(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記押さえ部材には、液体を前記培養液内に注入することで前記培養液内の気泡を前記気泡放出部側に移動させるのに用いられる液体供給部がさらに形成されている、請求項1〜3のいずれかに記載の培養容器。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.第1実施形態
(1)全体構造
図1〜
図3を用いて、本発明の一実施形態としての培養容器としての細胞培養容器1を説明する。
図1は、細胞培養容器の容器本体の斜視図である。
図2及び
図3は、細胞培養容器の押さえ部材付き板の斜視図である。
【0015】
図に示すように、細胞培養容器1は、容器本体3と、押さえ部材付き板5とを備えている。容器本体3は、平面視で長方形状であり、培養液としての細胞培養液Cを収容するための複数の凹部(ウェル)7を有する。容器本体3は、肉厚は薄く、透明性の部材であり、例えば透明プラスチック製である。容器本体3は、公知のものであり、例えば、一般的なウェルプレートである。
押さえ部材付き板5は、容器本体3に対応する長方形形状であり、凹部7に対応する複数の押さえ部材9を有している。押さえ部材付き板5は、肉厚は薄く、透明性の部材であり、例えば透明プラスチック製である。押さえ部材付き板5は、平板状の本体5aと、その外周面に形成された枠5bとを有している。押さえ部材付き板5の本体5aには、複数の押さえ部材9が設けられている。押さえ部材9は、凹部7の上側に取り外し可能に嵌め込まれる部材である。
なお、
図2に示す押さえ部材付き板5は6×4合計24個の押さえ部材9を有しており、
図3に示す押さえ部材付き板5Aは6×1合計6個の押さえ部材9を有している。
図3に示す押さえ部材付き板5Aは、
図1に示す容器本体3に対しては4個が用いられる。
【0016】
図4は、細胞培養容器の断面図である。
図4に示すように、押さえ部材付き板5が容器本体3に嵌められた状態では、複数の押さえ部材9が複数の凹部7内にそれぞれ入り込み、細胞培養液Cが入った凹部7を封止している。これにより、細胞培養液Cの揮発による減少が抑えられている。特に、小径の凹部に関しては、細胞培養液Cの揮発による減少を抑えることが重要である。
【0017】
なお、図示していないが、細胞培養中には、細胞培養容器1の上方から(つまり、押さえ部材付き板5の上方から)、蓋が被される。蓋は、容器本体3及び押さえ部材付き板5の上部を覆う。これにより、細胞培養液に対するコンタミネーションが防止される。
細胞培養容器1における細胞の観察は、各凹部7の下方から各種顕微鏡を用いて行われる。具体的には、細胞は凹部7の底部に接着した状態になっていることが多いので、そのような状態で細胞は観察される。ただし、浮遊培養を行う場合は、細胞培養液C内を浮遊している細胞を観察することもある。
【0018】
(2)詳細構造
次に、
図5〜
図7を用いて、凹部7と押さえ部材9の構造及び両者の関係を詳細に説明する。
図5は、細胞培養容器の一部の平面図である。
図6は
図5のVI−VI断面図であり、
図7は
図5のVII−VII断面図である。
【0019】
押さえ部材9は、嵌められた状態で細胞培養液Cの上面に当接する下面23a(後述)を有している。さらに、押さえ部材9は、細胞培養液C内の気泡を外部に放出可能にする気泡放出部13を有している。この実施形態では、気泡放出部13は、筒状部25の外周面に形成された、下面23a(後述)の外周側と押さえ部材9の外部とを連通する凹部である。
【0020】
凹部7は、底部17と、筒状部19とを有している。筒状部19の内周面19aは、縦断面において概ね鉛直に延びている。
【0021】
押さえ部材9は、主に、下面部23と、筒状部25とを有している。下面部23は、平面視で円形状の平板である。筒状部25は、凹部7の筒状部19内にわずかな隙間で嵌まり込んでいる。つまり、筒状部25の外周面25aは、筒状部19の内周面19aに近接した状態で対向している。筒状部25の下端には、下面部23の外周縁が接続されている。
【0022】
押さえ部材9は、さらにフランジ部27を有している。この実施形態では説明の便宜のために、フランジ部27は、押さえ部材付き板5の本体5aに固定された部材として説明しているが、本体5aと一体に形成されていてもよい。フランジ部27は、筒状部25から外周側に延びており、凹部7の筒状部19の上面に着座している。このように、押さえ部材9にフランジ部27が設けられているので、押さえ部材9を凹部7から取り外すことが容易になっている。
【0023】
図に示すように、押さえ部材9の一部に、気泡放出部13が形成されている。気泡放出部13は、細胞培養液C内の気泡を外部に放出可能にする構造である。この実施形態では、気泡放出部13は、筒状部25の外周面25aの一部が切り欠かれて形成された凹部であり、この凹部は、
図7に示すように、下面部23の下面23aから細胞培養容器1の外部まで延びている。なお、この実施形態では、フランジ部27は平面視で円弧状に切り欠かれている。
このように気泡放出部13が押さえ部材9に設けられていることで、押さえ部材9によってメニスカスを解消すると共に、気泡の滞留も防止している。したがって、正確にかつ広い面積にわたって、つまり凹部7の外周縁までの広い範囲で、細胞を観察できる。
【0024】
下面部23の下面23aは、平面形状であるが、水平ではなく、斜めになっている(
図7の角度θを参照。)。より具体的には、下面23aは、気泡放出部13付近が最も高くなるように傾斜している。これにより、下面23a付近にある気泡は、下面23aに沿って気泡放出部13に向けて誘導される。
なお、下面23aの傾斜角度θは、1〜30度であり、より好ましくは1〜5度である。
【0025】
下面部23の下面23aには、親水化処理が施されている。したがって、下面23a近傍に気泡が滞留しにくい。親水化処理は公知技術(例えば、親水性ポリマーの塗布)が用いられる。また、親水化処理によって、浮遊培養で培養する細胞が下面部23の下面23aに付着することが防止されている。
【0026】
押さえ部材9には、液体供給部31が形成されている。液体供給部31は、液体を細胞培養液C内に注入することで細胞培養液C内の気泡を気泡放出部13側に移動させるのに用いられる。この実施形態では、液体供給部31は、筒状部25の外周面25aの一部が切り欠かれて形成された凹部であり、この凹部は、下面部23の下面23aから細胞培養容器1の外部まで延びている。
【0027】
また、液体供給部31は、気泡放出部13に対して径方向に対向する位置に形成されている。つまり、液体供給部31は、下面23aの最も低い位置に配置されている。液体が液体供給部31から細胞培養液C内に注入されると、細胞培養液C内の気泡が気泡放出部13側に移動させられる。したがって、押さえ部材9の下面23a近傍に気泡が滞留しにくい。液体供給には、例えば、ピペットが用いられる。
さらに、気泡放出部13及び液体供給部31は、ピペットによる差し込み播種を可能にしている。これにより、押さえ部材9をかぶせた後に、細胞全体の数量及び成長状況を調整できる。
【0028】
以上に述べたように、押さえ部材9の下面部23が細胞培養液Cの上面に当接しているので、メニスカス問題が解消されている。さらに、下面部23の外周縁が凹部7の内周面19a近傍まで延びているので、観察面積が増大している。
従来であれば、例えば直径7mm程度の凹部においてメニスカスの影響を受けずに観察できる範囲は直径1〜3mm程度であったが、本実施形態では押さえ部材9の肉厚を除いて直径5mm程度の範囲で観察可能になる。これにより、従来では推察によって判断していた領域の確認ができるようになり、正確な経時変化及び状態観察が可能になる。
【0029】
スリットによる押さえ部材9の開口部分の面積は、下面部23の面積に対して、1〜50%、好ましくは3〜30%である。これにより、細胞の観察に不具合を生じさせることがない広い観察面積を確保でき、かつ、細胞培養液C及び気泡を下面部23の下方から取り除くことができる。
さらに、気泡放出部13によって、細胞培養液C内の気泡を細胞培養容器1の外部に放出できる。また、下面23aの傾斜及び親水化処理、さらには液体供給部31によって、気泡の排出が確実かつ速やかに行われるようになっている。
【0030】
押さえ部材9を凹部7に嵌める動作を簡単に説明する。最初に凹部7内に細胞培養液Cを注入する。このときの細胞培養液Cの量は、例えば、押さえ部材9の下面23aが細胞培養液の上面に当接する位置である。次に、押さえ部材9を凹部7に嵌める。すると、例えば
図7に示すように、細胞培養液Cの液面は下面23aに押された状態になる。そして、細胞培養液Cの一部は、気泡放出部13及び液体供給部31内に入り込む。
【0031】
なお、下面23aの傾斜は、省略されてもよいし、他の形状であってもよい。例えば、下面23aは、気泡放出部付近の傾斜角度が大きい2段階の傾斜面であってもよい。また下面23aの親水化処理は、省略されてもよいし、部分的に行われていてもよい。さらには、液体供給部31は省略されてもよいし、他の形状であってもよい。
【0032】
上記実施形態における押さえ部材及び凹部の寸法について、具体例を説明する。なお、以下の具体例は、メニスカスが顕著になるウェルのサイズを例示するものであって、本発明はこれら数値に限定されない。
一般的には、容器本体の種類としては、6、12、24、48、96、384ウェルがある。24ウェルの場合は、押さえ部材の内径は8.0〜14.0mmであり、押さえ部材の縦方向長さ(フランジを除く)は3.0〜10.0mmであり、押さえ部材の外径は8.0〜14.0mmであり、凹部の底面内径は14.0〜17.0mmである。96ウェルの場合は、押さえ部材の内径は4.0〜5.0mmであり、押さえ部材の縦方向長さ(フランジを除く)は3.0〜10.0mmであり、押さえ部材の外径は4.0〜5.0mmであり、凹部の底面内径は5.0〜7.0mmである。
【0033】
2.第2実施形態
以下、
図8及び
図9を用いて、第2実施形態を説明する。
図8は、細胞培養容器の一部の平面図である。
図9は、
図8のIX−IX断面図である。
なお、押さえ部材及び凹部の基本的な構成は前記実施形態と同じである。以下、異なる点を中心に説明する。
【0034】
押さえ部材9は、嵌められた状態で細胞培養液Cの上面に当接する下面41a(後述)を有している。さらに、押さえ部材9は、細胞培養液C内の気泡を外部に放出可能にする気泡放出部43を有している。この実施形態では、気泡放出部43は、下面部41の外周縁に形成された円弧状に延びかつ上下方向に貫通する複数の溝である。具体的には、気泡放出部43は、図右側の一対の第1溝43aと、図左側の一対の第2溝43bとを有している。図右側の一対の第1溝43aは、下面部41の図右側半分の外周縁全体にわたって延びている。また、図左側の一対の第2溝43bは、下面部41の図左側半分の外周縁全体にわたって延びている。
【0035】
このように気泡放出部43が押さえ部材9に設けられていることで、押さえ部材9によってメニスカスを解消すると共に、気泡の滞留も防止している。したがって、正確にかつ広い面積にわたって、つまり凹部7の外周縁までの広い範囲で、細胞を観察できる。
【0036】
下面部41の下面41aは、図左右に二分割されており、図左右中心からそれぞれ左右両側に斜めの平面形状を有している(
図9の角度θを参照。)。より具体的には、下面41aの図右側部分は、一対の第1溝43aの中間付近が最も高くなるように傾斜している。下面41aの図左側部分は、一対の第2溝43bの中間付近が最も高くなるように傾斜している。これにより、下面41a付近にある気泡は、下面41aに沿って、一対の第1溝43aと一対の第2溝43bとに向けて誘導される。
【0037】
押さえ部材9を凹部7に嵌める動作を簡単に説明する。最初に凹部7内に細胞培養液Cを注入する。このときの細胞培養液Cの量は、例えば、押さえ部材9の下面41aが細胞培養液Cの上面に当接する位置である。次に、押さえ部材9を凹部7に嵌める。すると、例えば
図9に示すように、細胞培養液Cの液面は下面41aに押された状態になる。この場合、細胞培養液Cの一部は、気泡放出部43の第1溝43a及び第2溝43bに入り込む。なお、
図9では、細胞培養液の液面は第1溝43a及び第2溝43bの中に位置にしているが、細胞培養液Cは第1溝43a及び第2溝43bを超えて、一部が下面部41の上側にこぼれてもよい。
【0038】
この実施形態で得られる効果は、第1実施形態で得られる効果と同じである。
また、気泡放出部としての溝の数、位置、形状は必要に応じて変更可能である。また、下面部に形成された気泡放出部は、溝形状ではなく、孔形状であってもよい。
下面23aの形状は前記実施形態に限定されない。下面は、全体が水平に延びる平面であってもよいし、各溝に対応して形成された複数の傾斜平面であってもよい。
【0039】
3.第3実施形態
以下、
図10及び
図11を用いて、第3実施形態を説明する。
図10は、細胞培養容器の一部の平面図である。
図11は、
図10のXI−XI断面図である。
なお、押さえ部材及び凹部の基本的な構成は前記実施形態と同じである。以下、異なる点を中心に説明する。
【0040】
押さえ部材9は、嵌められた状態で細胞培養液Cの上面に当接する下面45a(後述)を有している。さらに、押さえ部材9は、細胞培養液C内の気泡を外部に放出可能にする気泡放出部47を有している。この実施形態では、気泡放出部47は、下面部41の左右中心に形成された直線状に延びる溝である。具体的には、気泡放出部47は、図において、下面部41の外周縁から外周縁まで延びている。
【0041】
このように気泡放出部47が押さえ部材9に設けられていることで、押さえ部材9によってメニスカスを解消すると共に、気泡の滞留も防止している。したがって、正確にかつ広い面積にわたって、つまり凹部7の外周縁までの広い範囲で、細胞を観察できる。
【0042】
下面部45の下面45aは、図左右に二分割されており、図左右中心からそれぞれ左右両側に斜めの平面形状を有している(
図11の角度θを参照。)。より具体的には、下面45aの図右側部分は、気泡放出部47付近が最も高くなるように傾斜している。下面45aの図左側部分は、気泡放出部47付近が最も高くなるように傾斜している。これにより、下面45a付近にある気泡は、下面45aに沿って、気泡放出部47に向けて誘導される。
この実施形態で得られる効果は、第1〜第2実施形態で得られる効果と同じである。
【0043】
また、気泡放出部としての溝の数、位置、形状は必要に応じて変更可能である。また、下面部に形成された気泡放出部は、溝形状ではなく、孔形状であってもよい。
下面45aの形状は前記実施形態に限定されない。下面は、全体が水平に延びる平面であってもよい。
【0044】
4.第4実施形態
以下、
図12及び
図13を用いて、第4実施形態を説明する。
図12は、細胞培養容器の一部の平面図である。
図13は、
図12のXIII−XIII断面図である。
なお、押さえ部材及び凹部の基本的な構成は前記実施形態と同じである。以下、異なる点を中心に説明する。
【0045】
押さえ部材9は、嵌められた状態で細胞培養液Cの上面に当接する下面49a(後述)を有している。さらに、押さえ部材9は、細胞培養液C内の気泡を外部に放出可能にする気泡放出部51を有している。この実施形態では、気泡放出部51は、下面部49の外周縁に形成された円弧状に延びる溝である。具体的には、気泡放出部51は、図において、図右側の一対の第1溝51aを有している。一対の第1溝51aは、下面部49の外周縁の図右側半分全体にわたって延びている。
【0046】
このように気泡放出部51が押さえ部材9に設けられていることで、気泡の滞留も防止している。したがって、正確にかつ広い面積にわたって、つまり凹部7の外周縁までの広い範囲で、細胞を観察できる。
【0047】
下面部49の下面49aは、平面形状であるが、水平ではなく、斜めになっている(
図13の角度θを参照。)。より具体的には、下面49aは、気泡放出部51一対の第1溝51a同士の中間付近が最も高くなるように傾斜している。これにより、下面49a付近にある気泡は、下面49aに沿って気泡放出部51に向けて誘導される。
【0048】
押さえ部材9には、液体供給部52が形成されている。液体供給部52は、液体を細胞培養液C内に注入することで細胞培養液C内の気泡を気泡放出部51側に移動させるのに用いられる。この実施形態は、液体供給部52は、下面部49の外周縁に形成された円弧状に延びる溝である。具体的には、液体供給部52は、図において、図左側の一対の第2溝52aを有している。一対の第2溝52aは、下面部49の外周縁の図左側半分全体にわたって延びている。
【0049】
また、液体供給部52は、気泡放出部51に対して径方向に対向する位置に形成されている。つまり、液体供給部52の一対の第2溝52a同士の中間が、下面49aの最も低い位置となっている。液体が液体供給部52から細胞培養液C内に注入されると、細胞培養液C内の気泡が気泡放出部51側に移動させられる。したがって、押さえ部材9の下面49a近傍に気泡が滞留しにくい。液体供給には、例えば、ピペットが用いられる。
【0050】
この実施形態で得られる効果は、第1〜第3実施形態で得られる効果と同じである。
なお、下面49aの傾斜は、省略されてもよいし、他の形状であってもよい。また、下面49aの親水化処理は、省略されてもよいし、部分的に行われてもよい。さらには、液体供給部52は、省略されてもよいし、他の形状であってもよい。
【0051】
5.第5実施形態
以下、
図14及び
図15を用いて、第5実施形態を説明する。
図14は、細胞培養容器の一部の平面図である。
図15は、
図14のXV−XV断面図である。
なお、押さえ部材及び凹部の基本的な構成は前記実施形態と同じである。以下、異なる点を中心に説明する。
【0052】
押さえ部材9は、嵌められた状態で細胞培養液Cの上面に当接する下面53a(後述)を有している。さらに、押さえ部材9は、細胞培養液C内の気泡を外部に放出可能にする気泡放出部55を有している。この実施形態では、気泡放出部55は、下面部53の外周縁に形成された円弧状に延びる溝である。具体的には、気泡放出部55は、下面部53の図右側半分の外周縁に沿って延びる溝である。
【0053】
このように気泡放出部55が押さえ部材9に設けられていることで、押さえ部材9によってメニスカスを解消すると共に、気泡の滞留も防止している。したがって、正確にかつ広い面積にわたって、つまり凹部7の外周縁までの広い範囲で、細胞を観察できる。
【0054】
下面部53の下面53aは、平面形状であるが、水平ではなく、斜めになっている(
図15の角度θを参照。)。より具体的には、下面53aは、気泡放出部55の中間部付近が最も高くなるように傾斜している。これにより、下面53a付近にある気泡は、下面53aに沿って気泡放出部55に向けて誘導される。
【0055】
この実施形態で得られる効果は、第1〜第4実施形態で得られる効果と同じである。
気泡放出部としての溝の数、位置、形状は必要に応じて変更可能である。また、下面部に形成された気泡放出部は、溝形状ではなく、孔形状であってもよい。
下面部の下面の形状は前記実施形態に限定されない。下面は、全体が水平に延びる平面であってもよい。
【0056】
6.第6実施形態
以下、
図16及び
図17を用いて、第6実施形態を説明する。
図16は、細胞培養容器の一部の平面図である。
図17は、
図16のXVII−XVII断面図である。
なお、押さえ部材及び凹部の基本的な構成は前記実施形態と同じである。以下、異なる点を中心に説明する。
【0057】
押さえ部材9は、嵌められた状態で細胞培養液Cの上面に当接する下面57a(後述)を有している。さらに、押さえ部材9は、細胞培養液C内の気泡を外部に放出可能にする気泡放出部59を有している。この実施形態では、気泡放出部59は、下面部57の外周縁に形成された円弧状に延びる複数の溝である。具体的には、合計4本の溝が形成されている。
【0058】
このように気泡放出部59が押さえ部材9に設けられていることで、押さえ部材9によってメニスカスを解消すると共に、気泡の滞留も防止している。したがって、正確にかつ広い面積にわたって、つまり凹部7の外周縁までの広い範囲で、細胞を観察できる。
【0059】
下面部57の下面57aは、水平に延びる平端面である。
なお、この実施形態では、複数の気泡放出部59のいずれかを液体供給部として用いることができる。
【0060】
この実施形態で得られる効果は、第1〜第5実施形態で得られる効果と同じである。
また、気泡放出部である溝の数、位置、形状は必要に応じて変更可能である。また、下面部に形成された気泡放出部は、溝形状ではなく、孔形状であってもよい。
【0061】
7.第7実施形態
次に、
図18及び
図19を用いて、第7実施形態を説明する。
図18は、細胞培養容器の一部の平面図である。
図19は
図18のXIX−XIX断面図である。
なお、押さえ部材及び凹部の基本的な構成は前記実施形態と同じである。以下、異なる点を中心に説明する。
【0062】
押さえ部材9は、嵌められた状態で細胞培養液Cの上面に当接する下面61a(後述)を有している。さらに、押さえ部材9は、細胞培養液C内の気泡を外部に放出可能にする気泡放出部63を有している。
【0063】
この実施形態では、気泡放出部63は、筒状部25の外周面25aの一部が切り欠かれて形成された凹部であり、この凹部は、下面部61の下面61aから細胞培養容器1の外部まで延びている。なお、この実施形態では、フランジ部27は平面視で直線状に切り欠かれている。
このように気泡放出部63が押さえ部材9に設けられていることで、押さえ部材9によってメニスカスを解消すると共に、気泡の滞留も防止している。したがって、正確にかつ広い面積にわたって、つまり凹部7の外周縁までの広い範囲で、細胞を観察できる。
【0064】
下面部61の下面61aは、平面形状であるが、水平ではなく、斜めになっている(
図19の角度θを参照。)。より具体的には、下面61aは、気泡放出部63付近が最も高くなるように傾斜している。これにより、下面61a付近にある気泡は、下面61aに沿って気泡放出部63に向けて誘導される。
この実施形態で得られる効果は、第1〜第6実施形態で得られる効果と同じである。
【0065】
8.第8実施形態
第1〜第7実施形態では、下面部23、53,63は、底部17から比較的離れた位置に配置されていたが、この位置は特に限定されない。
【0066】
図20を用いて、第9実施形態を説明する。
図20は、細胞培養容器の断面図である。なお、押さえ部材及び凹部の基本的な構成は前記実施形態と同じである。以下、異なる点を中心に説明する。
図から明らかなように、下面部23Aは、底部17に近接して配置されている。この構造は、第1〜第8実施形態のいずれにも適用可能であり、それら実施形態と同じ効果が得られる。
【0067】
9.第9実施形態
第1〜第8実施形態では培養液内の細胞を観察する容器に本発明を適用していたが、
本発明は他の種類の容器にも適用可能である。
図21〜
図24を用いて、スフェロイド形成用の細胞培養容器を説明する。
図21〜
図24は細胞培養容器の断面図である。
図25は、押さえ部材の上面図である。
なお、押さえ部材及び凹部の基本的な構成は前記実施形態と同じである。以下、異なる点を中心に説明する。
【0068】
図21は、細胞培養容器の容器本体103を示している。容器本体103は、上側が開口した容器であり、細胞培養液Cを保持している。細胞培養液Cは、多数の種細胞cを含んでいる。
凹部107の底部117には、マイクロウェル部材131が設置されている。マイクロウェル部材131は、複数のマイクロウェル131aを有する部材である。具体的には、マイクロウェル部材131は、上面(第1部分に相当)に多数のマイクロウェル131aを有している。マイクロウェル131aの径は、例えば30〜1500μmであり、好ましくは50〜300μmである。マイクロウェル131aの深さは、例えば、30〜1500μmであり、好ましくは50〜300μmである。
この実施形態では、マイクロウェル部材131は底部117の中心に設けられ、その上面は底部117から比較的離れた上方に配置されている。そのため、底部117においてマイクロウェル部材131の外周側はマイクロウェル部材131の上面より低い面(第2部分に相当)となっている。
【0069】
図22に示すように、押さえ部材109が容器本体103の凹部107内に挿入される。押さえ部材109は、
図22及び
図25に示すように、円板状の下面部123を有している。下面部123の下面123aは、マイクロウェル部材131の上面(マイクロウェル131aが形成された部分)に近接して配置される。下面部123の下面123aとマイクロウェル部材131の上面との間の寸法は、スフェロイドSの径より短ければよく、例えば、0〜300μmである。また、下面部123において、マイクロウェル部材131よりさらに外周側の部分には、複数の気泡放出部123bが形成されている。つまり、気泡放出部123bは、底部117の第2部分(マイクロウェル131aがない部分)に対応して設けられている。気泡放出部123bは、点状の貫通孔である。したがって、下面部123より下方の空間(例えば、複数のマイクロウェル131a、マイクロウェル部材131の周囲)における気泡は、容易に外部に排出される。
【0070】
最初に、種細胞cの播種を行う。具体的には、
図21に示すように、細胞培養液Cを凹部107内に注入する。細胞培養液Cは、液体の培地と、培地に均一に拡散された種細胞cとからなる懸濁液である。種細胞cは、付着性を有しており、例えば、ヒト骨肉腫細胞などのガン細胞や肝細胞である。培地は、付着性細胞の培養に適した公知のものが用いられる。以上の場合、個々の種細胞cが、マイクロウェル131aにまで降下し着床する。
【0071】
続いて、
図22に示すように押さえ部材109が凹部107に嵌められる。
そして、
図23に示すように、マイクロウェル131a内で、複数の種細胞cが凝集することで、スフェロイドSを形成する。この細胞培養容器では、下面部123が、凹部107内で複数のマイクロウェル131aの上方に配置され、マイクロウェル131a内で成長したスフェロイドSが当該マイクロウェル131aから離脱しないように移動を制限している。したがって、細胞培養容器においてスフェロイドSが安定的に形成される。
【0072】
図示しない管及びポンプを用いて、凹部107内部へ培地を供給及び排出する装置を設けてもよい。これにより、流入口を通じて新たな培地を凹部107内へ注入し、かつ流出口を通じて細胞培養容器内の培地を排出できる。つまり、種細胞cがマイクロウェル131aにおいてスフェロイドSを形成している際に、凹部107内の培地交換が行われる。
上記の培地交換において、凹部107内において培地の流れが生じるが、このとき、下面部123によってスフェロイドSを押さえているので、スフェロイドSがマイクロウェル131aから飛び出さない。したがって、スフェロイドSの流出が防止されている。
【0073】
前述された培地交換によって、培地循環によって、培養中にも細胞に栄養分及び酸素が供給され、細胞が健康に成長する。その結果、比較的長い培養期間を要する大きなスフェロイドSを形成することができ、さらに、形成されたスフェロイドSを長期間保存できる。また、培地交換によって、スフェロイドSにならなかった細胞ゴミ及び老廃物が取り除かれる。
【0074】
図24に示すように、細胞培養液Cを減らして、下面部123より上側に細胞培養液Cが存在しないようにした上で、容器本体103の下方からスフェロイドSを観察する。このとき、下面部123の下面123aが細胞培養液Cの上面に当接していることで、メニスカスが解消される。この結果、容器本体103において、複数のマイクロウェル131aで成長したスフェロイドSを正確に観察できる。
【0075】
また、下面部123において複数のマイクロウェル131aに対応する位置には気泡放出部が形成されていないので、複数のマイクロウェル131aで成長したスフェロイドSを正確に観察できる。
【0076】
10.第10実施形態
第9実施形態では気泡放出部は複数の孔であったが、気泡放出部の形態はそれに限定されない。
図26を用いて、押さえ部材の他の実施形態を説明する。
図26は、押さえ部材の上面図である。なお、押さえ部材及び凹部の基本的な構成は前記実施形態と同じである。以下、異なる点を中心に説明する。
下面部123において、マイクロウェル部材131よりさらに外周側の部分には複数の気泡放出部123cが形成されている。気泡放出部123cは、円周方向に延びる弧状の貫通溝である。
【0077】
下面部に形成される気泡放出部としての貫通孔の形状、個数、位置は特に限定されない。また、気泡放出部は、下面部に形成される貫通孔に限定されない。気泡放出部は、押さえ部材109の筒状部125と容器本体103の筒状部119との間に形成された切り欠き、スリット、貫通孔であってもよい。
下面部123において複数のマイクロウェル131aに対応する位置(つまり中心部及び半径方向中間部)には気泡放出部が形成されていないので、複数のマイクロウェル131aで成長したスフェロイドSを正確に観察できる。
【0078】
11.第11実施形態
第9実施形態では押さえ部材の下面部は平坦な形状であったが、下面部の形状は特に限定されない。
図27を用いて、押さえ部材109の他の実施形態を説明する。
図27は、細胞培養容器の断面図である。なお、押さえ部材及び凹部の基本的な構成は前記実施形態と同じである。以下、異なる点を中心に説明する。
【0079】
図に示すように、押さえ部材109の下面部は、平坦な押さえ部123Aと、環状の突出部123Bとを有している。押さえ部123Aは、マイクロウェル部材131の上面に近接して配置されている。環状の突出部123Bは、押さえ部123Aの外周縁に形成され、下方に延びている。つまり、突出部123Bは、マイクロウェル部材131の外周側を囲むように配置されている。突出部123Bの底面には、複数の気泡放出部123bが形成されている。気泡放出部123bの形状は、点状又は弧状の貫通孔又はそれらの組合せである。
下面部において複数のマイクロウェル131aに対応する位置(つまり、押さえ部123A)には気泡放出部が形成されていないので、複数のマイクロウェル131aで成長したスフェロイドSを正確に観察できる。
【0080】
12.第12実施形態
特に、第8〜第11実施形態では、押さえ部材の下面部とその下方の部材との間の寸法を正確に管理することが求められる。しかし、押さえ部材は培養容器の培地に押し込んで使用されるので、浮力で押さえ部材が浮いてしまうという問題が考えられる。
そこで、
図28を用いて、そのような課題を解決するための構造を説明する。
図28は、細胞培養容器の断面図である。
【0081】
図に示すように、押さえ部材付き板5の上方には、蓋11が配置されている。蓋11は、押さえ部材付き板5の上側全体を覆っている。蓋11は、平坦な本体11aと、その外周縁から下方に延びる筒状部11bとを有している。蓋11の本体11aと、押さえ部材付き板5のフランジ部27との間には、クッション部材12が配置されている。クッション部材12は、バネ、ゴム、スポンジ等の弾性部材である。
【0082】
クッション部材12は、押さえ部材付き板5と蓋11との間で圧縮されることで、弾性力を発生する。これにより、押さえ部材付き板5が浮き上がることが防止され、容器本体3内に固定できる。これにより、例えば、スフェロイドを形成するような場合でも、マイクロウェルとメッシュとの間の隙間を十分に短くでき、それによりスフェロイド固定効果が得られる。
【0083】
13.第13実施形態
第12実施形態では、蓋は自重のみによって弾性部材を圧縮していたが、他の構造によって弾性部材を圧縮してもよい。
そこで、
図29を用いて、そのような課題を解決するための構造を説明する。
図29は、細胞培養容器の断面図である。
【0084】
基本的な構造は第12実施形態と同じである。
この実施形態では、容器本体3の外周部に第1係合部15が形成され、さらに蓋11の筒状部11bに第2係合部16が形成されている。第1係合部15と第2係合部16は互いに係合しており、それにより蓋11が容器本体3から離れないようになっている。
この実施形態では、クッション部材12は、押さえ部材付き板5と蓋11との間で圧縮されることで、弾性力を発生する。これにより、押さえ部材付き板5の浮きが防止され、容器本体3内に固定できる。これにより、例えば、スフェロイドを形成するような場合でも、マイクロウェルとメッシュとの間の隙間を十分に短くでき、それによりスフェロイド固定効果が得られる。
【0085】
14.第14実施形態
第12実施形態及び第13実施形態では、蓋及びクッション部材を用いることで押さえ部材付き板5の浮き上がりを防止していたが、他の手段によっても浮き上がり防止は可能である。例えば、押さえ部材付き板5の重量を増加することで、浮力による浮きを防止できる。具体的には、金属製材料を一部に使うことでで、押さえ部材付き板5自体を重くする。又は、押さえ部材付き板5の一部に錘を付ける。
【0086】
15.第15実施形態
複数の押さえ部材が複数の凹部にスムーズに嵌まるように両者に位置決め構造を設けた実施形態を説明する。
【0087】
そのような実施形態を、
図30を用いて説明する。
図30は、細胞培養容器の容器本体の斜視図である。
なお、基本的な構造は第1〜第14実施形態と同じである。以下、異なる点を中心に説明する。
【0088】
容器本体3の上側の隅には、複数のピン71が立設されている。具体的には、ピン71は、容器本体3の凹部7が形成された本体部分の外側部分の四隅に配置されている。
押さえ部材付き板5には、ピン71に対応する位置に孔73が形成されている。具体的には、孔73は、枠5bの四隅に形成されている。
【0089】
押さえ部材付き板5を容器本体3に嵌めるときに、ピン71と孔73によって位置決めすることで、複数の押さえ部材9が凹部7にスムーズに嵌まり込む。
なお、ピンと孔の数は前記実施形態に限定されない。さらに、容器本体3と押さえ部材付き板5との位置決め構造は、ピンと孔に限定されない。
【0090】
16.実施形態の共通事項
上記第1〜第15実施形態は、下記の構成及び機能を共通に有している。
培養容器(例えば、細胞培養容器1)は、容器本体(例えば、容器本体3,容器本体103)と、押さえ部材(例えば、押さえ部材9、押さえ部材109)とを備えている。
容器本体は、培養液(例えば、細胞培養液C)を収容するための凹部(例えば、凹部7、凹部107)を有する。
【0091】
押さえ部材は、凹部の上側に取り外し可能に嵌められる部材である。押さえ部材は、嵌められた状態で培養液の上面に当接する下面(例えば、下面23a、下面41a、下面45a、下面49a、下面53a、下面57a、下面61a、下面123a)と、培養液内の気泡を外部に放出可能にする気泡放出部(例えば、気泡放出部13、気泡放出部43、気泡放出部47、気泡放出部51、気泡放出部55、気泡放出部59、気泡放出部63、気泡放出部123b、気泡放出部123c)とを有する。
【0092】
この容器では、容器本体の凹部に培養液を収容した状態で、押さえ部材が凹部の上側に嵌められる。すると、押さえ部材の下面が培養液の上面に当接することで、メニスカスが解消される。この状態で、培養液内の気泡は、押さえ部材の気泡放出部から外部に放出される。この結果、培養容器において細胞を正確に観察できる。
【0093】
17.他の実施形態
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
【0094】
凹部及び押さえ部材の平面視形状、及びそれらの組合せは前記実施形態に限定されない。
凹部及び押さえ部材の個数は、前記実施形態に限定されない。
【0095】
押さえ部材の下面の親水化処理は、部分的に又は全面的に行われていてもよいし、必ずしも行われなくてもよい。
押さえ部材の下面を傾斜面にすること、部分的に又は全面的に行われていてもよいし、必ずしも行われなくてもよい。
前記実施形態では、培養容器の一例として細胞培養液を用いた細胞培養容器を説明した。しかし、本発明に係る培養容器では、例えば、動物細胞、植物細胞、菌、細菌も培養可能である。
【解決手段】容器本体3と、押さえ部材9とを備えており、容器本体3は、細胞培養液Cを収容するための凹部7を有し、押さえ部材9が、凹部7の上側に取り外し可能に嵌められる部材であり、嵌められた状態で細胞培養液Cの上面に当接する下面23aと、細胞培養液C内の気泡を外部に放出可能にする気泡放出部13とを有する細胞培養容器。