特許第5768020号(P5768020)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5768020
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】光変調装置およびそのドリフト制御方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/03 20060101AFI20150806BHJP
   G02F 1/035 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   G02F1/03 502
   G02F1/035
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-171974(P2012-171974)
(22)【出願日】2012年8月2日
(65)【公開番号】特開2014-32274(P2014-32274A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2014年7月7日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079337
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 誠志
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸泰
(72)【発明者】
【氏名】大谷 昭仁
(72)【発明者】
【氏名】新井 茂雄
【審査官】 廣崎 拓登
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−115813(JP,A)
【文献】 特開2002−023119(JP,A)
【文献】 特開2001−244896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00− 1/125
1/21− 7/00
H04B 10/00−10/90
H04J 14/00−14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレント光を入射光として受けて2分岐して2つの導波路を伝搬させて結合する光路を有し、前記2つの導波路の少なくとも一方が、信号入力端子から入力された信号の電圧に応じて屈折率を変化させて当該導波路を伝搬する光の位相を変化させる特性を有する光変調器(21)と、
前記光変調器の動作点の基準となる電圧可変の直流バイアス電圧を発生するバイアス電圧発生手段(25)と、
所定振幅の無変調連続波の変調信号を出力する変調信号発生手段(26)と、
前記バイアス電圧発生手段が出力する直流バイアス電圧と前記変調信号発生手段が出力する変調信号とを重畳して前記光変調器の信号入力端子に与える信号重畳手段(27)と、
前記光変調器の出射光から、前記コヒーレント光の周波数を挟んで、前記変調信号の周波数の整数N倍高い方に離れた+N次変調光成分と、整数N倍低い方に離れた−N次変調光成分とをそれぞれ個別に抽出し、それぞれの成分のレベル(L+N、L−N)を検出する±N次変調光レベル検出手段(30)と、
前記バイアス電圧発生手段が出力する直流バイアス電圧を、前記光変調器の動作点が適正となる値に初期設定し、該初期設定後で前記無変調連続波の変調信号を前記光変調器に与えている間の所定タイミング毎に前記+N次変調光成分のレベルと−N次変調光成分のレベルとを求め、該+N次変調光成分のレベルの経時変化が増加方向で前記−N次変調光成分のレベルの経時変化が減少方向の場合と、前記+N次変調光成分のレベルの経時変化が減少方向で前記−N次変調光成分のレベルの経時変化が増加方向の場合のいずれになるかを判別することで、前記光変調器の動作点のドリフト方向を判定し、該判定結果に基づいて前記ドリフトが小さくなるように直流バイアス電圧を補正する制御部(40)とを備えていることを特徴とする光変調装置。
【請求項2】
所定周波数のコヒーレント光を入射光として受けて2分岐して2つの導波路を伝搬させて結合する光路を有し、前記2つの導波路の少なくとも一方が、信号入力端子から入力された信号の電圧に応じて屈折率を変化させて当該導波路を伝搬する光の位相を変化させる特性を有する光変調器(21)に対して、その動作点の基準となる直流バイアス電圧に変調信号を重畳して与え、該変調信号で強度変調された光を出射する光変調装置のドリフト制御方法において、
前記直流バイアス電圧を、前記光変調器の動作点が適正となる値に初期設定する段階(S1〜S3、S1′、S2′)と、
前記直流バイアス電圧の初期設定後に、前記変調信号として無変調連続波を与えている期間中の所定タイミング毎に、前記コヒーレント光の周波数を挟んで、前記変調信号の周波数の整数N倍高い方に離れた+N次変調光成分と、整数N倍低い方に離れた−N次変調光成分とをそれぞれ個別に抽出し、それぞれの成分のレベルを検出して記憶する段階(S4、S5、S3′)と、
前記検出した+N次変調光成分のレベルの経時変化が増加方向で前記−N次変調光成分のレベルの経時変化が減少方向の場合と、前記+N次変調光成分のレベルの経時変化が減少方向で前記−N次変調光成分のレベルの経時変化が増加方向の場合のいずれになるかを判別することで、前記光変調器の動作点のドリフト方向を判定し、該判定結果に基づいて前記ドリフトが小さくなるようにバイアス電圧を補正する段階(S6〜S8)とを含むことを特徴とする光変調装置のドリフト制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器のドリフト制御に関し、特に、不要な変調成分を生じさせることなく、光変調器に適切なバイアス電圧を与えるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光変調器として、従来から導波路型マッハ・ツェンダー型光強度変調器(LN変調器)が知られている。この変調器は、入力光を1:1に2分岐して二つの導波路を伝搬させて合波する光路構成をもち、その二つの導波路が、印加される電界の向きと大きさに応じて屈折率を変化させるLiNbO3 等の電気光学結晶からなる基板上に形成されていて、二つの導波路に印加される電界により導波路を通過する光位相を変化させて合波できるようになっている。
【0003】
そして、例えば二つの導波路に電界を与えなければ、二つの導波路を通過する光の位相差が0となって同相合波され、互いに強調し合って出射されるが、所定の大きさの電界を逆向きに与えると、一方の導波路の光の位相がπ/2進み、他方の導波路の光の位相がπ/2遅れて、両光の位相差がπとなって逆相合波され、互いに干渉して打ち消し合い、基板内部で散乱して出射されなくなる。この二つの導波路を通過する光の位相差がπとなるために必要な電圧を半波長電圧Vπと呼び、動作点を決める直流バイアス電圧を基準にして、半波長電圧Vπ以下の振幅の変調信号を光変調器に印加することで、その変調信号のレベルに応じて強度変調された光を出射させることができる。
【0004】
上記構造の光変調器では、直流バイアス電圧の印加量や使用環境の温度変化により、光変調器の出力特性が経時的に変化する、所謂ドリフト現象を起こすことが知られている。このドリフト現象により、印加されている直流バイアス電圧に対して光の出力特性がシフトして動作点がずれると、光の消光比が低下し、高いS/Nが得られなくなる。
【0005】
このため、従来から光変調器のドリフト抑制のための技術が種々提案されている。その一つとして、特許文献1では、光変調器の変調信号に低周波信号を重畳させ、光変調器の出力光から低周波信号に係る光量変化をモニタし、この光量変化と低周波の相関をもとめ、実印加電圧に対するバイアス点の検出を行い、光変調器の直流バイアスを補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−309468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1にみられるように、直流バイアス、変調信号のほかに、低周波信号を重畳させた場合、変調光出力の各側帯波あるいは変調光出力を受光して得られる高周波信号の各成分に、重畳した低周波信号とその高次側帯波の不要信号成分が現れてしまい、これら不要信号成分により信号品質が低下する。
【0008】
本発明は、この問題を解決して、低周波信号の重畳による信号品質低下を招くことなく、ドリフトを抑制することができる光変調装置およびそのドリフト制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の光変調装置は、
コヒーレント光を入射光として受けて2分岐して2つの導波路を伝搬させて結合する光路を有し、前記2つの導波路の少なくとも一方が、信号入力端子から入力された信号の電圧に応じて屈折率を変化させて当該導波路を伝搬する光の位相を変化させる特性を有する光変調器(21)と、
前記光変調器の動作点の基準となる電圧可変の直流バイアス電圧を発生するバイアス電圧発生手段(25)と、
所定振幅の無変調連続波の変調信号を出力する変調信号発生手段(26)と、
前記バイアス電圧発生手段が出力する直流バイアス電圧と前記変調信号発生手段が出力する変調信号とを重畳して前記光変調器の信号入力端子に与える信号重畳手段(27)と、
前記光変調器の出射光から、前記コヒーレント光の周波数を挟んで、前記変調信号の周波数の整数N倍高い方に離れた+N次変調光成分と、整数N倍低い方に離れた−N次変調光成分とをそれぞれ個別に抽出し、それぞれの成分のレベル(L+N、L−N)を検出する±N次変調光レベル検出手段(30)と、
前記バイアス電圧発生手段が出力する直流バイアス電圧を、前記光変調器の動作点が適正となる値に初期設定し、該初期設定後で前記無変調連続波の変調信号を前記光変調器に与えている間の所定タイミング毎に前記+N次変調光成分のレベルと−N次変調光成分のレベルとを求め、該+N次変調光成分のレベルの経時変化が増加方向で前記−N次変調光成分のレベルの経時変化が減少方向の場合と、前記+N次変調光成分のレベルの経時変化が減少方向で前記−N次変調光成分のレベルの経時変化が増加方向の場合のいずれになるかを判別することで、前記光変調器の動作点のドリフト方向を判定し、該判定結果に基づいて前記ドリフトが小さくなるように直流バイアス電圧を補正する制御部(40)とを備えていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2の光変調装置のドリフト制御方法は、
所定周波数のコヒーレント光を入射光として受けて2分岐して2つの導波路を伝搬させて結合する光路を有し、前記2つの導波路の少なくとも一方が、信号入力端子から入力された信号の電圧に応じて屈折率を変化させて当該導波路を伝搬する光の位相を変化させる特性を有する光変調器(21)に対して、その動作点の基準となる直流バイアス電圧に変調信号を重畳して与え、該変調信号で強度変調された光を出射する光変調装置のドリフト制御方法において、
前記直流バイアス電圧を、前記光変調器の動作点が適正となる値に初期設定する段階(S1〜S3、S1′、S2′)と、
前記直流バイアス電圧の初期設定後に、前記変調信号として無変調連続波を与えている期間中の所定タイミング毎に、前記コヒーレント光の周波数を挟んで、前記変調信号の周波数の整数N倍高い方に離れた+N次変調光成分と、整数N倍低い方に離れた−N次変調光成分とをそれぞれ個別に抽出し、それぞれの成分のレベルを検出して記憶する段階(S4、S5、S3′)と、
前記検出した+N次変調光成分のレベルの経時変化が増加方向で前記−N次変調光成分のレベルの経時変化が減少方向の場合と、前記+N次変調光成分のレベルの経時変化が減少方向で前記−N次変調光成分のレベルの経時変化が増加方向の場合のいずれになるかを判別することで、前記光変調器の動作点のドリフト方向を判定し、該判定結果に基づいて前記ドリフトが小さくなるようにバイアス電圧を補正する段階(S6〜S8)とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このように、本発明では、光変調器の動作点が適正となるように直流バイアス電圧を初期設定して、所定振幅の無変調連続波の変調信号を与えている期間の所定タイミング毎に、入射光の周波数を挟んで変調信号周波数の整数N倍離れた±N次変調光成分のレベルをそれぞれ個別に検出し、+N次変調光成分のレベルの経時変化が増加方向で前記−N次変調光成分のレベルの経時変化が減少方向の場合と、前記+N次変調光成分のレベルの経時変化が減少方向で前記−N次変調光成分のレベルの経時変化が増加方向の場合のいずれになるかを判別することで、光変調器のドリフト方向を判定し、その判定結果に基づいてドリフトが小さくなるように直流バイアス電圧を補正している。
【0012】
これは光変調器のドリフトに対して、+N次の変調光成分のレベル変化の傾向と−N次の変調光成分のレベル変化の傾向には波長による差があるという知見に基づくものであり、この構成により、本発明では、低周波信号の重畳による信号品質低下を招くことなく、光変調器のドリフトを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態の構成を示す図
図2】光変調器の特性を示す図
図3】位相差0相当の直流バイアスを与えたときの光変調器の出射光のスペクトラム図
図4】位相差π相当の直流バイアスを与えたときの光変調器の出射光のスペクトラム図
図5】±N次の光変調成分の出力特性図
図6】実施形態の制御部の処理手順を示すフローチャート
図7】本発明の別の実施形態の構成を示す図
図8】別の実施形態の制御部の処理手順を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した光変調装置20の構成を示している。
【0015】
図1において、光変調器21は、前記した導波路型マッハ・ツェンダー型光強度変調器(LN変調器)であり、LiNbO3 等の電気光学結晶からなる基板上に形成されている。
【0016】
より具体的に言えば、入射光Pinを入射用導波路21aで受けて、分岐部21bで2分岐し、二つの導波路21c、21dを伝搬させて、結合部21eで合波し、同相合波される光については結合部21eと連続する出射用導波路21fを介して出射し、逆相合波される光については結合部21eで散乱し基板内に放射する光路構造を有している。そして、二つの導波路21c、21dが、信号入力端子21gに接続された図示しない電極に挟まれていて、電極から印加される電界の向きと大きさに応じて導波路21c、21dを通過する光位相を変化させて結合し、合波できるようになっている。なお、導波路に対する電界の印加は、二つの導波路に対して逆方向に行う場合だけでなく、一方の導波路に対してのみ印加を行う場合でもよい。
【0017】
この光変調器21には、波長λc(例えば1550nm、周波数fc)のコヒーレント光が入射光Pinとして入射され、二つの導波路21c、21dを伝搬して、信号入力端子21gに入力された信号の電圧に応じた位相差が与えられて合波され、その位相差により強め合ったり、弱め合ったりして出射されることになる。
【0018】
図2は、光変調器21に与えられる信号の電圧と出射光強度の関係を示す図であり、信号電圧の変化に対して周期的変化を示す出力特性を有しており、そのうち、逆相合波で打ち消し合う電圧V1と、同相合波で最大に強め合う電圧V2(=V1+Vπ)との差分に等しい振幅(Vπ)をもち、例えば、変調データ0に対して0ボルト、変調データ1に対してVπボルトでレベル遷移する変調信号Smを、動作点決定用の直流バイアス電圧Vb=V1に重畳して与えることで、変調信号Smのレベルに応じて強度が変調される光変調信号Pout を最大の消光比で出射させることができる。
【0019】
この光変調器21の動作点を決める直流バイアス電圧Vbはバイアス電圧発生手段25から出力される。バイアス電圧発生手段25は、後述する制御部40の制御により、出力する直流バイアス電圧Vbを可変する。
【0020】
また、変調信号発生手段26の構成は、この装置の用途に応じて異なるが、例えば、100GHzの信号を得るための逓倍器の一部として用いる場合には、4逓倍なら25GHzの所定振幅の無変調連続波の変調信号Smを発生する。この変調信号Smの振幅は、前記した半波長電圧Vπ以下で、変調器21の変調特性の直線性のよい範囲に対応した値とする。
【0021】
バイアス電圧Vbと変調信号Smは、信号重畳手段27によって重畳されて光変調器21の信号入力端子21gに与えられる。信号重畳手段27は、バイアスT等の加算器で構成することができ、また、変調信号発生手段26の出力の基準電位をバイアス電圧Vbに一致させる回路等で構成することもできる。
【0022】
一方、光変調器21の出射光Pout は、第1光分岐手段28で分岐されて、その一方Pout1は装置出射光となり、他方Pout2が±N次変調光レベル検出手段30に入射される。
【0023】
±N次変調光レベル検出手段30は、入射光Pout2を第2光分岐手段31で2分岐し、その一方を+N次変調光フィルタ32に入射し、他方を−N次変調光フィルタ33に入射する。
【0024】
この二つのフィルタは、光変調器21の入射光Pinの周波数fcを挟んで、変調信号周波数fmの整数N倍離れた±N次変調光成分をそれぞれ抽出するためのフィルタであり、変調周波数fm=25GHzの場合、次数N=2とすれば、入射光周波数fcからプラス側とマイナス側にそれぞれ50GHz離れている光変調成分を抽出する。これらの変調成分は、入射光Pinの波長を1550nmとすると、それから50GHzに相当する波長約0.4nmだけ離れているが、これらの抽出は例えばFBG(ファイバブラッググレーティング)等を用いることで実現できる。
【0025】
これら二つのフィルタで抽出された±N次変調光成分P+N、P−Nは、それぞれ受光器34、35に入射されてそのレベルL+N、L−Nが検出される。
【0026】
ここで、光変調器21のバイアス電圧と出力光のスペクトラムの関係を説明する。
光変調器21には、バイアス電圧Vbと変調信号Smが重畳されて入力され、その入力信号が、二つの導波路に対して逆極性で印加されるものとする。二つの導波路を通過してきた光の位相差をφとすると、出力される光の振幅はcos φに比例する。
【0027】
変調信号がないときに二つの導波路を通過した光が同相合波されるような直流バイアスが与えられた状態(直流バイアスよる光信号位相差が生じない状態)で、一方の導波路の光が、A sin ωtの位相変調を受けるとき、その位相変調光は、
exp (jA sin ωt)=ΣJ(a)ejnωt
と書ける。ただし、記号Σは、n=−∞〜+∞までの総和、Jは、n次の第1種ベッセル関数である。
【0028】
−n(x)=(−1)(x)の関係に注意すると、この位相変調光のスペクトルは、模式的に図3の(a)のように表される(光周波数fc、ω=2πfmとする)。
【0029】
また、このとき、他方の導波路の光は、逆位相の−A sin ωtの位相変調を受けるので、そのスペクトラムは、図3の(b)のように表される。
【0030】
これらの光を合波すると、図3の(c)の奇数次の側波帯成分が抑圧され、偶数次のみが残る。
【0031】
逆に、変調信号がないときに二つの導波路を通過した光が逆相合波されるような直流バイアス電圧が印加された状態で、上記同様の変調信号を与えると、偶数次が抑圧され、奇数次のみが残る。
【0032】
つまり、光変調器21の動作点を決める直流バイアスが、二つの導波路の光に位相差πを与える電圧に設定されている場合には、奇数次の側波帯成分が出力に現れ、二つの導波路の光に位相差0を与える電圧に設定されている場合には、搬送波および偶数次の側波帯成分が出力に現れることになる。
【0033】
図4の(a)は、直流バイアス電圧が位相差πを与える電圧に設定されている場合の変調器出力のスペクトラムを示すものであり、前記したように基本波fcの成分およびその基本波から変調周波数fmの偶数倍±2fm、±4fm、…離れた位置の偶数次の変調波成分(側波帯成分)は抑圧されて理論的にゼロとなる。
【0034】
これに対し、ドリフトによって動作点がずれると、抑圧されていた基本波と偶数次の変調波成分が、図4の(b)のように現れることになる。
【0035】
なお、図3に示したように、直流バイアスが位相差0を与える電圧に設定されている場合で、基本波fcから変調周波数fm(=2πω)の奇数倍±fm、±3fm、…離れた位置の奇数次の変調波成分(側波帯成分)が抑圧されている状態から、ドリフトによって動作点がずれると、抑圧されていた奇数次の変調波成分が現れることになる。
【0036】
したがって、直流バイアス電圧が光変調器21の動作点が適正となる値に初期設定された時点で、例えば最小に抑圧された次数の変調成分のレベルを監視し、そのレベルが所定値を越えたら、ドリフトによる動作点ずれが発生したものと判断し、動作点を修正すればよい。
【0037】
ここで、ドリフトによって現れる±N変調光成分に注目すると、そのプラスとマイナスの変調光成分は、その間に2N・fm分の周波数差があるため、同じドリフト量であっても合波される時の位相差が異なってくる。これは変調周波数が高くなるほど、また、次数が高くなるほど顕著に表れる。
【0038】
例えば、±2次の変調光成分について言えば、図5に示す出力特性F1、F2のように、バイアス電圧軸に沿ってずれた特性となり、基本的に両者が交わる位置Qが本来の適正な動作点となる。
【0039】
そして、この特性F1、F2の交点からそれぞれの極小点までの範囲でみると、ドリフトによって、特性に対してバイアス点が左方に相対移動すると、特性F1の光のレベルが上がり、特性F2の光のレベルが下がる。逆に、特性に対してバイアス点が右方に相対移動すると、特性F1の光のレベルが下がり、特性F2の光のレベルが上がる。
【0040】
したがって、交点Qに対応した適正な動作点からの±2次の変調波成分のレベル変化の傾向を把握すれば、動作点がずれている方向を特定することができる。
【0041】
制御部40は、このドリフト制御の処理を含めた制御処理を行うものであり、装置起動時の初期設定処理およびドリフト制御処理を行う。
【0042】
図6は、その処理手順を示すフローチャートである。以下このフローチャートに基づいて、この光変調装置20の動作を説明する。
【0043】
初期設定処理は、装置起動時等に直流バイアスを光変調器21の動作点が適正となる値に設定するためのものであり、ここでは、変調信号Smを与えた状態で、バイアス電圧発生手段25が出力する直流バイアス電圧Vbを±Vπの範囲可変させ、±N次(偶数とする)の変調光成分のレベルL+N、L−Nを観測し、その和が最小となる値Vb1を初期設定する(S1〜S3)。
【0044】
この初期設定処理により、基本波および偶数次の変調波成分が十分に抑圧された図4の(a)の状態となり、光変調器21の出射光Pout には、周波数fc±fm、fc±3fm、…の奇数次の光変調成分が含まれることになる。
【0045】
ここで、出射光Pout は、2fmだけ周波数差がある±1次の変調光成分が合波されたものと見なせるから、これを受光器に入射すれば、周波数2fmの電気信号を得ることができ、変調信号Smに対する2逓倍処理が可能となる。
【0046】
制御部40は、このような変調処理が行なわれている間の一定時間経過毎に、±N次の変調光成分のレベルL+N、L−Nをそれぞれ求めてM回(Mは1以上の整数)の平均化処理をし、その処理結果A(+N)、A(−N)の増減判定を行う(S4〜S6)。
【0047】
前記したように、2次の変調光成分を観測している場合、出力特性が低電圧側に移動(動作点が高電圧側にドリフト)すると、+2次の変調光成分のレベルが下がり、−2次の変調光成分のレベルが上がる。逆に出力特性が高電圧側に移動(動作点が低電圧側にドリフト)すると、+2次の変調光成分のレベルが上がり、−2次の変調光成分のレベルが下がる。
【0048】
したがって、平均値A(+N)が減少変化し、平均値A(−N)が増大変化した場合には、動作点が高電圧側にドリフトしていると判断し、直流バイアス電圧Vbを所定量ΔV低く補正する(S7)。また、平均値A(+N)が増大変化し、平均値A(−N)が減少変化した場合には、動作点が低電圧側にドリフトしていると判断し、直流バイアス電圧Vbを所定量ΔV高く補正する(S8)。なお、増減変化がない場合には、動作点が適正な位置に保持されていると判断して処理S4に戻る。
【0049】
以上の処理により、光変調器21の動作点のドリフトを、無用な低周波信号を重畳することなく、抑圧することができる。
【0050】
なお、上記実施例では、観測する変調光成分の次数を±2次としていたが、±4次、±6次などのより高次の信号でもよい。
【0051】
また、動作点が適正な状態にあるときにレベルが最小となる偶数次だけでなく、動作点が適正な状態にあるときにレベルが最大となる±1次、±3次等の奇数次の変調光成分を抽出する構成とし、直流バイアス電圧を奇数次の変調光成分が最大となる電圧に初期設定してから、それらのレベルの経時変化に基づいてドリフトの方向を判定してもよい。
【0052】
また、前記実施形態では、光変調器21の動作点が適正となるための直流バイアス電圧を初期設定する際に、変調信号を入力した状態で、±N次変調光成分のレベル和が最小(あるいは最大)となる電圧を求めていたが、光変調器21の動作点が適正となるバイアス電圧の初期設定は、変調信号を入力しないで行うこともできる。
【0053】
その場合には、図7に示す光変調装置20′のように、光変調器21の出射光Pout のレベルを検出するための分岐手段51と受光器52を設けるか、あるいは、光変調器21の結合部21eで放射された放射光Prad のレベルを検出する受光器53を設ける。
【0054】
そして、図8のフローチャートのように、初期設定時に、変調信号を入力しない状態で、バイアス電圧を±Vπの範囲で可変させながら、出射光Pout あるいは放射光Prad のレベルを記憶し(S1′)、出射光Pout が最小(あるいは放射光Prad のレベルが最大)となる電圧、または、出射光Pout のレベルが最大(あるいは放射光Prad のレベルが最小)となる電圧にバイアスを初期設定(S2′)してから、変調信号Smを入力(S3′)する。
【符号の説明】
【0055】
20……光変調装置、21……光変調器、25……バイアス電圧発生手段、26……変調信号発生手段、27……信号重畳手段、28……第1光分岐手段、30……±N次変調光レベル検出手段、31……第2光分岐手段、32……+N次変調光フィルタ、33……−N次変調光フィルタ、34、35……受光器、40……制御部、51……分岐手段、52、53……受光器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8