(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱可塑性樹脂(a)に射出成形体中での重量平均繊維長が300μm以上となるように繊維状充填材(b)を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物を、射出開始後に金型を締め始めるインジェクションプレス成形により射出成形する際に、金型を締め始める時間(tps)と射出が終了する時間(tif)の差(t1)と射出が終了する時間(tif)と金型を締め終わる時間(tpf)の差(t2)との比率(t2/t1)が1.5以上11.5以下となる条件で射出成形することを特徴とする、射出成形体の製造方法。
前記熱可塑性樹脂(a)がポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリエーテルケトンおよびポリエーテルエーテルケトンから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載の射出成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、実施の形態を詳細に説明する。
本発明においては、(a)熱可塑性樹脂と(b)繊維状充填材を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物を射出成形するが、射出成形した成形体において、射出成形体中の重量平均繊維長は300μm以上である。このような繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる射出成形体は、成形体を製造する際に、熱可塑性樹脂組成物の流れに対し直角の方向(以降、TD方向ということもある。)に繊維状充填材が配向するコア層と、熱可塑性樹脂組成物の流れ方向(以降、MD方向ということもある。)に繊維状充填材が主に配向するスキン層が形成される。
【0024】
本発明における射出成形体中の重量平均繊維長は、射出成形体を500℃で2時間灰化処理して、成形体中の繊維状充填材を取り出し、取り出した繊維状充填材を水に入れ、超音波洗浄機を用いて均一分散させ、1ccを10×10mmの窪みを持つシャーレにサンプリングした後乾燥させ、シャーレ中の繊維状充填材の写真を撮り、約1000本の長さを計測して下の式により算出した値である。
重量平均繊維長=Σ(Mi
2×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:個数
【0025】
射出成形体中の繊維状充填材が300μm未満の一般的に短繊維ペレットと言われる樹脂組成物を用いた場合、例えば
図1に示すように、スキン層1では短繊維3がMD方向(樹脂の流れ方向)に強配向し、コア層2では短繊維4がTD方向(樹脂の流れに対し直角の方向)に強配向した構造となる。そのためコア層厚みを薄くしても異方性は小さくならず、反り低減効果は限定的となり、本発明による効果を発現することができない。
【0026】
射出成形体中の繊維状充填材が長くなると(つまり、長繊維になると)、例えば
図2に示すように、コア層2の繊維の配向は樹脂の流れに直角方向のままであるが、スキン層1では長繊維5の配向は乱れる傾向にある。特に射出成形体中の繊維状充填材の重量平均繊維長が300μm以上になるとスキン層の配向が乱れ始める。さらに、配向の強いコア層を薄くすることで射出成形体の反りを大きく低下させることができる。更に射出成形体中の繊維状充填材の重量平均繊維長が600μm以上ではスキン層の配向がさらに乱れ、物性の異方性が少なくなり反りが大幅に低減するので、より好ましい。
【0027】
射出成形体中の繊維状充填材の重量平均繊維長を長くする方法としては、繊維状充填材の長さがペレットと同じ長さである長繊維ペレットを用いて射出成形することが好ましい。しかし、長繊維ペレットを用いても通常の方法で射出成形を行うと、熱可塑性樹脂組成物の流れに対し直角方向に繊維状充填材が配向するコア層の厚みは成形体の厚さに対して約30〜50%となるため、コア層の影響が強く成形体の強度がスキン層とコア層とで異なるため、射出成形体に反りが発生する。本発明に係る射出成形体では、後述のような第1の方法あるいは第2の方法を採用することで、コア層の厚みを成形体の厚みに対して20%以下とすることができるので、コア層の影響を抑え、物性の異方性を抑えることができ、反りの少ない射出成形体を得ることができる。
【0028】
本発明においては、コア層の厚みを射出成形体の厚みに対し20%以下とする。ここで、コア層の厚みは、ヤマトマテリアル社製3次元計測X線解析装置(TDM1000IS型)を用い、射出成形体中の繊維状充填材の画像データを得、得られた画像データをラトックシステムエンジニアリング社製の3次元画像処理ソフトTRIシリーズで繊維状充填材と熱可塑性樹脂とを2値化した後、各繊維の配向方向から主配向方向を算出し、成形体を製造する際の樹脂組成物の流れ方向を90度、樹脂組成物の流れ方向と直角の方向を0度とした場合に、主配向方向が40度以下となる部分をコア層とし、その厚みを決定する。さらに、スキン層の繊維状充填材の配向方向は、ヤマトマテリアル社製3次元計測X線解析装置(TDM1000IS型)を用い、射出成形体中の繊維状充填材の画像データを得、得られた画像データをラトックシステムエンジニアリング社製の3次元画像処理ソフトTRIシリーズで繊維状充填材と熱可塑性樹脂とを2値化した後、各繊維の配向方向から主配向方向を算出し、主配向方向の±10°以内に全体の繊維40%以下が分布する状態を、ランダムな配向状態とする。
【0029】
次に、上記のような本発明に係る射出成形体を製造するための、本発明のインジェクションプレス成形方法(第1の方法および第2の方法)について説明する。
ただし、前述の如く、本発明に係る射出成形体の製造方法は、第2の方法として規定したものである。
【0030】
先ず、本発明のインジェクションプレス成形の第1の方法は、所定の型開き状態で繊維強化熱可塑性樹脂組成物をキャビティ内に充填しスキン層を形成した後、プレス(型締め)してコア層の樹脂を流出させることによりコア層の厚みをコントールする方法である。インジェクションプレス成形(射出プレス成形)に用いる成形機は既存の射出プレス可能な機械であればいずれでも使用可能であり、横型あるは縦型いずれでも使用可能である。
【0031】
射出プレス成形する際のプレスを開始するタイミングはコア層の厚みをコントロールする上で重要であり、射出成形体全体の厚みに対するコア層の厚みをコントロールする観点から、プレス前の金型のメインキャビティ容量の80%以上の樹脂充填が完了した後にプレスを開始することが重要である。更に、樹脂の流れに対し直角方向に繊維状充填材が配向するコア層の樹脂がプレス工程においてメインキャビティ外に排出される捨てキャビティを有する構造の射出成形金型を用いることが好ましい。この捨てキャビティは、プレス工程においてコア層の樹脂を十分に排出できるように(押し出すことができるように)、メインキャビティ容量の10容量%以上とすることが好ましい。
【0032】
このような本発明の射出成形の第1の方法に用いる好適な金型構造と射出成形工程を
図3〜7を用いて説明する。
図3は基本的な金型構造を例示している。本金型は、
図3に示すように、可動側の金型(6)と固定側の金型(7)、インロー構造のメインキャビティ(8)と捨てキャビティ(9)、バネ式可動入れ子(10)、ホットランナーシステム(11)、成形品をキャビティから取り外すためのエジェクターとしての突き出しピン(12)とエジェクタープレート(13)からなる。
【0033】
次に成形の工程を説明する。
図4に示すように、金型を開いた状態から、可動側金型(6)を動かし型閉じを開始する。次に
図5に示すように、所定の型開き量で停止し射出を開始する。次に
図6に示すように、ホットランナーシステム(11)を通してキャビティ(8)に繊維強化熱可塑性樹脂(14)を充填する。その後
図7に示すように、プレスを開始し、充填した繊維強化熱可塑性樹脂の一部を捨てキャビティ(9)に押出し、冷却固化後にエジェクター(12)とエジェクタープレート(13)を用いて射出成形体(15)を取り出す。
【0034】
このような本発明の第1の方法で得られた射出成形体は、物性の異方性が小さいため、特異的に強度の弱い部分が存在せず安定した製品強度と極めて小さい反り特性を有する。
【0035】
次に、本発明のインジェクションプレス成形の第2の方法について説明する。
本発明のインジェクションプレス成形の第2の方法は、上記第1の方法同様、所定の型開き状態で繊維強化熱可塑性樹脂組成物をキャビティ内に充填(射出)しスキン層を形成したあと、プレス(型締め)してコア層の樹脂を流出させることによりコア層の厚みをコントロールする方法である。インジェクションプレス成形に用いる成形機は既存のインジェクションプレス可能な機械であればいずれでも使用可能であり、横型あるいは縦型のいずれでも使用可能である。
【0036】
インジェクションプレス成形する際のプレスを開始するタイミングはコア層の厚みをコントロールする上で重要であり、本発明の第2の方法では、射出開始後に金型を締め始めるインジェクションプレス成形により射出成形する。このとき、射出成形体全体のコア層の厚みをコントロールする観点から射出開始時間(tis)からプレス開始時間(金型を締め始める時間)(tps)までの差をt0とし、プレス開始時間(tps)から射出終了時間(tif)までの差をt1とし、射出終了時間(tif)からプレス終了時間(tpf)までの差をt2とすると、t1とt2との比率(t2/t1)が1.1以上となるようなタイミングで、
とくに本発明では1.5以上11.5以下となる条件で射出と金型締め(プレス)を行う。さらに好ましくは、t0/t1を1.1より大きくすることである。また、射出終了後にプレス(金型締め)を開始する方法(後述の
図14)でもよい。
【0037】
本発明の射出成形の第2の方法に用いる好適な金型構造と射出成形工程を
図8〜
図12を用いて説明する。
図8は基本的な金型の構造を例示している。本金型は、
図8に示すように、可動側の金型(21)と固定側の金型(22)、インロー構造のキャビティ(23)、ホットランナーシステム(24)、成形品をキャビティから取り出すためのエジェクターとしての突き出しピン(25)とエジェクタープレート(26)からなる。
【0038】
次に上記第2の方法における成形の工程を説明する。
図9に示すように、の金型を開いた状態から、可動側金型(21)を動かし型閉じを開始する。次に
図10に示すように、所定の型開き量で停止しホットランナーシステム(24)を通して射出を開始する。次に
図11に示すように、キャビティ(23)に繊維強化熱可塑性樹脂組成物(27)を充填する。その後、
図12に示すように、金型締めを開始し、充填した繊維強化熱可塑性樹脂を流動させ、冷却固化後にエジェクター(25)とエジェクタープレート(26)を用いて射出成形体(28)を取り出す。
【0039】
このように本発明の第2の方法で製造された射出成形体もまた、物性の異方性が小さいため、特異的に強度の低い部分が存在せず安定した製品強度と極めて小さい反り特性を有する。
【0040】
上記第2の方法における射出と金型締めの開始および終了のタイミングは、
図13または
図14のように表すことができる。
【0041】
本発明で用いる熱可塑性樹脂(a)としては、特に制限はないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、LCP(液晶ポリエステル)樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂などを有用に用いることができ、更にこれらを2種類以上ブレンドし使用してもよい。
【0042】
また、本発明で用いる繊維状充填材(b)としては、第1の方法では、直径(繊維径)が1〜20μmのものが好ましい。繊維径が1μm未満では分散が悪くなり、20μmを超えると異物効果が強くなって強度が低下するので好ましくない。更に好ましくは5〜15μmの繊維径が分散と補強効果のバランスの観点から望ましい。また、第2の方法では、直径(繊維径)が1〜30μmのものが好ましい。繊維径が1μm未満では分散が悪くなり、30μmを超えると異物効果が強くなって強度が低下するので好ましくない。更に好ましくは3〜15μmの繊維径が分散と補強効果のバランスの観点から望ましい。
【0043】
また本発明では、通常、繊維強化熱可塑性樹脂組成物をペレットにして成形する。繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなるペレットは、
(1)熱可塑性樹脂(a)と繊維状充填材(b)をブレンドし溶融押出する方法
(2)溶融した熱可塑性樹脂(a)中に連続した繊維状充填材(b)を浸漬させ含浸させた後引き抜く方法
(3)連続した繊維状充填材(b)の周りに熱可塑性樹脂(a)を被覆しカットする方法
(4)連続した繊維状充填材(b)の周りに熱可塑性樹脂(a)を被覆し連続した繊維を拠り樹脂を含浸させる方法
などにより製造することができる。
【0044】
とくに射出成形体中の繊維状充填材の重量平均繊維長を300μm以上とするためには、熱可塑性樹脂(a)中に連続した繊維状充填材(b)を浸漬させ含浸させた後引き抜く方法や、連続した繊維状充填材(b)の周りに熱可塑性樹脂(a)を被覆しカットする方法や、連続した繊維状充填材(b)の周りに熱可塑性樹脂(a)を被覆し連続した繊維を拠り樹脂を含浸させる方法や、連続した繊維状充填材(b)に低粘度樹脂などを予備含浸させたのちに熱可塑性樹脂(a)を被覆しカットする方法により得られるペレットを用いることが好ましい。
【0045】
本発明に用いられる繊維状充填材(b)としては炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、全芳香族ポリアミド繊維、金属繊維などが挙げられるが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維が好ましい。
【0046】
本発明において使用する炭素繊維としては、例えばポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、セルロース系などが挙げられる。これらの中でも、強度や弾性率などに優れるPAN系炭素繊維が好ましい。
【0047】
本発明において使用するPAN系炭素繊維としては、引張破断伸びが1.0%以上の炭素繊維が好ましい。引張破断伸びが1.0%未満である場合、本発明の樹脂組成物の製造工程や射出成形工程で炭素繊維の破断が生じやすく、炭素繊維の成形体中の残存繊維長を伸ばすことができず、機械特性に劣るものとなる。
【0048】
また、とくに前述した従来技術の問題点をより確実に解決するためには、上記炭素繊維の引張破断伸びは1.5%以上、より好ましくは1.7%以上、更に好ましくは1.9%以上であることが望ましい。本発明に用いるPAN系炭素繊維の引張破断伸びに上限は無いが、一般的には5%未満である。
【0049】
かかるPAN系炭素繊維の紡糸方法としては、湿式紡糸、乾湿式紡糸などが挙げられ、要求特性により任意の紡糸方法を選択できる。
【0050】
本発明において用いるガラス繊維としては、一般的に市販されているガラス繊維では何れも使用可能であるが、例えばEガラスの繊維がコストと性能の観点から好ましい。
【0051】
繊維状充填材(b)には表面処理し熱可塑性樹脂(a)との親和性を付与することも可能である。例えばシラン系カップリング剤、ボラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤などが使用可能で、上記シラン系カップリングとしてはアミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、またはアクリルシラン系カップリング剤などが使用できる。
【0052】
本発明では、好ましくは、繊維強化熱可塑性樹脂組成物をペレットとして射出成形するが、ペレットの形状は特に制限はなく、第1の方法においては、ペレットの長さとして、例えば通常3〜15mmの範囲を採用できる。ペレットの長さが短かすぎると、射出成形体中の残存繊維長が短くなりスキン層の樹脂の流れ方向への繊維の配向が強くなり異方性が生じるとともに強度、衝撃が低下する恐れがある。またペレット長が長すぎると成形機での噛み込み不良を生じる場合があるためペレット長は3〜12mmが好ましく、6〜10mmが更に好ましい。また、第2の方法においては、例えば3〜30mmの範囲の長さの長繊維ペレットを使用できる。上記同様、ペレットの長さが短すぎると、射出成形体中の残存繊維長が短くなりスキン層の樹脂の流れ方向への繊維配向が強くなり異方性が生じるとともに強度、耐衝撃性が低下する恐れがある。またペレット長が長すぎると成形機での噛み込み不良を生じる場合があるため、ペレット長は3〜20mmが好ましく、4〜20mmがさらに好ましい。
【0053】
また、繊維強化熱可塑性樹脂組成物には、用途に応じ各種添加剤、例えば分散剤、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、金属不活性剤、結晶化促進剤、発泡剤、着色剤、架橋剤、抗菌剤、など公知の添加剤を配合することができる。
【0054】
本発明に用いる繊維状充填材(b)の含有量は特に制限はないが、第1の方法では、例えば、熱可塑性樹脂(a)100重量部に対し、5重量部〜50重量部の範囲が好適である。5重量部未満ではコア層をコントロールしても強度への影響が少なく、50重量部超では増粘による成形性の低下が大きく射出プレス成形によるコア層の薄肉化が困難となる。更に好ましくは10重量部〜40重量部が得られる射出成形体の導電性、機械的強度、経済性の観点から好ましい。また、第2の方法では、例えば、熱可塑性樹脂(a)100重量部に対し、3重量部〜50重量部の範囲が好適である。上記同様、3重量部未満ではコア層をコントロールしても強度への影響が少なく、50重量部超では増粘による成形性の低下が大きくインジェクションプレス成形によるコア層の薄肉化が困難となる。射出成形体の機械的強度、経済性、導電性の観点から5重量部〜40重量部がさらに好ましい。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。材料特性評価については下記の方法に従って行った。
【0056】
[曲げ弾性率]
射出プレス成形(日本製鋼所社製J110AD)により得られた
図15に示す80mm×80mm×2mmtの試験片31の中央部から、幅15mm、長さ80mmの短冊状にテストピースを切り出し、インストロン社製5566型試験にてISO178に準拠して曲げ試験を実施し、曲げ弾性率(GPa)を得た。
【0057】
[コア層厚みの測定]
前記方法にて作成した80mm×80mm×2mmt試験片の中央部から5mm角に切り出し、ヤマトマテリアル社製3次元計測X線解析装置(TDM1000IS型)を用い射出成形品中の繊維状充填材の画像データを得た。
【0058】
得られた画像データをラトックシステムエンジニアリング社製の3次元画像処理ソフトTRIシリーズで繊維状充填材と熱可塑性樹脂と2値化した後、各繊維の配向方向から主配向方向を算出する。
【0059】
樹脂の流れ方向を90度、樹脂の流れ方向と直角の方向を0度とした場合に主配向方向が40度以下の部分をコア層とした。
【0060】
[繊維長分布]
前記方法にて作成した80mm×80mm×2mmt試験片から20mm×20mmに切り出し、500℃で2時間灰化処理して、成形品中の炭素異繊維を取り出した。取り出した炭素繊維を3リッターの水とともにビーカーに入れ、超音波洗浄機を用い炭素繊維を水に均一分散させた。先端8Φのスポイトで炭素繊維が均一分散した水溶液を1cc吸い取り、10×10mmの窪みを持つシャーレにサンプリンリングした後乾燥させた。シャーレ中の炭素繊維の写真を撮り、約1000本の長さを計測して平均繊維長を算出した。計算式は下記の通りである。
重量平均繊維長=Σ(Mi
2×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:個数
【0061】
[反り量]
図16に示す、可動側金型32、固定側金型33、メインキャビティ34、捨てキャビティ35を有するL字金型を用い日本製鋼所社製J110ADで
図17に示す形状の成形体36を成形し、成形すべき規定寸法70.7mmと成形体36の
図17に示す寸法X(mm)を測定し、下記式により反り量(mm)を算出した。
反り量(mm)=70.7−X
【0062】
まず、本発明の第1の方法の実施例
(参考実施例)について、以下に説明する。
【0063】
[
参考実施例1]
まず繊維状充填材(b)である連続したPAN系炭素繊維束を加熱し、溶融させた樹脂をギアポンプにて計量、塗布した。次いで、溶融温度より高い温度に加熱した雰囲気中で樹脂を炭素繊維束中に含浸させ、連続した炭素繊維束と樹脂との複合体を得た(含浸工程)。
【0064】
次に熱可塑性樹脂(a)を押出機のホッパーに投入し、溶融混錬した状態で被覆ダイに押出すと同時に、前記の被覆した複合体を前記被覆ダイ中に連続して供給することにより、熱可塑性樹脂(a)からなる樹脂組成物を前記の複合体に被覆し、押出機の吐出量と複合体の供給量を調整し炭素繊維含有量が20wt%の連続繊維強化樹脂ストランドを得た(コーティング工程)。
【0065】
その後、前記連続繊維強化樹
脂ストランドを冷却・固化させ、カッターを用いて6.0mm長に切断して芯鞘型の長繊維ペレットを得た。
【0066】
本ペレットを用いて射出プレス成形した成形体の評価結果は表1に示す通り、機械特性と反り量に優れるものであった。また、この実施例1の射出成形体の繊維の配向計測結果を
図18に示す。
【0067】
[
参考実施例2〜5および比較例1〜3]
参考実施例1で得られた長繊維ペレットを用い表1に示す成形条件とした以外は
参考実施例1と同等の条件で成形を行った。本成形体の評価結果を表1に示す。これら
参考実施例は比較例1〜3に比べ機械特性と反り量に優れるものであった。また、比較例1の射出成形体の繊維の配向計測結果を
図19に示す。
【0068】
[
参考実施例6]
前記連続繊維強化樹脂ストランドの炭素繊維含有量を30wt%とした以外は
参考実施例2と同等とした。本成形体の評価結果は表1に示す通り、機械特性と反り量に優れるものであった。
【0069】
[比較例4]
熱可塑性樹脂(a)を2軸押出機(JSW社製TEX30α)の主ホッパーに投入し、繊維状充填材(b)のチョップドストランドを押出機のサイドから熱可塑性樹脂(a)100に対し20wt%となる量を供給し、260℃で溶融混錬した後ガット状に押出し、冷却・固化させ、カッターを用いて3.0mm長に切断して短繊維ペレットを得た。本ペレットを用いた射出成形体の結果を表1に示すが、機械特性が低く且つ異方性が高い。また反り量が大きいものであった。また、この比較例4の射出成形体の繊維の配向計測結果を
図20に示す。
【0070】
[
参考実施例7〜9および比較例5、6]
熱可塑性樹脂(a)をポリプロピレンとした以外は
参考実施例1と同様にして長繊維ペレットを得た。この長繊維ペレットを用い表2に示す条件で成形し成形体を得た。本成形体の結果を表2に示すが、これら
参考実施例では比較例5、6に比べ機械特性と反り量に優れるものであった。
【0071】
[
参考実施例
12および比較例7、8]
熱可塑性樹脂(a)をPPS樹脂とした以外は
参考実施例1と同様にして長繊維ペレットを得た。この長繊維ペレットを用い表2に示す条件で成形し成形体を得た。本成形体の結果を表2に示すが、これら
参考実施例では比較例7、8に比べ機械特性と反り量に優れるものであった。
【0072】
[
参考実施例13〜15および比較例9、10]
繊維状充填材(b)をガラス繊維とし、ガラス繊維の含有量を30wt%とした以外は
参考実施例1と同様にして長繊維ペレットを得た。この長繊維ペレットを用い表3に示す条件で成形し成形体を得た。本成形体の結果を表3に示すが、これら
参考実施例では比較例9、10に比べ機械特性と反り量に優れるものであった。
【0073】
上記実施例および比較例に用いた熱可塑性樹脂(a)は以下の通りである。
ナイロン6樹脂:東レ社製“アミラン”CM1001
ポリプロピレン樹脂:プライムポリマー社製“プライムポリプロ”J137
PPS樹脂:東レ社製“トレリナ”M2888
【0074】
同様に、繊維状充填材(b)は以下の通りである。
炭素繊維 :東レ社製“トレカ”T700S(直径7μ、PAN系炭素繊維)。
ガラス繊維:日東紡者製 RS240QR483(直径17μ、Eガラス)
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
次に、本発明の第2の方法の実施例について、以下に説明する。
【0079】
[実施例16]
まず繊維状充填材(b)である連続したPAN系炭素繊維束を加熱し、溶融させた樹脂をギアポンプにて計量、塗布した。次いで、溶融温度より高い温度に加熱した雰囲気中で樹脂を炭素繊維束中に含浸させ、連続した炭素繊維束と樹脂との複合体を得た(含浸工程)。
【0080】
次に熱可塑性樹脂(a)を押出機のホッパーに投入し、溶融混錬した状態で被覆ダイに押出すと同時に、前記の被覆した複合体を前記被覆ダイ中に連続して供給することにより、熱可塑性樹脂(a)からなる樹脂組成物を前記の複合体に被覆し、押出機の吐出量と複合体の供給量を調整し炭素繊維含有量が熱可塑性樹脂(a)との合計に対し20重量%の連続繊維強化樹脂ストランドを得た(コーティング工程)。
【0081】
その後、前記連続繊維強化樹
脂ストランドを冷却・固化させ、カッターを用いて6.0mm長に切断して芯鞘型の長繊維ペレットを得た。
【0082】
本ペレットを用いてインジェクションプレス成形する際の成形条件と、得られた射出成形体の評価結果を表4に示す。表4からわかるように、本発明の成形条件で得られたものは、機械特性と反り量に優れるものであった。この実施例16の射出成形体の繊維の配向計測結果を
図21に示す。
【0083】
[実施例17〜20および比較例11〜13]
実施例16で得られた長繊維ペレットを用い表4に示す成形条件とした以外は実施例
16と同等とした。得られた射出成形体の評価結果を表4に示す。これら本実施例は比較例11〜13に比べ機械特性と反り量に優れるものであった。なお、この比較例11の射出成形体の繊維の配向を計測した結果、前述の
図19に示したのと同等の結果が得られた。
【0084】
[実施例21]
前記連続繊維強化樹
脂ストランドの炭素繊維含有量を熱可塑性樹脂(a)との合計に対し30重量%とした以外は実施例
17と同等とした。得られた射出成形体の評価結果は表4に示す通り、機械特性と反り量に優れるものであった。
【0085】
[比較例14]
熱可塑性樹脂(a)を2軸押出機(JSW社製TEX30α)の主ホッパーに投入し、繊維状充填材(b)のチョップドストランドを押出機のサイドから熱可塑性樹脂(a)との合計に対し20重量%となる量を供給し、260℃で溶融混錬した後ガット状に押出し、冷却・固化させ、カッターを用いて3.0mm長に切断して短繊維ペレットを得た。得られた短繊維ペレットを用いた射出成形体の評価結果を表4に示すが、機械特性が低く且つ異方性が高い。また反り量が大きいものであった。なお、この比較例14の射出成形体の繊維の配向を計測した結果、前述の
図20に示したのと同等の結果が得られた。
【0086】
[実施例22〜24および比較例15、16]
熱可塑性樹脂(a)をポリプロピレンとした以外は実施例16と同様にして長繊維ペレットを得た。得られた長繊維ペレットを用い表5に示す成形条件でインジェクションプレス成形を行い射出成形体を得た。得られた射出成形体の評価結果を表5に示すが、実施例22〜24は比較例15、16に比べ機械特性と反り量に優れるものであった。
【0087】
[実施例25〜27および比較例17、18]
熱可塑性樹脂(a)をPPS樹脂とした以外は実施例1と同様にして長繊維ペレットを得た。得られた長繊維ペレットを用い表5に示す成形条件でインジェクションプレス成形を行い射出成形体を得た。得られた射出成形体の評価結果を表5に示すが、実施例25〜27は比較例17、18に比べ機械特性と反り量に優れるものであった。
【0088】
[実施例28〜30および比較例19、20]
繊維状充填材(b)をガラス繊維とし、ガラス繊維の含有量を熱可塑性樹脂(a)との合計に対し30重量%とした以外は実施例1と同様にして長繊維ペレットを得た。得られた長繊維ペレットを用い表6に示す成形条件でインジェクションプレス成形を行い射出成形体を得た。得られた射出成形体の結果を表6に示すが、実施例28〜30は比較例19、20に比べ機械特性と反り量に優れるものであった。
【0089】
上記第2の方法における実施例および比較例に用いた熱可塑性樹脂(a)は以下の通りである。
ナイロン6樹脂:東レ社製“アミラン”CM1001
ポリプロピレン樹脂:プライムポリマー社製“プライムポリプロ”J137
PPS樹脂:東レ社製“トレリナ”M2888
【0090】
同様に、繊維状充填材(b)は以下の通りである。
炭素繊維 :東レ社製“トレカ”T700S(直径7μ、PAN系炭素繊維)。
ガラス繊維:日東紡者製 RS240QR483(直径17μ、Eガラス)
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
【表6】