特許第5768102号(P5768102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5768102
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】マルチディスク変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 15/14 20060101AFI20150806BHJP
【FI】
   F16H15/14
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-197209(P2013-197209)
(22)【出願日】2013年9月24日
(65)【公開番号】特開2015-64031(P2015-64031A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2014年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100167520
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 良太
(72)【発明者】
【氏名】辻 洋一
(72)【発明者】
【氏名】小林 克也
(72)【発明者】
【氏名】樽井 一志
(72)【発明者】
【氏名】八木 秀和
(72)【発明者】
【氏名】中野 裕介
【審査官】 稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−53995(JP,A)
【文献】 特開2010−60005(JP,A)
【文献】 特開平1−93658(JP,A)
【文献】 実公昭37−429(JP,Y1)
【文献】 英国特許出願公開第392917(GB,A)
【文献】 米国特許第3871239(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源に接続される入力軸と、
前記入力軸に平行配置される出力軸と、
前記入力軸に固定され、外周端を前記出力軸に近接配置した円板状の入力ディスクと、
前記出力軸に固定され、外周端を前記入力軸に近接配置した円板状の出力ディスクと、
前記入力ディスクと前記出力ディスクとが互いに重なり合うディスク重合領域において、目標変速比に応じた位置にて両ディスクを挟持押圧し、両ディスクの弾性変形によりトルク伝達接触部を形成する一対の押圧手段と、
前記一対の押圧手段が前記入力軸と前記出力軸との間で移動可能となるように回動シャフトを支点として前記一対の押圧手段を挟んで支持し、両ディスクを挟持押圧する押付力を発生させる挟持手段と、
前記入力軸、前記出力軸、及び前記挟持手段を支持する支持手段を備えたマルチディスク変速機であって、
前記支持手段は、前記入力軸または前記出力軸と、前記挟持手段とのうち少なくとも一方を前記入力軸または前記出力軸の軸方向に移動可能となるように支持することを特徴とするマルチディスク変速機。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチディスク変速機であって、
前記入力ディスクまたは前記出力ディスクは、
センターディスクと、
前記センターディスクよりも薄く、前記センターディスクの両側に設けられたサイドディスクとを備え、
前記支持手段は、前記センターディスクが固定された、前記入力軸または前記出力軸を前記軸方向に移動しないように支持し、前記センターディスクを備えていないもう一方の軸を前記軸方向に移動可能となるように支持することを特徴とするマルチディスク変速機。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマルチディスク変速機であって、
前記入力軸または前記出力軸には、はずば歯車が係合し、
前記支持手段は、前記はずば歯車が取り付けられた前記入力軸または前記出力軸を前記軸方向に移動しないように支持し、前記はずば歯車が係合しないもう一方の軸を前記軸方向に移動可能となるように支持することを特徴とするマルチディスク変速機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載のマルチディスク変速機であって、
前記支持手段は、前記挟持手段を前記軸方向にのみ移動可能とすることを特徴とするマルチディスク変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマルチディスク変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、入力ディスクの一部と出力ディスクの一部とが互いに重なり合うディスク重合領域を設け、ディスク重合領域で入力ディスクと出力ディスクとを一対の押付ローラで挟んで接触させ、入力ディスクから出力ディスクへトルクを伝達する変速機が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−53995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の変速機では、一対の押付ローラによって入力ディスク、及び出力ディスクを均等に押し付けるように設計されている。
【0005】
しかし、実際には部品の公差によるずれの影響により、一対の押付ローラによって入力ディスク、及び出力ディスクを均等に押し付けることができず、入力ディスクから出力ディスクへトルク伝達を行うトルク伝達接触部が均等に形成されないおそれがある。トルク伝達接触部が均等に形成されない場合には、入力ディスクから出力ディスクへ伝達されるトルクが低下するおそれがあり、押付ローラ、入力ディスク、または出力ディスクの発熱量が大きくなって、これらが劣化するおそれがある。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、一対の押付ローラによって入力ディスク、及び出力ディスクを均等に押し付け、入力ディスクから出力ディスクへ伝達されるトルクの低下を抑制し、押付ローラ、入力ディスク、出力ディスクの発熱量を抑制して、これらが劣化することを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様に係るマルチディスク変速機は、動力源に接続される入力軸と、入力軸に平行配置される出力軸と、入力軸に固定され、外周端を出力軸に近接配置した円板状の入力ディスクと、出力軸に固定され、外周端を入力軸に近接配置した円板状の出力ディスクと、入力ディスクと出力ディスクとが互いに重なり合うディスク重合領域において、目標変速比に応じた位置にて両ディスクを挟持押圧し、両ディスクの弾性変形によりトルク伝達接触部を形成する一対の押圧手段と、一対の押圧手段が入力軸と出力軸との間で移動可能となるように回動シャフトを支点として一対の押圧手段を挟んで支持し、両ディスクを挟持押圧する押付力を発生させる挟持手段と、入力軸、出力軸、及び挟持手段を支持する支持手段を備えたマルチディスク変速機であって、支持手段は、入力軸または出力軸と、挟持手段とのうち少なくとも一方を入力軸または出力軸の軸方向に移動可能となるように支持する。
【発明の効果】
【0008】
この態様によると、入力軸、または出力軸と、挟持手段とのうち少なくとも一方を入力軸、または出力軸の軸方向に移動可能となるように支持手段によって支持することで、公差によるずれを修正して、各トルク伝達接触部を均等に形成し、マルチディスク変速機におけるトルク伝達の低下を抑制し、押付手段、入力ディスク、出力ディスクの劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の車両の全体概略図である。
図2】変速機をエンジン側から見た図である。
図3図2の下面図である。
図4図2のIV−IV断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係るマルチディスク変速機(以下、「変速機」という。)3の全体概略図である。
【0012】
変速機3は、動力源としてのエンジン2と図示しないディファレンシャルギアとの間に設けられ、エンジン2から入力された回転を変速し、出力ギア18からディファレンシャルギアに出力する変速機である。
【0013】
変速機3は、以下に説明するように、変速機ケース9と、乾式発進クラッチ15と、入力軸10と、出力軸14と、プライマリディスク11と、セカンダリディスク12と、押付機構13と、リバースギア列19とを備える。
【0014】
図2は変速機3をエンジン2側から見た図である。図3図2の下面図である。図4は、図2のIV−IV断面図である。なお、図2以降の図面については説明のため部材の一部を省略している。
【0015】
入力軸10と出力軸14とは平行に配置され、変速機ケース9によって回転可能に支持される。
【0016】
入力軸10は、図1に示すようにエンジン2側でボールベアリング16を介して変速機ケース9によって支持され、エンジン2とは反対側でニードルベアリング17を介して変速機ケース9によって支持されており、入力軸10(出力軸14)の軸方向に沿って移動可能となるように変速機ケース9に支持されている。
【0017】
出力軸14は、図1に示すようにエンジン2側、及びエンジン2とは反対側でテーパーベアリング18a、18bを介して変速機ケース9によって支持されており、入力軸10の軸方向に沿って移動しないように変速機ケース9によって支持されている。なお、出力軸14には、エンジン2側に出力ギア18が係合しており、出力ギア18ははすば歯車で構成されている。
【0018】
プライマリディスク11は、2枚の円形のディスク11aを入力軸10の軸方向に並べて入力軸10に固定して構成されており、入力軸10と一体となって回転する。2枚のディスク11aの間にはスペーサ22が設けられ、2枚のディスク11aは、スペーサ22によって入力軸10の軸方向に所定の間隔を設けて配置される。プライマリディスク11は、ディスク11aの外周端が出力軸14に近接するように配置される。プライマリディスク11は入力軸10とともに図2の矢印方向に回転する。
【0019】
セカンダリディスク12は、センターディスク12aと、センターディスク12aの両面側に向かい合わせて設けた2枚のサイドディスク12bとから構成されている。センターディスク12aは、サイドディスク12bよりも厚く、サイドディスク12bよりも剛性が高い。セカンダリディスク12は、センターディスク12aとサイドディスク12bとを出力軸14の軸方向に並べて出力軸14に固定して構成され、出力軸14と一体となって回転する。センターディスク12aとサイドディスク12bとの間にはスペーサ23が設けられ、センターディスク12aとサイドディスク12bとは、スペーサ23によって出力軸14の軸方向に所定の間隔を設けて配置される。セカンダリディスク12は、センターディスク12aの外周端、及びサイドディスク12bの外周端が入力軸10に近接するように配置される。
【0020】
プライマリディスク11のディスク11aは、セカンダリディスク12のセンターディスク12aとサイドディスク12bとの間に配置される。プライマリディスク11とセカンダリディスク12とは、入力軸10と出力軸14との間で、ディスク11、12の一部が重なり合うディスク重合領域を形成する。
【0021】
ディスク重合領域において、プライマリディスク11とセカンダリディスク12との間には、以下に詳述する押付機構13による押付力が作用しない状態、または押付力が小さい状態では、隙間が形成される。
【0022】
これに対し、押付機構13による押付力が作用し、押付力が大きい状態では、プライマリディスク11とセカンダリディスク12とが弾性変形して接触し、トルク伝達接触部が形成される。変速機3においては、プライマリディスク11とセカンダリディスク12との間にトルク伝達接触部が形成されることで、入力軸10から出力軸14へのトルクの伝達が実現される。
【0023】
押付機構13は、一対の押付ローラ機構30と、ディスククランプ機構31と、押付力調整機構32と、第1アクチュエータ33と、第2アクチュエータ90とを備える。
【0024】
第1アクチュエータ33は、押付ローラ機構30を軸心連結線Oに沿って移動させる。軸心連結線Oは、入力軸10の軸心と出力軸14の軸心とを結び、入力軸10と出力軸14とに直交する線である。
【0025】
第1アクチュエータ33は、第1電動モータ34と、ボールスクリュー機構35と、ブラケット37とを備える。
【0026】
ボールスクリュー機構35は、一方の端部が第1電動モータ34の回転軸に連結され、第1電動モータ34の回転軸の回転方向に応じて正方向または逆方向に回転する。ボールスクリュー機構35は軸心連結線O方向に延設される。
【0027】
ブラケット37は、ボールスクリュー機構35が回転すると、ボールスクリュー機構35の回転に応じてボールスクリュー機構35の軸方向、つまり軸心連結線O方向に沿って移動する。ブラケット37には、第1電動モータ34側となるにつれてボールスクリュー機構35からの距離が短くなるテーパ面37aがエンジン2側の面に形成される。ブラケット37が第1電動モータ34によって往復動されると、テーパ面37aに所謂カムフォロアのように追随するプッシュロッド(図示せず)が往復動され、プッシュロッドによって乾式発進クラッチ15のレリーズレバーが駆動されて乾式発進クラッチ15の締結及び解放がなされる。
【0028】
ブラケット37は、軸心連結線O方向に延設される第1シャフト38を介して、押付ローラ機構30の第2支持部44、ローラフォロアサポートブロック48に連結する。第1電動モータ34によってボールスクリュー機構35が回転されると、ブラケット37はボールスクリュー機構35の回転方向に応じて軸心連結線O方向に沿って前後進し、押付ローラ機構30がブラケット37及び第1シャフト38と一体となって軸心連結線O方向に沿って前後進する。
【0029】
押付ローラ機構30は、押付ローラ40と、保持部41と、押付ローラシャフト42と、第1支持部43と、第2支持部44と、サポートブロック46と、第1ローラフォロア47とを備える。
【0030】
一対の押付ローラ機構30は、プライマリディスク11及びセカンダリディスク12を挟んで両側に配置され、ガイドブロック49に取り付けられている。一対の押付ローラ機構30は、プライマリディスク11及びセカンダリディスク12に対して左右対称となるように配置されている。ガイドブロック49は、変速機ケース9に取り付けられる2つのガイドシャフトブロック50の間に設けられて軸心連結線O方向に延設される2本のガイドシャフト51に摺動可能に支持される。つまり、押付ローラ機構30は、ガイドブロック49を介してガイドシャフト51に摺動可能に支持され、第1アクチュエータ33により軸心連結線O方向に移動し、目標変速比に対応する位置にトルク伝達接触部を形成する。
【0031】
押付ローラシャフト42は、軸心連結線O方向に交差する方向に延設され、一方の端部42aを第1支持部43によって支持され、もう一方の端部42bを第2支持部44によって支持される。押付ローラシャフト42は、第2支持部44によって支持される端部42bが球形状となっている。押付ローラシャフト42には第1支持部43と第2支持部44との間に押付ローラ40を支持する保持部41が取り付けられ、押付ローラシャフト42は、保持部41を介して押付ローラ40を回転可能に支持している。
【0032】
第1支持部43は、ガイドシャフト51と平行に設けた回動軸52を介してガイドブロック49に回動可能に支持されている。第1支持部43は、押付ローラシャフト42の一方の端部42aをニードルベアリング53を介して支持する。
【0033】
第2支持部44は、押付ローラシャフト42のもう一方の端部42bをサポートブロック46及びニードルベアリング54を介して支持する。入力軸10の軸方向における第2支持部44とサポートブロック46との間には、球形状の先端部55aを有するブッシュ55が設けられ、第2支持部44とサポートブロック46との間に隙間が形成される。入力軸10の軸方向において隙間はブッシュ55よりもプライマリディスク11側に位置し、ブッシュ55の先端部55aがサポートブロック46に当接する。第2支持部44には軸心連結線O方向、及び入力軸10の軸方向に直交する方向に延び、第1ローラフォロア47が取り付けられた第2シャフト56の端部が連結する。第2支持部44は第1ローラフォロア47にかかる押付力によって入力軸10の軸方向に移動し、この移動に応じて第1支持部43と、押付ローラ40を支持する保持部41とは、回動軸52を中心として回動する。
【0034】
第1支持部43は、軸心連結線O方向において、ニードルベアリング53と押付ローラシャフト42との間に隙間を形成するように設けられる。第2支持部44に支持される押付ローラシャフト42の端部42bは球形状となっており、この端部42bがニードルベアリング54と当接している。これにより、押付ローラシャフト42は、回動、かつ、軸心連結線O方向に対して傾動可能に第1支持部43及び第2支持部44に支持される。
【0035】
保持部41は、第1支持部43と第2支持部44との間に設けられ、押付ローラシャフト42に取り付けられる。保持部41は、押付ローラシャフト42と一体となって回動、及び傾動する。
【0036】
保持部41には第1軸部57が固定される。入力軸10の軸方向から見た場合に、押付ローラシャフト42が軸心連絡線Oに対して直角な方向にある場合には、第1軸部57は軸心連絡線Oと一致する。また、第1軸部57は第1軸部57がディスク面に対して傾斜するように設けられる。
【0037】
押付ローラ40は、第1軸部57に回転可能に支持される。
【0038】
押付ローラ40は、ディスク重合領域において、サイドディスク12bと当接し、第1軸部57を中心に回転する。押付ローラ40は、第1ローラフォロア47を介して伝達される押付力が大きくなると、ディスク11、12を弾性変形させて、トルク伝達接触部を形成する。
【0039】
押付ローラ40には、保持部41を介して付勢部45a、45bのバネの付勢力が作用する。
【0040】
第1ローラフォロア47は、図4に示すように第2支持部44と連結する第2シャフト56が内周孔47aに挿入され、フロントクランプアーム67及びリアクランプアーム68のディスク11、12側の側面67a、68aに当接して転動する。
【0041】
第2支持部44に連結する端部とは反対側の第2シャフト56の端部は、ローラフォロアサポートブロック48に形成された孔48aに挿入される。孔48aは、入力軸10の軸方向に沿って形成されるオーバル形状の孔である。ローラフォロアサポートブロック48は孔48aに沿って第2シャフト56を入力軸10の軸方向に摺動可能に支持する。また、ローラフォロアサポートブロック48は、軸心連結線O方向に延びる第1シャフト38を介してブラケット37に連結しており、ブラケット37の移動に応じて軸心連結線O方向に移動する。つまり、ブラケット37が軸心連結線O方向に移動すると、その移動に応じてローラフォロアサポートブロック48、第2シャフト56とともに一対の押付ローラ機構30が軸心連結線O方向に移動する。
【0042】
ディスククランプ機構31は、アームシャフト65、フロントクランプアーム67及びリアクランプアーム68を備える。
【0043】
アームシャフト65は、軸心連結線O、及び入力軸10に対して直角な方向に延びる円柱状の部材である。アームシャフト65は、入力軸10と直交し、かつ図4に示すように入力軸10の軸方向におけるプライマリディスク11、及びセカンダリディスク12の中心と重なるように設けられる。アームシャフト65には、入力軸10の軸方向に延設された固定シャフト100が貫通しており、アームシャフト65は固定シャフト100に摺動可能となっている。
【0044】
固定シャフト100は、変速機ケース9に設けたボス101にアームシャフト固定ブラケット102を介して固定されている。つまり、アームシャフト65(ディスククランプ機構31)は、入力軸10の軸方向にのみ移動可能となるように変速機ケース9によって支持されている。
【0045】
フロントクランプアーム67は、略L字状となる板状部材である。フロントクランプアーム67は一方の端部側でアームシャフト65に回動可能に支持されている。フロントクランプアーム67のもう一方の端部は、後述する押付力調整機構32の係合部72が形成されている。フロントクランプアーム67は、図4に示すようにディスク11、12側の側面67aが第1ローラフォロア47に当接する。
【0046】
リアクランプアーム68は、略L字状となる板状部材である。リアクランプアーム68は一方の端部側でアームシャフト65に回動可能に支持されている。リアクランプアーム68のもう一方の端部は、後述する押付力調整機構32のケース70に連結する。リアクランプアーム68は、図4に示すようにディスク11、12側の側面68aが第1ローラフォロア47に当接する。
【0047】
フロントクランプアーム67及びリアクランプアーム68は、押付力調整機構32によって発生する押付力によってアームシャフト65を支点として回動し、一対の押付ローラ機構30を挟持することで保持部41に押付力を作用させ、押付ローラ40からプライマリディスク11及びセカンダリディスク12に押付力を作用させる。
【0048】
押付力調整機構32は、ケース70と、第2軸部71と、係合部72と、回動部73と、圧縮バネ74とを備える。
【0049】
ケース70は、リアクランプアーム68の端部に連結する。ケース70は回動部73の一部を収容し、第2軸部71が取り付けられる。
【0050】
第2軸部71は、アームシャフト65と平行な円柱状の部材であり、回動部73を回動可能に支持する。
【0051】
回動部73は、第2アクチュエータ90によって回動する。
【0052】
係合部72は、フロントクランプアーム67の端部に形成され、同端部からリアクランプアーム68側に延びる連結部75と、連結部75のリアクランプアーム68側の端部から第2軸部71を囲繞するように延びる曲面部76とを備える。曲面部76は、第2軸部71を中心とした円弧状の外周壁を有する。曲面部76の外周壁には、回動部73の第2ローラフォロア79が接触して転動する。
【0053】
回動部73は、回転ボディ77と、回転伝達ブロック78と、第2ローラフォロア79とを備える。回転ボディ77は、第1ボディ80と、第2ボディ81とを備える。
【0054】
第1ボディ80は、第2軸部71を挟むように延びた略U字状の部材である。第1ボディ80は、第2軸部71の外周壁に当接し、第2軸部71によって回動可能、且つ摺動可能に支持される。第1ボディ80は、開放側の端部に圧縮バネ74の一方の端部を支持するストッパー82を備える。
【0055】
回転伝達ブロック78は、第2軸部71が貫通し、第2軸部71によって回動可能に支持される。回転伝達ブロック78は、圧縮バネ74のストッパー82によって支持される端部とは反対側の端部を支持する。
【0056】
第1ボディ80と第2ボディ81とは接合されており、第2ボディ81には、第2ローラフォロア79が取り付けられる。
【0057】
回転ボディ77は、圧縮バネ74の復元力によって、常に第2軸部71からストッパー82に向かう向きに付勢されている。しかし、第2軸部71に対して圧縮バネ74とは反対側に位置する第2ボディ81が回転伝達ブロック78に当接し、第2軸部71から圧縮バネ74方向への回転ボディ77の移動は規制される。
【0058】
第2ローラフォロア79は曲面部76の円弧状の外周壁に当接して転動する。第2ローラフォロア79は、第2アクチュエータ90によって第2軸部71を介して回転ボディ77と一体となって回動し、圧縮バネ74によって常に第2軸部71に向けて付勢される。
【0059】
押付力調整機構32は、第2アクチュエータ90によって、第2ローラフォロア79を第2軸部71を中心に回動させることで、圧縮バネ74によって第2ローラフォロア79を第2軸部71に向けて付勢する力の方向を変更する。これにより、フロントクランプアーム67をリアクランプアーム68側へ押す力、すなわち一対の押付ローラ機構30を挟持する押付力を変更する。
【0060】
第2アクチュエータ90は、第2電動モータ91と、連結機構92とを備える。連結機構92は、スリットタイプのカップリングで構成される。
【0061】
リバースギア列19は、入力軸10及び出力軸14に対して平行に設けられるカウンタ軸19aと、カウンタ軸19aに遊転可能かつ軸方向スライド可能に設けられるリバースアイドルギア19bと、入力軸10に固定される入力側リバースギア19cと、出力軸14に固定される出力側リバースギア19dとを備える。
【0062】
リバースアイドルギア19bは、運転者によるシフトレバーの操作に機械的または電気的に連動して、入力側リバースギア19c及び出力側リバースギア19dに噛み合わない位置と噛み合う位置との間をスライドする。
【0063】
リバースアイドルギア19bが入力側リバースギア19c及び出力側リバースギア19dに噛み合った状態では、リバースギア列19によって入力軸10の回転が反転されて出力軸14に伝達されるリバース状態となる。
【0064】
本実施形態では、上記構成により、押付ローラ40によってトルク伝達接触部を形成し、プライマリディスク11からセカンダリディスク12へトルクを伝達して車両を前進させている。
【0065】
変速機3においては、アームシャフト65は、プライマリディスク11、及びセカンダリディスク12の中心と重なるように設けられ、また、各押付ローラ40は、プライマリディスク11、及びセカンダリディスク12に対して左右対称に配置されている。これにより、各押付ローラ40によってトルク伝達接触部が形成された場合に、各トルク伝達接触部が均等に形成される。
【0066】
しかし、公差によるずれにより、実際には各トルク伝達接触部が均等に形成されない場合がある。例えば、セカンダリディスク12に対してプライマリディスク11の位置が入力軸10の軸方向にずれている場合には、プライマリディスク11が設定されている弾性変形とは異なる弾性変形をし、各トルク伝達接触部の面積や形状が異なり、不均等になる。各トルク伝達接触部が不均等になると、プライマリディスク11からセカンダリディスク12へのトルク伝達が低下するおそれがあり、また、押付ローラ40、プライマリディスク11、セカンダリディスク12などにおける発熱量が大きくなり、これらを劣化させるおそれがある。そこで、本実施形態では、変速機3を組み立てた後にずれを修正し、各トルク伝達接触部が均等に形成されるようにしている。
【0067】
具体的には、セカンダリディスク12が固定される出力軸14をテーパーベアリング18a、18bを介して変速機ケース9で支持し、プライマリディスク11が固定される入力軸10をボールベアリング16、及びニードルベアリング17を介して変速機ケース9で支持する。これにより、セカンダリディスク12に対してプライマリディスク11の位置が軸方向にずれていた場合には、押付ローラ40によってセカンダリディスク12、及びプライマリディスク11が挟持された際に、押付ローラ40による押付力によってプライマリディスク11が入力軸10の軸方向に移動し、セカンダリディスク12に対する軸方向の位置が修正され、各トルク伝達接触部が均等に形成される。
【0068】
また、アームシャフト65にはアームシャフト65が入力軸10の軸方向に摺動可能となるように固定シャフト100が貫通しており、固定シャフト100がアームシャフト固定ブラケット102、ボス101を介して変速機ケース9に支持されている。これにより、ディスククランプ機構31は変速機ケース9に対して入力軸10の軸方向に移動可能となっている。ディスククランプ機構31が入力軸10の軸方向に移動すると、ディスククランプ機構31の移動に伴って一対の押付ローラ機構30が回動軸52を中心に回動する。そのため、セカンダリディスク12に対して押付ローラ40が左右対称となっていない場合でも、押付ローラ40によってセカンダリディスク12、及びプライマリディスク11が挟持された際に、押付ローラ40が入力軸10の軸方向に移動し、セカンダリディスク12に対する軸方向の位置が修正され、押付ローラ40がセカンダリディスク12に対して左右対称となる。従って、セカンダリディスク12、及びプライマリディスク11が一対の押付ローラ40によって左右から均等の力で挟持され、各トルク伝達接触部が均等に形成される。
【0069】
本実施形態の効果について説明する。
【0070】
入力軸10を入力軸10の軸方向に移動可能となるように変速機ケース9で支持することで、公差によるずれによってセカンダリディスク12に対してプライマリディスク11が入力軸10の軸方向にずれている場合でも、押付ローラ40によってセカンダリディスク12、及びプライマリディスク11を挟持する際に、プライマリディスク11を入力軸10の軸方向に移動させてずれを修正し、各トルク伝達接触部を均等に形成することができる。これにより、プライマリディスク11からセカンダリディスク12へ伝達されるトルクが低下することを抑制し、また、押付ローラ40、プライマリディスク11、またはセカンダリディスク12の発熱量を抑制して、これらが劣化することを抑制することができる(請求項1に対応する効果)。
【0071】
アームシャフト65を入力軸10の軸方向に移動可能となるように変速機ケース9で支持することで、セカンダリディスク12に対して押付ローラ40が入力軸10の軸方向にずれている場合でも、押付ローラ40によってセカンダリディスク12、及びプライマリディスク11を挟持する際に、押付ローラ40を入力軸10の軸方向に移動させてずれを修正し、各トルク伝達接触部を均等に形成することができる。これにより、押付ローラ40によって両側からセカンダリディスク12、及びプライマリディスク11を均等に挟持することができ、プライマリディスク11からセカンダリディスク12へ伝達されるトルクが低下することを抑制し、また、押付ローラ40、プライマリディスク11、またはセカンダリディスク12の発熱量を抑制して、これらが劣化することを抑制することができる(請求項1に対応する効果)。
【0072】
センターディスク12aは、押付ローラ40によってセカンダリディスク12、及びプライマリディスク11を挟持した場合に変形しないように構成されており、センターディスク12aを中心としてプライマリディスク11、サイドディスク12bが弾性変形し、トルク伝達接触部が形成される。本実施形態では、入力軸10の軸方向にセカンダリディスク12が移動しないように、センターディスク12aが固定される出力軸14をテーパーベアリング18a、18bを介して変速機ケース9によって支持する。これにより、剛性が高いセンターディスク12aを中心として、プライマリディスク11、押付ローラ40のずれを修正することができる(請求項2に対応する効果)。
【0073】
出力ギア18は、はすば歯車で構成されているため、スラスト方向に力が作用する。本実施形態では、出力ギア18が係合する出力軸14をテーパーベアリング18a、18bを介して変速機ケース9によって支持することで、スラスト方向の力が作用した場合でも、出力軸14が入力軸10の軸方向に移動することを防ぐことができる(請求項3に対応する効果)。
【0074】
ディスククランプ機構31は、アームシャフト65を支点としてフロントクランプアーム67、及びリアクランプアーム67が回動する。そのため、軸心連結線O方向における押付ローラ機構30の位置が変わらない場合であっても、軸心連結線O方向におけるディスククランプ機構31の位置が変わると、アームシャフト65から第2ローラフォロア79までの距離が変わり、押付ローラ40による押付力が変化する。本実施形態では、アームシャフト65は、変速機ケース9によって入力軸10の軸方向にのみ移動可能となるように支持されており、軸心連結線O方向には移動しない。これにより、アームシャフト65が軸心連結線O方向に移動することに起因する押付ローラ40による押付力の変化を防止することができる(請求項4に対応する効果)。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0076】
本実施形態では、センターディスク12aをセカンダリディスク12に設けたが、センターディスク12aをプライマリディスク11に設けてもよく、この場合、入力軸10を入力軸10の軸方向に移動しないように変速機ケース9で支持し、出力軸14を入力軸10の軸方向に移動可能となるように支持する。
【0077】
また、入力軸10(出力軸14)、またはアームシャフト65の一方のみを入力軸10の軸方向に移動可能となるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0078】
2 エンジン(動力源)
3 マルチディスク変速機
9 変速機ケース(支持手段)
10 入力軸
11 プライマリディスク(プライマリディスク)
12 セカンダリディスク(セカンダリディスク)
12a センターディスク
12b サイドディスク
14 出力軸
31 ディスククランプ機構(挟持手段)
40 押付ローラ(押圧手段)
図1
図2
図3
図4