特許第5768283号(P5768283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5768283ポリマー液晶物質マーキングを使用する識別および認証
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5768283
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】ポリマー液晶物質マーキングを使用する識別および認証
(51)【国際特許分類】
   G06K 1/12 20060101AFI20150806BHJP
   G06K 7/00 20060101ALI20150806BHJP
   G06K 7/10 20060101ALI20150806BHJP
   G06K 7/12 20060101ALI20150806BHJP
   G06K 19/06 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   G06K1/12 C
   G06K7/00 W
   G06K7/10 B
   G06K7/12 Z
   G06K19/06
【請求項の数】16
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2012-502711(P2012-502711)
(86)(22)【出願日】2010年4月6日
(65)【公表番号】特表2012-523031(P2012-523031A)
(43)【公表日】2012年9月27日
(86)【国際出願番号】EP2010054515
(87)【国際公開番号】WO2010115879
(87)【国際公開日】20101014
【審査請求日】2012年11月5日
【審判番号】不服2014-5987(P2014-5987/J1)
【審判請求日】2014年4月2日
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2009/002434
(32)【優先日】2009年4月2日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】12/384,340
(32)【優先日】2009年4月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】311007051
【氏名又は名称】シクパ ホルディング ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】SICPA HOLDING SA
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100139000
【弁理士】
【氏名又は名称】城戸 博兒
(74)【代理人】
【識別番号】100152191
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 正人
(72)【発明者】
【氏名】マルグレッタス,ザビエル
(72)【発明者】
【氏名】ゲルマド,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】コムル,オーレリアン
(72)【発明者】
【氏名】アブタノ,ヴィッキー
(72)【発明者】
【氏名】ティレー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ロズメク,オリヴィエ
【合議体】
【審判長】 金子 幸一
【審判官】 緑川 隆
【審判官】 須田 勝巳
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/000755(WO,A1)
【文献】 特表2007−519941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K1/12
G06K7/00
G06K7/10
G06K7/12
G06K19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイテムまたは物品のためのマーキングであって、機械によるその認証および読み取り、ならびに人間の目によるその認証を可能にする規定された光学特性を有するポリマー液晶物質を含み、前記マーキングは、可変情報印刷工程によって基板に液晶前駆体組成物を独立して塗布し、加熱して液晶前駆体組成物中に含まれる溶媒を蒸発させかつ液晶状態を促進させ、そして秩序液晶状態の塗布された組成物を硬化させることによって得られ、かつ前記マーキングは、ユニークなコードを表すインディシアの形態を有し、その識別を可能にすることを特徴とする上記マーキング。
【請求項2】
前記ポリマー液晶物質が、色、および角度依存性の色の変化を示すコレステリック液晶物質であり、
前記コレステリック液晶物質が、200〜400nmの波長範囲に対応するUVスペクトル中に反射バンドを有する、請求項1に記載のマーキング。
【請求項3】
前記ポリマー液晶物質が、色、および角度依存性の色の変化を示すコレステリック液晶物質であり、
前記コレステリック液晶物質が、400〜700nmの波長範囲に対応する可視スペクトル中に反射バンドを有する、請求項1に記載のマーキング。
【請求項4】
前記ポリマー液晶物質が、色、および角度依存性の色の変化を示すコレステリック液晶物質であり、
前記コレステリック液晶物質が、700〜2500nmの波長範囲に対応する赤外スペクトル中に反射バンドを有する、請求項1に記載のマーキング。
【請求項5】
前記ポリマー液晶物質が、無機発光化合物、有機発光化合物、IR吸収剤、磁性物質、法医学的マーカー、およびこれらの組合せからなる群から選択されるさらなるセキュリティ物質を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のマーキング。
【請求項6】
前記基板が、白色表面領域、黒色表面領域、着色表面領域、反射表面領域、透明表面領域、およびこれらの組合せの群からそれぞれ選択される少なくとも2つの異なる表面領域を含む、パターン形成された基板である、請求項1から5のいずれか一項に記載のマーキング。
【請求項7】
前記基板が、無機発光化合物、有機発光化合物、IR吸収剤、磁性物質、法医学的マーカー、およびこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つのセキュリティ要素を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のマーキング。
【請求項8】
前記可変情報印刷工程が、コンティニュアスインクジェット印刷およびドロップオンデマンドインクジェット印刷の群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載のマーキング。
【請求項9】
ユニークなコードを表す前記インディシアが、一次元バーコード、スタックド一次元バーコード、および二次元バーコードの群から選ばれる、請求項1から8のいずれか一項に記載のマーキング。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の少なくとも1つのマーキングを有し、
価値のある文書、銀行券、パスポート、身分証明文書、運転免許証、官許、アクセス文書、切手、納税印紙およびタックスバンダロール、輸送チケット、イベントチケット、ラベル、ホイル、包装、予備部品、ならびに消費財の群から選ばれる、
アイテムまたは物品。
【請求項11】
価値のある文書、銀行券、パスポート、身分証明文書、運転免許証、官許、アクセス文書、切手、納税印紙およびタックスバンダロール、輸送チケット、イベントチケット、ラベル、ホイル、包装、予備部品、ならびに消費財の群から選ばれるアイテムまたは物品をトラッキングまたはトレーシングするための、請求項1から9のいずれか一項に記載のマーキングの使用。
【請求項12】
請求項10に記載のアイテムまたは物品を識別するための方法であって、
a)請求項1から9のいずれか一項に記載のマーキングを有するアイテムまたは物品を提供するステップと、
b)少なくとも1つの光源からの少なくとも1つの質の光で前記物品またはアイテム上のマーキングを照らすステップと、
c)マーキングによって表されるインディシアを読み取り、対応する情報を引き出すステップと、
d)マーキングのインディシアから取り込まれた情報を、データベース中に記憶された情報と相関させるステップと、
e)アイテムまたは物品の素性に関する確認または否認を得るステップとを含む方法。
【請求項13】
インディシアが、電気光学画像センサーアレイを利用して読み取られる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
アイテムまたは物品についての情報がデータベース中に記憶される、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から9のいずれか一項に記載のマーキングを使用した、請求項10記載のアイテムまたは物品のセキュアなトラッキングまたはトレーシングのための方法であって、
a)請求項10記載のアイテムまたは物品に前記マーキングを施すステップ、および
b)データベース中にマークされたアイテムまたは物品に関する情報を記憶させるステップからなる第1のステップと、
c)アイテムまたは物品を認証するステップ、および
d)データベース中に記憶された情報を使用して、アイテムまたは物品を識別するステップからなる第2のステップと、
e)アイテムまたは物品に関する新しい情報要素でデータベースをアップデートするステップからなる任意のステップと
を含み、
前記ステップa)およびb)の順序が交換可能であり、前記ステップc)およびd)の順序が交換可能である方法。
【請求項16】
前記アイテムまたは物品が、価値のある文書、銀行券、パスポート、身分証明文書、運転免許証、官許、アクセス文書、切手、納税印紙およびタックスバンダロール、輸送チケット、イベントチケット、ラベル、ホイル、包装、医薬品、予備部品、ならびに消費財の群から選ばれる、請求項12から15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個々のアイテムを認識、識別、および認証するための機械可読マーキングに関する。マーキングは液晶物質から構成され、これは、既知の可変情報印刷技法によって基板に施される。マーキングは、受動的な検出手段、例えば、無偏光(周囲)光下での光学フィルターによって、ならびに偏光の照射によって検出可能および/または識別可能である。マーキングは、インディシア(indicia)、例えば、一次元または二次元バーコード、マトリックスコードなどの形態で施される。
【背景技術】
【0002】
「トラックアンドトレース」システムは、現在、産業の様々な分野で使用されている。多くの産業は、特に大量生産品、例えば、飲料、香水、医薬品、タバコ、CD/DVD、ならびに他の種類の消耗品などの分野において、偽造製品または転用製品に見舞われている。
【0003】
偽造および市場転用は、大量生産品が、個々のアイテムベースではなく、ロットベースで取り扱われる場合、助長される。偽造製品または転用製品は、そのような場合、サプライチェーン内に容易に導入される。生産者および小売業者は、販売することができる個々の単位のレベルで、そのような偽造製品または転用(並行輸入)製品から、自分たちの本来の製品を区別する立場にありたいものである。
【0004】
この基本的な技術的課題は、サプライチェーン内に導入される各販売可能なアイテムを個々にマーキングすることによって、当技術分野で対処されている。先行技術のマーキングは、これらが、フォトコピーされやすくないように選ばれ、すなわち、好ましくは、肉眼またはフォトコピー機に見えない秘密のマーキングが使用された。
【0005】
「秘密の」マーキングは、本発明の文脈において、肉眼で認証することができないが、認証のために、任意の種類の検出または読取デバイス、例えば、光学フィルターまたは電子認証装置に依存する任意のマーキングまたはセキュリティ要素(security element)である。
【0006】
「公然の」マーキングは、本発明の文脈において、認証のために、検出または読取デバイスに依存しない、すなわち、肉眼で認証することができる任意のマーキングまたはセキュリティ要素である。
【0007】
本発明の文脈における「色」は、照らされた物体からの光(電磁放射)の任意のスペクトル選択的な応答を示すのに使用され、これは、電磁スペクトルの可視、赤外、またはUV範囲(すなわち、200nm〜2500nmの全波長範囲内)にある。
【0008】
用語「可視の」は、肉眼によって明らかにすることができる性質を示すのに使用され、「検出可能な」は、必ずしも肉眼によってではないが、光学機器によって明らかにすることができる性質について使用され、「不可視の」は、肉眼によって検出することができない性質について使用される。特に、用語「可視色」は、肉眼によって検出可能である、400nm〜700nmの波長範囲の光のスペクトル選択的な応答を意味する。
【0009】
本発明の文脈において、物質および組成物との用語は互換的に用いられる。
【0010】
偽造および転用を防止するのに有用な第1の型の個々のマーキングは、US5,569,317、US5,502,304、US5,542,971、およびUS5,525,798に開示されている。これらの文献によれば、可視スペクトル(400〜700nmの波長)の光の下で検出可能でないが、UVスペクトル(200〜380nmの波長)の光で照らされると目に見えるようになるインクを使用して、バーコードがアイテム上に施される。
【0011】
第2の型の個々のマーキングは、US5,611,958およびUS5,766,324に開示されている。これらの文献によれば、マーキングは、可視スペクトルにおいて検出可能でないが、赤外スペクトル(800〜1600nmの波長)の光を用いて照らすことにより検出することができるインクを使用して、市販の商品上に施される。
【0012】
インクによって施されるさらに別の型の個々のマーキングが、US5,360,628およびUS6,612,494に開示されている。このマーキングは、明らかにされるために、UV光とIR光で一緒に照らされる必要がある。
【0013】
さらに別の型の個々のマーキングは、US5,698,397に記載されているものなどの、アップコンバート蛍光体を含むインクに依拠する。
【0014】
引用された先行技術に述べられたすべてのマーキングは、人間の肉眼に完全に見えない、秘密のマーキングである。そのような秘密のマーキングの読み取りは、マーキングを検出し、または読み取ることができる、対応する検出または読取デバイスに依存する。これは、適切な読取デバイスが常に利用可能であるとはいえない小売店センターまたは店頭において不利でありうる。
【0015】
「光学的に可変の」特徴、例えば、視角依存性色を示すことを含む公然のマーキングが、「街頭の人」のための認証手段として、当技術分野で提案された。これらの中では、ホログラム(Rudolf L.van Renesse、「Optical Document Security」2版、1998年、10章を参照)、光学薄膜セキュリティデバイス(同上、13章)、および液晶セキュリティデバイス(同上、14章)である。
【0016】
セキュリティデバイスとして特に有用なのは、コレステリック液晶である。白色光で照らされると、コレステリック液晶構造は、規定された色の光を反射し、この色は、対象とする物質に依存し、一般に、観察角度およびデバイス温度で変化する。コレステリック物質自体は無色であり、観察される色は、単に、液晶物質によって所与の温度で採り入れられたコレステリックらせん構造での物理的反射作用によるものである。(J.L Fergason、Molecular Crystals、1巻、293〜307頁(1966)を参照)。特定の液晶物質でであるコレステリック液晶ポリマー(CLCP)においては、コレステリックらせん構造は、重合によって規定された状態で「凍結され」、したがって温度非依存性となる。
【0017】
コレステリック液晶物質が、暗色または黒色の背景上に塗布される場合、その反射色は、肉眼に非常に明らかであり、その理由は、コレステリック物質によって透過される光は、背景によって大部分は吸収され、その結果、背景からの残留後方散乱は、コレステリック物質自体の反射が認知されることを妨害しないためである。したがって、背景色を慎重に選ぶことにより、そのような公然のマーキングの視感度に寄与することができる。
【0018】
透明または白色の背景上で、コレステリック液晶物質の反射色は、コレステリック物質自体の反射が、背景からの強い後方散乱と重なるために実質的に目に見えない。しかし、コレステリック液晶物質は、円偏光フィルターを利用して常に識別することができ、その理由は、この物質が、そのキラルらせん構造によって、2つの可能な円偏光成分のうちの1つのみを選択的に反射するためである。
【0019】
EP−B1−1381520およびEP−A1−1681586は、異なる厚さの領域の均一でないパターンを有する液晶層の形態での複屈折マーキング、およびこれを適用する方法に関するものである。適用される液晶コーティングまたは層は、反射性の基板上に隠された像を提供し、これは、無偏光光下で眺めた場合見えないが、偏光下で、または偏光フィルターを利用して見えるようになる。
【0020】
US5,678,863は、紙またはポリマー領域を含む、価値のある文書を識別するための手段に関し、前記領域は、透明および半透明の特徴を有する。液晶物質は、この領域に塗布されることによって光学効果を生じ、この効果は、透過光および反射光で眺められるときに異なる。液晶物質は、室温で液体形態であり、印刷工程、例えば、グラビア、ローラー、スプレー、またはインクジェット印刷などにおいて使用されるために、マイクロカプセルなどの収容手段中に封入されていなければならない。印刷される液晶領域は、パターンの形状、例えば、バーコードとすることができる。パターンは、左旋性および右旋性液晶形態を有する範囲の偏光状態を視覚検査または機械検査することによって検証することができる。
【0021】
US5,798,147は、従来の印刷工程、例えば、凸版活字、輪転グラビア、フレキソ、オフセット、スクリーン、およびインクジェット印刷などによって適用することができる重合性液晶モノマーのコーティング組成物に関する。印刷用インクを使用することによって、人間の目に見えないマーキングおよびセキュリティ銘を作製することができる。このマーキングは、その円偏光、またはその角度依存性反射色によって検出することができる。
【0022】
US6,899,824は、液晶組成物および少なくとも1つの非液晶コーティングの多層を用いて基板を印刷またはコーティングするためのプロセスに関するものである。このプロセスおよび印刷される基板は、物品の防偽造マーキングを作製するのに有用である。そのような印刷またはコーティングを適用するのに好適な方法は、スクリーン印刷、平版印刷、フレキソ印刷、および凸版活字印刷である。
【0023】
しかし、先行技術に開示されたマーキングのいずれも、耐偽造セキュリティマーキングを用いてアイテムに機械判読可能な個々のコード化をすることに加えて、肉眼によるマーキングの容易な認証が要求される、「トラック&トレース」用途に潜在する技術的課題の解決をもたらさない。
【0024】
「トラック&トレース」用途は、例えば、郵便業務について当技術分野で知られており、各郵便物が個々にマークされ、その送達チェーン全体にわたって追跡される。バーコード、例えば、1D−バーコード、スタックド1D−バーコード、2D−バーコード、またはマトリックスコードなどは、ほとんどの場合、マーキングおよび識別手段として使用される。
【0025】
郵便物が、送達チェーン全体にわたって、郵便会社によって内部業務で取り扱われ、その結果、認証がまったく必要でないことを考慮すると、前記郵便消印の場合において、認証態様に特別の努力はまったく充てられていない。郵便の「トラック&トレース」用途は、郵便物の識別に単に絞られている。
【0026】
しかし、認証態様は、小売り用途において決定的に重要であり、この用途では、本来の商品が偽造品または転用品に置き換えられる潜在的なリスクが存在する。この理由で、この分野における「トラック&トレース」用途は、本来の商品として、マークされた商品の真正性を証明することができる、少なくとも1つのセキュリティ要素と組み合わされなければならない。
【0027】
以下において、「セキュアなトラック&トレース」は、少なくとも1つのセキュリティ要素を用いて、個々のアイテムを識別することを可能にし、前記アイテムが真性であると認証することをさらに可能にする、「トラック&トレース」用途の組合せを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
開放流通下にある商品が、その真正性および素性に関して個々にマークされ、そのライフサイクル全体にわたって、または例えば、責任の理由のために特定の時間追跡されなければならない「セキュアなトラック&トレース」用途について、i)識別可能であるように一意的にコード化され、ii)機械判読可能であり、iii)コピー(偽造)耐性であり、iv)人間のユーザーによって目で認証可能であり、v)機械によって認証可能である、マーキングの必要性が存在する。特定の用途については、マーキングの一部は、人間の肉眼に見えないことがさらに望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0029】
アイテムまたは物品のセキュアなトラッキングまたはトレーシングのための本発明のマーキングは、機械によるその認証および読み取り、ならびに人間の目によるその認証を可能にする、規定された光学特性を有するポリマー液晶物質を含む。マーキングは、その識別を可能にするユニークなコードを表すインディシアの形態で、可変情報印刷工程によって、基板上に作製される。マーキングは、その一部が人間の目に不可視であるようにレイアウトされていることがさらに好ましい。
【0030】
本発明のマーキングは、アイテムまたは物品、例えば、価値のある文書、銀行券、パスポート、身分証明文書、運転免許証、官許、アクセス文書、切手、納税印紙およびタックスバンダロール(tax banderole)、輸送チケット、イベントチケット、ラベル、ホイル、包装、予備部品、ならびに消費財などに施され、したがってこれらは、その表面に直接施され、またはその表面に施されたラベルに間接的に施されたマーキングを有する。
【0031】
ポリマー液晶物質は、コレステリック(すなわち、ねじれネマチック)型であることが好ましく、ある特定の用途については、ネマチック(複屈折)液晶物質も使用することができる。
【0032】
マーキングのポリマー液晶物質は、基板の表面上に重合された液晶物質として存在し、または代わりに、基板上に塗布されたコーティング組成物中に含まれる液晶ポリマーの顔料フレークからなることができる。
【0033】
前記基板は、織られた、または不織の、任意のタイプの基板であってよく、特にこれは、紙、ボール紙、木材、ガラス、セラミック、金属、プラスチック、繊維製品、革などとすることができ、基板は、コーティングされていても、コーティングされていなくてよく、またはシール表面もしくは非シール表面を含むことができる。
【0034】
マーキングのポリマー液晶物質は、偽造に対するその耐性を増大させるために存在する、さらなるセキュリティ物質(security material)を含むことが好ましい。これらのセキュリティ物質は、無機発光化合物、有機発光化合物、IR吸収剤、磁性物質、法医学的マーカー、およびこれらの組合せからなる群から選択される。
【0035】
前記セキュリティ物質は、単なる混合物として、セキュリティ物質の性質に従って、液晶顔料の、液晶前駆体組成物の、もしくはインク結合剤の共重合成分としても存在することができる。特に、アクリルまたはビニル官能性を含む有機セキュリティ物質は、共重合により対応する主ポリマー中に容易に組み込まれる。あるいは、セキュリティ物質は、既存のポリマー鎖上にグラフト、すなわち化学的に連結することができる。
【0036】
液晶物質が塗布される背景を表す基板は、任意の色とすることができ、白色背景は、可視色がまったく観察されないという意味で肉眼に不可視であるマーキングを実現するのに好適な選択肢である。金属反射背景は、特に、ネマチック(複屈折)液晶物質の場合において、さらなる好適な選択肢である。基板は一般に、反射基板、着色基板、および透明基板からなる群から選択することができる。
【0037】
人間のユーザーによる容易な認証を可能にするために、液晶物質が塗布される背景の少なくとも一部は、対比色、例えば、赤色、緑色、青色、または黒色を有することが好適であり、これにより、液晶マーキングと組み合わせて、肉眼によって、可視色および角度依存性色変化を認知することが可能になる。
【0038】
したがって前記基板は、それぞれが、白色表面領域、黒色表面領域、目に見えるように着色された表面領域、反射表面領域、透明表面領域、およびこれらの組合せの群から選択される、少なくとも2つの異なって着色された表面領域を含む、パターン形成された基板であることが好ましい。したがって、液晶物質を有する基板表面は、液晶物質の下に2つ以上の着色領域を有することができることが当業者に明白である。
【0039】
液晶物質が塗布される基板表面は、インディシアをさらに有することができ、これは、任意の形態または色、例えば、パターン、像、ロゴ、テキスト、1D−もしくは2D−バーコード、またはマトリックスコードなどとすることができる。前記インディシアは、印刷またはコーティングの任意の方法によって施すことができる。
【0040】
基板は、無機発光化合物、有機発光化合物、IR吸収剤、磁性物質、法医学的マーカー、およびこれらの組合せの群から選択される少なくとも1つのセキュリティ要素をさらに有することができる。セキュリティ要素は、基板表面上にインディシアの形態で存在し、または基板自体に組み込む(埋め込む)ことができる。
【0041】
ポリマー液晶物質は、インディシア、例えば、テキストまたはコードなどの形態で存在することが好ましい。好適なインディシアは、一次元、スタックド一次元、および二次元バーコードを含む群から選ばれる。現在のバーコード記号は、「Understanding Barcoding」、Pira International Ltd.、2004(ISBN 1 85802 917 1)において、Bob Williamsによって開示されている。
【0042】
本発明の液晶マーキングは、基板に液晶前駆体組成物を塗布し、秩序液晶状態の組成物を硬化させることによって作製されることが好ましい。前記前駆体組成物は、少なくとも1つのネマチック液晶化合物の反応性モノマーまたはオリゴマーを含む。反応性モノマーまたはオリゴマーは、UV硬化性であることが好ましく、この場合、塗布された組成物は当業者に知られるように、UV硬化され、また光開始剤系を含む。
【0043】
秩序液晶状態は、キラルドーパントの存在に依存する。キラルドーパントを含まないネマチック液晶は、その複屈折を特徴とする分子構造となるように配置される。ネマチック前駆体は、EP−A−0216712、EP−B−0847432、およびUS−B−6,589,445から知られている。
【0044】
コレステリック(すなわち、ねじれネマチック)液晶ポリマーを作製するために、前記前駆体組成物は、キラルドーパントも含まなければならない。前記ドーパントは、以下に記載される一般式(I)による、イソソルビドおよびイソマンニドの誘導体、ならびにこれらの混合物から選ぶことができる。イソソルビドは、右らせん状ねじれを誘導することが知られており、一方イソマンニドは、左らせん状ねじれを誘導することが知られている。
【0045】
前記ドーパントは、ネマチック液晶化合物中に、可視光の波長の桁のらせんピッチを特徴とするらせん構造を誘導し、規定された波長での光反射、したがって、干渉色の出現、ならびに角度依存性色ずれに導く。コレステリック液晶相からの反射光は、コレステリックらせん状ねじれの回転センス(rotation sense)に従って、円偏光している(左旋または右旋)。
【0046】
本発明のマーキングは、請求項1に記載したように得られる。例示的な一実施形態では、液晶前駆体組成物が基板に最初に塗布される。第2のステップでは、溶媒を蒸発させ、所望の液晶状態を促進することの両方のために、基板上に塗布された液晶前駆体組成物を加熱する。第3のステップでは、所望の液晶状態で、基板上の前記組成物を硬化させる。しかし、当業者は、上述した順序は、以下にさらに記載されるように、何らかの点で改変することができることを理解するであろう。
【0047】
溶媒を蒸発させ、液晶状態を促進するのに使用される温度は、液晶モノマー組成物に依存する。本発明によれば、温度は、好ましくは55℃から150℃の間、より好ましくは55℃から100℃の間、最も好ましくは60℃から100℃の間で選ばれる。硬化は、塗布された組成物をUV光の照射に曝すことによって実施されることが好ましく、これは、反応性モノマーまたはオリゴマーの重合を誘導して液晶ポリマーを形成する。それによって、液晶の分子秩序化は保持され、すなわち、ネマチックまたはコレステリック構造は、照射の間に存在していた状態で固定される。コレステリック液晶物質の場合では、らせんピッチ、およびこれとともに光学的性質、例えば、反射色および角度依存性色ずれなどは、こうして固定されたままである。
【0048】
本発明の別の実施形態は、アイテムまたは物品のための本発明によるマーキングであり、前記マーキングは、規定された光学特性を有するポリマー液晶物質を含み、基板上に作製される前記ポリマー液晶物質は、以下に記載される一般式(I)のキラルドーパントを用いて得られる。
【0049】
したがって、アイテムまたは物品をマークするための方法は、マークされる適当なアイテムまたは物品を提供するステップと、前記アイテムまたは物品上に、可変情報印刷工程によって、ユニークなコードを表すインディシアの形態で、少なくとも1つのポリマー液晶物質を塗布するステップとを含む。特に、前記インディシアによって表されるユニークなコードは、暗号化された情報であってもよく、この方法は、前記情報を暗号化するステップを含むことができる。
【0050】
前記液晶前駆体組成物は、任意のコーティングまたは印刷技法によって基板に塗布することができる。組成物は、可変情報印刷工程、例えば、レーザー印刷、またはコンティニュアス型もしくはドロップオンデマンド型のインクジェット印刷などによって塗布されることが好ましい。前記可変情報印刷法は、各印刷されるアイテムについて、マーキングのユニークなコード化を可能にする。
【0051】
インクジェット印刷による塗布について、組成物は、当業者に知られるように、選ばれた印刷工程に適合するように組成物の粘度値を調整するために、有機溶媒も含む。
【0052】
コンティニュアスインクジェット印刷による塗布について、組成物は、導電剤(塩)も含み、これは、使用される組成物中で可溶性でなければならない。そのような導電剤は、当業者に知られるように、この印刷工程の技術的要件として必要である。
【0053】
本発明による組成物は、光開始剤を含み、これは使用される組成物中で可溶性でなければならない。光開始剤の例について、これは、α−ヒドロキシケトン、例えば、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、混合物(1:1)の1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン:ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノン、または2−ヒドロキシ−1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパノンなど、フェニルグリオキシレート、例えば、メチルベンゾイルホルメート、またはオキシ−フェニル−酢酸2−[2オキソ−2フェニル−アセトキシ−エトキシ]−エチルエステルとオキシ−フェニル−酢酸2−[2−ヒドロキシ−エトキシ]−エチルエステルの混合物、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノンなどのベンジルジメチルケタール、α−アミノケトン、例えば、2−ベンジル−2−(ジメチルアミノ)−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−(4−モルホリニル)−1−プロパノンなど、ホスフィンオキシド誘導体、例えば、Cibaによって供給される、ジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−ホスフィンオキシド、またはホスフィンオキシド フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)など、およびまた、チオキサントン誘導体、例えば、Lambsonによって供給される、Speedcure ITX(CAS142770−42−1)、Speedcure DETX(CAS82799−44−8)、Speedcure CPTX(CAS5495−84−1−2もしくはCAS83846−86−0)などを使用することができる。
【0054】
本発明による組成物は、シラン誘導体も含むことができ、これは、使用される組成物中で可溶性でなければならない。シラン誘導体の例について、これは、ビニルシラン誘導体、例えば、Evonikによって供給されるDynasylan(登録商標)ファミリーからの、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、または3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランなどを使用することができる。
【0055】
一般に、本発明によるマーキングを有するアイテムまたは物品を認証するための方法は、a)本発明によるマーキングを有するアイテムまたは物品を提供するステップと、b)少なくとも1つの光源からの少なくとも1つの質の光で、前記アイテムまたは物品上のマーキングを照らすステップと、c)マーキングによって反射された光を検知することによって、前記マーキングの光学特性を検出するステップと、d)マーキングの検出された光学特性からアイテムまたは物品の真正性を判定するステップとを含む。
【0056】
本発明のマーキングは、周囲光下での単純な視覚検査による第1の方法によって認証することができる。この目的のために、液晶物質が塗布される背景は、十分な光学コントラストをもたらし、その結果、人間の観察者が、液晶物質の反射された色および色ずれを認知することを可能にしなければならない。背景に応じて、マーキングの一部は、肉眼に対して実質的に不可視なままであってもよい。
【0057】
第2の方法では、マーキングは、光学フィルターなどの受動的検出手段を利用して、周囲光下で認証される。好適なそのような受動的検出手段は、左旋もしくは右旋円偏光フィルター、または両方の並列である。これは、前記物質によって反射された光の偏光状態を求めることによって、コレステリック液晶物質のらせんピッチの回転センスを求めることを可能にする。任意選択により、偏光フィルターは、スペクトルバンド幅を、液晶物質のスペクトル反射バンドに狭め、したがって背景の寄与を低減するために、カラーフィルターと組み合わせることができる。2以上の光学フィルターを組み合わせて使用することができる。
【0058】
第3の方法では、マーキングは、少なくとも1つの偏光源からの円偏光を利用して認証される。液晶物質は、異なる円偏光の光を異なって反射し、したがって、左および右らせんピッチの物質は、円偏光した光に対するそのそれぞれの応答によって区別することができる。偏光源によるマーキングの照射、ならびにマーキングからの反射光の観察は、カラーフィルターを通して任意選択により実施することができる。2以上の偏光源を組み合わせて使用することができる。
【0059】
第4の方法では、マーキングは、電気光学認証デバイスを利用して認証される。第1の実施形態では、前記デバイスは、円偏光フィルターおよび/または円偏光源と組み合わせて、少なくとも1つのフォトセルを備える。別の実施形態では、前記デバイスは、円偏光フィルターおよび/または円偏光源と組み合わせて、電気光学カメラ、例えば、線形CCDセンサーアレイ、二次元CCD画像センサーアレイ、線形CMOS画像センサーアレイ、二次元CMOS画像センサーアレイなどを備える。
【0060】
任意選択により、上記実施形態における円偏光フィルター、または円偏光源は、カラーフィルターと組み合わせることによって、特定のスペクトルドメインを選択し、液晶物質から反射される光と、背景から反射される光のコントラスト比を増強することができる。
【0061】
円偏光フィルターは一般に、電気光学偏光スイッチと取り替えることもできる。そのようなデバイスは、例えば、DE10211310B4から当技術分野で知られており、印加される対応する電圧によって一方、または他方の円偏光状態を選択することを可能にする。
【0062】
コレステリック液晶物質のすべての場合において、本発明のマーキングは、その特徴的な特性、すなわち、マーキングからの反射光の円偏光状態および/または視角依存性色の1つまたは複数を検証することによって認証される。偏光源もしくは偏光検出装置、または両方は、マーキングの光学特性に従って、電磁スペクトルの可視、赤外、もしくはUV領域、またはこれらの組合せにおいて動作するように選ぶことができる。
【0063】
本発明のマーキングは、これが表すインディシアを読み取り、マーキングからそのように取り込まれた情報を、データベース中に記憶された情報と相関させることによって識別することができる。特定の実施形態では、マーキングのインディシアによって表される情報は暗号化されており、前記識別は、前記情報を解読するステップを含む。好ましくは、インディシアは、電気光学カメラ、例えば、CCD−またはCMOS−画像センサーアレイなどによって読み取られる。
【0064】
一般に、本発明によるマーキングを有するアイテムまたは物品を識別するための方法は、a)本発明によるマーキングを有するアイテムまたは物品を提供するステップと、b)少なくとも1つの光源からの少なくとも1つの質の光で、前記アイテムまたは物品上のマーキングを照らすステップと、c)マーキングによって表されるインディシアを読み取り、対応する情報を引き出すステップと、d)マーキングのインディシアから取り込まれた情報を、データベース中に記憶された情報と相関させるステップと、e)アイテムまたは物品の素性に関する確認または否認を得るステップとを含む。
【0065】
本発明によるマーキングを有するアイテムまたは物品の識別は、認証のために使用される、同じ読取装置構成またはアセンブリーを用いて実施することができる。
【0066】
第1の実施形態では、前記インディシアは、一次元または二次元バーコードによって表され、デジタル形式で電気光学カメラによって取り込まれる画像は、対応するアルゴリズムを使用して解析される。バーコードに含まれる情報が取り込まれ、必要であれば、解読され、データベース中に記憶された情報と比較され、これによってアイテムを識別し、例えば、アイテムの履歴についての補足の情報でデータベースを任意選択によりアップデートする。カメラは、独自の通信能力を装備した読取デバイスの一部、または携帯電話などの通信デバイスの一部とすることができ、情報の取り込みは、携帯電話の内部資源を使用して行われる。データベースは、通信デバイス内(内蔵メモリーもしくは交換可能なメモリー)、または通信ネットワークを介して到達される外部サーバー上に配置することができる。
【0067】
第2の実施形態では、前記インディシアは、英数字コードで表され、デジタル形式で電気光学カメラ(読取デバイス)によって取り込まれた画像は、対応する光学式文字認識(OCR)アルゴリズムを使用して解析される。コードに含まれる情報が取り込まれ、データベース中に記憶された情報と比較され、これによってアイテムを識別し、任意選択によりデータベースをアップデートする。第1の実施形態と同様に、データベースは、読取デバイス内(内蔵メモリーもしくは交換可能なメモリー)、または通信ネットワークを介して到達される外部サーバー上に配置することができる。英数字コードは、標準的なフォントまたは特殊な機械識別可能なフォントを使用して印刷することができる。あるいは、英数字コードは、視覚的に読み取り、バリデーションのためにデータセンターに通信システム(例えば、インターネットもしくはSNS)を介して送信し、またはラベル、参照マーク、もしくは別の英数字コードの形態でアイテムに提供されたデータに対して照合することができる。
【0068】
規定された光学特性を有するポリマー液晶物質でできた本発明のマーキングは、アイテム、物品、または商品のセキュアなトラッキングおよびトレーシングのための個別化された、偽造耐性コードを用いて、前記アイテム、物品、または商品のセキュアなトラッキングおよびトレーシングのために使用することができる。
【0069】
個別化されたコードを商品またはアイテムに施すには、可変情報印刷工程を必要とする。本発明の文脈における好適な可変情報印刷工程は、コンティニュアスインクジェット印刷、およびドロップオンデマンドインクジェット印刷の群から選ばれ、これらの印刷工程は、任意の種類の表面上に、前記個別化されたコードを迅速に、非接触で塗布することを可能にする。前記個別化されたコードは、それぞれ1個のアイテムを、そのライフサイクルの後の段階で識別することを可能にする。
【0070】
前記個別化されたコードのコピーを有する偽造品によって本来のアイテムが置き換えられることを防止するために、前記個別化されたコードは、偽造耐性でなければならない。偽造耐性は、特定の物理的特性、好ましくは、光学特性を有する特定のセキュリティ物質を通じてもたらすことができ、前記物質は、マーキング中の構成要素であっても、マーキング中に組み込まれていてもよい。特定のセキュリティ物質は、規定された光学特性を有するポリマー液晶物質、または無機発光化合物、有機発光化合物、IR吸収剤、磁性物質、法医学的マーカー、およびこれらの組合せの群から選択される添加剤とすることができる。
【0071】
本発明のマーキングは、アイテムまたは物品、例えば、価値のある文書、銀行券、パスポート、身分証明文書、運転免許証、官許、アクセス文書、切手、納税印紙およびタックスバンダロール(特にタバコ製品およびアルコール飲料のため)、輸送チケット、イベントチケット、ラベル、ホイル、包装(特に医薬品のため)などに使用することができ、一般に予備部品および消費財(特に責任問題に対処するため)をマーキングするために使用することができる。
【0072】
アイテム、商品、または物品に施される本発明のマーキングは、そのようなマークされたアイテム、商品、または物品のセキュアなトラッキングおよびトレーシングにおいて使用するのに適している。アイテムまたは物品のそのようなセキュアなトラッキングおよびトレーシングは、トレースされるアイテムまたは物品に、本発明によるマーキングを施すステップ、およびb)データベース中にマークされたアイテムまたは物品に関する情報を記憶させるステップからなる、注目すべき第1の交換可能なステップと、c)本明細書に開示される認証方法によってアイテムまたは物品を認証するステップ、およびd)データベース中に先に記憶された情報を使用して、本明細書に開示される識別方法によってアイテムまたは物品を識別するステップからなる、第2の交換可能なステップとを含む。任意選択により、これによって、データベースは、アイテムまたは物品に関する新しい情報要素でアップデートすることができる。
【0073】
アイテムまたは商品に施されるコードは、後の段階でアイテムまたは商品を識別するために、データベース中に記憶されるデジタル情報を表す。前記コードは、データベースを往来して伝達される時、前記コードが含む情報を保護するように暗号化することができる。前記データベースは、データベース管理システムの一部であってもよい。すべての種類の暗号化アルゴリズムは適当であり、例えば、RSAタイプの公開−秘密鍵である。
【0074】
前記データベースは、認証デバイス中に組み込まれたローカルデータベースとすることができる。あるいはこれは、有線または無線接続を通じて認証デバイスにリンクされたリモートデータベースであってもよい。ローカルデータベースは、リモートサーバーから定期的にアップデートすることもできる。
【0075】
さらなる態様では、本発明は、可変情報印刷工程による、個々のマーキングの適用を提供する。コンティニュアスインクジェット、もしくはドロップオンデマンド(DOD)インクジェット、またはバブルジェット印刷工程を使用するインクジェット印刷が好適である。コンディショニングライン(conditioning line)および印刷機での番号付けおよびコード化用途に一般に使用される工業用インクジェットプリンターが特に適している。好適なインクジェットプリンターは、シングルノズルコンティニュアスインクジェットプリンター(ラスターまたはマルチレベルデフレクテッドプリンター(deflected printer)とも呼ばれる)、およびドロップオンデマンドインクジェット、特に、バブルジェットプリンターである。
【0076】
完全に秘密の機械可読なマーキングを提供するために、ネマチック液晶物質が使用される。公然または半秘密の機械可読なマーキングを提供するために、コレステリックまたはキラルネマチック液晶物質が使用される。
【0077】
本発明をより完全に理解するために、発明の詳細な説明および添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】本発明による代表的なマーキングa)、b)、c)を有するボール紙包装、例えば医薬品の包装を概略的に表す図であり、これらのマーキングは、前記ボール紙包装上の異なる位置に液晶物質で印刷されている。 a)特に暗い色をした背景、例えば、黒色背景上のデータマトリックスコードを示し、 b)混合色、例えば、暗色部分および明色部分を有する背景上のデータマトリックスコードを示し、 c)白色背景上のデータマトリックスコードを示す。
図2】コートボール紙上にUV硬化液晶(LC)物質で印刷されたECC200データマトリックスコードから捕らえられた画像を示す図である。 a)CMOSカメラの前に右円偏光フィルターを置いて、右円偏光白色光照射下で、黒色背景から取り込まれたLCデータマトリックスコード。 b)CMOSカメラの前に右円偏光フィルターを置いて、右円偏光白色光照射下で、黒色/白色背景から取り込まれたLCデータマトリックスコード。 c)CMOSカメラの前にフィルターを置かないで、右円偏光白色光照射下で、黒色/白色背景から取り込まれたLCデータマトリックスコード。 d)CMOSカメラの前にフィルターを置かないで、無偏光白色光照射下で、黒色/白色背景から取り込まれたLCデータマトリックスコード。
【発明を実施するための形態】
【0079】
第1の実施形態では、本発明のマーキングは、液晶前駆体組成物から作られ、これは、可変情報印刷工程によって基板に液晶前駆体組成物を独立して塗布し、加熱して液晶前駆体組成物中に含まれる溶媒を蒸発させかつ液晶状態を促進させ、秩序液晶状態の塗布された組成物を硬化させることによって得られる。例示的な一実施形態では、液晶前駆体組成物は、基板の表面に塗布される。次いで、加熱して、溶媒を蒸発させ、液晶状態を促進する。次いで、液晶状態の組成物は、当業者に知られるように、UV光または電子ビーム放射線を照射することによって重合(硬化)される。代替の例示的な実施形態では、基板および液晶前駆体組成物の全体に、またはかけた熱を液晶前駆体組成物に伝えることができる場合、基板のみが加熱される。さらなる代替の実施形態では、液晶前駆体組成物は、基板にこれを塗布する前に、熱に曝すことができる。追加の代替の実施形態では、液晶前駆体組成物を加熱し、これを基板に塗布するステップは、1つのステップで実施することができる。
【0080】
したがって、この実施形態において塗布される液晶物質は、液晶ポリマーのモノマーまたはオリゴマー前駆体である。前記前駆体は、少なくとも1つのネマチック液晶モノマーまたはオリゴマーを含み、前記モノマーまたはオリゴマーは、重合性基を有する。適当なネマチック液晶モノマーまたはオリゴマーは、ビスアクリレート、例えば、
2−メチル−1,4−フェニレンビス(4−(4−(アクリロイルオキシ)ブトキシ)ベンゾエート;
1,4−フェニレンビス(4−(4−(アクリロイルオキシ)ブトキシ)ベンゾエート);
2−メチル−1,4−フェニレンビス(4−(6−(アクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ)ベンゾエート);
1,4−フェニレンビス(4−((4−(アクリロイルオキシ)ブトキシ)カルボニルオキシ)ベンゾエート);
2−メチル−1,4−フェニレンビス(4−((4−(アクリロイルオキシ)ブトキシ)カルボニルオキシ)ベンゾエート);
およびこれらの組合せの群からのものである。
【0081】
ネマチック液晶モノマーまたはオリゴマーは、10重量%〜100重量%の範囲で、前駆体物質中に存在することができる。
【0082】
適当な安定剤は、Kromachemによって供給されるFlorstab UV−1、およびRahnによって供給されるGenorad16である。
【0083】
光開始剤は、0.5重量%〜5重量%の範囲で、前駆体物質中に存在することができる。
【0084】
コレステリック(すなわち、ねじれネマチック)相を得るために、前記前駆体は、少なくとも1つのキラルドーパント(キラルな誘導物質)をさらに含む。適当なキラルドーパントは、一般式(I)
【化1】
(式中、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ独立に、C1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシを表し、;
1およびA2は、それぞれ独立に、基:
i)−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2
ii)−C(O)−D1−O−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2
iii)−C(O)−D2−O−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2
を表し、
1は、基
【化2】
を表し、
2は、基
【化3】
を表し、
m、n、o、p、q、r、s、およびtは、それぞれ独立に、0、1、2を表し、
yは、0、1、2、3、4、5、6を表し、
yが0に等しい場合、zは0に等しく、yが1〜6に等しい場合、zは1に等しい)
によって表されるイソマンニドの誘導体およびイソソルビドの誘導体を含む。
【0085】
別の実施形態では、キラルドーパントは、式(IA)
【化4】
(式中、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ独立に、C1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシを表し、
1およびA2は、それぞれ独立に、基:
i)−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2
ii)−C(O)−D1−O−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2
iii)−C(O)−D2−O−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2
を表し、
1は、基
【化5】
を表し、
2は、基
【化6】
を表し、
m、n、o、p、q、r、s、およびtは、それぞれ独立に、0、1、2を表し、
yは、0、1、2、3、4、5、6を表し、
yが0に等しい場合、zは0に等しく、yが1〜6に等しい場合、zは1に等しい)
によって表されるイソマンニドの誘導体を含む。
【0086】
好適な実施形態では、式(IA)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ独立に、C1〜C6アルキルを表す。代替の実施形態では、式(IA)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ独立に、C1〜C6アルコキシを表す。
【0087】
さらに好適な実施形態では、式(IA)中、A1およびA2は、それぞれ独立に、i)−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2を表し、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に、C1〜C6アルキルを表し、m、n、o、およびpは、それぞれ独立に、0、1、2を表す。代替の実施形態では、式(IA)中、A1およびA2は、それぞれ独立に、i)−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2を表し、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に、C1〜C6アルコキシを表し、m、n、o、およびpは、それぞれ独立に、0、1、2を表す。
【0088】
式(IA)の他の好適な実施形態では、A1およびA2は、それぞれ独立に、ii)−C(O)−D1−O−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2および/またはiii)−C(O)−D2−O−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2を表し、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ独立に、C1〜C6アルキルを表す。代替の実施形態では、式(IA)中、A1およびA2は、それぞれ独立に、ii)−C(O)−D1−O−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2および/またはiii)−C(O)−D2−O−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2を表し、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ独立に、C1〜C6アルコキシを表す。
【0089】
別の実施形態では、キラルドーパントは、式(IB)
【化7】
(式中、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ独立に、C1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシを表し、
1およびA2は、それぞれ独立に、基:
i)−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2
ii)−C(O)−D1−O−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2
iii)−C(O)−D2−O−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2
を表し、
1は、基
【化8】
を表し、
2は、基
【化9】
を表し、
m、n、o、p、q、r、s、およびtは、それぞれ独立に、0、1、2を表し、
yは、0、1、2、3、4、5、6を表し、
yが0に等しい場合、zは0に等しく、yが1〜6に等しい場合、zは1に等しい)
によって表されるイソソルビドの誘導体を含む。
【0090】
好適な実施形態では、式(IB)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ独立に、C1〜C6アルキルを表す。代替の実施形態では、式(IB)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ独立に、C1〜C6アルコキシを表す。
【0091】
さらに好適な実施形態では、式(IB)中、A1およびA2は、それぞれ独立に、i)−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2を表し、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に、C1〜C6アルキルを表し、m、n、o、およびpは、それぞれ独立に、0、1、2を表す。代替の実施形態では、式(IB)中、A1およびA2は、それぞれ独立に、i)−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2を表し、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に、C1〜C6アルコキシを表し、m、n、o、およびpは、それぞれ独立に、0、1、2を表す。
【0092】
他の好適な実施形態では、式(IB)中、A1およびA2は、それぞれ独立に、ii)−C(O)−D1−O−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2および/またはiii)−C(O)−D2−O−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2を表し、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ独立に、C1〜C6アルキルを表す。代替の実施形態では、式(IB)中、A1およびA2は、それぞれ独立に、ii)−C(O)−D1−O−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2および/またはiii)−C(O)−D2−O−[(CH2)y−O]z−C(O)−CH=CH2を表し、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ独立に、C1〜C6アルコキシを表す。
【0093】
好適な実施形態では、式(I)、(IA)および/または(IB)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8のアルキルまたはアルコキシ基は、4個または6個の炭素原子を含むことができる。
【0094】
4炭素原子を含むアルキル基は、ブチルまたはイソプロピルを含む群から選択することができる。6炭素原子を含むアルキル基は、ヘキシル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、2,2−ジメチルペンチル、または2,3−ジメチルペンチルを含む群から選択することができる。
【0095】
4炭素原子を含むアルコキシ基は、ブト−1−オキシ、ブト−2−オキシ、イソプロポキシ、またはtert−ブトキシを含む群から選択することができる。6炭素原子を含むアルコキシ基は、ヘキス−1−オキシ、ヘキス−2−オキシ、ヘキサン−3−オール、2−メチルペンタン−1−オール、2−メチルペンタン−2−オール、2−メチルヒドロキシペンタン、2−メチルペント−3−オキシ、2−メチルペント−4−オキシ、4−メチルペント−1−オキシ、3−メチルペント−1−オキシ、3−メチルペント−2−オキシ、3−メチルペント−3−オキシ、3−メチルヒドロキシペンタン、2,2−ジメチルペント−1−オキシ、2,2−ジメチルペント−3−オキシ、2,2−ジメチルペント−4−オキシ、4,4−ジメチルペント−1−オキシ、2−メチル−2−メチルヒドロキシペンタン、2,3−ジメチルペント−1−オキシ、2,3−ジメチルペント−2−オキシ、2,3−ジメチルペント−3−オキシ、2,3−ジメチルペント−4−オキシ、3,4−ジメチルペント−1−オキシ、2−メチルヒドロキシ−3−メチルペンタン、または2−メチル−3−メチルヒドロキシペンタンを含む群から選択することができる。
【0096】
本発明にしたがうキラルドーパントは特に以下の群:
(3R,3aR,6R,6aR)−ヘキサヒドロフロ[3,2−b]フラン−3,6−ジイルビス(4−(4−(アクリロイルオキシ)ベンゾイルオキシ)ベンゾエート);
(3R,3aR,6R,6aR)−ヘキサヒドロフロ[3,2−b]フラン−3,6−ジイルビス(4−(4−(アクリロイルオキシ)ブトキシ)ベンゾエート);
(3R,3aR,6R,6aR)−ヘキサヒドロフロ[3,2−b]フラン−3,6−ジイルビス(4−(アクリロイルオキシ)−2−メチルベンゾエート);
(3R,3aR,6S,6aR)−ヘキサヒドロフロ[3,2−b]フラン−3,6−ジイルビス(4−(4−(アクリロイルオキシ)ベンゾイルオキシ)−3−メトキシベンゾエート);
(3R,3aR,6R,6aR)−ヘキサヒドロフロ[3,2−b]フラン−3,6−ジイルビス(4−(4−(アクリロイルオキシ)−3−メトキシベンゾイルオキシ)ベンゾエート);
(3R,3aR,6R,6aR)−6−(4−(4−(アクリロイルオキシ)−3−メトキシベンゾイルオキシ)−3−メトキシベンゾイルオキシ)ヘキサヒドロフロ[3,2−b]フラン−3−イル4−(4−(アクリロイルオキシ)ベンゾイルオキシ)−3−メトキシベンゾエート;
(3R,3aR,6R,6aR)−ヘキサヒドロフロ[3,2−b]フラン−3,6−ジイルビス(4−(4−(アクリロイルオキシ)−3−メトキシベンゾイルオキシ)−3−メトキシベンゾエート);および
(3R,3aR,6R,6aR)−ヘキサヒドロフロ[3,2−b]フラン−3,6−ジイルビス(4−(4−(アクリロイルオキシ)ベンゾイルオキシ)−3−メトキシベンゾエート)
から選択されるものを含む。
【0097】
キラルドーパントは、0.1重量%〜25重量%の範囲で前駆体物資中に存在することができる。
【0098】
可変情報印刷工程が、基板に液晶前駆体物質を塗布するのに使用される。用語「可変情報印刷」は、可変データ印刷も包含する。この形式の印刷工程は、テキスト、グラフィックス、または画像などの要素を、1つの印刷断片から次の印刷断片で変更することができる印刷工程であり、印刷機を遅延または停止させる必要なく、例えば、オフセットリソグラフィーを使用して、1つのアイテムの「マスプロダクション」とは対照的に、複数のアイテムの「マスカスタマイゼーション」を可能にする。ユーザーの要求および意図に従って、変更可能なフィールドを満たす情報のデータベースを使用して変更することができる様々なセクションを含む基本設計が開発されている。変更可能なフィールドの数に応じて、最終的な製品は、例えば、本発明によるマーキングのように、程度の差はあるが洗練される。それぞれ個々のアイテム上で変更される要素および/またはセクションは、前もって決定し、各瞬間で制御することができる。
【0099】
マーキングは、好ましくはシングルノズル/ラスターによる、コンティニュアスインクジェットまたはドロップオンデマンドインクジェット型のインクジェット印刷によって施されることが好ましい。インクジェット印刷による塗布について、組成物は、その粘度を、前記印刷工程によって要求される低い値に調整するために、溶媒をさらに含有しなければならない。インクジェット印刷用インクについての一般的な粘度値は、25℃で4〜30mPa.sの範囲内である。使用することができる溶媒は、低粘度の、わずかに極性で非プロトン性の有機溶媒、例えば、メチル−エチル−ケトン(MEK)、アセトン、エチルアセテート、エチル3−エトキシプロピオネート、またはトルエンなどの群から選ばれる。ジクロロメタン、トリクロロメタン、またはトリクロロエチレンのような塩素化された溶媒は、技術的に適しているが、その毒性のために印刷用インクジェットにおいて望ましくない。
【0100】
インクジェット前駆体物質中に含まれる溶媒は、10重量%〜95重量%、一般に45重量%〜85重量%の範囲内である。
【0101】
コンティニュアスインクジェット印刷の場合では、前駆体物質は、溶解した導電剤、一般に塩、例えば、硝酸リチウム、過塩素酸リチウム、塩化テトラブチルアンモニウム、またはテトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウムなども含む。
【0102】
塩は、0.1〜5重量%の濃度範囲で存在する。
【0103】
前駆体物質は、好ましくは、偽造に対するマーキングの耐性を増大させるために、低濃度から中等度の濃度で存在するセキュリティ物質をさらに含むことができる。これらのセキュリティ物質は、無機発光化合物、有機発光化合物、IR吸収剤、磁性物質、法医学的マーカー、およびこれらの組合せからなる群から選択される。濃度範囲は、発光化合物について0.01%〜5%、IR吸収剤または磁性物質について0.1%〜10%、法医学的マーカー物質について0.001%〜1%である。
【0104】
インクジェット印刷装置を使用して本発明を実施するのに好適なコレステリック液晶前駆体物質は、少なくとも1つのネマチック化合物、式(I)、(IA)または(IB)による少なくとも1つのキラル誘導物質化合物、有機溶媒、および光開始剤の混合物を含む。
【0105】
前記ネマチック化合物は、参照により本明細書に含まれている、EP−A−0216712、およびEP−B−0847432、US−B−6,589,445に開示されたようなアクリル型またはビスアクリル型のものであることが好ましい。コレステリック液晶前駆体混合物中に存在するネマチック化合物の好適な量は、約10wt%〜約60wt%、より好ましくは約10wt%〜約45wt%である。
【0106】
コレステリック液晶前駆体混合物中に存在するキラル誘導物質の量は、約0.1wt%〜約25wt%、好ましくは約0.5wt%〜約15wt%の範囲である。
【0107】
本発明によるマーキングを作製するための液晶前駆体物質は、色素、顔料、着色剤、希釈剤、導電性塩、表面活性化合物、表面接着促進剤、湿潤剤、消泡剤、および分散剤をさらに含むことができる。
【0108】
本発明のマーキングは、ユニークな一次元、スタックド一次元もしくは二次元バーコード、またはマトリックスコードを表すインディシアの形態で施されることが好ましい。記号は、市販商品をマーキングするために小売産業において使用されるものの中から選ばれることが好ましい。これらの記号は、国際的に認識される標準的なものであり、対応する読取および解読アルゴリズムは知られており、市販のデバイスで実施される。
【0109】
適当な一次元およびスタックド一次元バーコード記号は、記号名、例えば、Plessey、U.P.C、Codabar、Code25−Non−interleaved 2 of 5、Code25−Interleaved 2 of 5、Code39、Code93、Code128、Code128A、Code128B、Code128C、Code11、CPC Binary、DUN14、EAN2、EAN5、EAN8、EAN13、GS1−128(以前はUCC/EAN−128として知られていた)、EAN128、UCC128、GS1 DataBar(以前は省スペースシンボルRSS)、ITF−14、Pharmacode、PLANET、POSTNET、OneCode、MSI、PostBar、RM4SCC/KIX、またはTelepenなどの下で、当業者に知られており、利用可能である。
【0110】
適当な二次元バーコード記号は、記号名、例えば、3−DI、ArrayTag、Aztec Code、Small Aztec Code、bCODE、Bullseye、Codablock、Code1、Code 16K、Code49、Color code、CP Code、DataGlyphs、Datamatrix、Datastrip Code、Dot Code A、EZcode、High Capacity Color Barcode、HueCode、INTACTA.CODE、InterCode、MaxiCode、mCode、MiniCode、PDF417、Micro PDF417、PDMark、PaperDisk、Optar、QR Code、Semacode、SmartCode、Snowflake Code、ShotCode、SuperCode、Trillcode、UltraCode、VeriCode、VSCode、WaterCode、およびECC200などの下で、当業者に知られており、利用可能である。この後者は、内臓エラー補正コードを有し、国際規格ISO/CEI16022:2006において定義されている。
【0111】
光学式文字認識(OCR)についての適当なフォントタイプは、当業者に知られている。
【0112】
図1は、本発明のコレステリック液晶マーキングを有する製品包装を概略的に示す。マーキングは、前記包装の表面上にECC200データマトリックスコードの形態で存在する。データマトリックスECC200は、パブリックドメイン記号(public domain symbology)である。マーキングは、包装上の任意の所望の位置に施すことができる。したがってこれは、第1の背景色上に全面的に存在し(a)、または第1の背景色および包装上に存在する第2の設計色モチーフと部分的に重複しており(b)、または包装の白色または無色領域上に全面的に存在する(c)ことができる。
【0113】
本発明のマーキングを読み取るための読取デバイスは、市販のバーコードリーダーに基づいて、特に、手持ち式CCD/CMOSカメラ読取装置、および小売産業において使用される読取ステーションに基づいて構築することができる。マーキングが利用可能な(狭帯域の)照射と適切に整合する場合、前記読取装置は、液晶コードを読み取ることを直接可能にすることができる。
【0114】
他の場合では、読取デバイスは、マーキング中に組み込まれた特定のセキュリティ要素の応答を読み取るようにさらに適合させる(可能にする)ことができる。対応して適合されたフラットベッドスキャナーも使用することができる。CCDカメラベースのバーコードリーダーは、当業者に知られており、いくつかの事業会社、例えば、AccuSort、Cognex、DVT、Microscan、Omron、Sick、RVSI、Keyenceなどによって製造されている。
【0115】
読取デバイスの前記適合は、直線偏光フィルター、右円偏光フィルター、左円偏光フィルター、電気光学偏光フィルター、波長板、および任意の型のスペクトル選択的なカラーフィルター、ならびにこれらの組合せの群から選ばれる1つまたはいくつかの光学フィルターの実装を含むことができる。
【0116】
特定の実施形態では、少なくとも2つの異なる光学フィルターが使用される。前記適合は、スペクトル選択的な(すなわち、着色)光源、直線偏光源、左円偏光源および右円偏光源、ならびにこれらの組合せの群から選ばれる1つまたはいくつかの特定光源の実装をさらに含むことができる。
【0117】
しかし、光源は、周囲光、白熱光、レーザーダイオード、発光ダイオード、およびカラーフィルターを有するすべての型の光源から選ぶことができる。前記光源は、電磁スペクトルの可視光(400〜700nmの波長)、光学近赤外(700〜1100nmの波長)、光学遠赤外(1100〜2500nmの波長)、またはUV(200〜400nmの波長)領域のスペクトルドメイン内に放出スペクトルを有することができる。
【0118】
前記読取デバイスは、マーキングを読み取ることを可能にされているだけでなく、正しいセキュリティ物質でできている、すなわち、要求されるセキュリティ要素を含んでいるとしてマーキングを認証することも可能にされている。前記読取デバイスは、読み取られたコードを代表し、前記マーキングおよびコードを有するアイテムに対応するデータベースへの登録に向けたデジタル情報を配信する。
【0119】
前記デジタル情報は、読取デバイス内に記憶された情報と比較することができ、または読取デバイスと外部データベースの間で交換することができ、交換は、例えば、RSAタイプの公開/秘密コード化を使用して、暗号化された形態で行うことができる。情報の前記交換は、すべての種類の送信手段、例えば、ワイヤバウンド送信、無線ラジオリンク、赤外線リンクなどによって行うことができる。
【0120】
前記コーティング組成物は、好ましくは、偽造に対するその耐性を増大させるために、低濃度から中等度の濃度で存在するセキュリティ物質をさらに含むことができる。これらのセキュリティ物質は、無機発光化合物、有機発光化合物、IR吸収剤、磁性物質、法医学的マーカー、およびこれらの組合せからなる群から選択される。一般的な濃度範囲は、発光化合物について0.01%〜5%、IR吸収剤または磁性物質について0.1%〜10%、法医学的マーカー物質について0.001%〜1%である。
【0121】
特定の条件に対応するために、本発明によるマーキングを作製するためのコーティング組成物は、当技術分野で知られるように、色素、顔料、着色剤、希釈剤、導電性塩、表面活性化合物、表面接着促進剤、湿潤剤、消泡剤、および分散剤をさらに含むことができる。
【0122】
本発明による液晶マーキングの認証および識別は、光源を必要とし、以下の方法のうちの1つ、すなわち、i)円偏光または直線偏光でマーキングを照らし、マーキングの反射を検出することによって、ii)無偏光(例えば、周囲)光でマーキングを照らし、円偏光フィルターまたは直線偏光フィルターによりマーキングの反射を検出することによって、iii)円偏光または直線偏光照射と、円偏光フィルターまたは直線偏光フィルターによる検出の組合せによって行われなければならない。
【0123】
マークされたアイテムまたは物品の照射は、無偏光光源、直線偏光源、左円偏光源、および右円偏光源から選ばれる光源によって実施される。
【0124】
すべての場合において、検出は、目によって、あるいは電気光学検出装置、例えば、フォトセル、またはCCDもしくはCMOSカメラなどを利用して実施することができる。光源および検出は、特定の光エミッターおよび/またはカラーフィルターを使用して、スペクトル選択的に作製し、または選ぶことができる。検出は、電磁スペクトルの可視領域(400〜700nmの波長)で実施されることが好ましい。
【0125】
特定の実施形態では、アイテムまたは物品を認証するためのマーキングの照射は、非偏光(ランダム偏光)光源、直線偏光源、左円偏光源、および右円偏光源から選択される少なくとも2つの異なる光源を使用して実施される。
【0126】
図2は、コートボール紙上に液晶物質で印刷されたECC200データマトリックスコードから撮った画像を示す。これらの画像は、透明な、または構造化された背景上の印刷されたコードを読み取るのに、液晶物質マーキングの偏光特性を使用することの利点を明らかに例示する。照射のための偏光と、カメラの前での偏光フィルターの使用の組合せが最も有利である。すべての画像は、光源および/またはカメラの前に偏光フィルターを用いて、または用いずに、すべて白黒モードで、同じ光源および同じカメラ設定を用いて撮った。コントラストを最大にし、明るさを最適にするために、画像をデジタル処理した。
【0127】
好適な選択肢では、本発明の液晶マーキングは、直線偏光フィルターまたは円偏光フィルターなどの受動的検出手段によって、無偏光(好ましくは周囲)光下で可視化される。しかし、マーキングは、可視スペクトル(400〜700nmの波長)の外側で、例えば、電磁スペクトルの赤外領域(700〜2500nmの波長)、好ましくは光学近赤外(700〜1100nmの波長)で、光学遠赤外(1100〜2500nmの波長)で、またはUV(200〜400nmの波長)領域で識別および認証することもでき、ただし、マーキングは、これらの領域で反射バンドを有する。
【0128】
コレステリック液晶ポリマーは、その性質によって、スペクトル選択的な反射器であり、その反射バンドは、そのらせんピッチを適切に選択することによって、電磁スペクトルの一部にわたって調整することができる。前記ピッチは、液晶前駆体中のネマチック前駆体物質とキラルな誘導物質化合物の比、および重合の温度に顕著に依存する。重合後、らせんピッチ、したがって物質の反射色は、固定されたままである。
【0129】
当業者に知られるように、少量のキラル誘導物質は、低いらせん状ねじれ、したがって、大きいらせんピッチをもたらす。したがって、少量のキラル誘導物質は、スペクトルの長波長端、一般に赤外または赤色領域で、得られるポリマーの反射バンドを生じ、一方、多量の誘導物質は、スペクトルの短波長端、一般に青色またはUV領域で、得られるポリマーの反射バンドを生じる。
【0130】
キラル誘導物質の掌性、すなわち、決定された誘導物質が、反射光のそれぞれ反対の円偏光をもたらす、左または右らせんピッチを生じるかどうかにも注意を払わなければならない。イソマンニド誘導体は、左円偏光の反射を誘導することが知られており、一方、イソソルビド誘導体は、右円偏光の反射を誘導することが知られている。
【0131】
コレステリック液晶ポリマー前駆体組成物の一般的な例を以下に示し、これは、コンティニュアスインクジェット印刷工程によって塗布することができる。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
【表4】
【0136】
【表5】
【0137】
【表6】
【0138】
【表7】
【0139】
【表8】
【0140】
以上に示した指摘および例示的な実施形態に基づいて、当業者は、本発明のさらなる実施形態を引き出すことが可能になる。
図1
図2