【実施例1】
【0012】
この発明の実施例1を
図1〜
図5にしたがって説明する。
この実施例1に係るクラッチレリーズ軸受装置は、ダイレクトシリンダによって作動される油圧式のクラッチレリーズ軸受装置である場合を例示する。
図1に示すように、クラッチ主軸の外周面に組み付けられかつダイレクトシリンダを構成するシリンダ内筒体10と、シリンダ外筒体15との間には環状のシリンダ空間16が形成され、このシリンダ空間16には、シリンダ空間16内に供給される油圧によって作動される環状ピストン20が嵌挿されている。
シリンダ空間16から突出される環状ピストン20の突出部の先端側外周面には環状溝21が凹設されている。
【0013】
図1と
図2に示すように、環状ピストン20とダイヤフラムスプリング26との間に配設されるクラッチレリーズ軸受装置のクラッチレリーズ軸受30は、外輪33と、この外輪33の内周に同心状に配置される内輪40と、外輪33と内輪40との間の環状空間に保持器32によって保持された状態で転動可能に配設される複数個の転動体としての玉31とを備えている。
外輪33の一端には、径方向内方に湾曲状に延びる押圧部としての外輪鍔部35が形成され、この外輪鍔部35の外側面にダイヤフラムスプリング26の内径側部分27を押圧する押圧面36が形成されている。
【0014】
また、
図3に示すように、外輪33の外輪鍔部35の内径端面は、その板厚の中間部から内側部分は、次に述べるシール部材60と協働してラビリンス(非接触シール部)を構成するために、軸方向に平行する円筒面37に形成されている。
また、外輪鍔部35の内径端面には、その板厚の中間部から外側へ向けてしだいに拡径された傾斜面38又は湾曲面が形成されている。
また、外輪鍔部35の内径端面に傾斜面38が形成される場合、その傾斜面38の軸線方向に対する傾斜角の角度寸法θは、遠心力による泥水等の振り切り効果を得るために、5°〜45°の範囲に設定されることが好ましく、15°〜16°の範囲に設定されることがより好ましい。
すなわち、角度寸法θが5°よりも小さいと、遠心力による泥水等の振り切り効果が小さくなり、角度寸法θが45°よりも大きいと、切削加工量が大きくなると共に、他の部材(例えば、ダイヤフラムスプリング)に対する押圧面の面積が減少したり、ときには押圧面36との境界部でエッジ当たりすることが想定される。
【0015】
図2に示すように、クラッチレリーズ軸受30の内輪40の一端部には、外輪33の外輪鍔部35との間に所定の隙間をもって径方向内方に延びる内輪鍔部42が形成されている。
また、内輪40の内輪鍔部42は、その内径端が環状ピストン20の環状溝21の底面(外径面)と調心用の環状隙間を隔てて配置されると共に、環状溝21の一方の側壁面23と内輪鍔部42との間には、皿ばね状の調心用ばね25が配設されている。そして、調心用ばね25の弾発力によって内輪鍔部42の一側面が環状溝21の他方の側壁面である押圧面22に当接している。
すなわち、ダイヤフラムスプリング26とクラッチレリーズ軸受30との間に半径方向の偏心が生じたときには、ダイヤフラムスプリング26に対し調心用ばね25を介してクラッチレリーズ軸受30が半径方向へ相対的に移動されることでダイヤフラムスプリング26に対しクラッチレリーズ軸受30が調心されるようになっている。
また、内輪40の他端側には、ダイヤフラムスプリング26に向けて内輪40を押圧する加圧ばね58のばね力を受けるばね受け体50が設けられている。
また、内輪40の一端部の外周面から内輪鍔部42の根元部分にわたる範囲(後述するシール部材60の取付範囲)40aは、高精度に研磨仕上げされることが望ましい。
【0016】
図3に示すように、外輪鍔部35と内輪鍔部42との間には、薄板鋼板のプレス加工品によって形成される金属製のシール部材60が配設されている。
このシール部材60は、内輪40の一端部外周面に圧入される円筒状の取付筒部61と、この取付筒部61の一端部から内輪鍔部42の外側面に沿って径方向内方へ曲げられた環状部62と、この環状部62の内径端から外輪鍔部35の内径端面の円筒面37に沿って微小な隙間をもって突出されかつ外輪鍔部35の円筒面37と協働してラビリンスを構成する筒状シール部63とを一体に備えて縦断面Z字状に形成されている。
【0017】
また、この実施例1において、シール部材60の取付筒部61の先端部外周面にプレスの打ち抜き加工によるダレ161aが配置されるようにシール部材60がプレス加工されている。
すなわち、
図4に示すように、シール部材60を形成するための薄板鋼板がプレスの打ち抜き加工によって円環状に打ち抜かれて一次加工品160が形成される。この際、一次加工品160の一側外周部にダレ161aが生じる。
その後、
図5に示すように、一次加工品160がプレス絞り加工される際、一次加工品160の一側外周部に形成されたダレ161aが取付筒部61の先端部外周面に配置されるように一次加工品160がプレス絞り加工されることによってシール部材60が製造される。
【0018】
図3に示すように、シール部材60の環状部62が内輪40の内輪鍔部42に当接する位置までシール部材60の取付筒部61が内輪40の一端部外周面に圧入された固定状態において、シール部材60の取付筒部61の圧入部の長さ寸法Aは、1mm以上であることが好ましく、内輪鍔部42の板厚寸法tよりも大きいことがより好ましい。
また、シール部材60の筒状シール部63の先端部と、外輪33の外輪鍔部35の傾斜面38との重なり寸法Bは、0.0mm以上又は、0.0mm〜1.1mmの範囲に設定されることが好ましく、0.08mm〜0.91mmの範囲に設定されることがより好ましい。
さらに、筒状シール部63の外周面と、外輪鍔部35の内径端面の円筒面37との間の隙微小な隙間Sの隙間寸法Cは、0.1mm〜1.0mmの範囲に設定されることが好ましく、0.14mm〜0.74mmの範囲に設定されることがより好ましい。
【0019】
この実施例1に係るクラッチレリーズ軸受装置は上述したように構成される。
したがって、取付筒部61と、環状部62と、筒状シール部63とを一体に備えて縦断面Z字状をなすシール部材60を、薄肉鋼板のプレス加工品によって容易に形成することができ、コスト低減を図ることができる。
また、内輪40の一端部外周面にシール部材60の取付筒部61を圧入して安定よく取り付けることができる。このため、シール部材60の取付筒部61の外周面と、外輪鍔部35の内径端面の円筒面37との間に微小な隙間Sによるラビリンス(非接触シール部)を適格に構成することができ、シール性を良好に確保することができる。
さらに、外輪鍔部35の内径端面に形成された傾斜面38又は湾曲面によって、外輪33の回転時には、遠心力による泥水等の振り切り効果が得られる。
【0020】
また、この実施例1において、シール部材60の取付筒部61の先端部外周面に、プレスの打ち抜き加工によるダレ161aが配置される。このため、内輪40の一端部外周面とシール部材60の取付筒部61の内周面との間にダレ161aが原因となる隙間を発生させることなく水密状態で取付筒部61を圧入することができる。
すなわち、取付筒部61の先端部内周面にダレが配置されると、内輪40の一端部外周面とシール部材60の取付筒部61の内周面との間にダレが原因となる隙間が発生し、その隙間によって取り付けが不安定となったり、シール不良が生じることが想定されるが、このような不具合を防止することができる。
【0021】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。