(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記締結制御部は、前記発進要求検出部により発進要求を検出してから所定時間が経過するまで、前記ロックアップクラッチがトルクを伝達しない範囲にて該ロックアップクラッチの摩擦フェーシング同士を近接させるためのスタンバイ圧を、前記油圧制御回路に指令することを特徴とする請求項1に記載の車両の発進制御装置。
前記スタンバイ圧は、前記ロックアップクラッチがトルクを伝達しない範囲にて該ロックアップクラッチの摩擦フェーシング同士を近接させるための第2スタンバイ圧と、前記第2スタンバイ圧よりも低い圧力で前記ロックアップクラッチの摩擦フェーシング同士を近接させる第1スタンバイ圧と、を有することを特徴とする請求項2に記載の車両の発進制御装置。
前記駆動力要求検出部は、アクセルペダルの開度及びアクセルペダルの開速度、並びに、前記駆動力源の出力トルク及び前記駆動力源の出力トルクの変化量、の少なくとも一方に基づいて、前記駆動力源が出力する駆動力要求を検出することを特徴とする請求項4又は5に記載の車両の発進制御装置。
前記発進要求を検出してから所定時間が経過するまで、前記スタンバイ圧からトルクを伝達可能となるまで、指令値をステップ状に上昇させることを特徴とする請求項6に記載の車両の発進制御装置。
前記発進要求を検出してから所定時間が経過するまで、前記スタンバイ圧からトルクを伝達可能となるまで、指令値をステップ状に上昇させてから所定の変化勾配で上昇させる、又は、指令値を所定の変化勾配で上昇させてからステップ状に上昇させることを特徴とする請求項6に記載の車両の発進制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の実施形態の車両の発進制御装置にかかる車両の駆動装置及び制御装置の説明図である。
【0011】
車両にはエンジン1が搭載され、このエンジン1の出力はクランク軸36から出力され、クランク軸36に連結されるトルクコンバータ30に入力される。トルクコンバータ30は、ロックアップクラッチ35を有している。トルクコンバータ30の出力は変速機入力軸37を介して変速機4に入力される。変速機4の出力は、終減速装置6を介して駆動輪7を回転させる。
【0012】
車両には、トルクコンバータ30及び変速機4に供給する油圧を制御し、これらの動作を制御する油圧制御回路11が備えられている。また、車両には、この油圧制御回路11の動作を制御するコントローラ12が備えられている。
【0013】
コントローラ12には、ドライバによるアクセルペダルの操作量(アクセル開度APO)を検出するアクセル開度センサ41と、ドライバによるシフトレバー操作状態を検出するインヒビタスイッチ46と、ブレーキペダルの操作量(ブレーキペダル踏込量)BRKを検出するブレーキセンサ47と、からの信号か入力される。
【0014】
また、コントローラ12には、エンジン1から、スロットル開度TVO、エンジン回転速度Ne、エンジントルクTrq等の信号が入力される。
【0015】
また、コントローラ12には、変速機4から、変速機入力回転速度Ni、変速機出力回転速度Noが入力される。なお、変速機出力回転速度Noに終減速比やタイヤ径など所定の係数を乗じることで車速VSPが入力される。
【0016】
コントローラ12は、アクセル開度APO、車速VSP等の検出値から変速機4の目標変速比を判定し、この判定結果に基づいて、変速機4の実変速比がこの目標変速比となるように油圧制御回路11に指令を出力する。変速機4は、有段変速機であってもよいし、無段変速機であってもよい。
【0017】
また、コントローラ12は、トルクコンバータ30のロックアップクラッチ35の締結状態を判定し、この判定結果に基づいてロックアップクラッチ35の締結状態を制御する指令を油圧制御回路11に出力する。
【0018】
トルクコンバータ30は、入力要素であるポンプインペラ31、出力要素であるタービンランナ32及び反力要素であるステータ33を備える。
【0019】
ポンプインペラ31は、トルクコンバータカバー34を介してエンジン1からの駆動力により駆動される。タービンランナ32は、ポンプインペラ31とトルクコンバータカバー34とにより形成されるコンバータ室に備えられ、ポンプインペラ31に対向して配置される。ポンプインペラ31の内周とタービンランナ32の内周との間にはステータ33が介在している。
【0020】
トルクコンバータ30は、エンジン1により回転されるポンプインペラ31が作動流体を撹拌し、ステータ33による反力によってタービンランナ32がトルク増大しつつ駆動して、タービンランナ32からの出力が変速機入力軸37を介して変速機4に伝動される。
【0021】
また、トルクコンバータ30は、トルクの増大やトルクの変動吸収が不要な場合は、ロックアップクラッチ35を締結状態とすることにより、ポンプインペラ31とタービンランナ32との間を機械的に直結する。
【0022】
トルクコンバータ30のトルクコンバータカバー34にはオイルポンプ39が備えられている。オイルポンプ39は、エンジン1の駆動力により回転され油圧を発生する。発生した油圧は油圧制御回路11に供給される。
【0023】
油圧制御回路11は、コンバータ室側に供給するアプライ圧Paと、ロックアップクラッチ側に供給するレリーズ圧Prとをそれぞれ制御する。アプライ圧とレリーズ圧との差圧(Pa−Pr)によって摩擦フェーシング同士を近接させた後に接触させて、ロックアップクラッチ35の締結力を制御する。
【0024】
図2は、コントローラ12を中心とした機能ブロック図である。
【0025】
コントローラ12は、
図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0026】
入力インターフェース123には、アクセルペダルの開度(アクセル開度APO)を検出するアクセル開度センサ41の出力信号、変速機4からの出力信号(変速機入力回転速度Ni、変速機出力回転速度No、車速VSP等)、エンジン1の回転速度センサ42からのエンジン回転速度Ne、トルクセンサ44からのエンジントルクTrqの信号、ブレーキペダルの踏込及びブレーキ液の液圧を検出するブレーキセンサ47からの入力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ46の出力信号などが入力される。
【0027】
記憶装置122には、変速機4の変速制御プログラム、この変速制御プログラムで用いる変速マップが格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されている変速制御プログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して指令信号を生成し、生成した指令信号を、出力インターフェース124を介して油圧制御回路11に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0028】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、コントローラ12からの指令信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにオイルポンプ39で発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4及びトルクコンバータ30の各部位に供給する。これにより、変速機4の変速が行われる。
【0029】
また油圧制御回路11は、コントローラ12からの指令に基づいて、ロックアップクラッチ35のトルク容量を制御する。
【0030】
具体的には、アプライ圧Pa<レリーズ圧Prの場合はロックアップクラッチ35が締結されず、トルクコンバータ30はコンバータ状態となる。アプライ圧Pa≧レリーズ圧Prの場合は、差圧(Pa−Pr)に従ってロックアップクラッチ35の締結力が増加し、所定の差圧においてロックアップクラッチ35の締結力が最大となる。ロックアップクラッチ35の締結力は、ロックアップクラッチ35が伝達可能なトルクであるトルク容量を発生させる。
【0031】
なお、ロックアップクラッチ35は、締結力が最大でない場合は、トルクコンバータ30の入力回転速度(エンジン回転速度Neと等しい)と出力回転速度(変速機入力回転速度Niと等しい)とが差回転を生じるスリップ係合状態となる。
【0032】
次に、このように構成された車両の発進時の動作について説明する。
【0033】
本発明の実施形態の車両は、車両が発進するときに、トルクコンバータ30のロックアップクラッチ35をスリップ係合状態に制御する。
【0034】
発進時にスリップ係合状態に制御することにより、エンジン1のトルクが、トルクコンバータ30で伝達されるのと並行して、ロックアップクラッチ35を介しても伝達される。これによりエンジン1のトルクの伝達効率が上昇して、エンジン1の回転速度の上昇が抑えられるので、燃費効率を向上することができる。
【0035】
ところで、車両が発進するときは、アクセル開度APOの増大に伴いトルクコンバータ30及び変速機4にて必要とされる油圧が増大する。従って、油圧制御回路11におけるライン圧を増大させる。
【0036】
このとき、ライン圧を元圧としたアプライ圧Paとレリーズ圧とPrとの差圧によって制御されているロックアップクラッチ35では、ライン圧が増大することにより、差圧の指令値に対する実差圧とに差が生じる場合がある。
【0037】
この場合、指令差圧に対して実差圧が過多となり、ロックアップクラッチ35のトルク容量が過多となって、エンジン回転速度Neが低下する(引き込まれる)ことにより、ショックが発生したり、車両の加速度が減少したりすることにより運転者に違和感を与える可能性がある。
【0038】
これに対して、本発明の実施形態では、次のように、車両発進時にロックアップクラッチ35の締結力を制御して、運転者に違和感を与えることを防止する。
【0039】
ここで、発進時にロックアップクラッチ35をスリップ係合状態にする、いわゆる、発進スリップ制御について説明する。ブレーキペダルが踏み込まれた停車状態から、運転者がブレーキペダルを開放し、アクセルペダルを踏み込んで車両を発進させる際に、コントローラ12は、ブレーキペダルの開放判定に基づきロックアップクラッチ35のトルク容量が増大するよう油圧指令を出力し、ロックアップクラッチ35をスリップさせながら発進する。発進以降のロックアップクラッチ35のスリップ量は、車速の上昇に伴い徐々に低減するようロックアップクラッチ35のトルク容量を制御して、所定車速においてスリップ量をゼロ、すなわち、ロックアップクラッチ35を完全締結状態とする。このように、発進スリップ制御とは、ブレーキペダルの開放判定に基づきロックアップクラッチ35を制御し、車速の上昇に伴い徐々にスリップ量を低減して完全締結させる制御のことをいう。
【0040】
図3は、本発明の実施形態のコントローラ12が実行する車両発進制御のフローチャートである。
【0041】
図3に示すフローチャートは、車両が停止状態であることを検出した場合に、コントローラ12により、コントローラ12が行う他の処理と並行して実行される。
【0042】
まず、コントローラ12は、ブレーキセンサ47からの信号に基づいて、運転者がブレーキペダルの踏み込みを開放したか(ブレーキペダルから足を離したか)を判定する(S10)。ブレーキペダルが踏み込まれている場合はこのステップS10を繰り返して、待機する。なお、本発明の実施形態では、ブレーキペダルが離されてからアクセルペダルが踏み込まれるまでの間を第1フェーズと呼ぶ。
【0043】
ブレーキセンサ47から足を離したと判定した場合は、運転者が車両の発進を指令したことを検出したと判定する。そこで、ステップS20に移行して、コントローラ12は、油圧制御回路11にロックアップクラッチ35の差圧(Pa−Pr)が第1スタンバイ圧となるように指令を出力する。油圧制御回路11は、この指令を受けて、差圧が第1スタンバイ圧となるようにロックアップクラッチ35に供給する油圧を制御する。
【0044】
なお、第1スタンバイ圧とは、ロックアップクラッチ35がトルク容量を持つ以前の状態でロックアップクラッチ35の締結準備を行う状態である。例えば、アプライ圧Paに対してレリーズ圧Prが若干低い圧となる制御としてロックアップクラッチ35の摩擦フェーシング同士を接近させてトルク容量が発生しない程度に差圧を制御する。
【0045】
次に、コントローラ12は、アクセル開度センサ41入力された信号に基づいて、運転者によってアクセルペダルが踏み込まれアクセル操作がOFFからONになったか否かを判定する(S30)。
【0046】
アクセルペダルが踏み込まれていない場合は、ステップS20に戻り、ロックアップクラッチ35を第1スタンバイ圧に維持する。
【0047】
アクセルペダルが踏み込まれたと判定した場合は、運転者からの駆動力要求が検出されたと判断する。そこで、ステップS40に移行して、コントローラ12は、ステップS20で設定した第1のスタンバイ圧を増大させた第2のスタンバイ圧を指令する。
【0048】
なお、第2スタンバイ圧とは、ロックアップクラッチ35がトルク容量を持つ以前の状態でロックアップクラッチ35の締結準備を行う状態であり、アプライ圧Paとレリーズ圧Prとの差が僅少となるように制御してロックアップクラッチ35の摩擦フェーシング同士をより接近させてトルク容量が発生しない程度に圧力に制御する。
【0049】
さらに、第2スタンバイ圧は、アクセル開度APOに伴ってエンジン回転速度Neが増大してライン圧が増大したときにも、ロックアップクラッチ35がトルク容量を持つ以前の状態に制御できる差圧である。ロックアップクラッチ35がトルク容量を持つ以前の状態に制御することにより、以降の第3フェーズにおいてロックアップクラッチ35がトルク容量を持つまでの時間が短縮される。
【0050】
次に、コントローラ12は、ステップS50に移行して、アクセル開度APOやエンジントルクTrqに基づき時間設定値マップを参照して、所定時間Tを取得する。そして、ステップS60に移行して、取得した所定時間Tの経過が満了したか否かを判定する。
【0051】
所定時間Tの経過が満了していない場合は、ステップS40に戻り、コントローラ12は、ステップS40で設定したロックアップクラッチ35の差圧を維持する。
【0052】
このとき、アクセル開度APOやエンジントルクTrqが変化して時間設定値マップによる所定時間Tの値が変化した場合は、最初に取得した所定時間TよりもTの値が大きくなった(所定時間が長くなった)場合にのみ、新たな所定時間Tの経過が満了するまで待機する。これは、たとえアクセル戻し操作が行われ駆動力が小さいと判断されて所定時間Tが小さくなるが、この小さいTを再設定してしまうと、ロックアップクラッチ35がトルク容量を持つ時間が前倒しされてエンジン回転数Neが引き込まれることによりショックが発生することを防止するためである。
【0053】
なお、本発明の実施形態では、アクセルペダルの踏み込みを検出して車両の駆動力要求がなされてから、所定時間Tの経過が満了するまでの間を第2フェーズと呼ぶ。
【0054】
所定時間Tの経過が満了したと判定した場合は、ステップS70に移行し、コントローラ12は、アクセル開度APOに基づいてロックアップクラッチ35の差圧(Pa−Pr)を、所定の勾配で増加させて、ロックアップクラッチ35を締結側へと制御する。
【0055】
このステップS70の後、所定の条件(例えば、ロックアップクラッチ35がスリップ係合状態からロックアップ状態となった等)が成立したときに、本フローチャートの処理を終了し、コントローラ12で行われる他の処理を実行する。なお、本発明の実施形態では、所定時間Tの経過が満了してからロックアップクラッチ35が締結するまでの間を第3フェーズと呼ぶ。
【0056】
このような制御によって、車両の発進時にロックアップクラッチ35の締結力の制御が行われる。
【0057】
図4は、本発明の実施形態の車両の発進制御の説明図である。
【0058】
図4は、上段から、ブレーキペダルの操作状態、アクセルペダルの操作状態、エンジン回転速度Ne、タービン回転速度Ntb、車速VSP、油圧制御回路11のライン圧、ロックアップクラッチ35の差圧(指令圧)の状態がそれぞれ示されている。
【0059】
車両が停車中は運転者によってブレーキペダルの踏み込みが行われている(ブレーキ操作がON)。ここで、タイミングt1において、運転者によってブレーキペダルの踏み込みが解除された場合(ブレーキ操作がOFF)は、車両の発進が意図されたと判断する。なお、ブレーキペダルは手動で操作するもの(レバーやスイッチ)であってもかまわない。
【0060】
このとき、コントローラ12は、
図3のステップS10の判定がYESとなり、ステップS20でロックアップクラッチ35の差圧を第1スタンバイ圧に制御する(第1フェーズ)。
【0061】
次に、運転者がアクセルペダルの踏み込みが行われた場合(アクセル操作がON)は、駆動力要求が検出されたと判断する。
【0062】
図3のステップS30の判定がYESとなり、コントローラ12は、ステップS40の処理によりロックアップクラッチ35を第1のスタンバイ圧から増加させた第2のスタンバイ圧に制御する。この第2のスタンバイ圧による制御を所定時間Tの経過が満了するまで行う(第2フェーズ)。
【0063】
このとき、アクセルペダルの踏み込みによってエンジン回転速度Neが上昇する。このエンジン回転速度Neの上昇に伴ってオイルポンプ39の駆動力が増大し、ライン圧が増大する。これにより、ロックアップクラッチ35に対する差圧の指令圧(実線で示す)に対して、実差圧(細点線で示す)が過渡的に増大する。このように実差圧が増大した場合にもロックアップクラッチ35がトルク容量を持たないように、第2スタンバイ圧の上限値が制御される。
【0064】
所定時間Tの経過が満了した場合は、
図3のステップS60の判定がYESとなり、コントローラ12は、ステップS70において、アクセル開度APOに基づいてロックアップクラッチ35の差圧を所定の勾配で増加させて、ロックアップクラッチ35が締結するまで制御する(第3フェーズ)。
【0065】
次に、
図3のステップS40における第2のスタンバイ圧について具体的に説明する。
【0066】
コントローラ12は、ロックアップクラッチ35の差圧を制御してロックアップクラッチ35の締結を制御する。このとき、第2フェーズでは、ロックアップクラッチ35を直ちに締結状態とせず、所定のトルク容量を持ち始める手前の状態(第2スタンバイ圧)で、所定時間Tだけ待機する。
【0067】
このときの第2スタンバイ圧は、第1スタンバイ圧に所定値Aを加算した値とする。この所定値Aはアクセル開度APOに基づいて設定する。
【0068】
たとえばアクセル開度APOが小さい場合(たとえば1/8未満の場合)では、所定値Aをゼロとして、第2フェーズにおいても所定時間Tの経過が満了するまでは、第2スタンバイ圧が第1スタンバイ圧のまま維持する(
図4に実線で示す)。
【0069】
また、アクセル開度が大きい場合(たとえば1/8以上の場合)では、第1スタンバイ圧と第2スタンバイ圧の上限値との間の範囲で、アクセル開度APOに応じてAを設定する。第2スタンバイ圧を、第1スタンバイ圧に設定されたAを加算した値に設定し、第2フェーズに移行したとき(アクセル操作がONになったとき)に、ステップ状に第2スタンバイ圧へと変更する(
図4に点線で示す)。
【0070】
なお、この第2スタンバイ圧の上限値は、アクセル操作がONされて、オイルポンプ39が駆動されて油圧制御回路11のライン圧が増大した状態において、指令差圧と実差圧とのばらつきによってもロックアップクラッチ35がトルク容量を持たない最大の差圧に設定する。このように第2スタンバイ圧を設定することにより、ライン圧が増大したときにもロックアップクラッチ35がトルク容量を持たないように制御することができるので、第2フェーズの間はエンジン回転速度Neの引き込みが防止される。
【0071】
または、第1スタンバイ圧に所定値Aを加算するのではなく、第1スタンバイ圧に所定勾配Bを乗算して、タイミングt2からタイミングt3までの間で、第1スタンバイ圧から第2スタンバイ圧へと差圧を漸次増加させように制御してもよい(
図4に一点鎖線で示す)。
【0072】
またさらに、第2フェーズにおいて第2スタンバイ圧の上限値を超えない範囲であれば、第2スタンバイ圧をどのように変化させてもよい。例えば第1スタンバイ圧から所定値Aに満たない一定の値まで所定勾配Bで上昇させた後、所定値Aを加算した値までステップ状に上昇させてもよいし、その逆に、第1スタンバイ圧から所定値Aに満たない一定の値までステップ状に上昇させた後、所定値Aを加算した値まで所定勾配Bで上昇させてもよい。
【0073】
このように、第2フェーズにおいてロックアップクラッチ35を第1スタンバイ圧から第2スタンバイ圧に上昇させることで、以降の第3フェーズにおいてロックアップクラッチ35がトルク容量を持つまでの時間を短縮できる。
【0074】
次に、
図3のステップS50における所定時間Tの取得について説明する。
【0075】
図5は、本発明の実施形態の所定時間Tを取得するためのマップの一例を示す。
【0076】
図5(A)は、アクセル開度APOとアクセル開度APOの時間変化量(アクセル開速度ΔAPO)とで示される時間設定マップの一例である。
図5(B)はエンジンの出力トルクTrqと、エンジンの出力トルクの時間変化量(エンジントルク変化速度ΔTrq)とで示される時間設定マップの一例である。
【0077】
所定時間Tは、コントローラ12が、タイミングt2時点、すなわち、運転者によってアクセルペダルが操作されたときのアクセル開度APOとアクセル開速度ΔAPOとから、
図5(A)に示す時間設定マップを参照して、所定時間Tを取得する。
【0078】
この時間設定マップは、アクセル開度APOが大きいほど所定時間Tが大きく設定され、また、アクセル開速度ΔAPOが大きいほど、所定時間Tが大きく設定されている。
【0079】
アクセル開度APOが大きいほど、エンジン回転速度Neが上昇してライン圧が高くなる。そのため、このライン圧の大きさに対応して所定時間Tを大きく設定することで、ライン圧の増大によりロックアップクラッチ35のトルク容量が増大してエンジン回転速度Neの引き込みが大きくなることを防止する。
【0080】
なお、アクセル開度APOが大きくてもアクセル開速度ΔAPOが小さければ実油圧は指令圧に(オーバーシュートせずに)追従して、トルク容量が過多とはならないので、アクセル開速度ΔAPOが小さい場合は所定時間Tを小さく設定する。
【0081】
一方、逆にアクセル開度APOが小さくてもアクセル開速度ΔAPOが大きければ実油圧は指令圧に追従できなくなり、オーバーシュートする分だけトルク容量が過多となるので、アクセル開速度ΔAPOが大きい場合は所定時間Tを大きく設定する。
【0082】
また、コントローラ12は、タイミングt2時点でのエンジン1から取得したエンジントルクTrqとエンジントルク変化速度ΔTrqとから、
図5(B)に示す時間設定マップを参照して、所定時間Tを取得してもよい。
【0083】
この時間設定マップは、エンジントルクTrqが大きいほど所定時間Tが大きく設定され、また、エンジントルク変化速度ΔTrqが大きいほど、所定時間Tが大きく設定されている。
【0084】
前述の
図5(A)におけるアクセル開度APOと同様に、アクセル開度APOに基づきエンジン1が発生するエンジントルクが大きいほどライン圧が高くなる。そのため、このライン圧の大きさに対応して所定時間Tを大きく設定することで、ライン圧の増大によりロックアップクラッチ35のトルク容量が増大してエンジン回転速度Neの引き込みが大きくなることを防止する。
【0085】
なお、エンジントルクTrqが大きくてもエンジントルク変化速度ΔTrqが小さければ実油圧は指令圧に(オーバーシュートせずに)追従して、トルク容量が過多とはならないので、エンジントルク変化速度ΔTrqが小さい場合は所定時間Tを小さく設定する。
【0086】
一方、逆にエンジントルクTrqが小さくてもエンジントルク変化速度ΔTrqが大きければ実油圧は指令圧に追従できなくなり、オーバーシュートする分だけトルク容量が過多となるので、エンジントルク変化速度ΔTrqが大きい場合は所定時間Tを大きく設定する。
【0087】
このように、コントローラ12は、タイミングt1時点でのアクセル開度APO及びアクセル開速度ΔAPOに基づいて、または、エンジントルクTrq及びエンジントルク変化速度ΔTrq基づいて、所定時間Tを取得する。
【0088】
なお、この
図5(A)の時間設定マップ及び
図5(B)に示す時間設定マップのいずれか一方又は両方に基づいて、所定時間Tを取得してもよい。
【0089】
より具体的には、コントローラ12は、アクセル開度APOをアクセル開度センサから得る一方、エンジントルクTrqはエンジン1の内部(例えばエンジンコントローラユニット)により演算されて出力される信号から得る。従って、アクセル開度APO信号がエンジントルクTrq信号よりも早く得られるという利点がある。また、エンジントルクTrqはエンジン1での演算により値が補正されているため、アクセル開度APO信号と比較すると信号の正確性が低い。一方、駆動力要求の大きさを検出するという点では、駆動力の大きさが直接示されるエンジントルクTrqを用いた方が、所定時間Tの算出値が正確となる。
【0090】
次に、第3フェーズにおけるロックアップクラッチ35の差圧を所定の勾配で増加させる制御を説明する。
【0091】
図6及び
図7は、本発明の実施形態の第3フェーズにおける所定の勾配Cの設定の説明図である。
図6は、勾配Cの説明図、
図7は、勾配Cの設定の説明図をそれぞれ示す。
【0092】
第3フェーズにおいて、コントローラ12は、アクセル開度APOに基づいて、ロックアップクラッチ35の差圧を、所定の勾配Cによって増加させるように制御する。
【0093】
ロックアップクラッチ35の差圧を増加させることによりトルク容量を持つことになったときに、エンジン回転速度Neがロックアップクラッチ35を介して伝達されることによるトルクの低下(トルクの引き込み)が発生する。
【0094】
図7において、アクセルペダルが開放された状態からアクセル開度APOが比較的大きく踏み込まれた場合(例えば4/8)のトルクの変化を実線で示し、アクセルペダルが開放された状態からアクセル開度APOが比較的小さく踏み込まれた場合(例えば1/8)のトルクの変化を一点鎖線で示す。
【0095】
図7において、タイミングt11でトルク容量を持ち始め、タイミングt12でトルク容量が最大となりロックアップクラッチが締結された状態となったことを示す。
【0096】
このタイミングt12において、ロックアップクラッチ35のトルク容量によるトルクの引き込みは、アクセル開度APOの大きさにかかわらず、略一定(b)となる。
【0097】
従って、トルクの引き込みの大きさは、アクセル開度APOが大きい場合は、トルクaとbとの比(b/a)となる。一方、アクセル開度APOが小さい場合は、トルクa’とbとの比(b/a’)となる。このとき、勾配Cの値が同一(C1)であると、(b/a’)>(b/a)となるので、アクセル開度APOが小さい場合のトルクの引き込みが大きくなり、車両にショックが発生するなど、運転者に違和感を与える。
【0098】
そこで、アクセル開度APOが小さい場合には、トルクの引き込みが小さくなるように、勾配Cをより小さい値としたC2(
図6参照)に設定する。この勾配C2に設定した場合のトルクの引き込みがb’とした場合に、(b’/a’)≒(b/a)となるようにC2を設定する。
【0099】
このように、コントローラ12は、アクセル開度APOの大きさに基づいて、ロックアップクラッチ35がトルク容量を持ったときのエンジン1のトルクとトルクの引き込みの大きさとの比が略一定となるように、第3フェーズにおける勾配Cを設定する。
【0100】
以上のように、本発明の実施形態では、駆動力源であるエンジン1の出力を、ロックアップクラッチ35を有するトルクコンバータ30を介して変速機4から出力する車両に適用される。コントローラ12は、車両の発進要求をブレーキペダル又はアクセルペダルの状態によって検出する発進要求検出部と、ロックアップクラッチ35の締結力を制御する油圧制御回路11に指令を行い、前記ロックアップクラッチが伝達可能なトルクを制御する締結制御部として機能する。コントローラ12は、発進要求を検出してから所定時間Tが経過したときに、ロックアップクラッチ35がトルクを伝達可能に油圧制御回路11に指令を行う。
【0101】
このように構成することによって、発進要求に基づきエンジン1のトルクが上昇してライン圧が増大したときに、ロックアップクラッチ35がトルクを伝達しないように制御するので、ロックアップクラッチ35の指令圧に対して実油圧が増大することが防止されて、車両発進時のショックを防止することができる。これは請求項1及び10の効果に対応する。
【0102】
また、コントローラ12は、発進要求を検出してから所定時間Tが経過するまで、ロックアップクラッチ35がトルク伝達可能に準備するためのスタンバイ圧を、油圧制御回路11に指令する。このスタンバイ圧の指令は、ロックアップクラッチ35の締結時に一般的に行われている制御であり、このスタンバイ圧によって所定時間待機するという制御によって、車両発進時のショックを防止することができる。これは請求項2の効果に対応する。
【0103】
また、このスタンバイ圧は、ロックアップクラッチ35がトルク伝達可能に準備する第2スタンバイ圧と、第2スタンバイ圧よりも低い圧力でロックアップクラッチ35を待機させる第1スタンバイ圧と、を有する。これら第1及び第2スタンバイ圧の指令は、ロックアップクラッチ35の締結時に一般的に行われている制御であり、このスタンバイ圧によって所定時間待機するという制御によって、車両発進時のショックを防止することができる。これは請求項3の効果に対応する。
【0104】
また、コントローラ12は、アクセル開度やエンジントルクに基づいて駆動力要求を検出する駆動力要求検出部として機能する。駆動力要求が大きいほど、所定時間Tを大きく設定する。すなわち、エンジン1の駆動力要求が大きければ油圧制御回路11のライン圧の増大も大きくなる。これに対して、駆動力要求が大きいほど所定時間Tを大きくして待機時間を長くすることにより、ロックアップクラッチ35の指令圧に対して実油圧が増大することが防止されて、車両発進時のショックを防止することができる。これは請求項4の効果に対応する。
【0105】
また、コントローラ12は、エンジン1の駆動力要求が最大となり油圧制御回路11のライン圧が上昇した場合にも、ロックアップクラッチがトルクを伝達不能な圧力である第2スタンバイ圧を油圧制御回路11に指令する。これにより、ライン圧が最大限に増大した場合にもロックアップクラッチ35がトルク容量を持つことが防止されて、車両発進時のショックを防止することができる。これは請求項5の効果に対応する。なお、駆動力要求が最大とは、例えばアクセル開度が最大(8/8)の場合であるが、エンジン1の出力やトルクコンバータ30の特性により、例えばアクセル開度APOが(2/8)である場合を駆動力の最大として、アクセル開度がそれを超える場合は、発進時のロックアップクラッチ35のスリップ制御を行わないように制御してもよい。
【0106】
また、コントローラ12は、アクセル開度APOとアクセル開速度ΔAPOとの組、及び、エンジントルクTrqとエンジントルク変化量ΔTrqとの組の少なくとも一方に基づいて、駆動力要求を検出する。
【0107】
例えば、アクセル開度APOが大きいほどライン圧の増大は大きくなるが、アクセル開速度ΔAPOが小さい場合には、ロックアップクラッチ35の実油圧が指令圧対してオーバーシュートすることなく追従することができる。逆に、アクセル開度APOが小さい場合はライン圧の増大は小さくなるが、アクセル開速度ΔAPOが大きい場合には、ロックアップクラッチ35の実油圧が指令圧対して追従できなくなりショックが発生する可能性がある。エンジントルクTrqとエンジントルク変化量ΔTrqとの関係も同様である。
【0108】
従って、これらを組にして制御することにより、正確にロックアップクラッチ35の容量を制御することができて、ロックアップクラッチ35の指令圧に対して実油圧が増大することが防止されて、車両発進時のショックを防止することができる。これは請求項6の効果に対応する。
【0109】
また、コントローラ12は、第2フェーズにおいて、所定時間Tが経過するまで、ロックアップクラッチ35に第1及び第2スタンバイ圧を指令し、所定時間Tが経過した後は、ロックアップクラッチ35がトルクを伝達可能となるまで、指令値を所定勾配Cで上昇させ、この所定勾配Cを、駆動力要求が大きいほど大きな変化勾配とする。すなわち、駆動力要求が小さい場合は、ロックアップクラッチ35のトルク容量を持たせるときに指令値の変化を緩やかとして、トルク容量を持つときのエンジントルクの引きによるショックを低減できる。また、駆動力要求が大きい場合は、トルク容量を持つときのショックが駆動力の上昇により緩和されるため、より早期にトルク容量を持たせることができる。これは請求項7の効果に対応する。
【0110】
また、コントローラ12は、第1及び第2スタンバイ圧からロックアップクラッチ35がトルクを伝達可能となるまでの指令値をステップ状に上昇させてもよいし、一旦ステップ状に上昇させてから勾配状に上昇させても、一旦勾配状に上昇させてからステップ状に上昇させてもよい。このように、第2フェーズから第3フェーズへの移行時に、さまざまな適応をもたせることができる。これは請求項8及び9の効果に対応する。
【0111】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する主旨ではない。
【0112】
例えば、変速機4は有段変速機であってもよいし、Vベルトやチェーンを一組のプーリの間に掛け回される無段変速機であってもよい。または、入力ディスクと出力ディスクの間に傾転可能なパワーローラを配置するトロイダル式無段変速機であってもよい。
【0113】
また、上記実施形態では、トルクコンバータ30のロックアップクラッチ35は、アプライ圧Paとレリーズ圧Prとの差圧によりトルク容量が制御される構成を示したがこれに限られず、多板クラッチを有するロックアップクラッチでもよい。この場合、第2スタンバイ圧を多板クラッチ制御におけるプリチャージ圧とすることができる。
【0114】
また、上記実施形態では、第2フェーズから第3フェーズへの移行を所定時間Tの経過に基づき判断しているが、これに限られない。例えば、エンジン回転速度Neやライン圧が所定値となってことに基づき第2フェーズから第3フェーズへの移行を判断してもよい。