(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5768044
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】PDE10A酵素阻害剤としての新規のフェニルイミダゾール誘導体
(51)【国際特許分類】
C07D 487/04 20060101AFI20150806BHJP
A61K 31/4985 20060101ALI20150806BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20150806BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20150806BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20150806BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20150806BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20150806BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20150806BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20150806BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20150806BHJP
A61P 25/32 20060101ALI20150806BHJP
A61P 25/36 20060101ALI20150806BHJP
A61P 25/30 20060101ALI20150806BHJP
A61K 31/454 20060101ALI20150806BHJP
A61K 31/5513 20060101ALI20150806BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20150806BHJP
A61K 31/554 20060101ALI20150806BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20150806BHJP
A61K 31/4515 20060101ALI20150806BHJP
A61K 31/551 20060101ALI20150806BHJP
A61K 31/4545 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
C07D487/04 145
C07D487/04CSP
A61K31/4985
A61P43/00 121
A61P25/00
A61P25/18
A61P25/28
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/22
A61P25/24
A61P25/32
A61P25/36
A61P25/30
A61K31/454
A61K31/5513
A61K31/519
A61K31/554
A61K31/496
A61K31/4515
A61K31/551
A61K31/4545
【請求項の数】12
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-515356(P2012-515356)
(86)(22)【出願日】2010年6月17日
(65)【公表番号】特表2012-530086(P2012-530086A)
(43)【公表日】2012年11月29日
(86)【国際出願番号】DK2010050147
(87)【国際公開番号】WO2010145668
(87)【国際公開日】20101223
【審査請求日】2013年6月14日
(31)【優先権主張番号】PCT/DK2009/050134
(32)【優先日】2009年6月19日
(33)【優先権主張国】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】591143065
【氏名又は名称】ハー・ルンドベック・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】リッツェン,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ケーラー,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ランゴード,モルテン
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン,ヤコブ
(72)【発明者】
【氏名】キルバーン,ジョン ポール
(72)【発明者】
【氏名】ファーラー,モハメド エム.
【審査官】
爾見 武志
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−524381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 487/04
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物5,8−ジメチル−2−[2−(1−メチル−4−フェニル−1H−イミダゾール−2−イル)−エチル]−[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピラジン
【化7】
および薬学的に許容し得るその酸付加塩。
【請求項2】
医薬品として使用するための請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
単独で、またはセルチンドール、オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾール、ハロペリドール、クロザピン、ジプラシドンおよびオサネタントから成る群から選択される1つまたは複数の神経遮断薬と組み合わせて神経変性障害または精神障害の治療で使用する請求項1に記載の化合物であって、神経変性障害が、アルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、アルコール性認知症もしくは他の薬物関連の認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に伴う認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に伴う認知症またはAIDSに伴う認知症;せん妄;健忘障害;心的外傷後ストレス障害;精神遅滞;学習障害;注意欠陥多動障害;および加齢関連認知低下から成る群から選択され、精神障害が、統合失調症;統合失調症様障害;統合失調性感情障害;妄想性障害;双極性障害;物質誘発精神障害;妄想型の人格障害;ならびに統合失調型の人格障害から成る群から選択される、神経変性障害または精神障害の治療に使用する化合物。
【請求項4】
神経変性障害または精神障害治療用の医薬品の調製のための請求項1に記載の化合物の使用であって、神経変性障害が、アルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、アルコール性認知症もしくは他の薬物関連の認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に伴う認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に伴う認知症またはAIDS関連の認知症;せん妄;健忘障害;心的外傷後ストレス障害;精神遅滞;学習障害;注意欠陥多動障害;および加齢関連認知低下から成る群から選択され、精神障害が、統合失調症;統合失調症様障害;統合失調性感情障害;妄想性障害;双極性障害;物質誘発精神障害;妄想型の人格障害;ならびに統合失調型の人格障害から成る群から選択される、使用。
【請求項5】
神経変性障害または精神障害に罹患している患者を治療するための医薬組成物であって、神経変性障害が、アルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、アルコール性認知症もしくは他の薬物関連の認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に伴う認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に伴う認知症またはAIDS関連の認知症;せん妄;健忘障害;心的外傷後ストレス障害;精神遅滞;学習障害;注意欠陥多動障害;および加齢関連認知低下から成る群から選択され、精神障害が、統合失調症;統合失調症様障害;統合失調性感情障害;妄想性障害;双極性障害;物質誘発精神障害;妄想型の人格障害;ならびに統合失調型の人格障害から成る群から選択され、請求項1に記載の化合物の有効量を、単独で、またはセルチンドール、オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾール、ハロペリドール、クロザピン、ジプラシドンおよびオサネタントから選択される1つまたは複数の神経遮断薬と組み合わせて含む、医薬組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物、ならびに1つまたは複数の薬学的に許容し得る担体、希釈剤および添加剤を含む医薬組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物、ならびにセルチンドール、オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾール、ハロペリドール、クロザピン、ジプラシドンおよびオサネタントから成る群から選択される追加的な化合物の、神経変性障害または精神障害治療用の医薬品の調製のための使用であって、神経変性障害が、アルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、アルコール性認知症もしくは他の薬物関連の認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に伴う認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に伴う認知症またはAIDS関連の認知症;せん妄;健忘障害;心的外傷後ストレス障害;精神遅滞;学習障害;注意欠陥多動障害;および加齢関連認知低下から成る群から選択され、精神障害が、統合失調症;統合失調症様障害;統合失調性感情障害;妄想性障害;双極性障害;物質誘発精神障害;妄想型の人格障害;ならびに統合失調型の人格障害から成る群から選択される、使用。
【請求項8】
神経変性障害または精神障害の治療において、同時、個別または連続的に使用するための組合せ製剤としての、請求項1または2に記載の化合物、ならびにセルチンドール、オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾール、ハロペリドール、クロザピン、ジプラシドンおよびオサネタントから成る群から選択される追加的な化合物であって、神経変性障害が、アルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、アルコール性認知症もしくは他の薬物関連の認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に伴う認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に伴う認知症またはAIDS関連の認知症;せん妄;健忘障害;心的外傷後ストレス障害;精神遅滞;学習障害;注意欠陥多動障害;および加齢関連認知低下から成る群から選択され、精神障害が、統合失調症;統合失調症様障害;統合失調性感情障害;妄想性障害;双極性障害;物質誘発精神障害;妄想型の人格障害;ならびに統合失調型の人格障害から成る群から選択される、請求項1または2に記載の化合物および追加的な化合物。
【請求項9】
神経変性障害または精神障害の治療のための請求項1に記載の化合物であって、神経変性障害が、アルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、アルコール性認知症もしくは他の薬物関連の認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に伴う認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に伴う認知症またはAIDS関連の認知症;せん妄;健忘障害;心的外傷後ストレス障害;精神遅滞;学習障害;注意欠陥多動障害;および加齢関連認知低下から成る群から選択され、精神障害が、統合失調症;統合失調症様障害;統合失調性感情障害;妄想性障害;双極性障害;物質誘発精神障害;妄想型の人格障害;ならびに統合失調型の人格障害から成る群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
前記学習障害が、読書障害、算数障害または書字表出障害であり、前記統合失調症が、妄想型、解体型、緊張型、識別不能型または残遺型であり、前記統合失調性感情障害が、妄想型またはうつ病型であり、前記双極性障害が、双極性I型障害、双極性II型障害または気分循環性障害であり、;前記物質誘発精神障害が、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入薬、オピオイドまたはフェンシクリジンによって誘発される精神障害である、請求項3、8、および9のいずれかに記載の化合物。
【請求項11】
前記学習障害が、読書障害、算数障害または書字表出障害であり、前記統合失調症が、妄想型、解体型、緊張型、識別不能型または残遺型であり、前記統合失調性感情障害が、妄想型またはうつ病型であり、前記双極性障害が、双極性I型障害、双極性II型障害または気分循環性障害であり、;前記物質誘発精神障害が、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入薬、オピオイドまたはフェンシクリジンによって誘発される精神障害である、請求項4および7のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
前記学習障害が、読書障害、算数障害または書字表出障害であり、前記統合失調症が、妄想型、解体型、緊張型、識別不能型または残遺型であり、前記統合失調性感情障害が、妄想型またはうつ病型であり、前記双極性障害が、双極性I型障害、双極性II型障害または気分循環性障害であり、;前記物質誘発精神障害が、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入薬、オピオイドまたはフェンシクリジンによって誘発される精神障害である、請求項5に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明により、PDE10A酵素阻害剤であり、したがって神経変性障害および精神障害を治療するのに有用である化合物が提供される。本発明により、また、本発明の化合物を含む医薬組成物および本発明の化合物を使用して障害を治療する方法も提供される。
【背景技術】
【0002】
本出願に全体にわたって、種々の刊行物がその全体として参照される。これらの刊行物の開示は、本発明が関係する最新技術をより完全に記載するために、ここで参照により本出願に組み込まれる。
【0003】
環状ヌクレオチドである環状アデノシン一リン酸(cAMP)および環状グアノシン一リン酸(cGMP)は、細胞内二次メッセンジャーとして働き、ニューロンにおける無数のプロセスを調節する。細胞内のcAMPおよびcGMPは、アデニルシクラーゼおよびグアニルシクラーゼにより生じ、環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(PDEs)により分解される。cAMPおよびcGMPの細胞内レベルは、細胞内シグナル伝達によって制御され、GPCRの活性化に応答するアデニルシクラーゼおよびグアニルシクラーゼの刺激/抑制は、環状ヌクレオチド濃度を制御する十分特徴付けられた方法である。(Antoni, F.A. Front. Neuroendocrinol. 2000、21、103-132)。cAMPおよびcGMPレベルにより、順に、cAMPおよびcGMP依存性キナーゼ、ならびに環状ヌクレオチド応答エレメントを有する他のタンパク質の活性が制御され、続いて起こるタンパク質のリン酸化および他のプロセスを通して、シナプス伝達、ニューロン分化およびニューロン生存などの主要な神経機能が調節される。
【0004】
ホスホジエステラーゼ遺伝子には、11の遺伝子ファミリーに分けることができる21の種類がある。PDEは、環状ヌクレオチドのこれら各々のヌクレオチド一リン酸への加水分解を介して、cAMPおよびcGMPのレベルを調節する細胞内酵素の一種である。いくつかのPDEは、cAMPを分解し、いくつかのPDEはcGMPを分解し、いくつかのPDEは両方を分解する。ほとんどのPDEは、多数の組織中で広範に発現し、役割を有しているが、一方、いくつかのPDEは組織特異性がより高い。
【0005】
ホスホジエステラーゼ10A(PDE10A)は、cAMPのAMPへの変換およびcGMPのGMPへの変換の両方を行うことができる、二重特異性のホスホジエステラーゼである(Loughney, K.らGene 1999、234、109-117;Fujishige, K.らEur. J. Biochem. 1999、266、1118-1127およびSoderling, S.らProc. Natl. Acad. Sci. 1999、96、7071-7076)。PDE10Aは、主として線条体、側坐核および嗅結節のニューロンで発現する(Kotera, J.らBiochem. Biophys. Res. Comm. 1999、261、551-557およびSeeger, T. F.らBrain Research、2003、985、113-126)。
【0006】
マウスのPDE10Aは、ホスホジエステラーゼのPDE10ファミリーの最初に同定されたメンバーであり(Fujishige, K.らJ. Biol. Chem. 1999、274、18438-18445およびLoughney, K.らGene 1999、234、109-117)、ラットおよびヒトの両遺伝子のN末端スプライス変異型が同定された(Kotera, J.らBiochem. Biophys. Res. Comm. 1999、261、551-557およびFujishige, K.らEur. J. Biochem. 1999、266、1118-1127)。種にわたって高い相同性が存在する。PDE10Aは、他のPDEファミリーと比べ哺乳動物に独特に局在している。PDE10のmRNAは、睾丸および脳に高度に発現される(Fujishige, K.らEur J Biochem. 1999、266、1118-1127;Soderling, S.らProc. Natl. Acad. Sci. 1999、96、7071-7076およびLoughney, K.らGene 1999、234、109-117)。これらの研究は、脳内では、PDE10の発現が、線条体(尾状核および被殻)、側坐核および嗅結節で最も高いことを示している。さらに最近、げっ歯類の脳におけるPDE10AのmRNAの発現パターンに関する解析(Seeger, T. F.らAbst. Soc. Neurosci. 2000、26、345. 10)およびPDE10Aタンパク質の発現パターンに関する解析(Menniti, F. S.らWilliam Harvey Research Conference「Phosphodiesterase in Health and Disease」、Porto、Portugal、2001年12月5〜7日)が行われた。
【0007】
PDE10Aは、尾状核、側坐核の中型有棘ニューロン(MSN)および嗅結節の対応するニューロンでより高レベルで発現する。これらは、基底核系のコアを構成する。MSNは、皮質−基底核−視床皮質のループにおいて重要な役割を持ち、収束性の皮質/視床入力を統合し、この統合された情報を皮質に送り返す。MSNは、D
1ドーパミン受容体を発現するD
1クラスおよびD
2ドーパミン受容体を発現するD
2クラスである、ニューロンの2つの機能的クラスを発現する。D
1クラスのニューロンは、線条体出力の「直接」経路の一部であり、広く機能して行動反応を促進し、D
2クラスのニューロンは、線条体出力の「間接」経路の一部であり、行動反応を抑制するために機能し、「直接」経路によって促進される反応と競合する。これらの競合する経路は、車におけるブレーキとアクセルのように作用する。最も簡単な観察では、パーキンソン病における運動の乏しさは「間接」経路の活動過剰に起因し、他方、ハンチントン病などの障害における過剰運動は、直接経路の活動過剰を示している。これらのニューロンの樹状突起区画におけるcAMPおよび/またはcGMPシグナル伝達のPDE10Aによる調節は、MSNへの皮質/視床入力の選別に関与している可能性がある。さらに、PDE10Aは、黒質および淡蒼球におけるGABA放出の調節に関与している可能性がある(Seeger, T. F.らBrain Research、2003、985、113-126)。
【0008】
ドーパミンD
2受容体の拮抗作用は、統合失調症の治療において十分に確立されている。1950年代以降、ドーパミンD
2受容体の拮抗作用は、精神病治療における主幹をなしており、全ての有効な抗精神病薬は、D
2受容体に拮抗作用を示す。D
2の作用は、これらの領域が最も高密度のドーパミン作動性投射を受けており、D
2受容体の発現が最も強いので、主として、線条体、側坐核および嗅結節のニューロンを経由して仲介される可能性が高い(Konradi, C.およびHeckers, S. Society of Biological Psychiatry、2001、50、729-742)。ドーパミンD
2受容体の活性化作用は、細胞中のcAMPレベルの低下につながり、この作用はアデニル酸シクラーゼ阻害を通して発現し、このcAMPがD
2のシグナル伝達の成分である(Stoof, J. C.;Kebabian J. W. Nature 1981、294、366-368およびNeve, K. A.らJournal of Receptors and Signal Transduction 2004、24、165-205)。反対に、D
2受容体の拮抗作用は、cAMPレベルを効果的に増大させるが、この作用は、cAMPを分解するホスホジエステラーゼの阻害によって模倣できる可能性がある。
【0009】
21種のホスホジエステラーゼ遺伝子の大部分は、広く発現されており、したがって、阻害することには副作用がある可能性が高い。これに関連して、PDE10Aは、線条体、側坐核および嗅結節のニューロンにおいて、高度に、比較的特異的に発現する望ましい発現プロフィールを有しているので、PDE10Aの阻害には、D
2受容体の拮抗作用と類似した作用がある可能性が高く、したがって、抗精神病作用があると考えられる。
【0010】
PDE10Aの阻害は、D
2受容体の拮抗作用を一部模倣することが予測される一方、この阻害は、異なるプロフィールを有することが予測され得る。D
2受容体には、cAMP以外にシグナル伝達の成分があり(Neve, K. A.らJournal of Receptors and Signal Transduction 2004、24、165-205)、このため、PDE10Aの阻害を介したcAMPの干渉は、D
2受容体を介したドーパミンのシグナル伝達に直接拮抗作用するのではなく、シグナル伝達を負に調節する可能性がある。このことにより、強力なD
2拮抗作用で見られる錐体外路の副作用リスクを低下させ得る。反対に、PDE10Aの阻害には、D
2受容体の拮抗作用では見られないいくつかの作用があり得る。PDE10Aは、また、D
1受容体を発現している線条体ニューロンにおいても発現される(Seeger, T. F.らBrain Research、2003、985、113-126)。D
1受容体の活性化作用は、アデニル酸シクラーゼの刺激につながり、結果としてcAMPレベルの増加をもたらすので、PDE10Aの阻害には、また、D
1受容体の活性化作用を模倣する作用もある可能性が高い。結局、PDE10Aは二重特異性のホスホジエステラーゼなので、PDE10Aの阻害は、細胞内のcAMPを増加させるだけでなく、cGMPレベルもまた増加させることが予測できる。cGMPは、cAMPのような細胞内の多くのターゲットタンパク質を活性化し、また、cAMPのシグナル伝達経路と相互作用もする。結論として、PDE10Aの阻害は、D
2受容体の拮抗作用を一部において模倣する可能性が高いので、抗精神病作用を有し、当該プロフィールは、旧知のD
2受容体拮抗薬で観察されたプロフィールとは異なると考えられる。
【0011】
PDE10A阻害剤のパパベリンは、種々の抗精神病モデルにおいて活性であることが分かっている。パパベリンは、ラットにおいてD
2受容体拮抗薬のハロペリドールのカタレプシー効果を増強したが、単独ではカタレプシーを引き起こさなかった(WO 03/093499)。パパベリンは、PCPで誘発されたラットにおける多動を減少させたが、一方、アンフェタミンで誘発した多動の減少はわずかであった(WO 03/093499)。これらのモデルは、PDE10Aの阻害には、理論考察から予測される旧来の抗精神病薬の潜在能力が保持されていることを示唆している。WO 03/093499では、関連する神経障害および精神障害の治療に対する選択的PDE10阻害剤の使用がさらに開示されている。さらに、PDE10Aの阻害は、亜慢性PCPで誘発したラットにおける注意セットの移行障害を逆転する(Rodeferら Eur. J. Neurosci. 2005、4、1070-1076)。このモデルは、PDE10Aの阻害が、統合失調症に伴う認知障害を軽減し得ることを示唆している。
【0012】
PDE10Aの組織分布は、PDE10の酵素を発現する細胞内、特に基底核を含むニューロン内で、PDE10A阻害剤をcAMPおよび/またはcGMPレベルを増加させるために使用できることを示しており、したがって、本発明のPDE10A阻害剤は、神経障害および精神障害、統合失調症、双極性障害、強迫性障害およびこれらに類するものなどの、基底核が関与する種々の関連する精神神経状態の治療の際に有用であると考えられ、市場に出ている最新の治療法に伴う望ましくない副作用がないという利点を持ち得る。
【0013】
さらに、最近の刊行物(WO 2005/120514、WO 2005012485、Cantinら、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 17(2007)2869-2873)では、PDE10A阻害剤が、肥満症およびインスリン非依存性糖尿病の治療に有用であり得ることが示唆されている。
【0014】
PDE10Aの阻害剤に関して、EP 1250923では、特定の神経障害および精神障害の治療のために、一般に選択的PDE10阻害剤の使用、特にパパベリンの使用が開示されている。
【0015】
WO 05/113517では、ホスホジエステラーゼ(特にタイプ2および4)の阻害剤としてのベンゾジアゼピンの立体特異的化合物、中枢性障害および/または末梢性障害を含む病態の予防ならびに治療が開示されている。WO 02/88096では、ホスホジエステラーゼ(特にタイプ4)の阻害剤としてのベンゾジアゼピン誘導体および治療分野におけるこれらの使用を開示している。WO 04/41258では、ホスホジエステラーゼ(特にタイプ2)の阻害剤としてのベンゾジアゼピノン誘導体および治療分野におけるこれらの使用を開示している。
【0016】
ピロロジヒドロイソキノリンおよびこの変形形態が、PDE10の阻害剤としてWO 05/03129およびWO 05/02579に開示されている。PDE10阻害剤として作用するピペリジニル置換キナゾリンおよびイソキノリンが、WO 05/82883に開示されている。WO 06/11040では、PDE10の阻害剤として作用する置換キナゾリンおよびイソキノリン化合物が開示されている。US 20050182079では、ホスホジエステラーゼ(PDE)の有効阻害剤として作用する、キナゾリンおよびイソキノリンの置換テトラヒドロイソキノリニル誘導体が開示されている。特に、US 20050182079は、PDE10の選択的阻害剤である前記化合物に関連している。類似して、US 20060019975では、ホスホジエステラーゼ(PDE)の有効阻害剤として作用する、キナゾリンおよびイソキノリンのピペリジン誘導体が開示されている。US 20060019975は、PDE10の選択的阻害剤である化合物にもまた関連している。WO 06/028957では、精神医学的症候群および神経学的症候群の治療のための、ホスホジエステラーゼのタイプ10の阻害剤としてのシンノリン誘導体が開示されている。しかし、これらの開示は、既知のPDE10阻害剤のいずれにも構造的に関係のない本発明の化合物には関連していない(Kehler, J.らExpert Opin. Ther. Patents 2007、17、147-158)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の化合物は、WO09/152825に初めて開示され、この出願から優先権が主張されている。本発明の化合物は、効果的なPDE10A酵素の阻害剤であり、PCPで誘発した多動を99%まで逆転する生体内で活性な化合物であることが証明されており、それ故、全ての患者には有効ではない神経変性障害および/または精神障害のために現在市販されている治療剤の代替物を提供し得る。そのような訳で、代替の治療方法に対する必要が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の目的は、選択的PDE10A酵素阻害剤である化合物を提供することにある。
【0019】
本発明のさらなる目的は、そのような活性を有し、従来技術の化合物と比べて、良好な、好ましくは向上した溶解性、代謝的安定性および/または生物学的利用能を有する化合物を提供することにある。
【0020】
本発明の別の目的は、神経障害および精神障害に対する現在の治療に典型的に伴う副作用を引き起こすことなく、ヒト患者の有効な治療、特に長期治療を提供することにある。
【0021】
本発明のさらなる目的は、本明細書を読めば直ちに明らかになる。
【0022】
したがって、本発明は、式I:
【0023】
【化1】
の5,8−ジメチル−2−[2−(1−メチル−4−フェニル−1H−イミダゾール−2−イル)−エチル]−[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピラジンの化合物に関する。
【0024】
本出願の文脈の中では、用語「本発明の化合物」には、式Iの5,8−ジメチル−2−[2−(1−メチル−4−フェニル−1H−イミダゾール−2−イル)−エチル]−[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピラジンおよびこのphの塩が含まれる。
【0025】
本発明により、さらに、医薬品として使用するための本発明の化合物または薬学的に許容し得るその酸付加塩が提供される。
【0026】
別の態様では、本発明により、本発明の化合物および薬学的に許容し得る担体、希釈剤または添加剤を含む医薬組成物が提供される。
【0027】
本発明により、さらに、神経変性障害または精神障害治療用の医薬品の調製のための、本発明の化合物の使用が提供される。
【0028】
本発明により、さらに、本発明の化合物の医薬品としての使用が提供される。
【0029】
本発明により、例えば、妄想型、解体型、緊張型、識別不能型または残遺型の統合失調症;統合失調症様障害;例えば、妄想型またはうつ病型の統合失調性感情障害;妄想性障害;例えば、双極性I型障害、双極性II型障害および気分循環性障害である双極性障害;例えば、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入薬、オピオイドまたはフェンシクリジンによって誘発される精神障害である物質誘発精神障害;妄想型の人格障害;ならびに統合失調型の人格障害から成る群から選択される精神障害の治療のために、本発明の化合物がさらに提供される。
【0030】
さらに、本発明により、神経変性障害に罹患している患者を治療する方法が提供され、この方法には、本発明の化合物を患者に投与することが含まれる。さらなる態様では、本発明により、精神障害に罹患している患者を治療する方法が提供され、この方法には、本発明の化合物を患者に投与することが含まれる。別の実施形態では、本発明により、アルコール、アンフェタミン、コカインまたはアヘン嗜癖などの薬物嗜癖に罹患している患者を治療する方法が提供され、この方法には、本発明の化合物を患者に投与することが含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本出願にわたり、用語のPDE10、PDE10AおよびPDE10A酵素は、区別なく用いられている。
【0032】
本発明の化合物は、PDE10A酵素阻害アッセイのセクションで記載したように試験を行った場合、IC
50値が約2.2nMであり、この値により、本化合物がPDE10A酵素活性阻害に関して有用なものと見なされる。
【0033】
さらに、フェンシクリジン(PCP)で誘発した多動を逆転するこの能力に関して、当該化合物の試験を行った。PCP作用の逆転は、「フェンシクリジン(PCP)で誘発した多動」のセクションで記載したように測定される。当該実験により、本発明の化合物が、PCPで誘発した多動を99%まで逆転する、生体内で活性な化合物であることが示されている。
【0034】
薬学的に許容し得る塩
本発明には、また、本発明の化合物の塩、典型的には薬学的に許容し得る塩も含まれる。そのような塩には、薬学的に許容し得る酸付加塩が含まれる。酸付加塩には、有機酸ばかりでなく無機酸の塩も含まれる。
【0035】
適切な無機酸の代表例としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸、硫酸、スルファミン酸、硝酸およびこれらに類するものが挙げられる。適切な有機酸の代表例としては、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、安息香酸、桂皮酸、クエン酸、フマル酸、グリコール酸、イタコン酸、乳酸、メタンスルホン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、シュウ酸、ピクリン酸、ピルビン酸、サリチル酸、コハク酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、酒石酸、アスコルビン酸、パモン酸、ビスメチレンサリチル酸、エタンジスルホン酸、グルコン酸、シトラコン酸、アスパラギン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、EDTA、グリコール酸、p−アミノ安息香酸、グルタミン酸、ベンゼンスルホン酸、P−トルエンスルホン酸、テオフィリン酢酸、ならびに例えば8−ブロモテオフィリンおよびこれに類するものである、8−ハロテオフィリンが挙げられる。薬学的に許容し得る無機酸付加塩または有機酸付加塩のさらなる例には、その内容が参照によって本明細書に組み込まれる、Berge, S. M.ら、J. Pharm. Sci. 1977、66, 2に列挙されている薬学的に許容し得る塩が含まれる。
【0036】
さらに、本発明の化合物は、非溶媒和の形態、ならびに水、エタノールなどの薬学的に許容し得る溶媒で溶媒和された形態で存在し得る。一般に、本発明の目的に関して、溶媒和形態は非溶媒和形態と同等なものであると見なされる。
【0037】
医薬組成物
本発明により、さらに、本発明の化合物および薬学的に許容し得る担体または希釈剤を含む医薬組成物が提供される。本発明により、また、本発明の化合物および薬学的に許容し得る担体または希釈剤を含む医薬組成物も提供される。
【0038】
本発明の化合物は、単独でまたは薬学的に許容し得る担体、希釈剤もしくは添加剤と組み合わせて、単回投与または複数回投与のいずれかで投与することができる。本発明による医薬組成物は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第19版、Gennaro編.、Mack Publishing Co.、Easton、PA、1995に開示されている技術などの従来の技術に従って、薬学的に許容し得る担体または希釈剤、ならびに任意の他の既知の補助剤および添加剤と製剤化することができる。
【0039】
医薬組成物は、経口経路、直腸経路、経鼻経路、経肺経路、(口腔および舌下を含む)局所経路、経皮経路、嚢内経路、腹腔内経路、経膣経路、ならびに(皮下、筋肉内、くも膜下腔内、静脈内および皮内を含む)非経口経路などの任意の適切な経路で投与するために、具体的に製剤化することができる。当該経路は、治療される患者の全身状態および年齢、治療される状態の性質および活性成分によって決まることを理解されたい。
【0040】
経口投与のための医薬組成物には、カプセル剤、錠剤、糖衣錠、丸薬、トローチ剤、粉剤および顆粒剤などの固形剤形が含まれる。必要に応じて、組成物を腸溶コーティングなどのコーティングで調製してもよく、または組成物を、当技術分野でよく知られた方法に従って、徐放または持続放出などの活性成分の制御放出を実現するように製剤化してもよい。経口投与のための液体剤形としては、液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤およびエリキシル剤が挙げられる。
【0041】
非経口投与のための医薬組成物としては、無菌注射水溶液および無菌注射非水溶液、分散液、懸濁液または乳液、ならびに使用前に無菌注射溶液または分散液に再構成される無菌粉末が挙げられる。他の適切な投与形態としては、これらだけに限定されないが、坐薬、スプレー剤、軟膏、クリーム、ゲル剤、吸入薬、皮膚パッチおよびインプラントが挙げられる。
【0042】
本発明の化合物の典型的な経口投与量は、1日当たり約0.001から約100mg/kg体重の範囲にある。典型的な経口投与量は、また、1日当たり約0.01から約50mg/kg体重の範囲にもある。本発明の化合物の典型的な経口投与量は、さらに、1日当たり約0.05から約10mg/kg体重の範囲にある。経口投与量は、通常、1日当たり1回または複数回の投与、典型的には1回から3回の投与で投与される。正確な投与量は、投与頻度および投与様式、治療される患者の性別、年齢、体重および全身状態、治療される状態の性質および重症度、ならびに治療される任意の合併症および当業者に明らかな他の因子によって決定される。
【0043】
当該組成物は、また、当業者に既知の方法により単位剤形で提供されてもよい。例示目的では、経口投与のための典型的な単位剤形は、本発明の化合物を約0.01から約1000mg、約0.05から約500mgまたは約0.5mgから約200mg含有し得る。
【0044】
静脈内、くも膜下腔内、筋肉内などの非経口経路および類似する投与に対しては、典型的な用量は、経口投与に採用される用量のおよそ半分である。
【0045】
本発明により、また、本発明の化合物と少なくとも1つの薬学的に許容し得る担体または希釈剤を混合することを含む、医薬組成物を作るプロセスも提供される。
【0046】
本発明の化合物は、一般に、遊離物質または薬学的に許容し得るその塩として利用される。
【0047】
非経口投与に関しては、無菌の水溶液、含水プロピレングリコール、水溶性ビタミンEまたはゴマ油もしくはピーナッツ油中の本発明の化合物の溶液を採用することができる。このような水溶液は、必要であれば適切に緩衝化し、液体の希釈剤を十分な生理食塩水またはグルコースで初めに等張にすべきである。水溶液は、特に、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与に適している。本発明の化合物は、当業者に既知の標準的な技術を用いて、既知の無菌水性媒体に容易の組み入れることができる。
【0048】
適切な医薬担体としては、不活性な固体希釈剤もしくは充填剤、無菌水溶液および種々の有機溶媒が挙げられる。固体担体の例としては、乳糖、白土、ショ糖、シクロデキストリン、滑石、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸およびセルロースの低級アルキルエーテルが挙げられる。液体担体の例としては、これらだけに限定されないが、シロップ剤、ピーナッツ油、オリーブ油、リン脂質、脂肪酸、脂肪酸アミン、ポリオキシエチレンおよび水が挙げられる。同様に、担体または希釈剤には、単独またはろうと混合したモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの当技術分野で既知の任意の徐放性材料のものを含み得る。本発明の化合物および薬学的に許容し得る担体を組み合わせて形成された医薬組成物は、次に、開示した投与経路に適する種々の剤形で容易に投与される。当該組成物は、医薬技術分野で既知の方法により、都合よく単位剤形で提供され得る。
【0049】
経口投与に適する本発明の組成物は、活性成分の所定量および任意選択で適切な添加剤を含有するカプセル剤または錠剤などの、個別単位として提供され得る。さらに、経口的に利用可能な組成物は、粉末もしくは顆粒、水性液体もしくは非水液体中の溶液または懸濁液、または水中油もしくは油中水の液状乳液の形態としてもよい。
【0050】
固体担体を経口投与のために使用する場合、調製物を錠剤化することができ、調製物を粉末もしくはペレットの形状で硬ゼラチンカプセルに入れることができる、または調製物をトローチ剤もしくはロゼンジの形態にすることができる。固体担体の量は大幅に変動するが、単位投与量当たり約25mgから約1gの範囲となる。液体担体が使用される場合、調製物は、シロップ剤、乳液、軟ゼラチンカプセル、または水性もしくは非水性の液体懸濁液または溶液などの無菌注射液の形態であり得る。
【0051】
本発明の医薬組成物は、当技術分野における従来の方法により調製することができる。例えば、錠剤は、活性成分を通常の補助剤および/または希釈剤と混合することで調製することができ、続いて従来の錠剤機において混合物を圧縮して錠剤を調製する。補助剤または希釈剤の例には、コーンスターチ、じゃがいもデンプン、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ゼラチン、乳糖、ガムおよびこれらに類するものが含まれる。このような目的に通常使用される、着色剤、香料、保存剤などの任意の他の補助剤または希釈剤は、これらが活性成分と適合するならば使用してもよい。
【0052】
障害の治療
前段で言及したように、本発明の化合物は、PDE10A酵素阻害剤であり、そのようなものとして関連する神経障害および精神障害を治療するのに有用な化合物である。
【0053】
したがって、本発明により、患者において神経変性障害、精神障害または薬物嗜癖の治療に使用するための、式Iの化合物である本発明の化合物、ならびにこのような化合物を含有する医薬組成物が提供され、神経変性障害は、アルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、アルコール性認知症もしくは他の薬物関連の認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に伴う認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に伴う認知症またはAIDS関連の認知症;せん妄;健忘障害;心的外傷後ストレス障害;精神遅滞;例えば、読書障害、算数障害である学習障害または書字表出障害;注意欠陥多動障害;および加齢関連認知低下から成る群から選択され、精神障害は、例えば、妄想型、解体型、緊張型、識別不能型または残遺型の統合失調症;統合失調症様障害;例えば、妄想型またはうつ病型の統合失調性感情障害;妄想性障害;例えば、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入薬、オピオイドまたはフェンシクリジンによって誘発される精神障害である物質誘発精神障害;妄想型の人格障害;および統合失調型の人格障害から成る群から選択され、薬物嗜癖は、アルコール、アンフェタミン、コカインまたはアヘン嗜癖である。
【0054】
本発明の化合物は、本発明の化合物に有用性がある障害または状態の治療において、1つまたは複数の他の薬物と組み合わせて使用することができ、薬物を一緒にして組み合わせることは、どちらかの薬物単独より安全であるまたはより有効である。加えて、本発明の化合物は、本発明の化合物の副作用のリスクもしくは毒性を治療、予防、制御、改善するまたは減少させる1つまたは複数の他の薬物と組み合わせて使用してもよい。このような他の薬物は、そのために一般に使用される経路および量において、本発明の化合物と同時にまたは順次に投与することができる。したがって、本発明の医薬組成物には、本発明の化合物に追加して1つまたは複数の他の活性成分を含有するものも含まれる。組み合わせたものは、単位剤形の組合せ製品の一部として投与してもよく、または1つまたは複数の追加の薬物が治療計画の一部として別個の投薬形態で投与されるキットとしてまたは治療プロトコールとして投与してもよい。
【0055】
本発明により、認知障害または運動障害から選択される神経変性障害に罹患している患者を治療する方法が提供され、この方法には本発明の化合物を患者に投与することが含まれる。
【0056】
本発明により、また、精神障害に罹患している患者を治療する方法も提供され、この方法には本発明の化合物を患者に投与することが含まれる。本発明に従って治療できる精神障害の例としては、これらだけに限定されないが、例えば、妄想型、解体型、緊張型、識別不能型または残遺型の統合失調症;統合失調症様障害;例えば、妄想型またはうつ病型の統合失調性感情障害;妄想性障害;例えば、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入薬、オピオイドまたはフェンシクリジンによって誘発される精神障害である物質誘発精神障害;妄想型の人格障害;および統合失調型の人格障害が挙げられ、不安障害は、パニック障害;広場恐怖症;特定恐怖症;社会恐怖症;強迫性障害;心的外傷後ストレス障害;急性ストレス障害;および全般性不安障害から選択される。
【0057】
本発明の化合物は、統合失調症などの精神障害の改善した治療を実現するために、少なくとも1つの(定型または非定型抗精神病薬であり得る)神経遮断薬と組み合わせて投与してもよい。本発明の治療の組合せ、使用および方法は、十分に反応しない患者の治療または他の既知の治療に耐性のある患者の治療において、利点もまた提供し得る。
【0058】
したがって、本発明により、統合失調症などの精神障害に罹患している患者を治療する方法が提供され、この方法には、単独で、または少なくとも1つの神経遮断薬と合わせる組合せ治療としてのいずれかで、本発明の化合物を患者に投与することが含まれる。
【0059】
本明細書で用いられる用語「神経遮断薬(neuroleptic agent)」は、精神病患者における錯乱状態、妄想、幻覚および精神運動性激越を低減する抗精神病薬の認識作用および挙動に影響を与える薬物を表す。強精神安定薬および抗精神病薬としてもまた知られている神経遮断薬には、これらだけに限定されないが、フェノチアジン(これはさらに脂肪族化合物、ピペリジンおよびピペラジンに分類される)、チオキサンテン(例えば、シソルジノール(cisordinol))、ブチロフェノン(例えば、ハロペリドール)、ジベンゾキサゼピン(例えば、ロキサピン)、ジヒドロインドロン(例えば、モリンドン)、ジフェニルブチルピペリジン(例えば、ピモジド)を含む定型抗精神病薬、ならびにベンズイソオキサゾール(例えば、リスペリドン)、セルチンドール、オランザピン、クエチアピン、オサネタントおよびジプラシドンを含む非定型抗精神病薬が挙げられる。
【0060】
本発明で使用するための特に好ましい神経遮断薬は、セルチンドール、オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾール、ハロペリドール、クロザピン、ジプラシドンおよびオサネタントである。
【0061】
本発明により、さらに、認知障害に罹患している患者を治療する方法が提供され、この方法には、本発明の化合物を患者に投与することが含まれる。本発明に従って治療できる認知障害の例としては、これらだけに限定されないが、アルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、アルコール性認知症もしくは他の薬物関連の認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に伴う認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に伴う認知症またはAIDS関連の認知症;せん妄;健忘障害;心的外傷後ストレス障害;精神遅滞;例えば、読書障害、算数障害である学習障害または書字表出障害;注意欠陥多動障害;ならびに加齢関連認知低下が挙げられる。
【0062】
本発明により、また、患者の運動障害を治療する方法が提供され、この方法には、本発明の化合物を患者に投与することが含まれる。本発明に従って治療できる運動障害の例としては、これらだけに限定されないが、ハンチントン病およびドーパミン作動薬治療に伴うジスキネジアが挙げられる。本発明により、さらに、パーキンソン病および下肢静止不能症候群から選択される運動障害を治療する方法が提供され、この方法には、本発明の化合物を患者に投与することが含まれる。
【0063】
本発明により、また、気分障害を治療する方法が提供され、この方法には、本発明の化合物を患者に投与することが含まれる。本発明に従って治療できる気分障害および気分エピソードの例としては、これらだけに限定されないが、軽度、中等度または重度の型の大うつ病エピソード、躁病の気分エピソードまたは混合性の気分エピソード、軽躁病性の気分エピソード;定型の特徴を有するうつ病エピソード;憂うつの特徴を有するうつ病エピソード;緊張を特徴とするうつ病エピソード;出産後に発症する気分エピソード;脳卒中後のうつ病;大うつ病性障害;気分変調性障害;小うつ病性障害;月経前不快気分障害;統合失調症の精神病後うつ病性障害;妄想性障害または統合失調症などの精神障害に併発する大うつ病性障害;例えば、双極性I型障害、双極性II型障害および気分循環性障害である双極性障害が挙げられる。気分障害は、精神障害であると理解される。
【0064】
本発明により、さらに、患者において、アルコール、アンフェタミン、コカインまたはアヘン嗜癖などの薬物嗜癖を治療する方法が提供され、この方法には、薬物嗜癖を治療する際に有効な本発明の化合物の量を、前記患者に投与することが含まれる。
【0065】
本明細書で用いられる用語「薬物嗜癖」とは、薬物に対する異常な欲求を意味し、一般に、所望の薬物を摂取する強迫行為および薬物への強い渇望のエピソードなどの動機付け障害を特徴とする。
【0066】
薬物嗜癖は、病的状態であると広く認められている。嗜癖障害には、急性薬物使用の進行から薬物探索行動への発展、再発に対する脆弱性、および自然の報酬刺激に反応する能力の低下、遅延が関与する。例えば、The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、第4版(DSM-IV)は、関心/期待、乱用/中毒および禁断/否定的な情動の3段階の嗜癖を類別した。これらの段階は、持続する渇望および物質を獲得することへの拘泥;中毒作用を体験するよりいっそう多くの当該物質を使用すること;ならびに耐性症状、禁断症状の体験および通常の生命活動に対する意欲の低下によって、それぞれどこにも特徴付けられる。
【0067】
本発明により、さらに、患者における症状としての注意および/または認識の欠損を含む障害を治療する方法が提供され、この方法には、前記障害を治療する際に有効な本発明の化合物の量を前記患者に投与することが含まれる。
【0068】
本発明に従って治療できる他の障害は、強迫性障害、トゥレット症候群および他のチック障害である。
【0069】
本明細書で用いられる「神経変性障害または神経変性状態」とは、別段の指示がない限り、中枢神経系におけるニューロンの機能障害および/または死滅によって引き起こされる障害または状態を表す。これらの障害および状態の治療は、これらの障害もしくは状態において危険な状態にあるニューロンの機能障害または死滅を予防する薬剤の投与、および/または危険な状態にあるニューロンの機能障害もしくは死滅によって引き起こされる機能喪失を補償するような方法で、障害を受けたニューロンまたは健常なニューロンの機能を増強する薬剤の投与によって促進できる。本明細書で用いられる用語「神経栄養剤」とは、これらの特性のいくつかもしくは全てを有する物質または薬剤を表す。
【0070】
本発明に従って治療できる神経変性障害および神経変性状態の例としては、これらだけに限定されないが、パーキンソン病;ハンチントン病;例えば、アルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、AIDS関連の認知症および前頭側頭型認知症などの認知症;脳外傷に伴う神経変性;脳卒中に伴う神経変性、脳梗塞に伴う神経変性;低血糖誘発性の神経変性;てんかん発作に伴う神経変性;神経毒中毒に伴う神経変性;ならびに多系統萎縮症が挙げられる。
【0071】
本発明の1つの実施形態では、神経変性障害または神経変性状態には、患者における線条体中型有棘ニューロンの神経変性が含まれる。
【0072】
本発明のさらなる実施形態では、神経変性障害または神経変性状態は、ハンチントン病である。
【0073】
別の実施形態では、本発明により、体脂肪もしくは体重を減少させるため、またはインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)、メタボリックシンドロームもしくは耐糖能異常を治療するために患者を治療する方法が提供され、この方法には、治療を必要とする患者に本発明の化合物を投与することが含まれる。いくつかの実施形態では、当該患者は、過体重または肥満であり、本発明の化合物は経口で投与される。別の好ましい実施形態では、当該方法には、第2の治療剤、好ましくは抗肥満薬(例えば、リモナバン、オルリスタット、シブトラミン、ブロモクリプチン、エフェドリン、レプチン、プソイドエフェドリンもしくはペプチドYY3−36またはこれらの類似化合物)を患者にさらに投与することが含まれる。
【0074】
本明細書で用いられる用語「メタボリックシンドローム」は、人々を冠動脈障害の高リスクにさらす一群の状態を表す。これらの状態としては、2型糖尿病、肥満症、高血圧、ならびに上昇したLDL(「悪玉」)コレステロール、低いHDL(「善玉」)コレステロールおよび上昇した中性脂肪を有する不良な脂質プロフィールが挙げられる。これらの状態の全ては、高い血中インスリンレベルを伴う。メタボリックシンドロームにおける根本的異常は、脂肪組織および筋肉の両方におけるインスリン耐性である。
【0075】
本明細書で引用した刊行物、特許出願および特許を含む全ての参考資料は、あたかも各参照が個別におよび具体的に参照により組み込まれると示され、(法律により許可される最大限まで)その全体で記述されるように、これらの全体で同じ程度に参照により本明細書に取り込まれる。
【0076】
見出しおよび小見出しは、便宜上のみのために本明細書で用いられ、決して本発明を制限するものとして解釈するべきではない。
【0077】
本明細書における任意および全ての実施例、または(「例として」、「例えば」、「例を挙げると」および「そのようなものとして」を含む)例示的な言葉の使用は、ただ本発明をより明らかにするためだけを意図し、別段の指示がない限り本発明の範囲に制限を与えるものではない。
【0078】
本明細書における特許文献の引用および組み込みは、便宜上のみのために行われ、そのような特許文献の妥当性、特許性および/または権利行使可能性の任意の見解を反映するものではない。
【0079】
本発明は、適用法令で許可されるとおりに、本明細書に添付された特許請求の範囲において詳細に記述された特許事項の全ての改変および同等のものを含む。
【実施例】
【0080】
実験セクション
(本発明の化合物の調製)
本発明の化合物は、次の反応スキーム1
【0081】
【化2】
に記載したように調製することができる。
【0082】
具体的には、本発明の化合物は、パラジウム金属などの遷移金属触媒を使用し、水素ガス、炭酸水素アンモニウムまたはシクロヘキサジエンなどの水素源と一緒にして水素化することにより、式Vのアルケンを還元することで調製できる。前記式Vのアルケンは、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデス−7−エンなどの適当な塩基の存在下における、テトラヒドロフランなどの適当な溶媒中の式IIIのホスホニウム塩と式IVのアルデヒドの間のウィッティヒ反応により調製できる。式IIIのホスホニウム塩は、当技術分野の化学者に既知の方法によって、式IIの化合物のトリフェニルホスフィンとの反応により簡単に入手できる。式IVのアルデヒドは、例を挙げると、Journal of Medicinal Chemistry (2009)、52(21)、6535-6538またはWO−2004024705およびUS−4826833に記載されたように、簡単に入手でき当技術分野で既知である。
【0083】
求電子試薬II(スキーム2)は、例を挙げると、Journal of the Chemical Society、Perkin Transactions.1:Organic and Bio-Organic Chemistry 1996、(19)、2345-2350およびJournal of Heterocyclic Chemistry (1981)、18(3)、555-8に記載されているように、当技術分野で既知の式VIのジメチルクロロピラジンから調製できる。化合物VIは、例を挙げると、Science of Synthesis (2004)、16 751-844およびSynthesis 1994、(9)、931-4の論文に記載されているように、式VIIのアミノピラジンに変換できる。式VIIIのピラジンなどの6員環の複素環の、例を挙げるとO−メシチレンスルホニルヒドロキシルアミンのような求電子的なアミノ化試薬を使用するアミノ化は、例として挙げると、Organic Process Research & Development 2009、13、263-267に記載されているように当技術分野でよく知られている。式VIIIの化合物のクロロ酢酸メチルとの反応は、求電子試薬IIを与える。
【0084】
【化3】
【0085】
本明細書で開示した発明は、次に非制限的実施例によりさらに説明される。
【0086】
(一般的方法)
LC−MSの分析データは、次の方法の1つを用いて得られた。
【0087】
方法A
大気圧光イオン化方式を備えたPE Sciex API 150EX機器およびShimadzu LC−8A/SLC−10A LC装置を用いた。カラム:粒子径3.5μmの4.6×30mmのWatersのSymmetry C18カラム;カラム温度:60℃;溶媒系:A=水/トリフルオロ酢酸(100:0.05)およびB=水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸(5:95:0.035);方法:流速3.3mL/分で、A:B=90:10から0:100の2.4分の直線勾配溶離。
【0088】
LC−MSでの予備精製を、大気圧化学イオン化方式を用いてPE Sciex API 150EX機器で実施した。カラム:粒子径5μmの50×20mmのYMC ODS−A;方法:流速22.7mL/分でA:B=80:20から0:100の7分の直線勾配溶離。分別捕集は、MSでのスプリットフロー検出により実施した。
【0089】
1H NMRスペクトラムを、Bruker Avance AV500機器で500.13MHzにおいて、またはBruker Avance DPX250機器で250.13MHzにおいて記録した。TMSを内部参照標準として使用した。化学シフト値は、ppmで表した。以下の略語は、NMRシグナルの多重度に関して用いる。s=一重線、d=二重線、t=三重線、q=四重線、qui=五重線、h=六重線、dd=二組の二重線、dt=二組の三重線、dq=二組の四重線、tt=三組の三重線、m=多重線、br s=ブロードな一重線およびbr=ブロードなシグナル。
【0090】
略語は、ACS Style Guide:「The ACS Styleguide−A manual for authors and editors」Janet S. Dodd、Ed. 1997、ISBN: 0841234620に従っている。
【0091】
(中間体の調製)
2−クロロメチル−5,7−ジメチル−[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリミジン
【0092】
【化4】
【0093】
4,6−ジメチル−ピリミジン−2−イルアミン(25g、200mmol)のCH
2Cl
2400ml中溶液に、ヒドロキシルアミン−2,4,6−トリメチル−ベンゼンスルホネート(105g、488mmol)のCH
2Cl
2300ml中溶液を0℃で滴下で添加し、混合物を0℃で1時間撹拌し、ろ過した。採取した固形物をCH
2Cl
2(100mL)で洗浄すると、1−アミノ−4,6−ジメチル−1H−ピリミジン−2−イリデン−アンモニウム2,4,6−トリメチル−ベンゼンスルホネートが得られた(40g、収率:62%)。
【0094】
1−アミノ−4,6−ジメチル−1H−ピリミジン−2−イリデン−アンモニウム2,4,6−トリメチル−ベンゼンスルホネート(40g、0.1mol)とNaOH(10g、0.2mol)のEtOH500ml中混合物を50〜60℃で1時間撹拌した。クロロ酢酸メチルエステル(16.6g、0.15mol)を添加した後、得られた混合物を還流で4時間撹拌した。減圧下で濃縮した後、残留物を水(1000mL)で希釈し、CH
2Cl
2(300mL×3)で抽出した。合わせた有機相をブライン(200mL)で洗浄し、Na
2SO
4で脱水し、ろ過し、真空下で濃縮した。残留物を、カラムクロマトグラフィーによりシリカゲル上で精製(石油エーテル/EtOAc=2/1)すると、9%の収率で2gの2−クロロメチル−5,7−ジメチル−[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリミジンが得られた。
1H NMR (300 MHz, DMSO-d
6): δ8.55 (s, 1H), 6.25 (s, 2H), 4.05 (s, 3H), 3.95 (s, 3H); LC-MS (MH
+): m/z = 196.9, t
R (分, 方法A) =0.52
【0095】
次の中間体を、同じように調製した:
2−アミノ−3,6−ジメチルピラジンから2−クロロメチル−5,8−ジメチル−[1,2,4]−トリアゾロ[1,5−a]ピラジン、収率60%、
1H NMR (500 MHz, CDCl
3): δ7.91 (s,1H), 4.87 (s, 2H), 2.91 (s, 3H), 2.74 (s, 3H), LC-MS: m/z = 196.9 (MH
+), t
R = 0.64分, 方法A
【0096】
トランス−5,8−ジメチル−2−[(E)−2−(1−メチル−4−フェニル−1H−イミダゾール−2−イル)−ビニル]−[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピラジン
【0097】
【化5】
【0098】
2−クロロメチル−5,8−ジメチル−[1,2,4]−トリアゾロ[1,5−a]ピラジン(1.351g、6.87mmol)およびトリフェニルホスフィン(1.80g、6.87mmol)のアセトニトリル150ml中溶液を還流で12時間加熱した。溶媒を真空中で除去し、残留物をエーテル中でスラリーにし、ろ過し、乾燥すると(5,8−ジメチル−[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピラジン−2−イルメチル)−トリフェニル−ホスホニウム塩化物がオフホワイトの固形物として生成した(2.412g、74.9%)。LC−MS:m/z=423.2([M−Cl]+)、tR=0.86分、方法A。
【0099】
1−メチル−4−フェニル−1H−イミダゾール−2−カルバルデヒド(220mg、1.18mmol)の乾燥THF中溶液を、アルゴン下で(5,8−ジメチル−[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピラジン−2−イルメチル)−トリフェニル−ホスホニウム塩化物(500mg、1.18mmol)に添加し、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデス−7−エン(176μl、1.18mmol)を添加した。反応混合物を室温で2時間撹拌し、その後、シリカゲル(2g)上で蒸発させた。シリカゲルクロマトグラフィー(勾配溶離;A:B 50:50→100:0、ここで、Aはエチルアセテート、Bはヘプタンである)により表題化合物がオフホワイトの固形物として得られた(334mg、79%)。LC−MS:m/z=331.4(MH
+)、t
R=0.65分、方法A。
(本発明の化合物の調製)
【実施例1】
【0100】
5,8−ジメチル−2−[2−(1−メチル−4−フェニル−1H−イミダゾール−2−イル)−エチル]−[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピラジン
【0101】
【化6】
【0102】
トランス−5,8−ジメチル−2−[(E)−2−(1−メチル−4−フェニル−1H−イミダゾール−2−イル)−ビニル]−イミダゾ[1,2−a]ピラジン(330mg、1.0mmol)のメタノール(50mL)中溶液を、内部温度25℃および水素圧力1バールで、10%Pd/C(THS01111)の小型カートリッジを介して、流速1mL/分でH−Cube(登録商標)連続フロー水素化反応器(ThalesNano)に通過させた。揮発分の蒸発により、表題化合物が得られた(178mg、51%)。LC−MS:m/z=333.2(MH
+)、t
R=0.57分、方法A。
【0103】
(薬理学的試験)
PDE10A酵素
PDEアッセイで用いるために、活性なPDE10A酵素をいくつかの方法で調製する(Loughney, K.ら、Gene 1999、234、109-117;Fujishige, K.らEur J Biochem. 1999、266、1118-1127およびSoderling, S.らProc. Natl. Acad. Sci. 1999、96、7071-7076)。PDE10Aは、触媒ドメインを発現する限り、完全長のタンパク質としてまたは短縮タンパク質として発現させることができる。PDE10Aは、例えば、昆虫細胞または大腸菌(Escherichia coli)などの異なる細胞の種類において調製できる。触媒活性のPDE10Aを得るための方法の例は、次のとおりである:ヒトPDE10Aの触媒ドメイン(受託番号NP006652を持つ配列由来のアミノ酸440−779)を、標準RT−PCRで全ヒト脳の全RNAから増幅し、pET28aベクター(Novagen)のBamH1およびXho1サイトにクローニングする。大腸菌(Escherichia coli)における発現は、標準プロトコールに従って行う。つまり、発現プラスミドをBL21(DE3)大腸菌(Escherichia coli)株に導入し、50mLの培養液に細胞を接種し、0.4〜0.6のOD600まで成長させ、その後、0.5mMのIPTGでタンパク質の発現を誘発する。誘発した後に、細胞を室温で一晩インキュベートし、その後、遠心分離で細胞を採取する。PDE10Aを発現している細胞を、(50mMのトリス−HCl−pH8.0、1mMのMgCl
2およびプロテアーゼ阻害剤)の12mL中に再懸濁する。Novagenのプロトコ−ルに従って、細胞を超音波処理で溶解し、全ての細胞が溶解した後でトリトンX100を添加する。PDE10AをQセファロース上で一部精製し、大部分の活性フラクションをプールした。
【0104】
PDE10A阻害アッセイ
PDE10Aアッセイは、例えば、次のように行うことができる:アッセイは、(環状ヌクレオチド基質の20−25%を変換するのに十分な)相当するPDE酵素の一定量、バッファー(50mMのヘペス7.6;10mMのMgCl
2;0.02%のツウィーン20)、0.1mg/mlのBSAを含有し、225pCiの
3H標識環状ヌクレオチド基質であるトリチウム標識cAMPを最終濃度5nMまで含有し、阻害剤の量が異なる60μLのサンプル中で行う。反応を環状ヌクレオチド基質の添加により開始させ、反応を室温で1時間進行させた後に、15μLの8mg/mLケイ酸イットリウムSPAビーズ(Amersham)との混合を介して終了させる。ビーズを暗所に1時間静置させた後に、プレートを、Wallac 1450 Microbetaカウンターで数える。測定したシグナルは、阻害されなかったコントロール(100%)を基準とした活性に変換することができ、IC
50値は、EXCELに拡張機能を付加するXlfitを用いて計算することができる。
【0105】
本発明に関連して、10nMの
3H−cAMPの20−25%を変換するのに十分なPDE10Aおよび阻害剤の異なる量を含有するアッセイバッファー(pH7.6の50mMのヘペス;10mMのMgCl
2;0.02%のツイーン20)60μL中で、アッセイを行った。1時間のインキュベーションの後に、15μLの8mg/mLケイ酸イットリウムSPAビーズ(Amersham)を加えることにより反応を終了させた。ビーズを暗所に1時間静置させた後に、プレートを、Wallac 1450 Microbetaカウンターで数えた。IC
50値は、XLfit(IDBS)を用いて、非線形回帰により計算した。
【0106】
実験の結果により、試験を行った本発明の化合物は、約2.2nMのIC
50値でPDE10A酵素を阻害することが分かった。
【0107】
フェンシクリジン(PCP)で誘発した多動
体重20〜25gの雄マウス(NMRI、Charles River)を使用した。試験化合物の溶媒にPCPを加えて投与した並行対照群または溶媒注射のみの並行対照群を含め、各群で8匹のマウスを使用し、試験化合物(5mg/kg)にPCP(2.3mg/kg)を加えて投与した。注射量は、10ml/kgとした。実験は、静かな室内で通常の光条件で行った。試験物質を、ossで注射し、60分後にPCPの注射(この物質は皮下投与する)を行った。
【0108】
PCPの注射後直ちに、マウスを特別に設計したテストケージ(20cm×32cm)へ個別に収容した。活動度を、4cmごとに間隔をおいて設置した5×8の赤外光源および光電管によって測定した。光線は、ケージの底面から1.8cm上部に横切る。運動性をカウントした記録には、隣接する光線の遮断が必要であり、これによりマウスの静止動作によって生じるカウントが回避される。
【0109】
運動性を、1時間の間5分間隔で記録した。薬物効果は、次の方法において、1時間の行動試験期間の中での全カウント数で計算した:
PCPを含まない溶媒処理によって誘発された平均運動性をベースラインとして用いた。PCPの100パーセント効果は、したがって、運動性の総カウント数からベースラインを引いて計算した。試験化合物を投与した群における反応は、運動性の総カウント数からベースラインを引くことでこのように決定し、PCPの並行対照群で記録した同様な結果のパーセントで表した。反応のパーセントは、PCPで誘発された多動を逆転するパーセントに変換した。
【0110】
実験の結果により、本発明の化合物は、PCPで誘導された多動を99%まで逆転する生体内活性の化合物であることが分かった。
また、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
(1)化合物5,8−ジメチル−2−[2−(1−メチル−4−フェニル−1H−イミダゾール−2−イル)−エチル]−[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピラジン
【化7】
および薬学的に許容し得るその酸付加塩。
(2)医薬品として使用するための(1)に記載の化合物。
(3)単独で、またはセルチンドール、オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾール、ハロペリドール、クロザピン、ジプラシドンおよびオサネタントから成る群から選択される1つまたは複数の神経遮断薬と組み合わせて神経変性障害または精神障害の治療で使用する請求項1のいずれかに記載の化合物であって、神経変性障害が、アルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、アルコール性認知症もしくは他の薬物関連の認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に伴う認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に伴う認知症またはAIDSに伴う認知症;せん妄;健忘障害;心的外傷後ストレス障害;精神遅滞;例えば、読書障害、算数障害である学習障害または書字表出障害;注意欠陥多動障害;および加齢関連認知低下から成る群から選択され、精神障害が、例えば妄想型、解体型、緊張型、識別不能型または残遺型の統合失調症;統合失調症様障害;例えば、妄想型またはうつ病型の統合失調性感情障害;妄想性障害;例えば、双極性I型障害、双極性II型障害および気分循環性障害である双極性障害;例えば、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入薬、オピオイドまたはフェンシクリジンによって誘発される精神障害である物質誘発精神障害;妄想型の人格障害;ならびに統合失調型の人格障害から成る群から選択される、神経変性障害または精神障害の治療に使用する化合物。
(4)神経変性障害または精神障害治療用の医薬品の調製のための(1)に記載の化合物の使用であって、神経変性障害が、アルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、アルコール性認知症もしくは他の薬物関連の認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に伴う認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に伴う認知症またはAIDS関連の認知症;せん妄;健忘障害;心的外傷後ストレス障害;精神遅滞;例えば、読書障害、算数障害である学習障害または書字表出障害;注意欠陥多動障害;および加齢関連認知低下から成る群から選択され、精神障害が、例えば妄想型、解体型、緊張型、識別不能型または残遺型の統合失調症;統合失調症様障害;例えば、妄想型またはうつ病型の統合失調性感情障害;妄想性障害;例えば、双極性I型障害、双極性II型障害および気分循環性障害である双極性障害;例えば、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入薬、オピオイドまたはフェンシクリジンによって誘発される精神障害である物質誘発精神障害;妄想型の人格障害;ならびに統合失調型の人格障害から成る群から選択される、使用。
(5)神経変性障害または精神障害に罹患している患者を治療する方法であって、神経変性障害が、アルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、アルコール性認知症もしくは他の薬物関連の認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に伴う認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に伴う認知症またはAIDS関連の認知症;せん妄;健忘障害;心的外傷後ストレス障害;精神遅滞;例えば、読書障害、算数障害である学習障害または書字表出障害;注意欠陥多動障害;および加齢関連認知低下から成る群から選択され、精神障害が、例えば妄想型、解体型、緊張型、識別不能型または残遺型の統合失調症;統合失調症様障害;例えば、妄想型またはうつ病型の統合失調性感情障害;妄想性障害;例えば、双極性I型障害、双極性II型障害および気分循環性障害である双極性障害;例えば、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入薬、オピオイドまたはフェンシクリジンによって誘発される精神障害である物質誘発精神障害;妄想型の人格障害;ならびに統合失調型の人格障害から成る群から選択され、単独で、またはセルチンドール、オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾール、ハロペリドール、クロザピン、ジプラシドンおよびオサネタントから選択される1つまたは複数の神経遮断薬と組み合わせて(1)に記載の化合物の有効量を患者に投与することを含む方法。
(6) (1)に記載の化合物、ならびに1つまたは複数の薬学的に許容し得る担体、希釈剤および添加剤を含む医薬組成物。
(7) (1)に記載の化合物、ならびにセルチンドール、オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾール、ハロペリドール、クロザピン、ジプラシドンおよびオサネタントから成る群から選択される追加的な化合物の、神経変性障害または精神障害治療用の医薬品の調製のための使用であって、神経変性障害が、アルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、アルコール性認知症もしくは他の薬物関連の認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に伴う認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に伴う認知症またはAIDS関連の認知症;せん妄;健忘障害;心的外傷後ストレス障害;精神遅滞;例えば、読書障害、算数障害である学習障害または書字表出障害;注意欠陥多動障害;および加齢関連認知低下から成る群から選択され、精神障害が、例えば妄想型、解体型、緊張型、識別不能型または残遺型の統合失調症;統合失調症様障害;例えば、妄想型またはうつ病型の統合失調性感情障害;妄想性障害;例えば、双極性I型障害、双極性II型障害および気分循環性障害である双極性障害;例えば、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入薬、オピオイドまたはフェンシクリジンによって誘発される精神障害である物質誘発精神障害;妄想型の人格障害;ならびに統合失調型の人格障害から成る群から選択される、使用。
(8)神経変性障害または精神障害の治療において、同時、個別または連続的に使用するための組合せ製剤としての、請求項1または2に記載の化合物、ならびにセルチンドール、オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾール、ハロペリドール、クロザピン、ジプラシドンおよびオサネタントから成る群から選択される追加的な化合物であって、神経変性障害が、アルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、アルコール性認知症もしくは他の薬物関連の認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に伴う認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に伴う認知症またはAIDS関連の認知症;せん妄;健忘障害;心的外傷後ストレス障害;精神遅滞;例えば、読書障害、算数障害である学習障害または書字表出障害;注意欠陥多動障害;および加齢関連認知低下から成る群から選択され、精神障害が、例えば妄想型、解体型、緊張型、識別不能型または残遺型の統合失調症;統合失調症様障害;例えば、妄想型またはうつ病型の統合失調性感情障害;妄想性障害;例えば、双極性I型障害、双極性II型障害および気分循環性障害である双極性障害;例えば、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入薬、オピオイドまたはフェンシクリジンによって誘発される精神障害である物質誘発精神障害;妄想型の人格障害;ならびに統合失調型の人格障害から成る群から選択される、(1)または(2)に記載の化合物および追加的な化合物。
(9)神経変性障害または精神障害の治療のための請求項1に記載の化合物であって、神経変性障害が、アルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、アルコール性認知症もしくは他の薬物関連の認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に伴う認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に伴う認知症またはAIDS関連の認知症;せん妄;健忘障害;心的外傷後ストレス障害;精神遅滞;例えば、読書障害、算数障害である学習障害または書字表出障害;注意欠陥多動障害;および加齢関連認知低下から成る群から選択され、精神障害が、例えば妄想型、解体型、緊張型、識別不能型または残遺型の統合失調症;統合失調症様障害;例えば、妄想型またはうつ病型の統合失調性感情障害;妄想性障害;例えば、双極性I型障害、双極性II型障害および気分循環性障害である双極性障害;例えば、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入薬、オピオイドまたはフェンシクリジンによって誘発される精神障害である物質誘発精神障害;妄想型の人格障害;ならびに統合失調型の人格障害から成る群から選択される、(1)に記載の化合物。