特許第5768293号(P5768293)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5768293フッ素含有無機系廃棄物を用いる土壌固化材の製造方法及び得られた土壌固化材並びに同土壌固化材を用いる軟弱な土壌の固化方法
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  • 特許5768293-フッ素含有無機系廃棄物を用いる土壌固化材の製造方法及び得られた土壌固化材並びに同土壌固化材を用いる軟弱な土壌の固化方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5768293
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】フッ素含有無機系廃棄物を用いる土壌固化材の製造方法及び得られた土壌固化材並びに同土壌固化材を用いる軟弱な土壌の固化方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/06 20060101AFI20150806BHJP
   C09K 17/08 20060101ALI20150806BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20150806BHJP
   C09K 17/10 20060101ALI20150806BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20150806BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20150806BHJP
   B09C 1/02 20060101ALI20150806BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20150806BHJP
   C09K 103/00 20060101ALN20150806BHJP
【FI】
   C09K17/06 PZAB
   C09K17/08 P
   C09K17/02 P
   C09K17/10 P
   C02F11/00 101Z
   C02F11/00 C
   B09B3/00 304A
   B09B3/00 304J
   B09B3/00 304K
   C09K103:00
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-80113(P2011-80113)
(22)【出願日】2011年3月31日
(65)【公開番号】特開2012-214591(P2012-214591A)
(43)【公開日】2012年11月8日
【審査請求日】2014年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】514050353
【氏名又は名称】新山陽剪断株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511082894
【氏名又は名称】田村建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090985
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】三國 彰
(72)【発明者】
【氏名】細谷 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】下村 定男
(72)【発明者】
【氏名】田村 伊幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 正
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−289306(JP,A)
【文献】 特開2007−216077(JP,A)
【文献】 特開2009−189927(JP,A)
【文献】 特開2010−201320(JP,A)
【文献】 特開2009−214083(JP,A)
【文献】 特開2010−012442(JP,A)
【文献】 特開2001−259570(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/001719(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/06
B09B 3/00
B09C 1/02
B09C 1/08
C02F 11/00
C09K 17/02
C09K 17/08
C09K 17/10
C09K 103/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水状態の軟弱土壌に土壌固化材を添加・混合して固化させ、フッ素の溶出量が低減された軟弱汚泥の固化体となす軟弱な土壌の固化方法において使用される上記土壌固化材の製造方法であって、
フッ素の含有量が0.005〜5.0重量%の範囲にある、汚泥、スラグ、廃石膏、廃土からなる群から選ばれた少なくとも一種の無機系廃棄物100重量部に対して、25℃での溶解度が0.001〜0.400g/100mlの範囲にある、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム(石膏)、酸化カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸カルシウムからなる群から選ばれた2種類以上の難溶性カルシウム化合物1〜250重量部を添加・混合して、共通イオン効果によってフッ化物イオンの溶出量を1.5mg/L以下とし、さらにアルミン酸カルシウム水和物、モノサルフェート、エトリンガイト、アパタイトからなる群から選ばれた少なくとも一種のフッ素吸着材0.1〜10重量%を共存させて、フッ素溶出量が0.8mg/L以下の土壌固化材を取得することを特徴とする土壌固化材の製造方法。
【請求項2】
前記の無機系廃棄物、粉砕により比表面積を1000〜10000ブレーンとし、空気中に長期間放置、あるいは炭酸化処理することを特徴とする請求項1に記載の土壌固化材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか1項に記載の方法によって得られた土壌固化材に、石膏、セメント、粘土鉱物からなる群から選ばれた少なくとも一種を添加することによって良好な水硬性を発現するようにしたことを特徴とする土壌固化材の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の方法によって得られた軟弱な土壌の固化方法において使用される土壌固化材。
【請求項5】
水状態の軟弱土壌100重量部に対して、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法によって得られた土壌固化材を5〜100重量部添加し、混合して固化させ、フッ素の溶出量が低減された軟弱汚泥の固化体となすことを特徴とする土壌固化材を用いる軟弱な土壌の固化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明はフッ素を含有する無機系廃棄物を主原料とした土壌固化材の製造方法及び同法により得られる土壌固化材に関し、またその土壌固化材をフッ素を含有する土壌に加配して使用することで、同土壌からのフッ素の溶出を抑制する土壌固化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建設現場で発生する建設汚泥は、含水率が高く、粒子が流動化するため、その取り扱いが難しく、多くは産業廃棄物として処分されている。
そこで、その建設汚泥の固化処理時に適切な強度と凝集構造を持つ固化材が必要となり、有害物質の溶出等の問題のない固化材の開発が求められている。そして、建設汚泥等を中性領域で固化する固化材として、廃石膏ボードやスラグ等の無機系廃棄物の利用が考えられている。
他方、無機系廃棄物には汚泥、スラグ、廃石膏、廃土等がある。
これらの無機系廃棄物は年々増加する傾向にあるため、大量処理が可能な土壌固化材への応用が考えられている。
しかしながら、これらの無機系廃棄物は、環境基準を上回るフッ素を含有することが多い。例えば、スラグは製鋼工場等で大量に排出する無機系廃棄物であるが、製鋼時に融点を下げる目的でフッ化カルシウムが添加されているため、フッ化カルシウムを含有している。
また、廃石膏も建材の廃材として、その廃棄量が増加し続けており、リサイクルの必要性が高まっているが、建材石膏の製造時にフッ素を含有する燐鉱石(一般的にはフッ素燐灰石:Ca(PO)F)を主原料として使用するため、フッ化カルシウムを含有している。
さらに、化学工場等の副産物として各種汚泥や廃土が廃棄されているが、これらも同様にフッ素を含有する場合がある。
これらの無機系廃棄物を土壌固化材として利用する場合、フッ素含有量が多く、一般にフッ素の含有量に対して、フッ素を吸着する物質(フッ素吸着性物質)の量が化学量論的に不足するため、そのフッ素吸着性物質を汚泥や廃土に接触・使用するだけでは、フッ素の溶出量を環境基準値の0.8mg/L以下まで低減することはできない。
【0003】
公知の文献によれば、例えばスラグと石膏を用いた技術として、製鋼スラグと石膏を混合したことを特徴とする土壌改良用の中性固化材がある(特許文献1)。そこでは、スラグと石膏を混合した粉体は、中性域で固化が可能であるため、中性固化材として提案されている。これらの技術は、固化材中にエトリンガイト等のフッ素吸着性物質を生成し、吸着させることを大きな特徴としている。
これらの技術では、単独のカルシウム化合物を混有させているが、フッ素含有量が多いスラグを用いた場合や多量のフッ素を含有する土壌を固化する場合には、土壌固化材のフッ素溶出量を環境基準値以下にすることはできない。
また、フッ素含有廃棄物にセメント、スラグ、ドロマイトもしくは石膏を加える固化材(特許文献2)等がある。
しかしながら、これらの方法においても、製造工程でフッ化カルシウムが混入される廃石膏やスラグを用いた場合、フッ素の含有量に対し、フッ素吸着性物質の量が化学量論的に不足するため、効果的にフッ素の溶出量を環境基準値以下に低減することできない。
また、カルシウム化合物を含む特許文献(特許文献3)には、フッ素含有土壌に、カルシウム化合物、マグネシウム化合物を添加するフッ素汚染土壌の不溶化処理方法がある。しかしながら、この特許文献(特許文献3)記載の発明では、リン酸塩、石膏、スラグ等を添加していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−123476号公報
【特許文献2】特開2006−289306号公報
【特許文献3】特開2007−216077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明では、フッ素含有物からフッ素が雨水や、地下水、海水に溶出し、人類の生活環境や農耕地、漁場等動植物の生態系へのフッ素の汚染が広がり、人の健康や動植物への悪影響を及ぼすことを解決しようとするものである。
本願発明ではフッ素を大量に含有する無機系廃棄物である石膏ボードやスラグを用いてフッ素等の有害成分を不溶化した土壌固化材を安価に製造する技術を提供するものである。また、本願発明により製造される土壌固化材を使用して、建設汚泥等を中性領域で固化し、固化物からのフッ素溶出量を環境基準の0.8mg/L以下にしようとするものである。
そして、本願発明によれば、廃石膏ボードやスラグ等の無機系廃棄物に含有されるフッ素の不溶化技術の開発により、フッ素の溶出量を環境基準以下とすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は上述した課題を下記構成の発明により効果的に解決する。
[1]含水状態の軟弱土壌に土壌固化材を添加・混合して固化させ、フッ素の溶出量が低減された軟弱汚泥の固化体となす軟弱な土壌の固化方法において使用される上記土壌固化材の製造方法であって、
フッ素の含有量が0.005〜5.0重量%の範囲にある、汚泥、スラグ、廃石膏、廃土からなる群から選ばれた少なくとも一種の無機系廃棄物100重量部に対して、25℃での溶解度が0.001〜0.400g/100mlの範囲にある、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム(石膏)、酸化カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸カルシウムからなる群から選ばれた2種類以上の難溶性カルシウム化合物1〜250重量部を添加・混合して、共通イオン効果によってフッ化物イオンの溶出量を1.5mg/L以下とし、さらにアルミン酸カルシウム水和物、モノサルフェート、エトリンガイト、アパタイトからなる群から選ばれた少なくとも一種のフッ素吸着材0.1〜10重量%を共存させて、フッ素溶出量が0.8mg/L以下の土壌固化材を取得することを特徴とする土壌固化材の製造方法。
[2]前記の無機系廃棄物を、粉砕により比表面積を1000〜10000ブレーンとし、空気中に長期間放置、あるいは炭酸化処理することを特徴とする前記[1]に記載の土壌固化材の製造方法。
[3]前記[1]又は[2]のいずれか1項に記載の方法によって得られた土壌固化材に、石膏、セメント、粘土鉱物からなる群から選ばれた少なくとも一種を添加することによって良好な水硬性を発現するようにしたことを特徴とする土壌固化材の製造方法。
[4]前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の方法によって得られた軟弱な土壌の固化方法において使用される土壌固化材
[5]含水状態の軟弱土壌100重量部に対して、前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の方法によって得られた土壌固化材を5〜100重量部添加し、混合して固化させ、フッ素の溶出量が低減された軟弱汚泥の固化体となすことを特徴とする土壌固化材を用いる軟弱な土壌の固化方法
【0007】
なお、前記の無機系廃棄物、塩基度0.8〜1.6、組成(F):0.4未満、(CaO):35〜65%、(SiO2):20〜55%、(Al23):4〜9%の組成範囲にあるスラグであることが好ましい
【発明の効果】
【0008】
本願発明によれば、安価な無機系廃棄物を原料として、フッ素の溶出が大幅に低減化された土壌固化材を提供することができる。
すなわち、本願発明においては、カルシウムイオンの共通イオン効果(複数のカルシウム化合物を共存させることによる効果)により、それらの混合物に含まれるフッ素の溶解度を低下させる。共通イオン効果によってフッ素イオンの溶出量を1.5mg/L以下にすることができる。さらに共存させるフッ素吸着材との複合効果により、スラグや廃石膏ボード等に含有する高濃度のフッ素イオンを、環境基準の0.8mg/L以下に低減することが可能となる。
本特許による効果を図1に示す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】従来の技術と本願発明の技術との比較・概略図
図2】比較例及び実施例の試験結果
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願発明に係る土壌固化材の製造方法及び得られる土壌固化材並びにその使用による土壌の固化方法の実施の形態について、詳細に説明する。
以下において、「固化不溶化」とは、固化する過程において、固化強度を発現するとともに有害元素(フッ素)の溶出量を低減することを言う。
[詳細説明]
本願発明では、フッ素含有量の多い無機系廃棄物に、複数のカルシウム化合物を添加・混合することで、各化合物に由来したカルシウムイオンを多く溶出させ、共通イオン効果による溶液平衡により、無機系廃棄物に多量に含まれるフッ化カルシウムからの高濃度のフッ素溶出量を大幅に低減させることを特徴とする。
以下、共通イオン効果について詳細に説明する。
すなわち、下記1)の反応式において、それぞれのカルシウム化合物は水溶液中で溶け出し、イオンに解離する。それぞれの化合物は固有の溶解度積を持ち、一定量のイオンに解離した後、平衡を保つ。
それぞれの化合物は水溶液で一定量しか溶けないが、複数の化合物が存在すれば、多くのCaイオンが溶け出し、下記2)の反応式においてCaFが生成される方向に反応は進行し、CaFからのフッ化物イオンの溶出を低減できる。

1)CaSO → Ca2+ + SO2−
Ca(OH) → Ca2+ + 2(OH)
CaCO → Ca2+ + CO2−


2)CaF ← Ca2+ + 2F

カルシウム化合物としては、溶解度が0.001〜0.400g/100ml(25℃)で毒性のないカルシウム化合物であることが望ましい。
カルシウム化合物の溶解度が0.001g/100ml以下であるとフッ化カルシウムよりも溶解度が低く、カルシウムイオンの共通イオン効果が少なく、カルシウム化合物の溶解度が0.400g/100mlより多いと、一次的な効果は認められるが、土壌固化材として用いた場合、溶出量が多いため、土壌から流出してしまう。
このようなカルシウム化合物として、硫酸カルシウム(二水石膏、半水石膏)、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、等の無機系カルシウム化合物やクエン酸カルシウム等の有機系化合物が挙げられる。
また、これらの化合物は、本願発明の土壌固化材が土壌に対して用いられる際に、地下水等への溶出が危惧されるので毒性のないものであることが要求される。
このように複数のカルシウム化合物を固化材中に添加、あるいは生成させることで、各化合物に由来したCaイオンを溶出させ、溶液平衡により、フッ化カルシウムからのフッ素溶出量を段階的に低減させることができる。
【0011】
図1に、従来の技術と本願発明の技術との比較・概略図を示す。
【0012】
次に実際に無機系廃棄物を主原料した場合のフッ素の不溶化機構について説明する。
1) 無機系廃棄物が廃石膏の場合
石膏系建材の製造時には、フッ素を含有する燐鉱石(一般的にはフッ素燐灰石:Ca5(PO4)3F)が主原料として使用されるため、その建材をリサイクルのために破砕した廃石膏には多量のフッ素を含有している。
すなわち、前記原料には0.3%前後のフッ素を含有し、溶出試験ではフッ素を4〜8mg/L溶出する。
本願発明の実施においては、まず、廃石膏の主成分である半水石膏以外に、複数のカルシウム化合物を共存させるが、これにより、廃石膏中のフッ素の多くはフッ化カルシウムとなる。
すなわち、カルシウムイオンによる共通イオン効果により、フッ化カルシウムの溶解度平衡はフッ化カルシウムの沈殿形成へと移行し、フッ素の溶出量は大幅に低減する。この時フッ化カルシウムからのフッ素溶出量は1.5mg/L以下となる。
さらに固化体中に追加的にフッ素吸着性の材料(フッ素吸着性材料)を共存させることで、上述のカルシウムイオン効果とフッ素吸着性材料の複合効果により、最終のフッ素溶出量を環境基準の0.8mg/L以下にすることが可能である。
フッ素吸着性材料としては、アルミン酸カルシウム水和物、モノサルフェート、エトリンガイト、アパタイトからなる群から選ばれた少なくとも一種であってよく、好ましくは合成アパタイト(例えば(Ca10(PO4)6(OH)2):ヒドロキシアパタイト)、アルミン酸カルシウム水和物、モノサルフェート、エトリンガイトが挙げられる。
その場合、カルシウム化合物としてリン酸水素カルシウムを添加使用して、アパタイトを形成することもできる。
その際本願発明では、リン酸水素カルシウムが共通イオン効果としても機能するため、少ない添加量(少量のアパタイト形成)で環境基準の0.8mg/L以下とすることができる。
また、固化する汚泥にフッ素が含有している場合でも、フッ化カルシウムの含有量の合量が10重量%以下(廃石膏中のフッ化カルシウムを含む。)であれば、土壌固化材で固化した固化体からのフッ素溶出量は0.8mg/L以下となる。
【0013】
2) 無機系廃棄物がフッ素を含有する汚泥や廃土の場合
化学工場等の副産物としてフッ素を含有する各種汚泥や廃土が廃棄されている。これらの汚泥や廃土に複数のカルシウム化合物を共存させることで、汚泥や廃土中のフッ素の多くはフッ化カルシウムとなる。また、カルシウムイオンによる共通イオン効果により、フッ化カルシウムの溶解度平衡はフッ化カルシウムの沈殿形成へと移行し、フッ素の溶出量は大幅に低減する。この時フッ化カルシウムからのフッ素溶出量は1.5mg/L以下となる。
以下、1)の廃石膏の場合と同様の効果により、土壌中のフッ素溶出量を0.8mg/L以下とすることが可能である。
【0014】
3) 無機系廃棄物がスラグの場合
鉄鋼スラグは石灰(CaO)とシリカ(SiO)を主成分としている。その他の成分として、高炉スラグはアルミナ(Al)、酸化マグネシウム(MgO)と少量の硫黄(S)を含み、製鋼スラグは酸化鉄(FeO)、酸化マグネシウム(MgO)を含有している。
鉄鋼スラグの形状や物理・化学的特性は、一般の砕石または砂と似ているが、化学成分や冷却プロセスの違いなどにより、スラグ特有の幅広い性質を持たせることができる。例えば、アルカリ刺激があると硬化する特性を持つものなど、その物理的・化学的特性を活かした用途が開発され、多方面で利用されている。
スラグは製鋼工場等で大量に排出する無機系廃棄物であるが、製鋼時に融点を下げる目的でフッ化カルシウムを添加しているため、多量のフッ素を含有している。原料には0.4%以下のフッ素を含有し、溶出試験ではフッ素を6〜8mg/L溶出する。
【0015】
本願発明では、このようなスラグからの高濃度のフッ素溶出量を以下の工程により、環境基準の0.8 mg/L以下とすることができる。
まず、成分中のカルシウム化合物及び添加するカルシウム化合物からのカルシウムイオンによる共通イオン効果により、フッ化カルシウムの溶解度平衡はフッ化カルシウムの沈殿形成へと移行し、フッ素の溶出量は大幅に低減する。この時フッ化カルシウムからのフッ素溶出量は1.5mg/L以下となる。さらに、少量のエトリンガイトやモノサルフェート生成により、フッ素溶出量を環境基準の0.8mg/L以下とすることができる。
【0016】
製鋼スラグの場合、金属元素(例えば鉄など)が酸化物の形でスラグ中に取り込まれているが、精錬時間が短く石灰含有量が高いため、副原料の石灰の一部が未溶解のまま遊離石灰(free−CaO)として残るものもある。
CaO成分が過剰である場合、消石灰を含有する。スラグはガラス成分やゲーレナイト(2CaO・Al23・SiO2)やオケルマナイト(2CaO・MgO・2SiO2)等の結晶性鉱物を主構成鉱物としている。また、セメント成分やアルミナセメント成分を含有しているため、水和反応が進行し、石膏の存在下においてモノサルフェート、(3CaO・Al23・CaSO4・12H2O)やエトリンガイト(3CaO・Al23・3CaSO4・32H2O;アルミン酸カルシウム水和物の1種でフッ素イオンやクロムイオンを不溶化する機能がある。)が生成する。これらのエトリンガイトやモノサルフェートはフッ素を捕集・吸着し、フッ素の不溶化をさらに促進する。
また、固化する汚泥にフッ素が含有している場合でも、フッ化カルシウムの含有量が10%以下(廃石膏中のフッ化カルシウムを含む。)であれば、土壌固化材で固化した固化体からのフッ素溶出量は0.8mg/L以下となる。
スラグにカルシウム化合物が含有されない場合は、カルシウム化合物が複数存在するように、またカルシウム化合物の合量が50重量%以上となるようにカルシウム化合物を添加する必要がある。
【0018】
5) 粉砕の効果
微粉砕することで、無機系廃棄物やカルシウム化合物の比表面積は増大し、各カルシウム化合物からカルシウムイオンが溶出しやすくなることで、共通イオン効果が働き、CaFが生成される方向に反応は進行し、CaFからのフッ素イオンの溶出を低減できる。
無機系廃棄物が、汚泥、スラグ、廃石膏、廃土からなる群から選ばれた少なくとも一種であり、粉砕により比表面積を1000〜10000ブレーンとし、空気中に長期間放置、あるいは炭酸化処理することにより、より効果的にフッ素の溶出量を低減することができる。
さらに水和反応等の硬化反応が促進され、エトリンガイト等のフッ素の不溶化成分の生成反応を促進する。
また、粉砕して表面積を増やしたスラグを空気中に放置することで、スラグ中の消石灰は下記のごとく炭酸化され、アルカリ度が低下する。
Ca(OH)+CO → CaCO+H
これにより、中性固化材として高アルカリとなる現象が緩和される。
消石灰を例にとると、炭酸化反応が部分的に進行し、消石灰及び炭酸カルシウムと複数のカルシウム塩が存在することになり、カルシウム化合物の共通イオン効果を進行させることになる。このようにスラグ等の無機系廃棄物を粉砕し、比表面積の値を増加させることで、土壌固化剤の性能を高めることができる。炭酸化反応は、微粉砕することで、空気中に放置することで、進行するが、強制的に炭酸ガスを用いて炭酸化することも考えられ、炭酸ガスを含む排ガス等も利用できる。
【実施例】
【0019】
次に、フッ素を含有する無機系廃棄物を想定し、試薬のフッ化カルシウム(CaF:溶解度[g/100g HO]0.0015(18℃)を添加し、さらに各種カルシウムイオンを添加して、スラリー及び固化体を作製し、溶出液からのフッ素の溶出量を測定した。以下比較例及び実施例を示す。
[比較例1](スラリー状態;カルシウム化合物 0種)
フッ化カルシウム粉末を10gを用意し、それを蒸留水100ml中で攪拌混合した。 次いで、上澄み液をフィルターで濾過した溶出液のフッ素イオン濃度を測定した。
その結果、溶出液のフッ素の濃度は120(mg/L)であった。
[比較例2](スラリー状態;カルシウム化合物 1種)
フッ化カルシウム10重量部と2水石膏90重量部との粉末混合物を10g用意し、これを蒸留水100ml中で攪拌混合した。次いで、フィルターで濾過した溶出液(濾液)のフッ素イオン濃度を測定した。
その結果、溶出液のフッ素の濃度は6.1mg/Lであった。
【0020】
[実施例1](スラリー状態;カルシウム化合物 2種)
フッ化カルシウム10重量部、二水石膏70重量部、炭酸カルシウム20重量部の粉末混合物を10g用意した。その混合物を蒸留水100ml中で攪拌混合した。次いで、上澄み液をフィルターで濾過した溶出液のフッ素の濃度を測定した。
その結果、溶出液のフッ素の濃度は1.5mg/Lであった。
【0021】
[実施例2](スラリー状態;カルシウム化合物 3種)
フッ化カルシウム10重量部、二水石膏50重量部、炭酸カルシウム20重量部、消石灰20重量部の粉末混合物を10g用意した。
その混合物を、蒸留水100ml中で攪拌混合した。次いで、上澄み液をフィルターで濾過した溶出液のフッ素の濃度を測定した。
その結果、溶出液のフッ素の濃度は1.1mg/Lであった。
これらの結果から、固化体にせず、スラリーを混合しただけでも、高濃度のフッ化カルシウムのフッ素の溶出量を1mg/L程度まで低減することができることが解った。
これらのデータから、使用するカルシウム化合物の種類が多く、カルシウムイオンの溶出量が増加するほど、フッ化カルシウムからのフッ素の溶出量が低下することが解った。
【0022】
次に実際にこれらの配合系で、固化体を作製し、固化物からの溶出試験を行った。
フッ素を含有する無機系廃棄物として廃石膏を想定し、フッ化カルシウムと2水石膏(試薬)を所定の割合で配合し、カルシウム化合物の種類と添加量を変化させて水に混合し、混合したスラリーをトレーに流し込み、固化させた。
そして、この固化体からのフッ素の溶出量を測定した。
【0023】
[実施例3](固化体の状態;カルシウム化合物 3種)
フッ化カルシウム10重量部、二水石膏69;重量部、炭酸カルシウム20重量部、リン酸水素カルシウム1重量部の粉末混合物を100g用意し、それに蒸留水60mlを加え、混合攪拌した後、トレーに流し込み、固化させた。
1週間経過後、固化体を乾燥(45℃、24時間)し、粉砕した後、1mmのフルイを通過させて、固化体の粉砕品を10g採取した。この粉砕品10gを蒸留水100ml中で攪拌混合した。次いで、上澄み液をフィルターで濾過し、溶出試験を行った。
その結果、溶出液のフッ素イオン濃度は0.56mg/Lであり、環境基準の0.8mg/L以下であった。
【0024】
[実施例4](固化体の状態;カルシウム化合物 3種)
フッ化カルシウム10重量部、二水石膏68重量部、炭酸カルシウム20重量部、リン酸水素カルシウム2重量部の粉末混合物を100g用意し、蒸留水60mlを加え、混合攪拌した後、トレーに流し込み、固化させた。1週間経過後、固化体を乾燥(45℃、24時間)し、粉砕した後、1mmのフルイを通過させて、固化体の粉砕品を10g採取した。
この粉砕品10gを、蒸留水100ml中で攪拌混合した。
次いで、上澄み液をフィルターで濾過し、溶出試験を行った。
その結果、溶出液のフッ素濃度は0.39mg/Lであり、環境基準の0.8mg/L以下であった。
【0026】
以上の比較例及び実施例の試験結果を、図2にグラフ化して示した。
【0027】
[無機系廃棄物として、スラグを用いる実施例]
次にフッ素を含有する無機系廃棄物として、製鋼スラグ(電気炉スラグ)を用いた実施例について説明する。
該スラグは、塩基度が0.8〜1.6、組成が(F):0.4%未満、(CaO):35〜65%、(SiO):20〜55%、(Al):4〜9%の組成範囲にあるスラグであり、粉砕により、比表面積を4500ブレーンとし、空気中に長期間放置したものである。
スラグに複数種のカルシウム化合物を添加し、混合したスラリーをトレーに流し込み、固化させた。
1週間経過後、固化体を乾燥(45℃、24時間)し、粉砕した後、1mmのフルイを通過させて、固化体の粉砕品を10g採取し、蒸留水100ml中で攪拌混合した。
次いで、フィルターで濾過した溶出液のフッ素濃度を測定し、共通イオン効果によるフッ素溶出量の低減効果を確認した。
【0028】
[実施例6](固化体の状態;スラグ+半水石膏+炭酸カルシウム;カルシウム化合物;2種類)
スラグ50重量部、半水石膏49重量部、炭酸カルシウム1重量部の粉末混合物を100g用意し、蒸留水60mlを加え、混合攪拌した後、トレーに流し込み、固化させた。
1週間経過後、固化体を乾燥(45℃、24時間)し、粉砕した後、1mmのフルイを通過させて、固化体の粉砕品を10g採取し、蒸留水100ml中で攪拌混合した。
なお、上記スラグは消石灰及び炭酸カルシウムを含有しており、結果的に固化材には、3種類のカルシウム化合物が存在した。
次いで、上澄み液をフィルターで濾過し、溶出試験を行った。
その結果、溶出液のフッ素イオン濃度は0.35mg/Lであり、環境基準の0.8mg/L以下であった。
【0029】
[実施例7](固化体の状態;スラグ+半水石膏+炭酸カルシウム;カルシウム化合物;2種類)
スラグ30重量部、半水石膏69重量部、炭酸カルシウム1重量部の粉末混合物を100g用意し、蒸留水60mlを加え、混合攪拌した後、トレーに流し込み、固化させた。
1週間経過後、固化体を乾燥(45℃、24時間)し、粉砕した後、1mmのフルイを通過させた、固化体の粉砕品を10g採取し、蒸留水100ml中で攪拌混合した。
なお、スラグは消石灰及び炭酸カルシウムを含有しており、結果的に固化材には、3種類のカルシウム化合物が存在した。
次いで、上澄み液をフィルターで濾過し、溶出試験を行った。
その結果、溶出液のフッ素イオン濃度は0.25mg/Lであり、環境基準の0.8mg/L以下であった。
図1
図2