(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
直流入力電圧を変換して異なる電位の直流電圧を出力する回路としてスイッチング・レギュレータ方式のDC−DCコンバータがある。かかるDC−DCコンバータは、電池などの直流電源から供給される直流電圧をインダクタ(コイル)に印加して電流を流しコイルにエネルギーを蓄積させる駆動用スイッチング素子と、該駆動用スイッチング素子がオフされているエネルギー放出期間にコイルの電流を整流する整流素子と、上記駆動用スイッチング素子をオン、オフ制御する制御回路とを備える。
【0003】
従来、上記スイッチング・レギュレータ方式のDC−DCコンバータにおける制御方式としては、出力電圧をフィードバックしてスイッチング素子の駆動パルスのパルス幅もしくは周波数を変調制御する電圧制御方式や、電圧制御方式を改良した電流制御方式の他、リップル制御方式がある。このうち電圧制御方式と電流制御方式は、負荷が急に変化したときの応答速度が低いという問題点がある。
一方、リップル制御方式は、出力電圧を監視して、設定したしきい値を下回った(上回った)ことを検出してスイッチング素子のオン/オフを制御するもので、誤差アンプの周波数特性による遅れ等がないため、電圧制御方式や電流制御方式に比べて高い負荷応答速度が得られるという利点がある。
【0004】
ところで、リップル制御方式のDC−DCコンバータは、一般に、出力端子に平滑接続されるコンデンサが有する抵抗成分であるESR(等価直列抵抗)によって出力電圧に現れる三角波(リップル)を利用し、コンパレータにより出力電圧を監視して出力電圧が所定値よりも低くなったらスイッチング素子を一定時間オンさせることを繰り返すことで、出力電圧が一定になるように制御するものである。
【0005】
従来は、出力電圧の平滑コンデンサとしてESRの比較的大きな電界コンデンサが使用されていたため、リップルの不足によりリップル制御が行えなくなるということはなかった。ところが、近年、デジタル家電では、リップルそのものを減らしたいという要求や、外形寸法の削減や信頼性の向上やコスト削減のため、ESRが小さいセラミック・コンデンサを使いたいというニーズが高まっている。しかし、ESRが小さいとリップル成分はほとんど発生しないため、リップル制御が行えなくなる。そこで、出力電圧のフィードバック電圧にリップル成分を注入するようにしたスイッチング電源に関する発明が提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、インダクタと並列に接続されインダクタに流れるリップル電流と相似なリップル電圧を生成する積分回路を設け、生成されたリップル電圧を電流に変換してフィードバック電圧と参照電圧とを比較するコンパレータに動作電流として供給したり、コンパレータに入力電圧として供給したりするようにしたスイッチング電源に関する発明が提案されている(特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、スイッチング電源装置においては一般に、出力電圧やそのフィードバック電圧は、過電圧や短絡から保護するために監視されていることが多く、特許文献1のリップル注入回路のように、出力のフィードバック電圧にリップル成分を注入するようにしたのでは、保護回路が誤動作するおそれがある。
【0009】
また、特許文献2のリップル注入回路のように、インダクタが接続されたノードの電位を積分してリップル電圧を生成する方式にあっては、インダクタが接続されたノードの電位はデューティ比が変化するため、生成されるリップル電圧の振幅がデューティ比によって変化してしまい、それによってラインレギュレーション(入力電圧の変動に対する出力電圧変動の割合)が悪化してしまうおそれがあることが分かった。
【0010】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、リップル制御方式のスイッチング電源装置において、ラインレギュレーションを悪化させたり保護回路を誤動作させたりすることなく、制御回路(IC)にリップル注入機能を搭載することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するため、
直流電圧が入力される電圧入力端子と負荷が接続される出力端子との間に接続されたインダクタと、
前記インダクタに間歇的に電流を流す駆動用スイッチング素子と、
出力側からのフィードバック電圧に応じた制御パルスを生成して前記駆動用スイッチング素子をオン、オフ制御する制御回路と、
を備え、入力電圧と異なる電位の電圧を出力するスイッチング電源装置であって、
前記制御回路は、
前記フィードバック電圧と所定の電圧とを比較する電圧比較回路と、
所定の振幅を有する疑似リップル電圧を生成する疑似リップル生成回路と、
を備え、
前記疑似リップル生成回路は、
前記制御パルスと同一の周期を有し該制御パルスのデューティ比が変化しても一定のパルス幅を有する固定パルスを生成するパルス生成回路と、
前記パルス生成回路によって生成された前記固定パルスに応じて三角波の波形電圧を生成する波形生成回路と、
を備え、
前記疑似リップル生成回路により生成された疑似リップル電圧に基づいて前記フィードバック電圧の伝達経路においてリップル成分を注入し、前記電圧比較回路は、第1の差動入力段と第2の差動入力段とを有する4入力のコンパレータであり、前記第1の差動入力段には前記フィードバック電圧と所定の電圧が入力され、前記第2の差動入力段には、前記波形電圧と基準となる電位が入力されるように構成した。
【0012】
上記のような手段によれば、所定の振幅を有する疑似リップル電圧を生成する疑似リップル生成回路を備え、該疑似リップル生成回路により生成された疑似リップル電圧に基づいてフィードバック電圧の伝達経路においてリップル成分を注入するため、生成されるリップル電圧の振幅が制御パルスのデューティ比にかかわらず一定となるようにすることができる。これによって、ラインレギュレーションを悪化させることなく制御回路(IC)にリップル注入機能を搭載することができるようになる。
【0013】
また、前記疑似リップル生成回路は、前記制御パルスと同一の周期を有し該制御パルスのデューティ比が変化しても一定のパルス幅を有する固定パルスを生成するパルス生成回路と、前記パルス生成回路によって生成された前記固定パルスに応じて三角波の波形電圧を生成する波形生成回路と、を備える
ので、波形生成回路によって制御パルスのデューティ比が変化しても一定の振幅を有する三角波の波形電圧を生成することができ、ラインレギュレーションを悪化させることなく制御回路(IC)にリップル注入機能を搭載することができる。
さらに、前記電圧比較回路は、2つの差動入力段を有する4入力のコンパレータであり、前記2つの差動入力段のうち一方の差動入力段には、前記フィードバック電圧と所定の電圧が入力され、他方の差動入力段には、前記波形電圧と基準となる電位が入力されるように構成されているので、フィードバック電圧に直接リップル成分を付加する必要がないため、フィードバック電圧が入力される端子に接続された短絡や過電圧の保護回路を制御回路に設けた場合に、保護回路が監視する電圧がリップル成分の付加による影響を受けるのを回避でき、これによって保護回路が誤動作するのを防止することができる。
【0014】
また、望ましくは、前記波形生成回路は、前記パルス生成回路によって生成された前記固定パルスによってオン、オフ制御されるスイッチング素子と、該スイッチング素子のオン、オフ動作によって定電流源からの電流で充電と放電を繰り返す容量とを備えるように構成する。
これにより、制御パルスのデューティ比が変化しても一定の振幅を有する三角波の波形電圧を生成する回路を、比較的構成の簡単な回路で実現することができる。
【0016】
また、前記波形生成回路は、前記パルス生成回路によって生成された前記固定パルスを積分する積分回路により構成するようにしてもよい。これにより、制御パルスのデューティ比が変化しても一定の振幅を有する三角波の波形電圧を生成する回路を、比較的構成の簡単な回路で実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に従うと、リップル制御方式のスイッチング電源装置において、ラインレギュレーションを悪化させたり保護回路を誤動作させたりすることなく、制御回路(IC)にリップル注入機能を搭載することができるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明を適用したスイッチング・レギュレータ方式のDC−DCコンバータの一実施形態を示す。
この実施形態のDC−DCコンバータは、インダクタとしてのコイルL1、直流入力電圧Vinが印加される電圧入力端子INと上記コイルL1の一方の端子との間に接続されコイルL1に向かって駆動電流を流し込むハイ側の駆動用スイッチング素子SW1、コイルL1の一方の端子と接地点の間に接続されたロウ側の整流用スイッチング素子SW2を備える。駆動用スイッチング素子SW1および整流用スイッチング素子SW2は、例えばMOSFET(絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)から構成することができる。
【0020】
また、本実施形態のDC−DCコンバータは、上記駆動用スイッチング素子SW1および整流用スイッチング素子SW2をオン、オフ駆動するスイッチング制御回路20、上記コイルL1の他方の端子(出力端子OUT)と接地点との間に接続された平滑用コンデンサC1を備える。
ここで、特に限定されるものではないが、DC−DCコンバータを構成する回路および素子のうち、スイッチング制御回路20は半導体チップ上に形成して半導体集積回路(電源制御用IC)として構成し、コイルL1とコンデンサC1は、このICに設けられている外部端子に、外付け素子として接続するように構成することができる。なお、駆動用スイッチング素子SW1および整流用スイッチング素子SW2は、外付け素子でもよいし、オンチップの素子としてスイッチング制御回路20内に設けてもよい。本実施形態は、コンデンサC1として、ESRが小さいセラミック・コンデンサなどを使用する場合に適用すると有効である。
【0021】
この実施形態のDC−DCコンバータにおいては、駆動用スイッチング素子SW1と整流用スイッチング素子SW2を相補的にオン、オフさせるような駆動パルスGP1,GP2がスイッチング制御回路20により生成されるようになっており、スイッチング制御回路20には、駆動パルスGP1を受けて駆動パルスGP1のデューティにかかわらず所定の疑似リップル電圧Vrippleを生成する疑似リップル生成回路21が設けられている。
【0022】
第1の実施例では、疑似リップル生成回路21は、駆動パルスGP1を受けて一定のパルス幅を有する固定パルスを生成するワンショットパルス生成回路21Aと、該回路により生成された固定パルスを積分する抵抗と容量とからなるフィルタ回路21Bとによって構成されている。ワンショットパルス生成回路21Aは、例えば、入力信号を所定のパルス幅分だけ遅延する遅延回路と、該遅延回路で遅延した信号と入力信号とを入力とするイクスクルーシブORゲートあるいはRSフリップフロップなどにより構成することができる。なお、該フィルタ回路21Bは、入力されたパルスを積分する積分回路と言い換えることができる。
【0023】
また、本実施形態におけるスイッチング制御回路20は、出力電圧Voutを直列抵抗Rfb1,Rfb2で分圧したフィードバック電圧Vfbと所定の参照電圧Vrefとを入力とするコンパレータ23と、該コンパレータ23の出力に基づいて駆動用スイッチング素子SW1と整流用スイッチング素子SW2をオン、オフさせる制御パルスを生成する制御パルス生成回路などを備えた制御ロジック26と、該制御ロジック26の出力を受けて駆動用スイッチング素子SW1と整流用スイッチング素子SW2をオン、オフさせる駆動パルスGP1,GP2を生成し出力するドライバ回路25a,25bを備える。
【0024】
そして、本実施形態においては、上記コンパレータ23が、2つの差動入力段を有する4入力のコンパレータにより構成されており、上記疑似リップル生成回路21により生成された差動の疑似リップル電圧Vrippleがコンパレータ23に入力されている。制御ロジック26は、リップル制御方式のコンバータで使用されている一般的なアダプティブ・オンタイマ、もしくは固定オン時間タイマや最小オフ時間タイマやフリップフロップなどで構成されており、コンパレータ23の出力に応じて駆動用スイッチング素子SW1と整流用スイッチング素子SW2を相補的にオン、オフさせるような駆動パルスGP1,GP2が生成することができる。
【0025】
この実施形態のDC−DCコンバータにおいては、制御ロジック26によって生成された制御パルスに基づいて駆動パルスGP1,GP2が生成され、該パルスによって駆動用スイッチング素子SW1と整流用スイッチング素子SW2を相補的にオン、オフ駆動され、定常状態では、駆動用スイッチング素子SW1がオンされるとコイルL1に直流入力電圧Vinが印加されて出力端子OUTへ向かう電流が流されて平滑用コンデンサC1が充電される。
【0026】
また、駆動用スイッチング素子SW1がオフされると代わって整流用スイッチング素子SW2がオンされ、このオンされた整流用スイッチング素子SW2を通してコイルL1に電流が流される。そして、駆動用スイッチング素子SW1の制御端子(ゲート端子)に入力される駆動パルスGP1のパルス幅(デューティ)または周波数を、擬似リップル生成回路21により生成された疑似リップル電圧に応じて制御することで、直流入力電圧Vinを降圧した所定電位の直流出力電圧Voutが発生される。
【0027】
次に、本実施形態の擬似リップル生成回路21について詳しく説明する。
第1の実施例における擬似リップル生成回路21を構成するフィルタ回路21Bは、
図1に示されているように、抵抗R11および容量C11からなるローパスフィルタFLT1の後段に、抵抗R12および容量C12からなるローパスフィルタFLT2を接続した構成を有し、ローパスフィルタFLT1とFLT2を通した信号が、差動入力信号としてコンパレータ23に入力されている。
上記ワンショットパルス生成回路21Aの入力は、駆動パルスGP1に限定されず、インダクタL1が接続されるノードN1の電圧VLでもよいし、ドライバ25a,25bの入力信号あるいはその前段の制御ロジック26の入力信号であってもよい。
【0028】
前述した特許文献2のリップル注入回路のように、インダクタが接続されたノードの電位を積分してリップル電圧を生成する方式にあっては、インダクタが接続されたノードの電位は入力電圧が変化するとデューティ比が変化するため、
図8(a),(b),(c)に示すように、生成されるリップル電圧Vrippleの振幅が駆動パルスGP1のデューティ比によって変化してしまう。
これに対し、本実施例のように、擬似リップル生成回路21が、ワンショットパルス生成回路21Aとその出力パルスOSPを積分するフィルタ回路21Bとによって構成されていると、駆動パルスGP1のデューティ比が変化しても、
図2(a),(b),(c)に示すように、生成される疑似リップル電圧Vrippleの振幅がデューティ比にかかわらずほぼ同一になる。それによって、ラインレギュレーションが悪化するのを回避することができる。
【0029】
図3には、本実施形態における擬似リップル生成回路21の第2の実施例を示す。第2の実施例の擬似リップル生成回路21は、
図3に示されているように、ワンショットパルス生成回路21Aと、その出力パルスOSPによってランプ波形(鋸波)の電圧Vrampを生成する波形生成回路21Cとによって構成したものである。
波形生成回路21Cは、例えば抵抗R3と直列に接続された容量C3と、該容量C3と並列に接続され上記ワンショットパルス生成回路21Aの出力パルスOSPによってオン、オフされるディスチャージ用のスイッチS3とから構成されている。この回路は、スイッチS3がオフされている期間は抵抗R3を通して容量C3が充電され、S3がワンショットパルス生成回路21Aの出力パルスによってオンされると容量C3の電荷が放電される。これを繰り返すことで、鋸波状の波形電圧(広義の三角波)Vrampを生成する。抵抗R3は定電流源に置き換えてもよい。
【0030】
第2の実施例の擬似リップル生成回路21においては、
図4(a),(b),(c)に示すように、ワンショットパルス生成回路21Aから出力されるワンショットパルスOSPの周期はスイッチング周期(駆動パルスGP1の周期)と一致しているとともに、波形生成回路21Cから出力される電圧Vrampは、ワンショットパルスOSPのロウレベルの期間だけ徐々に高くなるランプ波形(鋸波)となる。そのため、駆動パルスGP1のデューティ比が変化しても、OSPのパルス幅は同じであるため、生成される疑似リップル電圧としてのランプ波形電圧Vrampの振幅はデューティ比にかかわらず一定となり、ラインレギュレーションが悪化するのを回避することができる。
【0031】
また、
図1に示す第1の実施例の場合、ラインレギュレーションは改善されるが、負荷変動時の応答性に問題がある。すなわち、リップル制御方式のDC−DCコンバータにおいては、入力電圧が変化しなければスイッチング素子のオン時間は固定され、スイッチング周波数によって出力電圧Voutが一定になるように制御される。そして、負荷が変化した場合、スイッチング周波数が変化し、駆動パルスのデューティ比が変化するが、
図1のフィルタ回路21Bで生成されコンパレータ23に供給される疑似リップル電圧Vrippleは、フィルタの1段目と2段目の間に位相遅れが生じるため、負荷過渡応答特性が悪くなってしまう。
【0032】
リップル制御方式のコンバータにおいてリップル成分が必要なのは、コイルL1に電流を流す駆動用スイッチング素子SW1をオンさせるタイミングをコンパレータ23で検出するためであり、必ずしも疑似リップル電圧Vrippleの波形が狭義の三角波である必要はない。したがって、
図3に示す第2の実施例の擬似リップル生成回路21のようなランプ波形(鋸波)Vrampを生成する波形生成回路21Cを使用した場合には、位相遅れの問題は生じないので、負荷過渡応答特性が悪化するのを回避することができる。
【0033】
図5には、前記実施形態におけるスイッチング制御回路20を構成する4入力のコンパレータ23の具体的な回路例が示されている。
この実施例のコンパレータ23は、ソース共通接続されたMOSトランジスタMn1,Mn2を有する第1の差動入力段23aと、ソース共通接続されたMOSトランジスタMn3,Mn4を有する第2の差動入力段23bと、これらの差動入力段に共通のアクティブ負荷トランジスタMp1,Mp2およびMp1で電流−電圧変換された電圧でオン、オフ制御される直列接続のトランジスタMp3,Mn5からなる出力段を有する電流−電圧変換部23cとから構成されている。そして、上記第1の差動入力段23aのMOSトランジスタMn1,Mn2のゲート端子に、参照電圧Vrefと出力側からのフィードバック電圧Vfbが入力される。
【0034】
また、第2の差動入力段23bのMOSトランジスタMn3,Mn4のゲート端子には、擬似リップル生成回路21を構成するフィルタ回路21Bの1段目と2段目のローパスフィルタFLT1とFLT2を通過した差動の信号、または波形生成回路21Cで生成されたランプ波形電圧Vrampと接地電位が入力される。
ここで、本実施形態のコンパレータ23により、出力側からのフィードバック電圧Vfbにリップル成分を付加したのと同等な結果が得られる理由について、式を用いて説明する。
【0035】
先ず、
図5のコンパレータにおける差動入力段23a,23bの部分を電圧−電流変換回路とみなし、変換された差動電流を受ける負荷(Mp1,Mp2)から出力までを電流−電圧変換回路と考える。
すると、電流-電圧変換回路では、入力される差動電流ΔI=Ip−Inが正であれば出力はハイレベルに、また負であれば出力はロウレベルになる。一方、差動入力部の電圧−電流変換回路では、第1の差動入力段23aのゲインをGm1、第2の差動入力段23bのゲインをGm2とすると、出力電流ΔIは次式(1)のように表わされる。
【0036】
【数1】
上記式(1)において、Vin,p1に参照電圧Vrefを代入、Vin,n1に出力のフィードバック電圧Vfbを代入、さらに、Vin,n2−Vin,p2に差動の疑似リップル電圧Vrippleを代入すると、電圧−電流変換部の出力電流ΔIの大きさは、次式(2)のように表わすことができる。
【0037】
【数2】
ここで、コンパレータ23の出力Voutがハイ/ロウに切り替わる(コンパレータが反応する)のは、差動入力部の出力電流ΔIの正負が変わるとき、つまり、式(2)の結果が正となるか負となるかでVoutのレベルが決まる。式(2)より、式(2)の計算を行うことは、フィードバック電圧Vfbに、(Gm2/Gm1)倍された疑似リップル電圧Vrippleを加算した電圧と、参照電圧Vrefとを比較することと等価であることが分かる。
【0038】
また、式(2)より、式内の(Gm2/Gm1)の値が1以下となるように、コンパレータ23を構成する素子の定数を設定することによって、疑似リップル電圧Vrippleを大きくしても同じ結果となることが分かる。そして、疑似リップル電圧Vrippleを大きくできれば、疑似リップル電圧Vrippleに対するノイズ量が相対的に減少されるためS/N比を向上できるという利点がある。
なお、電流-電圧変換回路の部分の構成は実施例のものに限定されるものではなく、例えば
図6に示すように、フォールデッドカスコード段により構成してもよい。また、差動入力段もNMOSトランジスタではなく、PMOSトランジスタでも構成してもよい。
【0039】
次に、本実施形態のリップル注入回路21を使用したスイッチング制御回路20のより具体的な応用例を、
図7を用いて説明する。
図7のスイッチング制御回路20は、入力電圧Vinと出力電圧Voutをフィードフォワードして駆動用スイッチング素子SW1のオン時間を規定するタイマの時間を決定するアダプティブ・オンタイマ22を設け、該タイマ22の出力をRSフリップフロップ24のリセット端子に入力するとともに、セット端子に前記コンパレータ23の出力を入力し、フリップフロップ24の出力Q,/Qをドライバ回路25a,25bに供給して駆動用スイッチング素子SW1と整流用スイッチング素子SW2をオン、オフさせる駆動パルスGP1,GP2を生成し出力するようにしたものである。アダプティブ・オンタイマ22とRSフリップフロップ24とによって
図1の制御ロジック26が構成される。
【0040】
この実施例のアダプティブ・オンタイマ22は、例えば定電流源CS1および該定電流源CS1と直列に接続された容量C2と、該容量C2と並列に接続され例えば上記フリップフロップ24の出力/Qによってオン、オフされるディスチャージ用のスイッチS2と、定電流源CS1と容量C2との接続ノードN2の電位が非反転入力端子に入力され、出力電圧Voutが反転入力端子に入力されたコンパレータCMPなどから構成されている。そして、定電流源CS1は、入力電圧Vinに比例した電流Ic(∝Vin)を流すように構成されている。
【0041】
ここで、
図7のような構成のスイッチング制御回路20を有するDC−DCコンバータの動作を説明する。なお、理解を容易にするため、ここでは、入力電圧Vinが一定で負荷が変化する場合と、負荷が一定で入力電圧Vinが変化する場合とに分けて説明するが、実際にはこれらの変化が同時に起こる場合もあり、その場合には、以下に説明する動作が同時に進行することとなる。
【0042】
まず、入力電圧Vinが一定で負荷が重い状態から軽い状態に変化する場合を考える。この場合、入力電圧Vinが一定であるので、アダプティブ・オンタイマ22の定電流源CS1の電流Icが一定である。そのため、アダプティブ・オンタイマ22の内部ノードN2の電位が出力電圧Voutに達するまでの時間はほとんど変わらない。そして、ノードN2の電位が出力電圧Voutに達した時点で駆動用スイッチング素子SW1がオフされ、負荷が軽いため出力電圧Voutはゆっくりと下がることとなる。そのため、駆動パルスGP1がハイレベルに変化して駆動用スイッチング素子SW1がオンされるタイミングが遅くなる。
【0043】
つまり、負荷が軽くなった場合には、駆動パルスGP1の周期が長くなる。また、駆動パルスGP1の周期が長くなると、デューティ比が小さくなって駆動用スイッチング素子SW1を通してコイルL1に流される電流が減少することなる。そして、その後、負荷が安定すると駆動パルスGP1のデューティ比および周波数が一定に保持される。リップル制御方式では、電圧制御方式や電流制御方式で使用している誤差アンプを用いていないため、上記のような応答が素早く行われる。
【0044】
一方、入力電圧Vinが一定で負荷が軽い状態から重い状態に変化する場合は、上記とは逆に出力電圧Voutが比較的速く下がるようになるため、駆動パルスGP1がハイレベルに変化して駆動用スイッチング素子SW1がオンされるタイミングが早くなる。つまり、負荷が重くなった場合には、駆動パルスGP1の周期が短くなる。また、駆動パルスGP1の周期が短くなると、デューティ比が大きくなって駆動用スイッチング素子SW1を通してコイルL1に流される電流が増加することなる。そして、その後、負荷が安定すると周波数が一定に保持される。
【0045】
次に、負荷が一定で入力電圧Vinが低い場合と高い場合におけるアダプティブ・オンタイマ22の動作について説明する。
Vinが低い場合、駆動用スイッチング素子SW1がオンされている期間に入力端子INからコイルL1に流れ込む電流が少なく、出力電圧の上昇速度は遅くなる。しかし、入力電圧Vinが低いと、アダプティブ・オンタイマ22の定電流源CS1の電流Icが少ないため、タイマ回路内部のノードN2の電位がVoutに到達するまでの時間が長くなり、フリップフロップ24の出力がロウレベルに立ち下がるタイミングが後ろにずれる。その結果、駆動用スイッチング素子SW1がオンされている時間が長いことになる。
【0046】
また、入力電圧Vinが高い場合には、入力端子INからコイルL1により多くの電流が流れ、出力電圧の上昇速度は速くなる。しかし、アダプティブ・オンタイマ22の定電流源CS1の電流Icが多くなるため、タイマ回路内部のノードN2の電位がVoutに到達するまでの時間が短くなり、フリップフロップ24の出力がロウレベルに立ち下がるタイミングが前にずれる。つまり、駆動用スイッチング素子SW1がオンされている時間が短いことになる。
【0047】
従って、アダプティブ・オンタイマ22においては、電流と時間の積が入力電圧Vinの大小にかわらずほぼ一定となるように制御される。一方、負荷が変化しなければ、コンパレータ23の出力が変化するタイミングつまり駆動用スイッチング素子SW1がオンされるタイミングは変化しない。その結果、負荷が一定で入力電圧Vinが変わると、駆動用スイッチング素子SW1の駆動パルスのデューティ比が変化してスイッチング周波数は一定に維持されることとなる。
【0048】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、第2の実施例(
図3)の擬似リップル生成回路21を構成する波形生成回路21Cは、抵抗R3と直列に接続された容量C3と、該容量C3と並列に接続されたスイッチS3とを備えランプ波形電圧(広義の三角波)を生成するように構成されているが、
図3の抵抗R3と直列に第2のスイッチを設けるとともに、抵抗R3と直列に第2の抵抗もしくは定電流源を設け、2つのスイッチを相補的にオン、オフさせて狭義の三角波を生成するように構成してもよい。
【0049】
また、前記実施形態では、コイルL1の始端と接地点との間に接続されるロウ側の整流用素子としてMOSトランジスタなどからなる整流用スイッチング素子SW2を使用しているが、整流用スイッチング素子SW2の代わりにダイオードを使用するDC−DCコンバータも可能であり、その場合にも本発明を適用することができる。