特許第5767973号(P5767973)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5767973大うつ病性障害のためのメタボリック症候群バイオマーカーおよびHPA軸バイオマーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767973
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】大うつ病性障害のためのメタボリック症候群バイオマーカーおよびHPA軸バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/493 20060101AFI20150806BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20150806BHJP
   G01N 33/74 20060101ALI20150806BHJP
   G01N 33/78 20060101ALI20150806BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   G01N33/493 A
   G01N33/68
   G01N33/74
   G01N33/78
   C12Q1/68 A
【請求項の数】18
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-537577(P2011-537577)
(86)(22)【出願日】2009年11月18日
(65)【公表番号】特表2012-509480(P2012-509480A)
(43)【公表日】2012年4月19日
(86)【国際出願番号】US2009064967
(87)【国際公開番号】WO2010059709
(87)【国際公開日】20100527
【審査請求日】2012年3月30日
(31)【優先権主張番号】61/115,710
(32)【優先日】2008年11月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510239934
【氏名又は名称】リッジ ダイアグノスティックス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ビレロ ジョン
(72)【発明者】
【氏名】パイ ボー
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−024822(JP,A)
【文献】 特表2006−526140(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/016101(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/020192(WO,A2)
【文献】 国際公開第2007/094472(WO,A1)
【文献】 特表2008−531144(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0265825(US,A1)
【文献】 根本 直幸, 久保田 正春, 神庭 重信,「うつ病の内分泌学的検査」,Pharma Medica,株式会社メディカルレビュー社,1997年10月,Vol. 15, No. 10,p. 47-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/493
G01N 33/68
G01N 33/74
G01N 33/78
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、ヒト被験者がうつ病を有するか否かを判定するためのインビトロの方法:
(a)うつ病に関連することが予め決定された複数のパラメータの数値を提供する工程であって、前記複数のパラメータが1種または複数種の視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸マーカーおよび謝性マーカーを含み、前記1種または複数種のHPA軸マーカーが上皮成長因子を含み、前記謝性マーカーがアポリポタンパク質CIII、プロラクチン、およびレジスチンを含む、工程;
(b)それぞれのパラメータに対してそれぞれが固有である所定の関数によって前記数値のそれぞれを個々に重み付けする工程;
(c)前記重み付けされた値の合計を求める工程;
(d)前記合計と対照値との差を求める工程;ならびに
(e)前記差が所定の閾値よりも高い場合には前記個人をうつ病を有するものとして分類し、または前記差が前記所定の閾値よりも高くない場合には前記個人をうつ病を有さないものとして分類する工程。
【請求項2】
前記うつ病が大うつ病性障害(MDD)をともなう、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
MDDの診断を支持するために用いることが可能なMDDスコアを算出するためにアルゴリズムを用いる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記複数のパラメータが、副腎皮質刺激ホルモン、コルチゾール、顆粒球コロニー刺激因子、膵臓ポリペプチド、バソプレッシン、およびコルチコトロピン放出ホルモンからなる群より選択される1種もしくは複数種のHPA軸マーカー、ならびに/またはアシル化刺激タンパク質、アディポネクチン、C-反応性タンパク質、脂肪酸結合タンパク質、インスリン、テストステロン、および甲状腺刺激ホルモンからなる群より選択される1種もしくは複数種の代謝性マーカーを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数のパラメータが、メタボリック症候群に関連する1種または複数種の臨床的測定値を更に含み、該臨床的測定値が、ボディマス指数、空腹時血糖値、血圧、中心性肥満、高密度リポタンパク質、およびトリグリセリドからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記複数のパラメータが、尿中の1種もしくは複数種のカテコールアミンもしくはカテコールアミン代謝物質のレベル、または1種もしくは複数種の炎症性バイオマーカー、または1種もしくは複数種の神経栄養性バイオマーカーを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
以下の工程を含む、うつ病性障害と診断された個人の治療を監視するためのインビトロの方法:
(a)アルゴリズムを用いて前記個人からの生物学的試料中の複数の検体のレベルに基づく第1のMDD疾患スコアを決定する工程であって、前記複数の検体が1種または複数種のHPA軸バイオマーカーおよび謝性バイオマーカーを含み、前記1種または複数種のHPA軸マーカーが上皮成長因子を含み、前記謝性マーカーがアポリポタンパク質CIII、プロラクチン、およびレジスチンを含む、工程;
(b)前記アルゴリズムを用いて前記うつ病性障害に対する前記個人の治療後の第2のMDD疾患スコアを決定する工程;
(c)工程(a)のスコアを、工程(b)のスコアおよび対照MDD疾患スコアと比較し、工程(b)のスコアが工程(a)のスコアよりも前記対照MDDスコアに近い場合に前記治療を有効であるものとして分類し、または、工程(b)のスコアが工程(a)のスコアよりも前記対照MDDスコアに近くない場合に前記治療を有効ではないものとして分類する工程。
【請求項8】
前記第2のMDD疾患スコアが治療の数週間後または数ヶ月後に決定される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(b)および(c)が、治療に対する前記個人の応答、前記個人のMDD状態の変化、または前記個人におけるMDDの進行を監視するために長期にわたって繰り返される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の検体のサブセットが治療開始の前後の各時点において測定される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
メタボリック症候群に関連する臨床的測定値を含むパラメータを前記アルゴリズムに含める工程を更に含み、該臨床的測定値が、ボディマス指数、空腹時血糖値、血圧、中心性肥満、高密度リポタンパク質、およびトリグリセリドからなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記生物学的試料が血清、血漿、または脳脊髄液である、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記バイオマーカーが核酸であり、かつ前記生物学的試料が細胞または組織から構成される、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記複数の検体が、尿中の1種または複数種のカテコールアミンまたはカテコールアミン代謝物質のレベルを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記謝性バイオマーカーが、1種もしくは複数種の甲状腺ホルモンまたはテストステロンを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
前記複数の検体が、1種もしくは複数種の炎症性バイオマーカーまたは1種もしくは複数種の神経栄養性バイオマーカーを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項17】
工程(b)のスコアが工程(a)のスコアよりも対照MDDスコアに近くない場合に前記個人の治療を調整する工程を更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項18】
前記対照MDDスコアが、正常な個人について算出されたMDDスコアまたは複数の正常な個人について算出されたMDDスコアの平均である、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年11月18日出願の米国仮特許出願第61/115,710号からの優先権の恩典を主張するものである。
【0002】
技術分野
本文書は、大うつ病性障害を監視するための物質および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
生物は幅広い生理学的な個体差を示すことから生物行動的な研究は困難な科学的取り組みでありうる。多くの臨床的障害は、単一の生物学的変化によるものではなく、複数の因子間の相互作用によってもたらされるものである。そのため、同じ臨床状態(例えばうつ病)を患う異なる個人は、各個人における具体的な変化に応じて範囲または程度の異なる症状を呈しうる。
【発明の概要】
【0004】
概要
向精神薬の開発は、精神病理学的パラメータ(例えばうつ病ではハミルトンスケール)による疾患の重症度の定量化に頼ってきた。主観的因子および適切な定義の欠如は必然的にこのようなパラメータに影響を与える。同様に、精神病患者を第II相および第III相の臨床試験に登録するための診断パラメータは、症候学的尺度の測定による疾患の重症度および特異性の査定を中心としており、患者の選定を助けうる、疾患特性および状態に関する有効な生物学的相関は存在していない。分子診断における最近の進歩にも関わらず、薬物治療に対する推定される表現型応答に関して患者の遺伝子型に含まれる潜在的な情報は、特に研究以外の状況においては効果的に獲得されていなかった。
【0005】
免疫系は、健康状態および疾患状態の双方において神経系と複雑かつ動的な関係を有している。免疫系は中枢神経系および末梢神経系を調査して異種タンパク質、感染性病原体、ストレスおよび腫瘍形成に応答して活性化されうる。逆に神経系は神経内分泌軸および遠心性迷走神経の双方を介して免疫系機能を調節する。視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA)活動亢進仮説では、この動的関係が乱れるとうつ病などの神経精神疾患が生ずるとしている。HPA軸活性は視床下部からのコルチコトロピン放出ホルモン(CRHまたはCRF)の分泌によって支配されている。CRHは下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌を活性化し、次いでACTHが副腎からの糖質コルチコイド(ヒトではコルチゾール)の分泌を刺激する。循環中へのコルチゾールの放出は、血糖値の上昇などの多くの作用をもたらす。視床下部、下垂体、および免疫系へのコルチゾールの負のフィードバックが損なわれた場合にはHPA軸は活性化されつづけ、過剰なコルチゾールが放出される。コルチゾール受容体が脱感作され、炎症促進性免疫メディエーターの活性が上昇し、神経伝達物質による伝達が妨げられる。
【0006】
したがって、個人レベルで疾患状態を決定することが可能であれば、被験者の特定の状態を正確に査定するうえで有用である。しかしながら、臨床状態を診断またはその素因を決定し、被験者の疾患状態または治療への応答を評価する信頼性の高い方法が求められている。本文書は、うつ病性障害の診断、予後、または素因を決定するための方法の同定に一部基づいたものである。本方法は、HPA軸バイオマーカーおよび代謝性バイオマーカーなどの複数のパラメータを含むアルゴリズムを生成する工程、前記複数のパラメータを測定する工程、ならびに前記アルゴリズムを使用して定量的診断スコアを決定する工程を含みうる。いくつかの態様では、患者の層別化、薬力学的マーカーの同定、および治療成績の監視を行うため、細胞、血清、または血漿などの生物学的試料からの複数のバイオマーカーを適用するためのアルゴリズムを生成することができる。本明細書で使用する「バイオマーカー」とは、正常な生物学的もしくは病原性プロセスまたは治療的介入に対する薬理学的応答の指標として客観的に測定および評価することが可能な特性である。
【0007】
本明細書において述べるアプローチは、バイオマーカーに対するより伝統的なアプローチの一部のものとは、単一のマーカーまたは単一マーカー群を分析することに対してアルゴリズムの構築という点で異なっている。アルゴリズムを使用して疾患状態、予後、または治療に対する応答を反映した単一の値を導出することができる。本明細書で述べるような高次多重化マイクロアレイベースの免疫学的手段を使用して複数のパラメータを同時に測定することができる。このような手段を使用することの利点の1つは、すべての結果が同じ試料から導かれ、かつ同じ条件下で同時に試行することが可能である点である。従来の多変量および回帰分析以外に、高度のパターン認識アプローチを応用することができる。PHBが所有権を有するBIOMARKER-HYPER-MAPPING(商標)(BHM)技術を含む多くの手段がある。階層的クラスタリング、自己組織化マップ、および教師付き分類アルゴリズム(例えば、サポートベクターマシン、k近傍法、およびニューラルネットワーク)などの他のクラスタリングのアプローチを使用することもできる。BIOMARKER-HYPER-MAPPING(商標)(BHM)技術および教師付き分類アルゴリズムはいずれも臨床的な有用性が高いものと考えられる。
【0008】
一局面では、本文書は、以下の工程を含む、ヒト被験者がうつ病を有するか否かを判定するための方法を特徴とする:(a)うつ病に関連することが予め決定された複数のパラメータの数値を提供する工程であって、前記複数のパラメータが1種または複数種の視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸マーカーおよび1種または複数種の代謝性マーカーを含む、工程;(b)それぞれのパラメータに対してそれぞれが固有である所定の関数によって前記数値のそれぞれを個々に重み付けする工程;(c)前記重み付けされた値の合計を求める工程;(d)前記合計と対照値との差を求める工程;ならびに(e)前記差が所定の閾値よりも高い場合には前記個人をうつ病を有するものとして分類し、または前記差が前記閾値と異ならない場合にはその個人をうつ病を有さないものとして分類する工程。うつ病は大うつ病性障害(MDD)をともないうる。
【0009】
MDDの診断を支持するために用いることが可能なMDDスコアを算出するためにアルゴリズムを用いることができる。HPA軸マーカーは、副腎皮質刺激ホルモン、コルチゾール、上皮成長因子、顆粒球コロニー刺激因子、膵臓ポリペプチド、バソプレッシン、およびコルチコトロピン放出ホルモンからなる群より選択することができ、代謝性マーカーは、アシル化刺激タンパク質、アディポネクチン、アポリポタンパク質CIII、C-反応性タンパク質、脂肪酸結合タンパク質、プロラクチン、レジスチン、インスリン、テストステロン、および甲状腺刺激ホルモンからなる群より選択される。複数のパラメータは、メタボリック症候群に関連する臨床測定値を含みうる(例えば、臨床測定値は、ボディマス指数、空腹時血糖値、血圧、中心性肥満、高密度リポタンパク質、およびトリグリセリドからなる群より選択される)。複数のパラメータは、尿中の1種もしくは複数種のカテコールアミンまたはカテコールアミン代謝物のレベル、1種もしくは複数種の炎症性バイオマーカーのレベル、および/または1種もしくは複数種の神経栄養性バイオマーカーのレベルを含みうる。
【0010】
別の態様では、本文書は、以下の工程を含む、うつ病性障害と診断された個人の治療を監視するための方法を特徴とする:(a)アルゴリズムを用いて前記個人からの生物学的試料中の複数の検体のレベルに基づく第1のMDD疾患スコアを決定する工程であって、前記複数の検体が1種または複数種のHPA軸バイオマーカーおよび1種または複数種の代謝性バイオマーカーを含む、工程;(b)前記アルゴリズムを用いて前記うつ病性疾患に対する前記個人の治療後の第2のMDD疾患スコアを決定する工程;ならびに(c)工程(a)のスコアを、工程(b)のスコアおよび対照MDD疾患スコアと比較し、工程(b)のスコアが工程(a)のスコアよりも前記対照MDDスコアに近い場合に前記治療を有効であるものとして分類するか、または、工程(b)のスコアが工程(a)のスコアよりも前記対照MDDスコアに近くない場合に前記治療を有効ではないものとして分類する工程。第2のMDD疾患スコアは治療の数週間後または数ヶ月後に決定することができる。工程(b)および(c)は、治療に対する前記個人の応答、前記個人のMDD状態の変化、または前記個人におけるMDDの進行を監視するために長期にわたって繰り返すことができる。前記複数の検体のサブセットは、治療開始の前後の各時点において測定することができる。
【0011】
本方法は、メタボリック症候群に関連する臨床的測定値(例えば、ボディマス指数、空腹時血糖値、血圧、中心性肥満、高密度リポタンパク質、およびトリグリセリドからなる群より選択される臨床的測定値)を含むパラメータを前記アルゴリズムに含める工程を更に含んでもよい。生物学的試料は血漿、血清、または脳脊髄液であってよい。バイオマーカーは核酸であってよく、生物学的試料は細胞または組織から構成されてよい。前記複数の検体は、尿中の1種または複数種のカテコールアミンまたはカテコールアミン代謝物質のレベルを含みうる。前記1種または複数種の代謝性バイオマーカーは、1種もしくは複数種の甲状腺ホルモン、またはテストステロンを含みうる。前記複数の検体は、1種もしくは複数種の炎症性バイオマーカーおよび/または1種もしくは複数種の神経栄養性バイオマーカーを含みうる。本方法は、工程(b)のスコアが工程(a)のスコアよりも対照MDDスコアに近くない場合に前記個人の治療を調整する工程を更に含んでもよい。前記対照MDDスコアは、正常な個人について算出されたMDDスコアまたは複数の正常な個人について算出されたMDDスコアの平均であってよい。
【0012】
更に別の態様では、本文書は、以下の工程を含む、個人がうつ病性を有する可能性が高いか否かを判定するための方法を特徴とする:(a)前記個人からの生物学的試料を提供する工程;(b)前記生物学的試料中の検体のレベルを測定する工程であって、該検体がアポリポタンパク質CIII、上皮成長因子、プロラクチン、およびレジスチンからなる群より選択される工程;(c)前記測定されたレベルを前記検体の対照レベルと比較する工程;ならびに(d)前記検体のレベルが前記対照レベルよりも高い場合には前記個人をうつ病を有する可能性が高いものとして分類し、または前記検体のレベルが前記対照レベルよりも高くない場合には前記個人をうつ病を有する可能性が低いものとして分類する工程。前記生物学的試料は例えば血清であってよい。前記うつ病はMDDをともないうる。
【0013】
特に定義しないかぎり、本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有するものである。本明細書に述べるものと同様または同等の方法および材料を使用して本発明を実施することが可能であるが、好適な方法および材料は下記に述べるものである。本明細書において言及するすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献の全体を参照によって組み込むものとする。記載が矛盾する場合には定義を含め、本明細書が優先するものとする。加えて、材料、方法、および実施例は単なる例証であって、限定を目的としたものではない。
【0014】
本発明の1つまたは複数の態様の詳細を添付の図面および以下の記載において説明する。発明の他の特徴、目的、および利点は本明細書および添付の図面から、ならびに添付の特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
[本発明1001]
以下の工程を含む、ヒト被験者がうつ病を有するか否かを判定するためのインビトロの方法:
(a)うつ病に関連することが予め決定された複数のパラメータの数値を提供する工程であって、前記複数のパラメータが1種または複数種の視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸マーカーおよび1種または複数種の代謝性マーカーを含む、工程;
(b)それぞれのパラメータに対してそれぞれが固有である所定の関数によって前記数値のそれぞれを個々に重み付けする工程;
(c)前記重み付けされた値の合計を求める工程;
(d)前記合計と対照値との差を求める工程;ならびに
(e)前記差が所定の閾値よりも高い場合には前記個人をうつ病を有するものとして分類し、または前記差が前記所定の閾値よりも高くない場合には前記個人をうつ病を有さないものとして分類する工程。
[本発明1002]
前記うつ病が大うつ病性障害(MDD)をともなう、本発明1001の方法。
[本発明1003]
MDDの診断を支持するために用いることが可能なMDDスコアを算出するためにアルゴリズムを用いる、本発明1002の方法。
[本発明1004]
前記HPA軸マーカーが、副腎皮質刺激ホルモン、コルチゾール、上皮成長因子、顆粒球コロニー刺激因子、膵臓ポリペプチド、バソプレッシン、およびコルチコトロピン放出ホルモンからなる群より選択され、かつ前記代謝性マーカーが、アシル化刺激タンパク質、アディポネクチン、アポリポタンパク質CIII、C-反応性タンパク質、脂肪酸結合タンパク質、プロラクチン、レジスチン、インスリン、テストステロン、および甲状腺刺激ホルモンからなる群より選択される、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記複数のパラメータが、メタボリック症候群に関連する臨床的測定値を含む、本発明1001の方法。
[本発明1006]
前記臨床的測定値が、ボディマス指数、空腹時血糖値、血圧、中心性肥満、高密度リポタンパク質、およびトリグリセリドからなる群より選択される、本発明1005の方法。
[本発明1007]
前記複数のパラメータが、尿中の1種もしくは複数種のカテコールアミンまたはカテコールアミン代謝物質のレベルを含む、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記複数のパラメータが、1種もしくは複数種の炎症性バイオマーカーを含む、本発明1001の方法。
[本発明1009]
前記複数のパラメータが、1種もしくは複数種の神経栄養性バイオマーカーを含む、本発明1001の方法。
[本発明1010]
以下の工程を含む、うつ病性障害と診断された個人の治療を監視するためのインビトロの方法:
(a)アルゴリズムを用いて前記個人からの生物学的試料中の複数の検体のレベルに基づく第1のMDD疾患スコアを決定する工程であって、前記複数の検体が1種または複数種のHPA軸バイオマーカーおよび1種または複数種の代謝性バイオマーカーを含む、工程;
(b)前記アルゴリズムを用いて前記うつ病性疾患に対する前記個人の治療後の第2のMDD疾患スコアを決定する工程;
(c)工程(a)のスコアを、工程(b)のスコアおよび対照MDD疾患スコアと比較し、工程(b)のスコアが工程(a)のスコアよりも前記対照MDDスコアに近い場合に前記治療を有効であるものとして分類し、または、工程(b)のスコアが工程(a)のスコアよりも前記対照MDDスコアに近くない場合に前記治療を有効ではないものとして分類する工程。
[本発明1011]
前記第2のMDD疾患スコアが治療の数週間後または数ヶ月後に決定される、本発明1010の方法。
[本発明1012]
工程(b)および(c)が、治療に対する前記個人の応答、前記個人のMDD状態の変化、または前記個人におけるMDDの進行を監視するために長期にわたって繰り返される、本発明1010の方法。
[本発明1013]
前記複数の検体のサブセットが治療開始の前後の各時点において測定される、本発明1010の方法。
[本発明1014]
メタボリック症候群に関連する臨床的測定値を含むパラメータを前記アルゴリズムに含める工程を更に含む、本発明1010の方法。
[本発明1015]
前記臨床的測定値が、ボディマス指数、空腹時血糖値、血圧、中心性肥満、高密度リポタンパク質、およびトリグリセリドからなる群より選択される、本発明1014の方法。
[本発明1016]
前記生物学的試料が血清である、本発明1010の方法。
[本発明1017]
前記生物学的試料が血漿である、本発明1010の方法。
[本発明1018]
前記生物学的試料が脳脊髄液である、本発明1010の方法。
[本発明1019]
前記バイオマーカーが核酸であり、かつ前記生物学的試料が細胞または組織を含む、本発明1010の方法。
[本発明1020]
前記複数の検体が、尿中の1種または複数種のカテコールアミンまたはカテコールアミン代謝物質のレベルを含む、本発明1010の方法。
[本発明1021]
前記1種または複数種の代謝性バイオマーカーが、1種または複数種の甲状腺ホルモンを含む、本発明1010の方法。
[本発明1022]
前記1種または複数種の代謝性バイオマーカーがテストステロンを含む、本発明1010の方法。
[本発明1023]
前記複数の検体が、1種または複数種の炎症性バイオマーカーを含む、本発明1010の方法。
[本発明1024]
前記複数の検体が、1種または複数種の神経栄養性バイオマーカーを含む、本発明1010の方法。
[本発明1025]
工程(b)のスコアが工程(a)のスコアよりも対照MDDスコアに近くない場合に前記個人の治療を調整する工程を更に含む、本発明1010の方法。
[本発明1026]
前記対照MDDスコアが、正常な個人について算出されたMDDスコアまたは複数の正常な個人について算出されたMDDスコアの平均である、本発明1010の方法。
[本発明1027]
以下の工程を含む、個人がうつ病性を有する可能性が高いか否かを判定するための方法:
(a)前記個人からの生物学的試料を提供する工程;
(b)前記生物学的試料中の検体のレベルを測定する工程であって、該検体がアポリポタンパク質CIII、上皮成長因子、プロラクチン、およびレジスチンからなる群より選択される工程;
(c)前記測定されたレベルを前記検体の対照レベルと比較する工程;ならびに
(d)前記検体のレベルが前記対照レベルよりも高い場合には前記個人をうつ病を有する可能性が高いものとして分類し、前記検体のレベルが前記対照レベルよりも高くない場合には前記個人をうつ病を有する可能性が低いものとして分類する工程。
[本発明1028]
前記生物学的試料が血清試料である、本発明1027の方法。
[本発明1029]
前記うつ病がMDDをともなう、本発明1027の方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】バイオマーカーの選択を概説するフロー図である。
図2】診断の生成用のアルゴリズムによる疾患に固有のライブラリーまたはパネルの生成のフロー図である。
図3】n個の診断スコアが生成される、基本診断スコアの生成のフロー図である。診断スコアSn=Fn(C1,..Cn,M1,..Mn)、式中、Snはn番目のスコアであり、Fnはn番目の関数であり、CnおよびMnはそれぞれn番目の係数およびn番目のマーカー発現レベルである。
図4】診断、治療の選択、治療の有効性の監視、および療法の最適化のために血液を使用する方法のフロー図である。診断スコアSn=Fn(C1,..Cn,M1,..Mn)、式中、Snはn番目のスコアであり、Fnはn番目の関数であり、CnおよびMnはそれぞれn番目の係数およびn番目のマーカー発現レベルである。
図5】対照およびMDD患者、ならびに抗うつ剤による治療を受けたMDD患者における膵臓ポリペプチドの血清レベルを示す箱ひげ図である。箱は25〜75パーセンタイルを表す。箱の内部に引かれた直線はマーカーの中央値濃度であり、各ひげは5および95パーセンタイルである。各ドットは個々の患者の値を表す。
図6】治療開始の前後の正常被験者およびMDD患者における仮想的バイオマーカータンパク質Xの血清レベルを示す箱ひげ図である。データは図5におけるものと同様である。
図7】50人のうつ病患者および20人の年齢一致した正常対照からの血清試料中のアポリポタンパク質CIIIの箱ひげ図である。データは図5におけるものと同様である。
図8】50人のうつ病患者および20人の年齢一致した正常対照からの血清試料中の上皮成長因子(EGF)の箱ひげ図である。データは図5におけるものと同様である。
図9】50人のうつ病患者および20人の年齢一致した正常対照からの血清試料中のプロラクチンの箱ひげ図である。データは図5におけるものと同様である。
図10】50人のうつ病患者および20人の年齢一致した正常対照からの血清試料中のレジスチンの箱ひげ図である。データは図5におけるものと同様である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
本文書は、アルゴリズムを生成し、HPA軸バイオマーカーおよび代謝性バイオマーカーなどの複数のパラメータを評価(例えば測定)し、前記アルゴリズムを使用して一連の定量的な診断スコアを求めることによって、うつ病性障害状態の診断、予後または素因を確立するための方法の同定に一部基づいたものである。血清または血漿などの生物学的試料からの複数のバイオマーカーを適用するためのアルゴリズムを生成して、患者の層別化および薬力学マーカーの同定を行うことができる。本明細書において述べるアプローチは、バイオマーカーに対するより伝統的なアプローチの一部のものとは、単一のマーカーまたは単一マーカー群を分析することに対してアルゴリズムの構築という点で異なっている。
【0017】
アルゴリズム
任意の臨床状態について例えば診断、予後、状態または治療に対する応答を決定するためのアルゴリズムを決定することができる。本明細書において提供される方法で使用されるアルゴリズムは、例えば、医療装置、臨床評価スコア、または生物学的試料の生物学的/化学的/物理的試験を用いて定量することが可能な複数のパラメータを含んだ数学的関数とすることができる。各数学的関数は、選択された臨床状態に関連するように決定されたパラメータのレベルの重み調整された表現でありうる。アルゴリズムは式1の形で一般的に表すことができる。
診断スコア=f(x1,x2,x3,x4,x5...xn) (1)
【0018】
診断スコアは、診断または予後の結果の値であり、「f」は任意の数学的関数であり、「n」は任意の整数(例えば1〜10,000の整数)であり、x1,x2,x3,x4,x5...xnは、例えば医療装置、臨床評価スコア、および/または生物学的試料(例えば、血液、尿、または脳脊髄液などのヒトの生物学的試料)についての試験結果によって決定される測定値である「n」個のパラメータである。
【0019】
アルゴリズムのパラメータは個々に重み付けすることができる。このようなアルゴリズムの一例を式2に示す。
診断スコア=a1*x1+a2*x2-a3*x3+a4*x4-a5*x5 (2)
【0020】
この場合、x1, x2, x3, x4, およびx5は、医療装置、臨床評価スコア、および/または生物学的試料(例えば、ヒトの生物学的試料)についての試験結果によって決定される測定値であってよく、a1, a2, a3, a4, およびa5は、それぞれx1, x2, x3, x4, およびx5に対して重み調整された因子である。
【0021】
診断スコアは、医学的状態もしくは疾患、または医療処置の効果を定量的に定義するために用いることができる。例えば、アルゴリズムを用いてうつ病などの障害についての診断スコアを決定することができる。このような態様においては、うつ病の程度を、下記一般式による式1に基づいて定義することができる。
うつ病診断スコア=f(x1,x2,x3,x4,x5...xn)
【0022】
うつ病診断スコアは、個人におけるうつ病の状態または重症度を測定するために使用することが可能な定量的数値であり、「f」は任意の数学的関数であり、「n」は任意の整数(例えば1〜10,000の整数)であってよく、x1,x2,x3,x4,x5...xnは、例えば医療装置、臨床評価スコア、および/または生物学的試料(例えば、ヒトの生物学的試料)についての試験結果を用いて決定される測定値である「n」個のパラメータである。
【0023】
より一般的な形では、式(3)に示されるような複数の診断スコアSmを、バイオマーカーの測定値の特定の群に複数の式を適用することによって生成することができる。
スコアSm=fm(x1,...xn) (3)
【0024】
複数のスコアは、例えばうつ病性障害および/または関連する障害の具体的なタイプを同定するうえで有用でありうる。例として、抑うつ気分と甲状腺機能低下症との間には関連があることが示されており、うつ病患者の1/3超が甲状腺機能低下症であると推定されている。その測定値が甲状腺機能低下の指標となりうる因子を含むバイオマーカーのパネル(例えば、抗甲状腺抗体、T3、T4、TSH)を用いて甲状腺機能低下症の指標となるスコアを算出することができる。これらのデータを、MDDの指標となる1つまたは複数のパネルと組み合わせることにより、臨床医がMDDおよび甲状腺機能低下症の双方を治療するためのレジメンを選択することが可能となる。複数のバイオマーカーパネルにおける測定値および治療レジメンの成功に基づいた累積的な経験によってレジメンの選択に関する更なる洞察が提供される。
【0025】
大うつ病性障害および他の気分障害では、治療の監視を行うことは臨床医が治療薬の用量および期間を調節する助けとなりうる。正常なホメオスタシスとより密接に似た個々のバイオマーカーのレベルにおける変化のサブセットを示すことは、所定のレジメンの効果を臨床医が評価する際の助けとなりうる。同様に、患者の下位分類は、治療レジメンとして使用するための最適な薬物または薬物の組み合わせを選択するうえで有用でありうる。臨床的効果の指標となるこのような変化は、製薬会社が新たな薬を開発する際にも有用なものとなりうる。
【0026】
診断アルゴリズムに含めるのにどのパラメータが有用であるかを調べるため、検体のバイオマーカーライブラリーを作成してもよく、ライブラリーからの個々の検体を特定の臨床状態についてのアルゴリズムに含めることに関して評価を行うことができる。バイオマーカーライブラリー生成の最初の段階では、炎症、Th1およびTh2免疫反応の指標となる検体、接着因子、ならびに組織リモデリングに関与するタンパク質(例えば、マトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)およびマトリクスメタロプロテイナーゼの組織阻害物質(TIMP))などの広く関連した臨床対象に焦点を置くことができる。いくつかの態様では(例えば最初のライブラリーの生成時に)、ライブラリーが数10種またはそれよりも多いマーカー、100種のマーカー、または数百種のマーカーを含んでもよい。例えば、バイオマーカーライブラリーは数百種のタンパク質検体を含みうる。バイオマーカーライブラリーを構築する際に新たなマーカー(例えば、個々の疾患状態に固有のマーカー、および/または成長因子などのより一般化されたマーカー)を追加することもできる。いくつかの態様では、検体を追加してライブラリーを拡張し、創薬研究(例えば、同位体コード親和性タグ(ICAT)または質量分析などのディファレンシャルディスプレー法を用いた)によって得られた疾患関連タンパク質を追加することによって炎症、腫瘍学および神経心理学的焦点を超えて特異性を高めることもできる。
【0027】
新たなタンパク質検体をバイオマーカーライブラリーに追加するには、精製分子または組み換え分子、ならびにその新たな検体を捕捉および検出するための適切な抗体(または複数の抗体)が必要とされる場合がある。新たな核酸ベースの検体をバイオマーカーライブラリーに追加するには、特異的mRNAの同定、ならびにその特異的RNAの発現を定量化するためのプローブおよび検出システムが必要とされる場合がある。個々の「新たな、または新規な」バイオマーカーを発見することは有用なアルゴリズムを生成するうえで必須ではないが、こうしたマーカーが含まれてもよい。本明細書において述べるような多検体検出法に適したプラットフォーム技術は一般的に柔軟であり、新たな検体を自由に追加することができる。
【0028】
本文書は、多重化検出システムによって、臨床状態を診断、治療、および監視することに関連した検体の強固かつ信頼性の高い測定が可能となることを示すものであるが、このことはパネルの個々の検体の濃度を測定することが可能なアッセイ(例えば一連の単一検体ELISA)の使用を除外するものではない。バイオマーカーのパネルは拡張して従来のタンパク質アレイ、多重化ビーズプラットフォームまたは無標識アレイに移行することが可能であり、臨床医および臨床研究を支援するためのアルゴリズムを作成することができる。
【0029】
カスタム抗体アレイを設計、作成し、約25〜50種類の抗原について分析的に検証することができる。最初に約5〜10種類(例えば5,6,7,8,9または10種類)の検体のパネルを、例えば疾患を有さない被験者から疾患を有する患者を区別する能力、または規定された試料群から患者の疾患の各ステージを区別する能力に基づいて選択することができる。しかしながら豊富なデータベース、通常は10種類よりも多い重要な検体を測定するようなものは、試験アルゴリズムの感度および特異性を高めることができる。HPA軸活性およびメタボリック症候群を反映するパネルに加えて他のパネルを使用することによって疾患状態を更に定義したり、患者を下位分類することもできる。例として、神経栄養性因子の測定値から得られたデータによって、神経可塑性が変化した患者を識別することができる。このようなアプローチが、DNAおよびRNAを含むがこれらに限定されない他の生物学的分子を含むこと、あるいはこうした生物学的分子に適用されることも可能である点は認識されるであろう。
【0030】
個々のパラメータの選択
ライブラリーまたはパネルの構築においては、マーカーおよびパラメータを様々な方法のいずれかによって選択してもよい。疾患固有のライブラリーまたはパネルの構築の主たる推進力は、あるパラメータがその疾患と関連しているとの知見でありうる。例えば糖尿病についてのライブラリーを構築するには、疾患の理解に基づいて、血糖値が含まれることは恐らく正当であろう。含まれる他のパラメータ/マーカーを同定するために文献の調査または実験を利用することもできる。例えば糖尿病の場合、文献の調査によってヘモグロビンA1c(HbAC)の潜在的有用性が示されうるのに対して、詳細な知識または実験によれば、II型糖尿病の被験者において上昇することが示されている炎症性マーカーである腫瘍壊死因子(TNF)-α受容体2(sTNF-RII)、インターロイキン(IL)-6、およびC-反応性タンパク質(CRP)が含まれうる。
【0031】
視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸またはHTPA軸とも呼ばれる)は、視床下部、下垂体、および副腎間の直接的影響およびフィードバック相互作用の複雑なセットである。これら3つの器官間の繊細かつホメオスタティックな相互作用が、ストレスに対する反応を制御するとともに、消化、免疫系、気分および性衝動、ならびにエネルギー消費を含む多様な身体プロセスを調節する神経内分泌系の主要部分であるHPA軸を構成する。大うつ病の患者において高コルチゾール血症が観察されている(例えば、Carpenter and Bunney (1971) Am. J. Psychiatry 128:31; Carroll(1968) Lancet 1: 1373; および Plotsky et al. (1998)Psychiatr. Clin. North Am. 21: 293-307を参照)。真性高コルチゾール血症およびHPA軸の機能不全は重症のうつ病において見られ、HPA軸の各要素は、外部刺激に対して応答するという点で形質のマーカーではなく、状態のマーカーであるものと考えられる。
【0032】
本明細書で定義する代謝性バイオマーカーとは、全体的な健康、およびエネルギー代謝を含む代謝プロセスの調節に関連するマーカーのことを指す。監視することが可能な潜在的な代謝性マーカーとしては、心血管疾患および糖尿病の発症リスクを増大させる医学的障害の組み合わせであるメタボリック症候群に関連するバイオマーカーがある。うつ病はメタボリック症候群との関連によって心血管疾患の発症につながりうることが示唆されている。うつ病とメタボリック症候群との間の生化学的な関係についてはほとんど分かっていないが、大うつ病エピソードの病歴を有する女性ではうつ病の病歴を有さない女性と比較してメタボリック症候群を2倍発症しやすかったことが観察されている(Kinder et al.(2004) Psychosomatic Medicine 66: 316-322)。
【0033】
図1は、診断または予後の決定に使用される疾患固有のライブラリーまたはパネルを作成するうえで含まれうる最初の工程を詳細に示したフロー図である。このプロセスは、1)一変量分析によりバイオマーカーの分布を疾患との関連について試験すること、および2)重複しない一次元クラスターにバイオマーカーを分割する手段を用いて複数のグループにバイオマーカーをクラスター化すること(主成分分析に似たプロセスである)、の2つの統計的手法を含みうる。最初の分析の後、更なる分析用のパネルを設計するために各クラスターからの2種またはそれよりも多いバイオマーカーのサブセットを同定することができる。この選択は通常、マーカーの統計的強度および疾患の現在の生物学的な理解に基づいたものである。
【0034】
図2は、診断または予後の確立に使用される疾患固有のライブラリーまたはパネルを作成するうえで含まれうる各工程を示したフロー図である。第1のプロセスは効率的であり、実験および統計に基づいたマーカーの選択を可能とするものであるが、図2に示されるように、関連するバイオマーカーの選択は、図1で述べた選択プロセスに依存したものである必要はない。しかしながら、このプロセスは、仮説および現時点で利用可能なデータに完全に基づいて選択されたバイオマーカー群によって開始することができる。プロセスには、関連する患者集団、および正常な被験者の適切に一致した(例えば、年齢、性別、人種、BMI、および/または他の任意の適切なパラメータについて)集団を選択することが通常含まれる。いくつかの態様では、患者の診断は、最新の方法を用い、いくつかの場合では患者集団についての関連する経験を有する単一の医師グループによって行うことができる。バイオマーカーの発現レベルは、単一アッセイ(例えばELISAまたはPCRなど)を含む、Luminex MAP-x、Pierce SearchLight、PHB MIMS装置または他の任意の適切な技術を用いて測定することができる。一変量分析および多変量分析は従来の統計的手段(例えばこれらに限定されるものではないが、T検定、主成分分析(PCA)、線形判別分析(LDA)、または二項ロジスティック回帰など)を用いて行うことができる。
【0035】
検体測定
任意の適切な方法を用いて診断/予後アルゴリズムに含まれるパラメータを定量化することができる。例えば、検体の測定値は、被験者の状態を査定するための1つもしくは複数の医療装置または臨床評価スコアを用いるか、あるいは特定の検体のレベルを決定するための生物学的試料の試験を用いて得ることができる。本明細書において使用する「生物学的試料」とは、核酸、ポリペプチド、または他の検体をそこから得ることができる細胞または細胞物質を含む試料である。生物学的試料の例としては、これらに限定されるものではないが、尿、血液、血清、血漿、脳脊髄液、胸水、気管支洗浄液、痰、腹水、膀胱洗浄液、分泌物(例えば乳房分泌物)、口腔洗浄液、スワブ(例えば口腔スワブ)、単離細胞、組織試料、捺印細胞診標本、および細針吸引生検材料が挙げられる。
【0036】
測定値は個々のパラメータについて別々に得るか、あるいは複数のパラメータについて同時に得ることができる。任意の適切なプラットフォームを使用してパラメータの測定値を得ることができる。複数のパラメータを同時に定量化するのに有用なプラットフォームには、例えば、いずれもその全体が本明細書に参照によって組み入れられる米国仮特許出願第60/910,217号および同第60/824,471号、米国特許出願11/850,550号、ならびに国際特許出願公開第WO2007/067819号に述べられるものが含まれる。
【0037】
有用なプラットフォームの1つの例では、Precision Human Biolaboratories, Inc.によって開発されたMIMS無標識アッセイ技術を利用している。簡単に述べると、薄膜の境界における局所的干渉が光学検出技術の基礎をなしうる、というものである。生体分子の相互作用の分析を行う場合、SiO2の干渉層を有するガラスチップをセンサーとして使用することができる。この層の表面に結合する分子により干渉層の光学的厚さが増大するが、これは例えば米国仮特許出願第60/910,217号および同第60/824,471号に記載されるようにして決定することができる。
【0038】
図3は、診断の作成および適用のためのスコア群を確立するうえで含まれうる工程を示したフロー図である。このプロセスは、試験しようとする被験者から生物学的試料(例えば血液試料)を取得する工程を含みうる。行われる分析の種類に応じて血清、血漿、または血液細胞を標準的な方法によって単離することができる。生物学的試料が直ちに試験される場合には試料を室温で維持すればよいが、そうでない場合にはアッセイに先だって試料を冷蔵または凍結(例えば-80℃で)することができる。バイオマーカーの発現レベルは、MIMS装置、または例えばELISAもしくはPCRなどの単一アッセイを含む他の任意の適切な技術を用いて測定することができる。各マーカーについてのデータを収集し、アルゴリズムを適用して診断スコア群を生成することができる。診断スコアおよび個々の検体レベルは、被験者の診断および/または治療行為を確立するために使用する目的で臨床医に提供することができる。
【0039】
図4は、診断を決定し、治療を選択し、治療経過を監視することを助ける診断スコアを使用する方法のフロー図である。バイオマーカー群の発現レベルから1つまたはそれよりも多い複数の診断スコアを生成することができる。この例では、患者の血液試料から複数のバイオマーカーを測定することができる。すなわち、アルゴリズムによって3つの診断スコアが生成される。いくつかの場合では、診断を行い、治療を選択することを助けるうえで単一の診断スコアで充分なこともある。治療レジメンが選択され、治療が開始されたなら、採血を行い、バイオマーカーレベルを測定し、診断スコアを生成することによって患者を定期的に監視することができる。複数の測定値を用いてS3を生成することができる。これらの複数のスコアは、継続的に治療(用量およびスケジュール)を調節し、更に患者の状態を定期的に査定し、新たな単一または多剤療法を最適化および選択するために使用することができる。
【0040】
多重化を行ううえで有用なプラットフォームの1つの例として、FDAによる認可済みのフローに基づくLuminexアッセイシステム(xMAP; World Wide Webでluminexcorp.com)がある。この多重化技術は、フローサイトメトリーを用いて抗体/ペプチド/オリゴヌクレオチドまたは受容体でタグ付けおよび標識されたマイクロスフェアを検出するものである。このシステムはその構成が自由であるために、Luminexはホストに特定的な疾患パネルに合わせて容易に適合させることができる。
【0041】
本明細書において提供される方法によって生成される診断スコアを使用して治療を監視することができる。例えば、診断スコアおよび/または個々の検体レベルを、被験者の治療経過を確立または変更するために使用する目的で臨床医に提供することができる。治療が選択され、治療が開始されたなら、2つまたはそれよりも多い間隔で生物学的試料を採取し、バイオマーカーのレベルを測定して所定の時間間隔に対応した診断スコアを生成し、診断スコアを経時的に比較することによって、被験者を定期的に監視することができる。これらのスコアおよび診断スコアの増大、減少または安定について観察されるあらゆる傾向に基づき、臨床医、療法士、または他の医療従事者は、そのまま治療を継続するか、治療を中断するか、あるいは時間の経過とともに改善を見ることを目標として治療計画を調整することを選択することができる。例えば、診断スコアの変化によって決定される疾患の重症度の低下は、治療に対する患者の正の応答に対応しうる。診断スコアの変化によって決定される疾患重症度の上昇は、治療に対する正の応答が見られなかったことを示すか、かつ/または現在の治療計画を見直す必要があることを示しうる。静的な診断スコアは、疾患の重症度に関して平衡状態であることに対応しうる。
【0042】
診断スコアはまた、疾患重症度を層別化するために使用することもできる。いくつかの場合では、本明細書において提供されるアルゴリズムによって決定される個々の検体レベルおよび/または診断スコアを、被験者が軽度、中度、または重度のうつ病を有するものと診断するために使用することを目的として臨床医に提供することができる。例えば、本明細書において提供されるアルゴリズムを用いて生成される診断スコアは、診断スコアを決定する研究技術者または他の専門家によって、特定のスコア、または所定の時間にわたる診断スコアの増加もしくは減少に基づいて被験者を特定の疾患重症度を有するものとして分類する臨床医、療法士、または他の医療従事者へと伝達することができる。これらの分類に基づいて、臨床医、療法士、または他の医療従事者は、患者のケアを最適化することを目標とした適切な治療選択肢、教育的プログラム、および/または他の療法を評価および推奨することができる。診断は例えば、最新の方法を用いて行うか、あるいは患者集団についての関連する経験を有する単独の医師または医師のグループによって行うことができる。患者が治療後に監視されている場合、疾患層(軽度、中度、および重度のうつ病)間での移行は、疾患重症度の上昇または低下を示しうる。いくつかの場合では、疾患層間での移行は、特定の被験者または被験者群について選択された治療計画の有効性に対応しうる。
【0043】
患者の診断スコアが報告された後、医療従事者は患者のケアに影響しうる1つまたは複数の行動をとることができる。例えば、医療従事者は患者の診療記録に診断スコアを記録することができる。いくつかの場合では、医療従事者はMDDの診断を記録するか、さもなければ患者の診療記録を、患者の医療状態を反映するように変更することができる。いくつかの場合では、医療従事者は患者の診療記録を見直して評価し、患者の状態の臨床的介入について複数の治療策を査定することができる。
【0044】
医療従事者は、患者の診断スコアに関する情報を受け取った後、MDDの症状に対する治療を開始または変更することができる。いくつかの場合では、診断スコアおよび/または個々の検体レベルの以前の報告を、最近伝達された診断スコアおよび/または疾患状態と比較することができる。このような比較に基づき、医療従事者は療法の変更を推奨する場合もある。いくつかの場合では、医療従事者は患者をMDDの症状の新たな治療的介入に関する臨床試験に患者を登録することができる。いくつかの場合では、医療従事者は、患者の症状が臨床的介入を必要とするまで療法を開始するのを待つことを選択できる。
【0045】
医療従事者は、診断スコアおよび/または個々の検体レベルを患者または患者の家族に伝達することができる。いくつかの場合では、医療従事者は、患者および/または患者の家族に、治療の選択肢、予後、ならびに例えば精神科医および/またはカウンセラーなどの専門家への紹介を含む、MDDに関する情報を提供することができる。いくつかの場合では、医療従事者は、専門家に診断スコアおよび/または疾患状態を伝達するために患者の診療記録の写しを提供することができる。
【0046】
研究者はMDD研究を進めるために被験者の診断スコアおよび/または疾患状態に関する情報を適用することができる。例えば、研究者は、効果的な治療薬を特定するために、MDDの症状の治療に対する薬物の効果に関する情報を用いてMDDの診断スコアのデータをまとめることができる。いくつかの場合では、研究者は、調査研究または臨床試験への被験者の登録または継続参加を評価するために被験者の診断スコアおよび/または個々の検体レベルを取得することができる。研究者は、被験者の現在および以前の診断スコアに基づいて被験者の状態の重症度を分類することができる。いくつかの場合では、研究者は、被験者の診断スコアおよび/または個々の検体レベルを医療従事者に伝達することができ、かつ/またはMDDの臨床評価およびMDDの症状の治療を行うために医療従事者に被験者を紹介することができる。
【0047】
任意の適切な方法を用いて情報を別の人(例えば専門家)に伝達することが可能であり、情報を直接的または間接的に伝達することが可能である。例えば、検査技師は、診断スコアおよび/または個々の検体レベルをコンピュータベースの記録に入力することができる。いくつかの場合では、診療記録または調査記録に物理的な変更を行うことによって情報を伝達することができる。例えば、医療専門家は、記録を閲覧する他の医療従事者に診断を伝達するために、永続的表示をするかあるいは診療記録に目印を付けることができる。任意の伝達方式を利用することができる(例えば、郵便、電子メール、電話、および直接の面会)。情報を専門家にとって電子的に利用可能とすることによって該情報を専門家に伝達することもできる。例えば、医療従事者が情報にアクセスできるようにコンピュータデータベース上に該情報を置くことができる。更に、情報を、専門家の代理として機能する病院、診療所、または研究施設に伝達することができる。
【0048】
いくつかの態様では、MDDの診断、MDDの重症度の層別化、および/またはMDDの治療の監視は、単一の検体のレベルに基づいて行うことができる。例えば、被験者からの生物学的試料中のアポリポタンパク質CIIIのレベルを測定することができ、このレベルをアポリポタンパク質CIIIの対照レベルと比較することができる。被験者において測定されたレベルが対照レベルよりも高い場合(例えば対照レベルを5%、10%、20%、25%、50%、75%、100%、または100%よりも大きく上回る場合)、被験者はMDDを有するかあるいはMDDを有する可能性が高いものとして分類される。被験者において測定されたレベルが対照レベルよりも高くない場合、被験者はMDDを有さないかあるいはMDDを有する可能性が高くないものとして分類される。MDDの重症度は被験者における単一の検体のレベルに基づいて層別化することもでき、被験者におけるMDDの治療を1種または複数種の単一の検体のレベルの変化に基づいて監視することができる。例えば、MDDの診断、MDDの重症度の層別化、またはMDDの治療の監視を、上皮成長因子、プロラクチン、レジスチンもしくはアポリポタンパク質CIIIなどの単一の検体、またはこれら4種類の検体のうちの2種、3種もしくはすべての組み合わせの測定されたレベルに基づいて行うことができる。診断スコアに関し、医療専門家または研究者は、単一の検体(例えば上皮成長因子、プロラクチン、レジスチンまたはアポリポタンパク質CIII)の測定レベルに基づいて、患者のケアに影響を及ぼしうる1つまたは複数の行動をとりうる点に注意すべきである。
【0049】
本発明を以下の実施例において更に説明する。実施例は添付の特許請求の範囲に述べられる本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0050】
実施例1-うつ病の診断マーカー
本明細書において述べる方法を用いて例えば大うつ病性障害(MDD)の診断またはその素因を決定するうえで有用な、あるいは抗うつ治療に対する応答性を評価するうえで有用なうつ病スコアを決定するためのアルゴリズムを生成した。本明細書において述べるもののような多重化検出システムを使用してうつ病の分子的関連因子の表現型を決定した。予備的研究によって、MDDを有する集団におけるバイオマーカーのパネルを作成するうえで多重化抗体アレイを使用することの有用性が示された。精神状態(例えば病変の種類、重症度、治療に対して正の応答を示す確率、再発のしやすさ)を反映するバイオマーカーが利用可能であれば、うつ病の適正な診断および治療の双方に影響が与えられうる。この系統的かつ高度に並列的なコンビナトリアルアプローチは、本明細書において述べられるようなアルゴリズムを用いて「疾患固有の特性」を構築することが提唱されている。そのためこのアルゴリズムを用いて以前にMDDと診断された個人および患者の状態を決定することができる。表1は、MDD疾患に固有のバイオマーカーライブラリー、すなわち、ヒト血清中に発現されるタンパク質を定量化するうえで有用な一群の試験を例示したものである。
【0051】
表1は、MDDの個々のバイオマーカーとしてこれまでに評価されている一連のバイオマーカー、および疾患固有の多検体パネルの要素を列記している。バイオマーカーの査定およびアルゴリズムの生成には、以下の2つの統計的手法を用いることができる。すなわち、(1)バイオマーカーの分布をMDDとの関連について試験するための一変量分析、ならびに(2)アルゴリズム構築のための線形判別分析(LDA)および二項ロジスティック回帰である。
【0052】
個々の検体レベルの一変量分析:スチューデントのT検定を用い、試験した各検体の血清レベルをLuminex多重化技術を用いて分析することで、うつ病の被験者と正常被験者とで比較を行った。有意水準はp≦0.05に設定した。
【0053】
表2は、HPA軸および代謝に関連したマーカーのサブセットについてマーカーの測定値およびp値(独立したT検定によって求めた)を列記している。
【0054】
表3は、診断スコアを生成するために使用することが可能な代謝性バイオマーカーおよびHPAバイオマーカーの組み合わせの様々な群の部分的な一覧を含んでいる。これらの群、またはこれらの群の組み合わせは、うつ病性障害の様々なサブタイプを診断するか、または治療を選択および監視するために使用することができる。更に、これらの群に他のマーカーを追加することによって、患者を更に分類し、患者の層別化ならびにうつ病の診断および管理のための一連の最適なパネルを生成することもできる。
【0055】
表4は、マーカーの数を9種類のマーカーパネルから3種類のマーカーパネルへと変化させた場合に、バイオマーカーパネルのサブセットが、結果として得られるパネルの全体の予測性にどのように影響するかを示したものである。この表から明らかなように、パネルからの一部のマーカーの除外によって、正しい予測率にほとんど影響はみられなかった。検体を追加または除外し、結果として得られる予測性を決定することにより、パネルが最適化される。予測性についての基準のセット(例えば、適正な診断を行う能力対介入の有効性を予測する能力)に応じて臨床的に有用な情報が生成される。
【0056】
(表1)MDDバイオマーカーライブラリー
【0057】
(表2)MDD被験者および正常被験者における血清バイオマーカーレベル
【0058】
(表3)バイオマーカーの組み合わせ(9要素のパネル)マーカーの組み合わせの部分的リスト
【0059】
(表4)バイオマーカーの組み合わせとサブセットの予測性の例
【0060】
個々のバイオマーカーを更なる研究において評価した。詳細には、50人のうつ病患者および20人の年齢一致した正常対照からの血清中のアポリポタンパク質CIII、上皮成長因子、プロラクチン、およびレジスチンのレベルを測定した。図7〜10に示されるように、これらのマーカーはいずれもうつ病患者において正常対照よりも高い濃度で存在した。
【0061】
実施例2-薬物療法後に変化するうつ病バイオマーカー
うつ病を監視するための現時点における最新の技術は、生物学的検査ではなく定期的な臨床的面接に基づいている。プラセボ効果、過剰投与、および患者による報告の不正確さは、有効性を監視し、適切な治療を決定することを困難にしうるものである。本明細書において開示するように、バイオマーカーパネルを用いることでバイオマーカーの測定値に基づき将来的な臨床転帰または適切な用量の調整を予測することが可能である。これにより、血漿濃度または用量として測定されるバイオマーカーの変化と薬物への曝露の変化との間の相関関係が確立される。課題の1つは、モデルを予め計画して適切に実施し、薬物曝露およびバイオマーカーの時間的経過のどの測定基準が臨床転帰を予測しうるかを決定することである。
【0062】
図4は、診断、治療の選択、および治療経過の監視の助けとするために診断スコアを使用するための方法を示したフロー図である。この例では、患者の血液試料から複数のバイオマーカーを、ベースラインおよび療法開始後の各時点において測定する。バイオマーカーのパターンは、認知療法、電気ショック療法、または行動療法を受けている患者に対して、抗うつ剤治療を受けている患者では異なりうることから、正常患者の診断スコアの方向に向かう診断スコアの変化は有効な療法であることを示すものである。各療法についての累積的な経験が増加するのにしたがって、特定の抗うつ剤などによる療法を監視するための特定のバイオマーカーパネルおよび/またはアルゴリズムが導き出される。
【0063】
抗うつ剤療法を受けている患者は耐性となりうるため、患者は、採血し、バイオマーカーレベルを測定し、診断スコアを生成することによって定期的に監視される。このような複数の測定値は、治療(例えば用量およびスケジュール)を継続的に調整し、患者の状態を定期的に査定し、新たな単剤または多剤療法を最適化および選択するために使用することができる。療法の開始後に変化するバイオマーカーを同定するうえで最適な実験設計は、薬物を未投与の患者を療法の経過の間監視する前向き臨床試験である。しかしながら、横断的な調査を用いて、治療の間に上方制御または下方制御されるバイオマーカーを同定することができる。抗うつ剤療法後に変化する可能性のあるMDDのバイオマーカーの一部の例を表5に示す。この実施例は血清(または血漿)中の各タンパク質のレベルに注目したものであるが、mRNAの発現(例えば治療中の患者から単離されたリンパ球における)について同様の研究を行うこともできる。
【0064】
(表5)抗うつ剤療法を受けているMDD患者対抗うつ剤療法を受けていないMDD患者におけるバイオマーカーの値
【0065】
単一のバイオマーカー(膵臓ポリペプチド)の未加工データの例を図5に示す。各ドットは個々の被験者を表す。箱が25〜75パーセンタイルを表しているのに対し、ひげは5および95パーセンタイルを示す。この場合、抗うつ剤治療を受けている患者における血清膵臓ポリペプチドの平均値は、正常被験者における血清膵臓ポリペプチドレベルと同様であると思われた。
【0066】
この調査は、特定の個々のマーカーの血清レベルは療法に際して変化しうることを示唆するものであるが、これは療法が個々の患者にどのように影響するかを考慮していない横断的な調査であった。
【0067】
バイオマーカー群を、ベースラインおよび療法開始後の各時点において測定することにより、療法を監視することが提案された。例として図6に、6人の仮想的MDD患者群における、治療前後のマーカーXの血中レベルの分布を示す。このグラフから理解される第1の点は、マーカーXの濃度が対照被験者とは対照的に非処置のMDD患者において高い点である。第2に、治療後のMDD患者におけるマーカーXのレベルは対照におけるマーカーXのレベルと同様である。そこでスチューデントのt検定を用いて2つのデータ群を比較し、2つの群の平均の差が有意であるという仮定を検定する。平均の差は、それらが標準偏差何個分だけ離れているかに基づいて統計的に有意である。この距離は、スチューデントのt統計、および、t統計の絶対値が偶然その大きさであるかそれよりも大きくなる対応する確率または有意性を用いて有意であると判定される。更にt検定では、集団同士が独立しているかペアであるかを考慮する。独立t検定は、2つの群が同じ全体的な分散を有するが異なる平均を有すると考えられる場合に使用することができる。独立t検定は、特定の集団が特定の理想的な基準からどのように異なっているか、例えば処置群が独立した対照群とどのように比較されるかについての主張に支持を与えることができる。独立t検定は等しくない数の点を有するデータ群に対して行うことができる。ペア検定は、2つの試料が等しいサイズである(すなわち、同じ数の点)場合にのみ行われる。ペア検定では、一方の集団における任意の点の分散が第2の集団における対応する点について同じであると仮定する。この検定は、各試料ごとの実験結果を比較することによってある処置についての結果を支持するために用いることができる。例えば、この検定を用いて1つの群について処置の前後の結果を比較することができる。この手法は、独立t検定を用いた場合に平均に有意差が見られない2つのデータ群を評価するうえで助けとなりうる。この検定は2つのデータ群が等しい数の点を有する場合にのみ行われる。検定の際には、平均の差の有意性を測定するためのスチューデントのt統計、およびt統計が偶然その値をとる確率(p値)を計算する。p値が小さいほど平均の差はより有意性が高くなる。多くの生物学的システムではp>0.05の有意水準が、t統計が偶然のみによっては得られない確率を表す。
【0068】
例えば、等しい数の点を有する図6のデータにスチューデントのt検定を適用することより、マーカーXの発現の差は対照被験者とMDDの患者との間で統計的に有意であり(p=0.002)、治療前後の差も有意である(p=0.013)であることが示された。最後に、対照群と治療後のMDD患者との間には統計的な有意差は見られなかった(p=0.35)。
【0069】
このようなデータは、変量についてデータの頻度分布を得るために用いることができる。これはその変量の最低値および最高値を特定し、次いで変量のすべての値を最も低いものから最も高いものまで順に並べることによって行われる。変量のそれぞれの値の出現回数は、そのデータ群においてそれぞれの値が生じる頻度の計数である。例えば、アルゴリズムを用いてMDDスコアが算出される場合、患者集団を同じMDDスコアを有する各群に配置することができる。25人の患者を治療の前後に監視する場合、それぞれのMDDスコアについて頻度を確立し、治療が有効であるか否かを確認することができる。表6は、ベースラインおよび治療(Rx)後4週目のMDDスコアを確立したデータの例を示す。表から分かるように、高スコア(9点および10点)の患者の数は治療後に13人から6人に減少し、同時により低いMDDスコアの範囲(6点および7点)においては6人から13人に増加し、治療の有効性が示された。
【0070】
(表6)
【0071】
他の態様
本発明を発明の詳細な説明とともに説明したが、上記の記載は説明を目的としたものであって、本発明の範囲を限定することを目的としたものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義されるものである点は理解されるべきである。他の局面、利点、および改変は添付の特許請求の範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10