(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記変速制御手段は、前記所定変速比への変速がダウンシフトある場合に、前記第1回転速度が前記第2回転速度より高くなった後に前記ダウンシフトを実行することを特徴とする請求項2に記載のコーストストップ車両。
前記変速制御手段は、前記所定変速比よりもHigh側の変速比へ前記変速機構を一旦変速させ、前記第1回転速度が前記第2回転速度より高くなった後に、前記所定変速比へ前記変速機構を変速することを特徴とする請求項2に記載のコーストストップ車両。
車両走行中に所定の条件が成立すると駆動源を自動停止し、前記駆動源と駆動輪との間に変速機構を設けたコーストストップ車両を制御するコーストストップ車両の制御方法であって、
前記駆動源を再始動する場合、加速意図に基づく所定変速比への変速要求に対して、前記変速機構を前記所定変速比よりもHigh側の変速比へと制御し、
前記変速機構が前記所定変速比よりもHigh側の変速比となっている状態で前記駆動源を再始動することを特徴とするコーストストップ車両の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の本実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最Low変速比」は当該変速機構の変速比が車両の発進時などに使用される最大変速比である。「最High変速比」は当該変速機構の最小変速比である。
【0013】
図1は本発明の本実施形態に係るコーストストップ車両の概略構成図である。この車両は駆動源としてエンジン1を備え、エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ2a付きトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、無段変速機(以下、単に「変速機4」という。)、第2ギヤ列5、終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。車両はエンジン1のクランクシャフトを回転させて、エンジン1を始動させるスターター50を備える。
【0014】
変速機4には、エンジン1の回転が入力されエンジン1の動力の一部を利用して駆動されるメカオイルポンプ10mと、バッテリ13から電力供給を受けて駆動される電動オイルポンプ10eとが設けられている。電動オイルポンプ10eは、オイルポンプ本体と、これを回転駆動する電気モータ及びモータドライバとで構成され、運転負荷を任意の負荷に、あるいは、多段階に制御することができる。また、変速機4には、メカオイルポンプ10mあるいは電動オイルポンプ10eからの油圧(以下、「ライン圧」という。)を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11が設けられている。
【0015】
変速機4は、ベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とはエンジン1から駆動輪7に至るまでの動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。あるいは、副変速機構30はバリエータ20の前段(入力軸側)に接続されていてもよい。
【0016】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備える。プーリ21、22は、それぞれ固定円錐板21a、22aと、この固定円錐板21a、22aに対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板21a、22aとの間にV溝を形成する可動円錐板21b、22bと、この可動円錐板21b、22bの背面に設けられて可動円錐板21b、22bを軸方向に変位させる油圧シリンダ23a、23bとを備える。油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。
【0017】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。
【0018】
例えば、Lowブレーキ32を締結し、Highクラッチ33とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33を締結し、Lowブレーキ32とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな2速となる。また、Revブレーキ34を締結し、Lowブレーキ32とHighクラッチ33を解放すれば副変速機構30の変速段は後進となる。以下の説明では、副変速機構30の変速段が1速である場合に「変速機4が低速モードである」と表現し、2速である場合に「変速機4が高速モードである」と表現する。
【0019】
各摩擦締結要素は、動力伝達経路上、バリエータ20の前段又は後段に設けられ、いずれも締結されると変速機4の動力伝達を可能にし、解放されると変速機4の動力伝達を不能にする。
【0020】
コントローラ12は、エンジン1及び変速機4を統合的に制御するコントローラであり、
図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0021】
入力インターフェース123には、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ41の出力信号、変速機4の入力回転速度(プライマリプーリ21の回転速度)を検出する回転速度センサ42の出力信号、変速機4の出力回転速度(セカンダリプーリ22の回転速度)を検出する回転速度センサ48の出力信号、車速VSPを検出する車速センサ43の出力信号、ライン圧を検出するライン圧センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、ブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサ46の出力信号、エンジン1のクランクシャフトの回転速度を検出するエンジン回転速度センサ47の出力信号等が入力される。
【0022】
記憶装置122には、エンジン1の制御プログラム、変速機4の変速制御プログラム、これらプログラムで用いられる各種マップ・テーブルが格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されているプログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して、燃料噴射量信号、点火時期信号、スロットル開度信号、変速制御信号、電動オイルポンプ10eの駆動信号を生成し、生成した信号を出力インターフェース124を介してエンジン1、油圧制御回路11、電動オイルポンプ10eのモータドライバに出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0023】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにメカオイルポンプ10m又は電動オイルポンプ10eで発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0024】
図3は記憶装置122に格納される変速マップの一例を示している。コントローラ12は、この変速マップに基づき、車両の運転状態(この実施形態では車速VSP、プライマリ回転速度Npri、セカンダリ回転速度Nsec、アクセル開度APOなど)に応じて、バリエータ20、副変速機構30を制御する。
【0025】
この変速マップでは、変速機4の動作点が車速VSPとプライマリ回転速度Npriとにより定義される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比(バリエータ20の変速比に副変速機構30の変速比を掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比」という。)に対応する。この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、
図3には簡単のため、全負荷線(アクセル開度APO=8/8の場合の変速線)、パーシャル線(アクセル開度APO=4/8の場合の変速線)、コースト線(アクセル開度APO=0/8の場合の変速線)のみが示されている。
【0026】
変速機4が低速モードの場合は、変速機4はバリエータ20の変速比を最Low変速比にして得られる低速モード最Low線とバリエータ20の変速比を最High変速比にして得られる低速モード最High線の間で変速することができる。この場合、変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、変速機4が高速モードの場合は、変速機4はバリエータ20の変速比を最Low変速比にして得られる高速モード最Low線とバリエータ20の変速比を最High変速比にして得られる高速モード最High線の間で変速することができる。この場合、変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0027】
副変速機構30の各変速段の変速比は、低速モード最High線に対応する変速比(低速モード最High変速比)が高速モード最Low線に対応する変速比(高速モード最Low変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとりうる変速機4のスルー変速比の範囲(図中、「低速モードレシオ範囲」)と高速モードでとりうる変速機4のスルー変速比の範囲(図中、「高速モードレシオ範囲」)とが部分的に重複し、変速機4の動作点が高速モード最Low線と低速モード最High線で挟まれるB領域にある場合は、変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0028】
また、この変速マップ上には副変速機構30の変速を行うモード切換変速線が低速モード最High線上に重なるように設定されている。モード切換変速線に対応するスルー変速比(以下、「モード切換変速比mRatio」という。)は低速モード最High変速比と等しい値に設定される。モード切換変速線をこのように設定するのは、バリエータ20の変速比が小さいほど副変速機構30への入力トルクが小さくなり、副変速機構30を変速させる際の変速ショックを抑えられるからである。
【0029】
そして、変速機4の動作点がモード切換変速線を横切った場合、すなわち、スルー変速比の実際値(以下、「実スルー変速比Ratio」という。)がモード切換変速比mRatioを跨いで変化した場合は、コントローラ12は以下に説明する協調変速を行い、高速モード−低速モード間の切り換えを行う。
【0030】
協調変速では、コントローラ12は、副変速機構30の変速を行うとともに、バリエータ20の変速比を副変速機構30の変速比が変化する方向と逆の方向に変更する。この時、副変速機構30の変速比が実際に変化するイナーシャフェーズとバリエータ20の変速比が変化する期間を同期させる。バリエータ20の変速比を副変速機構30の変速比変化と逆の方向に変化させるのは、実スルー変速比Ratioに段差が生じることによる入力回転の変化が運転者に違和感を与えないようにするためである。
【0031】
具体的には、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをLow側からHigh側に跨いで変化した場合は、コントローラ12は、副変速機構30の変速段を1速から2速に変更(1−2変速)するとともに、バリエータ20の変速比をLow側に変更する。
【0032】
逆に、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをHigh側からLow側に跨いで変化した場合は、コントローラ12は、副変速機構30の変速段を2速から1速に変更(2−1変速)するとともに、バリエータ20の変速比をHigh側に変更する。
【0033】
コントローラ12は、燃料消費量を抑制するために、以下に説明するコーストストップ制御を行う。
【0034】
コーストストップ制御は、低車速域で車両が走行している間、エンジン1を自動的に停止(コーストストップ)させて燃料消費量を抑制する制御である。アクセルオフ時に実行される燃料カット制御とは、エンジン1への燃料供給が停止される点で共通するが、ロックアップクラッチ2aを解放してエンジン1と駆動輪7との間の動力伝達経路を絶ち、エンジン1の回転を完全に停止させる点において相違する。
【0035】
コーストストップ制御を実行するにあたっては、コントローラ12は、まず、例えば以下に示す条件a〜dなどを判断する。これらの条件は、言い換えれば、運転者に停車意図があるかを判断するための条件である。
【0036】
a:アクセルペダルから足が離されている(アクセル開度APO=0)。
【0037】
b:ブレーキペダルが踏み込まれている(ブレーキ液圧が所定値以上)。
【0038】
c:車速が所定の低車速(例えば、9km/h)以下である。
【0040】
これらのコーストストップ条件が全て満たされる場合には、コントローラ12は、エンジン1を自動停止するための信号を出力し、エンジン1への燃料噴射を停止し、コーストストップ制御を実行する。一方、上記コーストストップ条件のいずれかが満たされないなどのコーストストップ解除条件が成立した場合には、コントローラ12は、エンジン1を再始動するための信号を出力し、エンジン1への燃料噴射を再開し、コーストストップ制御を終了する。
【0041】
次に本実施形態のコーストストップ制御中にドライバに加速意図があり、変速要求があった場合の制御について
図4のフローチャートを用いて説明する。なお、ここでは、コーストストップ条件が全て満たされて、コーストストップ制御が実行されているものとする。
【0042】
ステップS100では、コントローラ12は、コーストストップ制御中にドライバによる変速要求があるかどうか判定する。具体的には、コントローラ12は、ドライバによって所定変速比への変速要求がされ、ダウンシフトの変速指令が出力されたかどうか判定する。コントローラ12は、ダウンシフトの変速指令が出力された場合にはステップS101へ進み、ダウンシフトの変速指令が出力されていない場合には本制御を終了する。ドライバによる所定変速比へのダウンシフトの変速指令は、例えばシフトレバーがDレンジからSレンジ、またはLレンジに操作された場合、シフトレバーが「−」操作された場合、マニュアルモードでは「−」スイッチが操作された場合、アクセルペダルの踏み込み量が大きい場合に出力される。つまり、所定変速比は、ドライバによる変速要求に応じた変速比である。コーストストップ制御中にこのようなドライバによる変速要求がある場合は、ドライバに加速意図があり、変速要求がされていると考えることができる。
【0043】
ステップS101では、コントローラ12は、エンジン1への燃料噴射を再開し、コーストストップ制御を終了する。
【0044】
ステップS102では、コントローラ12は、エンジン1の再始動が完了したかどうか判定する。コントローラ12は、エンジン1の再始動が完了するとステップS103へ進む。コントローラ12は、エンジン回転速度センサ47からの信号に基づいてエンジン回転速度が所定回転速度以上となるとエンジン1の再始動が完了したと判定する。所定回転速度は予め設定された速度であり、実験などによって設定される速度である。
【0045】
ステップS103では、コントローラ12は、車両がエンジン1によって発生する駆動力で車両を加速するドライブ状態となっているかどうか判定する。コントローラ12は、車両がドライブ状態となっている場合にはステップS104へ進む。具体的には、コントローラ12は、トルクコンバータ2のエンジン1側の回転速度であるエンジン回転速度がトルクコンバータ2の駆動輪7側の回転速度であるタービン回転速度よりも高くなるとドライブ状態であると判定する。タービン回転速度は、回転速度センサ42からの信号、および第1ギヤ列3におけるギヤ比に基づいて算出される。コーストストップ制御を実行し、車両がドライブ状態となっておらず、加速していない場合はコースト状態となっている。ここではコントローラ12は、コースト状態からドライブ状態となったかどうか判定している。
【0046】
ステップS104では、コントローラ12は、目標変速比をドライバによる変速要求に応じて変更し、ダウンシフトを実行する。
【0047】
本実施形態においては、ステップS100でドライバによる変速要求があり、ダウンシフトの変速指令が出力された場合でも、エンジン1の再始動が完了し、エンジン回転速度がタービン回転速度よりも高くなるまで間、目標変速比は変更されず、ドライバの変速要求に応じた変速は実行されない。
【0048】
ステップS105では、コントローラ12は、ダウンシフトが終了したかどうか判定する。コントローラ12は、ダウンシフトが終了すると本制御を終了し、ダウンシフトが終了しない場合にはステップS104へ戻る。
【0049】
次に本実施形態のコーストストップ制御中に変速要求があった場合の制御について
図5のタイムチャートを用いて説明する。
図5においては、本実施形態を用いず、ダウンシフトの変速指令が出力されると、すぐにダウンシフトを実行する場合の目標変速比、車速、タービン回転速度、加速度を破線で示す。また、本実施形態を用いた場合のタービン回転速度を一点鎖線で示す。
【0050】
時間t0において、ドライバの変速要求によってダウンシフトの変速指令が出力される。これにより、コーストストップ制御が終了し、エンジン1が再始動するのでエンジン回転速度が上昇する。ここでは、タービン回転速度がエンジン回転速度よりも低いので、車両は加速しない。
【0051】
本実施形態を用いない場合には、変速指令に応じてダウンシフトが実行されるので、目標変速比はLow側に変更される。変速機は目標変速比を実現するように変速する。そのため、タービン回転速度が高くなる。ここではタービン回転速度が上昇するためのトルクは、駆動輪側の運動量が用いられるので車両の加速度が一時的に負の値となる。これにより、引きショックが発生する。一方、本実施形態を用いた場合には、ここでは変速は実行されないので、引きショックは発生しない。
【0052】
時間t1において、エンジン回転速度が所定回転速度以上となり、エンジン1の再始動が完了する。
【0053】
時間t2において、エンジン回転速度がタービン回転速度よりも高くなり、ドライブ状態となり、エンジン1によって発生する駆動力によって車両が加速状態となる。そして、ダウンシフトの変速指令に基づいて目標変速比が変更され、変速機4は変速する。本実施形態を用いない場合には、時間t2においてもタービン回転速度がエンジン回転速度よりも高いので、車両は加速しない。
【0054】
本実施形態を用いない場合には、時間t3においてエンジン回転速度がタービン回転速度よりも高くなり、車両は加速状態となる。
【0055】
時間t4において、ダウンシフトが終了する。
【0056】
このように、本実施形態を用いることで、車両を素早く加速させることができる。
【0057】
本発明の第1実施形態の効果について説明する。
【0058】
本発明の実施形態は、コーストストップ制御を実行する場合に生じる問題を解決する。エンジンを自動停止する制御としては車両が停車した後に実行されるアイドルストップ制御がある。アイドルストップ制御では車速はゼロであり、この状態から加速要求(変速要求)があり、エンジンを再始動させる場合、エンジン回転速度およびタービン回転速度はともにゼロとなっている。そのためエンジンが再始動し、エンジン回転速度が上昇するとすぐにドライブ状態となり、ドライバは車両が加速していることを感じることができる。しかし、コーストストップ制御を実行している状態から加速要求(変速要求)があり、エンジンを再始動させる場合、タービン回転速度がゼロではないので、エンジン回転速度が上昇してもすぐにはドライブ状態とはならず、車両は加速しない。このような状態で、車両をドライブ状態とし、ドライバの意図した加速応答性を得るにはタービン回転速度をいかに低くするか、という問題になり、本発明の実施形態ではこの問題を解決するものである。
【0059】
コーストストップ制御中に、ドライバによって変速要求があった場合に、変速要求に応じた変速比よりも変速機4の変速比がHigh側の変速比となっている状態で、エンジン1を再始動する。これにより、エンジン1の再始動後にドライブ状態となるまでの時間を短くすることができ、ドライバの加速意図に応じた加速応答性を得ることができる(請求項1に対応する効果)。
【0060】
本実施形態を用いずに、ドライバによって変速要求があった場合に、すぐに変速機を変速させると、変速要求に応じた変速は早期に終了するが、車両がドライブ状態となるまでの時間が長くなる。この間、エンジンによって発生する駆動力によって車両が加速せず、車両が加速状態となるまでの時間が長くなる。
【0061】
本実施形態では、エンジン1が再始動し、ドライブ状態となった後に、ドライバによる変速要求に応じた変速を行う。これにより、変速要求に応じた変速が終了するまでの時間は長くなるが、エンジン1の再始動後にタービン回転速度が高くなることを抑制し、エンジン1の再始動後に車両を素早くドライブ状態とすることができ、エンジン1によって発生する駆動力によって車両が加速状態となるまでの時間が短くなる。そのため、ドライバの意図した加速応答性を得ることができる。特にドライバによる変速要求がダウンシフトである場合に、変速要求後にドライブ状態となるまでの時間を短くし、ドライバの加速意図に応じた加速応答性を得ることができる(請求項2、3に対応する効果)。
【0062】
コーストストップ制御中にドライバによって変速要求、例えばダウンシフト要求がされた場合は、ドライバに加速意図がある場合に加えて、エンジンブレーキを増大させる意図がある場合が考えられる。
【0063】
コーストストップ制御中は、エンジンから変速機に伝達される第1トルクより駆動輪から変速機に伝達される第2トルクのほうが大きい。しかし、コーストストップ制御は停車直前の極低車速域にて行われるため、第1トルクと第2トルクとの差は小さい。このような状態において、ダウンシフト要求に基づき駆動源を再始動すると、第1トルクが増大し、第2トルクを上回る可能性がある。第1トルクが第2トルクを上回る状態は加速状態である。すなわち、ドライバがエンジンブレーキの増大を意図してダウンシフト要求したにも関わらず、加速状態となる可能性がある。
【0064】
また、エンジンブレーキを増大する場合には制動力を増大させる必要があるが、これはブレーキペダルの踏み込み量を大きくすること、すなわちドライバの操作により実現することができる。一方で、ドライバの加速意図による駆動源の再始動開始からドライブ状態となるまでは、ドライバに加速意図があっても(例えば、アクセルペダルを大きく踏み込んでも)車両を加速させることができない。すなわちドライバの操作により実現することができない。従って、ドライバの操作により実現することができない運転状態に対して制御を実行する必要がある。
【0065】
これらの理由により、本実施形態では、ドライバによって変速要求があった場合には、ドライバに加速意図があるとして、上記制御を実行する。
【0066】
次に本発明の第2実施形態について説明する。
【0067】
本実施形態は、コーストストップ制御中に変速要求があった場合の制御が第1実施形態と異なっている。本実施形態のコーストストップ制御中に変速要求があった場合の制御について
図6のフローチャートを用いて説明する。
【0068】
ステップS200では、コントローラ12は、コーストストップ制御中にドライバによる変速要求があるかどうか判定する。コントローラ12は、ダウンシフトの変速指令に加えて、アップシフトの変速指令が出力されたかどうか判定する。コントローラ12は、ドライバによる所定変速比への変速指令が出力された場合にはステップS201へ進み、ドライバによる変速指令が出力されていない場合には本制御を終了する。ドライバによるアップシフトの変速指令は、例えばシフトレバーが「+」操作された場合、マニュアルモードでは「+」スイッチが操作された場合、アクセルペダルの踏み込み量が小さい場合に出力される。コーストストップ制御中にこのようなドライバによる変速要求がある場合は、ドライバに加速意図があり、変速要求がされていると考えることができる。
【0069】
ステップS201では、コントローラ12は、エンジン1への燃料噴射を再開し、コーストストップ制御を終了する。
【0070】
ステップS202では、コントローラ12は、ドライバによる変速要求によって出力される変速指令に基づく変速比、およびドライバによる変速要求がされる前の変速比よりもHigh側の変速比である仮変速比を設定し、変速機4の変速比が仮変速比となるように仮変速する。
【0071】
ドライバによる変速要求がされる前の変速比をr1とし、ドライバによる変速指令に基づく変速比をr2とし、仮変速比をr3とすると、ドライバによる変速指令がダウンシフトである場合には、r2、r1、r3の順に変速比は小さくなる(r2>r1>r3)。一方、ドライバによる変速指令がアップシフトである場合には、r1、r2、r3の順に変速比は小さくなる(r1>r2>r3)。
【0072】
本実施形態では、ドライバによる変速要求に応じた変速である本制御の前に、仮変速を行う。
【0073】
ステップS203では、コントローラ12は、エンジン1の再始動が完了したかどうか、および仮変速が終了したかどうか判定する。コントローラ12は、エンジン1が再始動し、かつ仮変速が終了した場合にはステップS204へ進み、エンジン1が再始動していない場合、または仮変速が終了していない場合にはステップS202へ戻り、上記制御を繰り返す。エンジン1の再始動は、ステップS102と同じ方法で判定される。
【0074】
ステップS204では、コントローラ12は、車両がドライブ状態となっているかどうか判定する。コントローラ12は、車両がドライブ状態となっている場合にはステップS205へ進む。具体的な判定方法は、ステップS103と同じである。
【0075】
ステップS205では、コントローラ12は、目標変速比をドライバによる変速要求に応じて変更し、本変速を実行する。
【0076】
ステップS206では、コントローラ12は、本変速が終了したかどうか判定する。コントローラ12は、本変速が終了すると本制御を終了し、本変速が終了していない場合にはステップS205へ戻る。
【0077】
次に本実施形態の変速要求があった場合の制御について
図7、8のタイムチャートを用いて説明する。
図7は、ドライバの変速指令がダウンシフトである場合のタイムチャートであり、タービン回転速度を一点鎖線で示す。
【0078】
時間t0において、ドライバの変速要求によってダウンシフトの変速指令が出力される。ダウンシフトの変速指令に対して目標変速比はHigh側の変速比に設定され、仮変速が開始される。目標変速比がHigh側に変更され、変速機4は目標変速比に追従して変速するので、タービン回転速度が低くなる。このとき、タービン回転速度の角運動量が出力軸に伝達されるので、車両は加速する。
【0079】
時間t1において、エンジン回転速度がタービン回転速度よりも高くなる。また、エンジン回転速度が所定回転速度以上となり、エンジン1の再始動が完了する。
【0080】
時間t2において、仮変速が終了する。このとき既にエンジン回転速度がタービン回転速度よりも高くなり、車両はドライブ状態となっているので、ダウンシフトの変速指令に応じて目標変速比が変更され、本制御を開始する。
【0081】
時間t3において、本制御が終了する。
【0082】
図8は、ドライバの変速指令がアップシフトである場合のタイムチャートであり、タービン回転速度を一点鎖線で示す。
【0083】
時間t0において、ドライバの変速要求によってアップシフトの変速指令が出力される。アップシフトの変速指令に対して目標変速比は変速指令よりもさらにHigh側の変速比に設定され、仮変速が開始される。変速機4は目標変速比に追従して変速するので、タービン回転速度が低くなる。このとき、タービン回転速度の角運動量が出力軸に伝達されるので、車両が加速する。
【0084】
時間t1において、エンジン回転速度が所定回転速度よりも高くなる。
【0085】
時間t2において、エンジン回転速度がタービン回転速度よりも高くなる。
【0086】
時間t3において、仮変速が終了する。このとき既にエンジン回転速度がタービン回転速度よりも高くなり、車両はドライブ状態となっているので、アップシフトの変速指令に応じて目標変速比が変更され、本制御を開始する。
【0087】
時間t4において、本制御が終了する。
【0088】
本発明の第2実施形態の効果について説明する。
【0089】
コーストストップ制御中に、ドライバによってダウンシフトの変速指令が出力された場合に、変速機4をダウンシフトの変速指令に基づく変速比に対してHigh側へ仮変速し、車両がドライブ状態となった後に、ドライバによる変速要求に応じた本変速を実行することで、ドライブ状態となるまでの時間を更に短くし、ドライバの意図した加速応答性を得ることができる(請求項4に対応する効果)。
【0090】
コーストストップ制御中に、ドライバによってアップシフトの変速指令が出力された場合に、変速機4を変速指令に基づく変速比よりもさらにHigh側へ仮変速し、車両がドライブ状態となった後に、ドライバによる変速要求に応じた本変速を実行することで、ドライブ状態となるまでの時間を更に短くし、ドライバの意図した加速応答性を得ることができる(請求項4に対応する効果)。
【0091】
次に本発明の第3実施形態について説明する。
【0092】
本実施形態は、コーストストップ制御が終了し、エンジン1を再始動した直後にドライバによる変速要求があった場合の制御に関するものである。本実施形態の制御について
図9のフローチャートを用いて説明する。
【0093】
ステップS300では、コントローラ12は、コーストストップ解除条件が成立するかどうか判定する。コントローラ12はコーストストップ解除条件が成立する場合にはステップS301へ進み、コーストストップ解除条件が成立しない場合には本制御を終了する。なお、ここでのコーストストップ解除条件は、例えば上記したa〜cのいずれかが満たされない場合であり、ドライバによる変速要求は含まれない。
【0094】
ステップS301では、コントローラ12は、エンジン1への燃料噴射を再開し、コーストストップ制御を終了する。
【0095】
ステップS302では、コントローラ12は、ドライバによる変速要求があるかどうか判定する。つまり、コントローラ12は、コーストストップ制御を終了した直後にドライバによる変速要求があるかどうか判定する。コントローラ12は、ダウンシフトの変速指令に加えて、アップシフトの変速指令が出力されたかどうか判定する。コントローラ12は、ドライバによる所定変速比への変速指令が出力された場合にはステップS303へ進み、ドライバによる変速指令が出力されていない場合には本制御を終了する。
【0096】
なお、コーストストップ制御が終了した直後とは、コーストストップ制御終了後、所定時間が経過することを含んでもよい。つまり、コントローラ12はコーストストップ制御終了後、所定時間内にドライバによる変速要求があるかどうか判定し、所定時間内にドライバによる変速要求がある場合にステップS303へ進んでもよい。所定時間はドライバによる変速指令に基づく変速比よりもさらにHigh側へ仮変速することで、仮変速をせずにドライバによる変速指令に基づいて変速させる場合と比較して素早くドライブ状態となる時間に設定される。所定時間は予め設定される固定時間でもよく、車速などの運転状態に応じて設定される時間であってもよい。
【0097】
ステップS303からステップS307は、第2実施形態のステップS202からステップS206と同じ制御なのでここでの説明は省略する。
【0098】
本発明の第3実施形態の効果について説明する。
【0099】
コーストストップ解除条件が成立し、エンジン1を再始動した直後にドライバによるダウンシフト、またはアップシフトの変速指令が出力された場合に、変速指令に基づく変速比に対してHigh側へ変速機4を仮変速し、車両がドライブ状態となった後に、ドライバによる変速要求に応じた本変速を実行することで、ドライブ状態となるまでの時間を更に短くし、ドライバの加速意図に応じた加速応答性を得ることができる。
【0100】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【0101】
上記実施形態では、変速機4としてバリエータ20と副変速機構30を備えているが、バリエータ、または有段変速機のみを備えた変速機であってもよい。また、バリエータ20はベルト式無段変速機に限られることはなく、チェーン式無段変速機などであってもよい。有段変速機を用いて第2実施形態の仮変速を実行する場合には、仮変速で締結する摩擦要素はコーストストップ制御中にプリチャージされていることが望ましい。摩擦要素を締結し、動力伝達状態とするには、摩擦要素の油圧室およびオイルポンプから油圧室に連通する油路に油を充填し、さらに油を供給する必要がある。コーストストップ制御中にプリチャージして油圧室および油路に油を充填しておくことで、変速する際、摩擦要素が動力伝達状態となるまでに要する時間が短くなる。これにより、仮変速を実行する場合に変速にかかる時間を短くすることができ、エンジンの回転速度が上昇してタービン回転速度より高くなる時点で、摩擦要素は動力伝達可能状態となっており、エンジンの再始動後にドライブ状態となるまでの時間を短くすることができる。
【0102】
上記実施形態では、エンジン回転速度がタービン回転速度よりも高くなった後に変速指令に応じた変速を開始したが、エンジン回転速度が所定速度以上となった後に変速指令に応じた変速を開始してもよい。所定速度は、ドライバの変速要求を実行するために必要な油圧を変速機4に供給できるエンジン回転速度とドライブ状態となるタービン回転速度とを比較したときの高い方の回転速度である。これにより、変速機4による変速が可能であり、かつ車両がドライブ状態となった後に、ドライバの変速要求に応じた変速が実行されるので、変速機4による変速を確実に実行しつつ、ドライバの意図した加速応答性を得ることができる。また、所定値は、車速が高いほど高く設定される。これにより、車速に基づいて変速指令に応じた変速を適切に実行することができる。
【0103】
上記実施形態では、ドライバの発進要求がある場合にコーストストップ制御を終了しし、本制御を実行したが、ブレーキペダルが踏み込まれていない場合など他の条件を更に満たしている場合にコーストストップ制御を終了し、本制御を実行してもよい。
【0104】
また、ドライバによって変速要求があり、エンジン1を再始動させる場合に、変速機4の変速比が最Lowとなっている場合には、変速機4を一旦Hihg側に変速させてエンジン1の再始動を行い、その後、変速機4を最Lowに変速してもよい。
【0105】
第2実施形態では、仮変速が終了した後に本変速を開始したが、仮変速の途中でエンジン回転速度がタービン回転速度よりも高くなり、車両がドライブ状態となった場合には、仮変速を中止し、本変速を開始してもよい。
【0106】
また、仮変速による変速比は、車速が高くなるほどHigh側としてもよい。これにより、車速が高い場合でも車両を素早くドライブ状態にすることができ、ドライバの意図した加速応答性を得ることができる。
【0107】
上記実施形態では、車両がドライブ状態となっているかどうかをエンジン回転速度およびタービン回転速度とを用いて判定したが、これに限られることはない。トルクコンバータ2以外にも回転差が生じる摩擦要素(例えば前後進切替機構の前後進回転速度差、副変速機構の前後回転速度差)から車両がドライブ状態であるかどうかを判定してもよい。