(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項2において、前記溶媒分離工程の前記蒸留塔が2塔形式であり、前記混合蒸気を上流側の蒸留塔の加熱装置の熱源として用いることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
請求項2において、前記溶媒分離工程の前記蒸留塔が1塔形式であり、前記混合蒸気を該蒸留塔の塔底部以外の加熱装置の熱源として用いることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記抽出工程から前記溶媒分離工程に送給される前記アクリル酸抽出溶媒溶液のアクリル酸濃度が35重量%以下であり、前記第1の溶媒分離過程において分離される塔頂留出物のアクリル酸濃度が1重量%以下であることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記抽残水循環工程において、前記抽出工程で得られる抽残水の50重量%以上を蒸発させることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸を製造する方法としては、例えば、次の(1)〜(5)の工程を経る方法が知られている。
(1) 炭素数3(C3)の炭化水素であるプロピレン、あるいはプロパンと分子状酸素とを触媒存在下で気相酸化反応させて、アクリル酸を含有する反応ガスを生成させる酸化反応工程
(2) 得られたアクリル酸含有ガスを水と接触させてアクリル酸を吸収させることによりアクリル酸水溶液を得る吸収工程
(3) 得られたアクリル酸水溶液から抽出溶媒を用いてアクリル酸を抽出する抽出工程
(4) 抽出工程で得られたアクリル酸抽出溶媒溶液から溶媒を蒸留分離して粗アクリル酸を得る溶媒分離工程
(5) 粗アクリル酸を蒸留して製品アクリル酸を得る精製工程
【0003】
なお、アクリル酸水溶液からアクリル酸を分離する方法としては、上記の溶媒による抽出の他、共沸脱水蒸留が用いられる場合もあるが、共沸脱水蒸留では、水の存在下に高温条件になると、アクリル酸が重合しやすくなるため、このような状態を回避することができる点において、溶媒抽出法、中でも水の溶解度が低い低極性溶媒を抽出に用いる方法は共沸脱水蒸留法に比べて有利である。
【0004】
溶媒抽出法を採用するものとしては、例えば特公昭45−024323号公報、特開2009−242285号公報が提案されている。低極性溶媒を用いる溶媒抽出法では、アクリル酸は、溶媒相に移動し、マレイン酸等のより高い親水性を有する不純物が抽残水中に多く残留してアクリル酸から分離されるという利点もある。
【0005】
この抽残水は吸収工程に循環され、吸収水として再利用される。このように、系内の水を循環再利用してプラントから排出される廃水量を低減することは、経済性や環境への影響等を考慮すると重要な課題であるが、抽残水を吸収工程へ循環させることを繰り返すと、循環水中に不純物が濃縮され、製品品質の悪化、機器の汚れとそれに伴う運転上の不具合などを招く。
【0006】
抽残水を蒸留塔で蒸発させた後、吸収工程に循環させると、この循環水には、マレイン酸やアクリル酸二量体等の沸点の高い不純物(重質分)は含まれず、ギ酸や酢酸等の沸点の低い不純物(軽質分)は含まれるものの、これらの軽質分は、吸収工程で排ガスと共に飛散するので、製品品質への影響を及ぼすことなく、水を循環することが可能となる。
しかし、抽残水を蒸発させるには、多くの熱量が必要となる。
【0007】
抽残水の蒸発に伴う熱損失を低減する方法としては、蒸留塔の塔頂ガスを異なる蒸留塔のリボイラ(加熱装置)に熱源として用いることが考えられるが、この場合には、供給元となる蒸留塔の塔頂温度は、供給先の蒸留塔の塔底温度より高いことが必要であり、供給元の蒸留塔は高温高圧下で運転される必要が生じる。しかし、アクリル酸は非常に重合し易い物質であるため、アクリル酸の蒸留は減圧下、100℃未満で行われるのが通常であり、高温の塔頂留出ガスを得ることは困難である。
【0008】
なお、抽出工程から得られるアクリル酸抽出溶媒溶液から抽出溶媒を蒸留分離する方法としては、例えば特開2009−263349号公報に提案がなされているが、従来において、抽残水の蒸発工程からの熱回収については検討されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、アクリル酸水溶液から抽出によりアクリル酸を分離するアクリル酸の製造方法において、抽残水を循環させるに際し、水溶性不純物の系内濃縮を防止すると共に、抽残水の精製のための熱エネルギーを有効利用して熱損失を低減するアクリル酸の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく以下のような検討を行った。
【0012】
(1) 抽残水を蒸留するための熱源を、アクリル酸製造プラント内の他の蒸留塔の塔頂ガスに求めようとしても、該ガス温度は抽残水蒸留の熱源とするには低く、また、該ガス温度を高めるために発生元の蒸留温度を高めることは、重合物の発生による運転阻害を助長するため、採用できない。圧縮機による該ガスの昇温昇圧は、所要機器の負担が大きくなり過ぎて現実的でない。
【0013】
(2) 抽残水蒸留塔の塔頂ガスをアクリル酸抽出溶媒溶液の蒸留塔の熱源とするためにも、圧縮機による該ガスの昇温昇圧が必要である。また、抽出塔において溶媒により大半のアクリル酸は抽出されているので、抽残水中のアクリル酸濃度は高々2,3重量%と低く、よって抽残水蒸留塔の塔頂ガスによる重合閉塞の危険性は低くなるが、ギ酸や酢酸が熱水と共存しているという、高い腐食性環境下にあるため、大型の回転機器である事に伴う機械的強度に加え、耐食性も要求されるものとなり、所要機器の負担は相応に大きくなってしまう。また、抽残水の量が変化した場合への応答性や、抽出塔の運転不良に伴う高濃度アクリル酸水溶液の流入時のリスクなど、安定運転に障害となる事項もある。
【0014】
(3) 抽残水蒸留塔の塔頂ガスを異なる蒸留塔の熱源とする場合も、その温度の低さが問題となる。抽残水蒸留塔の運転圧力が常圧ならば、塔頂ガスの温度は約100℃であり、熱源として用いるには低い。抽残水蒸留塔を加圧下で運転することで、該ガスの温度を上昇させることは可能であるが、該蒸留塔全体を加圧条件に対応した仕様とする必要があり、所要機器の負担が増大する。また、塔全体の温度が上昇するため、抽出塔の運転条件が変動して流入するアクリル酸濃度が上昇した場合の重合リスクも増大する。
【0015】
(4) アクリル酸の抽出溶媒とアクリル酸とを分離する溶媒分離工程を、2段階でアクリル酸抽出溶媒溶液中の溶媒濃度を低減する仕様とすることで、一段階目で必要となる熱源の温度を低くすることができ、100℃程度の抽残水蒸留塔の塔頂ガスを熱源とすることが可能となる。しかし、抽残水蒸留塔の蒸気は常圧の飽和蒸気であるため、溶媒分離のための蒸留塔のリボイラ(加熱装置)の熱交換器に供給するための加圧力が存在しない。熱交換器内で水に凝縮することにより体積が収縮し、これに伴い熱交換器内に負圧が生じ、負圧が更なる蒸気を熱交換器内に吸引する、という循環が定常状態では成立するが、該負圧にのみ依存した運転では、温度や圧力、流量などの運転条件変更や変動に対する安定性を欠くこととなる。通常、プロセスの熱源として用いられる(用役)水蒸気は精製した水が用いられるが、抽残水は様々な不純物を含有したプロセス流体であり、熱交換器の凝縮面が経時的に汚れていくことで、内部負圧に変化が生じるであろうことも容易に推察される。この場合に、抽残水塔頂ガスを強制的に熱交換器に押し込む手段が無いのは、安定運転の点から問題である。
【0016】
上記(1)〜(4)の事項に鑑み、本発明者は更に検討を重ね、抽残水蒸留塔の塔頂ガス配管先にエゼクタを設置し、加圧蒸気を駆動力として該塔頂ガスを昇圧することで、熱交換器に安定的に連続供給が可能となること、アクリル酸抽出溶媒溶液を抽出溶媒とアクリル酸とに分離する溶媒分離工程を、2段階でアクリル酸抽出溶媒溶液中の溶媒濃度を低減する仕様とすると、一段目で必要となる熱源の温度を低くすることができるので、100℃程度の抽残水蒸留塔の塔頂ガスを上記のように昇圧して熱源として有効利用できること、との知見を得た。
【0017】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0018】
[1] 炭素数3の炭化水素を気相接触酸化反応処理してアクリル酸含有反応生成ガスを得る酸化反応工程と、該アクリル酸含有反応生成ガスを吸収水と接触させてアクリル酸水溶液を得る吸収工程と、該アクリル酸水溶液を抽出溶媒と接触させてアクリル酸抽出溶媒溶液と抽残水とを得る抽出工程と、該アクリル酸抽出溶媒溶液を蒸留塔で蒸留してアクリル酸と抽出溶媒とに分離する溶媒分離工程と、前記抽残水を蒸発させた後前記吸収工程に循環させる抽残水循環工程と、前記溶媒分離工程で分離された抽出溶媒を抽出工程に循環させる抽出溶媒循環工程とを備えるアクリル酸の製造方法であって、前記溶媒分離工程は、前記アクリル酸抽出溶媒溶液から該アクリル酸抽出溶媒溶液中の抽出溶媒の一部を塔頂留出物として蒸留分離する第1の溶媒分離過程と、該第1の溶媒分離過程で抽出溶媒の一部が分離されたアクリル酸抽出溶媒溶液を蒸留してアクリル酸を分離する第2の溶媒分離過程とを有し、前記抽残水を蒸発させて得られた蒸気を加圧水蒸気と混合し、得られた混合蒸気を前記溶媒分離工程の熱源として用いることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【0019】
[2] [1]において、前記混合蒸気を前記第1の溶媒分離過程の熱源として用いることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【0020】
[3] [2]において、前記溶媒分離工程の前記蒸留塔が2塔形式であり、前記混合蒸気を上流側の蒸留塔の加熱装置の熱源として用いることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【0021】
[4] [2]において、前記溶媒分離工程の前記蒸留塔が1塔形式であり、前記混合蒸気を該蒸留塔の塔底部以外の加熱装置の熱源として用いることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【0022】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記抽出工程から前記溶媒分離工程に送給される前記アクリル酸抽出溶媒溶液のアクリル酸濃度が35重量%以下であり、前記第1の溶媒分離過程において分離される塔頂留出物のアクリル酸濃度が1重量%以下であることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【0023】
[6] [1]ないし[5]のいずれかにおいて、前記抽残水循環工程において、前記抽出工程で得られる抽残水の50重量%以上を蒸発させることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【0024】
[7] [1]ないし[6]のいずれかにおいて、前記抽残水を蒸留塔で蒸発させることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【0025】
[8] [1]ないし[7]のいずれかにおいて、前記加圧水蒸気は、蒸気エゼクタの加圧水蒸気であることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、アクリル酸水溶液から抽出によりアクリル酸を分離する抽出工程で得られる抽残水を蒸発させることにより、抽残水の循環による水溶性不純物の系内濃縮を防止すると共に、抽残水を蒸発させて得られた蒸気を溶媒分離工程の熱源とすることが可能となり、抽残水の精製に要する熱エネルギーを有効利用して熱損失を低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明のアクリル酸の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0029】
本発明のアクリル酸の製造方法は、炭素数3の炭化水素を気相接触酸化反応処理してアクリル酸含有反応生成ガスを得る酸化反応工程と、該アクリル酸含有反応生成ガスを吸収水と接触させてアクリル酸水溶液を得る吸収工程と、該アクリル酸水溶液を抽出溶媒と接触させてアクリル酸抽出溶媒溶液と抽残水とを得る抽出工程と、該アクリル酸抽出溶媒溶液を蒸留塔で蒸留してアクリル酸と抽出溶媒とに分離する溶媒分離工程と、前記抽残水を蒸発させた後前記吸収工程に循環させる抽残水循環工程と、前記溶媒分離工程で分離された抽出溶媒を抽出工程に循環させる抽出溶媒循環工程とを備えるアクリル酸の製造方法であって、前記溶媒分離工程は、前記アクリル酸抽出溶媒溶液から該アクリル酸抽出溶媒溶液中の抽出溶媒の一部を塔頂留出物として蒸留分離する第1の溶媒分離過程と、該第1の溶媒分離過程で抽出溶媒の一部が分離されたアクリル酸抽出溶媒溶液を蒸留してアクリル酸を分離する第2の溶媒分離過程とを有し、前記抽残水を蒸発させて得られた蒸気を加圧水蒸気と混合し、得られた混合蒸気を前記溶媒分離工程の熱源として用いることを特徴とする。
【0030】
以下に、
図1,2を参照して、本発明を、アクリル酸の製造の代表例として、プロピレンを原料としたアクリル酸の製造を例示して説明する。ただし、本発明はプロピレンを原料としたアクリル酸の製造に限らず、炭素数3の炭化水素を原料とするアクリル酸の製造全般に適用することができる。
【0031】
図1,2は、本発明の方法を実施するためのアクリル酸の製造設備のうち、主として抽出工程から溶媒分離工程の一例を概略的に示す系統図である。
図1において、1は抽出塔、2は抽残水蒸留塔、3は第1の溶媒分離塔、4は第2の溶媒分離塔、2A,3A,4Aはリボイラ、5は還流槽、10はエゼクタであり、P
1,P
2,P
3はポンプ、Cはコンデンサ、Vはバルブを示す。
図2において
図1に示す部材と同一機能を奏する部材には同一符号を付してある。
図2中、6は2段階の溶媒分離を1塔で行う溶媒分離塔であり、7は中間フラッシャ、6Aはリボイラ、P
4はポンプである。
【0032】
[酸化反応工程]
酸化反応工程では、空気、希釈剤としての水蒸気及び/又は窒素、更に反応原料としてのプロピレンを第1の酸化反応器(前段反応器)に供給してプロピレンをアクロレインに変換し、この第1の酸化反応器の反応生成ガスを第2の酸化反応器(後段反応器)に供給してアクロレインをアクリル酸に転化する。前段反応器に供給される反応原料ガスのプロピレンの濃度は通常6〜10容量%、酸素/プロピレン比は通常1.5〜2.5である。前段反応器には、モリブデン(Mo)−ビスマス(Bi)系の複合金属酸化物からなる固体酸化触媒が充填され、熱媒体の循環で300〜350℃に温度制御される。前段反応器の構造は、一般的には多管式熱交換器タイプやプレート熱交換器タイプである。後段反応器には、モリブデン(Mo)−バナジウム(V)系の複合金属酸化物からなる固体酸化触媒が充填され、熱媒体の循環で250〜300℃に温度制御されている。後段反応器には空気などが添加されることもある。後段反応器の構造は、前段反応器と同様なものが用いられる。なお、前段反応器及び後段反応器の反応圧力は、通常0.02〜0.2MPa−G(メガパスカル−ゲージ)である。
【0033】
[吸収工程]
酸化反応工程で得られたアクリル酸含有反応生成ガスは、間接熱交換器により140〜200℃程度に冷却された後、吸収塔の最下部ないし下方側面部に導入される。吸収塔の塔底部や中段部から抜き出した液の全量ないし一部が冷却後に吸収塔に循環される事で、アクリル酸含有反応生成ガス中のアクリル酸は冷却及び凝縮されると共に、塔頂より供給された吸収水と接触させることにより、アクリル酸含有反応生成ガス中のアクリル酸が吸収水に吸収される事で、吸収塔の塔底液ないし中段部抜き出し液として、アクリル酸水溶液が得られる。
吸収塔では、吸収塔内でのアクリル酸の重合を防止する為、重合防止剤を直接ないし溶液として供給することが望ましい。重合防止剤を溶解する溶媒は、吸収に用いる水ないし水溶液が最適であるため、吸収水の導入配管や、塔底部又は中段部の循環ラインに水溶性の重合防止剤を添加することが好ましい。ここで用いられる水溶性の重合防止剤としては例えばフェノール化合物、マンガンや銅の酢酸塩化合物、アルキルピリジルオキシド化合物などが挙げられる。
【0034】
吸収塔で得られるアクリル酸水溶液の水濃度は、15〜50重量%、特に20〜45重量%の範囲であることが好ましい。このアクリル酸水溶液の水濃度が15重量%未満の場合、抽出により生じる抽残水の量も少なく、あえてその蒸発に用いた熱量を回収する必要性が薄れる。アクリル酸水溶液の水濃度が50重量%を超える場合、低極性溶媒を用いた抽出では、必要な溶媒量が膨大となり、脱水蒸留による水分離と比べて経済性が悪化するため、現実的でない。
なお、アクリル酸水溶液中のアクリル酸濃度は、通常50〜75重量%程度である。
【0035】
吸収塔において得られるアクリル酸水溶液の温度は、通常60〜85℃程度であり、熱交換器で5〜50℃程度に冷却された後抽出塔1に送給される。
【0036】
[抽出工程]
抽出工程では、抽出塔1にて吸収塔からのアクリル酸水溶液と抽出溶媒とを向流接触させて、アクリル酸を抽出溶媒側に抽出してアクリル酸抽出溶媒溶液と抽残水を得る。
【0037】
効率的な抽出を行うために、抽出塔1は、少なくとも5理論段以上が必要であり、より好ましくは10理論段以上、例えば12〜22理論段である。
充分な理論段数が得られれば、抽出塔1の形態は問わず、棚段塔、充填物塔などでも構わないが、効率良く高い理論段数を得るには、分散相の拡散を促進するための攪拌動力を有するものが好適であり、例えば、多数の多孔板が垂直に往復動するKARRカラムや、多数のドーナツ型バッフルと中心の回転軸に備えられた多数の攪拌翼からなるSCHEIBELカラム(何れもKoch−Glitsch社)などが挙げられる。
【0038】
抽出溶媒としては、通常、ヘキサンやヘプタンなどの飽和脂肪族炭化水素、ヘキセンやヘプテンなどの不飽和脂肪族炭化水素、トルエン等の芳香族炭化水素、並びにこれらの混合物などが用いられる。
【0039】
溶媒により抽出されたアクリル酸を含むアクリル酸抽出溶媒溶液は次いで溶媒分離塔3又は6に送られる。
【0040】
一方、抽出塔1で大半のアクリル酸が除去された抽残水は、抽残水蒸留塔2に送られる。
【0041】
本発明において、抽出塔1から第1の溶媒分離塔3又は溶媒分離塔6に供給されるアクリル酸抽出溶媒溶液のアクリル酸濃度は35重量%以下であることが好ましい。アクリル酸抽出溶媒溶液のアクリル酸濃度がこれよりも高いと、第1の溶媒分離塔3又は溶媒分離塔6における第1の溶媒抽出過程の蒸留温度を相応に高くする必要が生じ、後述の蒸気エゼクタ10からの混合蒸気を熱源として蒸留を行えなくなるおそれがある。ただし、アクリル酸抽出溶媒溶液のアクリル酸濃度を過度に低くすると、吸収塔で用いる抽出溶媒量が徒に増加し、アクリル酸量に対するアクリル酸抽出溶媒溶液量が増大して非効率となるため、アクリル酸抽出溶媒溶液のアクリル酸濃度は15重量%以上、特に20〜35重量%程度であることが好ましい。
アクリル酸抽出溶媒溶液のアクリル酸濃度は、抽出塔1における抽出溶媒の供給量を制御することにより調整することができる。
【0042】
[抽残水蒸発・熱回収工程]
蒸留により抽残水を蒸発させる場合、用いられる抽残水蒸留塔2の運転圧力は基本的に常圧であるが、操作性や安全性等の理由により多少の範囲、例えば±20kPa程度は設計範囲である。
【0043】
抽残水蒸留塔2内には、棚段等の内挿物を設けなくても良いが、ポリマーやマレイン酸等の重質分の飛散(飛沫同伴)を防ぐため、数段の棚段や充填物、塔頂部のミストセパレータなどを設けても良い。
【0044】
抽残水蒸留塔2の塔頂ガス配管は、熱の損失を防ぐこと、及び外気温や天候の変化による影響を緩和するために、外周部に保温材が施工されていることが望ましい。該配管は、蒸気エゼクタ10の吸引側に接続される。
【0045】
蒸気エゼクタ10の駆動蒸気は2kPaG以上、例えば2〜15kPaGである。通常、真空系に用いる蒸気エゼクタの場合、駆動蒸気の圧力は少なくとも7kPaG以上が必要とされるが、本発明において、抽残水蒸留塔2の塔頂ガス配管に設けられる蒸気エゼクタ10の吸引側と突出側の圧力比が1に近いため、比較的低い圧力でも適用可能である。
【0046】
駆動蒸気量は、抽残水蒸留塔2からの塔頂ガスに対して0.05〜0.5重量倍の範囲で用いられる。駆動蒸気量が少なすぎると、運転を安定に保つのが困難となり、多すぎると経済性を悪化させる。
【0047】
エゼクタ10の出口側の圧力は僅かに加圧となれば充分であり、具体的には、0.5〜50kPaGである。これよりも高い圧力に加圧することも可能であるが、所要駆動蒸気量が増えるので、効率的でない。
【0048】
運転を安定に保つために、エゼクタ10の出口側の混合蒸気の一部を、入口側に循環する経路を制御装置と共に設けるのが好ましい(図中、バルブVを有する配管が該当する。)。この場合、循環経路内の混合蒸気量分だけエゼクタ10の能力は余剰となるが、この循環経路は安定運転のためのバッファとなり得る。また、塔頂ガスの圧力が充分に高い場合に備え、塔頂ガスがエゼクタ10を経ずして混合蒸気に合流する為の経路(図示無し)を設けることも可能である。
【0049】
図1において、エゼクタ10からの混合蒸気は第1の溶媒分離塔3のリボイラ3Aに送給され、リボイラ3Aの熱源として利用される。
図2においては、溶媒分離塔6に設けられた中間フラッシャ7のリボイラ3Aに送給され、リボイラ3Aの熱源として利用される。抽残水蒸留塔2の塔底液は高沸点不純物が濃縮された濃縮液であり、廃液として系外に排出される。
【0050】
なお、抽残水の蒸発工程では、抽出塔1からの抽残水の50重量%以上を蒸発させることが好ましい。抽残水の蒸発量が少な過ぎると、蒸留塔2の塔底液として生じる廃液量が増大する為、その処理に要する負荷が増大することとなる。蒸留塔2の塔底液を吸収塔に循環する事で廃液量の低減は図れるが、水溶性不純物の系内濃縮を防ぐという本発明の効果が失われてしまう。ただし、抽残水の蒸発量を多くすると蒸発残渣の濃縮液の不純物濃度が高くなりすぎ、該不純物ないしその反応生成物による液の高粘度化や析出物による汚れや閉塞などが起こり、安定運転の阻害要因となる。従って、この蒸発量は、抽残水の50〜95重量%、特に75〜92重量%とすることが好ましい。
【0051】
図1,2は、抽残水を蒸留塔2で蒸発させる態様を示すが、本発明において、抽残水の蒸発手段としては蒸留塔に限らず、例えば加熱用のインナーコイルを備えた蒸発缶や、回転式薄膜蒸発器等であってもよい。ただし、循環する不純物をより少なくできる点から、蒸留塔を用いることが好ましい。
【0052】
また、
図1,2では抽出塔1の抽残水の全量を抽残水蒸留塔2へ送給しているが、この抽残水の一部を抽残水蒸留塔2に送給し、残部を直接吸収塔へ循環することも可能である。ただし、抽残水の蒸発による不純物の系内蓄積を防止した上で、熱損失を防止するという本発明の効果をより一層有効に得るために、抽出塔1からの抽残水はその全量を蒸発工程へ送給することが好ましい。
【0053】
このような抽残水の蒸発工程では、通常、94〜105℃程度の抽残水の蒸気(抽残水蒸留塔の塔頂ガス)を得、これを加圧水蒸気と混合して、95〜120℃の混合蒸気を得ることができる。
【0054】
[溶媒分離工程]
本発明において、アクリル酸抽出溶媒溶液を蒸留して溶媒を分離してアクリル酸を得る溶媒分離工程は、アクリル酸抽出溶媒溶液中の抽出溶媒の一部を塔頂留出物として蒸留分離する第1の溶媒分離過程と、この第1の溶媒分離過程で抽出溶媒の一部が分離されたアクリル酸抽出溶媒溶液を更に蒸留してアクリル酸を分離する第2の溶媒分離過程とからなる。
【0055】
図1は、この第1の溶媒分離過程を第1の溶媒分離塔3で行い、第2の溶媒分離過程を第2の溶媒分離塔4で行う2塔式を採用した実施形態を示すものであり、第1の溶媒分離塔3では、塔頂から溶媒を分離し、塔底から溶媒とアクリル酸の混合溶液を得、第2の溶媒分離塔4では、第1の溶媒分離塔3の塔底からの混合溶液からアクリル酸を分離する。このように、溶媒分離工程を2段階に分け、第1の溶媒分離塔3の塔底液中のアクリル酸濃度を比較的低いものとすることにより、第1の溶媒分離塔3の塔底温度を低くし、第1の溶媒分離塔3のリボイラ3Aの熱源として、抽残水蒸留塔2の塔頂ガスを利用することが可能となる。
【0056】
本発明において、第1の溶媒分離過程である第1の溶媒分離塔3の塔底温度は通常75℃以下、好ましくは70℃以下である。この温度が75℃を超えるとリボイラ3Aの熱移動が不良となる可能性がある。第1の溶媒分離過程である第1の溶媒分離塔3の塔底温度の下限に制約はないが、温度が低いほど高真空での蒸留操作が必要となり、経済性を悪化させるので好ましくない。実用上有利な蒸留条件としては、第1の溶媒分離過程である第1の溶媒分離塔3の塔底温度は55〜75℃で、圧力8〜20kPa、塔底液中の溶媒濃度は35〜65重量%程度である。
【0057】
一方、第1の溶媒分離過程である第1の溶媒分離塔3の塔頂留出物中のアクリル酸濃度は1重量%以下、特に0.6量%以下、例えば0〜0.6重量%程度であることが好ましい。塔頂留出物中のアクリル酸濃度が高いと抽出塔におけるアクリル酸回収率が低下するからである。
【0058】
第1の溶媒分離塔3の塔頂留出物はその殆ど、通常95重量%以上が抽出溶媒であるため、コンデンサCで冷却された後、還流槽5を経て一部が第1の溶媒分離塔3の塔頂に循環され、残部は抽出塔1の底部に循環され、抽出溶媒として再利用される。
【0059】
前述の如く、蒸気エゼクタ10からの混合蒸気は、第1の溶媒分離塔3のリボイラ3Aの熱源として供給され、第1の溶媒分離塔3の塔底液を加熱し、この塔底液との熱交換で冷却された凝縮水は、一部がリボイラ3Aに供給される熱量調整のための循環水量調整のために抽残水蒸留塔2の塔頂に循環され、残部は必要に応じて更に冷却された後、吸収塔へ循環され、吸収水として再利用される。この吸収塔へ循環される凝縮水は、抽残水蒸留塔2で蒸発することにより、高沸点不純物(重質分)が除去された抽残水蒸留塔2の塔頂ガスと、エゼクタに導入された用役水蒸気との混合蒸気の凝縮水であり、前述の如く、ギ酸、酢酸等の沸点の低い不純物(軽質分)は含むものの、これら軽質分は、吸収塔において排ガスと共に排出されるため、系内に蓄積したり製品のアクリル酸の品質に影響を及ぼすことはない。
【0060】
第1の溶媒分離塔3の塔底液は一部がリボイラ3Aに送給され、残部が第2の溶媒分離塔4の塔頂に導入され、更に蒸留される。この第1の溶媒分離塔3のリボイラ3Aは、このリボイラ3Aに導入される第1の溶媒分離塔3の塔底液がアクリル酸を多く含むことから、その重合閉塞に配慮して、縦型の多管式熱交換器とし、第1の溶媒分離塔3の塔底からのアクリル酸溶液はチューブ側を上向流で流れる構成として、エゼクタ10からの混合蒸気をチューブ外周側に下向流で流れる構成とすることが好ましい。また、このように、抽残水の蒸発蒸気を用いることで、通常の蒸気を用いた場合に比べて伝熱効率が悪くなることを鑑み、エアリフトポンプの要領で入口側(
図1,2の※印の箇所)に窒素や空気、またはその混合気体を少量供給し、配管内のアクリル酸溶液の上昇流を補佐することもできる。但し、溶媒分離のための蒸留は減圧蒸留を行っているため、該気体の供給は、真空ポンプ等の装置負荷を増大させてしまう。このため、チューブ内で該気体の占める容積が、アクリル酸溶液のそれよりも小さくなる程度の供給量に留めることが重要である。
【0061】
図1において、第1の溶媒分離塔3からアクリル酸溶液を更に蒸留する第2の溶媒分離塔4は、アクリル酸の重合防止の観点から、塔底温度は100℃未満、例えば85〜98℃にする必要があるが、第1の溶媒分離塔3の塔底温度が上記好適範囲とされていれば、この温度はほぼ必然的に達成される。
【0062】
第2の溶媒分離塔4の塔頂留出物は第1の溶媒分離塔3の塔底に戻され、一方、第2の溶媒分離塔4の塔底からは、アクリル酸濃度96〜99重量%程度の粗アクリル酸が得られる。この粗アクリル酸は必要に応じて更に蒸留精製されて製品のアクリル酸となる。
【0063】
図1は、第1の溶媒分離過程と第2の溶媒分離過程とをそれぞれ別の溶媒分離塔で行う2塔式の溶媒分離工程を示すが、
図2に示す如く、第1の溶媒分離過程と第2の溶媒分離過程は1つの溶媒分離塔6で行う1塔式とすることもできる。
【0064】
この場合、
図1における第1の溶媒分離塔3の塔底部に相当する部分を中間フラッシャ7として塔の外に取り出し、該中間フラッシャ7の循環ラインにリボイラ3Aを設けるのが、塔内組成を安定に維持して運転するために好適である。
【0065】
この1塔式の場合の蒸留条件についても、中間フラッシャ7を
図1における第1の溶媒分離塔3の塔底部とし、前述の
図1におけると同様の条件で、上部で第1の溶媒分離過程、下部で第2の溶媒分離過程を行うことができる。
なお、1塔式の溶媒分離塔6の塔底部は、2塔式の場合の第2の溶媒分離塔4に比べて径が大きい場合が多いので、溶媒分離塔6の塔底部の形状を下方に向って縮径する円錐形などとして滞留時間を短くし、アクリル酸二量体やポリマーの生成を抑制することが望ましい。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0067】
[エゼクタの能力確認]
エゼクタ10に0.8MPaGの駆動蒸気を供給し、吸引側からはポリ袋に詰めた乾燥空気(25℃)を吸引した。吸引した空気量は駆動蒸気量に対して重量比で3.2倍であった。これは、空気を100℃の飽和水蒸気に換算すると、約2.5倍量となる。
【0068】
[実施例1]
プロピレン、空気及び水蒸気からなる混合ガスを、Mo−Bi系固体酸化触媒の存在下に反応させてプロピレンをアクロレインに酸化させ、次いでMo−V系固体酸化触媒の存在下に反応させてアクリル酸含有反応生成ガスを得、このアクリル酸含有反応生成ガスを吸収塔で水と接触させてアクリル酸濃度60重量%、水濃度35重量%のアクリル酸水溶液を得た。
【0069】
得られたアクリル酸水溶液を20℃に冷却した後、
図1の抽出塔(理論段数14)1に導入し、トルエンを抽出溶媒として用いてアクリル酸の抽出を行い、下記組成のアクリル酸抽出溶媒溶液と抽残水を得た。
【0070】
<アクリル酸抽出溶媒溶液>
アクリル酸:31重量%
水 :0.8重量%
酢酸 :0.6重量%
マレイン酸:<0.01重量%
トルエン :66重量%
<抽残水>
水 :91.3重量%
アクリル酸 :1.4重量%
酢酸 :4.1重量%
ホルムアルデヒド:1.1重量%
ギ酸 :0.3重量%
トルエン :0.01重量%
マレイン酸 :0.4重量%
【0071】
抽残水を抽残水蒸留塔2で蒸発させ、98℃の蒸気(塔頂ガス)を得、この蒸気をエゼクタ10に導入し、用役水蒸気(0.8MPaG)を駆動蒸気として以下の条件で加圧して混合蒸気(100℃)を得た。
【0072】
<エゼクタの条件>
駆動蒸気:0.8MPaG
駆動蒸気量:塔頂ガスの0.2重量倍
出口圧力:0.6kPaG (リボイラ3Aは稼働中)
【0073】
この混合蒸気を第1の溶媒分離塔3のリボイラ3Aに送給した。
【0074】
一方、抽出塔1からのアクリル酸抽出溶媒溶液を第1の溶媒分離塔3に導入して蒸留し、アクリル酸濃度0.4重量%の塔頂留出物を得、この塔頂留出物はコンデンサCで冷却後、還流槽5を経て、一部(45%)を第1の溶媒分離塔3の塔頂に戻し、残部を抽出塔1に循環した。
【0075】
第1の溶媒分離塔3の塔底温度は55℃、圧力12kPa、塔底液中のトルエン濃度は50重量%、アクリル酸濃度は48重量%であった。
【0076】
リボイラ3Aで冷却された混合蒸気の凝縮水は、15%を抽残水蒸留塔2に循環し、残部を吸収塔に循環した。なお、該凝縮水には、飛沫同伴に由来すると考えられる若干の茶褐色の着色が確認された。
【0077】
第2の溶媒分離塔4の塔底温度は88℃、圧力15kPaで、塔底からアクリル酸濃度98重量%の粗アクリル酸を得た。
【0078】
以上の条件で、抽残水蒸留塔2の蒸気を第1の溶媒分離塔3の熱源として用いて、安定に運転を行うことができた。