(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
RE−123系の酸化物超電導体(REBa
2Cu
3O
7−X:REはYを含む希土類元素)は、液体窒素温度で超電導性を示し、電流損失が低いため、実用上極めて有望な素材とされており、これを線材に加工して電力供給用の導体あるいは電磁コイル等として使用することが要望されている。酸化物超電導導体の一例構造として、機械的強度の高いテープ状の金属基材を用い、この金属テープ基材の表面にイオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)により結晶配向性の良好な中間層を形成し、該中間層の表面に成膜法により酸化物超電導層を形成し、その表面にAgからなる保護層とCuなどの良導電材料からなる安定化層を形成した構造の酸化物超電導導体が知られている。
【0003】
この種の酸化物超電導導体は、超電導送電用途あるいは超電導コイル用途など、いずれの用途においても、長尺の導体が望まれるので、単一体として圧延された一続きの長尺の金属テープからなる基材上に中間層と酸化物超電導層が成膜されている。前記金属テープ基材は、中間層を成膜する前に研磨によって平坦化されるか、塗布焼成した膜等の平坦化層を形成してから基材として成膜工程に供与される。成膜工程においては、金属テープ基材を搬送装置によって移動させながら成膜エリアを通過させ、金属テープ基材の長さ方向全表面に成膜する処理を必要回数繰り返し、下地層、配向層、酸化物超電導層、保護層、安定化層などを順次積層することで酸化物超電導導体を得ることができる。
通常、一続きの超電導特性を有する超電導導体は、一続きの金属テープ基材の上に作製されている。従って、通常の溶接法などで金属テープ基材同士を接続し連結した酸化物超電導導体は、溶接部を挟んだ両端側で別々の酸化物超電導線材と見なされる。
【0004】
この種の酸化物超電導導体を接合する方法として、接合するべき酸化物超電導層どうしをAgの層で拡散接合する接合方法が知られているが、拡散接合部分は完全な超電導接続にはなっておらず、Agからなる常電導体を介する接合であるので、わずかな電気抵抗が発生する問題がある。
また、酸化物超電導導体同士の接合構造の他の例として、金属テープ基材上に酸化物超電導層を形成した酸化物超電導導体同士の接続構造であって、酸化物超電導導体同士の突き合わせ予定端部の酸化物超電導層を除去し、露出させた基材同士を突き合わせて接合し、この基材接合部分と露出部分に跨るように接続用酸化物超電導層を形成し、次いでこの接続用酸化物超電導層上と露出した酸化物超電導層上に表面保護層を設けて接続した構造が知られている。(特許文献1参照)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る酸化物超電導導体の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係る第1実施形態の酸化物超電導導体1を模式的に示す概略断面図である。
この例の酸化物超電導導体1において、端部同士を突き合わせ溶接により接合した金属テープ2A、2Bからなる長尺の基材2の上に、金属テープ2A、2Bの上に連続するように下地層3と配向層4とキャップ層5と酸化物超電導層6と保護層7と安定化層8をこの順に積層して酸化物超電導積層体9が形成され、この酸化物超電導積層体9の周面を絶縁被覆層10で覆って酸化物超電導導体1が構成されている。なお、
図1では積層構造を見易くするために下地層3と配向層4とキャップ層5と酸化物超電導層6と保護層7と安定化層8を部分断面として位置ずれさせて示したが、これらの層は金属テープ2A、2Bの長さ方向全域に積層されている。
【0014】
前記金属テープ2A、2Bは、通常の酸化物超電導導体の基材として使用することができ、高強度で表面を無配向状態とした金属テープであれば良く、長尺の導体とするためにテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属テープが好ましい。例えば、ハステロイ等のニッケル合金、ステンレス鋼等の各種耐熱性金属材料等が挙げられる。各種耐熱性金属の中でも、ニッケル合金が好ましい。なかでも、市販品であれば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)が好適であり、ハステロイとして、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。基材2の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmの範囲とすることができる。なお、金属テープ2A、2Bは表面の結晶の配向性については無秩序で良く、特に表面の結晶配向性については問わないが、表面の結晶配向性を良好とした配向性金属テープを用いても良い。この結晶配向性金属テープについては後の例において説明する。また、各金属テープ2A、2Bにおいては、予め表面粗さを10nm以下、望ましくは2〜9nmに研磨しておき、表面を平滑面としたものを用いることが好ましい。
【0015】
前記金属テープ2Aの一端側の端部と金属テープ2Bの一端側の端部は溶接により一体化され、金属テープ2Aと金属テープ2Bの境界位置2Cを有するとともに、金属テープ2Aの境界位置2C側の表面が平坦面2A
1とされ、金属テープ2Bの境界位置2C側の表面が平坦面2B
1とされている。これらは研磨されて平坦面とされ、金属テープ2Aの端部と金属テープ2Bの端部の間に形成されている段差が20nm以下になるように研磨加工されている。この段差の値が20nmを超えるようであると、この段差部分に上に形成される配向層4とキャップ層5と酸化物超電導層6に対し、段差による影響が生じてこれら各層の膜質、結晶配向性が整わなくなる結果として接続部分上における酸化物超電導層6の臨界電流値が低下し、良好な超電導接続ができなくなる。段差部分を含む接続部分の上において、酸化物超電導層6の臨界電流値の低下割合を小さくするためには、段差20nm以下である必要があり、段差10μm以下であることがより好ましい。
【0016】
下地層3は、以下に説明する拡散防止層とベッド層の複層構造あるいは、これらのうちどちらか1層からなる構造とすることができる。
下地層3として拡散防止層を設ける場合、拡散防止層は構成元素拡散を防止する目的あるいはその上に形成される他の層の膜質を改善するために形成されたもので、窒化ケイ素(Si
3N
4)、酸化アルミニウム(Al
2O
3、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは、GZO(Gd
2Zr
2O
7)等から構成される単層構造あるいは複層構造の層であることが望ましく、厚さは例えば10〜400nmである。拡散防止層の厚さが10nm未満となると、拡散防止層のみでは基材2の構成元素の拡散を十分に防止できなくなる虞がある。一方、拡散防止層の厚さが400nmを超えると、拡散防止層の内部応力が増大し、これにより、他の層を含めて全体が基材2から剥離しやすくなる虞がある。また、拡散防止層の結晶性は特に問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すれば良い。
【0017】
下地層3としてベッド層を設ける場合、ベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、例えば、イットリア(Y
2O
3)などの希土類酸化物であり、組成式(α
1O
2)
2x(β
2O
3)
(1−x)で示されるものが例示できる。より具体的には、Er
2O
3、CeO
2、Dy
2O
3、Er
2O
3、Eu
2O
3、Ho
2O
3、La
2O
3等を例示することができ、これらの材料からなる単層構造あるいは複層構造でも良い。ベッド層は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜100nmである。また、ベッド層の結晶性は特に問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すれば良い。
なお、下地層3は拡散防止層とベッド層の2層構造でも、これらのどちらかからなる単層構造でも良く、場合によっては下地層3を略しても良い。下地層3を略する場合は、基材2上に直接、以下に説明する配向層4が形成される。
【0018】
配向層4は、単層構造あるいは複層構造のいずれでも良く、その上に積層されるキャップ層5の結晶配向性を制御するために以下に説明するIBAD法により成膜され、2軸配向した結晶配向性の良好な薄膜から形成される。
一例として配向層4は、複数の結晶粒が粒界を介し接合された多結晶薄膜として構成され、各結晶粒の内部においては、それら結晶粒を構成する結晶が、それらの結晶軸のc軸を基材2の表面(あるいは下地層3の表面)に対し個々に垂直に向け、結晶軸のa軸をほぼ一方向に揃えて(例えば結晶軸の分散の角度を所定の範囲に揃えて)配置されている。
【0019】
この配向層4をIBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition)法により良好な結晶配向性で成膜するならば、その上に形成するキャップ層5の結晶配向性を良好な値とすることができ、これによりキャップ層5の上に成膜する酸化物超電導層6の結晶配向性を良好なものとして、より優れた超電導特性を発揮できる酸化物超電導層6を得るようにすることができる。なお、IBAD法を用いて配向層4を成膜しようとしたとして、その下地となる基材2の接合部分の段差が大きいと、配向層4の結晶配向性が部分的に乱れ、この配向層4の結晶配向性が乱れた部分の上に積層されるキャップ層5、酸化物超電導層6のいずれも結晶配向性の乱れが反映されるので、先に説明したように金属テープ2A、2Bの接合部分の段差は20nm以下が望ましい。
【0020】
前記キャップ層5は、前記配向層5の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層5は、前記配向層4よりも高い面内配向度が得られる可能性がある。
キャップ層5の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等が例示できる。キャップ層5の材質がCeO
2である場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
キャップ層5は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが好ましい。PLD法によるCeO
2層の成膜条件としては、基材温度約500〜1000℃、約0.6〜100Paの酸素ガス雰囲気中で行うことができる。
CeO
2のキャップ層5の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、50〜5000nmの範囲、より好ましくは100〜5000nmの範囲とすることができる。
【0021】
酸化物超電導層6は通常知られている組成の酸化物超電導体からなるものを広く適用することができ、REBa
2Cu
3O
7−x(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のもの、具体的には、Y123(YBa
2Cu
3O
y)又はGd123(GdBa
2Cu
3O
y)を例示することができる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、Bi
2Sr
2Ca
n−1Cu
nO
4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。
酸化物超電導層6は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法等の物理的蒸着法(PVD法);化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法)等で積層できる。酸化物超電導層6の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0022】
酸化物超電導層6の上面を覆うように形成されている保護層7は、Agからなり、スパッタ法などの物理的蒸着法(PVD法)により成膜されている。保護層7の厚さは1〜30μm程度とされている。
この保護層7が緻密なAgの薄膜である場合、アニールしても再結晶化し難く、表面の荒れやボイドの生成が抑制される。
【0023】
安定化層8は、良導電性の金属材料からなり、酸化物超電導層6が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に、Agの保護層7とともに、酸化物超電導層6の電流が転流するバイパスとして機能する。安定化層8を構成する金属材料としては、良導電性を有するものであればよく、特に限定されないが、銅、黄銅(Cu−Zn合金)、Cu−Ni合金等の銅合金、ステンレス等の比較的安価な材質からなるものを用いることが好ましく、中でも高い導電性を有し、安価であることがら銅合金製が好ましい。なお、酸化物超電導導体1を超電導限流器に使用する場合、安定化層8は高抵抗金属材料より構成され、Ni−Cr等のNi系合金などを使用できる。
安定化層8の厚さは特に限定されず、適宜調整可能であるが、10〜300μmとすることが好ましい。
前記被覆層10は、樹脂絶縁層からなり、酸化物超電導積層体9の外周面に絶縁テープを巻回するなどの手段により酸化物超電導積層体9の全周を覆うように形成されている。
【0024】
前記金属テープ2A、2Bを
図1に示すように一体化するには、
図2(a)に示すように金属テープ2A、2Bの端部同士を対向させて突き合わせ溶接により一体化する。突き合わせ溶接を行うには、接合しようとする金属テープ2A、2Bの端部同士を突き合わせて、その部分をレーザーにより溶融させて一体化するレーザー溶接法を適用することができる。金属テープ2A、2Bの突き合わせ部分をレーザー溶接すると、溶接後の金属テープ2A、2Bの突き合わせ部分には突き合わせ部分の溶融と凝固に起因して大径部2Dが
図2(c)に示すように形成される。この大径部2Dが存在する場合は、その上に成膜しても良質の膜は生成できないので、大径部2Dを粗研磨加工と仕上研磨加工により
図2(d)に示すように平坦面2A
1、2B
1に加工して段差20nm以下になるように平坦化する。
粗研磨加工には、平均粒径3μmのダイヤモンド砥粒や平均粒径3μmのアルミナ(Al
2O
3)砥粒を用いた研磨加工を行うことで段差を少なくし、更に平均粒径0.5μmのダイヤモンド砥粒や平均粒径1.0μmのアルミナ(Al
2O
3)砥粒を用いた仕上研磨加工を行うことで段差20nm以下で連続した平坦面2A
1、2B
1を得ることができる。
【0025】
前述のように金属テープ2A、2Bを研磨して粗さ20nm以下としたならば、
図2(f)に示すように下地層3、配向層4を形成し、更に
図2(h)に示すようにキャップ層5、酸化物超電導層6、保護層7、安定化層8を形成することにより、
図1に示す酸化物超電導積層体9を得ることができる。
なお、金属テープ2A、2Bの溶接部分を研磨して段差を20nm以下とする代わりに、
図2(e)に示すように、溶接部分の上に平坦化膜2Eを形成し、この平坦化膜2Eの上に下地層3と配向層4を成膜し、更に、キャップ層5、酸化物超電導層6、保護層7、安定化層8を形成して酸化物超電導導体を製造することもできる。
以下に下地層3と配向層4を含めてこれら各層の形成方法について説明する。
【0026】
前記配向層4は、例えばターゲットにイオンビームを照射してターゲットの構成粒子を叩き出すか蒸発させて基材上に飛来させて堆積させるとともに、基材に対し所定の入射角度でアシスト用のイオンビームを照射するイオンビームアシストスパッタ装置で形成できる。
基材2が長尺のテープ状の場合は、イオンビームアシストスパッタ装置の内部において基材2を供給リールから巻取リール側に移動させている間に上述のイオンビームアシストスパッタ装置により成膜することができる。このため、上述の如く複数本の金属テープを溶接して一体化し、研磨して段差を小さくした長尺の基材2を用いることで長尺の酸化物超電導導体1を製造できるようになる。
【0027】
前記下地層3の表面に、ターゲットの構成粒子を堆積させつつ、所定の入射角度でイオン照射を行うことにより、形成されるスパッタ膜の特定の結晶軸がイオンの入射方向に固定され、結晶のc軸が金属基板の表面に対して垂直方向に配向するとともに、結晶のa軸どうし(あるいはb軸どうし)が面内において一定方向に配向する(2軸配向する)中間薄膜としての配向層4を得ることができる。このため、IBAD法によって下地層3上に形成された配向層4は、高い面内配向度、例えば結晶軸の分散角度10〜18゜を示す。
上述のIBAD法により結晶配向度の高い配向層4を生成する場合、金属テープ2A、2Bの接合部分に大きな段差があると、段差部分における結晶の配向性が乱れ、結晶配向度の高い配向層4を得ることができなくなる。この点において先に説明した如く溶接部分の段差を20nm以下に研磨して平坦化しているならば、十分に高い結晶配向度の配向層4を得ることができる。
【0028】
次に、前述のように、良好な配向性を有する配向層4の上にキャップ層5を形成していると、キャップ層5は自己配向効果により単結晶に近い良好な配向性を示すようになり、この上に形成される酸化物超電導層6もキャップ層5の配向性に整合するように結晶化する。この結果、得られた酸化物超電導層6は、十分に高い臨界電流値を発揮できるようになる。よってキャップ層5も結晶配向性に優れた酸化物超電導層6を得るための配向層の一部とみなすことができる。
【0029】
以上説明の如く形成された酸化物超電導導体1は、段差20nm以下の小さな段差の金属テープ2A、2Bの接合部分上に下地層3を介し、IBAD法により成膜された結晶配向性に優れた配向層4を備え、その上にキャップ層5と酸化物超電導層6を備えているので、接合部分の上方において抵抗発生部分を生じることなく、一続きの連続した酸化物超電導層を有する優れた超電導特性を発揮する。
また、前記構造の酸化物超電導導体1は、金属テープ2A、2Bを溶接して溶接部分を含む接合部分の段差を小さくした基材として利用するので、金属テープを必要本数接合して基材を構成することにより、任意の長さの基材を得ることができる。従って、長尺の酸化物超電導導体1を製造する場合、従来は基材の長さにより長さの限界が制限されていた課題を解決でき、より長尺の酸化物超電導導体1の提供が可能となる。
【0030】
前記の如く得られる酸化物超電導導体1に対し、
図3(e)に示すように平坦化膜20Eを適用して段差を20nm以下にした基材を用いて酸化物超電導導体を製造する場合、平坦化膜として、ゾルゲル法ないしMOD法 (Metal Organic Deposition) によりイットリア(Y
2O
3)の薄い膜を塗布してから焼成し、平坦化膜を形成する方法を採用できる。この平坦化膜の形成により溶接部分の段差を20nm以下とすることができる。
例えば、ディップ法として、厚さ100nmになるように塗布後、Ar雰囲気中において500℃で熱処理するという工程を繰り返し行い、最終的には厚さ1μm程度として平坦化膜を形成する方法を採用することができる。
【0031】
なお、上述の例では金属テープ2A、2Bを接合した例について説明したが、金属テープは何本でも上述のように突き合わせ溶接して一体化できるので、必要な長さの基材を得ようとする場合に、目的の長さの基材よりも短い複数本の金属テープを溶接し、研削、研磨することにより、目的の長さの基材を得ることができる。例えば、500mの長さの超電導導体を製造しようとする場合に100mの長さの金属テープを5本接合するならば、500mの超電導導体の製造が可能となり、1500mの長さの超電導導体を製造しようとする場合に500mの長さの金属テープを3本接合するならば、1500mの超電導導体の製造が可能となる。また、金属テープはボビンなどに巻回されて基材製造会社から搬入され、金属テープの長さについて、種々の長さが提供されているが、1〜2kmが通常の上限であるので、上述の方法を用いることで、一続きの基材としての接合が可能となるので、数km〜数10kmあるいは数100kmに及ぶ自由な長さの基材を得ることができる。
【0032】
先に説明した実施形態では、表面の結晶が無配向性の金属テープ2A、2Bを溶接して基材2を形成したが、
図3に示すように表面の結晶を配向性とした金属テープ20A、20Bを用いて基材20を形成し、この基材20を用いて酸化物超電導導体を製造することもできる。
表面の結晶を配向性とした金属テープ20A、20Bとは、例えば、Ni合金に集合組織を導入した圧延材として知られている2軸配向Ni−W合金のテープ基材を適用することができる。
【0033】
前記配向性の金属テープ20A、20Bを一体化するには、
図3(a)に示すように金属テープ20A、20Bの端部同士を対向させて突き合わせ溶接により一体化する。突き合わせ溶接は、接合しようとする金属テープ20A、20Bの突き合わせ部分にレーザーを照射し、加熱して
図3(b)に示すように溶融一体化させる方法である。このため、溶接後の金属テープ20A、20Bの突き合わせ部分には大径部20Dが
図3(c)に示すように形成される。この大径部20Dが存在する内はその上に成膜しても良質の膜は生成できないので、大径部20Dを粗研磨加工と仕上研磨加工により
図3(d)に示すように平坦面20A
1、20B
1として段差20nm以下になるように平坦化する。
【0034】
前述のように金属テープ20A、20Bを研磨して段差20nm以下としたならば、基材20を得ることができるので、この基材20上に
図3(f)に示すようにキャップ層5を形成し、更に
図3(g)に示すように酸化物超電導層6、保護層7、安定化層8を形成することにより、
図1に示す酸化物超電導積層体9と同様な酸化物超電導層を備えた酸化物超電導積層体を得ることができる。なお、酸化物超電導積層体9においてキャップ層5は酸化物超電導層6の直の下地として酸化物超電導層6の配向性を整える配向層としての機能も奏する。
なお、金属テープ20A、20Bの溶接部分を研磨して段差を20nm以下とする代わりに、
図3(e)に示すように、溶接部分の上に平坦化膜20Eを形成し、この平坦化膜20Eの上にキャップ層5、酸化物超電導層6、保護層7、安定化層8を形成して酸化物超電導積層体を製造することができ、この酸化物超電導積層体から酸化物超電導導体を得ることができる。
【実施例】
【0035】
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ150mmのテープ状の表面平滑な金属テープを複数本用意した。金属テープは表面の粗さRa10nm以下のものを用意した。2枚の金属テープを突き合わせ、レーザー溶接機により溶接した。
【0036】
突き合わせ溶接後、溶接部分の表面を粒径3μmのアルミナ砥粒を用いて粗研磨し、次いで粒径1μmのアルミナ砥粒を用いて仕上研磨した。なお、研磨する際、研磨後の溶接部分の段差を50
nmとして得られた試料と、研磨後の溶接部分の段差を40
nmとして得られた試料と、研磨後の溶接部分の段差を30
nmとして得られた試料と、研磨後の溶接部分の段差を20
nmとして得られた試料と、研磨後の溶接部分の段差を10
nmとして得られた試料をそれぞれ作製した。
【0037】
研磨後に金属テープの表面を洗浄してからイオンビームスパッタ法を用い、100nm厚のAl
2O
3層、20nm厚のY
2O
3層を形成した。
次に、イオンビームアシストスパッタ法を用い、5nm厚のMgO配向層を形成した(アシストイオンビームの照射角度45゜)上に、パルスレーザー蒸着法(PLD法)により500nm厚のCeO
2(キャップ層)を成膜した。次いでCeO
2層上にPLD法により1.0μm厚のGdBa
2Cu
3O
7−x(酸化物超電導層)を形成した。
次に、Agのターゲットを用い、酸化物超電導層上に厚さ10μmのAgの保護層を形成し、酸素雰囲気中において500℃でアニールして酸化物超電導導体を得た。
【0038】
得られた酸化物超電導導体の各試料について、金属テープの接合部分を挟んで4端子法により臨界電流値を測定した。また、金属テープの接合部分から5cm離れた部分であって、接合部分を含まない領域の臨界電流値を正常部として求め、正常部に対して接合部を含む領域の臨界電流値の低下割合を測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0039】
「表1」
試料No. 溶接部分表面の段差 正常部に対する接続部分の臨界電流値
1 50nm 40%
2 40nm 60%
3 30nm 70%
4 20nm 90%
5 10nm 95%
【0040】
表1に示す結果から、溶接部分表面の段差の値が50〜30nmの範囲では、臨界電流値の低下割合が大きく、溶接部分表面の段差がこの範囲であると、良好な結晶配向性の酸化物超電導層が生成されず、溶接部分の上方において一部抵抗を発生する部分(非超電導層部分)が生じ、これが原因となって臨界電流値の低下を引き起こしたものと推定できる。
この結果から、金属テープを溶接して接合し、該溶接部分を研磨して溶接部分表面の段差を20nm以下とすることにより、抵抗発生部分の少ない良好な結晶配向性の酸化物超電導層を生成できことが判明した。また、溶接部分の段差については、10nm以下とすることがより好ましい結果となった。