特許第5768282号(P5768282)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5768282
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】rRNA前駆体のレシオメトリック分析
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20150806BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20150806BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20150806BHJP
【FI】
   C12Q1/68 AZNA
   C12Q1/02
   !C12N15/00 A
【請求項の数】29
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2011-540904(P2011-540904)
(86)(22)【出願日】2009年12月10日
(65)【公表番号】特表2012-511331(P2012-511331A)
(43)【公表日】2012年5月24日
(86)【国際出願番号】US2009067565
(87)【国際公開番号】WO2010068802
(87)【国際公開日】20100617
【審査請求日】2012年12月3日
(31)【優先権主張番号】61/121,485
(32)【優先日】2008年12月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502457803
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ワシントン
(73)【特許権者】
【識別番号】506206030
【氏名又は名称】シアトル バイオメディカル リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100144266
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一寿
(72)【発明者】
【氏名】ジェラルド エイ キャンゲロッシ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン スコット メスケ
(72)【発明者】
【氏名】クリス ウィーゲル
【審査官】 原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−008294(JP,A)
【文献】 特開2008−051821(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0009011(US,A1)
【文献】 AWWA Water Quality Technology Conference,2003年,p.1-8
【文献】 Water Science and Technology,2003年,Vol.47, No.11,p.241-250
【文献】 International Journal of Food Microbiology,2008年11月,Vol.121,p.99-105
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/00−3/00
C12M 1/00−3/10
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS/WPIX/CAplus(STN)
JSTplus/JMEDplus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然または生体内起源に由来する試料中の生存している微生物を検出する方法であって、
該方法が、採取した試料において、
該試料の第一アリコートを栄養的に刺激する工程と、
該試料の第二アリコートを非栄養的に刺激するコントロール条件下で保持する工程と、
該第一アリコートおよび該第二アリコートを培養する工程と、
該第一アリコートからの少なくとも1種の標的微生物由来の少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルと、該第二アリコートにおける少なくとも1種の標的微生物由来の少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルとを比較する工程と
を含み、
該第一アリコートにおける該少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルと、該第二アリコートにおける該少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルとの比率を、該試料中の生存している微生物の指標とし、ここで、
前記第一アリコートを栄養的に刺激する工程が、前記第一アリコートを1種以上の栄養素で強化して前記少なくとも1種の標的微生物におけるrRNA前駆体の生成の増加を促進することを含む、方法。
【請求項2】
前記第一アリコートからRNAを抽出する工程および前記第二アリコートからRNAを抽出する工程と、
前記第一アリコートにおける前記少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルを定量化する工程および前記第二アリコートにおける前記少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルを定量化する工程と
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料中における前記少なくとも1種の標的微生物の生存している割合が、およそ0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.1%、0.5%、1.0%、2.0%、3.0%、4.0%、5.0%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%および95%のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第一アリコートおよび前記第二アリコートからRNAを抽出する工程並びに前記第一アリコートおよび前記第二アリコートからの少なくとも1種のrRNA前駆体を定量化する工程が、マイクロ流体装置の使用を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記試料に対して、該試料中における前記少なくとも1種の標的微生物の特定の分離株の存在についてスクリーニングを行う免疫分離工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記免疫分離工程が、大腸菌O157の存在について前記試料のスクリーニングを行うことを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種の標的微生物が、アシネトバクター属(Acinetobacter)、アクチノバチルス属(Actinobacillus)、エロモナス属(Aeromonas)、アーコバクター属(Arcobacter)、バクテロイデス属(Bacteroides)、ボルデテラ属(Bordetella)、ボレリア属(Borrelia)、ブルセラ属(Brucella)、バークホルデリア属(Burkholderia)、カンピロバクター属(Campylobacter)、シトロバクター属(Citrobacter)、クロノバクター属(Cronobacter)、エドワードシエラ属(Edwardsiella)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エシェリキア属(Escherichia)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)、フランシセラ属(Francisella)、フゾバクテリウム属(Fusobacterium)、ヘモフィルス属(Haemophilus)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)、レジオネラ属(Legionella)、レプトスピラ属(Leptospira)、モラクセラ属(Moraxella)、モルガネラ属(Morganella)、ナイセリア属(Neisseria)、パスツレラ属(Pasteurella)、プレシオモナス属(Plesiomonas)、ポルフィロモナス属(Porphyromonas)、プレボテラ属(Prevotella)、プロテウス属(Proteus)、プロビデンシア属(Providencia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、シゲラ属(Shigella)、ステノトロホモナス属(Stenotrophomonas)、トレポネーマ属(Treponema)、ベイヨネラ属(Veillonella)、ビブリオ属(Vibrio)、エルシニア属(Yersinia)、アクチノミセス属(Actinomyces)、バシラス属(Bacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、クロストリジウム属(Clostridium)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、リステリア属(Listeria)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、モビルンカス属(Mobiluncus)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、ノカルディア属(Nocardia)、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus)、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、スタヒロコッカス属(Staphylococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、およびストレプトマイセス属(Streptomyces)からなる群から選択される微生物の属の一員である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種の標的微生物がマイコバクテリウム(Mycobacterium)の種である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1種の標的微生物がエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1種の標的微生物が、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、レジオネラ・ニューモニア(Legionella pneumonia)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)、バシラス・アンスラシス(Bacillus anthracis)、フランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)、リケッチア・プロワセキイ(Rickettsia prowasekii)、リケッチア・チフィ(Rickettsia typhi)、およびヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第一アリコートを、前記少なくとも1種の標的微生物の倍加時間よりも短い期間だけ培養する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第一アリコートにおける前記少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルと、前記第二アリコートにおける前記少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルとの比率が1以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
天然または生体内起源に由来する試料中における少なくとも1種の標的微生物の存在を判定するための核酸増幅検査の感度を高める方法であって、
該方法が、
該試料を少なくとも第一アリコートおよび第二アリコートに分割する工程と、
該試料の該第一アリコートを栄養的に刺激する工程と、
該試料の該第二アリコートを非栄養的に刺激するコントロール条件下で保持する工程と、
該第一アリコートおよび該第二アリコートを培養する工程と、
該第一アリコートからRNAを抽出する工程および該第二アリコートからRNAを抽出する工程と、
該第一アリコート由来の少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルを定量化する工程と、
該第二アリコート由来の該少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルを定量化する工程と、
該第一アリコートにおける該少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルと、該第二アリコートにおける該少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルとを比較する工程と
を含み、
該第一アリコート中における該少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルと該第二アリコート中におけるrRNA前駆体のレベルとの比率を用いて、不明確な結果の信頼性を高め、それによって、該試料中における該少なくとも1種の微生物の存在のための核酸増幅検査の感度を高め、ここで、
前記第一アリコートを栄養的に刺激する工程が、前記第一アリコートを1種以上の栄養素で強化して前記少なくとも1種の標的微生物におけるrRNA前駆体の生成の増加を促進することを含む、方法。
【請求項14】
前記第一アリコートにおける前記少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルと前記第二アリコート中におけるrRNA前駆体のレベルとの比率が1以上である場合に、前記少なくとも1種の標的微生物の存在を前記試料中において確認する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
サイクル閾値が30よりも大きくなるため、前記第一の核酸増幅検査が不確定的である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
別個の核酸増幅検査と同時に、前記試料を少なくとも第一アリコートおよび第二アリコートとに分割する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記第一の核酸増幅検査の終了後に、前記試料を少なくとも第一アリコートおよび第二アリコートとに分割する、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記核酸増幅検査がDNA増幅試験である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記試料中における前記少なくとも1種の標的微生物の生存している割合が、およそ0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.1%、0.5%、1.0%、2.0%、3.0%、4.0%、5.0%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%および95%のうちの少なくとも1つである、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記第一アリコートおよび前記第二アリコートからRNAを抽出する工程並びに前記第一アリコートおよび前記第二アリコートからの少なくとも1種のrRNA前駆体を定量化する工程が、マイクロ流体装置の使用を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記試料に対して、該試料中における前記少なくとも1種の標的微生物の特定の分離株の存在についてスクリーニングを行う免疫分離工程をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1種の標的微生物が、アシネトバクター属(Acinetobacter)、アクチノバチルス属(Actinobacillus)、エロモナス属(Aeromonas)、アーコバクター属(Arcobacter)、バクテロイデス属(Bacteroides)、ボルデテラ属(Bordetella)、ボレリア属(Borrelia)、ブルセラ属(Brucella)、バークホルデリア属(Burkholderia)、カンピロバクター属(Campylobacter)、シトロバクター属(Citrobacter)、クロノバクター属(Cronobacter)、エドワードシエラ属(Edwardsiella)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エシェリキア属(Escherichia)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)、フランシセラ属(Francisella)、フゾバクテリウム属(Fusobacterium)、ヘモフィルス属(Haemophilus)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)、レジオネラ属(Legionella)、レプトスピラ属(Leptospira)、モラクセラ属(Moraxella)、モルガネラ属(Morganella)、ナイセリア属(Neisseria)、パスツレラ属(Pasteurella)、プレシオモナス属(Plesiomonas)、ポルフィロモナス属(Porphyromonas)、プレボテラ属(Prevotella)、プロテウス属(Proteus)、プロビデンシア属(Providencia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、シゲラ属(Shigella)、ステノトロホモナス属(Stenotrophomonas)、トレポネーマ属(Treponema)、ベイヨネラ属(Veillonella)、ビブリオ属(Vibrio)、エルシニア属(Yersinia)、アクチノミセス属(Actinomyces)、バシラス属(Bacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、クロストリジウム属(Clostridium)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、リステリア属(Listeria)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、モビルンカス属(Mobiluncus)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、ノカルディア属(Nocardia)、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus)、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、スタヒロコッカス属(Staphylococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、およびストレプトマイセス属(Streptomyces)からなる群から選択される微生物の属の一員である、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1種の標的微生物がマイコバクテリウム(Mycobacterium)の種である、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
前記少なくとも1種の標的微生物がエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)である、請求項13に記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1種の標的微生物が、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、レジオネラ・ニューモニア(Legionella pneumonia)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)、バシラス・アンスラシス(Bacillus anthracis)、フランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)、リケッチア・プロワセキイ(Rickettsia prowasekii)、リケッチア・チフィ(Rickettsia typhi)、およびヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)のうちの少なくとも1つである、請求項13に記載の方法。
【請求項26】
前記第一アリコートを、前記少なくとも1種の標的微生物の倍加時間よりも短い期間だけ培養する、請求項13に記載の方法。
【請求項27】
前記第一アリコートにおける前記少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルと、前記第二アリコートにおける前記少なくとも1種の標的rRNA前駆体のレベルとの比率が1以上である、請求項13に記載の方法。
【請求項28】
前記試料が、細胞組織または体液に由来する、請求項1または13に記載の方法。
【請求項29】
前記試料が、人間または動物の細胞組織、血液または唾液から採取される、請求項1または13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(連邦政府による資金提供を受けた研究開発)
本明細書で開示される組成物および方法は、STAR研究援助協定 #FP91698201-0および#R833011の下で開発され、環境保護庁に表彰された。そのため、該政府が本発明において一定の権利を有することがある。
【0002】
本発明は、試料中における生存している細胞の存在の検出および判定に関するものである。より具体的には、本発明は、試料中においてごく少数存在する生存している細胞の検出に関するものである。試料中において生存している微生物の動的な指標としての、リボソームRNA前駆体(rRNA前駆体)を検出するための組成物および方法が含まれる。
【背景技術】
【0003】
細菌性病原体などの微生物は、複雑な臨床試料や環境試料での培養が困難であることがある。それらは、少数で、または、生理学的に損傷があり、老化しており、コロニー形成率が乏しい状態で存在していることがある。試料は、しばしば、競合する微生物叢を有し、選択培地においてであれば収率が減少したりある菌株に対する選択性を有することがあるが、非選択培地においては病原体を異常増殖させる。培養をベースとするほとんどの検出方法では、結果が得られるのに1〜3日を必要とするが、この期間は、多くの状況、特に生命を脅かす状況においては遅すぎるものである。
【0004】
細菌培養の代替手段の一つとして、核酸増幅検査(NAAT)がある。NAATのタイプの中で最も一般的であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、迅速で高感度である。PCRの欠点は、生存している病原体細胞を、試料中における生存していない細胞、遊離核酸、および試験過程で取り込まれる汚染核酸と区別できないことである。また、PCRは機構的に複雑であり、試料中の物質による阻害の影響を受けやすい。これらの欠点は、抗微生物処理、消毒(例えば水処理)および浄化の工程の有効性を評価するためにPCRを用いるときに、特に問題となる。
【0005】
生存している微生物に関するNAATの感度や選択性を改善するためには、生存していない微生物や遊離DNAの誤検出を低減または排除することが重要であろう。アプローチの一つとして、微生物のDNAよりもむしろRNAを検出することが挙げられる。RNAは、溶液や死滅細胞中ではDNAよりも安定的ではないと考えられている。リボソームRNA(rRNA)またはメッセンジャーRNA(mRNA)用の種特異的なプローブが知られている。しかしながら、微生物のmRNAは、不安定で少量であることから、検出が困難である(Gedalanga and Olson. 2009. Development of a quantitative PCR method to differentiate between viable and nonviable bacteria in environmental water samples. Appl Microbiol Biotechnol. 82:587-596)。逆に、成熟rRNAは極めて安定的で、死滅細胞中でも長時間生存することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Gedalanga and Olson. 2009. Development of a quantitative PCR method to differentiate between viable and nonviable bacteria in environmental water samples. Appl Microbiol Biotechnol. 82:587-596
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
生存している細胞の感度や選択性を改善するためには、微生物のrRNAの前駆体(rRNA前駆体)に対するアッセイを用いてもよい。
【0008】
rRNA前駆体は、ポリシストロン性のrrs-rrl-rrfオペロン転写の迅速な核酸分解切断によって生じる、rRNAの合成における中間生成物である。続いてリーダー/テールフラグメントがリボソームの集合体に関連する比較的ゆっくりした反応で除去され、成熟rRNAのサブユニットが生成する。
【0009】
細菌性細胞の増殖時において、rRNA前駆体は全体のrRNAの大部分を占める。rRNA前駆体は、細菌内で最も強く発現されるmRNA分子よりも極めて豊富であり、検出が容易である。さらに、栄養的な刺激によってその細胞内のコピー数は迅速に増加し、不明確な結果の解釈を容易にする動的特性によって、試料中にごく少数で存在する細胞のための試験における機能的な感度が改善される。その上、それらは、NAATによる複雑な試料中のそれらの検出を容易にする種特異的な配列をしばしば有している。
【0010】
本明細書に開示するように、種特異的なrRNA前駆体の分子を検出するNAATを開発した。
【0011】
rRNA前駆体は、成熟rRNAの合成における中間生成物である。それらは、非常に種特異的なヌクレオチド配列を持った、豊富な細胞成分である。これにより、それらは、複雑な試料中の微生物病原体を検出するための格好のターゲットになる。
【0012】
微生物細胞が栄養的に刺激されるとき、rRNA前駆体のコピー数は桁違いに増加する。この反応は極めて迅速であり(1世代時間よりも短い)、刺激細胞中にrRNA前駆体が豊富にあることにより容易に検出される。刺激された試料およびコントロール試料中におけるrRNA前駆体の定量PCR測定では、数値的比率が得られる。
【0013】
もしも陽性であれば、これらの比率によって、試料中において損傷のない生存している病原体細菌が存在することが裏付けられる。定量PCRのシグナルが極めて弱いときは、陽性の比率が、アッセイの結果が真実の陽性の結果を表しているという信頼性を高める。これにより、アッセイの機能的な感度が改善される。
【0014】
さらなる態様および有利な点は、添付の図面に関連して実施される、後述の好適態様の詳細な説明から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】LB培地上において定常期から増殖される間の、16S rRNA前駆体および成熟16S rRNAのプールを示す。
図2】定常期のマイコバクテリウム・ボビス(M. bovis)BCGが栄養的刺激を受けたときの、16S rRNA前駆体のプールを示す。
図3】水分不足型エロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)(A)およびマイコバクテリウム・アビウム・ストレイン104(M. avium strain 104)(B)の細胞における、rRNA前駆体の栄養的刺激の経時変化を示す。
図4】次亜塩素酸で処理された実験用懸濁液中における、生存しているエロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)細胞の存在とrRNA前駆体の刺激比率(A)またはqPCRで定量化されたゲノムDNA(B)との相関を示す。
図5】単一の淡水湖の試料に由来する対の刺激されたアリコートとコントロールアリコートとで行われた、多重RT-qPCR反応の結果を示す。
図6-1】本明細書に記載のRPA法でターゲットとしてもよい標的微生物の属および種の例を示す。
図6-2】本明細書に記載のRPA法でターゲットとしてもよい標的微生物の属および種の例を示す。
図6-3】本明細書に記載のRPA法でターゲットとしてもよい標的微生物の属および種の例を示す。
図6-4】本明細書に記載のRPA法でターゲットとしてもよい標的微生物の属および種の例を示す。
図6-5】本明細書に記載のRPA法でターゲットとしてもよい標的微生物の属および種の例を示す。
図7-1】言及される生命体の代替の順方向、逆方向および逆転写酵素プライマー等のqPCRのプライマーの例を示す。
図7-2】言及される生命体の代替の順方向、逆方向および逆転写酵素プライマー等のqPCRのプライマーの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
開示する組成物や方法において使用することができ、それらと併用することができ、それらの準備のために使用することができ、またはそれらの生成物である、原料、組成物および成分を開示する。これらの材料およびその他の原料を本明細書に開示し、これらの原料の組合せ、サブセット、相互作用、グループ等を開示する場合、個々および集団の様々な組合せやこれらの化合物の置換についての具体的な言及は明確に開示されていないかもしれないが、各々が具体的に検討され、本明細書で説明されるものと理解される。例えば、オリゴヌクレオチドを開示し、考察し、およびオリゴヌクレオチドを含む多数の分子に対して行いうる多くの修飾について考察するときは、特に具体的に逆のことを指示しない限り、その各々および全てのオリゴヌクレオチドの組合せや置換、ならびに可能性のある修飾について、具体的に検討する。この概念は、本願の全ての態様に適用され、これに限定されるものではないが、開示される組成物の製造方法や使用方法の手順も含まれる。このように、実施することのできる様々な追加的手順がある場合は、これらの追加的手順のそれぞれが、開示される方法の任意の具体的な実施形態、または実施形態の組合せによって実施することが可能であり、かかる各組合せが具体的に検討され、開示されていると見なすべきであると理解される。
【0017】
当業者であれば、本明細書に記載の方法や組成物の具体的な実施形態に相当するものを、単なる日常の実験によって認識し、または解明することができるであろう。かかる相当するものは、請求の範囲に包含されるものと意図される。
【0018】
また、本明細書で用いられる用語は、具体的な実施形態を説明するためだけの目的で用いられており、添付の請求の範囲によって限定される本発明の範囲を狭める目的で用いられているのではないと理解されるべきである。
【0019】
特に別の定義がない限り、本明細書で用いられる全ての技術的および科学的用語は、本明細書の文脈において、当業者によって一般的に理解されるであろう意味を有する。
【0020】
本明細書や添付の請求の範囲で使用される(「a」、「an」、「the」といった)単数形は、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、複数の言及を含む。従って、例えば、「微生物(a microorganism)」という表現には、複数のかかる微生物が含まれ、「該微生物(the microorganism)」という表現は、当業者等によって既知の1つ以上の微生物またはその同等物を指す。
【0021】
本明細書には、生存している微生物細胞に特異的なNAATの基礎となる、rRNA前駆体の補充が利用される化合物および方法が記載されている。微生物の増殖が減速または停止するとき、rRNA前駆体の合成は減少するが、そのプロセッシングは継続し、結果として活発な相当量のrRNA前駆体のプールの枯渇をもたらす。増殖が制限されている細胞に新鮮な栄養が与えられると、rRNA前駆体のプールは迅速に補充される。そのような変動は、損傷のない生存している微生物細胞において、常に起こる。一方で、それらは、遊離核酸またはアッセイにおいてバックグラウンド「ノイズ」となるその他のタイプを有する死滅細胞においては見られない。
【0022】
rRNA前駆体の配列は、成熟rRNAの最も超可変性の領域に相当する特異性を有している。従って、任意の種の生存している微生物細胞を、rRNA前駆体の検出によって他の種と区別することができる。さらに、生存している微生物細胞は、一時的に栄養素で刺激された試料中でrRNA前駆体を測定することにより、同種の死滅細胞と区別することができる。刺激された試料中に存在するrRNA前駆体のレベルを刺激されていないコントロール試料と比較し、刺激された試料中の種特異的なrRNA前駆体がコントロール試料のそれを上回るときは、生存している細胞の存在が示唆される。本明細書では、このレシオメトリックアプローチを、レシオメトリックrRNA前駆体分析(RPA)と呼ぶ。
【0023】
本明細書で開示するように、RPAは1つの試料を2つまたはそれ以上のアリコートに分割して実施することができ、このとき少なくとも1つのアリコートは栄養的に刺激されており、少なくとも1つのアリコートは非刺激のコントロールとして取り扱われる。栄養的に刺激された試料中のrRNA前駆体のレベルは、コントロール試料中のrRNA前駆体のレベルと比較され、刺激された試料中におけるrRNA前駆体の補充によって、試料中に生存している細胞が存在していることが示される。
【0024】
一実施形態では、RPAは、一方のアリコートは栄養的に刺激され、他方は非栄養的に刺激されたコントロールに保持されるような、2つの同等なアリコートの使用を含むことができる。栄養的刺激が1世代時間もかからないうちに、種特異的なrRNA前駆体をレシオメトリックに定量化して、rRNA前駆体の刺激比率の値を決定する。一実施形態では、栄養的刺激は、標的微生物の1世代時間よりも、2分の1世代時間よりも、3分の1世代時間よりも、4分の1世代時間よりも、または8分の1世代時間よりも短い時間継続してもよい。栄養的刺激工程は、微生物数の適度な増幅にとってさえ十分な持続時間ではない。そのため、RPAは培養の強化ではない。一実施形態において、rRNA前駆体の刺激比率の値とは、コントロール試料と比較した刺激試料中のrRNA前駆体のレベルの比率のことである。特定の実施形態では、rRNA前駆体の刺激値を、試料中の生存している微生物細胞の存在を判定するために用いる。例えば、栄養的に刺激されたアリコート中のrRNA前駆体の値が、刺激されていないコントロールアリコート中のrRNA前駆体の値よりも多いとき、生存している微生物の存在が示される。
【0025】
特定の実施形態において、本明細書で開示されるRPA法を、同一種の不活性または死滅している微生物よりも極めて少ない生存している標的微生物を検出するために用いてもよいことが見出された。一実施形態では、RPAを、標的微生物のおよそ0.01%〜99%が生存している微生物である試料中の生存している微生物を検出するために実施することができる。かかる実施形態では、試料中に、標的微生物(生存+死滅)の合計のおよそ0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.1%、0.5%、1.0%、2.0%、3.0%、4.0%、5.0%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%および95%のレベルで存在する生存している標的微生物の存在を検出するためにRPAを用いてもよい。本明細書で用いられるように、試料中における生存している標的微生物の割合とは、生存しており、および不活性の両方の標的微生物の総計に対する生存している標的微生物の数である。
【0026】
本明細書に記載のRPAは、様々な種類の具体的な試料を対象に実施することができる。かかる実施形態では、本明細書に記載の試料は、関心ある細胞が潜在的に含まれる任意の所望の起源、または場所から採取される試料とすることができる。一実施形態では、その試料は、液体、固体、ガス、複合体、組織、またはその他の任意の所望する基質から採取してもよい。その試料は、屋外環境または屋内環境から採取してもよく、他の実施形態では、その試料は、被験体から採取される組織、流体またはスワブの試料であってもよい。かかる実施形態では、組織試料は血液、唾液、痰、排泄物、尿、毛髪、皮膚、または被験体から採取されるその他の任意の試料であってもよい。本説明のため、「被験体」という用語は、人間、動物または植物の被験体を指している。さらに、本明細書に記載のRPA法を用いた分析用の試料は、自然環境、産業環境、医療環境、居住環境、農業環境、配水環境、汚水処理環境、食糧の生産若しくは流通の環境、娯楽環境若しくは任意の所望の環境またはこれらの組合せから採取してもよい。試料は無機物および/または有機物を含んでいてもよく、海洋環境または淡水環境から採取してもよく、ならびに泥、岩、土、植物、空気およびこれらの組合せを含んでいてもよい。
【0027】
本明細書に記載のRPAに適切な試料は、原核細胞や真核細胞などの関心ある細胞を含んでもよい。特定の実施形態では、微生物は、グラム陰性菌、グラム陽性菌またはその他の型の細菌であってもよい。従って、本明細書に記載のRPA法は、人間のまたは獣医学的な臨床現場を含む1つ以上の状況において意義のある、1つ以上の微生物の検出に適用することができる。例えば、一実施形態では、本明細書に記載のRPA法は、植物媒介性や水媒介性の微生物の検出に用いてもよい。その他の実施形態では、本明細書に記載のRPAは、生物兵器の防衛や、生物兵器として用いられる微生物の検出に用いてもよい。その他の実施形態では、本明細書に記載のRPAは、感染病の診断や治療モニタリングに用いてもよい。その他の実施形態では、本明細書に記載のRPAは、これに限定されるものではないが、食品、飲料または医療機器などの製造プロセスの品質保証に用いてもよい。その他の実施形態では、本明細書に記載のRPAは、効果的な殺菌や、滅菌のメンテナンスや、ヘルスケアに使用される機器や材料のメンテナンスを保証するために用いてもよい。
【0028】
図6に示すように、RPAは、様々な属からの多くの微生物種を含む、関心ある1種以上の微生物を含有する試料を用いて実施してもよい。本明細書にて開示されるRPA法は、種特異的なrRNA前駆体の検出に適しており、特定の実施形態において、本明細書にて開示されるRPA法は、アシネトバクター属(Acinetobacter)、アクチノバチルス属(Actinobacillus)、エロモナス属(Aeromonas)、アーコバクター属(Arcobacter)、バクテロイデス属(Bacteroides)、ボルデテラ属(Bordetella)、ボレリア属(Borrelia)、ブルセラ属(Brucella)、バークホルデリア属(Burkholderia)、カンピロバクター属(Campylobacter)、シトロバクター属(Citrobacter)、クロノバクター属(Cronobacter)、エドワードシエラ属(Edwardsiella)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エシェリキア属(Escherichia)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)、フランシセラ属(Francisella)、フゾバクテリウム属(Fusobacterium)、ヘモフィルス属(Haemophilus)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)、レジオネラ属(Legionella)、レプトスピラ属(Leptospira)、モラクセラ属(Moraxella)、モルガネラ属(Morganella)、ナイセリア属(Neisseria)、パスツレラ属(Pasteurella)、プレシオモナス属(Plesiomonas)、ポルフィロモナス属(Porphyromonas)、プレボテラ属(Prevotella)、プロテウス属(Proteus)、プロビデンシア属(Providencia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、シゲラ属(Shigella)、ステノトロホモナス属(Stenotrophomonas)、トレポネーマ属(Treponema)、ベイヨネラ属(Veillonella)、ビブリオ属(Vibrio)、エルシニア属(Yersinia)、アクチノミセス属(Actinomyces)、バシラス属(Bacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、クロストリジウム属(Clostridium)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、リステリア属(Listeria)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、モビルンカス属(Mobiluncus)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、ノカルディア属(Nocardia)、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus)、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、スタヒロコッカス属(Staphylococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、およびストレプトマイセス属(Streptomyces)から選択される1つ以上の属からの微生物の種特異的なrRNA前駆体を検出することができる。
【0029】
RPA法は、1つの試料を2つ以上のアリコートに分割する操作を含み、そこでは、少なくとも1つのアリコートが栄養的に刺激され、また、少なくとも1つのアリコートが刺激されていないコントロールとして扱われる。一実施形態では、栄養的に刺激されたアリコート中に存在する材料はペレット化され、洗浄され、所望の微生物の培養条件下に置かれる。本明細書にて開示される微生物培養条件とは、当業者に一般的に公知の、標的生物の望ましい増殖に適した環境的、栄養的な条件である。一般的に、最適化された微生物培養条件としては、標的微生物に適した栄養媒体、温度、湿度、酸素圧、特定の微量または多量栄養素の存在、阻害剤の存在および圧力を挙げることができる。かかる一実施形態では、栄養的に刺激されたアリコートを所望の時間だけ温置又は培養し、標的微生物にふさわしい培地をアリコートに補充する。例えば、標的生物がグラム陰性桿菌のエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)であるような場合、試料を普通ブイヨンを含む培地で培養してもよい。その他の実施形態では、標的生物がマイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)であり、微生物培養条件がミドルブルック7H9培地による試料の培養を含んでもよい。その他の実施形態では、標的生物が嫌気性生物であり、栄養的刺激条件が低酸素圧を含んでもよい。その他の実施形態では、標的生物が制限された鉄利用能を有して細胞内環境に生息するリステリア等の病原体であり、栄養的刺激条件が鉄の提供を含んでもよい。一実施形態では、非栄養的に刺激されたコントロールアリコートは、標的微生物の状態が保持されるように設計されたコントロールの条件下で培養される。かかる一実施形態では、コントロールアリコートは、水または緩衝剤中で培養される。その他の実施形態では、嫌気性生物を検出する場合、コントロールアリコートは、大気酸素濃度などの好ましくない環境下で保持される。
【0030】
本明細書に記載のRPA法は、典型的には、試料中の標的微生物から分離された1種以上のrRNA前駆体分子の定量化を含む。かかる一実施形態では、rRNA前駆体は、当業者に公知の核酸抽出技術に従って試料から分離される。例えば、フェノール−クロロホルム抽出法などの標準的な方法に従い、試料中の細胞を溶解し、核酸を抽出してもよい。rRNA前駆体の抽出および定量化を含む核酸抽出の典型方法は、米国特許第5,712,095号、Cangelosi et al. 1997、およびCangelosi et al. 1996に開示されており(Cangelosi, G. A. and W. H. Brabant. 1997. Depletion of pre-16S rRNA in starved Escherichia coli cells. J. Bacteriol. 179: 4457-4463、Cangelosi, G. A., W. H. Brabant, T. B. Britschgi, and C. K. Wallis. 1996. Detection of rifampin- and ciprofloxacin-resistant Mycobacterium tuberculosis by using species-specific assays for precursor rRNA. Antimicrob. Agents Chemother. 40: 1790-1795)、それぞれ参照することにより本明細書に組み込む。
【0031】
rRNA前駆体分子の定量化は、核酸増幅技術の使用を含む。かかる一実施形態では、核酸増幅技術は、PCRをベースとした技術であってもよい。そのほかの実施形態では、核酸は、例えば核酸配列ベース増幅(NASBA)のような等温の増幅方法などの、PCRベースでない方法で増幅してもよい。核酸増幅方法の例は、GillとGhaemiによって2008年に開示されており(Pooria Gill and Amir Ghaemi. 2008. Nucleic acid isothermal amplification technologies - a review. Nucleosides, Nucleotides, and Nucleic Acids. 27: 224-243)、参照することにより本明細書に組み込む。本明細書に記載のRPAの一実施形態では、試料中の種特異的なrRNA前駆体を定量化し、rRNA前駆体の刺激値を測定するのにRT-qPCRを用いてもよい。RT-qPCRでは、逆転写酵素を用いてRNAをcDNAに変換し、その後、それを標準的な定量PCR(qPCR)によって測定する。
【0032】
本明細書にて開示されるRPA法では、標的微生物のrRNA前駆体の配列をターゲットとするように設計されたオリゴヌクレオチド・プライマーを用いてもよく、RPAに使用されるプライマーは、任意の成熟rRNAの配列をターゲットとしても、任意のrRNA前駆体の配列をターゲットとしてもよい。一実施形態では、プライマーは5’ rRNA前駆体のリーダー領域をターゲットとしてもよい。かかる一実施形態では、本明細書にて開示されるRPA法のためのプライマーは、成熟16S rRNAの5’末端のすぐ上流の配列をターゲットとしてもよく、これは、プロモーターに隣接した領域がrRNA前駆体を活発に転写する細胞に富んでいるからである。その他の実施形態では、RPAに使用されるプライマーは、16S rRNA遺伝子の下流のスペーサー配列をターゲットとしてもよい。さらなる実施形態では、プライマー対は成熟rRNAの5’ または3’末端をまたいでもよく、そのため、テンプレートとして損傷のないrRNA前駆体が増幅に必要となる。本明細書に記載のRPA法に用いられる逆方向プライマーは、成熟rRNA内の半保存的な領域を認識するように設計してもよく、順方向プライマーは、rRNA前駆体内の種特異的な配列を認識するように設計してもよい。或いは、本明細書に記載のRPA法に用いられる逆方向プライマーは、rRNA前駆体内の種特異的な配列を認識するように設計してもよく、順方向プライマーは、成熟rRNA内の半保存的な領域を認識するように設計してもよい。プライマーの長さや構成は、それらが特異的に、成熟rRNAまたはDNAではなくrRNA前駆体を増幅するように設計されている限りは、本発明にとって重要ではない。
【0033】
ある特定の実施形態では、プライマーはマイコバクテリウム・アビウム(M. avium)のrRNA前駆体分子を定量化するように設計してもよい。かかる一実施形態では、図7に準拠して、順方向および逆方向プライマーは、成熟16S rRNAの5’末端をまたいでいる増幅産物を生成するように設計することができ、そのため、テンプレートとして損傷のない16S rRNA前駆体が首尾よい増幅に必要となる。例えば、RT-qPCRのためのcDNA合成は、成熟rRNAの配列 5’-GCCCGCACGCTCACAGTTAAG-3’(配列番号:3)によって開始してもよい。順方向および逆方向PCRプライマーは、それぞれ5’-TTGGCCATACCTAGCACTCC-3’(配列番号:1)および5’-GATTGCCCACGTGTTACTCA-3’(配列番号:2)であってもよい。逆方向プライマーは、成熟rRNA配列内にあってもよく、一方、順方向プライマーは外部転写スペーサー(ETS-1)中のサイトを認識してもよい。RPA法で使用されるプライマーの例を図7に示し、言及される標的微生物に用いることができる順方向、逆方向および逆方向転写酵素のプライマーならびに代替プライマーの一式についても示す。
【0034】
本明細書にて開示する方法において、rRNA前駆体の刺激比率の値とは、コントロール試料中のrRNA前駆体のレベルに対する、刺激された試料中のrRNA前駆体のレベルの比率のことである。特定の実施形態では、本明細書にて開示するRPA法は、試料中の種特異的なrRNA前駆体をレシオメトリックに定量化する工程を含む。一実施形態では、種特異的なrRNA前駆体をレシオメトリックに定量化して、rRNA前駆体の刺激比率の値を決定する。かかる一実施形態では、rRNA前駆体の刺激比率の値は、非栄養的に刺激されたコントロール試料と比較した、栄養的に刺激された試料中のrRNA前駆体のレベルの比率であり、そのrRNA前駆体の刺激比率の値を用いて、試料中における生存している標的細胞の存在を判定する。例えば、rRNA前駆体の刺激比率の値が生存閾値とおよそ等しいまたはそれを上回るとき、生存している細胞の存在が示される。かかる一実施形態では、栄養的に刺激されたアリコート中のrRNA前駆体のレベルが、刺激されていないコントロールアリコート中のrRNA前駆体の値を上回ったときは、生存閾値によって標的細胞の生存が示される。
【0035】
本明細書において「生存閾値」という用語は、コントロール試料中のrRNA前駆体のレベルに対する、刺激された試料中のrRNA前駆体のレベルの算出比率を指し、試料中での生存している細胞の存在を示す。本明細書にて開示される任意の試料の生存閾値は、標的生物、試料のタイプ、NAATの分解能、および試料中のrRNA前駆体の定量化に影響を与えうるその他の条件に依存する可能性がある。特定の実施形態では、ある試料の生存閾値は、およそ1〜100の範囲かもしれない。閾値の選択は、特定のアッセイの必要条件に依存するかもしれない。例えば、ある病原体の存在に対して可能な限り高い感度を要する試験(医療機器の品質管理など)では、1の閾値を使用するかもしれない。或いは、高度の分析感度は必要ないが生存している細胞に対する特異性を要する試験(汚水処理のモニタリングなど)では、出費をもたらす誤検出結果の頻度を最小限にするため、より高い閾値を使用するかもしれない。
【0036】
一実施形態では、RPAは天然または生体内起源に由来する試料に対して実施してもよい。例えば、本明細書に記載のRPA法は、細胞組織または体液に由来する試料に対して実施してもよい。一実施形態では、試料は、人間や動物の細胞組織、血液または唾液から採取してもよい。血液および唾液は、水道水や湖沼水と比較して栄養分に富んだ環境であってもよい。かかる天然試料中の微生物は、活発に複製し、rRNA前駆体の大きなプールを保持してもよい。しかしながら、人工培地が調和のとれ、最適化された栄養条件であることは、実際は極めてまれである。自然環境において、微生物の増殖は、通常、特定の栄養素の利用性によって制限される。例えば、人間は、細胞組織において鉄の利用性を制限する先天性免疫機構を有している。特定の栄養素が制限的であるため、微生物の分裂が不十分であり、仮に分裂があっても、それは唾液や全血などの天然試料中においてである。そういう意味では、自然環境は、ある栄養素は大量に含有されるが、その他(通常は炭素または窒素)が枯渇しているという、廃菌床に似ている。特定の栄養素(炭素、窒素、水素または微量元素など)が制限された微生物を含む天然試料に対し、栄養的刺激の状況下でその制限栄養素が与えられたとき、測定可能なrRNA前駆体の合成が一気に沸き起こる。
【0037】
一実施形態では、本明細書に記載のRPA用に採取される試料としては、栄養素の利用性と増殖抑制物質や宿主防御機構の存在に関して空間的バリエーションを含む天然試料が挙げられる。例えば、感染されたばかりのマクロファージ中の結核菌はトップスピードで複製するのに対し、細胞外マトリックスまたは非常に大きな桿菌負荷を有する宿主細胞中においては増殖が遅くなりやすい。かかる一実施形態では、被験体の急性感染時に採取される天然試料に関して、試料中の全ての潜在的な標的微生物に対して最適な栄養混合物を提供し、最大の細胞増殖を確保することはありえないかもしれない。そのため、天然試料中の標的微生物は、栄養的に刺激された条件下で培養されたときにrRNA前駆体が合成され、およびrRNA前駆体の増加が示されることが予測できる。一実施形態では、本明細書にて開示するRPA法は、栄養が制限された環境に生息する標的微生物を含む天然試料を採取する操作を含むことができる。かかる一実施形態では、本明細書にて開示するRPA法は、天然試料中の制限栄養素を測定する操作、およびその後、天然試料のアリコートに対し、その制限栄養素を含む強化栄養培地で栄養的に刺激する操作を含んでもよい。従って、強化栄養培地中の制限栄養素が標的微生物に提供されることにより、標的微生物のrRNA前駆体のレベルの向上が引き起こされることがある。
【0038】
特定の一実施形態では、RPAは、試料中のマイコバクテリウム・ツベルクローシス(M. tuberculosis)のような、人間や動物に由来する標的微生物に対して実施してもよい。かかる一実施形態では、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(M. tuberculosis)の感染の疑いがある、またはマイコバクテリウム・ツベルクローシス(M. tuberculosis)の治療中である被験体から、唾液を採取してもよい。その唾液試料は、2つのアリコートに分割してもよく、1つをミドルブルック7H9培養液のような強化培地で栄養的に刺激し、もう1つをコントロールとしてPBSまたは水中で保持することができる。一実施形態では、栄養的刺激は、37℃でおよそ3〜5時間継続してもよい。その後、刺激されたアリコートおよびコントロールアリコート中の細菌を溶解してもよく、RT-qPCRを用いてrRNA前駆体の定量化およびrRNA前駆体の刺激比率の値の算出を行ってもよい。rRNA前駆体の刺激値を用いて、天然試料中における生存しているマイコバクテリウム・ツベルクローシス(M. tuberculosis)の存在を判定してもよい。かかる一実施形態では、生存しているマイコバクテリウム・ツベルクローシス(M. tuberculosis)細胞の存在は、栄養的に刺激されたアリコート中のrRNA前駆体の値が刺激されていないコントロールアリコート中のrRNA前駆体の値よりも上回っているときに示される。類似の実施形態では、制限栄養素による栄養的刺激を用いたRPAによって、クラミジア属(Chlamydia)、リステリア属(Listeria)およびレジオネラ属(Legionella)等の細胞内病原体を検出してもよい。標的病原体は、生体内で「培養可能」である必要はない。例えば、膣スワブにおいて、その天然の細胞内環境では制限された特定の栄養素を提供すると、RPAを用いることによって、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)などの偏性細胞内病原体を検出することができる。かかる病原体は、こうした状況下では複製ができないかもしれないが、制限栄養素の存在を識別することができ、rRNA前駆体の合成は細胞増殖のかなり初期段階にあることから、複製が未遂に終わったとしてもrRNA前駆体の合成が可能である。かかる合成もRPAで検出可能であろう。
【0039】
本明細書にて開示するRPA法の実施においては、核酸の抽出および定量化についての公知の手動または自動化された方法を利用してもよい。そのような一実施形態では、RPAには、核酸チップ技術、マイクロアレイ、多重化技術、ラボ・オン・チップ、ラボ・オン・カード、マイクロ流体デバイスおよび当業者にとって既知のその他の核酸の抽出および定量化技術のうちの1つ以上を利用した核酸の抽出および/または定量化の操作が含まれていてもよい。本明細書において「マイクロ流体デバイス」という用語は、RPAを実施するために用いられることのある装置であり、核酸チップ技術、マイクロアレイ、多重化技術、ラボ・オン・チップ、ラボ・オン・カードおよびこれらの関連技術を含むことのある装置を指す。例えば、核酸の抽出や分析の方法については米国特許第7,608,399号および米国特許出願第11/880,790号にて開示されており、どちらも参照することにより本明細書に組み込む。
【0040】
一実施形態では、本明細書にて開示するRPA法は、RNAの抽出および増幅に核酸カードを使用する操作を含んでもよく、それに続いてレシオメトリック分析が行われる。試料から採取したアリコートの一つを栄養的に刺激し、一方でコントロールアリコートを緩衝剤中に保持する(ステップA)。一時的な栄養的刺激の後、細胞を溶解し(ステップB)、その後、対の核酸カードに充填する。RNAの抽出(ステップC)の終了後、溶出液にqPCRを行う。増殖の遅い抗酸菌に適用する場合には、栄養的刺激を含む全工程に6〜24時間を要する可能性がある。一方、マイコバクテリウム(Mycobacterium)の培養には5〜14日間を要する。
【0041】
一実施形態では、本明細書にて開示するRPAは、血液やその他の生体試料からDNAやRNAを迅速に、容易に、および確実に分離することのできる平面ガラスまたは複合カードを利用した核酸の抽出および定量化の操作を含んでもよい。一実施形態では、本明細書にて開示するRPAは、細胞の溶解、核酸の抽出および精製、ならびに抽出された核酸の測定を一体化した装置を用いて実施してもよい。かかる一実施形態では、該装置は、本明細書に記載の生体試料を受け入れ、処理するための容器であってよい。かかる一実施形態では、本明細書にて開示するRPA法は、フロースルーガラスの壁を有する核酸カードを用いて試料から核酸を抽出する操作を含んでもよい。かかる一実施形態では、該カードを、核酸の定量化、DNAまたはRNAの抽出および濃度測定のために用いてもよい。他の実施形態では、核酸の抽出および/または定量化は、核酸カード上に配置された充填及び溶出ポート中に挿入されるピペットを用いて手動で行ってもよい。或いは、本明細書にて開示される核酸の抽出および/または定量化は、流体ハンドリング装置または当業者に既知のその他の適切な装置を用いて自動で行ってもよい。
【0042】
本明細書にて開示するRPA法は、RPAの特異性を改善するため、免疫分離または免疫スクリーニング工程などのプレスクリーニング工程を含んでもよい。一実施形態では、RPAは、1つ以上の関心ある標的微生物を同定するか、抗体若しくはその他のプローブでコーティングされているビーズ若しくはその他の粒子、またはその標的微生物と特異的に結びつくペプチドで捕捉する工程を含んでもよい。かかる一実施形態では、抗体またはプローブで同定された標的微生物に、本明細書にて開示されるRPAを行なってもよい。例えば、予備的な免疫分離工程で同定された標的微生物を、栄養的に刺激されたアリコートや、非栄養的に刺激されたコントロールとして保存されるアリコートを含む、2つ以上のアリコートに分割してもよい。そして、コントロール試料と比較した栄養的に刺激された試料中のrRNA前駆体の補充を、本明細書に記載の通りに定量化することができる。一実施形態では、本明細書に記載の免疫分離工程を用いて、特定の菌株または標的微生物の個体群を単離してもよい。例えば、本明細書にて開示するRPA法は、特定の菌株や、標的微生物の個体群の分離株を同定できる免疫分離工程を含んでもよい。特定の例では、本明細書にて開示するRPA法は、大腸菌O157(E. coli O157)のような特定の大腸菌(E. coli)株を同一種の他の微生物から分離する免疫分離工程を含んでもよい。
【0043】
一実施形態では、本明細書にて開示するRPAを用いて、標的微生物の検出感度を改善してもよい。例えば、他の試験と並行して、RPAを用い、生存している標的微生物の存在を確認してもよい。本明細書にて開示するRPAは、細胞活動の動的な測定法として、静的なDNA検出法よりも、不明確なシグナルに対して絶大なる信頼を提供する。このことは、試料中の微生物の核酸増幅検査に関する総合的な感度、信頼性およびロバスト性を改善することがある。この改善された生物感度は、RPAの動的な性質に由来している。一つの例えとして、動いている動物は動いていないそれに比べて見つけやすいという点から、森の中での動物の観察が挙げられるだろう。RPAで見られるrRNA前駆体の合成は、栄養的刺激によって確実に誘発される、一種の細菌の「動き」である。
【0044】
さらに、RPAは、従来のNAATよりも有利な点を他にも有している。逆転写酵素の定量PCR(RT-qPCR)の大抵のプロトコルは、3つの工程、つまり、RNAの定量化を妨げるおそれのあるゲノムDNAを除去するためのデオキシリボヌクレアーゼ(DNAse)の消化、逆転写酵素(RT)によるRNAからcDNAへの変換、およびqPCRによる最終的なcDNAの定量化、を有する。RPAでは、細菌性細胞中のゲノムDNAよりもrRNA前駆体の方が1〜3桁も多いので、DNAseの消化工程は必要ない。また、ゲノムDNAは、刺激されたアリコートとコントロールアリコートとにおいて、同程度の量が発見されると予測される。結果として、ゲノムDNAはほとんどバックグラウンドシグナルをもたらさず、レシオメトリック分析の妨げにはならない。
【0045】
一実施形態では、第一の分析が不確定な、不明確な、または翻訳困難な結果をもたらす場合、RPAを用いて、第一の分析の結果の信頼性を高めてもよい。例えば、一般的に、30よりも小さいサイクル閾値(Ct)を持ったRT-qPCR(すなわち、約30よりも少ない増幅サイクル後の陽性結果)は、明らかに陽性である。しかしながら、30を上回るCt値は不明確であり、解釈困難である可能性がある。そのようなシグナルは、試料汚染またはバックグラウンドノイズにさえ起因している可能性がある。一実施形態では、Ct値が30よりも大きいときに、RPAを用いて、微生物細胞の存在に対するRT-qPCR試験の結果を確認してもよい。測定を繰り返し、栄養的に刺激されたアリコートがコントロールアリコートよりも一貫して強いRT-qPCRのシグナルを示すとき、その結果は生物細胞の存在を反映している可能性が高い。かかる結果が、バックグラウンドノイズ、DNAの汚染およびその他の不明確な陽性結果となる要因によってもたらされる可能性は非常に低い。従って、RPAは、生存している微生物細胞に対する特異性の改善に加え、微生物細胞に対するNAATの機能感度を著しく改善することができる。NAATのその他の例として、非レシオメトリックのrRNA(成熟または前駆体)の増幅や、ダイレクトハイブリダイゼーションによる非レシオメトリックのrRNAの検出が挙げられる。
【0046】
Ct値に加え、その他の定量または半定量のNAAT試験から読み出した情報を、RPAで使用することができる。例として、ゲル電気泳動の結果、蛍光灯または比色分析のシグナル、熱的読み出し情報、融解曲線、およびラインプローブアッセイや核酸側方流動(NALF)のような核酸プローブのハイブリダイゼーションをベースとした読み出し情報が挙げられる。全ての場合において、RPAは、少量で存在する微生物細胞の検出に対する機能感度とともに、生存している細胞に対する特異性を改善することができる。
【0047】
一実施形態では、RPAを用いて、試料中の微生物の存在を同定するために設計されたDNA検出試験などの、第一のNAATの感度を高めてもよい。かかる一実施形態では、RPAと同時またはその前に、同一の試料に対してゲノムDNAの検出アッセイを行い、生存している標的微生物の存在を検出してもよい。その他の実施形態では、RPAを用いて、標的微生物の検出方法で生じる不明確な結果の解釈を困難にすることのあるバックグラウンドノイズまたは環境のDNA汚染を解消してもよい。
【実施例】
【0048】
以下の実施例は、例示の目的のみのために提供され、決して本明細書に記載の組成物や方法の範囲を制限するものではない。開示される組成物や方法は、本明細書に記載の特定の方法、プロトコルおよび試薬に制限されるものではない。特に明記しない限り、各々の例において、提示される実施例に記載された作業の実施には標準的な材料および方法を用いた。本明細書で引用される全ての発明および参考文献を、全体として参照することにより本明細書に組み込む。
【0049】
特に指示がない限り、本発明の実施では、化学、分子生物学、微生物学、組み換えDNA、遺伝学、免疫学、細胞生物学、細胞培養および遺伝子組換生物学の通常の技術を用いており、それは、当該技術分野の技術範囲内のものである(Ral-time PCR in Microbiology: From Diagnosis to Characterization (I. M. Makay ed. 2007); Nolan, T., et al. (2006) Quantification of mRNA using real-time RT-PCR. Nature Protocols 1, 1559-1582; Maniatis, T., et al. (1982) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y.); Sambrook, J., et al. (2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed. (Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y.); Ausubel, F. M., et al. (1992) Current Protocols in Molecular Biology, (J. Wiley and Sons, NY); Glover, D. (1985) DNA Cloning, I and II (Oxford Press); Anand, R. (1992) Techniques for the Analysis of Complex Genomes, (Academic Press); Guthrie, G. and Fink, G. R. (1991) Guide to Yease Genetics and Molecular Biology (Academic Press); Harlow and Lane (1988) Antibodies: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y.); Jakoby, W. B. and Pastan, I. H. (eds.) (1979) Cell Culture. Methods in Enzymology, Vol. 58 (Academic Press, Inc., Harcourt Brace Jovanovich (NY); Nucleic Acid Hybridization (B. D. Hames & S. J. Higgins eds. 1984); Transcription And Translation (B. D. Hames & S. J. Higgins eds. 1984); Culture Of Animal Cells (R. I. Freshney, Alan R. Liss, Inc., 1987); Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press, 1986); B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984); the treatise, Methods In Enzymology (Academic Press, Inc., N.Y.); Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells (J. H. Miller and M. P. Calos eds., 1987, Cold Spring Harbor Laboratory); Methods In Enzymology, Vols. 154 and 155 (Wu et al. eds.); Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Mayer and Walker, eds., Academic Press, London, 1987); Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I-IV (D. M. Weir and C. C. Blackwell, eds., 1986); Hogan et al. (eds) (1994) Manipulating the Mouse Embryo; A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.) などを参照のこと)。特に指示がない限り、本発明の実施では、化学、分子生物学、微生物学、組み換えDNA、遺伝学および免疫学の従来技術を用いている(Maniatis et al., 1982; Sambrook et al., 2001; Ausubel et al., 1992; Glover, 1985; Anand, 1992; Guthrie and Fink, 1991などを参照のこと)。
【0050】
本明細書にて教示される特徴事項に関し、先行発明による前記の開示に先行する権限がないことを認めると解釈されるものではない。如何なる参考文献も、従来技術を構成しているとは認められない。参考文献の考察には、その著者が何を主張しているのかが述べられており、出願人はその引用書類の正確性や適切性に対して意義を申し立てる権利を保有する。多くの出版物が本明細書に引用されているが、そのような出典は、どの出版物も従来技術における一般常識の一部をなしているという承認を構成していないことが明らかに理解されるであろう。
【0051】
(実施例1−rRNA前駆体をベースとした細胞生死判別試験の計画)
【0052】
rRNA前駆体のプールは、環境中の新しい栄養素を識別する細菌によって迅速に補充される。図1に示すとおり、大腸菌(E. coli)において、16S rRNA前駆体のプールは、定常期細胞の栄養を向上させた後に、補充される。引き続き図1に関して、時間0の時に、大腸菌の一晩培養物を新鮮なLB培地で20倍に希釈した(矢印)。希釈の前後の時点で光学密度を記録し、rRNA前駆体および成熟16S rRNAの含有量について化学発光サンドイッチハイブリダイゼーションアッセイによって試料を分析した。白丸は培養物のOD600(右軸)、白三角形はOD600当りの16S rRNA前駆体(左軸)、黒三角形はOD600当りの成熟16S rRNAである。3つの同時に実行した培養物の平均・標準偏差を図1に示す。
【0053】
30分ごとに分裂および倍増し、rRNAの高いコピー数を有する大腸菌とは対照的に、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)BCGは約24時間ごとに倍増し、rRNAコピーが少ない。それにもかかわらず、rRNA前駆体の補充は、この生命体に対する1分裂時間以内の栄養的向上で明確に視認できる。図2は、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)BCGで対して実施された試験におけるそれを示しており、ここでは、rRNA前駆体の検出にスロットブロットハイブリダイゼーションアッセイを用いた(黒丸)。引き続き図2に関して、矢印にて示された時間に、定常期のマイコバクテリウム・ボビス細胞を新鮮な7H10培地で希釈した。栄養的刺激の前後で、rRNA前駆体のコピー数と細胞密度を記録した。黒丸は、ゲノムDNAに対するrRNA前駆体の比率を示す。白三角形は、マイコバクテリウム・ボビス培地のOD600を示す。細菌性細胞中のrRNA前駆体は、全rRNAの4〜20%と豊富にあるため、増幅せずに直接検出することができた。結果として、rRNA前駆体の検出の感度はゲノムDNAの検出のそれを超えている。
【0054】
(実施例2−rRNA前駆体のレシオメトリック分析)
【0055】
RPA試験を、人の疾患を引き起こす疑いのある、飲料水から得られる2つの細菌性病原体用に開発した。そのモデルとなる種は、迅速に増殖するグラム陰性のエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)細菌と、ゆっくりと増殖するマイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)放線菌であった。プロモーターに隣接した領域はrRNA前駆体を活発に転写する細胞が豊富であろうと仮定し、両種ともに、rRNA前駆体の5’リーダー領域(成熟16S rRNAの5’末端のすぐ上流の配列)をターゲットとした。プライマー対は成熟rRNAの5’末端をまたいでいたので、テンプレートとして損傷のないrRNA前駆体が増幅に必要であった。逆方向プライマーは、成熟rRNAの半保存的な領域を認識した。順方向プライマーは、5’リーダー内の種特異的な配列を認識した。
【0056】
マイコバクテリウム・アビウム(M. avium)の順方向および逆方向プライマーは、成熟16S rRNA の5’末端をまたいだ予測される237bpの増幅産物を生成するように設計したので、テンプレートとして損傷のない16S rRNA前駆体が首尾よい増幅に必要であった。cDNAの合成は、成熟rRNAの配列 5’-GCCCGCACGCTCACAGTTAAG-3’(配列番号:3)で開始した。順方向および逆方向のPCRのプライマーは、それぞれ5’-TTGGCCATACCTAGCACTCC-3’(配列番号:1)および5’-GATTGCCCACGTGTTACTCA-3’(配列番号:2)であった。逆方向プライマーは成熟rRNAの配列内にあり、一方、順方向プライマーはETS-1にあるサイトを認識した。ゲル電気泳動によるPCRでは、15個のマイコバクテリウム・アビウム(M. avium)の臨床分離株および4個のマイコバクテリウム・イントラセルラーレ(M. intracellulare)の臨床分離株の核酸に適用したとき、BLAST分析で特異的に予測された種と一致した、予想通りの大きさの生成物を一貫して産出した。これら2つの近縁の種は、マイコバクテリウム・アビウム・コンプレックス(M. avium complex、MAC)として知られる、臨床的に関連した群を含む。この反応を、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(M. tuberculosis)、マイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)、マイコバクテリウム・テラエ(M. terrae)、マイコバクテリウム・ガストリ(M. gastri)、マイコバクテリウム・ノンクロモジェニカム(M. nonchromogenicum)、マイコバクテリウム・フレイ(M. phlei)およびマイコバクテリウム・バッカエ(M. vaccae)に適用したときには、生成物は何も観察されなかった(データは図示せず)。これらの観察により、rRNA前駆体の分析における系統発生特異性がいかに有用であるかがわかる。
【0057】
エロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)の順方向および逆方向プライマーは、予測された189bpの増幅産物を生成した。成熟rRNAの配列 5’-CTACAAGACTCTAGCTGGACAGT-3’(配列番号:6)により、cDNAの合成を開始した。順方向および逆方向のPCRのプライマーは、それぞれ5’-ATTGAGCCGCCTTAACAGG-3’(配列番号:4)および5’-AACTGTTATCCCCCTCGAC-3’(配列番号:5)であった。NCBIの非冗長データベースに対して行われたBLAST分析では、エロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)以外に順方向プライマーとの一致が一つも発見されなかった。近縁種のエロモナス・サルモニシダA449(A. salmonicida A449)は、相同配列を有していなかった。
【0058】
栄養的刺激下におけるrRNA前駆体の補充についての経時変化を評価するため、定常期初期のエロモナス・ハイドロフィラ ATCC 7966(A.hydrophila ATCC 7966)細胞を洗浄し、オートクレーブ処理した水道水(ATW)中に再懸濁し、曝気とともに28℃で7日間培養した。また、定常期初期のMAH菌株HMC02の細胞を洗浄し、ATW中に再懸濁し、曝気とともに37℃で14日間培養した。これらの条件は、刺激された水供給環境でrRNA前駆体のプールを枯渇させるように設計した。RPAを実施するため、水分不足型の細菌を2つのアリコートに分割し、遠心分離した。一方のペレットを培地(栄養的刺激)に、他方をATW(コントロール)中に再懸濁した。最終的な細胞密度はおよそ106 cfu/mL であった。エロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)の栄養的刺激には普通ブイヨンを用い、MAHには10%のADCが補給されたミドルブルック7H9培地を用いた。それぞれの期間培養したあと、細胞を高エネルギービードビーティングで溶解し、酸性のフェノール−クロロホルムによってRNAを分離し、RT-qPCRでrRNA前駆体を測定した。ゲノムDNAの検量線に対する標準化を行った後、栄養的に刺激された試料とコントロール試料中のRT-qPCRの値の比を算出した。両生命体において、rRNA前駆体の刺激はかなり迅速であった。エロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)における一貫したrRNA前駆体の増加には、およそ15分の栄養的刺激で十分であった。世代時間が20時間を超えるほどの、増殖の遅いマイコバクテリウム・アビウム(M. avium)に関しては、rRNA前駆体の最大の刺激におよそ4時間を要した。両生命体にとって、これらの期間は1世代時間よりも短い。
【0059】
図3は、水分不足型エロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)(A)およびマイコバクテリウム・アビウム・ストレイン104(M. avium strain 104)(B)の細胞における、rRNA前駆体の栄養的刺激の経時変化を示している。rRNA前駆体の刺激比率の値は、RT-qPCRによって測定される、コントロール試料に対する刺激された試料中のrRNA前駆体の比率である。この値は、ある時点ごとでの2より多い実験の平均および標準偏差である。抽出したRNAに対するRT-qPCRの実施には、最初にスーパースクリプトIIIシステム(Invitrogen Corp., Carlsbad, CA)を用いて相補DNA(cDNA)を生成させ、Qiagen PCR精製キット(Cat# 28104, Qiagen Inc., Valencia, CA)を用いて洗浄した。cDNAの増幅には、Applied Biosystems (ABI) Power SYBR Green mix (Applied Biosystems Inc., Foster City, CA) を用いた。定量的な読み出し情報を確保するため、2つの異なる希釈で3回の反応を実施した。増幅は、ABI Prism RT-7500の96ウェルプレートで、「9600 emulation」を用い、10分95℃および(15秒95℃、30秒60℃、30秒72℃)×40サイクルの条件で行った。Ct閾値の設定には、ABIのSDSソフトウェアを用いた。
【0060】
(実施例3−rRNA前駆体の刺激比率と細胞の生存との相関)
【0061】
RPAの生存している細胞に対する特異性を評価するため、次亜塩素酸ソーダ処理を用い、生存している細胞と不活性細胞の比率を変化させたエロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)細胞の懸濁液を生成させた。塩素暴露の後、その比率を生菌プレーティングによって定量化し、およそ1×106 cfu/mLの投入密度に対する生存率として表した。塩素処理されたおよび未処理の細胞懸濁液に対してRPAを実施するため、対のアリコートを遠心分離し、細胞のペレットを水(コントロール試料)または普通ブイヨン(刺激された試料)中に再懸濁した。1時間の栄養的刺激の後、rRNA前駆体の刺激比率を測定した。いくつかの試験においては、刺激された試料およびコントロール試料中のゲノムDNAについてもqPCRで定量化した。これにより、RPAの生存している細胞に対する特異性について、従来のDNAのqPCRで見られる特異性と比較して評価できるようになった。
【0062】
表1に、ゲノムDNAおよびrRNA前駆体の測定を行った2つの試験結果を示す。1回目の試験では、生存率が96.3%、26.9%および0.02%である試料が、3±1SD(標準偏差)よりも大きい値のrRNA前駆体の刺激比率を示した。生存している細胞が検出されない試料(生存率0%)に関しては、統計的に1.0を超えないrRNA前駆体の刺激比率を示した。したがって、RPAは、最大約99.98%の標的微生物が死滅している試料において、有意なrRNA前駆体の刺激比率の値を示した。その一方、qPCRによるエロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)のゲノムDNAの検出に関しては、細胞生存率にかかわらず、全ての試料において強い陽性であった。さらに、栄養的に刺激されたアリコートとコントロールアリコートのDNAシグナルには、違いが見られなかった(図示せず)。2回目の試験において、同様の結果が確認された(表1)。この実施例から、試験1における2mg/lの次亜塩素酸塩で処理された試料のように、不活性細胞の方が5000倍以上多く存在していたとしても、生存している細胞に対するRPAの感度がいかに高いかがわかる。
【表1】
1 およそ1×106のインプット細菌に対して標準化した。
2 反復実施した3試料の平均±標準偏差。
【0063】
表1のプロトコルを用いた4つの試験において、生存率を変化させた、合計18個の塩素処理されたおよび未処理の試料に対し、RPAを適用した。コロニー形成単位が検出されない試料において観察されたrRNA前駆体の刺激比率は、コロニー形成単位が検出される試料において観察されたそれよりも著しく低かった(マン・ホイットニーのU検定によるp=0.0026)(図4A)。2つの群の間には多少の重複があったが、その重複は、刺激されたまたは刺激されない試料中のゲノムDNAを定量化したときに観察されたそれよりも著しく小さいものであった(図4B)。生存性とDNA刺激比率との間には、有意な相関が見られなかった。さらに具体的には、図4は、生存しているエロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)細胞の存在と、rRNA前駆体の刺激比率(A)、およびqPCRによって定量化される次亜塩素酸塩処理された実験懸濁液中のゲノムDNA(B)との相関を示している。rRNA前駆体の刺激比率(A)とは、コントロール試料に対する刺激された試料中のrRNA前駆体の比率であり、RT-qPCRによって測定される。この値は、試料ごとの3回の測定の平均である。ゲノムDNAのコピー数(B)は、ゲノムDNAの検量線に対して標準化し、qPCRによって定量化した。栄養的に刺激された試料(白四角形)および刺激されていない試料(白三角形)中のDNAを測定した。
【0064】
(実施例4−RPAアッセイのフィールドテスト)
【0065】
エロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)は、一般的な表面水の阻害剤として、RPAのフィールドテストにとって都合のよいモデルである。ワシントン州のシアトルにある淡水および海水のサイトから、試料を採取した。各試料の一部をオートクレーブ処理し、不活性のコントロールを作り出した。オートクレーブ処理した、およびオートクレーブ処理していない試料(それぞれ300 mL)を、ろ過により濃縮した。再懸濁の後、普通ブイヨン(刺激された試料)または水(コントロール)で2つのアリコートを2倍希釈した。1時間培養したあと、遠心分離によって細菌や微粒子を濃縮し、その後、ペレット中のエロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)のrRNA前駆体をRT-qPCRで測定した。標準的な方法の後、生菌プレーティングによって、試料中に生存しているエロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)の数を測定した。
【表2】
1試料ごとに4回以上反復実施した測定の平均・標準偏差。
【0066】
合計で、淡水試料3つおよび海水試料1つを分析した。淡水試料は、280〜798 cfu/mLの範囲の生存しているエロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)を生成した。それらの全てが、陽性のRPAのシグナルを示した(表2)。オートクレーブ処理をした試料は全てコロニー形成単位を生成せず、これらの試料中からはエロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)のrRNA前駆体が検出されなかった。海水試料のエロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)は6 cfu/mLであったが、エロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)のrRNA前駆体は、オートクレーブ処理の有無および試料の刺激されている/されていないにかかわらず、検出されなかった。
【0067】
この結果は、環境試料中の生存している微生物を特異的に検出する手段としてRPAが利用できることを裏付けている。RPA法を用いて、死滅した細菌性細胞やDNAだけを含む試料において観察される、偽陽性結果を除外してもよい。また、RPAを使用することで、試料またはPCR試薬の実験室汚染によって引き起こされる偽陽性を低減することができる。さらには、RPAは頑強であり、全ての細菌の生理的特徴の上に成り立っており、それ単独でまたは他の手段の補助として、食物や水の安全性分析において有用である。
【0068】
(実施例5−RPAの生物学的な感度)
【0069】
RPAを用いて、ゲノムDNAの検出に対するアッセイの感度を改善してもよい。図5は、280 cfu/mLの生存しているエロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)を含む単一の淡水湖の試料(表2の試料A2)に由来する、対の刺激されたアリコートおよびコントロールアリコートに対して行われた、反復のRT-qPCR反応の結果を示している。引き続き図5に関して、ワシントン州シアトルのレイク・ユニオンの試料を2つのアリコートに分割し、その一方を普通ブイヨンで刺激し(黒い棒グラフ)、他方をコントロールとしてATW中に再懸濁した(白い棒グラフ)。図5に示す結果は、サイクル閾値(Ct)とゲノムDNA検量線とを比較して算出された、試料1 mLあたりのおおよそのrRNA前駆体のコピー数として表されている。これらの各々の技術的反復において、刺激された試料中のrRNA前駆体シグナルは、コントロール試料中のそれよりも大きく上回った。
【0070】
表2におけるCt値は、どれも32〜43の範囲内にあり、すなわちシグナルが不明確で脆弱であった。これは、濃縮表面水によく見られるPCR阻害物に起因していた可能性が最も高い。これらの制限にかかわらず、刺激された試料中におけるrRNA前駆体シグナルの一貫した向上により生存しているエロモナス・ハイドロフィラ(A. hydrophila)細胞が存在するとの結論の確信が強まるので、結果は明らかに陽性であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
図6-5】
図7-1】
図7-2】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]