【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る複合成形体の製造方法は、繊維強化熱可塑性樹脂を用いて予め成形した予備成形体aと、繊維強化熱可塑性樹脂を用いて予め成形した予備成形体bとを接合して複合成形体を成形する方法であって、
(1)予備成形体aおよびbの少なくとも片方に重量平均繊維長1mm以上の強化繊維を含み、
該重量平均繊維長1mm以上の強化繊維を含む予備成形体の少なくとも表層部が、連続繊維からなる強化繊維を一方向に配向した層を含むものからなり、
(2)予備成形体aには熱可塑性樹脂Aを使用し、予備成形体bには熱可塑性樹脂Aまたは熱可塑性樹脂Bを使用し、
(3)予備成形体aまたはbのいずれか、あるいは予備成形体aおよびbの両方の表面に熱可塑性樹脂Cの薄膜を形成し、
(4)熱可塑性樹脂Cの薄膜を接合の境界面に配置した状態で、加熱により熱可塑性樹脂Cおよび、予備成形体aおよびbの一部を溶融させ、該溶融による接合により複合成形体を成形することを特徴とする方法からなる。
また、もう一つの本発明に係る複合成形体の製造方法は、繊維強化熱可塑性樹脂を用いて予め成形した予備成形体aと、繊維強化熱可塑性樹脂を用いて予め成形した予備成形体bとを接合して複合成形体を成形する方法であって、
(1)予備成形体aおよびbの少なくとも片方に重量平均繊維長1mm以上の強化繊維を含み、
(2)予備成形体aには熱可塑性樹脂Aを使用し、予備成形体bには熱可塑性樹脂Aまたは熱可塑性樹脂Bを使用し、
(3)予備成形体aまたはbのいずれか、あるいは予備成形体aおよびbの両方の表面に熱可塑性樹脂Cの薄膜を形成し、
(4)前記熱可塑性樹脂A、熱可塑性樹脂Bおよび熱可塑性樹脂Cが、結晶性の熱可塑性樹脂を主成分とし、かつ以下の関係を満足し、
熱可塑性樹脂Cの結晶化温度<熱可塑性樹脂Aの結晶化温度、および、
熱可塑性樹脂Cの結晶化温度<熱可塑性樹脂Bの結晶化温度
(5)熱可塑性樹脂Cの薄膜を接合の境界面に配置した状態で、加熱により熱可塑性樹脂Cおよび、予備成形体aおよびbの一部を溶融させ、該溶融による接合により複合成形体を成形することを特徴とする方法からなる。
【0008】
上記重量平均繊維長1mm以上の強化繊維を含む予備成形体としては、例えば、
(1)重量平均繊維長が1mm〜50mmの範囲の強化繊維が実質上ランダム配向したマット状基材と熱可塑性樹脂の組み合わせによる成形体、
(2)予備成形体の任意の2端部間にわたって連続繊維が配置されるように強化された成形体、
のいずれか、または、これらが組み合わされた成形体を採用できる。すなわち、熱可塑性樹脂を用いた繊維強化樹脂の成形品では、例えば構造材として求められる高い力学的特性の発現を実現するためには、強化繊維長が長いことが必要となるので、重量平均繊維長1mm以上の強化繊維、とくに成形性等を考慮して、重量平均繊維長が1mm〜50mmの範囲の強化繊維の強化繊維基材を用いた成形品であることが好ましく、この範囲の繊維長の強化繊維が実質上ランダム配向したマット状基材と熱可塑性樹脂の組み合わせによるものが好ましい。あるいは、予備成形体の任意の2端部間(例えば、対向する2辺となる2端部間)にわたって連続繊維に形成された強化繊維が配置されるように強化された成形体も好ましい。さらには、これらが組み合わされた形態の成形体も採用できる。
【0009】
上記のように、予備成形体として、任意の2端部間にわたって連続繊維が配置されるよう強化された成形体を用いることは本発明の好ましい形態のひとつである。このような形態においては、繊維の分断がなく、ある強化繊維を用いた場合に最も高い力学的特性を得ることができる。該連続繊維強化の予備成形体を、構造の骨格材のように配置すれば、本発明における複合一体成形品において、高い力学的特性と、複雑な形状を両立することができる。
【0010】
予備成形体の強化繊維として不連続強化繊維を使用する場合には、その重量平均繊維長が上記の如く1mm〜50mmの強化繊維からなることが好ましい。重量平均繊維長が1mm未満では、強化繊維の特性が引き出せず求められる高い力学的特性を発揮することができない。重量平均繊維長が50mmを超えると、不連続強化繊維とした場合のひとつの特徴である良好な賦形性が損なわれてしまう。
【0011】
また、特に耐衝撃性などの力学的特性を重視する場合には、上記重量平均繊維長1mm以上の強化繊維を含む予
備成形体における、強化繊維の重量平均繊維長が20mm〜50mmの範囲をより望ましい範囲として示すことができる。これは後述の
図2に示すように耐衝撃性をはじめとした力学的特性向上への寄与につき、繊維長が大きく影響するためである。
【0012】
該不連続繊維の配向などは特に限定されず、実質上ランダム配向したものを使用することができる。この実質上ランダムという範囲としては、面内に等方性分散した、あるいはゆるやかな一定の配向を有するシート状のマットを例示することができ、これは抄紙法やカーディング法、エアレイ法など既存の繊維マット製造法によるものを使用できる。
【0013】
また、本発明の好ましい形態のひとつとして、
前述したように、上記重量平均繊維長1mm以上の強化繊維を含む予備成形体の少なくとも表層部が、連続繊維からなる強化繊維を一方向に配向した層を含むものからなる形態を挙げることもできる。
【0014】
上記熱可塑性樹脂A、熱可塑性樹脂Bおよび熱可塑性樹脂Cには、互いに異なる処方の熱可塑性樹脂(つまり、同種の熱可塑性樹脂であるが、物性や特性が互いに異なるように互いに異なる処方で調製された熱可塑性樹脂)が用いられる。熱可塑性樹脂同士の接合形態であるから、本質的に、容易に良好な接合状態が得られやすく、また、成形品全体を粉砕して再利用(リサイクル)も行いやすい。本発明では、熱可塑性樹脂同士の接合ではあっても、予備成形体が予め先に成形されているので、予備成形体の表層部を形成する熱可塑性樹脂Cと、熱可塑性樹脂Aまたは熱可塑性樹脂Bとの間に高い接合強度を持たせることを狙っており、とくにこれを達成するために、本発明では
、前述したように、以下のような形態を採ることができる。例えば上記熱可塑性樹脂A、熱可塑性樹脂Bおよび熱可塑性樹脂Cが結晶性の熱可塑性樹脂を主成分とし、かつ以下の関係を満足する形態である。
熱可塑性樹脂Cの結晶化温度<熱可塑性樹脂Aの結晶化温度、および、
熱可塑性樹脂Cの結晶化温度<熱可塑性樹脂Bの結晶化温度
【0015】
このように結晶化温度に高低の差をつける形態を採用することにより、とくに、接合の境界面に位置する熱可塑性樹脂Cの結晶化温度を相対的に低くして結晶化速度を遅くすることが可能になり結晶化温度が高いものほど結晶化速度が速い)、接合面を振動付与などにより加熱した際に、境界面の熱可塑性樹脂Cを結晶化前に十分に溶融させ、予備成形体同士を圧着などして境界面がなじむ時間を得ることができる。これにより熱可塑性樹脂Aや熱可塑性樹脂Bを用いた予備成形体同士の組み合わせにおいて、高い接合強度をもって接合した複合成形体の製造が可能になる。なお、この結晶化温度(Tc)の測定に関しては、対象樹脂を、示差走査熱量計(DSC)により溶融状態から一定速度(10℃/分)で冷却し、結晶化発熱ピーク温度〔結晶化温度(Tc)〕を測定することにより、上記結晶化速度を評価する(結晶化温度(Tc)が高いものほど結晶化速度が速い。)。
【0016】
また、上記のような結晶化温度特性を満たすために、あるいは、上記結晶化温度特性とは別に、上記熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bが、特定のモノマーを重合したホモポリマーからなる熱可塑性樹脂であり、かつ、上記熱可塑性樹脂Cが、2種類以上の異なったモノマーの共重合によるコポリマー(共重合体)で、その2種類以上のモノマーのひとつに熱可塑性樹脂Aまたは熱可塑性樹脂Bと同一のモノマーを含んだコポリマーからなる熱可塑性樹脂、またはそのコポリマーがブレンドされた樹脂組成物である形態を採用することができる。このような形態においては、熱可塑性樹脂C側の結晶化温度を熱可塑性樹脂Aや熱可塑性樹脂B側に比較して低くすることが可能となり、その結晶化速度が遅い熱可塑性樹脂Cが、より長い時間にわたって熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bと溶融状態で接することなり、熱可塑性樹脂Aや熱可塑性樹脂Bとの(予備成形体aと予備成形体bの間の)高強度接合を狙うことが可能となる。すなわち高い接合強度をもって接合した複合成形体の製造が可能となる。
【0017】
なお、熱可塑性樹脂A、熱可塑性樹脂Bおよび熱可塑性樹脂Cの全ての樹脂の結晶化温度を下げて、系全体の結晶化速度を遅くすることは可能である。しかしながら結晶化速度を下げる特別な手法を系全体に採用すればコストアップが避けられず、この方法は工業的に有利な方法とは言えない。結晶化温度が相対的に低い熱可塑性樹脂Cを接合の境界面のみに使用することで、両者の十分な接合強度を得ると共に、大きなコストアップを避けることができる。
【0018】
上記接合部の境界層(中間層)としては、熱可塑性樹脂Cを使用した、例えばフィルムや、あるいはメルトブローやスパンボンドなどによる不織布を使用することができる。これは、予備成形体aまたは予備成形体bのいずれか、あるいは予備成形体aおよび予備成形体bの両方の表面に配置する。例えばプレスなどで事前に予備成形体を得る際に、表面に配置しておき、あらかじめ一体化しておくのが望ましい。この場合、熱可塑性樹脂Cと、熱可塑性樹脂Aまたは熱可塑性樹脂Bが部分的に混合されてしまっても、熱可塑性樹脂Cが表面に一部でも露出していればかまわない。
【0019】
本発明に係る複合成形体の製造方法における、予備成形体aと予備成形体bの接合方法としては、例えば次のような手法を用いることができる。バイブレーション溶着(2種類の予備成形体の接合界面で発生する摩擦熱を利用して、樹脂を溶融させて溶着する方法)、熱板融着(溶着したい予備成形体を、予め熱した熱板にて接触あるいは非接触により加熱し、接合面が溶融状態になった後に、2種の予備成形体を加圧し溶着する技術)、インパルス融着(ヒーター線に低電圧、大電流を短時間通電し発熱させて熱源とする融着方法)、高周波融着(高周波の誘電加熱作用を利用して接合物(導電体)に内部発熱を起こさせ溶着する工法)、超音波融着(予備成形体に縦方向の超音波振動を与えることで発生する摩擦熱により局所的瞬間的に昇温させる手法)などを挙げることができる。この他、電磁誘導加熱により導電体(例えば炭素繊維)に誘導電流を流しジュール熱で発熱させる方法、導電体(例えば炭素繊維)に直接通電しジュール熱で発熱させる方法や、熱風、トーチ、レーザーによる方法など既存の加熱方法を使用することができる。
【0020】
本発明に係る複合成形体の製造方法における、より具体的な熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bと、熱可塑性樹脂Cの組み合わせとして、例えば、次のような組み合わせを挙げることができる。例えば、熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bが、p−ポリフェニレンサルファイドを主成分とし、熱可塑性樹脂Cが共重合ポリフェニレンサルファイドからなる組み合わせを挙げることができる。この場合、共重合ポリフェニレンサルファイドとしては、p−フェニレンサルファイド単位にm−フェニレンサルファイド単位が共重合されたポリマーを用いることができる。
【0021】
ポリフェニレンサルファイドを用いた形態は本発明の最も好ましい形態のひとつである。ポリフェニレンサルファイドは、剛直な骨格を有するポリマーで高い剛性を有し、炭素繊維などの強化繊維との組み合わせで高い力学的特性を発現する。このため、たとえ強化繊維の重量平均繊維長が1mm〜20mmと短めであったとしても比較的高い力学的特性を示す。さらに繊維長がより長かったり、連続強化繊維であった場合には、さらに高い特性を示す。また難燃性であり、各種電子機器や自動車用電装部品などの難燃性が求められる用途に好適である。さらに、通常のp−ポリフェニレンサルファイドを主体とするポリフェニレンサルファイドは結晶化速度が速く、通常複合一体成形が難しい系であるが、本発明を適用し、例えば熱可塑性樹脂Cに結晶化温度を低くした(結晶化速度を遅くした)樹脂系を用いることにより接合強度の高い複合成形体を得ることができる。
【0022】
また、別の組み合わせとして、熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bが、ポリアミドからなり、熱可塑性樹脂Cが、共重合ポリアミドからなる形態も採用できる。
【0023】
なお、本発明における熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bと、熱可塑性樹脂Cの組み合わせは、上述の例に限らない。熱可塑性樹脂C側の結晶化温度が熱可塑性樹脂Aや熱可塑性樹脂B側に比較して低いものが望ましく、これを実現するための手法も限定されない。高分子の結晶化温度を変化させる手法として公知の技術を活用することができ、上述のコポリマーを使用した手法以外にもタルク、カオリン、有機リン化合物、特定のポリマーの少量添加など、各種結晶核剤を添加して結晶化温度を制御することができる。また、熱可塑性樹脂A、熱可塑性樹脂B、熱可塑性樹脂Cの主ポリマー鎖の末端を特定の基とすることによっても結晶化温度を変化させることが可能である。
【0024】
また、本発明に係る複合成形体の製造方法において、用いる強化繊維の種類としてはとくに限定されず、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維などを使用でき、これらを組み合わせたハイブリッド構成とすることも可能である。複合成形体の製造の強度設計や製造の容易性等を狙う場合、とくに炭素繊維を含む形態が好ましい。特に連続繊維を用いた予備成形体の強化繊維に炭素繊維を用いるとその高い強化繊維の特徴を最も強く発揮させることができる。
【0025】
本発明では、上記のような方法により製造された複合成形体も提供される。製造される複合成形体の形状や構造はとくに限定されない。予備成形体aと予備成形体bの融着部は、その形状の許す限り広い面積を確保することが望ましい。嵌合形状とすることもできる。予備成形体の少なくとも片方は、通常の射出成形機を用いてペレット様材料を射出して得たものとすることを例示できる。さらに、これに類似する動作をする成形手法を用いることもできる。例えば射出とプレスの動作を組み合わせているいわゆる射出プレス成形を用いることもできる。射出成形やその類似技術に用いるペレットは、通常のコンパウンドペレットでもよいし、いわゆる長繊維ペレットであってもよい。