(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
<基本構成(参考例)>
まず、本実施形態の参考例に係るスピーカユニットの基本構成について説明する。
図1A,Bはそれぞれ、参考例に係るスピーカユニット1を概略的に示す側断面図及び平面図である。図において、X、Y及びZ軸は、相互に直交する3軸方向を示している(以下の各図においても同様)。
【0014】
スピーカユニット1は、振動板11と圧電素子12とを有する圧電式発音体10と、圧電式発音体10を支持する支持部材13とを有する。圧電式発音体10は、例えば8kHz付近に音圧ピークレベルを有する音波を発生し、支持部材13を介してイヤホンやヘッドホン等の電気音響変換装置における筐体(図示略)の内部に収容される。
【0015】
振動板11は、金属(例えば42アロイ)等の導電材料または樹脂(例えば液晶ポリマー)等の絶縁材料で構成され、その平面形状は円形に形成される。振動板11の外径や厚みは特に限定されず、再生音波の周波数帯域などに応じて適宜設定され、本例では、直径約12mm、厚み約0.2mmの円盤形状の振動板が用いられる。
【0016】
圧電素子12は、振動板11を振動させるアクチュエータとして機能する。圧電素子12は、振動板11の主面に一体的に接合される。本例において圧電式発音体10は、振動板11の一方の主面に圧電素子12が接合されたユニモルフ構造を有する。
【0017】
圧電素子12が接合される振動板11の主面はどちらの面であってもよく、図示の例では、圧電素子12は、支持部材13の内部に対向する主面とは反対側の主面に接合される。圧電素子12は、振動板11の略中央に配置される。これにより振動板11の面内全域に対する等方的な発振駆動が可能となる。
【0018】
圧電素子12の平面形状は多角形状に形成されており、本例では矩形(長方形)とされるが、正方形や平行四辺形、台形などの他の四角形、あるいは四角形以外の多角形、あるいは円形、楕円形、長円形等であってもよい。圧電素子12の厚みも特に限定されず、例えば約50μmとされる。
【0019】
圧電素子12は、複数の圧電層と複数の電極層とが交互に積層された構造を有する。典型的には、圧電素子12は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、アルカリ金属含有ニオブ酸化物等の圧電特性を有する複数のセラミックシートを、電極層を挟んで相互に積層した後、所定温度で焼成することで作製される。各電極層の一端部は、誘電体層の長辺方向の両端面に交互に引き出される。一方の端面に露出する電極層は第1の引出電極層に接続され、他方の端面に露出する電極層は第2の引出電極層に接続される。圧電素子12は、第1及び第2の引出電極層間に所定の交流電圧を印加することで、所定周波数で伸縮するとともに、振動板14を所定周波数で振動させる。
【0020】
支持部材13は、環状に形成され、本例ではZ軸方向に軸心を有する円筒形状を有する。支持部材13は、第1の端部131と、その反対側の第2の端部132とを有する。振動板11は、第1の端部131に設けられた保持部133によってその周縁部111が全周にわたって支持される。支持部材13は、合成樹脂材料の射出成形体で構成され、典型的にはインサート成形により、振動板11の周縁部111が保持部133に強固に固定される。
【0021】
図2は、上記構成のスピーカユニット1の発振周波数特性を示している。
図2において、横軸は周波数[Hz](対数目盛)、左の縦軸は音圧レベル(SPL:Sound Pressure Level)[dB]及び右の縦軸は全高調波歪(THD:Total Harmonic Distortion)[%]をそれぞれ示している。
【0022】
なお測定は、電子情報技術産業協会規格のヘッドホン及びイヤホン(JEITA RC-8140A)に沿って、イヤホン用のカプラを用いて特性を評価した。
【0023】
図2に示すように、参考例に係るスピーカユニット1においては、8kHz付近に第1の音圧ピークを有する一方、図中楕円形状の領域Aに示すように9〜10kHz付近にも同等の第2の音圧ピークが認められる。この第2の音圧ピークは、一般に楽曲中のボーカルの歯擦音を顕在化させる要因となるため、できるだけ抑圧されることが好ましい。
【0024】
その一方で、第2の音圧ピークが出現する理由としては、9〜10kHz付近におけるスピーカユニット1のQ値(共振の鋭さ)が比較的高いことが挙げられる。したがって、9〜10kHz付近のスピーカユニットのQ値を低減することができれば、第2の音圧ピークを消失させることができると考えられる。
【0025】
そこで、本実施形態では、意図しない周波数帯域で出現し得る音圧ピークレベルを抑圧し、所望とする高周波特性を得ることを目的として、以下に詳細に説明するように、振動板11の支持構造を工夫した。
【0026】
<第1の実施形態>
図3は本発明の第1の実施形態に係るスピーカユニットの全体斜視図、
図4はその分解斜視図である。
【0027】
本実施形態のスピーカユニット2は、圧電式発音体20と、支持部材23とを有する。スピーカユニット2は、図示しない筐体の内部に収容されることで、イヤホンやヘッドホン等の電気音響変換装置を構成する。
【0028】
圧電式発音体20は、振動板11と、圧電素子12とを有する。振動板11及び圧電素子12は、上記参考例に係る電気音響変換装置1における振動板11及び圧電素子12と構成が同一であるため、ここでは説明を省略する。
【0029】
一方、支持部材23は、振動板11をその周縁部111の複数の領域で支持する。支持部材23は、上記筐体の一部で構成されてもよいし、上記筐体とは別部材で構成されてもよい。
【0030】
本実施形態において、支持部材23は、環状体230と、振動板11の周縁部111を支持する複数の突起233とを有する。支持部材23は、合成樹脂材料の射出成形体で構成されるが、これに限られず金属材料で構成されてもよい。
【0031】
環状体230は、振動板11と略同一の外径を有する円環状又は円筒状の部材で構成され、振動板11の周縁部111に対向する第1の端部231と、その反対側の第2の端部232とを有する。環状体230のZ軸方向に沿った厚み(高さ)は、圧電式発音体20を安定に保持できる強度を確保できる大きさであれば、特に限定されない。
【0032】
複数の突起233は、環状体230の第1の端部231の端面に、振動板11の周縁部111に突出するようにそれぞれ設けられている。複数の突起233は、それぞれ同一の高さを有し、それぞれ等角度間隔又は不等角度間隔で構成されている。本実施形態において突起233の数は3つであるが、これに限られず、4つ以上であってもよい。突起233が3つ以上設けられることにより、振動板11をXY平面内において安定に支持することが可能となる。
【0033】
振動板11の周縁部111は、複数の突起233で多点支持される。振動板11の周縁部111は、接着剤や粘着材により各突起233の上面にそれぞれ接合されるが、これに限られず、ネジ固定やカシメ固定等により各突起233に接合されてもよい。
【0034】
以上のように構成される本実施形態のスピーカユニット2においては、圧電素子12の駆動により振動板11が所定の周波数で振動することで、例えば、8kHz付近に音圧ピークレベルを有する音波を発生する。本実施形態においては、振動板11の周縁部111が、支持部材23の複数の突起233によって支持されている。このため、上記参考例のように振動板11の周縁部111が全周にわたって強固に固定される場合と比較して、周縁部111の振動を許容することができるようになり、その結果、所望とする高周波特性を実現することが可能となる。
【0035】
図5は、本実施形態のスピーカユニット2の発振周波数特性を示している。測定には、参考例に係る周波数特性(
図2)の測定と同様な手法を採用した。
【0036】
図5に示すように、本実施形態のスピーカユニット2によれば、8kHz付近の音圧ピークレベルを維持しつつ、9〜10kHz付近に存在していた第2の音圧ピーク(
図2参照)を減少あるいは消失させることが可能となった。その理由としては、振動板11の周縁部111が支持部材23に複数の領域で支持されているため、上記参考例のように振動板11の周縁部111が強固に固定される構造と比較して、周縁部111の支持強度、対称性が緩和されるためであると考えられる。振動板11の周縁部111の支持強度、対称性が緩和されるということは、周縁部111の固定がルーズとなり、これにより周縁部111の振動の自由度が高まる結果、共振のQ値が低減する。このように、目的とする周波数帯域(本例では9〜10kHz)の音圧ピークが減少あるいは消失するように振動板11の支持構造を最適化することで、所望とする高周波特性を容易に実現することが可能となる。
【0037】
また、本実施形態によれば、参考例と比較して、10kHz以上の高音域の音圧レベルが高くなることが確認された。その理由は、周縁部が強固に固定されていないこと、対称性を低く支持したことにより、圧電式発音体の次数の高い共振が励振されたためと考えられる。本発明者らの実験によれば、支持の数が3,5,7などと少なく、対称性が低いときに、上記効果が高いことが確認された。
【0038】
振動板11の周縁部111の振動モードあるいは振動形態の最適化を図るため、振動板11の周縁部111が弾性支持されるように構成されてもよい。この場合、振動板11の周縁部111が弾性変形可能な粘着材を介して支持部材23の複数の突起233にそれぞれ接合されてもよい。あるいは、スピーカユニット2は、複数の突起233の間に形成される空隙部(環状体230の第1の端部231と振動板11の周縁部111との間に形成される空隙部)S1(
図3参照)に充填された、弾性変形可能な粘着層をさらに備えてもよい。
【0039】
また本実施形態のスピーカユニット2は、
図6に示すように、電磁式発音体25をさらに備えてもよい。この場合、電磁式発音体25は、圧電式発音体20(振動板11)にZ軸方向に対向するように支持部材23の内部に配置される。
図6の例では、環状体230が円筒形状の部材で構成され、その第2の端部232の内周面に電磁式発音体25の外周面が接着固定される。これに限られず、電磁式発音体25は、支持部材23とは別の部材によって支持されてもよい。
【0040】
電磁式発音体25は、ボイスコイルモータ(電磁コイル)等の振動体を含み、例えば7kHz以下の低音域の音波を主として発生するスピーカユニット(ウーハ(Woofer))として構成される。これに対して、圧電式発音体20は、例えば7kHz以上の高音域の音波を主として発生するスピーカユニット(ツイータ(Tweeter))として構成される。これにより、低音域用の発音体と高音域用の発音体とを有するハイブリッドスピーカとして電気音響変換装置を構成することができる。
【0041】
一般にハイブリッドスピーカにおいては、9〜10kHz付近の高周波帯域に歯擦音が発生しやすいことが知られている。つまり、ツイータ単独では目立たない音圧ピークがウーハとの組み合わせで顕在化することが多く、これが原因で歯擦音が無視できなくなるほど大きくなる。このようなハイブリッドスピーカに対して本発明は特に顕著な効果を発揮し、圧電式発音体の支持構造を改良することで、歯擦音を大きく低減することが可能となる。
【0042】
また本実施形態において、複数の突起233の間に形成される空隙部S1は、電磁式発音体25が発生した音響を通す通路部として構成されてもよい。これにより、電磁式発音体25によって再生される音波の周波数特性を調整することが可能となる。また、圧電式発音体20により再生される高音域の特性曲線と電磁式発音体25により再生される低音域の特性曲線との交差部(クロスポイント)における周波数特性の最適化を図ることができる。
【0043】
<第2の実施形態>
図7は、本発明の第2の実施形態に係るスピーカユニット3の構成を示す概略側断面図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0044】
本実施形態のスピーカユニット3は、圧電式発音体20と、支持部材33とを有する。スピーカユニット3は、図示しない筐体の内部に収容されることで、イヤホンやヘッドホン等の電気音響変換装置を構成する。
【0045】
本実施形態において、支持部材33は、振動板11の周縁部111を全周にわたって弾性的に支持する。支持部材33は、上記筐体の一部で構成されてもよいし、上記筐体とは別部材で構成されてもよい。
【0046】
支持部材33は、環状体330と、振動板11の周縁部111を支持する環状凸部333とを有する。支持部材33は、合成樹脂材料の射出成形体で構成されるが、これに限られず金属材料で構成されてもよい。
【0047】
環状体330は、振動板11の外径よりも大きな内径を有する円環状又は円筒状の部材で構成され、振動板11の周縁部111に対向する側の第1の端部331と、その反対側の第2の端部332とを有する。
【0048】
環状凸部333は、環状体330の第1の端部331の内周面に径内方へ突出するように設けられている。環状凸部333の外径は、振動板11の外径と同等以上の大きさに形成されており、振動板11の周縁部111を支持することが可能に構成される。そして、振動板11の周縁部111は、弾性変形可能な粘着層34を介して環状凸部333の上面に接合されている。
【0049】
粘着層34は、硬化後に弾性を有する粘着材であれば特に限定されず、典型的には、シリコーン樹脂やウレタン樹脂等の弾性変形可能な樹脂材料で構成される。これにより、振動板11の周縁部111は、支持部材33に弾性的に支持される。
【0050】
あるいは、粘着層34は、両面テープ(両面粘着テープ)で構成されてもよい。粘着層34が両面テープで構成されることで、粘着層34の厚みのコントロールが容易となる。
【0051】
また本実施形態のスピーカユニット3は、電磁式発音体25をさらに備えてもよい。この場合、電磁式発音体25は、圧電式発音体20(振動板11)にZ軸方向に対向するように支持部材33の内部に配置される。本例では、環状体330が円筒形状の部材で構成され、その第2の端部332の内周面に電磁式発音体25の外周面が接着固定される。これに限られず、電磁式発音体25は、支持部材33とは別の部材によって支持されてもよい。
【0052】
図8は、本実施形態のスピーカユニット3の発振周波数特性を示す一実験結果である。測定には、参考例に係る周波数特性(
図2)の測定と同様な手法を採用した。
【0053】
図8に示すように、本実施形態のスピーカユニット3によれば、第1の実施形態と同様に、8kHz付近の音圧ピークレベルを維持しつつ、9〜10kHz付近に存在していた第2の音圧ピーク(
図2参照)を減少あるいは消失させることが可能となった。その理由としては、振動板11の周縁部111が粘着層34を介して支持部材33に弾性的に支持されているため、上記参考例のように振動板11の周縁部111が強固に固定される構造と比較して、周縁部111の支持強度が緩和されるためであると考えられる。振動板11の周縁部111の支持強度が緩和されるということは、周縁部111の固定がルーズとなり、これにより周縁部111の振動の自由度が高まる結果、共振のQ値が低減する。このように、目的とする周波数帯域(本例では9〜10kHz)の音圧ピークが減少あるいは消失するように振動板11の支持構造を最適化することで、所望とする高周波特性を容易に実現することが可能となる。また本実施形態では、THDが低減した。これは、周縁部111の支持を柔らかくしたことにより、非線形性が抑制されたためと考える。
【0054】
粘着層34は、均一な粒径を有する球形の絶縁フィラを含んでもよい。このような絶縁フィラが分散された粘着材料で粘着層34を構成することにより、粘着層34の厚みを精度よく調整することができる。これにより粘着層34による振動板11の振動減衰機能を高精度に制御することができ、所望とする高周波特性を安定に実現することが可能となる。
【0055】
図9は、本実施形態に係るスピーカユニット3と、上述の第1の実施形態に係るスピーカユニット2との高周波特性を示す一実験結果である。比較のため、市販のカナル型イヤホンの高周波特性を併せて示す。なお図中、実線、破線及び一点鎖線がそれぞれ、本実施形態のスピーカユニット3、第1の実施形態のスピーカユニット2及び市販のカナル型イヤホンの高周波特性を示している。
【0056】
<第3の実施形態>
図10A,Bはそれぞれ、本発明の第3の実施形態に係るスピーカユニット4の構成を示す概略側断面図及び平面図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0057】
本実施形態のスピーカユニット4は、圧電式発音体20と、支持部材43とを有する。スピーカユニット4は、図示しない筐体の内部に収容されることで、イヤホンやヘッドホン等の電気音響変換装置を構成する。
【0058】
本実施形態において、支持部材43は、振動板11をその周縁部111の複数の領域で支持する。支持部材43は、上記筐体の一部で構成されてもよいし、上記筐体とは別部材で構成されてもよい。
【0059】
支持部材43は、環状体430と、振動板11の周縁部111を支持する複数の突起433とを有する。支持部材43は、合成樹脂材料の射出成形体で構成されるが、これに限られず金属材料で構成されてもよい。
【0060】
環状体430は、振動板11の外径よりも大きな内径を有する円環状又は円筒状の部材で構成され、振動板11の周縁部111に対向する側の第1の端部431と、その反対側の第2の端部432とを有する。
【0061】
複数の突起433は、環状体430の第1の端部431の内周面にそれぞれ径内方へ突出するように設けられている。複数の突起433は、それぞれ同一の幅(突出量)を有し、それぞれ等角度間隔又は不等角度間隔で構成されている。各突起433の突出量は、振動板11の周縁部111を支持できる大きさであれば、特に限定されない。そして、振動板11の周縁部111は、弾性変形可能な粘着層44を介して各突起433の上面に接合されている。粘着層44は、第2の実施形態において説明した粘着層34(
図7参照)と同様に構成される。
【0062】
また本実施形態のスピーカユニット4は、電磁式発音体25をさらに備えてもよい。この場合、電磁式発音体25は、圧電式発音体20(振動板11)にZ軸方向に対向するように支持部材43の内部に配置される。本例では、環状体430が円筒形状の部材で構成され、その第2の端部432の内周面に電磁式発音体25の外周面が接着固定される。これに限られず、電磁式発音体25は、支持部材43とは別の部材によって支持されてもよい。
【0063】
以上のように構成される本実施形態のスピーカユニット4においても、第1及び第2の実施形態に係るスピーカユニット2,3と同様の作用効果を得ることができる。
【0064】
<第4の実施形態>
図11A,Bはそれぞれ、本発明の第4の実施形態に係るスピーカユニット5の構成を示す概略側断面図及び平面図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0065】
本実施形態のスピーカユニット5は、圧電式発音体50と、支持部材53とを有する。スピーカユニット5は、図示しない筐体の内部に収容されることで、イヤホンやヘッドホン等の電気音響変換装置を構成する。
【0066】
圧電式発音体50は、振動板51と、圧電素子12とを有する。
【0067】
振動板51は、導電材料又は樹脂材料で構成された概略円盤形状を有し、その周縁部には周囲に向かって放射状に突出する複数の突出片511が設けられている。複数の突出片511は、典型的には等角度間隔で形成されるが、これに限られず、不等間隔で形成されてもよい。複数の突出片511は、例えば、振動板51の周縁部に複数の切欠き511hを設けることで形成される。突出片511の突出量は、切欠き部511hの切欠き深さで調整される。突出片511の数は、図示の例では3つであるが、4つ以上であってもよい。これにより振動板11をXY平面内において安定に支持することが可能となる。
【0068】
一方、支持部材53は、振動板51をその周縁部の複数の領域で支持する。支持部材53は、上記筐体の一部で構成されてもよいし、上記筐体とは別部材で構成されてもよい。
【0069】
支持部材53は、環状体530と、振動板51の各突出片511を保持する保持部533とを有する。支持部材53は、合成樹脂材料の射出成形体で構成されるが、これに限られず金属材料で構成されてもよい。
【0070】
環状体530は、振動板51の外径よりも大きな内径を有する円環状又は円筒状の部材で構成され、振動板51の周縁部に対向する側の第1の端部531と、その反対側の第2の端部532とを有する。
【0071】
保持部533は、環状体530の第1の端部531の内周面に径内方へ突出するように設けられている。保持部531は、振動板51の各突出片511をその厚み方向に挟持する構造体であって、典型的には、振動板51をインサート成形したときに形成される樹脂モールド体で構成される。保持部533は、
図11Bに示すように、切欠き部511hの一部が外部へ露出するように各突出片511の先端部を部分的に保持するように構成される。
【0072】
以上のように構成される本実施形態のスピーカユニット5においては、振動板51がその周縁部に形成された複数の突出片511を介して支持部材53に支持されるように構成されているため、振動板51の周縁部の拘束が緩和されることになる。これにより第1の実施形態と同様の作用効果を得ることが可能となる。
【0073】
また本実施形態のスピーカユニット6は、電磁式発音体25をさらに備えてもよい。この場合、電磁式発音体25は、圧電式発音体50(振動板51)にZ軸方向に対向するように支持部材53の内部に配置される。本例では、環状体530が円筒形状の部材で構成され、その第2の端部532の内周面に電磁式発音体25の外周面が接着固定される。これに限られず、電磁式発音体25は、支持部材53とは別の部材によって支持されてもよい。
【0074】
また本実施形態によれば、複数の突出片511の間に形成される空隙部S2(切欠き部511h)を、電磁式発音体25が発生した音響を通す通路部として構成されてもよい。これにより、電磁式発音体25によって再生される音波の周波数特性を調整することが可能となる。また、圧電式発音体50により再生される高音域の特性曲線と電磁式発音体25により再生される低音域の特性曲線との交差部(クロスポイント)における周波数特性の最適化を図ることができる。
【0075】
<第5の実施形態>
図12は、本発明の第5の実施形態に係るスピーカユニット7の構成を示す概略側断面図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0076】
本実施形態のスピーカユニット7は、圧電式発音体20と、支持部材73と、粘着層74とを有する。スピーカユニット7は、図示しない筐体の内部に収容されることで、イヤホンやヘッドホン等の電気音響変換装置を構成する。
【0077】
本実施形態において、支持部材73は、振動板11の周縁部111を全周にわたって弾性的に支持する。支持部材73は、上記筐体の一部で構成されてもよいし、上記筐体とは別部材で構成されてもよい。
【0078】
支持部材73は、第1の端部731と、第2の端部732とを有する環状体730で構成される。環状体730は、振動板11の外径よりも大きな内径を有する円環状又は円筒状の部材で構成され、第1の端部731は、振動板11の周縁部111に対向し、第2の端部732は、第1の端部731の反対側に設けられる。支持部材73は、合成樹脂材料の射出成形体で構成されるが、これに限られず金属材料で構成されてもよい。
【0079】
粘着層74は、振動板11の周縁部111と支持部材73の第1の端部731との間に設けられた弾性変形可能な粘着材料で構成される。
【0080】
粘着層74は、硬化後に弾性を有する粘着材であれば特に限定されず、典型的には、シリコーン樹脂やウレタン樹脂等の弾性変形可能な樹脂材料で構成される。これにより、振動板11の周縁部111は、支持部材73に弾性的に支持される。
【0081】
粘着層74は、均一な粒径を有する球形の絶縁フィラを含んでもよい。このような絶縁フィラが分散された粘着材料で粘着層74を構成することにより、粘着層74の厚みを精度よく調整することができる。これにより粘着層74による振動板11の振動減衰機能を高精度に制御することができ、所望とする高周波特性を安定に実現することが可能となる。
【0082】
あるいは、粘着層74は、両面テープ(両面粘着テープ)で構成されてもよい。粘着層74が両面テープで構成されることで、粘着層74の厚みのコントロールが容易となる。
【0083】
また本実施形態のスピーカユニット7は、電磁式発音体25をさらに備えてもよい。この場合、電磁式発音体25は、圧電式発音体20(振動板11)にZ軸方向に対向するように支持部材73の内部に配置される。本例では、環状体730が円筒形状の部材で構成され、その第2の端部732の内周面に電磁式発音体25の外周面が接着固定される。これに限られず、電磁式発音体25は、支持部材73とは別の部材によって支持されてもよい。
【0084】
以上のように構成される本実施形態のスピーカユニット7においても、上述の第2、第3の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0085】
<第6の実施形態>
続いて、本発明の第6の実施形態を説明する。
図13は、本実施形態に係る電気音響変換装置としてのイヤホン100の構成を概略的に示す側断面図である。
【0086】
イヤホン100は、イヤホン本体110と、イヤピース120とを有する。イヤピース120は、イヤホン本体110の音道110sに取り付けられるとともに、ユーザの耳に装着可能に構成される。
【0087】
イヤホン本体110は、発音ユニット30と、発音ユニット30を収容するハウジング40とを有する。
発音ユニット30は、電磁式発音体25と、圧電式発音体50とを有する。ハウジング40は、筐体41と、カバー42とを有する。
【0088】
筐体41は、有底の円筒形状を有し、典型的には、プラスチックの射出成形体で構成される。筐体41は、発音ユニット30を収容する内部空間を有し、その底部410には、上記内部空間と連通する音道110sが設けられている。
【0089】
筐体41は、圧電式発音体50を支持する支持部411と、発音ユニット30の周囲を囲む側壁部412とを有する。支持部411及び側壁部412はいずれも環状に形成されており、支持部411は、側壁部412の底部近傍から内方側へ突出するように設けられている。支持部411は、XY平面に平行な平面で形成されており、圧電式発音体50の周縁部を、筐体41とは別部材で構成された環状部材134を介して間接的に支持する。
【0090】
電磁式発音体25は、低音域を再生するウーハ(Woofer)として機能するスピーカユニットで構成される。本実施形態では、例えば7kHz以下の音波を主として生成するダイナミックスピーカで構成され、ボイスコイルモータ(電磁コイル)等の振動体を含む機構部311と、機構部311を振動可能に支持する台座部312とを有する。台座部312は、筐体41の側壁部412の内径と略同一の外径を有する略円盤形状に形成される。
【0091】
電磁式発音体31は、圧電式発音体50に対向する第1の面31aと、その反対側の第2の面31bとを有する略円盤形状を有する。第1の面31aの周縁部には、圧電式発音体50の周縁部を支持する環状部材134に接触可能に対向する脚部312aが設けられている。脚部312aは環状に形成されるが、これに限られず、複数の柱体で構成されてもよい。
【0092】
第2の面31bは、台座部312の上面中央部に設けられた円盤状の隆起部の表面に形成される。第2の面31bには、発音ユニット30の電気回路を構成する回路基板26が固定されている。回路基板26の表面には、各種配線部材と接続される複数の端子部が設けられている。回路基板26の各端子部に接続される配線部材には、図示しない再生装置から送信される再生信号を入力する配線部材C1と、電磁式発音体25の入力端子に接続される配線部材C2と、圧電式発音体50に接続される配線部材C3が含まれる。
【0093】
圧電式発音体50は、高音域を再生するツイータ(Tweeter)として機能するスピーカユニットを構成する。本実施形態では、例えば7kHz以上の音波を主として生成するようにその発振周波数が設定される。圧電式発音体50は、振動板51と、圧電素子12とを有する。振動板51は、その周縁部から径方向に突出する複数の突出片511を有し、これら突出片511は、環状部材134により支持される。環状部材134は、筐体41の支持部411と振動板321の周縁部321cとの間に配置される。環状部材134の外径は、筐体41の側壁部412の内径と略同一に形成される。
すなわち、圧電式発音体50は、上述の第4の実施形態において説明した圧電式発音体と同様に構成され、環状部材134は、当該第4の実施形態における支持部材53に相当する。
【0094】
図13に示すように、筐体41の内部空間は、圧電式発音体50によって、第1の空間部S11と、第2の空間部S12とに区画される。第1の空間部S11は、電磁式発音体25を収容する空間部であり、電磁式発音体25と圧電式発音体50との間に形成される。第2の空間部S12は、音道110sに連通する空間部であり、圧電式発音体50と筐体41の底部410との間に形成される。
【0095】
カバー42は、筐体41の内部を閉塞するように側壁部412の上端に固定される。カバー42の所定位置には、配線部材C1を図示しない再生装置へ導出するためのフィードスルーが設けられている。カバー42の内部上面には、電磁式発音体25を環状部材134に向けて押圧する押圧部421を有する。カバー42の押圧部421は環状に形成され、その先端部は、弾性層422を介して、電磁式発音体25の上面に接触する。これにより、電磁式発音体25が、環状部材134の全周にわたって均一な力で押圧されることになり、筐体41の内部において発音ユニット30を適正に位置決めすることが可能となる。
【0096】
続いて、以上のように構成される本実施形態のイヤホン100の典型的な動作について説明する。
【0097】
本実施形態のイヤホン100において、発音ユニット30の回路基板26には、配線部材C1を介して再生信号が入力される。再生信号は、回路基板26及び配線部材C2,C3を介して、電磁式発音体25及び圧電式発音体50にそれぞれ入力される。これにより、電磁式発音体25が駆動されて、主として7kHz以下の低音域の音波が生成される。一方、圧電式発音体50においては、圧電素子12の伸縮動作により振動板51が振動し、主として7kHz以上の高温域の音波が生成される。生成された各帯域の音波は、音道110sを介してユーザの耳に伝達される。このようにイヤホン100は、低音域用の発音体と高音域用の発音体とを有するハイブリッドスピーカとして機能する。
【0098】
ここで、ハイブリッドスピーカにおいては、9〜10kHz付近の高周波帯域に歯擦音が発生しやすいことが知られている。つまり、ツイータ単独では現れない音圧ピークがウーハとの組み合わせで顕在化することが多く、これが原因で歯擦音が無視できなくなるほど大きくなる。
【0099】
そこで本実施形態においては、ツイータとして構成される圧電式発音体50の振動板51がその周縁部511の複数の領域(突出片511)で支持されている(
図11A,B参照)。これにより、上述のように圧電式発電体50の高周波特性を改善することができるため、所望とする音圧レベルを維持しつつ、歯擦音の発生を抑制して、高音質の再生音波を生成することが可能となる。さらに、10kHz以上の高音域の音圧レベルを向上させることができるため、音質の更なる向上を図ることが可能となる。
【0100】
また本実施形態によれば、振動板51の複数の突出片511の間に形成される空隙部S2を、電磁式発音体25が発生した音響を通す通路部として機能を有する(
図13参照)。これにより、電磁式発音体25によって再生される音波の周波数特性を調整することが可能となる。また、圧電式発音体50により再生される高音域の特性曲線と電磁式発音体25により再生される低音域の特性曲線との交差部(クロスポイント)における周波数特性の最適化を図ることができる。
【0101】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0102】
例えば以上の第6の実施形態では、圧電式発音体50を支持する環状部材134が筐体41とは別部材で構成されたが、筐体41の一部として構成されてもよい。
例えば
図14に模式的に示す電気音響変換装置200は、筐体Bの内部に電磁式発音体U1及び圧電式発音体U2がそれぞれ収容されており、各発音体U1,U2において発生した音波がそれぞれ、筐体Bの底部B1に形成された音道B2に導かれるように構成されている。そして、圧電子発音体U2を構成する振動板の周縁部の複数の領域が、筐体Bの底部B1に形成された複数の柱体B3によってそれぞれ支持されるように構成される。
【0103】
図14に示す電気音響変換装置200において、複数の柱体B3は、筐体Bの一部として構成され、上記振動板の周縁部は、例えば接着剤や弾性変形可能な粘着材を介して各柱体B3の上面に接合される。この場合、各柱体B3は、例えば第1の実施形態で説明した支持部材23における複数の突起233にそれぞれ相当する。
【0104】
また、電気音響変換装置200において、圧電式発音体U2は、筐体Bの側壁部の内径よりも小さく形成される。したがって電磁式発音体U1で発生した低音域の音波は、圧電式発音体U2と筐体Bの側壁部との間の環状の空間部と、複数の柱体B3の間に形成された空間部とにより形成された通路部Tを通過して、音道B2へ導かれる。
【0105】
さらに、電磁式発音体から発生した音響が通過する通路部は、圧電式発音体の振動板に設けられてもよい。例えば
図15に示すスピーカユニット6における圧電式発音体60は、圧電素子12の周囲に複数の円形の貫通孔612が形成された振動板61を備える。その他の構成は、
図3、4及び6を参照して説明した第1の実施形態に係るスピーカユニット2の構成と同様であるので、説明は省略する。
【0106】
図15において、図示しない電磁式発音体は、振動板61に対向して配置される(
図6参照)。したがって当該電磁式発音体から発生した音波は、振動板61に形成された複数の貫通孔612を通過する。振動板61の周縁部を支持する複数の突起233の間に形成された空隙部S1もまた、上記音波の通路部として機能してもよい。さらに、貫通孔612の形成に代えて、図示せずとも、振動板の周縁部に所定形状の切欠きを形成することで上記通路部を構成するようにしてもよい。上記切欠きは、単数でもよいし複数でもよく、上記切欠きが複数ある場合は、各々の形状は同一であってもよいし異なっていてもよい。このように円形の周縁部に部分的に切欠き(通路部)が形成された振動板も、「円盤形状の振動板」に含まれるものとする。
【0107】
そして、以上の第6の実施形態では、筐体41の支持部411に圧電発音体50が設けられたが、これに代えて、例えば支持部411の上面に粘着層を介して振動板の周縁部が接合されてもよい。この場合、電磁式発音体25の台座部312の脚部312aは、上記振動板の周縁部に接触してもよいし、接触していなくてもよい。
【解決手段】スピーカユニット(電気音響変換装置)2は、圧電式発音体20と、筐体と、支持部材23とを具備する。圧電式発音体20は、周縁部111を有する振動板11と、振動板11に接合された圧電素子12と、を有する。筐体は、圧電式発音体20を収容する。支持部材23は、筐体の一部又は別部材で構成され、環状体230と、振動板11の周縁部111を支持する複数の突起233とを有する。