(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
腎疾患の治療において、食事療法は、原疾患の種類や病期(ステージ)に関わらず極めて重要である。
慢性腎臓病の患者(透析患者を含む)においては、腎臓に負担をかける蛋白質の過剰な摂取を避ける必要があるとされている(特許文献1または非特許文献1参照)。例えば、病期により異なるが、蛋白質摂取量の基準として、1日あたり0.6〜1.0g/kgが挙げられている(非特許文献1)。
また、ステージ3〜5の患者においては、低蛋白食事療法において、食塩を3g以上摂取することが基準となっている(非特許文献1参照)。透析患者においては、市販の経腸栄養剤を組み合わせて栄養管理を実施した結果、5例中4例で塩化ナトリウムの補充が必要であったという報告もある(非特許文献2参照)。
【0003】
また、透析患者に対しCl(クロール:塩素)に対するNa(ナトリウム)含有量が多い経腸栄養剤を使用したことによる、アルカローシス発症の報告がある(非特許文献3参照)。
【0004】
近年、腎疾患患者の高齢化や重症疾患の合併に伴い、流動食(液状栄養組成物)を利用した経口又は経管による食事療法が必要なケースが増加している。
食事療法に用いられる液状栄養組成物は、通常、水及び油脂類を含有するため、乳化型である。そのため、液状栄養組成物の処方設計や製造においては、乳化安定性の確保が課題となる。
【0005】
従来、液状栄養組成物を製造する際に用いる乳化剤としては、以下の例が知られている。
特許文献2には、蛋白質を所定量含有する流動性栄養組成物において、乳化剤としてグリセリン脂肪酸エステルを用いた実施例が記載されている。
特許文献3には、植物性又は動物性の蛋白分解物を所定量含有する液状流動食において、乳化剤としてコハク酸モノグリセライドを単独で用いた実施例が記載されている。
特許文献4には、育児用ミルク等の栄養組成物において、乳化剤としてコハク酸モノグリセリド及び/又はタピオカ澱粉を含有することが記載されている。
特許文献5には、全乳蛋白とカゼインナトリウムを所定の比率で含有する流動食において、乳化剤としてデカグリセリン脂肪酸エステルとデカグリセリン酒石酸モノグリセリドを用いた実施例が記載されている。
特許文献6には、液状経腸栄養剤に用いる乳化剤として、コハク酸モノグリセリドとクエン酸モノグリセリドを組み合わせることが記載されている。
【0006】
なお、腎疾患患者に供与するための流動食としては、特許文献1に、たんぱく質含量がエネルギー100kcalあたり0.5〜1.5g、ナトリウム含量が10〜30mgの組成物Aと、たんぱく質含量がエネルギー100kcalあたり3.0〜4.0g、ナトリウム含量が50〜70mgの組成物Bとを4:1〜1:4の割合で混合した腎臓病患者用の流動性液状栄養組成物が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、腎疾患患者に対する食事療法では、蛋白質含量、ナトリウム含量、及びクロール(塩素)含量について配慮する必要がある。
しかしながら、特許文献1に記載されるような従来の腎臓病患者用の流動性栄養組成物は、ナトリウム含量やクロール含量が十分でなく、用時に塩化ナトリウムを追加して使用する必要があった。
【0010】
そこで、従来の流動性液状栄養組成物において、腎疾患患者に適した蛋白含量(例えば3.5g以下/100kcal)としながら、ナトリウム含量やクロール含量を、従来のものより多くしようとする場合に、特許文献2、3に記載されるように、グリセリン脂肪酸エステル、又は有機酸モノグリセリドを単独で使用すると、油分の分離や蛋白質の凝集が起こり、十分な乳化安定性が得られないという問題があった。また、特許文献4〜6に記載されるような乳化剤の組み合わせによっても、その乳化安定は十分とは言えない状況であった。
これは、特許文献2〜6に記載されるような通常の流動食に比して、本来乳化力を有する蛋白質の含有量が少ない上に、蛋白質の凝集を引き起こすナトリウムやクロールの含有量が多いためであると考えられる。
【0011】
このような状況において、腎疾患患者に投与するのに適した、蛋白質含量、ナトリウム含量、クロール含量を満足し、かつ乳化安定性に優れた液状栄養組成物の開発が望まれていた。
そこで、本発明は、腎疾患患者に投与するのに適した、蛋白質含量、ナトリウム含量、クロール含量を兼ね備え、乳化安定性に優れた液状栄養組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決する本発明は、100kcalあたりの蛋白質含量が
1.5〜3.5g、ナトリウム含量が100
〜200mg、かつ、ナトリウム含量に対するクロール(塩素)含量の質量比が
1.0〜1.5の腎疾患患者用の液状栄養組成物であって、レシチンと有機酸モノグリセリドとを
合計含量で0.05〜1.0質量%含有
し、レシチン及び有機酸モノグリセリドの質量比が、1:2〜2:1であることを特徴とする。
蛋白質含量が一定以下、ナトリウム含量とクロール含量が一定以上である蛋白質の凝集が起こりやすい不安定な系でも、乳化剤としてレシチンと有機酸モノグリセリドとを組み合わせて使用することにより、液状栄養組成物の乳化安定性を向上させることができる。
これにより、腎疾患患者の食事療法に重要な蛋白質、ナトリウム、クロールを、バランス良く含む液状栄養組成物を提供することが可能となる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、有機酸モノグリセリドは、コハク酸モノグリセリド及びクエン酸モノグリセリドから選ばれる少なくとも1種である。
有機酸モノグリセリドとして、コハク酸モノグリセリド及びクエン酸モノグリセリドから選ばれる少なくとも1種を使用することにより、更に乳化状態を良好にすることができる。
【0014】
本発明
では、
レシチンと有機酸モノグリセリドとを使用することにより、液状栄養組成物の安定性をより向上させることができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、レシチン及び有機酸モノグリセリドの合計含量が、0.05〜1.0質量%である。
このような含量で、レシチンと有機酸モノグリセリドとを使用することにより、液状栄養組成物の安定性をより向上させ、また液状栄養組成物としての良好な物性を得ることができる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、1mlあたりのエネルギー量が1.0kcal以上である。
これにより腎疾患患者において必要なエネルギーを効率よく摂取することができる。また、本発明の上述した構成によれば、脂質や糖質を十分に含む、高カロリーの液状栄養組成物においても優れた乳化安定性を発揮する。
【0017】
上記課題を解決する本発明は、100kcalあたりの蛋白質含量が
1.5〜3.5g、ナトリウム含量が100
〜200mg、かつ、ナトリウム含量に対するクロール含量の質量比が
1.0〜1.5の腎疾患患者用の液状栄養組成物の製造方法であって、蛋白質、ナトリウム、クロールを含む水相に有機酸モノグリセリドを添加する工程と、油脂を含む油相にレシチンを添加する工程と、前記水相と油相を混合し、乳化する工程と、を含
み、レシチンと有機酸モノグリセリドとを合計含量で0.05〜1.0質量%含有し、レシチン及び有機酸モノグリセリドの質量比が1:2〜2:1であるものである。
このような製造方法により、乳化安定性に優れた腎疾患患者用の液状栄養組成物を製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、腎疾患患者の食事療法において重要な蛋白質含量、ナトリウム含量、クロール(塩素)含量を具備し、ナトリウムとクロールをバランス良く含む液状栄養組成物を提供することが可能となる。
このような液状栄養組成物は、油分の分離や蛋白質の凝集を引き起こすことなく、安定性に優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明の液状栄養組成物は、腎疾患患者の食事療法のために用いられるものである。
ここで、液状栄養組成物とは、蛋白質、脂質、糖質、水、ミネラル等の生体維持に必要な栄養素を総合的に含むものである。
腎疾患の種類は特に限定されない。例えば、慢性糸球体腎炎、糖尿病性腎症、腎硬化症、多発性嚢胞腎等の慢性腎臓病(CKD)、急性腎臓病等が挙げられる。
また、腎疾患の病期(ステージ)も特に制限されない。ステージ1〜5、透析患者(ステージ5D)の何れの患者にも使用することが可能である。特に、本発明の液状栄養組成物は、ステージ3〜5の患者、透析患者に好適である。
【0020】
本発明の腎疾患患者用の液状栄養組成物における蛋白質含量は、100kcalあたり3.5g以下である。蛋白質含量の下限値は、生体の機能維持の観点から決定することができる。本発明の腎疾患患者用の液状栄養組成物における蛋白質含量は、好ましくは、100kcalあたり1.5g以上である。
蛋白質含量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
蛋白質としては、乳蛋白質、卵蛋白質、コラーゲン等の動物性蛋白質、大豆蛋白質、米蛋白質、小麦蛋白質等の植物性蛋白質等、食品に用いられるものであれば特に制限されない。本発明において、乳蛋白質が特に好ましく用いられる。乳蛋白質として、カゼインペプチド、カゼインナトリウムやカゼインカルシウム等のカゼイネート、乳蛋白質濃縮物(MPC)等を用いることができる。
【0021】
また、本発明の液状栄養組成物におけるナトリウム含量は、100kcalあたり100mg以上である。本発明の腎疾患患者用の液状栄養組成物におけるナトリウム含量は、好ましくは200mg以下である。
ナトリウム含量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
ナトリウム供給源としては、特に制限されないが、塩化ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、カゼインナトリウムなどが挙げられる。また、これらを組み合わせて用いることも好ましい。
ナトリウム供給源として、塩化ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、及びカゼインナトリウムを組み合わせて用いる場合には、塩化ナトリウムとクエン酸三ナトリウムの総含量は、カゼインナトリウム1質量部に対し、好ましくは0.08〜0.3質量部、さらに好ましくは0.1〜0.25質量部である。これにより、ナトリウム含量の配合量を適切に調整しながら、液状栄養組成物の安定性をより高めることが可能となる。また、塩化ナトリウムとクエン酸三ナトリウムを組み合わせて用いる場合には、塩化ナトリウムの含量は、クエン酸三ナトリウム1質量部に対し、好ましくは0.05〜0.35質量部、さらに好ましくは0.1〜0.3質量部である。これにより、液状栄養組成物の安定性をより高めることが可能となる。
【0022】
また、本発明の液状栄養組成物におけるクロール(塩素)含量は、質量比でナトリウム含量の0.7以上、好ましくは0.7〜1.6、さらに好ましくは1.0〜1.5である。
クロール含量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0023】
クロール供給源としては、特に制限されないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。また、これらを組み合わせて用いることも好ましい。
クロール供給源として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムを組み合わせて用いる場合には、塩化ナトリウム含量は、塩化カリウム及び塩化マグネシウムの合計1質量部に対し、好ましくは、0.08〜0.4質量部、さらに好ましくは0.1〜0.3質量部である。
また、塩化カリウムの含量は、塩化マグネシウム1重量部に対し、好ましくは0.7〜1.3質量部、さらに好ましくは0.9〜1.2質量部である。
【0024】
本発明の液状栄養組成物は、レシチンと有機酸モノグリセリドを含む。これらは、乳化剤として作用する。後述する試験例に示すように、レシチンと有機酸モノグリセリドを組み合わせて用いることにより、液状栄養組成物の乳化安定性を大きく向上させることができる。
【0025】
本発明において用いられるレシチンは、動植物に広く含まれるリン脂質であり、大豆、コーン等から得られる植物レシチン、卵黄レシチン、及びそれらの精製物、酵素分解レシチン等、酵素処理レシチン等の何れを用いることもできる。これらは、組み合わせて用いても、単独で用いても良い。
乳化安定性の観点から、好ましくは、大豆レシチン、卵黄レシチン等を用いることができる。
本発明の液状栄養組成物中のレシチンの含有量は、好ましくは0.025〜0.75質量%、さらに好ましくは0.05〜0.35質量%である。
【0026】
本発明において用いられる有機酸モノグリセリドとしては、コハク酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド等が挙げられる。中でも、コハク酸モノグリセリド、及びクエン酸モノグリセリドが好ましく用いられる。これらは、組み合わせて用いても、単独で用いても良い。
本発明の液状栄養組成物中の有機酸モノグリセリドの含有量は、好ましくは0.025〜0.75質量%、さらに好ましくは0.05〜0.35質量%である。
【0027】
本発明の液状栄養組成物中のレシチンと有機酸モノグリセリドの合計含量は、好ましくは0.05〜1.0質量%、さらに好ましくは0.1〜0.5質量%である。
このような含量で、レシチンと有機酸モノグリセリドとを使用することにより、液状栄養組成物の安定性をより向上させ、また液状栄養組成物としての良好な物性を得ることができる。
また、レシチンと有機酸モノグリセリドの質量比は、好ましくは1:3〜3:1、さらに好ましくは1:2〜2:1、より好ましくは1:1.5〜1.5:1である。
このような比率で、レシチンと有機酸モノグリセリドを使用することで、極めて高い安定性を得ることができる。
【0028】
本発明の腎疾患患者用の液状栄養組成物は、継続的な単独摂取にも適した栄養素のバランスを有するものであり、上述した蛋白質、ナトリウム、クロール以外に、糖質、脂質等を含むものである。
【0029】
糖質としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類等、食品に用いられる糖質を特に制限なく用いることができる。中でも、多糖類を好ましく用いることができ、デキストリンをより好ましく用いることができる。
糖質の含有量としては、100kcalあたり、10〜20gを目安とすることができ、好ましくは12.5〜17.5gである。
【0030】
脂質としては、大豆油、菜種油、コーン油等の植物油、魚油等の動物油等、食品に用いられる油脂を特に制限なく用いることができる。中でも、植物油を好ましく用いることができ、大豆油をより好ましく用いることができる。
脂質の含有量としては、100kcalあたり、1〜4gを目安とすることができ、好ましくは2〜3gである。
【0031】
本発明の腎疾患患者用の液状栄養組成物のエネルギー量は、1mlあたり、好ましくは1.0kcal以上、さらに好ましくは1.2kcal以上、特に好ましくは1.5〜2.0kcalである。このような高カロリーの液状栄養組成物は、腎疾患患者における水分摂取量の調整に有用である。また、本発明の液状栄養組成物は、脂質や糖質を十分量含む高カロリーの液状栄養組成物においても優れた乳化安定性を発揮する。
【0032】
また、本発明の腎疾患患者用の液状栄養組成物は、食物繊維、他のミネラル類、ビタミン等を適宜含んでいても良い。
【0033】
本発明の液状栄養組成物の摂取量は、患者の体重や年齢、性別に応じて調整できるが、1日あたり800〜1600kcalを目安とすればよい。
本発明の腎疾患患者用の液状栄養組成物は、経口、経管による経腸投与に用いることが出来る。
【0034】
本発明の腎疾患患者用の液状栄養組成物は、組成物に含まれる水相と油相を混合し乳化することにより製造することが出来る。この場合において、有機酸モノグリセリドは、予め水相に混合しておくことが好ましく、レシチンは、予め油相に混合しておくことが好ましい。このようにすることにより、良好な乳化状態を形成することが可能となる。
本発明の液状栄養組成物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、蛋白質、並びにナトリウム、クロールを含む水相に、有機酸モノグリセリドを添加する。別途、油脂を含む油相にレシチンを添加する。続いて、前記水相と油相を混合し、乳化する。乳化は、適宜予備乳化を行った後、30〜100MPa程度の圧力で均質化することにより行うことができる。
このようにして得られた液状栄養組成物は、例えば、レトルトパウチ等の容器に充填された後、レトルト殺菌される。
【実施例】
【0035】
次に実施例を示して本発明を詳記するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
カゼインナトリウム(ニュージーランド・タツア社製)3.4kg、乳蛋白質濃縮物(ニュージーランド・フォンテラ社製)2.3kg、及びデキストリン(昭和産業社製)25.0kgを水道水75kgに分散し、溶解した。これに表1に示す配合量で混合されたミネラル混合物850gを添加した。ここに乳化剤としてコハク酸モノグリセリド(太陽化学社製)100gを添加し、水相とした。
また、乳化剤としてレシチン(味の素社製)100gを添加した大豆油(太陽油脂社製)4.0kgを油相とした。
得られた水相と油相を混合し、該混合液を、TKホモミキサー(プライミクス社製)を用いて予備乳化し、水を添加して総量を100Lに調製した。次いで、該予備乳化物を、高圧均質機(APV社製)を用いて50MPaの圧力で均質化処理した。均質化処理後、得られた乳化液をレトルトパウチ(東洋製罐社製)に200mlずつ充填し、密封し、レトルト殺菌機(日阪製作所社製)を用いて125℃で15分間滅菌処理し、液状栄養組成物を製造した。
【0036】
なお、液状栄養組成物中の蛋白質含量については窒素定量換算法、ナトリウム含量については原子吸光光度法、クロール(塩素)含量については電位差滴定法により、それぞれ定量を行った。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例1で調製した液状栄養組成物のエネルギー量、各成分の含量を表2に示す。
【表2】
【0039】
<試験例1>
この試験は、脂肪、蛋白質、及び糖質等からなる液状栄養組成物の乳化安定性の観点から、適正な乳化剤の種類及びその組み合わせを調べるために行なった。
【0040】
(1)試料の調製
乳化剤の配合割合を変更したことを除き、実施例1と同一の方法により次に示す9種類の試料を調製した。
試料1:実施例1と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料2:乳化剤として、レシチン120g、及びコハク酸モノグセリド80gを併用したことを除き、実施例1と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料3:乳化剤として、レシチン133g、及びコハク酸モノグセリド67gを併用したことを除き、実施例1と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料4:乳化剤として、レシチン150g、及びコハク酸モノグセリド50gを併用したことを除き、実施例1と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料5:乳化剤として、レシチン200gを単独使用したことを除き、実施例1と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料6:乳化剤として、レシチン80g、及びコハク酸モノグセリド120gを併用したことを除き、実施例1と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料7:乳化剤として、レシチン67g、及びコハク酸モノグセリド133gを併用したことを除き、実施例1と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料8:乳化剤として、レシチン50g、及びコハク酸モノグセリド150gを併用したことを除き、実施例1と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料9:乳化剤として、コハク酸モノグセリド200gを単独使用したことを除き、実施例1と同一の方法により製造した液状栄養組成物
【0041】
(2)試験方法
各試料30mlを50ml容量遠沈管に採取し、重力加速度1,000gで5分間遠心分離し、油脂分離あるいは浮上物の有無及びその程度を目視にて評価した。評価基準は次のとおりである。
○:浮上物が認められない、
△:浮上物が僅かに認められる、
×:著しく油脂が分離し、油層の形成が認められる。
【0042】
(3)試験結果
この試験の結果は、表3に示すとおりである。表3から明らかなとおり、脂肪、蛋白質、及び糖質等からなる液状栄養組成物の乳化安定性を向上させるためには、乳化剤としてレシチンとコハク酸モノグリセリドを組み合わせて使用することが必要であり、その添加比率はレシチン:コハク酸モノグリセリド=3:1〜1:3が好ましく、レシチン:コハク酸モノグリセリド=2:1〜1:2とすることがより好ましく、レシチン:コハク酸モノグリセリド=1.5:1〜1:1.5とすることが特に好ましいことが判明した。
【0043】
【表3】
【0044】
<実施例2>
カゼインナトリウム(ニュージーランド・タツア社製)2.0kg、カゼインカルシウム(ニュージーランド・タツア社製)3.5kg、及びデキストリン(昭和産業社製)25.0kgを水道水75kgに分散し、溶解した。これに、表4に示す配合量で混合されたミネラル混合物900gを添加した。ここに乳化剤としてクエン酸モノグリセリド(太陽化学社製)100gを添加し、水相とした。
また、乳化剤としてレシチン(味の素社製)100gを添加した大豆油(太陽油脂社製)4.0kgを油相とした。
得られた水相と油相を混合し、該混合液を、TKホモミキサー(プライミクス社製)を用いて予備乳化し、水を添加して総量を100Lに調製した。次いで、該予備乳化物を、高圧均質機(APV社製)を用いて50MPaの圧力で均質化処理した。均質化処理後、得られた乳化液をレトルトパウチ(東洋製罐社製)に200mlずつ充填し、密封し、レトルト殺菌機(日阪製作所社製)を用いて125℃で15分間滅菌処理し、液状栄養組成物を製造した。
【0045】
なお、液状栄養組成物中の蛋白質含量、ナトリウム含量、クロール含量については実施例1と同様の方法により、それぞれ定量を行った。
【0046】
【表4】
【0047】
実施例2で調製した液状栄養組成物のエネルギー量、各成分の含量を表5に示す。
【表5】
【0048】
<試験例2>
この試験は、脂肪、蛋白質、及び糖質等からなる液状栄養組成物の乳化安定性の観点から、適正な乳化剤の種類及びその組み合わせを調べるために行なった。
【0049】
(1)試料の調製
乳化剤の種類と配合割合を変更したことを除き、実施例2と同一の方法により次に示す9種類の試料を調製した。
試料1:実施例2と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料2:乳化剤として、レシチン120g、及びクエン酸モノグセリド80gを併用したことを除き、実施例2と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料3:乳化剤として、レシチン133g、及びクエン酸モノグセリド67gを併用したことを除き、実施例2と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料4:乳化剤として、レシチン150g、及びクエン酸モノグセリド50gを併用したことを除き、実施例2と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料5:乳化剤として、レシチン200gを単独使用したことを除き、実施例2と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料6:乳化剤として、レシチン80g、及びクエン酸モノグセリド120gを併用したことを除き、実施例2と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料7:乳化剤として、レシチン67g、及びクエン酸モノグセリド133gを併用したことを除き、実施例2と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料8:乳化剤として、レシチン50g、及びクエン酸モノグセリド150gを併用したことを除き、実施例2と同一の方法により製造した液状栄養組成物
試料9:乳化剤として、クエン酸モノグセリド200gを単独使用したことを除き、実施例2と同一の方法により製造した液状栄養組成物
【0050】
(2)試験方法
各試料30mlを50ml容量遠沈管に採取し、重力加速度1,000gで5分間遠心分離し、油脂分離あるいは浮上物の有無及びその程度を目視にて評価した。評価基準は次のとおりである。
○:浮上物が認められない、
△:浮上物が僅かに認められる、
×:著しく油脂が分離し、油層の形成が認められる。
【0051】
(3)試験結果
この試験の結果は、表6に示すとおりである。表6から明らかなとおり、脂肪、蛋白質、及び糖質等からなる液状栄養組成物の乳化安定性を向上させるためには、乳化剤としてレシチンとクエン酸モノグリセリドを組み合わせて使用することが必要であり、その添加比率はレシチン:クエン酸モノグリセリド=3:1〜1:3が好ましく、レシチン:クエン酸モノグリセリド=2:1〜1:2とすることがより好ましく、レシチン:クエン酸モノグリセリド=1.5:1〜1:1.5とすることが特に好ましいことが判明した。
【0052】
【表6】
【0053】
また、試験例1及び試験例2の結果から、脂肪、蛋白質、及び糖質等からなる液状栄養組成物の乳化安定性を向上させるためには、乳化剤としてレシチンと有機酸モノグリセリドを組み合わせて使用することが必要であり、その添加比率はレシチン:有機酸モノグリセリド=3:1〜1:3が好ましく、レシチン:有機酸モノグリセリド=2:1〜1:2とすることがより好ましく、レシチン:有機酸モノグリセリド=1.5:1〜1:1.5とすることが特に好ましいことが判明した。