特許第5768689号(P5768689)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5768689
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】乗用管理機
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20150806BHJP
   A01M 7/00 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   A01B69/00 302
   A01M7/00 J
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-263710(P2011-263710)
(22)【出願日】2011年12月1日
(65)【公開番号】特開2013-116049(P2013-116049A)
(43)【公開日】2013年6月13日
【審査請求日】2014年4月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】矢野 典弘
(72)【発明者】
【氏名】上島 徳弘
(72)【発明者】
【氏名】永井 隆
【審査官】 中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3637620(JP,B2)
【文献】 特開平10−016808(JP,A)
【文献】 特許第3931695(JP,B2)
【文献】 特開2001−321704(JP,A)
【文献】 特開2003−158980(JP,A)
【文献】 特開2009−000080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
A01M 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車両の左右方向にそれぞれ略水平に延びた姿勢で薬液を散布するブームと、ブームを水平姿勢に制御する手段と、ブームの収納時にブームを受けるブーム受けと、車速を検出する車速センサを備えた乗用管理機において、
ブームを散布姿勢で薬液を散布しながら走行した走行車両が枕地で旋回して走行する第一旋回区間と、第一旋回区間から走行車両の向きを直進側向きに変更して走行する枕地直進区間と、枕地直進区間から第一旋回区間と同じ方向に旋回して走行する第二旋回区間を通過すべく、ステアリングハンドルを操作することにより、散布済圃場から隣接する未散布圃場へ移動するものであって、
ステアリングハンドルの切り角度を検出するステアリングハンドル操作検出センサ、又は、走行車輪の切れ角度を検出する走行車輪切れ角度センサを設け、
ブームの自動昇降制御スイッチと、薬液を散布状態にするポンプスイッチがいずれもONである場合に、設定角度以上のステアリングハンドルの切り角度の検出又は、設定角度以上の走行車輪の切れ角を検出すると、第一旋回区間の旋回動作であることを認識し、旋回内側のブームを散布姿勢に保ちながら旋回外側のブームを略水平の散布姿勢から設定角度上昇させる制御を行い、
第一旋回区間の旋回動作から、ステアリングハンドルの切り角度が直進状態を検出又は、走行車輪の切れ角度が走行車両の直進側向きを検出すると、枕地直進区間であることを認識し、旋回内側のブームを散布姿勢に保ちながら旋回外側のブームを略水平の散布姿勢から設定角度上昇させた姿勢に保つ制御を行い、
枕地直進区間から、第一旋回区間と同じ方向の設定角度以上のステアリングハンドルの切り角度の検出又は、設定角度以上の走行車輪の切れ角を検出すると、第二旋回区間であることを認識し、旋回内側のブームを散布姿勢に保ちながら旋回外側のブームを散布位置まで下降する制御を行うと共に、前記第一旋回区間と枕地直進区間と第二旋回区間における旋回内側のブームを水平姿勢になるよう制御する構成とし、車速センサが設定以上の車速を検出時には、前記旋回外側のブームを略水平の散布姿勢から設定角度上昇させる制御を規制する制御部を備えたことを特徴とする乗用管理機。
【請求項2】
走行車両の左右方向にそれぞれ略水平に延びた姿勢で薬液を散布するブームと、ブームを水平姿勢に制御する手段と、ブームの収納時にブームを受けるブーム受けと、車速を検出する車速センサを備えた乗用管理機において、
ブームを散布姿勢で薬液を散布しながら走行した走行車両が枕地で旋回して走行する第一旋回区間と、第一旋回区間から走行車両の向きを直進側向きに変更して走行する枕地直進区間と、枕地直進区間から第一旋回区間と同じ方向に旋回して走行する第二旋回区間を通過すべく、ステアリングハンドルを操作することにより、散布済圃場から隣接する未散布圃場へ移動するものであって、
ステアリングハンドルの切り角度を検出するステアリングハンドル操作検出センサ、又は、走行車輪の切れ角度を検出する走行車輪切れ角度センサを設け、
ブームの自動昇降制御スイッチと、薬液を散布状態にするポンプスイッチがいずれもONである場合に、
設定角度以上のステアリングハンドルの切り角度の検出又は、設定角度以上の走行車輪の切れ角を検出すると、第一旋回区間の旋回動作であることを認識し、旋回内側のブームを散布姿勢に保ちながら旋回外側のブームを略水平の散布姿勢から設定角度上昇させる制御を行い、
第一旋回区間の旋回動作から、ステアリングハンドルの切り角度が直進状態を検出又は、走行車輪の切れ角度が走行車両の直進側向きを検出すると、枕地直進区間であることを認識し、旋回内側のブームを散布姿勢に保ちながら旋回外側のブームを略水平の散布姿勢から設定角度上昇させた姿勢に保つ制御を行い、
枕地直進区間から、第一旋回区間と同じ方向の設定角度以上のステアリングハンドルの切り角度の検出又は、設定角度以上の走行車輪の切れ角を検出すると、第二旋回区間であることを認識し、旋回内側のブームを散布姿勢に保ちながら旋回外側のブームを散布位置まで下降する制御を行うと共に、
前記第一旋回区間と枕地直進区間と第二旋回区間における旋回内側のブームを水平姿勢になるよう制御する構成とし、
ブームがブーム受けに収納されていることをブーム受け検出センサが検出時には、前記旋回外側のブームを略水平の散布姿勢から設定角度上昇させる制御を規制する制御部を備えたことを特徴とする乗用管理機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場に薬液を散布する乗用管理機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、乗用管理機の旋回制御について記載されている。特許文献1によると、薬液を散布済みの圃場から枕地でステアリングハンドルを設定角度以上切を操作すると、旋回開始時に旋回内側のブームの姿勢が散布姿勢を保ったまま、旋回外側のブームを上昇させ、ステアリングハンドルを設定角度以上切状態を維持したまま走行車両1を旋回させ、旋回終了時にブームが下降する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3637620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、走行車両を単に旋回させるだけなので、走行車両の左右幅よりはるかに長いブームにより、旋回内側のブームが散布済み領域に入り込み、重複して薬液を散布する不具合が生じる。
【0005】
本発明は、乗用管理機に適した旋回を行うことで、上記不具合を解消することを課題とする。また、旋回時の動作を円滑に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる技術的課題を解決するために次のような技術的手段を講じる。
【0007】
請求項1記載の発明は、
走行車両の左右方向にそれぞれ略水平に延びた姿勢で薬液を散布するブームと、ブームを水平姿勢に制御する手段と、ブームの収納時にブームを受けるブーム受けと、車速を検出する車速センサを備えた乗用管理機において、
ブームを散布姿勢で薬液を散布しながら走行した走行車両が枕地で旋回して走行する第一旋回区間と、第一旋回区間から走行車両の向きを直進側向きに変更して走行する枕地直進区間と、枕地直進区間から第一旋回区間と同じ方向に旋回して走行する第二旋回区間を通過すべく、ステアリングハンドルを操作することにより、散布済圃場から隣接する未散布圃場へ移動するものであって、
ステアリングハンドルの切り角度を検出するステアリングハンドル操作検出センサ、又は、走行車輪の切れ角度を検出する走行車輪切れ角度センサを設け、
ブームの自動昇降制御スイッチと、薬液を散布状態にするポンプスイッチがいずれもONである場合に、設定角度以上のステアリングハンドルの切り角度の検出又は、設定角度以上の走行車輪の切れ角を検出すると、第一旋回区間の旋回動作であることを認識し、旋回内側のブームを散布姿勢に保ちながら旋回外側のブームを略水平の散布姿勢から設定角度上昇させる制御を行い、
第一旋回区間の旋回動作から、ステアリングハンドルの切り角度が直進状態を検出又は、走行車輪の切れ角度が走行車両の直進側向きを検出すると、枕地直進区間であることを認識し、旋回内側のブームを散布姿勢に保ちながら旋回外側のブームを略水平の散布姿勢から設定角度上昇させた姿勢に保つ制御を行い、
枕地直進区間から、第一旋回区間と同じ方向の設定角度以上のステアリングハンドルの切り角度の検出又は、設定角度以上の走行車輪の切れ角を検出すると、第二旋回区間であることを認識し、旋回内側のブームを散布姿勢に保ちながら旋回外側のブームを散布位置まで下降する制御を行うと共に、前記第一旋回区間と枕地直進区間と第二旋回区間における旋回内側のブームを水平姿勢になるよう制御する構成とし、車速センサが設定以上の車速を検出時には、前記旋回外側のブームを略水平の散布姿勢から設定角度上昇させる制御を規制する制御部を備えたことを特徴とする乗用管理機とする。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、
走行車両の左右方向にそれぞれ略水平に延びた姿勢で薬液を散布するブームと、ブームを水平姿勢に制御する手段と、ブームの収納時にブームを受けるブーム受けと、車速を検出する車速センサを備えた乗用管理機において、
ブームを散布姿勢で薬液を散布しながら走行した走行車両が枕地で旋回して走行する第一旋回区間と、第一旋回区間から走行車両の向きを直進側向きに変更して走行する枕地直進区間と、枕地直進区間から第一旋回区間と同じ方向に旋回して走行する第二旋回区間を通過すべく、ステアリングハンドルを操作することにより、散布済圃場から隣接する未散布圃場へ移動するものであって、
ステアリングハンドルの切り角度を検出するステアリングハンドル操作検出センサ、又は、走行車輪の切れ角度を検出する走行車輪切れ角度センサを設け、
ブームの自動昇降制御スイッチと、薬液を散布状態にするポンプスイッチがいずれもONである場合に、
設定角度以上のステアリングハンドルの切り角度の検出又は、設定角度以上の走行車輪の切れ角を検出すると、第一旋回区間の旋回動作であることを認識し、旋回内側のブームを散布姿勢に保ちながら旋回外側のブームを略水平の散布姿勢から設定角度上昇させる制御を行い、
第一旋回区間の旋回動作から、ステアリングハンドルの切り角度が直進状態を検出又は、走行車輪の切れ角度が走行車両の直進側向きを検出すると、枕地直進区間であることを認識し、旋回内側のブームを散布姿勢に保ちながら旋回外側のブームを略水平の散布姿勢から設定角度上昇させた姿勢に保つ制御を行い、
枕地直進区間から、第一旋回区間と同じ方向の設定角度以上のステアリングハンドルの切り角度の検出又は、設定角度以上の走行車輪の切れ角を検出すると、第二旋回区間であることを認識し、旋回内側のブームを散布姿勢に保ちながら旋回外側のブームを散布位置まで下降する制御を行うと共に、
前記第一旋回区間と枕地直進区間と第二旋回区間における旋回内側のブームを水平姿勢になるよう制御する構成とし、
ブームがブーム受けに収納されていることをブーム受け検出センサが検出時には、前記旋回外側のブームを略水平の散布姿勢から設定角度上昇させる制御を規制する制御部を備えたことを特徴とする乗用管理機とする。
【0009】
【0010】
【0011】
【発明の効果】
【0012】
本発明により、重複して圃場に薬液を散布することを防止することができる。また、畦畔にブームが接触してブームが破損することを防止できる。
また、枕地Mにおいては圃場面Gに凹凸が多く、走行車両の左右姿勢が乱れ、旋回内側のブームの先端の対地面高さ位置が振動により低くなりすぎ作物に当接する不具合を防止することができる。
また、散布した圃場から別の未散布の圃場へ移動するときに、自動昇降スイッチがONでかつポンプスイッチをONの状態にしたままで噴霧コックを切にして移動する場合がある。そのため、設定車速以上の場合には、散布状態ではないと判断してブームの昇降制御を規制することで、旋回時に不意にブームが上昇することによる不具合を防止することができる。
また、ブームがブーム受けに収納されていることをブーム受け検出センサが検出時、例えば、倉庫内に搬入時の旋回操作により、不意に上昇することによる倉庫の壁面や倉庫内の他の載置物にブームが衝突して破損する等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】乗用管理機の側面図
図2】乗用管理機の平面図
図3】正面から見た乗用管理機の薬液散布を示す図
図4】乗用管理機の薬液散布機構図
図5】フローチャート
図6】乗用管理機の旋回動作を示す図
図7】乗用管理機の旋回時のブームの動作を示す図
図8】乗用管理機の操作盤11を示す斜視図
図9】正面から見た乗用管理機のブームの水平制御動作を示す図
図10】平面から見た薬液タンク2及びブーム受けを示す図
図11】背面から見た薬液タンク2及びブーム受けを示す図
図12】正面から見たブームを縮小させていることを示す図
図13】正面から見たブームを拡張させていることを示す図
図14】制御部を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態の乗用管理機について以下説明する。この実施例においては走行車両1の進行方向を前側と呼び、正面から見て左右と呼ぶ。
【0015】
本実施の形態の乗用管理機は、走行車両1に薬液を貯留する薬液タンク2と薬液を散布するブーム3を搭載している。
【0016】
走行車両1は前輪4aと後輪4bからなる走行車輪4を機体フレーム5に取り付け、前部にエンジン6を搭載してボンネット7で覆っている。ボンネット7の後方にはステップ8及びステアリングハンドル9を設け、ステアリングハンドル9の後方には運転座席10を設けている。運転座席10の後方には薬液タンク2を搭載し、運転座席10の左右一側には操作盤11を設け、運転座席10の正面側にはメータパネル12を設けている。操作盤11の内部には各種制御を行う制御部13を内蔵している。
【0017】
走行車両1の左右両側にはそれぞれ左ブーム3aと右ブーム3bを設け、走行車両1の前側には中央ブーム3cを設けている。左ブーム3aと右ブーム3bは図3に示すようにそれぞれ走行車両1の左右両側に広げて薬液を散布する薬液散布姿勢と、図1図2に示すように薬液タンク2の後方に備えるブーム受け14に後ろ上がり傾斜姿勢で収納する路上走行姿勢とに変更できる構成である。ブーム3の動作は、左ブーム3a及び右ブーム3bのブームの上下方向の姿勢を変更するための第一シリンダ15と、ブーム3の左右方向の姿勢を変更する第二シリンダ16とを散布姿勢のブーム3を水平姿勢に維持するための第二シリンダ17と、散布姿勢のブームの左右長さを伸縮調節する伸縮モータ(図示せず)とで行う。
【0018】
薬液散布機構及び動力機構について図4に基づいて説明する。
【0019】
薬液タンク2の薬液をブーム3に供給するホース18を設け、ホース18の途中には薬液を繰り出す防除ポンプ19や、流量を調節する流量調節弁20や、左ブーム3a,右ブーム3b,中央ブーム3cそれぞれに薬液を供給するか否かを選択する手動の噴霧コック21(左ブーム用噴霧コック21a,右ブーム用噴霧コック21b,中央ブーム用噴霧コック21cを設けている。エンジン6の動力は入力軸22からミッション機構23を経て走行系出力軸24と、防除ポンプ用出力軸25に出力される。
【0020】
操作盤11について図8に基づいて説明する。
【0021】
操作盤11は薬液の散布及びブーム3の動作用の操作具を備えている。ブーム3の左右方向動作及び上下方向動作を操作するブーム用動作レバー26(左ブーム用動作レバー26a及び右ブーム用動作レバー26b)を設ける。また、左ブームの収納姿勢と散布姿勢を切り換える左ブーム用姿勢変更レバー27a、同様に右ブーム用姿勢変更レバー27b、左ブーム及び右ブームを共に姿勢を切り換えるブーム姿勢変更レバー27cを設ける。
【0022】
また、薬液をブーム3から散布するか停止するかを操作する噴霧コック21(左ブーム用噴霧コック21aと中央ブーム用噴霧コック21cと右ブーム用噴霧コック21b)を設ける。また、散布量を表示する表示計28と散布量の増減を設定する散布量設定スイッチ29を設ける。また、防除ポンプ19をON・OFFするポンプスイッチ30と、詳細は後述するが、散布作業中の走行車両1が旋回動作を行うときに自動に旋回外側のブーム3(本実施の形態では左ブーム3a)を昇降動作する制御を行う自動昇降制御スイッチ31と、走行車両1の左右姿勢が傾いてもブーム3を水平姿勢に維持する制御を行う自動水平制御スイッチ32を設けている。
【0023】
図5から図7に基づいて本実施の形態の乗用管理機の基本的な走行及び散布動作について説明する。
【0024】
オペレータは運転座席10に着座して、エンジン6を始動して走行を開始する。圃場に入ってブーム姿勢変更レバー27cを操作すると、走行姿勢の左右のブームが走行車両1の左右両側に広がり、散布姿勢となる。自動昇降制御スイッチ31をONにし、自動水平制御スイッチ32をOFFの状態とし、ブーム3の噴霧コック21を開に操作して、ポンプスイッチ30をONにして直進走行を開始すると、図3に示すように左ブーム3a及び中央ブーム3c及び右ブーム3bそれぞれに多数設けるノズル33から薬液が散布される。
【0025】
畦畔に近づき、いわゆる枕地Mの領域で、オペレータが旋回動作をすべくステアリングハンドル9を設定角度以上切ると、旋回内側のブーム3(本実施の形態では3b)が散布姿勢を保ちつつ旋回外側のブーム3(3a)が上昇を開始する(第一旋回区間S1)。略90度の旋回動作を行い、オペレータがステアリングハンドル9を直進状態になるまで戻すと、走行車両1は旋回外側のブーム3(3a)が上昇姿勢のままで直進方向に走行する(枕地直進区間S2)。そして、直進走行から隣接する次の散布領域に入るタイミングでオペレータが再度同じ方向にステアリングハンドル9を設定角度以上切ると、上昇していた旋回外側のブーム3(3a)が下降して散布姿勢となる(第二旋回区間S3)。そして、走行車両1は直進方向に走行する姿勢となり次の散布領域に向かって散布しながらの走行を開始する。第一旋回区間S1から枕地直進区間S2を経て第二旋回区間S3を走行中は、自動水平制御スイッチ32をOFFにしていても旋回内側のブーム3(3b)の自動水平制御を行う。
【0026】
本実施の形態では、ブーム3による散布及び停止はオペレータが噴霧コック21を手動で行うように構成しているが、旋回動作を認識すると自動的に旋回外側のブーム(3a)の散布を停止する構成としても良い。
【0027】
制御部13は旋回開始時のステアリングハンドル9の設定角度以上の切り操作情報を読み込むと旋回外側のブーム3(3a)を上昇させると共に、当該ステアリングハンドル9の切り操作情報を記憶しておき、2回目の同じ方向への設定角度以上のステアリングハンドル9の切り操作情報を読み込むと、旋回外側のブーム3(3a)の下降を開始する。当該2回目のステアリングハンドル9の切り操作情報を得るまでは、条合わせ等のための一時的な後進操作情報や、設定角度以下のステアリング切り操作情報を読み込んでも旋回外側のブーム3(3a)を上昇した姿勢を維持する。
【0028】
旋回動作の判定は、前述の通りステアリングハンドル9の切り角度を検出するステアリングハンドル操作検出センサ41の検出結果に基づくものでも良いし、走行車輪の切れ角度を検出する走行車輪切れ角度検出センサ42の検出結果に基づくものでも良い。
【0029】
旋回時に旋回外側のブーム3(3a)の上昇をどこまで上昇させるかは、いくつかの方法が考えられる。まず、上昇を開始してから設定時間(例えば10秒)上昇させる構成にしても良いし、設定角度まで検出したことを検出するブーム上昇角度検出センサ(図示せず)の検出結果に基づくものでも良い。
【0030】
前述の旋回時におけるブームの自動昇降制御は、自動昇降制御スイッチ31がONで、かつポンプスイッチ30もONの時に制御動作をする構成としている。
【0031】
また、旋回時には通常、オペレータはポンプスイッチ30をONの状態のままで、旋回外側のブーム3(3a)の噴霧コック21(21a)を閉状態に操作することで、第一旋回区間S1から枕地直進区間S2を経て第二旋回区間S3に至るまで、旋回内側のブーム3(3b)と中央ブーム3cは薬液の散布は継続している。そして隣接する未散布の圃場で散布を開始するときにオペレータは旋回外側のブーム3(3a)の噴霧コック21(21a)を開く操作を行うことで、全てのブーム3から薬液散布が再開される。
【0032】
本実施の形態の乗用管理機の旋回動作の特徴を説明する。
【0033】
トラクタや田植機の旋回動作は、通常、旋回開始から旋回終了までステアリングハンドル9を切り続けて一度に180度の旋回をする。これに対し、本実施の形態の乗用管理機の旋回動作では、ステアリングハンドル9を切って旋回動作を開始し、第一旋回区間S1で略90度の旋回を行うと、一旦、ステアリングハンドル9を直進位置まで戻し、枕地直進区間S2を走行してから再度、ステアリングハンドル9を切って略90度旋回する第二旋回区間S3を経ると隣接する未散布領域に向かう姿勢となるところに大きな差異がある。すなわち、180度旋回をするまでに2回の旋回動作(操作)を行う。
【0034】
すなわち、乗用管理機においては、散布姿勢時のブーム3が左右に走行車両1の幅よりはるかに長く、単に旋回しただけでは旋回内側のブーム3(3b)が散布済の領域に入り込んで、重複して薬液を作物に散布してしまうためである。本実施の形態にように旋回時に枕地直進区間S2を設けることで、図6に示すように、旋回内側のブーム3(3b)が散布済の圃場と重複しないで散布することが可能となる。
【0035】
また、自動水平制御スイッチ32をOFFの状態においても、自動昇降制御スイッチ31がONの場合で、かつ薬液散布中に旋回動作を開始すると旋回内側のブーム3(3b)の水平制御を行うようにしている。
【0036】
図9は水平制御の状態を説明する図であり、圃場面Gの凹凸に走行車輪4が当接して走行車両体が傾いているときにブーム3を水平姿勢に維持する状態を説明している。通常、直進して薬液を散布する領域は圃場面が均平な状態に耕耘されていることが多く、ブーム3の自動水平制御をONにすると、かえって、ブーム3のハンチングによる散布姿勢に乱れが起こる等の不具合が起こる場合がある。一方、枕地Mにおいては圃場面Gに凹凸が多く、走行車両1の左右姿勢が乱れやすい。特に旋回内側のブーム3(3b)の先端の対地面高さ位置が振動により低くなりすぎ作物に当接する等の不具合が起こる場合がある。本実施の形態では直進して薬液を散布する時にはブーム3の自動水平制御をOFFにしても、旋回時に、旋回内側のブーム3(3b)の自動水平制御を行うことで、上記不具合が起こることを防止し、スムーズな散布及び旋回を行うことができる。
【0037】
次に、旋回時におけるブーム3の自動昇降制御を規制する条件について以下列挙する。
【0038】
第一には、自動昇降制御スイッチ31がOFF状態の場合である。このときにはオペレータは、枕地Mでの旋回時に、ブーム3を上昇させる必要があるときにはブーム用動作レバー26(26a)を操作して旋回外側のブーム3(3a)を上昇させる。
【0039】
第二には、走行中にポンプスイッチ30がOFFになっている場合である。この場合には、制御部13は薬液を散布していない単なる走行と判断し、オペレータが旋回操作を行っても旋回外側のブーム3(3a)は上昇しない。この構成によると、予期しないでブーム3が上昇することによる不具合を防止することができる。また、この場合には、流量検出センサ36が薬液の流量が流れていないことを検出すると同様に昇降制御しない構成でも良い。
【0040】
第三には、ブーム3がブーム受け14に収納されていることをブーム受け検出センサ14aが検出すると、制御部13は薬液を散布していない単なる走行と判断し、オペレータが旋回操作を行っても旋回外側のブーム3(3a)は上昇しない。
【0041】
この構成によると、倉庫内に搬入時の旋回操作により、不意に上昇することによる倉庫の壁面や倉庫内の他の載置物にブーム3が衝突して破損等を防止することができる。
【0042】
なお、前述の第二の場合と、第三の場合について、自動昇降制御スイッチ31がONの状態であっても昇降制御しない構成とすることで、自動昇降制御スイッチ31の切り忘れ時に不意にブーム3が昇降動作をすることを防止することができる。
【0043】
第四として、自動昇降スイッチがONで、ポンプスイッチ30もONの場合において、旋回時に設定車速以上を車速センサ43で検出すると旋回外側のブーム3(3a)の昇降制御を規制するように制御しても良い。というのも、散布した圃場から別の未散布の圃場へ移動するときに、自動昇降スイッチがONでかつポンプスイッチ30をONの状態にしたままで噴霧コック21を切にして移動する場合がある。そのため、設定車速以上の場合には、散布状態ではないと判断してブーム3の昇降制御を規制することで、旋回時に不意にブーム3が上昇することによる不具合を防止することができる。この場合に、走行レバー44で作業速と走行速を切換操作できる構成の場合には、走行レバー44を走行速に操作すると、ブーム3の自動昇降制御を行わない構成にしても良い。
【0044】
次に、ブーム3の点検モードについて説明する。
【0045】
この点検モードは、前述の旋回時の自動昇降制御や、旋回時の水平制御が動作できるかを確認するためのモードで、薬液を散布しない状態でこれら制御を行えることを特徴としている。点検モードにするには操作盤11の点検スイッチ37をONにする。そして、自動昇降制御スイッチ31をONにして走行すると、ポンプスイッチ30をOFFにして薬液を散布しない状態で直進走行から旋回操作を行うと、前述の自動昇降制御及び水平制御がなされる。
【0046】
これにより、薬液を散布することなく、旋回時の自動昇降制御及び自動水平制御の動作確認を行うことができる。
【符号の説明】
【0047】
1 走行車両
3 ブーム
3a 左ブーム
3b 右ブーム
9 ステアリングハンドル
13 制御部
31 自動昇降制御スイッチ
32 自動水平制御スイッチ
41 ステアリングハンドル操作検出センサ
42 走行車輪切れ角度検出センサ
M 枕地
S1 第一旋回区間
S2 枕地直進区間
S3 第二旋回区間
図1
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