特許第5768141号(P5768141)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5768141表面品質に優れた低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板を製造するための環境に優しい高速酸洗プロセス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5768141
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】表面品質に優れた低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板を製造するための環境に優しい高速酸洗プロセス
(51)【国際特許分類】
   C23G 1/08 20060101AFI20150806BHJP
   C23F 17/00 20060101ALI20150806BHJP
   C25F 1/06 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   C23G1/08
   C23F17/00
   C25F1/06 B
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-547334(P2013-547334)
(86)(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公表番号】特表2014-501337(P2014-501337A)
(43)【公表日】2014年1月20日
(86)【国際出願番号】KR2011010157
(87)【国際公開番号】WO2012091412
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2013年8月21日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0136140
(32)【優先日】2010年12月28日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2011-0120187
(32)【優先日】2011年11月17日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジ−フン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ドン−フン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジン−スク
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 サン−キョ
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ヨン−ホン
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−107044(JP,A)
【文献】 特開2002−371395(JP,A)
【文献】 特開平11−172476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00 − 5/06
C25F 1/00 − 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸を含まない混酸溶液を用いて、14重量%以下のクロムを含む低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板の表面からシリコン酸化物を高速で除去するシリコン酸化物酸洗方法であって、
過酸化水素を含む混酸溶液中に前記冷延鋼板を浸漬することにより酸洗工程を行い、
前記混酸溶液は硫酸70〜200g/L及び遊離フッ酸1〜10g/Lを含み、前記混酸溶液が鉄イオンを含まないとき、前記混酸溶液は過酸化水素を濃度7g/L以上で含、3〜15g/m・minの酸洗速度を有する、低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板のシリコン酸化物酸洗方法。
【請求項2】
前記酸洗工程中の過酸化水素濃度と鉄イオン濃度の関係は次の式
【数1】
を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板のシリコン酸化物酸洗方法。
【請求項3】
混酸溶液中に浸漬された冷延鋼板の表面電位を−0.2〜0.2Vに保持させることを特徴とする、請求項1または2に記載の低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板のシリコン酸化物酸洗方法。
【請求項4】
前記冷延鋼板は10〜100秒間混酸溶液に浸漬することを特徴とする、請求項1または2に記載の低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板のシリコン酸化物酸洗方法。
【請求項5】
脱脂及び焼鈍工程を経た14重量%以下のクロムを含むフェライト系ステンレス冷延鋼板を酸洗する、低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板の酸洗方法であって、
低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板から、硫酸を電解質として使用する電解溶液を用いて(Fe、Cr)スケールを電解除去する硫酸電解段階と、
混酸溶液に浸漬する混酸浸漬段階であって、該混酸溶液は、硫酸70〜200g/L遊離フッ酸1〜10g/L及び該混酸溶液が鉄イオンを含まないとき、過酸化水素を濃度7g/L以上でみ、硝酸を含まない、段階
とを含み、3〜15g/m・minの酸洗速度を有する、低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板の酸洗方法。
【請求項6】
硫酸ナトリウム電解質を含む電解溶液を用いて、鋼板表面からFe酸化物の含量よりCr酸化物の含量が相対的に高いクロムリッチスケールを電解除去する中性塩電解段階をさらに含むことを特徴とする、請求項5に記載の低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板の酸洗方法。
【請求項7】
前記中性塩電解段階は、フェライト系ステンレス鋼板を温度50〜90℃の中性塩電解溶液内に浸漬し、鋼板表面の電位が+、−、+の順に形成されるように10〜30A/dmの電流密度を0秒超過90秒以下の間印加することで行うことを特徴とする、請求項6に記載の低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板の酸洗方法。
【請求項8】
前記中性塩電解溶液内に硫酸ナトリウム電解質を100〜250g/L含むことを特徴とする、請求項6に記載の低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板の酸洗方法。
【請求項9】
前記硫酸電解段階は、焼鈍または中性塩電解段階を経たフェライト系ステンレス鋼板を温度30〜60℃の硫酸電解溶液に浸漬し、鋼板表面の電位が+、−、+の順に形成されるように10〜30A/dmの電流密度を5〜50秒間印加することで行うことを特徴とする、請求項5に記載の低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板の酸洗方法。
【請求項10】
前記硫酸電解溶液は硫酸を50〜150g/L含むことを特徴とする、請求項9に記載の低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板の酸洗方法。
【請求項11】
前記混酸浸漬段階は、過酸化水素を含む混酸溶液に前記冷延鋼板を10〜100秒間浸漬することにより酸洗工程を行い、前記混酸溶液は硫酸70〜200g/L及び遊離フッ酸1〜10g/Lを含み、前記混酸溶液が鉄イオンを含まないとき、前記混酸溶液は過酸化水素を濃度7g/L以上で含むことを特徴とする、請求項5に記載の低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板の酸洗方法。
【請求項12】
前記混酸浸漬段階で鋼板の表面電位を−0.2〜0.2Vの範囲に保持することを特徴とする、請求項11に記載の低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板の酸洗方法。
【請求項13】
前記酸洗工程中の過酸化水素は、混酸溶液中の鉄イオン濃度との関係において、次の式
【数2】
を満たすことを特徴とする、請求項10に記載の低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板の酸洗方法。
【請求項14】
脱脂及び焼鈍工程を経た14重量%以下のクロムを含むフェライト系ステンレス冷延鋼板からシリコン酸化物を除去するための混酸溶液であって、
硫酸70〜200g/L、遊離フッ酸1〜10g/L、及び過酸化水素を含み、
前記過酸化水素は混酸溶液中の鉄イオン濃度との関係において、次の式
【数3】
を満たすことを特徴とする、シリコン酸化物除去のための硝酸を含まない混酸溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い表面品質を要するフェライト系ステンレス冷延鋼板を製造する際において、鋼板表面を高速で酸洗する方法に関し、具体的には、酸洗過程中において硝酸を用いない酸洗方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス冷延鋼板は、冷間圧延後に所定の機械的特性を得るために800〜1150℃の熱処理過程を経るが、このような熱処理過程で、鋼板の表面が炉の内部で高温の酸素と反応し表面に酸化スケール(SiO、(Cr,Fe))が生成する。このような鋼板表面の酸化スケールは、製品の外観を悪くして鋼板の品質を悪化させ、また、鋼板の腐食を引き起こす出発点となり、鋼板の耐食性を低下させる。
【0003】
従って、通常、美麗な表面品質を得て耐食性を向上させるために、ブラシ、ショットボールブラストなどによる物理的なデスケーリング、硫酸ナトリウム、硫酸、硝酸電解質を用いた電解デスケーリング、塩浴、混酸などを使用した化学的なデスケーリングなどの多様な方法を組み合わせて鋼板表面の酸化スケールを除去することによりステンレス冷延鋼板を製造しており、このようなスケーリングを除去する過程を酸洗工程という。このようなステンレス酸洗工程では、美麗な表面品質を得て、また、不動態被膜を均一に形成して耐食性を確保するために、硝酸溶液に鋼板を通過させながら電流を加えてデスケーリングする硝酸電解方法と、硝酸(80〜180g/L)及びフッ酸(2〜40g/L)の混酸を利用した化学的デスケーリング方法で酸洗工程を行ってきた。硝酸は、酸洗槽内のpHを下げてフッ酸の活動度を上げ、鋼板表面で溶解された2価鉄イオンを3価に酸化して酸洗に適正な酸化還元電位を保持させる。
【0004】
しかし、酸洗液として硝酸が用いられることにより、大気排出規制物質であるNOxが発生し、また、廃酸及び洗浄水に硝酸性窒素(NO−N)が含まれているため、国内外の環境規制強化による排出放流水の総窒素制限や大気排出施設のNOx濃度制限などの環境規制条件を満たすための酸洗工程への環境汚染防止設備の追加設置及びその運用費用によって生産単価が著しく増加するという問題点が発生する。また、14重量%以下のクロムを含み、耐食性が他のステンレス鋼より脆弱な低クロムフェライト冷延鋼板を生産する際において、脆弱な耐食性によって酸溶液中への溶解量が増加し、NOxと硝酸性窒素の発生が急激に増加するという問題が発生する。
【0005】
このような問題点を解決するために、硝酸を用いない酸洗方法が開発されてきた。このような技術では、酸洗過程において、硝酸を塩酸または硫酸などに代え、不足する酸化力は過酸化水素、過マンガン酸カリウム、3価鉄イオン、及び空気注入により補う硝酸を用いない酸洗方法が開発された。
【0006】
具体的には、特許文献1には、酸洗液として硫酸、フッ酸、硫酸鉄を利用し、過酸化水素を添加して酸洗溶液の酸化還元電位を300mV以上に保持する技術が開示されており、上記技術を初めとして90年代以後、特許文献2及び特許文献3に開示されたように、主にフッ酸と鉄イオン、空気、過酸化水素または溶液の酸化還元電位(Oxidation−Reduction Potential、ORP)の適正範囲を特定する技術が登場し続けた。しかし、これらの方法は大部分、製品の品質に厳しくない線材、棒鋼、厚板などの製品に限定的に適用できるという限界がある。
【0007】
一方、特許文献4には、硫酸、フッ酸、鉄塩を含み、過酸化水素を定期的に投入し、湿潤剤、光沢剤、腐食抑制剤などの組成を調節して酸洗し、酸洗溶液の管理は、Fe(III)及びこれによるORPに基づいた自動制御方式を取る技術が開示されている。これにより、酸洗溶液であるCLEANOX352製品が商品化され世界的に最も広く用いられている。この方法は、線材及び熱延製品の場合に実用化されて使用されているが、製品の生産単価が既存より20%以上高く、複雑な溶液組成と管理方法を採択している。また、決定的に酸洗減量速度が1.5〜3g/m・min程度と比較的遅い酸洗速度を有し、10〜100秒間以内に混酸酸洗が完了しなければならない高速酸洗ラインには適さない。
【0008】
また、上記特許の改良特許である特許文献5及び特許文献6では、銅及び塩素イオンを酸洗組成物に追加して酸洗速度を上げる方法が提案されているが、フェライト系ステンレス鋼板表面に形成される表面電位(Open circuit potential、OCP)が銅イオンの酸化還元電位である0.1Vより低い場合、酸洗過程で鋼板表面に銅粒子が析出して鋼板を変色させる恐れがある。また、酸洗溶液に塩素イオンが一定濃度以上含有される場合、孔食が発生する恐れがある。
【0009】
このように無硝酸酸洗組成物について様々な技術が知られているが、フェライト系冷延鋼板の高速生産に適する酸洗技術は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】ドイツ特許第3937438号
【特許文献2】米国特許第5154774号
【特許文献3】欧州特許第236354号
【特許文献4】米国特許第5908511号
【特許文献5】欧州特許出願公開第1040211号
【特許文献6】米国特許出願公開第2000−560982号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、硝酸を用いずに酸洗性を確保して、低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板の高速生産に適する電解酸洗方法及びシリコン酸化物の高速除去に適する混酸酸洗方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記酸洗方法に適する硝酸を含まない混酸溶液を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、上記のような酸洗方法により得られる低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様において、一具現例によると、硝酸を含まない混酸溶液を用いて、14重量%以下のクロムを含む低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板の表面からシリコン酸化物を高速で除去するシリコン酸化物酸洗方法であって、過酸化水素を含む混酸溶液中に上記冷延鋼板を浸漬することにより酸洗工程を行い、上記混酸溶液は硫酸70〜200g/L及び遊離フッ酸1〜10g/Lを含み、最初の混酸溶液は過酸化水素を濃度7g/L以上で含むが、鉄イオンは含まず、3〜15g/m・minの酸洗速度を有する、低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板のシリコン酸化物酸洗方法を提供する。
【0015】
本発明の他の具現例によると、上記酸洗工程中の過酸化水素濃度と鉄イオン濃度の関係は次の式
【数1】
を満たすことが好ましい。
【0016】
本発明の他の具現例によると、上記混酸溶液中に浸漬された冷延鋼板の表面電位は−0.2〜0.2Vに保持されることが好ましく、上記冷延鋼板は10〜100秒間混酸溶液に浸漬することにより酸洗することができる。
【0017】
また、本発明の他の態様において、脱脂及び焼鈍工程を経た14重量%以下のクロムを含むフェライト系ステンレス冷延鋼板を酸洗する、低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板の酸洗方法を提供し、一具現例として、低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板から、硫酸を電解質として使用する電解溶液を用いて(Fe、Cr)スケールを電解除去する硫酸電解段階と、硫酸、フッ酸、及び過酸化水素を含む混酸溶液に浸漬する混酸浸漬段階とを含み、3〜15g/m・minの酸洗速度を有する、低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板の酸洗方法を提供する。
【0018】
本発明の他の具現例によると、硫酸ナトリウム電解質を含む電解溶液を用いて、鋼板表面からクロムリッチスケールを電解除去する中性塩電解段階をさらに含んでもよい。
【0019】
本発明のさらに他の具現例によると、上記中性塩電解段階は、フェライト系ステンレス鋼板を温度50〜90℃の中性塩電解溶液中に浸漬し、鋼板表面の電位が+、−、+の順に形成されるように10〜30A/dmの電流密度を0秒超過90秒以下の間印加することにより行ってもよく、また、上記中性塩電解溶液中に硫酸ナトリウム電解質を100〜250g/L含んでもよい。
【0020】
本発明のさらに他の具現例によると、上記硫酸電解段階は、焼鈍または中性塩電解段階を経たフェライト系ステンレス鋼板を温度30〜60℃の硫酸電解溶液に浸漬し、鋼板表面の電位が+、−、+の順に形成されるように10〜30A/dmの電流密度を5〜50秒間印加することにより行ってもよく、また、上記硫酸電解溶液は硫酸を50〜150g/L含んでもよい。
【0021】
さらに、本発明の一具現例によると、上記混酸浸漬段階は、過酸化水素を含む混酸溶液に上記冷延鋼板を10〜100秒間浸漬することにより酸洗工程を行い、上記混酸溶液は硫酸70〜200g/L及び遊離フッ酸1〜10g/Lを含み、最初の混酸溶液は過酸化水素を濃度7g/L以上で含むが、鉄イオンは実質的に含まず、また、上記混酸浸漬段階で鋼板の表面電位を−0.2〜0.2Vの範囲に保持することができる。
【0022】
本発明の他の具現例によると、上記酸洗工程中の過酸化水素は、混酸溶液中の鉄イオン濃度との関係において、次の式
【数2】
を満たすことができる。
【0023】
本発明のさらに他の態様において、上記酸洗方法を行って得られる鋼板であって、上記鋼板の光沢度が130以上である低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板を提供する。
【0024】
本発明のさらに他の態様において、脱脂及び焼鈍工程を経た14重量%以下のクロムを含むフェライト系ステンレス冷延鋼板からシリコン酸化物を除去するための混酸溶液であって、硫酸70〜200g/L、遊離フッ酸1〜10g/L、及び過酸化水素を含み、上記過酸化水素は混酸溶液中の鉄イオン濃度との関係において、次の式
【数3】
を満たす、シリコン酸化物除去のための硝酸を含まない混酸溶液を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、フェライト系ステンレス冷延鋼板を酸洗する際において、酸洗溶液中の混酸溶液に硝酸を含まないため、NOx及び硝酸性窒素を排出しない。従って、NOx除去設備と脱窒設備の設置に対する負担を軽減することができる。
【0026】
さらに、過酸化水素濃度とフッ酸濃度により酸洗を調節することができるため、コントロールが容易で、高速生産に適する。また、酸洗後の品質も既存の酸洗法より向上し、優れた品質のフェライト系ステンレス冷延鋼板の生産が可能である。
【0027】
また、電解酸洗過程でシリコン酸化物を除くFe、Cr酸化物を完全に除去することにより、混酸溶液によるシリコン酸化物の除去を容易に行うことができ、混酸槽の酸洗を3〜15g/m・minという高速で行うことができるため、混酸溶液によるシリコン酸化物の除去及び平坦化を10〜100秒間という短時間内に行うことができる。
【0028】
そして、溶液組成が簡単であるため、管理方法が簡単で、鋼板表面との酸洗反応以外の反応が生じないようにして冷延鋼板の表面品質を確保することができる上、高速生産による生産性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、実施例1により熱処理された低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板を熱処理した鋼板の表面を電子顕微鏡で撮影した写真であり、(a)は発明例2により得られた鋼板の表面で、(b)は比較例4による鋼板表面である。
図2図2は、熱処理された低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板において、電解処理を行った後の鋼板の断面を撮影した電子顕微鏡写真を(a)に示し、(b)には電解処理を行っていない鋼板の断面を撮影した電子顕微鏡写真を示した。
図3図3は、低クロムフェライト系ステンレス鋼板を混酸に浸漬した場合、鋼板の表面電位に対する酸化還元電位と過酸化水素濃度の相関関係を示すグラフであり、(a)は表面電位と酸化還元電位との関係を、(b)は表面電位と過酸化水素濃度との関係を示す。
図4図4は、混酸溶液内での鉄イオン濃度により求められる最小過酸化水素濃度を示したグラフである。
図5図5は、実施例8による酸洗を行ったフェライト系ステンレス冷延鋼板の光沢度を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、低クロムフェライト系ステンレス冷延鋼板を、硫酸ナトリウムを電解質として用いる中性塩電解槽、硫酸を電解質として用いる硫酸電解槽、及び無硝酸酸洗組成物の混酸槽を通過させることにより鋼板表面の酸化スケールを除去する方法を提供する。
【0031】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0032】
一般的に、フェライト系ステンレス冷延鋼板には、熱処理後通常100〜300nmの厚さの酸化スケールが生成し、この酸化スケールは、Fe酸化物よりCr酸化物のスケール含量が相対的に高いCrリッチスケール層、Cr酸化物よりFe酸化物のスケール含量が相対的に高いFeリッチスケール層、および酸化物スケール層と母材との界面に存在するSi酸化物層の多層構造を有する。
【0033】
上記スケールのうちCrリッチスケール層は中性塩電解槽で除去される。上記中性塩電解槽は、硫酸ナトリウム電解質を含む中性塩電解液を含み、電流を鋼板表面に通電するための電極を含む。このとき、電極槽は、鋼板表面の電位が+、−、+の順に帯電されるように構成される。
【0034】
pH3〜6範囲の中性塩電解液に電流が加えられる場合、CrリッチスケールのCrがCr6+の状態に優先的に溶解され、鋼板表面のCrリッチスケールを除去することができる。このとき、電解質として、硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。上記硫酸ナトリウム電解質は、電解液内の電気伝導度を上げて鋼板表面への通電率を上げることで、Crリッチスケールの溶解を引き起こす。
【0035】
このとき、上記電解液には、硫酸ナトリウム電解質が100〜250g/L含まれることが好ましい。上記硫酸ナトリウム電解質が100g/L以上の場合にクロムの溶解のための適正な伝導度が得られる。しかし、250g/Lを超えると、硫酸ナトリウムが電解液内に析出し、設備配管を塞いで操業を悪化させる恐れがあるため、硫酸ナトリウム電解質は250g/L以下で含むことが好ましい。
【0036】
中性塩電解槽内の電解質の電気伝導度は、電解液の温度と密接な関連性がある。50℃以上ではクロムの溶解のための適正な伝導度が得られ、温度が高くなるほど伝導度も高くなる。しかし、電解液の温度が90℃を超えると、操業上、温度管理が困難である。従って、中性塩電解槽内の電解液の温度は50〜90℃の範囲であることが好ましい。
【0037】
一方、電極を通じて加えられる電流は、10A/dm以上であることが好ましく、CrリッチスケールのCrを十分に溶出させることができる。しかし、30A/dmを超えると、電流を発生するための整流器の設備が大きくなり、初期設備費が大きくなるという短所があるため、電流は10〜30A/dmの範囲であることが好ましい。
【0038】
中性塩電解処理時間は90秒間以下にする。必要に応じて、このような中性塩電解処理は行わず、硫酸電解処理だけでも鉄及びクロムの酸化スケールを除去することもできる。但し、この場合、硫酸電解処理及び混酸に負担を与え得る。したがって、中性塩処理を行うことによって酸洗処理時間をより短縮することができ、さらに好ましい。中性塩電解処理時間が90秒間を超えると、部分的に母材に浸食が発生して過酸洗をもたらす恐れがある。
【0039】
一方、上記Feリッチスケール層は硫酸電解槽で除去される。上記硫酸電解槽は、硫酸を含む硫酸電解液を含み、電流を鋼板表面に通電するための電極を含む。このとき、電極槽は、鋼板表面の電位が+、−、+の順に帯電されるように構成される。
【0040】
pHが0〜1の範囲の硫酸電解液に電流が加えられる場合、FeがFe2+の状態に溶解される。このとき、硫酸のHとSO2−は、溶液中の電気伝導度を上げて電極から鋼板表面への通電率を高める。さらに、低くなったpHによりFeリッチスケール層の鉄を化学的に溶解させる。
【0041】
このとき、上記硫酸は50〜150g/Lであることが好ましい。硫酸が50g/L以上にならないと、適正伝導度以上が保持されないため、鋼板表面への通電率を保持することができない。しかし、硫酸が150g/Lを超えると、化学的溶解が優勢に発生してステンレス冷延鋼板の表面が粗くなるという問題が生じ得る。
【0042】
上記中性塩電解槽の電解液と同様に、硫酸電解液は、最小限の伝導度を得るために溶液温度が30℃以上でなければならない。しかし、60℃を超えると、化学的溶解が進行し過ぎてステンレス冷延鋼板の表面が粗くなり、さらには、鋼板表面が黒く変化する黒変現象が発生することがある。従って、硫酸電解槽の電解液は、30〜60℃範囲の温度を有することが好ましい。
【0043】
一方、硫酸電解槽に加えられる電流は10〜30A/dmの範囲であることが好ましい。電流が10A/dm未満加えられると、フェライト系ステンレス鋼板の活性溶解が進行して表面が粗くなるという問題がある。しかし、30A/dmを超えると、電流を発生するための整流器の設備が大きくなり、初期設備費が大きくなるという短所があるため、電流は10〜30A/dmの範囲であることが好ましい。
【0044】
このような硫酸電解処理は5〜50秒間行うことが好ましい。5秒間未満の硫酸電解処理では、十分な酸洗効果が得られず、50秒間を超えると、過酸洗の問題を引き起こすため、上記範囲で行うことが好ましい。
【0045】
上記のように、中性塩電解−硫酸電解が行われた鋼板表面には、Si酸化物層だけ残存するようになり、このSi酸化物層は窒素を含まない無硝酸混酸溶液により除去することができる。上記混酸溶液は、硫酸、遊離フッ酸、及び過酸化水素を含み、このような混酸溶液を含む混酸槽に浸漬することにより、中性塩電解−硫酸電解を行った鋼板からSi酸化物層を除去することができる。
【0046】
上記混酸溶液内でのフッ酸及び硫酸は、混酸溶液中で次の反応式(1)及び(2)のように解離される。即ち、混酸溶液中で、フッ酸は溶解しながら解離し、硫酸が解離して提供するH濃度、即ち、酸度により平衡状態が変わるようになる。
【0047】
HF→H+F (1)
SO→HSO+H→SO2−+2H (2)
【0048】
フッ酸の場合、解離していない遊離フッ酸の状態で酸洗力を有してSi酸化物を溶解させ、さらには、Si酸化物層と母材との界面に浸透してFeを溶解させる。このように溶解されたFeイオン及びSiイオンは、FeF(3−x)、HSiFなどの形態で鋼板表面から除去される。上記フッ酸は、混酸溶液に1〜10g/L、より好ましくは1〜5g/Lの範囲の濃度で存在することが好ましい。1g/L未満では、遊離フッ酸で存在する濃度が少なくてSiに対する溶解力が不足し、これにより鋼板表面に対する未酸洗問題が生じる。また、10g/Lを超えると、母材の浸食速度が早くなって酸洗工程後の鋼板表面が粗くなる。
【0049】
上記のように、フッ酸が鋼板表面のSi酸化物層を除去する酸洗力を提供するため、上記混酸溶液中には一定の酸度以上で有効な遊離フッ酸濃度が保持されることが好ましい。従って、混酸溶液には、フッ酸が解離しないようにするために一定濃度以上の硫酸が必要である。適する硫酸濃度は、50〜150g/Lの範囲である。硫酸濃度が50g/L未満では、有効な遊離フッ酸濃度が保持されずフッ酸の解離が発生して酸洗力が弱くなるため、未酸洗の問題が生じ得る。また、150g/Lを超えると、硫酸希釈操業の際、発熱して操業が困難となるなどの問題があるため、上記範囲の濃度で硫酸を含むことが好ましい。
【0050】
フェライト系ステンレス鋼の酸化物スケールのうちSi酸化物は、フェライト系結晶のグレーン表面及びグレーンとグレーンと間の結晶粒系にともに存在し、結晶粒系のSi酸化物は母材内部のさらに深い位置にまで存在する。オーステナイト系ステンレス鋼の場合には、結晶の耐食性が高くて結晶粒系から優先的に浸食されるが、フェライト系ステンレス鋼は、結晶の耐食性が低いため、結晶内部と結晶粒の間の浸食速度差が無くてグレーン表面と結晶粒系が選択性なく全面的に溶解される。従って、Si酸化物をすべて除去するためには、相当な部分の母材が溶解されなければならない。
【0051】
このとき、母材からFe2+が溶出され、溶出されたFe2+は過酸化水素と反応してFe3+に酸化された後、HFと結合してFeF(3−x)である錯化合物が生成され鋼板表面から除去される。上記反応は、次の反応式(3)〜(6)のように表すことができ、このような過程が円滑に進行すれば、酸洗速度を上げることができる。
【0052】
Fe→Fe2++2e (3)
Fe2++H→Fe3++・OH+OH (4)
Fe3++3HF→FeF+3H (5)
Cu2++2e→Cu (6)
【0053】
本発明者らの実験によると、美麗なフェライト系ステンレス冷延鋼板を得るためには、3〜5g/m程度のスケール及び母材が混酸槽で除去されなければならない。さらに、10〜100秒間、より好ましくは20〜60秒間混酸槽に浸漬することによりSi酸化物を除去し、高速で冷延鋼板を生産するためには、3〜15g/m・min程度の酸洗速度が確保されなければならない。
【0054】
ステンレス鋼は、鋼種ごとに電位−電流間の固有の相関関係を有する動電位曲線を有しており、このとき発生する電流量を酸洗速度として表現することができる。即ち、表面電位を調整することで最大酸洗速度を具現することができる。高速で冷延鋼板を生産するために求められる3〜15g/m・minの高速酸洗速度を得るためには、混酸槽内の冷延鋼板の表面電位を−0.2〜0.2Vの範囲に保持することが好ましい。冷延鋼板の表面電位が上記範囲から外れると、酸洗が起きないか、部分的に未酸洗表面を有する酸洗不良をもたらすことがある。また、酸洗しても冷延鋼板の良好な表面品質が得られない。
【0055】
従来は、酸洗液中のFe2+/Fe3+の比率を調節して酸洗液の酸化還元電位(ORP)を制御することで、酸洗を行った。しかし、図3の(a)に示したように、表面電位と酸化還元電位との間に如何なる関連性も確認できないため、混酸酸洗において、上記酸化還元電位は上記表面電位に対し、如何なる相関性も有しない因子であることが分かる。これとは異なって、クロム含量の低いフェライトステンレス鋼の混酸での表面電位は、混酸槽内での酸洗過程で発生する金属イオン濃度、即ち、主成分である鉄イオンの濃度と混酸溶液中に残留する過酸化水素の濃度、特に残留過酸化水素濃度と相関関係を有することが分かる。
【0056】
上記混酸溶液内の残留過酸化水素濃度が不足すると、上記反応式(4)の反応が行われないため、鋼板表面のFe2+濃度が局所的に増加し、反応式(3)の左側方向の反応が優勢になる。この場合、Fe及びステンレス鋼に添加物または不純物として存在するCu等が、反応式(6)のように鋼板表面に再析出されて鋼板表面が黒く変化する黒変現象が発生する。従って、残留過酸化水素濃度が常に一定濃度以上存在しなければならない。
【0057】
このような残留過酸化水素の濃度は、混酸溶液中に存在する鉄イオン濃度と相関性がある。図3の(a)は表面電位と酸化還元電位との関係を示し、図3の(b)は表面電位と過酸化水素濃度の関係を示したグラフである。
【0058】
同じ過酸化水素濃度では、鉄イオン濃度が増加するにつれて鋼板の表面電位が徐々に増加することが分かる。これはFe3+イオンが酸化剤として作用するためであり、Fe3+イオンが増加するほど、鋼板の表面電位を保持するための過酸化水素濃度が減少する傾向を示す。しかし、Fe3+イオンが一定濃度以上存在しても過酸化水素が不足すると、鋼板の表面電位は−0.2V以下に減少して表面品質が低下するという問題が発生する。このような関係から、鋼板の表面電位を−0.2V以上に保持するための、鉄イオン濃度に対する最小過酸化水素濃度は、次の式のように表される。
【0059】
【数4】
【0060】
具体的には、鉄イオン濃度が0であるとき、少なくとも7g/L以上の有効過酸化水素濃度を含まなければならず、鉄イオン濃度が40以上の場合には1.0g/L以上存在しなければならない。一方、過酸化水素の濃度が高いほど、更なる過酸化水素を添加する手間を避けることができ、工程単純化に役立つ。しかし、このような過酸化水素は高価であるため、高濃度の過酸化水素の使用は費用増大をきたし、また、使用濃度に比例する酸洗効果の増大をもたらさないため、30g/Lを超えないことがより好ましい。
【0061】
さらに、本発明の混酸溶液の温度は、特に限定する必要がなく、当業者であれば、適切に設定して行うことができる。例えば、20〜95℃、他の例としては25〜80℃、さらに他の例としては25〜65℃の範囲に設定して行うことができる。
【0062】
上術した内容から、混酸槽プロセスでは、酸洗溶液中の硫酸濃度及びフッ酸濃度と残留過酸化水素濃度が、酸洗効果の増大及び高速酸洗に最も重要な因子であることが分かる。従って、これら成分の濃度を制御する必要があり、各成分の濃度制御は、通常用いられる酸分析器を利用して硫酸濃度及びフッ酸濃度を調整することができ、残留過酸化水素濃度は、近赤外線分析方法または自動適正法により濃度を分析及び調節することができる。
【0063】
本発明によれば、高速で酸洗工程を行うことができ、総酸洗時間が15〜240秒間程度で、酸洗にかかる時間を大幅に短縮することができ、優れた品質を有する低クロムフェライト系ステンレス鋼板を得ることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を通じて本発明について詳しく説明する。
【0065】
実施例1
中性塩電解及び硫酸電解の実施有無によるフェライト系冷延鋼板の酸化スケールの酸洗性を確認するために、14重量%以下のクロム組成を有するフェライト系ステンレス鋼板から、中性塩電解処理及び硫酸電解処理によりそれぞれCrリッチスケール層及びFeリッチスケール層を除去した。このとき、用いられた中性塩電解溶液は、電解質として硫酸ナトリウム電解質150g/Lを含み、溶液の温度は60℃で、150A/dmの電流を40秒間印加した。さらに、硫酸電解溶液は硫酸85g/Lを含むpH1の溶液であり、溶液温度は50℃で、鋼板表面の電位が+、−、+の順に形成されるように20A/dmの電流を15秒間印加した。
【0066】
中性塩電解及び硫酸電解を行った鋼板の表面と未処理の鋼板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影して図1に示した。比較のために、電解処理した鋼板の断面を(a)に、電解処理をしていない鋼板の断面を(b)に示した。
【0067】
図1から、中性塩電解及び硫酸電解を行っていない鋼板の断面には、(Cr、Fe)及びシリコン酸化物が同時に残留することが分かり、中性塩電解及び硫酸電解を行った鋼板の断面には、シリコン酸化物だけが残留することが分かる。
【0068】
実施例2
混酸槽内での表面電位による冷延鋼板の表面状態を観察するために、上記実施例1で上記Feリッチスケール層及びCrリッチスケール層が除去された14重量%以下のクロム含量を有するフェライト系ステンレス鋼板を900℃で熱処理した後、実験試片として使用した。
【0069】
上記試片を、硫酸150g/L及び遊離フッ酸5g/Lの組成を有する45℃の混酸溶液に浸漬した後、表1に記載されるように電位を−0.6〜0.6Vの範囲で変化させながら150秒間電流を印加して混酸プロセスを行った。
【0070】
酸洗後の冷延鋼板の表面状態を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した後、酸洗の有無及び表面粗さの程度を評価した。鋼板の表面にスケールが残留する場合には未酸洗と評価し、表面粗さの程度は表面粗度3μm以上の場合を良好でないと判断して×、3μm以下の場合を良好であると判断して○と表示した。一方、未酸洗の場合には、表面粗さの程度に対する評価をしなかった。
【0071】
評価結果を下表1に示した。さらに、0.1Vと−0.3Vの電位を印加した発明例2及び比較例4の鋼板の表面状態を電子顕微鏡(SEM)で撮影して図2に示した。
【0072】
【表1】
【0073】
上記表1から分かるように、表面電位が−0.3〜0.2V印加された場合には、混酸溶液での酸洗が可能であった(発明例1〜3及び比較例4)。しかし、比較例4の場合には表面粗さの程度が不良であった。即ち、図2から分かるように、発明例2により得られた鋼板表面を示す(a)の場合には鋼板表面が結晶粒に沿って均一に溶解されたが、比較例4により得られた鋼板表面を示す(b)の場合には良好な表面品質が得られず、結晶粒の結晶面に沿って結晶が脱落する現象が起きた。
【0074】
一方、比較例1、2、3、5及び6の場合には未酸洗であった。
【0075】
このような結果から、混酸槽での表面電位は−0.2〜0.2V範囲で印加されることがSi酸化物層の溶解に適することが分かる。
【0076】
実施例3
本実施例は、フェライト系冷延鋼板の混酸酸洗において、−0.2Vの表面電位を得るための過酸化水素濃度と鉄イオン濃度との関係を確認するためのものである。
【0077】
実施例1で上記Feリッチスケール層及びCrリッチスケール層が除去された14重量%以下のクロム組成を有するフェライト系ステンレス鋼板を900℃で熱処理し、実験試片として使用した。
【0078】
上記試片を、硫酸150g/L及び遊離フッ酸5g/Lの組成を有する45℃の混酸溶液に浸漬した後、上記混酸溶液に金属イオン(Fe3+)と過酸化水素とを添加しながら鋼板の表面電位を測定した。
【0079】
鉄イオン濃度の変化による鋼板の表面電位を測定し、鉄イオン濃度の変化に応じて鋼板の表面電位を−0.2V以上に保持するための最小過酸化水素濃度を測定し、その結果を図3に示した。
【0080】
図4は鋼板の表面電位を−0.2V以上に保持するために、鉄イオンの濃度変化に対する最小過酸化水素濃度の変化を図式化したグラフである。図4から、鉄イオンが増加するにつれて鋼板の表面電位を保持するための最小過酸化水素濃度が徐々に減少することが分かる。しかし、鉄イオン濃度が40g/L以上に増加し続けても最小過酸化水素濃度は1g/L以下には低くならないことが分かる。このような結果から、鋼板表面電位を−0.2V以上に保持するための鉄イオン濃度による最小過酸化水素濃度の関係を式で表すと、次のようになる。
【0081】
【数5】
【0082】
実施例4
本実施例は、中性塩電解を実施する場合に適する操業条件を確認するためのものである。
【0083】
中性塩電解は上記実施例1と同様の方法で行った。但し、電解槽の溶液温度、印加電流、及び硫酸ナトリウム濃度は下表2に記載した通りである。
【0084】
中性塩電解を行った鋼板の表面状態を観察し、その結果を表2に示した。表面状態が良好である場合を○、クロム酸化物スケールが存在するなど、表面状態が不良である場合を×と表示する。
【0085】
【表2】
【0086】
上記結果から分かるように、電解槽内の溶液温度が50〜90℃で、電解溶液中に電解質として硫酸ナトリウム100〜250g/Lを含み、10〜30A/dmの電流密度を有する条件下で中性塩電解を行った場合、鋼板の表面品質が優れていた。
【0087】
実施例5
本実施例は、硫酸電解を実施する場合に適する操業条件を確認するためのものである。
【0088】
硫酸電解は上記実施例1と同様の方法で行った。但し、電解槽の溶液温度、印加電流、及び硫酸ナトリウム濃度は下表3に記載した通りである。
【0089】
硫酸電解を行った鋼板の表面状態を観察し、その結果を表3に示した。Fe酸化物スケール及びCr酸化物スケールがすべて除去され、Si酸化物スケールだけが残留して表面状態が良好である場合を○、鉄またはクロムの酸化物スケールが残存するなど表面状態が不良である場合を×と表示する。
【0090】
【表3】
【0091】
上記結果から分かるように、電解槽内の溶液温度が30〜60℃で、電解溶液中の硫酸濃度が50〜150g/Lであって、10〜30A/dmの電流密度を有する条件下で硫酸電解を行った場合、鋼板の表面品質が優れていた。
【0092】
実施例6
本実施例は、中性塩電解及び硫酸電解に適する処理時間を確認するためのものである。
【0093】
中性塩電解及び硫酸電解条件は実施例1と同様に行った。但し、処理時間は下表4のようにした。
【0094】
中性塩電解及び硫酸電解の処理時間による酸洗の有無を観察した。シリコン酸化物の他にクロムや鉄の酸化物スケールが残存しない場合を○と表示し、シリコン酸化物の他にクロムや鉄の酸化物スケールが残存する場合を未酸洗、母材の浸食がある場合を過酸洗と判断して、未酸洗及び過酸洗が現われる場合を×と表示し、その結果を表4に示した。
【0095】
【表4】
【0096】
上記表4から、鋼板表面に中性塩電解を0〜90秒間の範囲で行い、硫酸電解を5〜50秒間の範囲で行う場合は、図2の(a)のようにステンレス冷延鋼板表面にはSi酸化物だけが存在したが、上記範囲から外れる比較例1〜4の場合は、図2の(b)のような表面状態を有し、(Cr、Fe)のスケールが存在することが分かる。これにより混酸槽での処理時間を最小化することができる。
【0097】
実施例7
本実施例は、混酸槽での適する処理条件を確認するためのものである。
【0098】
実施例1のように、中性塩電解及び硫酸電解を行った鋼板に対し、下表5のような条件で混酸溶液処理をした。このとき、混酸溶液の処理温度は常温で、過酸化水素濃度は実施例3のように調節した。
【0099】
これによる酸洗の有無を観察し、その結果を○及び×で表示して表5に示した。シリコン酸化物が残存しない場合を○と表示し、シリコン酸化物が残存する場合を未酸洗、母材の浸食がある場合を過酸洗と判断して、未酸洗及び過酸洗が現われる場合を×と表示した。
【0100】
【表5】
【0101】
上記表5から分かるように、硫酸70〜200g/L、遊離フッ酸1〜10g/L、及び鉄イオン濃度による最小過酸化水素が1.0g/L以上からなる酸洗組成物に10〜100秒間浸漬して酸洗することが好ましい。
【0102】
実施例8
本実施例は、フェライト系冷延鋼板に対して、従来の硝酸−フッ酸混酸液を用いて酸洗する場合と、本発明による硫酸−フッ酸−過酸化水素混酸液を用いて酸洗する場合の、鋼板の酸洗品質を比較するためのものである。
【0103】
クロム含量が14重量%以下のフェライト系ステンレス冷延鋼板を混酸溶液で酸洗処理した後、光沢度を測定した(n=15)。混酸条件及び混酸溶液はそれぞれ下記の通りである。
【0104】
比較例1:フェライト系ステンレス冷延鋼板を、実施例1に従って中性塩電解及び硫酸電解を行った後、硝酸100g/L及びフッ酸3g/Lを含む混酸溶液に30秒間浸漬して酸洗し、その後光沢度を測定した。
【0105】
発明例1:実施例7の発明例4により得られた鋼板の光沢度を測定した。
【0106】
発明例2:実施例7の発明例2により得られた鋼板の光沢度を測定した。
【0107】
上記それぞれの鋼板について測定した光沢度を図5に示した。
【0108】
図5から、従来の硝酸酸洗による比較例1の鋼板と、未酸洗状態の鋼板に本発明の混酸酸洗方法を適用した鋼板とを比較すると、本発明により得られた鋼板は130以上の光沢度を有し、比較例1の鋼板より40〜60程度の光沢度の上昇効果が得られることが分かる。
【0109】
従って、本発明を適用する場合には、酸洗後の鋼板の表面品質を向上させることができることが分かる。
図1(a)】
図1(b)】
図2(a)】
図2(b)】
図3
図4
図5