特許第5767959号(P5767959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767959
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/04 20060101AFI20150806BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20150806BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20150806BHJP
   F04C 18/02 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   F16C17/04 Z
   F16C33/10 Z
   F16C33/12 Z
   F04C18/02 311H
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-281751(P2011-281751)
(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公開番号】特開2013-130273(P2013-130273A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 諭
(72)【発明者】
【氏名】金光 博
(72)【発明者】
【氏名】八田 政治
(72)【発明者】
【氏名】正村 賢生
【審査官】 稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−51045(JP,A)
【文献】 特許第3364016(JP,B2)
【文献】 実開平7−28219(JP,U)
【文献】 特開2005−155894(JP,A)
【文献】 国際公開第02/075172(WO,A1)
【文献】 実開平6−14538(JP,U)
【文献】 実開昭56−102830(JP,U)
【文献】 特開2001−173647(JP,A)
【文献】 特許第4511412(JP,B2)
【文献】 実開平1−141926(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00−17/26
33/00−33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手材と摺動する摺動面を形成するための表面を有する基材と、
前記基材の前記表面に形成された樹脂コーティング層と
を有し、
前記樹脂コーティング層は、
前記摺動面に形成され、前記樹脂コーティング層の摩耗粉を排出する排出溝と、
前記摺動面における前記排出溝以外の部分であり、当該摺動面の法線方向から見て隅部を有する平面状凸部と、
を有し、
前記摺動面の法線方向から見た前記平面凸部の隅部が円弧状に面取りされている
ことを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記排出溝は、前記摺動面の法線方向から見て格子状に形成されており、
前記平面凸部の当該摺動面の法線方向から見た形状は隅部が面取りされた正方形である
ことを特徴とする請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記排出溝は、
前記摺動面の法線方向から見て放射状に伸びる複数の直線状溝と、
前記直線状溝と交差する少なくとも1つの環状溝と
を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記排出溝は、前記摺動面の法線方向から見て外方側の端部が外周部に開口し、かつ内方側の端部が内周部に開口したV字形の溝を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の摺動部材。
【請求項5】
前記摺動面において、前記排出溝の面積よりも前記平面状凸部の面積の方が広い
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の摺動部材。
【請求項6】
前記摺動部材はスクロールコンプレッサのスラスト軸受又はそれと摺動するスラストレースであり、また、前記排出溝は潤滑油を流通させる潤滑油通路を兼ねる
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の摺動部材。
【請求項7】
前記基材の前記表面には溝が形成されており、
前記樹脂コーティング層は、前記基材の前記表面の全域にわたって均一な厚さで形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の摺動部材
【請求項8】
前記基材の前記表面は平坦であり、
前記排出溝は前記樹脂コーティング層にのみ形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の摺動部材。
【請求項9】
前記排出溝は、前記樹脂コーティング層を貫通し、前記基材の内部まで達している
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の摺動部材。
【請求項10】
前記平面状凸部は、前記摺動面の法線方向から見て直線状の部分を有する
ことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一項に記載の摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摺動部材とその製造方法に関し、より詳しくは、例えばスクロールコンプレッサのスラスト軸受として好適な摺動部材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に搭載するスクロールコンプレッサは公知であり、そしてスクロールコンプレッサのスラスト軸受の改良案が提案されている(例えば特許文献1〜特許文献3)。
すなわち、特許文献1においては、スラスト軸受の摺動面に円周方向に沿った複数の環状溝と複数の放射方向溝とを併設し、それらの隣接位置となる平面状凸部を受圧面として構成している(特許文献1の図5参照)。
また、特許文献2においては、固定側と可動側の一対のスラストレースからなるスラスト軸受において、固定側のスラストレースの摺動面にDLC等の硬質表面処理を施す一方、可動側のスラストレースの摺動面に多数の円形の凸部を形成している(特許文献2の図4参照)。
さらに、特許文献3においては、スラスト軸受の摺動面に固体潤滑剤からなるコーティング層を形成している(特許文献3の図1(C)参照)。
特許文献1〜特許文献3においては、上述した構成を備えることにより、スラスト軸受の耐摩耗性および耐焼付性を向上させることが意図されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4511412号公報
【特許文献2】特許第4737141号公報
【特許文献3】特許第3364016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、最近では自動車の燃費改善が要求されており、そのためにスクロールコンプレッサに対しても貧潤滑下での動力低減が求められている。
スクロールコンプレッサにおいては、固定側となる中間ハウジングにスラスト軸受を固定し、他方、可動側となる旋回羽根の端面にスラストレースを取り付けてあり、旋回羽根の可動に伴って該旋回羽根側のスラストレースとスラスト軸受とが摺動することになる。スクロールコンプレッサにおいては、駆動軸に連動して旋回羽根が揺動される際の周速は非常に遅いことは知られている。そのため、スクロールコンプレッサにおいては、旋回羽根が揺動する際に該旋回羽根側のスラストレースとそれに摺動するスラスト軸受の摺動面との間に十分な油膜の形成が困難であった。特に低圧タイプのスクロールコンプレッサの場合には、旋回羽根に対して軸方向に作用する大きな圧縮力をスラスト軸受の摺動面で支持しているので、摺動部に油膜が形成されにくいという問題があった。
このように、スラスト軸受の摺動面に油膜の形成が困難な状態であるとスラストレースとスラスト軸受の摩擦が増大してエンジンの動力損失が発生する。そこで上述した特許文献2、3においては、スラスト軸受の表面に樹脂コーティングを施している。しかしながら、この場合においても、摩擦によって樹脂の摩耗粉が発生し、それがスラストレースとスラスト軸受との摺動面に侵入して噛み込まれることがある。その場合には、スラストレースとスラスト軸受との摺動面における油膜の形成が阻害されるとともに、スラストレースとは反対側となる旋回羽根の端面とそれに対向するハウジングとの隙間が詰まるという問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した事情に鑑み、請求項1に記載した本発明は、基材と、この基材の表面に施された樹脂コーティングとを備える摺動部材において、
上記摺動部材の表面に格子状の排出溝又は隅部を有する形状の排出溝を形成するとともに、該排出溝の隣接位置に複数の平面状凸部を形成して、これら複数の平面状凸部の表面を相手材と摺動する摺動面として構成し、上記平面状凸部における各隅部を円弧状に面取りし、上記摺動面と相手材との間に侵入した異物を上記排出溝により摺動面の外部へ排出させることを特徴とするものである。
また、請求項2に記載した本発明は、上記請求項1の発明を前提として、上記摺動部材はスクロールコンプレッサのスラスト軸受又はそれと摺動するスラストレースであり、また、上記排出溝は潤滑油を流通させる潤滑油通路を兼ねることを特徴とするものである。
また、請求項3に記載した本発明は、上記請求項2の発明を前提として、上記スラスト軸受又はスラストレースの表面に上記格子状の排出溝を形成するとともに、該排出溝の隣接位置に正方形及び隅部を有する形状の上記平面状凸部を形成したものである。
また、請求項4に記載した本発明は、上記請求項2の発明を前提として、上記スラスト軸受又はスラストレースの表面に放射方向に伸びる複数の直線状溝を形成するとともに、それら直線状溝と交差する少なくとも1つの環状溝を形成し、上記複数の直線状溝と環状溝とによって上記排出溝を構成し、この排出溝の隣接位置に上記平面状凸部を形成したものである。
また、請求項5に記載した本発明は、上記請求項2の発明を前提として、上記スラスト軸受又はスラストレースの表面の円周方向複数箇所に、外方側の端部が外周部に開口し、かつ内方側の端部が内周部に開口するV字形の溝を形成して、該複数のV字形の溝によって上記排出溝を構成し、上記各V字形の溝の隣接位置に上記平面状凸部を形成したものである。
さらに、請求項6に記載した本発明は、上記請求項1〜請求項5のいずれかの発明を前提として上で、基材の表面に格子状の排出溝または隅部を有する形状の排出溝を形成し、その後に該基材の表面全域にわたって均一な厚さで樹脂コーティングを施して、上記排出溝と平面状凸部を形成することを特徴とするものである。
また、請求項7に記載した本発明は、上記請求項1〜請求項5のいずれかの発明を前提として上で、基材の平坦な表面にスクリーン印刷によって樹脂コーティングを施して、該樹脂コーティングのみで上記排出溝と上記複数の平面状凸部を形成し、かつ上記排出溝の底部は露出させた基材の表面からなることを特徴とするものである。
また、請求項8に記載した本発明は、上記請求項1〜請求項5のいずれかの発明を前提とした上で、基材の平坦な表面に樹脂コーティングを施して、該樹脂コーティング自体又は樹脂コーティングと基材の内部とにわたって上記排出溝を形成するとともに上記平面状凸部を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
このような構成によれば、摺動面は樹脂コーティングの平面状凸部から構成されるので、摺動面と相手材との接触抵抗を低減させることができ、それによって摺動部材が相手材と接触することによる動力損失を低減させることができる。また、上記摺動面と相手材との間に侵入した異物は上記排出溝により摺動面の外部へ排出させることができるので、異物が摺動面に噛み込むことを防止することができる。したがって、動力損失の低減が可能であって、かつ寿命が長い摺動部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施例を示す平面図。
図2図1の要部の拡大図。
図3図1のIII―III線に沿う要部の断面図。
図4図1の要部の拡大図。
図5】従来品の要部を示す平面図。
図6】本発明の実施例を示す要部の断面図。
図7】本発明の実施例を示す要部の断面図。
図8】本発明の実施例を示す要部の断面図。
図9】本発明の実施例を示す平面図。
図10】本発明の他の実施例を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図示実施例について本発明を説明すると、図1ないし図4において、1はスクロールコンプレッサのスラスト軸受である。上記特許文献1〜特許文献3からも知られているとおり、スクロールコンプレッサは、円筒状のケーシング内を軸方向の一方と他方とに区分する中間ハウジング2を備えている。そして、中間ハウジング2における旋回羽根3側となる端面2Aに上記スラスト軸受1の裏面1Aが固定されている。
旋回羽根3の背面3Aに環状のスラストレース4における裏面4Bが固定されており、スラストレース4の端面4A(摺動面)は上記スラスト軸受1の摺動面1Bと近接又は接触している。
図4に白い太線の矢印で表示したように、旋回羽根3およびスラストレース4が図示しない回転軸によって揺動される際には、旋回羽根3に軸方向の力(図3において下方に向けた力)が作用するので、旋回羽根3と一体となって揺動されるスラストレース4の端面4A(摺動面)と固定側であるスラスト軸受1の摺動面1Bが摺動するようになっている。
【0009】
図3に断面図で示すように、本実施例のスラスト軸受1は、所定の厚さで全体として環状に形成された基材11と、この基材11の表面(スラストレース4との対向面)に施された樹脂コーティング12とから構成されている。
このように樹脂コーティング12を施した後のスラスト軸受1の表面全域にわたって格子状の排出溝13が形成されている。この格子状の排出溝13は、縦横同一ピッチで形成された多数の直線状溝13Aから構成されている。直線状溝13Aの深さ、幅および断面形状は全域で同一となるように設定されている。また、各直線状溝13Aにおける長手方向のいずれかの端部13Bは、スラスト軸受1の外周部1Cまたは内周部1Dに開口させている。この格子状の排出溝13の内部空間は、摩耗粉等の異物16を排出するための排出通路となっており、かつ潤滑油が流通する潤滑油通路となっている。
本実施例のスラスト軸受1は、格子状の排出溝13が形成されることにともなって、正方形及び隅部を有する形状をした多数の平面状凸部14が形成されている。そして、各平面状凸部14における各隅部14Aは円弧状に面取りされている。換言すると、縦横の直線状溝13Aの交差点となる各隅部14Aは円弧状に面取りされている(図2参照)。また、図3に示すように、各隅部14Aおよび隣合う隅部14A間となる直線状の各辺14Bは、直線状溝13Aの平坦な底部に対して15°〜90°傾斜した傾斜面となっている。換言すると、上記各隅部14Aおよび各直線状溝13Aは、底部よりも開口側が拡開した逆台形状の断面形状となっている。
なお、各隅部14Aを円弧状に面取りする際の半径Rは0.2mmよりも大きく設定されており、また、1つの辺14Bの長さLは1.0mmよりも大きく設定されている。
【0010】
このような構成を有する本実施例のスラスト軸受1は、次のような製造工程を経て製造される。すなわち、先ず所定の板厚を備えた環状の基材11を製造する。基材11の材料としては、例えば鉄系、アルミニウム系、銅系の材料を用いる。次に、基材11の表面(スラストレース側4側の端面)の全域にわたって、所定ピッチで同一深さの縦横の直線状溝13Aを切削加工により形成し、それにより基材11の表面に格子状の排出溝13とその隣接位置に多数の平面状凸部14を形成する。切削工程の際に各平面状凸部14の各隅部14Aは、上述したように円弧状に面取りされる。
そして、この後、上記格子状の排出溝13と多数の平面状凸部14が形成された基材11の表面全域に同一厚さで樹脂コーティング12を施す(図3参照)。樹脂コーティング12としては次のような材料と製法を用いることができる。すなわち、樹脂コーティング12としては、固体潤滑剤に硬質粒子を混合し、それらのバインダーとして熱硬化性樹脂を用いることができる。固体潤滑剤としては、MoS、PTFE、Gr、WS、h−BN、CF、フッ素系樹脂等を用いることができ、これらの1種以上を混合することができる。また、硬質粒子としては、酸化物(アルミナ、シリカ)、窒化物(SiN)、炭化物(SiC)、硫化物(ZnS)等を用いることができ、これらの1種以上を混合することができる。さらに、バインダーとなる熱硬化性樹脂としては、PI、PAI等を用いることができ、これらの1種以上を混合することができる。なお、必要に応じて上記硬質粒子を省略し、熱硬化性樹脂と固体潤滑剤のみの組成としても良い。さらに、樹脂コーティングの製法としては、ロールコート、スプレーコート、スピンコート、パット印刷のいずれかを用いることができる。
【0011】
また、前述したようにスラスト軸受1の格子状の排出溝13および平面状凸部14は、基材11の表面に縦横の直線状溝を切削加工して形成し、その後に樹脂コーティング12を施して形成されるが、切削加工の他に次のようにして格子状の排出溝13および平面状凸部14を形成することができる。すなわち、切削加工の代わりに基材11の表面にエッチングあるいはプレス加工によって格子状の排出溝13を形成し、その後から前述した実施例と同様に基材11の表面に同一厚さの樹脂コーティング12を施しても良い。
また、図6に示すように、基材11における平坦な表面(上面)に樹脂コーティング12を格子状の排出溝13の深さと同一厚さでスクリーン印刷等で形成する。この樹脂コーティング12を形成することにより、格子状の排出溝13が形成されると同時に平面状凸部14も形成される。また、平面状凸部14の各隅部14Aも円弧状に面取りされる。この実施例においては、格子状の排出溝13の底部として基材11の表面が露出する構成となる。
また、図7に示すように、基材11における平坦な表面全域に樹脂コーティング12を格子状の排出溝13の深さよりも厚肉にスクリーン印刷等で形成し、それによって格子状の排出溝13および平面状凸部14を形成しても良い。この図7の実施例においては、格子状の排出溝13の底部まで樹脂コーティング12で形成されることになる。つまり、基材11の表面は露出しない構成となる。
さらに、図8に示すように、基材11における平坦な表面全域にわたって同一厚さで樹脂コーティング12をスクリーン印刷し、その後、樹脂コーティング12と基材11の表面よりも内部まで掘り下げるように切削加工することで格子状の排出溝13を形成しても良い。この実施例においては、格子状の排出溝13の底部として基材11が露出することになる。
以上のような製造工程によりスラスト軸受1を製造することができる。
【0012】
上述した構成を有する本実施例のスラスト軸受1によれば、次のような作用・効果を得ることができる。すなわち、スラスト軸受1は格子状の排出溝13を備えているので、該潤滑油通路としての排出溝13を介して潤滑油が流通して摺動面1Bに満遍なく速やかに供給される。そのため、摺動面1Bに油膜が速やかに形成される。
また、樹脂コーティング12からなる各平面状凸部14の表面によって摺動面1Bが形成されるので、スラストレース4の端面4Aと摺動する際の摺動面1Bの接触抵抗を減少させることができる。また、摺動面1Bにおける潤滑油の保持性も良好である。そのため、スラスト軸受1とスラストレース4が接触する際の接触抵抗および摺動抵抗を低減させることができる。それにより、スクロールコンプレッサの動力損失を低減させることができ、ひいては自動車の燃費を向上させることができる。
さらに、スラスト軸受1の表面に格子状の排出溝13が存在するので、図2に示すように、摺動面1Bに摩耗粉等の微小な異物16が侵入した場合には、それらは格子状の排出溝13内に落下して内周部1Dあるいは外周部1Cから摺動面1Bの外部へ排出される。より詳細には、図4に示すように、旋回羽根3およびスラストレース4は、排出溝13の縦横の直線状溝13Aに対して斜めに交差するように円弧状に揺動される。そのため、スラストレース4の揺動に伴って摩耗粉等の異物16は格子状の排出溝13内に落下し、その後、その内部を経由して内周部1Dあるいは外周部1Cに向けて移動される。ここで、直線状溝13Aの交差点を構成する各隅部14Aは円弧状に面取りされているので、摩耗粉等の異物16が隅部14Aに引っ掛かって滞留しないようになっている(図2参照)。しかも、スラストレース4の揺動に伴って格子状の排出溝13に一部が入り込んだ状態の異物16は、直線状となっている各辺14Bとそれに対して交差方向から相対移動するスラストレース4の端面4Aによって擦り切られるようになっている。つまり、平面状凸部14における各辺14Bの縁部によって摩耗粉等の異物16が小さく分断されるとともに、分断された異物16は排出溝13内に落下して内周部1D又は外周部1Cから排出される。したがって、本実施例のスラスト軸受1によれば平面状凸部14の表面である摺動面1Bに摩耗粉等や異物16が噛み込むことを良好に防止することができる。そのため、寿命が長いスラスト軸受1を提供することができる。
このような本実施例に対して、図5に示した従来品(例えば特許文献1の図5)においては、スラスト軸受の表面に環状溝と複数の直線状溝が形成されているが、それらの交差点となる各隅部は直角となっていたものである。そのため、従来品においては、交差点の隅部の位置に摩耗粉等の異物が滞留しやすくなり、そのように滞留した異物がやがて摺動面に噛み込んで摺動面が損傷するという問題が指摘されていたものである。
【0013】
次に、上述した実施例においては、スラスト軸受1の表面に格子状の排出溝13を形成していたが、格子状以外の隅部を有する形状の溝をスラスト軸受1の表面に形成し、それを排出溝13としても良い。すなわち、図9は、スラスト軸受1の表面に円周方向45度毎に放射方向の直線状溝13Aを形成し、かつ各直線状溝13Aと交差するように1つの環状溝13Cを形成している。これら直線状溝13Aと環状溝13Cとによって排出溝13が構成されている。その他の構成は、図1図4に示した第1の実施例と同じである。この図9に示す実施例においては、直線状溝13Aの両方の端部13Bは内周部1Dあるいは外周部1Cに開口している。そして、排出溝13の隣には扇型をした複数の平面状凸部14が形成されており、それらの表面が摺動面1Bとなっている。また、環状溝13Cと各直線状溝13Aとの交差点の位置の各隅部14Aは、上記実施例と同様に円弧状に面取りがなされている。その他の構成は、上記第1の実施例と同じであり、上記第1の実施例と対応する部材には同一の部材番号を付している。
また、図10は、スラスト軸受1の表面における円周方向等間隔位置に、内周部1Dと外周部1Cに両端部18Bが開口するV字形の溝18を形成したものである。これら複数のV字形の溝18により排出溝13が構成される。また、隣り合うV字形の溝18の隣接部分が平面状凸部14となり、それらの表面が摺動面1Bとなっている。V字形の溝18の中央となる折り曲がる箇所の隅部18A(対向部分の双方の隅部)は、円弧状に面取りされている。その他の構成は、上記第1の実施例と同じである。
これら図9図10に示したような隅部を有する形状の排出溝13を備えたスラスト軸受1であっても、上記第1の実施例と同様の作用・効果を得ることができる。
【0014】
なお、上記各実施例においては、基材11の表面に樹脂コーティング12を施すとともに排出溝13および平面状凸部14を形成しているが、基材11と樹脂コーティング12との間に中間層を設けても良い。つまり、基材11の表面に中間層を施し、その中間層の表面に樹脂コーティング12を施して、上述した排出溝13と平面状凸部14を形成するようにしても良い。この場合の中間層としては、銅の焼結層、銅の溶射層あるいは銅アルミ溶射層を採用することができる。
また、上述した各実施例は中間ハウジング2に固定されるスラスト軸受1に本発明を適用した場合について説明したが、相手材となるスラストレース4の端面4Aにも本発明を適用することができる。
さらに、スラスト軸受1を省略した構成において中間ハウジング2の端面2Aに本発明を適用しても良い。この場合は、端面2Aが基材となり、それに樹脂コーティング12を施すことになる。あるいは、スラストレース4を省略した構成において旋回羽根3の背面3Aに本発明を適用してもよい。この場合には、旋回羽根3の背面3Aが基材となり、そこに樹脂コーティング12を施すことになる。
また、斜板式コンプレッサの斜板にも本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0015】
1‥スラスト軸受(摺動部材) 1B‥摺動面
1C‥外周部 1D‥内周部
4‥スラストレース(摺動部材) 11‥基材
12‥樹脂コーティング 13‥排出溝
14‥平面状凸部 14A‥隅部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10