超える吸水率を有すると、レーザー溶着時において加熱溶融部に水分蒸発による発泡が生じやすくなり、接合不良を起こすおそれを有する。
逆に吸水率が2質量%未満の場合は、原反フィルムをレーザーで加熱した部分における樹脂流動性が乏しくなって、接合効率の低下を招くおそれを有する。
このようなことから、接合に際して用いる原反フィルムの吸水率は上記のような範囲内であることが好ましい。
なお、この吸水率については、乾燥前後の質量を比較することによって求められ、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを83℃×1時間加熱して、その加熱減量を加熱前のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの質量で除して求めることができる。
【0050】
次に、上記原反フィルムに前記延伸装置で延伸を加えて偏光フィルムに加工するための各工程について説明する。
【0051】
(膨潤工程)
本工程においては、例えば、原反フィルム供給部3から送出される原反フィルムを前記ローラ9によって移動速度を一定に維持しつつ水で満たされた膨潤浴4aに案内して水中に前記原反フィルムを浸漬させる。
これにより原反フィルムが水洗され、原反フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるとともに、原反フィルムを水で膨潤させることで染色ムラ等の不均一性を防止する効果が期待できる。
【0052】
前記膨潤浴4aの中の膨潤液には、水以外にグリセリンやヨウ化カリウムなどを適宜添加しておいてもよく、これらを添加する場合には、その濃度は、グリセリンであれば5質量%以下、ヨウ化カリウムでは10質量%以下とすることが好ましい。
膨潤液の温度は、20〜45℃の範囲とすることが好ましく、25〜40℃とすることが更に好ましい。
前記原反フィルムが前記膨潤液に浸漬される浸漬時間は、2〜180秒間とすることが好ましく、10〜150秒間とすることがより好ましく、30〜120秒間とすることが特に好ましい。
また、この膨潤浴中でポリビニルアルコール系樹脂フィルムを長さ方向に延伸してもよく、そのときの延伸倍率は膨潤による伸展も含めて1.1〜3.5倍程度とすることが好ましい。
【0053】
(染色工程)
前記膨潤工程を経たフィルムには、膨潤工程と同様にローラ9によって染色浴4bに貯留されている染色液中に浸漬させて染色工程を実施する。
例えば、ヨウ素等の二色性物質を含む染色液に膨潤工程を経たポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬することによって、上記二色性物質をフィルムに吸着させる方法を採用して前記染色工程を実施することができる。
前記二色性物質としては、従来公知の物質が使用でき、例えば、ヨウ素や有機染料等が挙げられる。
【0054】
有機染料としては、例えば、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、エロー3G、エローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラック等が使用できる。
これらの二色性物質は、一種類のみ使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0055】
前記有機染料を用いる場合は、例えば、可視光領域のニュートラル化を図る点から、二種類以上を組み合わせることが好ましい。
具体例としては、コンゴーレッドとスプラブルーG、スプラオレンジGLとダイレクトスカイブルーの組合せ、又は、ダイレクトスカイブルーとファーストブラックとの組合せなどが挙げられる。
前記染色浴の染色液としては、前記二色性物質を溶媒に溶解した溶液を使用できる。
前記溶媒としては、水を一般的に使用できるが、水と相溶性のある有機溶媒を更に添加して用いても良い。
この染色液における二色性物質の濃度としては、0.010〜10質量%の範囲とすることが好ましく、0.020〜7質量%の範囲とすることがより好ましく、0.025〜5質量%とすることが特に好ましい。
【0056】
また、前記二色性物質としてヨウ素を使用する場合、染色効率をより一層向上できることから、更にヨウ化物を添加することが好ましい。
このヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。
これらヨウ化物の添加割合は、前記染色浴において、0.010〜10質量%とすることが好ましく、0.10〜5質量%とすることがより好ましい。
これらの中でも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましく、ヨウ素とヨウ化カリウムの割合(質量比)は、1:5〜1:100の範囲とすることが好ましく、1:6〜1:80の範囲とすることがより好ましく、1:7〜1:70の範囲とすることが特に好ましい。
【0057】
前記染色浴へのフィルムの浸漬時間は、特に限定されるものではないが、0.5〜20分の範囲とすることが好ましく、1〜10分の範囲が更に好ましい。また、染色浴の温度は、5〜42℃の範囲とすることが好ましく、10〜35℃の範囲とすることがより好ましい。
また、この染色浴中でフィルムを長さ方向に延伸しても良く、このときの累積した総延伸倍率は、1.1〜4.0倍程度とすることが好ましい。
なお、染色工程としては、前述のような染色浴に浸漬する方法以外に、例えば、二色性物質を含む水溶液を前記ポリマーフィルムに塗布又は噴霧する方法を採用しても良い。
また、本発明においては、染色工程を行わずに、用いる原反フィルムとして、予め二色性物質が混ぜられたポリマー原料で成膜されたフィルムを採用しても良い。
【0058】
(架橋工程)
次いで、架橋剤液を貯留する架橋浴4cにフィルムを導入し、前記架橋剤液中にフィルムを浸漬して架橋工程を実施する。
前記架橋剤としては、従来公知の物質を使用できる。
例えば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物や、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどを使用できる。
これらは一種類のみ用いても良いし、二種類以上を併用しても良い。
二種類以上を併用する場合には、例えばホウ酸とホウ砂の組合せが好ましく、また、その添加割合(モル比)は、4:6〜9:1の範囲とすることが好ましく、5.5:4.5〜7:3の範囲とすることがより好ましく、6:4とすることが最も好ましい。
前記架橋浴の架橋剤液としては、前記架橋剤を溶媒に溶解したものを使用できる。
前記溶媒としては、例えば水を使用できるが、更に水と相溶性のある有機溶媒を併用しても良い。前記架橋剤液における架橋剤の濃度は、特に限定されるものではないが、1〜10質量%の範囲とすることが好ましく、2〜6質量%とすることがより好ましい。
【0059】
前記架橋浴中の架橋剤液には、偏光フィルムに面内均一な特性を付与させるべくヨウ化物を添加しても良い。
このヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンなどが挙げられ、これらを添加する場合におけるヨウ化物の含有量は0.05〜15質量%とすることが好ましく、0.5〜8質量%とすることがより好ましい。
架橋剤とヨウ化物の組合せとしては、ホウ酸とヨウ化カリウムの組合せが好ましく、ホウ酸とヨウ化カリウムの割合(質量比)は、1:0.1〜1:3.5の範囲とすることが好ましく、1:0.5〜1:2.5の範囲とすることが更に好ましい。
【0060】
前記架橋浴における架橋剤液の温度は、通常、20〜70℃の範囲とすることが好ましく、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの浸漬時間は、通常、1秒〜15分の範囲の内のいずれかの時間とされ、5秒〜10分とされることが好ましい。
当該架橋工程においては、架橋浴中でフィルムを長さ方向に延伸してもよく、このときの累積した総延伸倍率は、1.1〜5.0倍程度とすることが好ましい。
なお、架橋工程としては、染色工程と同様に、架橋剤液中に浸漬させる処理方法に代えて、架橋剤含有溶液を塗布又は噴霧する方法によって実施しても良い。
【0061】
(延伸工程)
前記延伸工程は、染色、架橋されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、例えば、後述するように累積した総延伸倍率が5.25〜8倍程度となるようにその長さ方向に延伸する工程であり、湿式延伸法では、延伸浴に貯留された溶液中にフィルムを浸漬した状態でその長さ方向に張力を加えて延伸を実施する。
延伸浴に貯留する溶液としては、特に限定されるわけではないが、例えば、各種金属塩、ヨウ素、ホウ素又は亜鉛の化合物の添加された溶液を用いることが出来る。
この溶液の溶媒としては、水、エタノールあるいは各種有機溶媒を適宜用いることが出来る。
なかでも、ホウ酸及び/又はヨウ化カリウムをそれぞれ2〜18質量%程度添加した溶液を用いることが好ましい。
このホウ酸とヨウ化カリウムを同時に用いる場合には、その含有割合(質量比)は、1:0.1〜1:4程度、より好ましくは、1:0.5〜1:3程度の割合で用いることが好ましい。
前記延伸浴における溶液の温度としては、例えば、40〜67℃の範囲とすることが好ましく、50〜62℃とすることがより好ましい。
【0062】
(洗浄工程)
該洗浄工程は、例えば、水などの洗浄液の貯留された洗浄浴にフィルムを通すことにより、これより前の処理で付着したホウ酸等の不要残存物を洗い流す工程である。
前記水には、ヨウ化物を添加することが好ましく、例えば、ヨウ化ナトリウム又はヨウ化カリウムを添加することが好ましい。
洗浄浴の水にヨウ化カリウムを添加する場合、その濃度は通常0.1〜10質量%、好ましくは3〜8質量%とされる。
更に、洗浄液の温度は、10〜60℃とすることが好ましく、15〜40℃とすることがより好ましい。
また、洗浄処理の回数、すなわち、洗浄液に浸漬した後、洗浄液から引き上げる繰り返し回数は、特に限定されることなく複数としてもよく、複数の洗浄浴に添加物の種類や濃度の異なる水を貯留しておき、これらにフィルムを通すことにより洗浄工程を実施してもよい。
なお、フィルムを各工程における浸漬浴から引き上げる際には、液ダレの発生を防止するために、従来公知であるピンチロール等の液切れロールを用いたり、エアナイフによって液を削ぎ落としたりするなどの方法により、余分な水分を取り除いても良い。
【0063】
(乾燥工程)
前記洗浄工程において洗浄を行ったフィルムは、前記乾燥機11に導入し、自然乾燥、風乾燥、加熱乾燥など、適宜最適な方法で乾燥させて当該乾燥工程を実施することができる。
この内、加熱乾燥による乾燥工程を実施する場合であれば、加熱乾燥の条件は、加熱温度を20〜80℃程度、乾燥時間を1〜10分間程度とすることが好ましい。
更には、乾燥温度は前記方法に関わらずフィルムの劣化を防ぐ目的としてできるだけ低温にすることが好ましい。
より好ましくは60℃以下であり、45℃以下とすることが特に好ましい。
【0064】
(積層工程)及び(巻取り工程)
本実施形態においては、以上のような工程を経たフィルムを巻取りローラにて巻き取る巻取り工程を実施することによりロール状に巻回された偏光フィルムを得ることができる。
なお、本実施形態においては、乾燥工程にて乾燥させた偏光フィルムの表面片側もしくは両側に適宜表面保護用フィルムなどを積層させる積層工程を実施してから巻取り工程を実施するようにしてもよい。
このように製造される偏光フィルムの最終的な総延伸倍率は、原反フィルムに対して、5.25〜8.0倍の範囲の内のいずれかの延伸倍率であることが好ましく、5.5〜7.0倍の範囲の内のいずれかの延伸倍率であることがより好ましい。
上記のような延伸倍率が好ましいのは、最終的な総延伸倍率が5.25倍未満では、高い偏光特性を有する偏光フィルムを得ることが難しく、8.0倍を超えると、フィルムに破断を生じさせるおそれを有するためである。
【0065】
また、かかる偏光フィルムの最終的な総延伸倍率は、非接合部(すなわち原反フィルム)においては5.25〜8.0倍の範囲の内のいずれかの延伸倍率であることが好ましく、5.5〜7.0倍の範囲の内のいずれかの延伸倍率であることがより好ましい。
【0066】
(連結工程)
前記のように本実施形態においては、一つの原反ロールの全てが延伸装置に供給されてしまう前に、更に次の原反ロールからポリビニルアルコール系樹脂フィルム(原反フィルム)を繰り出させて、この新たな原反フィルムの先端部1bを延伸装置で各工程が実施されている原反ロールの末端部1aに重ね合わせた状態で接合して連結する連結工程(前記第2の工程)を実施する。また、連結工程においては、先端部1bと末端部1aとを重ね合わせ、接合部の初期弾性率が、非接合部の初期弾性率に対して65%以上100%以下となるように接合する。
このように先行する第一の原反フィルムの末端部と、次の原反フィルムの先端部とを接合することによって、高い偏光機能を付与するために必要な、高い延伸倍率、例えば、5.25倍以上の延伸倍率においても破断が発生しない連結が可能となり、接合部が通過する場合においても延伸条件を変更することなく第二の原反フィルムを延伸する工程(前記第1の工程)に移行することができ効率よく偏光フィルムを製造することができる。
すなわち、第一の原反フィルムと第二の原反フィルムとを、延伸条件を変えずに延伸装置に連続通紙できることによって、作業効率の向上、生産性の向上、歩留まりの向上及び材料ロスの削減効果が得られる。
【0067】
なお、この連結工程は、第一の原反フィルムを延伸する工程(前記第1の工程)を完全に終了させた後に実施する必要は無く、例えば、前記第1の工程の後段側において、該第1の工程と並行して実施することができる。
例えば、前記連結装置と前記膨潤浴4aとの間にアキュムレータを備えた延伸装置を使用して第一の原反ロールを前記アキュムレータを通じて膨潤浴4aに供給し、該第一の原反ロールの巻き終わり部分に差し掛かった際に、その末端部を停止状態にさせつつも前記アキュムレータに蓄積した原反フィルムを膨潤浴4a側に供給して、前記第一の原反フィルムの延伸(前記第1の工程)を実施しつつ、新たなる原反ロールの先端部と前記末端部とのレーザー溶着による連結工程を実施させることができる。
【0068】
また、予め2本の帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを連結する連結工程を実施した後に、連結した帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの内の一方のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの延伸(前記第1の工程)を開始しても良い。
【0069】
前記連結工程は、前記第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの末端部と前記第二の帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの先端部とを重ね合わせ、このように重ね合わせた前記末端部と前記先端部との界面部をレーザー溶着することによって実施することができる。具体的には、先行するフィルムの末端部1aと新たなるフィルムの先端部1bの内のいずれか一方、あるいは、両方の表面に光吸収剤を塗布して、ステージ40の上で新旧原反フィルムを上下に重ね合わせた配置とし、この重ね合わせ部を前記加圧部材50で加圧しつつレーザー光をこの重ね合わせ部に照射してフィルム界面において互いの樹脂を相溶させて溶着部30を形成させることによって実施し得る。
【0070】
この際、接合部の初期弾性率が、非接合部の初期弾性率に対して65%以上100%以下となるように接合できるように、上記したレーザー光のパワー密度や積算照射量等の条件を適宜設定し、設定された条件で重ね合わせ部にレーザー光を照射する。
【0071】
このように、本実施形態ではレーザー光によって溶着することによって、新旧原反フィルムの重ね合わせ部において界面及びその近傍のみを選択的(局所的)に発熱させて加熱することが可能となるため、接合部が軟化し易くなる。これにより、接合部の初期弾性率が、非接合部の初期弾性率に対して65%以上100%以下となるような接合を実行し易くなる。
【0072】
接合部の初期弾性率が、非接合部の初期弾性率に対して65%未満となるように接合すると、非接合部に対して接合部が柔らか過ぎるため、延伸工程において、延伸倍率を5.25倍以上に設定しつつ連続してポリビニルアルコール系樹脂フィルムを延伸した際に接合部と非接合部との境界部分で破断し易くなる。特に、接合部が過度に柔らか過ぎると、接合部において破断し易くなる。
これに対し、接合部の初期弾性率が、非接合部の初期弾性率の65%以上となるように接合することにより、接合部が柔らか過ぎることがなく、接合部の硬さが非接合部の硬さに十分に近づくため、上記境界部分での応力集中を十分に緩和することができる。従って、延伸倍率を5.25倍以上に設定しつつ連続してポリビニルアルコール系樹脂フィルムを延伸することが可能となる。
また、上記応力集中をより十分に緩和するという観点から、上記接合部の初期弾性率が、上記非接合部の初期弾性率に対して70%以上となるように接合することが好ましい。
【0073】
一方、上記接合部の初期弾性率が、上記非接合部の初期弾性率に対して100%を超えるように接合すると、非接合部に対して接合部が硬過ぎるため、延伸工程において上記境界部分に応力が集中し易くなることから、破断が生じ易くなる。
これに対し、上記接合部の初期弾性率が上記非接合部の初期弾性率に対して100%以下となるように接合することにより、非接合部に対して接合部が硬過ぎることがなく、接合部の硬さが非接合部の硬さに十分に近づくため、上記境界部分での応力集中を緩和することができる。従って、延伸倍率を5.25倍以上に設定しつつ連続してポリビニルアルコール系樹脂フィルムを延伸することが可能となる。
また、上記応力集中をより十分に緩和するという観点から、上記非接合部の初期弾性率に対して90%以下となるように接合することが好ましい。
【0074】
ここで、上記接合部の初期弾性率は、以下のようにして測定することができる(
図4〜
図6参照)。
すなわち、接合部31における、(ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの長手方向長さ1.5mm)×(ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向長さ20mm)の領域33を切り取る。続いて、固定部チャック37と可動チャック38とを有する引張試験装置(不図示)を用い、切り取られた接合部たる接合部切片35を、室温20℃環境下、初期チャック間距離10mm、引張速度0.1mm/minで長手方向(すなわち上記幅方向、
図6のTD方向)に引っ張ることにより引張試験を行い、接合部切片35について応力とひずみとを測定して、応力−ひずみ曲線を得る。そして、得られた応力−ひずみ曲線における応力1N/mm
2での接線の傾きを算出する(
図7参照)。このように算出された接線の傾きが、接合部の初期弾性率である。
また、非接合部32における、(上記長手方向長さ
3.0mm)×(上記幅方向長さ20mm)の領域34を切り取る。続いて、上記と同様に、固定部チャック37と可動チャック38とを有する引張試験装置(不図示)を用い、切り取られた非接合部たる非接合部切片36を、室温20℃環境下、初期チャック間距離10mm、引張速度0.1mm/minで長手方向(すなわち上記幅方向、
図6のTD方向)に引っ張ることにより引張試験を行い、非接合部切片36について応力とひずみとを測定して、応力−ひずみ曲線を得る。そして、得られた応力−ひずみ曲線における応力1N/mm
2での接線の傾きを算出する。このように算出された接線の傾きが、非接合部の初期弾性率である。
なお、引張試験装置として、熱分析測定装置(TMA、エスアイアイナノテクノロジー社製、EXSTAR TMA/SS6200)を用いることができる。
また、非接合部切片の短手方向長さ3.0mmを接合部切片の短手方向長さ1.5mmの2倍としたのは、2つのポリビニルアルコール系樹脂フィルムを重ね合わせて接合することにより接合部の厚みが非接合部の厚みに対して2倍となるところ、接合部切片と非接合部切片との断面積を等しくするためである。
【0075】
上記したように、接合部の初期弾性率が、非接合部の初期弾性率に対して65%以上100%以下となるように接合することにより、接合部と非接合部との境界部分への延伸による応力の集中を緩和することができる。これにより、例えば、5.25倍以上の延伸倍率で延伸しても上記境界における破断の発生を回避することが可能となり、接合部が通過する場合においても延伸条件を変更することなく、連続的に延伸を加えられる。従って、作業効率の向上、生産性の向上、歩留まりの向上及び材料ロスの削減効果が得られる。
【0076】
また、レーザー溶着によって接合することにより、末端部と先端部との界面及びその近傍のみを局所的に加熱することが可能となり、接合部において硬化する領域を小さくすることができるため、接合部の初期弾性率が、非接合部に対して65%以上100%以下となるように接合し易くなる。
【0077】
これに対し、例えば、ヒートシーラーによって接合する場合には、末端部と接合部とが厚み方向に全体的に加熱されるため、接合部における硬化する領域が大きくなることから、接合部の初期弾性率が、非接合部の初期弾性率に対して65%以上100%以下となるように接合することが困難な傾向にある。
【0078】
よって、本実施形態のようにレーザー溶着による接合の方が、ヒートシーラーによる接合よりも好ましい。ただし、接合部の初期弾性率が、非接合部の初期弾性率に対して65%以上100%以下となるように接合することが可能であれば、ヒートシーラーによって接合してもよく、また、その他の接合方法を用いて接合してもよい。
【0079】
なお、本実施形態の製造方法によって製造される偏光フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、非接合部の厚みが5μm〜40μmであることが好ましい。
非接合部の厚みが5μm以上であれば機械的強度が低下することはなく、また40μm以下であれば光学特性が低下せず、画像表示装置に適用しても薄型化を実現できる。
【0080】
本実施形態により製造された偏光フィルムは、液晶セル基板に積層される偏光フィルムなどとして、液晶表示装置等に使用することができ、また液晶表示装置の他、エレクトロルミネッセンス表示装置、プラズマディスプレイ及び電界放出ディスプレイなどの各種画像表示装置における偏光フィルムとして用いることが出来る。
なお、実用に際しては、両面又は片面に各種光学層を積層して光学フィルムとしたり、各種表面処理を施したりして、液晶表示装置等の画像表示装置に用いることもできる。
前記光学層としては、要求される光学特性を満たすものであれば特に限定されるものではないが、例えば、偏光フィルムの保護を目的とした透明保護層、視覚補償等を目的とした配向液晶層、他のフィルムを積層するための粘着層の他、偏光変換素子、反射板、半透過板、位相差板(1/2や1/4などの波長板(λ板)を含む)、視覚補償フィルム、輝度向上フィルムなどの画像表示装置等の形成に用いられるフィルムを用いることが出来る。
また表面処理としては、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止や拡散又はアンチグレアを目的とした表面処理を挙げることが出来る。
本実施形態の偏光フィルムの製造方法は、以上の通りであるが、本発明は本実施形態に限定されず本発明の意図する範囲内において適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0081】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
(評価事例)
(基本条件)
・原反フィルム:ポリビニルアルコール樹脂(PVA)フィルム((株)クラレ社製、
厚み75μm、幅50mm、吸水率6%)
・重ね合わせ幅:1.5mm幅
・加熱溶融接合部:レーザー
・レーザー:半導体レーザー(波長940nm、パワー95W、スポット径2mmφ、
パワー密度3024W/cm
2、走査速度55mm/sec、積算照射量
110J/cm
2、トップハットビーム)
・光吸収剤:商品名「Clearweld(登録商標) LD120C」(米国ジェンテ
ックス社製、溶媒アセトン)、下側に配した原反フィルムの上面に2.0m
m幅で10nL/mm
2塗布
・加圧部材:石英ガラス板(10mm厚)
・加圧条件:原反フィルム重ね合わせ部へ加重50kgf/cm
2で押し付け
(評価条件)
・引っ張り試験:熱機械分析装置(TMA、エスアイアイナノテクノロジー社製、EX STAR TMA/SS6200)、初期チャック間距離10mm、引 張速度0.1mm/min
【0083】
(実施例1)
上記基本条件にて、2本の原反フィルムを連結し、接合部において(原反フィルムの長手方向長さ1.5mm)×(原反フィルムの幅方向長さ20mm)の領域を切り取って矩形状の接合部切片を採取し、非接合部において(上記長手方向長さ3.0mm)×(上記幅方向長さ20mm)の領域を切り取って矩形状の非接合部切片を採取した。これら接合部切片及び非接合部切片についてそれぞれ、上記評価条件にて引張試験を行い、応力−ひずみ曲線を得、得られた曲線における応力1N/mm
2での接線の傾きを算出して初期弾性率を算出した。その結果、接合部の初期弾性率は、0.21GPa、非接合部の初期弾性率は、0.30GPaであり、非接合部の初期弾性率に対する接合部の初期弾性率は、70.0%であった。結果を、表1及び
図8に示す。
また、この条件と同じ条件で2本の原反フィルムを連結し、接合部前後を50mm長ほど切り出して、
図1に示すような延伸装置を用い、総延伸倍率が膨潤浴では2.6倍、染色浴では3.4倍、架橋浴では3.6倍、延伸浴では6.0倍となるように延伸した後、洗浄浴を通過させることにより、偏光フィルムをバッチ製造した。その結果、総延伸倍率6.0倍まで延伸しても、破断は認められなかった。
【0084】
(実施例2)
レーザーパワーを100Wに変更すること以外は上記基本条件にて2本の原反フィルムを接合し、実施例1と同様にして接合部切片を採取し、採取した接合部切片の初期弾性率を測定した結果、接合部の初期弾性率は、0.22GPaであった。また、非接合部の初期弾性率として実施例1の0.30GPaを用いて、非接合部の初期弾性率に対する接合部の初期弾性率を算出した。その結果、非接合部の初期弾性率に対する接合部の初期弾性率は、73.3%であった。結果を、表1及び
図8に示す。
また、この条件と同じ条件で2本の原反フィルムを連結し、実施例1と同様にして、偏光フィルムをバッチ製造した。その結果、総延伸倍率6.0倍まで延伸しても、破断は認められなかった。
【0085】
(実施例3)
走査速度を30mm/secに変更すること以外は上記基本条件にて2本の原反フィルムを接合し、実施例1と同様にして接合部切を採取し、採取した接合部切片の初期弾性率を測定した結果、接合部の初期弾性率は、0.28GPaであった。また、非接合部の初期弾性率として実施例1の0.30GPaを用いて、非接合部の初期弾性率に対する接合部の初期弾性率を算出した。その結果、非接合部の初期弾性率に対する接合部の初期弾性率は、93.3%であった。結果を、表1及び
図8に示す。
また、この条件と同じ条件で2本の原反フィルムを連結し、延伸浴での総延伸倍率を5.5とすること以外は実施例1と同様にして、偏光フィルムをバッチ製造した。その結果、総延伸倍率5.5倍まで延伸しても、破断は認められなかった。
【0086】
(実施例4)
原反フィルムの幅を2600mmへ変更すること以外は上記基本条件にて新旧原反フィルムを接合し、
図1に示すような延伸装置を用い、総延伸倍率が膨潤浴では2.6倍、染色浴では3.4倍、架橋浴では3.6倍、延伸浴では6.0倍となるようにロールトゥロールで偏光フィルムを製造した。その結果、実施例1と同様、総延伸倍率6.0倍まで延伸しても破断することが無く、連続通紙することができた。なお、原反フィルムの幅の相違は、接合部及び非接合部の初期弾性率に影響を及ぼさないため、当該実施例4における、上記非接合部に対する接合部の初期弾性率は、実施例1と同様、70.0%とし得る。
【0087】
(比較例1)
新旧原反フィルムの重ね合わせ幅を3mmとし、ここに幅3mmのニクロム線を使って250℃、10秒の加熱条件でヒートシールを実施してライン状の溶着部を形成させたこと以外は、実施例1と同様にして2本の原反フィルムを接合した。また、実施例1と同様にして接合部切片を採取し、実施例1と同様にして、採取した接合部切片の初期弾性率を測定した結果、接合部の初期弾性率は、0.33GPaであった。また、非接合部の初期弾性率として実施例1の0.30GPaを用いて、非接合部の初期弾性率に対する接合部の初期弾性率を算出した。その結果、非接合部の初期弾性率に対する接合部の初期弾性率は、110.0%であった。結果を、表1及び
図8に示す。
また、この条件と同じ条件で2本の原反フィルムを連結し、実施例1と同様に、延伸浴での総延伸倍率を6.0として偏光フィルムをバッチ製造した。その結果、総延伸倍率4.3倍まで延伸したときに、破断が発生した。
【0088】
(比較例2)
レーザーパワーを50W、パワー密度を1592W/cm
2、走査速度を5mm/sec、積算照射量を637J/cm
2に変更すること以外は上記基本条件にて2本の原反フィルムを接合した。実施例1と同様にして接合部切片を採取し、採取した接合部切片の初期弾性率を測定した結果、接合部の初期弾性率は、0.31GPaであった。また、非接合部の初期弾性率として実施例1の0.30GPaを用いて、非接合部の初期弾性率に対する接合部の初期弾性率を算出した。その結果、非接合部の初期弾性率に対する接合部の初期弾性率は、103.3%であった。結果を、表1及び
図8に示す。
また、この条件と同じ条件で2本の原反フィルムを連結し、実施例1と同様にして、偏光フィルムをバッチ製造した。その結果、総延伸倍率5.25倍まで延伸したときに、破断が生じた。
【0089】
(比較例3)
加圧部材と原反フィルムの重ね合わせ部との間、及び、該重ね合わせ部とステージとの間にそれぞれ、厚み125μmのポリイミド(PI)フィルムを挿入したこと以外は上記基本条件にて2本の原反フィルムを接合した。実施例1と同様にして接合部切片を採取し、採取した接合部切片の初期弾性率を測定した結果、接合部の初期弾性率は、0.19GPaであった。また、非接合部の初期弾性率として実施例1の0.30GPaを用いて、非接合部の初期弾性率に対する接合部の初期弾性率を算出した。その結果、非接合部の初期弾性率に対する接合部の初期弾性率は、63.3%であった。結果を、表1及び
図8に示す。
また、この条件と同じ条件で2本の原反フィルムを連結し、実施例1と同様にして、偏光フィルムをバッチ製造した。その結果、総延伸倍率5.8倍まで延伸したときに、破断が生じた。
【表1】