特許第5768820号(P5768820)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5768820
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】バイアル用ゴム栓
(51)【国際特許分類】
   B65D 39/00 20060101AFI20150806BHJP
【FI】
   B65D39/00
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-550647(P2012-550647)
(86)(22)【出願日】2010年12月28日
(86)【国際出願番号】JP2010073807
(87)【国際公開番号】WO2012090328
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2013年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 隆
(72)【発明者】
【氏名】内田 忠敏
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 昌暢
(72)【発明者】
【氏名】小松 良二
【審査官】 柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/103453(WO,A1)
【文献】 特開2002−306569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 39/00
B65D 39/04
B65D 51/00
A61J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フランジを有する笠部と、該笠部の天面に凹部を有するように形成され、前記凹部から底面まで前記笠部を軸方向に縦断するように形成された穿刺領域と、前記笠部の軸心に対して前記穿刺領域より外方位置であって、且つ、前記笠部の底面に下方に突出するように形成された脚部とを備えるバイアル用ゴム栓であって、
前記穿刺領域はゴム硬さ20〜35のゴムで形成され、
かつ、前記笠部の前記凹部以外の天面はゴム硬さ58〜90のゴムで形成され、
前記笠部の前記凹部以外の天面を除いてゴム硬さ20〜35のゴムで形成されてなる、バイアル用ゴム栓。
【請求項2】
フランジを有する笠部と、該笠部の天面に凹部を有するように形成され、前記凹部から底面まで前記笠部を軸方向に縦断するように形成された穿刺領域と、前記笠部の軸心に対して前記穿刺領域より外方位置であって、且つ、前記笠部の底面に下方に突出するように形成された脚部とを備えるバイアル用ゴム栓であって、
前記穿刺領域はゴム硬さ20〜35のゴムで形成され、
かつ、前記笠部の前記凹部以外の天面はゴム硬さ58〜90のゴムで形成され、
前記笠部の前記凹部以外の天面及び側部を除いてゴム硬さ20〜35のゴムで形成されてなる、バイアル用ゴム栓。
【請求項3】
フランジを有する笠部と、該笠部の天面に凹部を有するように形成され、前記凹部から底面まで前記笠部を軸方向に縦断するように形成された穿刺領域と、前記笠部の軸心に対して前記穿刺領域より外方位置であって、且つ、前記笠部の底面に下方に突出するように形成された脚部とを備えるバイアル用ゴム栓であって、
前記穿刺領域はゴム硬さ20〜35のゴムで形成され、
かつ、前記笠部の前記凹部以外の天面はゴム硬さ58〜90のゴムで形成され、
前記笠部の前記凹部以外の天面及び前記フランジを除いてゴム硬さ20〜35のゴムで形成されてなる、バイアル用ゴム栓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイアル用ゴム栓に関する。より詳しくは、凍結乾燥製剤の製造・使用に適したバイアル用ゴム栓である。
【背景技術】
【0002】
少量の薬液を保存する容器として、バイアルやアンプルがある。バイアルは、主にガラスやプラスチック等の少量容器に、容器の開口部にゴム栓が打栓されることで密閉されている。容器を開封(又は破壊)せずとも、ゴム栓に中空針を差し込むことによってシリンジ等の器具と連通させることができるため、不用意に容器を開放することなく衛生的に作業が可能である。そのため、液状粉状問わず、様々な薬剤の容器として使用されている。
【0003】
一般的に、バイアルは次の手順によって製造される。上部が開口した円筒瓶容器に所定量の薬剤を封入し、開口にゴム栓の脚部を軽く挿入(半打栓)する。このように用意した複数個の打栓機にて打栓される。(凍結乾燥製剤バイアルの場合は、バイアルを半打栓の状態で凍結乾燥機に入れ、薬剤を凍結乾燥させ、打栓機で打栓する)。打栓は押さえ板を上方から打ち落とし、ゴム栓を押し込むことによって行われる。
【0004】
上記に説明したように、バイアルは使用及び製造されるのであるが、使用時に要求される特性と製造時に要求される特性とが相反する。使用時においては、中空針をゴム栓に刺通する。この時、ゴムの硬度が高いと、ゴム栓へ中空針を穿刺する際にゴム栓を削ってしまう所謂コアリングが生じ、微小なゴム片(不純物)がバイアル内に入ってしまうおそれがある。そのため、コアリングの防止の点から、中空針が穿刺される部分は硬度を低くすることが望まれる。
【0005】
反対に、製造時においては、打栓工程において押さえ板とゴム栓とが圧接される。その際に、押さえ板にゴム栓の天面が貼り付いてしまうと、押さえ板上昇時ゴム栓とともにバイアルも持ち上げられることになり、持ち上げられたバイアルが落下して割れ、ロットが全て使用できないものとなってしまう。そのため、押さえ板とゴム栓との貼り付きを回避する点から、ゴム栓の天面の硬度を高くすることが望まれる。
【0006】
ゴム栓に複数の機能をもたせるために、複数のゴム材質を用いて形成されたものとして、特開2004−231216が挙げられる。このものは、バイアル内の薬剤の長期安定性及びゴム栓の薬剤による変質を防ぐ面から、全体を塩素化ポリエチレンゴムまたはクロロスルホン化ポリエチレンゴムなどで形成し、これらの材質では発揮されない穿刺痕の再閉塞性を補うために、針刺部分を天然ゴム、イソプレンゴムまたはブタジエンゴムを用いているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−231216号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、コアリングの発生防止と押さえ板への貼り付きを考慮すると、特許文献1のゴム栓の構成では不十分である。特許文献1のゴム栓は、押さえ板への貼り付きについては笠部の天面に突起を設けることによって防いでいるが、現状は、天面に突起を設けるだけでは押さえ板の貼り付きは防ぐことができず、バイアル破損が起こることがある。また、再密閉性を考慮して針刺部分を天然ゴム、イソプレンゴムまたはブタジエンゴムなどで形成することが示唆されているが、これらのゴムは、気体透過性が大きいため、瓶内と外気とをこれらゴムを介する状態で形成することは、バイアル内の薬剤の保存状態に影響を及ぼしてしまうのである。コアリング対策としては、弾性の高いゴムを笠部天面から底面まで縦断するように設けなければならないため、これらのゴムを用いることは好ましくない。そのため、バイアル内の薬剤保存性(薬剤の変質、ゴム栓の劣化等)を損なわないことを前提に、押さえ板への貼り付き及びコアリングの発生を防ぐことの可能なゴムを組み合わせてバイアル用ゴム栓を製造することが望ましい。
【0009】
本発明の目的は、複数のゴムを用い、押さえ板への貼り付き及びコアリングが生じないバイアル用ゴム栓を提供することにある。
【0010】
そこで、本発明者らは鋭意検討の結果、以下の発明に想到した。フランジを有する笠部と、該笠部の天面に凹部を有するように形成され、前記凹部から底面まで前記笠部を縦断するように形成された穿刺領域と、前記笠部の軸心に対して前記穿刺領域より外方位置であって、且つ、前記笠部の底面に下方に突出するように形成された脚部とを備えるバイアル用ゴム栓であって、前記穿刺領域はゴム硬さ20〜35のゴムで形成され、かつ、前記笠部の前記凹部以外の天面はゴム硬さ58〜90のゴムで形成されてなるバイアル用ゴム栓である。
【0011】
また、前記笠部の前記凹部以外の天面を除いてゴム硬さ20〜35のゴムで形成してもよいし、前記笠部の前記凹部以外の天面及び側部を除いてゴム硬さ20〜35のゴムで形成してもよい。これら以外にも、前記笠部の前記凹部以外の天面及び前記フランジを除いてゴム硬さ20〜35のゴムで形成してもよい。
【0012】
上記バイアル用ゴム栓は、押さえ板と圧接する笠部天面はゴム硬さの高いゴムで形成されており、中空針が穿刺される部分はゴム硬さの低いゴムで形成されているため、押さえ板への貼り付きを防ぎ、コアリングも発生しない。そのため、製造時のバイアルの破損や使用時の薬剤へのゴム微片の混入がないことを見出し本願発明に至った。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバイアル用ゴム栓は、押さえ板への貼り付き及びコアリングが生じないため医療に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のバイアル用ゴム栓の一実施例の(a)天面図及び(b)縦断面図である。
図2】本発明のバイアル用ゴム栓の他の実施例の(a)天面図及び(b)縦断面図である。
図3】本発明のバイアル用ゴム栓の他の実施例の縦断面図である。
図4】本発明のバイアル用ゴム栓の他の実施例の縦断面図である。
図5】本発明のバイアル用ゴム栓の他の実施例の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図を用いて本発明のバイアル用ゴム栓を説明する。しかし、本願発明は、これら図面に記載した実施態様例に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明のバイアル用ゴム栓の一実施態様例の縦断面図である。図2は、本発明のバイアル用ゴム栓の複数の穿刺領域を有する実施態様例の縦断面図である。図3は、本発明のバイアル用ゴム栓の他の実施態様例の縦断面図である。図4は、本発明のバイアル用ゴム栓の他の実施態様例縦断面図である。図5は、本発明のバイアル用ゴム栓の他の実施態様例の縦断面図である。
【0017】
本発明のバイアル用ゴム栓について、図1を例として説明する。フランジ31を有する笠部は、天面中央に凹部を有し、凹部から放射状に一定方向隔てて等間隔に複数の突起32が形成されている。笠部の中央には、凹部から底面まで縦断するように穿刺領域が設けられている。笠部の底面には、穿刺領域を囲うように、下方に突出する円弧柱状の脚部が2部形成されている。穿刺領域は、クレーを含まない塩素化ブチルゴム(ゴム硬さの低いゴム)で形成されており、穿刺領域以外は、塩素化ブチルゴム100に対してクレーを60含むゴム硬さの高いゴムで形成されている。このようにゴムを選定することによって、中空針を刺通してもコアリングが発生せず、また、押さえ板への貼り付きも生じない。
【0018】
上記実施例において、ゴム硬さの高いゴム及びゴム硬さの低いゴムとして、共に塩素化ブチルゴムを用いている。塩素化ブチルゴムは気体非透過性に優れ、薬剤による劣化もなく、薬剤への溶出もないため、好適に用いることができる。ゴム栓のゴム硬さは、塩素化ブチルゴムにクレーを配合させることによって調節している。一例として、塩素化ブチルゴムを挙げたが、塩素化ブチルゴムに限らず、バイアルのゴム栓として使用可能なように気密性に富むものであり、また、内部の薬剤によって劣化したり、内部の薬剤に成分が溶出したりするなどの悪影響を及ぼさないものであればよい。その上で、ゴム栓の笠部天面には、押さえ板に貼り付かないゴム硬さであるものを使用し、穿刺領域には中空針の穿刺によってコアリングが発生しない硬さであるものを使用するのであればゴムは特に限定されない。また、上記実施例においては笠部天面と穿刺領域とを共に塩素化ブチルゴムで形成しているが、笠部天面と穿刺領域とが同一のゴムでなくともよい。
【0019】
穿刺領域について、上記実施例においては、笠部天面の中央に凹部が1つ形成されており、凹部から笠部底面にかけて縦断するように形成されている。しかしながら、凹部は笠部天面中央に設けられなくても、また、1つでなくても複数でもよく、例えば、図2に示されるように、笠部天面の中心から所定距離隔てて2つの凹部を形成し、それぞれの凹部から笠部底面まで縦断するように穿刺領域を設けてもよい。この時、穿刺領域が笠部の脚部で囲われる領域よりも内側へ存在するようにする。穿刺領域は笠部の天面に対して凹部を有するように設けられていれば、押さえ板との接触が回避でき、穿刺領域が押さえ板に貼り付くことはない。
【0020】
脚部については、バイアル瓶の開口部に気密・液密に挿着されるものであれば、特に形状は問わない。単なる円筒形状でもよい。好ましくは、凍結乾燥バイアルのゴム栓に用いられるように、円筒柱状体の一部に欠損部分を設けたものがよく、上記実施例に見られるタイプや、C状柱状体や、円筒であって笠部側に孔を設けたもの等がよい。
【0021】
他の実施例として、図3に示すように、凹部を除く笠部天面及びフランジ31をゴム硬さの高いゴムで形成し、それ以外の部分をゴム硬さの低いゴムで形成してもよいし、図4に示すように、凹部を除く笠部天面及び側部をゴム硬さの高いゴムで形成し、それ以外の部分をゴム硬さの低いゴムで形成してもよいし、図5に示すように、凹部を除く笠部天面及びフランジの瓶と接触しない部分をゴム硬さの高いゴムで形成し、それ以外の部分をゴム硬さの低いゴムで形成してもよい。特に、図4図5のように形成すると、ゴム硬さの低いゴムが瓶と接触するため、より密閉しやすくなる。
【0022】
次に、図1のバイアル用ゴム栓を例に、製造方法を説明する。まず、笠部が円環ドーナツ状となっている第一の金型に、ゴム硬さの高いゴムの材料を投入し、型締めして半加硫し、一次成型品を形成する。その後、一次成型品を第二の金型に移し、ゴム硬さの低いゴムの材料を投入し、型締めして全加硫することによって得ることができる。なお、充填剤の配合例は以下表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1の配合によって形成したゴム栓について、ゴム栓をバイアル瓶に打栓し、穿刺領域に、ゴム栓天面側からφ6mmの金属棒を60Nの力で押して穿刺領域の部分がその他の部分と分離するか否かを確認する界面剥離試験を10試料行ったがいずれも分離することはなかった。
【0025】
製造方法についても、上記に限定されるものではなく、様々な方法で製造することが可能である。例えば、一旦、半加硫によってゴム硬さの高いゴムを形成した後に、穿刺領域をくりぬき、くりぬいた部分にゴム硬さの低いゴムの材料を充填し、型締めして全加硫することでも得られる。
【0026】
表1に示したゴム栓について、打栓時の押さえ板への貼り付き及び中空針穿刺時のコアリング発生の有無を確認するために、天面プレートくっつき試験及びコアリング試験を行った。その結果、ゴム栓は、プレートに貼り付かず、またコアリングを発生することもなかった。
【0027】
<天面プレートくっつき試験>
25個のバイアル瓶に各々ゴム栓をSUS#400プレートで半打栓し、5.0Kgf/cm2の押し込み圧で15分間保持した後、SUSプレートを上昇させる。この時にくっついてバイアルが持ち上げられ、落下するまでの時間及び倒瓶本数を数える。
【0028】
表1に示したゴム栓について、プレートにくっつくことはなかった。プレートにくっつかないので、倒瓶もなかった。
【0029】
<コアリング試験>
10個のゴム栓について各々ゴム栓の穿刺領域に、中空針(18G11/2’RB金属針 ニプロ製)を3000mm/minで50回穿刺し、ゴム片及びゴム欠の有無について確認する。
【0030】
表1に示したゴム栓について、マイクロゴム硬度計MD−1capa(高分子計器株式会社製)を用いてゴム硬さを測定した。穿刺領域のゴム硬さは30、穿刺領域以外の部分のゴム硬さは65であった。
【0031】
上記配合例以外にも、様々なゴムによってバイアル用ゴム栓を作成した。その充填剤の配合例を表2に示す。表2に一覧されているゴムをそれぞれ、ゴム硬さの高いゴム及びゴム硬さの低いゴムとして用いて、バイアル用ゴム栓を作成した。
【0032】
【表2】
【0033】
上記バイアル用ゴム栓について天面プレートくっつき試験及びコアリング試験を同様に行った。表3には、配合A〜Gのゴム硬さと、試験の結果とを一覧にした。押さえ板への貼り付きを防止する効果を発揮するゴム硬さは、58〜90であり、コアリングが生じないゴム硬さは20〜35となる。ここで、ゴム硬さ20〜90とは、ゴムとしての機能を発揮可能な値である。
【0034】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のバイアル用ゴム栓は、上述のように押さえ板への貼り付き及びコアリングが生じないため医療に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 ゴム栓
2 穿刺領域
3 笠部
4 脚部
図1
図2
図3
図4
図5