特許第5768887号(P5768887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5768887化学蓄熱材、その製造方法および化学蓄熱構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5768887
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】化学蓄熱材、その製造方法および化学蓄熱構造体
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/16 20060101AFI20150806BHJP
【FI】
   C09K5/16
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-530045(P2013-530045)
(86)(22)【出願日】2012年8月22日
(86)【国際出願番号】JP2012071219
(87)【国際公開番号】WO2013027778
(87)【国際公開日】20130228
【審査請求日】2014年2月7日
(31)【優先権主張番号】特願2011-181822(P2011-181822)
(32)【優先日】2011年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 正和
(72)【発明者】
【氏名】志満津 孝
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(72)【発明者】
【氏名】松本 満
【審査官】 服部 芙美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−302077(JP,A)
【文献】 特開昭57−016797(JP,A)
【文献】 特開平01−212893(JP,A)
【文献】 特開2005−213459(JP,A)
【文献】 特表平06−508425(JP,A)
【文献】 特開平06−136357(JP,A)
【文献】 国際公開第01/005610(WO,A1)
【文献】 特表平07−501394(JP,A)
【文献】 特表平05−500523(JP,A)
【文献】 特開昭60−155285(JP,A)
【文献】 汲田幹夫 他,塩化カルシウム添着吸着材の調製とその水蒸気吸着特性,化学工学会秋季大会研究発表講演要旨集(CD-ROM),2007年,39th,p.D302
【文献】 VASILIEV,L.L. et al,Solar-gas solid sorption refrigerator,Adsorption,2001年,Vol.7, No.2,p.149-161
【文献】 Ammonia Absorption on Alkaline Earth Halides as Ammonia Separation and Storage Procedure,Bull.Chem. Soc. Jpn.,2004年,VOL.77,NO.1,PAGE.123-131
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00
F28D20/00
CAPlus,REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒の吸蔵または放出により発熱または吸熱する化学蓄熱材であって、
金属元素(M)とハロゲン元素(X)とからなりそれらの少なくとも一方が二種以上の元素からなる金属ハロゲン化物である複金属塩(MX、n:Mの平均価数)を含み、
該複金属塩は、二種以上のアルカリ土類金属元素とハロゲン元素とからなる複アルカリ土類金属ハロゲン化物であり、
該複アルカリ土類金属ハロゲン化物は、CaSr1−xCl(0<x<1)であることを特徴とする化学蓄熱材。
【請求項2】
前記熱媒は、アンモニアまたは水であり、
該アンモニアを吸蔵することによりアンミン錯体(MX−aNH 、a:アンモニアの配位数)または該水を吸蔵することにより水和物(MX−bHO 、b:水の配位数)となる請求項1に記載の化学蓄熱材。
【請求項3】
二種以上の金属塩を混合した混合金属塩を焼成する焼成工程を備え、
請求項1または2に記載の化学蓄熱材が得られることを特徴とする化学蓄熱材の製造方法。
【請求項4】
さらに、前記焼成工程前に前記混合金属塩を加圧成形した成形体を得る成形工程を備え、
前記焼成工程は、該成形体を焼成した焼成体を得る工程である請求項に記載の化学蓄熱材の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の化学蓄熱材と該化学蓄熱材を保持するバインダーとからなることを特徴とする化学蓄熱構造体。
【請求項6】
前記バインダーは、化学蓄熱材よりも熱伝導性に優れる高熱伝導材である炭素繊維からなる請求項に記載の化学蓄熱構造体。
【請求項7】
さらに、前記化学蓄熱材および前記バインダーよりも熱伝導性に優れる高熱伝導材を含む請求項に記載の化学蓄熱構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複金属塩からなる化学蓄熱材、その製造方法およびそれを用いた化学蓄熱構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
環境意識の高揚に伴い、省エネルギー化やエネルギー効率の向上を図る研究開発が盛んになされている。その一つに、蓄熱密度が大きく、保温しなくても長期間の蓄熱が可能な化学蓄熱材を用いた化学蓄熱システムが着目されている。これによると、各種の機器やプラントから生じる比較的低温な廃熱(または排熱)等も有効に活用し得る。
【0003】
化学蓄熱システムは、化学蓄熱材と熱媒貯蔵材の間で熱媒(アンモニアまたは水等)を移動させることにより、蓄熱(吸熱)と放熱(発熱)を行う。このシステムの高効率化やコンパクト化を図るには、化学蓄熱材と熱媒貯蔵材の間で、作動温度や作動圧力の整合(マッチング)を図ることが重要となる。このため化学蓄熱材には、単に蓄熱密度が高いのみならず、熱媒貯蔵材に整合した作動温度や作動圧力の下で、熱媒を効率的に吸蔵または放出し得るものであることが求められる。
【0004】
この化学蓄熱材には、従来、水との反応により水酸化物を形成する酸化カルシウム(生石灰)等が一般的に用いられていたが、最近では、より低温域で作動可能なアンモニア錯体(アンミン錯体)を形成する金属塩化物などが利用されつつある。もっとも、塩化カルシウム(CaCl)等の単金属塩のみからなる化学蓄熱材では、その作動温度や作動圧力が固定的であり、必ずしも熱媒貯蔵材に整合的であるとは限らず、化学蓄熱システムの効率的な運転には限界があった。そこで複数種の単金属塩を用いた化学蓄熱材が提案されており、これに関連する記載が例えば下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3111667号公報
【特許文献2】特公昭59−25159号公報
【特許文献3】特開平1−302077号公報
【特許文献4】特表2007−531209号公報
【特許文献5】米国特許5289690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、CaClとCaBrを溶解、濃縮および乾燥させたカルシウム塩混合物が、それらの単なる混合物よりも、アンモニア(NH)放出温度が高くなる旨の記載がある。もっとも、この特許文献では、そのカルシウム塩混合物の結晶構造や作用等が明らかではない。また、そのカルシウム塩混合物は、アンモニアを放出する際の配位数変化がCaCl単体よりも小さく、可逆的に使用できる蓄熱密度も小さい。
【0007】
特許文献2には、塩化ナトリウム(NaCl)や塩化カリウム(KCl)を、溶融状態の塩化亜鉛(ZnCl)へ適量混在させることにより、NHと反応するZnClの蒸気圧や溶融温度を低下させ得る旨の記載がある。しかし、この場合のNaClやKClは、NHを吸蔵・放出する溶融ZnClの安定化を単に図っているに過ぎない。つまり、特許文献2は特性の異なる新たな化学蓄熱材を提供するものではない。
【0008】
特許文献3〜5には、化学蓄熱システム等に関する開示があり、それに用いる化学蓄熱材の一例として金属ハロゲン化物を挙げている。しかし、化学蓄熱材自体に関する具体的な記載はない。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来の単金属塩からなる化学蓄熱材とは熱媒吸放出反応が生じる圧力・温度領域や配位数変化が異なり、熱媒貯蔵材により整合的で、化学蓄熱システムを効率的に作動させ得る新たな化学蓄熱材およびその製造方法を提供することを目的とする。また、その化学蓄熱材を用いた化学蓄熱構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、単金属塩である塩化カルシウム(CaCl)と塩化ストロンチウム(SrCl)から、それらの混合金属塩とは異なる複金属塩であるCa0.5Sr0.5Cl(CaSrCl)を合成することに成功した。この複金属塩は、従来の単金属塩とは異なる条件下で熱媒吸放出反応を生じ、大きな配位数変化を示した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0011】
《化学蓄熱材》
(1)本発明の化学蓄熱材は、熱媒の吸蔵または放出により発熱または吸熱する化学蓄熱材であって、金属元素(M)とハロゲン元素(X)とからなりそれらの少なくとも一方が二種以上の元素からなる金属ハロゲン化物である複金属塩(MX、n:Mの平均価数)を含み、該複金属塩は、二種以上のアルカリ土類金属元素とハロゲン元素とからなる複アルカリ土類金属ハロゲン化物であり、該複アルカリ土類金属ハロゲン化物は、CaSr1−xCl(0<x<1)であることを特徴とする。
【0012】
(2)本発明の化学蓄熱材は、単金属塩(一種の金属イオン(カチオン)と一種のアニオンがイオン結合した化合物)の単なる混合物ではなく、複数の金属元素および/または複数のハロゲン元素が、原子レベルで複合化(イオン結合)した複金属塩からなる。
【0013】
この複金属塩は、化学蓄熱材として用いられてきた単金属塩やその混合物(混合金属塩)とは異なる種々の特性を示し得る。例えば、結晶構造、熱媒吸放出反応を生じる平衡圧力、その際の配位数変化等が従来の単金属塩と異なる。また、その平衡圧力や配位数変化などは、複金属塩を構成する元素の比率(複合比)を調整することにより変更可能である。従って本発明によれば、熱媒貯蔵材の作動特性ひいては化学蓄熱システムの効率化に適した、高蓄熱密度の化学蓄熱材を提供可能となる。
【0014】
(3)このように本発明に係る複金属塩が、従来の単金属塩とは異なる特性を発現する理由は必ずしも定かではないが、現状では次のように考えられる。すなわち、カチオンとアニオンの平均イオン半径比と電気陰性度比が適切な値となり配位数変化が大きな結晶構造と格子体積を有するようになったためと考えられる。
【0015】
(4)本発明の化学蓄熱材は、上述した複金属塩を含むものであればよく、二種以上の複金属塩からなるもの、複金属塩と単金属塩が混在したものなどでもよい。複金属塩に他の金属塩等を混在させて化学蓄熱材の成分を調整することにより、熱媒貯蔵材との整合性、熱媒吸放出反応の平衡域、熱媒の配位数変化等のさらなる最適化を図り得る。
【0016】
《化学蓄熱材の製造方法》
上述した本発明の化学蓄熱材は、例えば、次のような本発明の製造方法により得られる。すなわち、上述した化学蓄熱材は、二種以上の金属塩を混合した混合金属塩を焼成する焼成工程により得ることが可能である。焼成工程により、金属塩に含まれてた金属イオン(例えばCa2+、Sr2+)やハロゲンイオン(例えばCl、Br等)がそれぞれ拡散して、単なる混合金属塩よりも熱力学的に安定な複金属塩(例えば、CaSr1−xCl)が生成されると考えられる。
【0017】
また本発明の製造方法は、前記焼成工程前に混合金属塩を加圧成形した成形体を得る成形工程をさらに備え、前記焼成工程はその成形体を焼成した焼成体を得る工程としてもよい。これにより、より均一的な化学蓄熱材を得ることが可能となる。なお、得られた焼成体をそのまま化学蓄熱材として用いても良いし、それを解砕、粉砕したものを化学蓄熱材として用いてもよい。
【0018】
《化学蓄熱構造体》
(1)本発明は、上述した化学蓄熱材およびその製造方法としてのみならず、その化学蓄熱材からなる化学蓄熱構造体としても把握できる。すなわち本発明は、上述した化学蓄熱材と該化学蓄熱材を保持するバインダーとからなることを特徴とする化学蓄熱構造体としても把握できる。これにより反応器等の仕様に応じた形態をもち、機械的強度に優れた化学蓄熱構造体が得られる。
【0019】
(2)この化学蓄熱構造体は、さらに、化学蓄熱材およびバインダーよりも熱伝導性に優れる高熱伝導材を含むものであると好適である。高熱伝導材を含むことにより、化学蓄熱構造体と外部との熱交換速度が大きくなり、熱媒吸放出反応が促進されて化学蓄熱システムの高効率化が図られる。なお、バインダーと高熱伝導材は、別材料である必要はなく、同一材料でもよい。例えば、高熱伝導材である炭素繊維をバインダーとして使用することもできる。
【0020】
《その他》
【0021】
特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値や数値範囲に含まれる任意の数値を適当に選択または抽出し、それらを新たな下限値または上限値として「a〜b」のような数値範囲を任意に新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】各試料のX線回折パターンを示すグラフである。
図2】各試料のアンモニアガス圧力とアンモニア配位数の関係を示すグラフである。
図3A】試料No.1の化学蓄熱材を構成する複金属塩化物(Ca0.5Sr0.5Cl)に係る結晶構造図である。
図3B】その一方の原料である単金属塩化物(CaCl)に係る結晶構造図である。
図3C】その他方の原料である単金属塩化物(SrCl)に係る結晶構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の内容を上述した本発明の構成として付加し得る。本明細書で説明する内容は、化学蓄熱材のみならず、その製造方法や化学蓄熱構造体にも適宜適用される。製造方法に関する構成は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば物に関する構成になり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0024】
《化学蓄熱材》
(1)MX
本発明に係る複金属塩は、MX(M:金属元素、X:ハロゲン元素、MX、n:Mの平均価数)と表され、MまたはXの少なくとも一方が二種以上の元素からなる複金属塩である。ここでMの平均価数(n)とは、複数の金属元素がそれぞれ金属イオンとなったときのイオン価数の平均値である。例えば、二種の金属元素(M1、M2)と一種のハロゲン元素(X)とからなり、M1のイオン価数がm1、M2のイオン価数がm2、金属元素の全原子数に対するM1の原子数の割合(複合比)がx(0<x<1)である複金属塩(M1M21−x)の場合、n=m1×x+m2×(1−x)となる。
【0025】
また複金属塩が複数のハロゲン元素からなる場合もある。ハロゲン元素のイオン価数は通常いずれも−1であるから、例えば二種のハロゲン元素(X1、X2)からなる複金属塩なら、ハロゲン元素の全原子数に対するX1の原子数の割合(複合比)をy(0<y<1)として、M(X1X21−yと表される。さらに、二種の金属元素と二種のハロゲン元素からなる複金属塩であればM1M21−x(X1X21−yと表される。
【0026】
(2)結晶構造
本発明に係る複金属塩は、構成元素に応じて種々の結晶構造をとり得る。例えば、CaF型、SrI型、CaCl型、SrBr型、PbCl型、CdCl型、CdI型等の結晶構造を有する。複金属塩の結晶構造は限定されず、その結晶構造は、基本となる単金属塩の結晶構造と異なる場合もあるし、同じ場合もある。ただし、結晶構造が同じ場合でも、複金属塩の格子体積は単金属塩とは異なる値を示す。これにより、複金属塩は単金属塩とは異なる特性(平衡圧力、配位数変化等)を発現し得る。
【0027】
複金属塩は、特定の作動域で熱媒の配位数変化が急変するほど、熱媒貯蔵材に整合的な蓄熱密度が高くなり好ましい。そこで複金属塩は、熱媒を吸蔵または放出する熱媒吸放出反応が平衡状態となる平衡域の近傍(前後)で、熱媒の配位数が少なくとも4以上、5以上さらには6以上変化する結晶構造を有すると好適である。
【0028】
(3)親和性
本発明に係る複金属塩が二種以上の金属元素(M1、M2・・・)からなる場合、それら金属元素は相互に親和性の高い元素であると好適である。これにより安定した複金属塩が合成され易い。また親和的な金属元素からなる二種以上の単金属塩を原料とする複金属塩は、組成や複合比に依るが、熱媒吸放出反応の作動域がそれら単金属塩の作動域の中間となり易い。従って、単金属塩の種類とそれらの配合比(複合比)を適切に選択した複金属塩を用いれば、単金属塩を用いた場合に生じていた作動域の空白域を補填し得る。その結果、熱媒貯蔵材との整合性の向上ひいては化学蓄熱システムの効率性の向上を図れ得る。なお、本明細書でいう親和性は、二種以上の金属元素が、単体として類似した特性を有するだけではなく、ハロゲン化物(単金属塩)として熱媒吸放出反応時に生じる熱量が近似していることも含む。例えば、そのハロゲン化物が熱媒である水と水和物を形成するときの生成熱量や熱媒であるアンモニアとアンミン錯体を形成するときの生成熱量が、二種以上の金属元素間で近似している場合に、本明細書では金属元素間に親和性があるという。
【0029】
複数の金属元素が親和的である具体的な場合として、金属元素が同族元素である場合、同価数のイオンとなり得る場合、電子配置が近い場合、相互に固溶体を生成する場合等である。また単金属塩(ハロゲン化物)として、熱媒吸放出反応を生じる作動域、配位数または配位数変化等が近い場合等である。
【0030】
親和的な金属元素を具体的に挙げると、アルカリ土類金属元素間(Mg、Ca、Sr、Ba等)等がある。このような金属元素からなる複金属塩の好例として、二種以上のアルカリ土類金属元素とハロゲン元素からなる複アルカリ土類金属ハロゲン化物がある。より具体的には、複アルカリ土類金属塩化物であるCaSr1−xCl(0<x<1)がある。この場合、結晶指標値(V/Z)が50〜130Å、75〜90Åさらには77〜85Åとなる。ちなみに、この複金属塩は複合比xの値に応じて、CaF型、SrI型、CaCl型またはSrBr型のいずれかの結晶構造をとる。
【0031】
なお、複金属塩が二種以上のハロゲン元素からなる場合、そのハロゲン元素は、同族元素(第17族元素)の中でも親和的な塩素(Cl)、臭素(Br)またはヨウ素(I)のいずれか二種以上であると好適である。
【0032】
本発明に係る複金属塩の好例として、上述したもの以外に、SrBa1−yCl(0<y<1)、Sr(ClBr1−z(0<z<1)、KSrCl 、KSrCl等がある。なお、y、zは複合比である。
【0033】
(4)その他
本発明の化学蓄熱材は、複金属塩単体のみでも、複金属塩と単金属塩等との混合物でもよい。また、それら複金属塩や単金属塩は水和物またはアンミン錯体であってもよい。
【0034】
《化学蓄熱材の製造方法》
(1)原料
原料となる金属塩は、その種類を問わず、単金属塩のみでもよいし、複金属塩を含むものでもよい。この原料となる単金属塩として、例えば、LiCl、NaClまたはKClなどのアルカリ金属塩化物、MgCl 、CaCl 、SrClなどのアルカリ土類金属塩化物、MnCl、FeCl、CoCl、NiCl等の遷移金属塩化物などがある。これらの金属塩の組み合わせは自由であるが、上述したように親和的な金属塩の組み合わせが好ましい。
【0035】
(2)成形工程
成形工程は、二種以上の金属塩を混合した混合金属塩を加圧成形した成形体を得る工程であり、任意になされる。この際の成形圧力は、例えば、40MPa以上さらには60MPa以上であると好ましい。成形圧力が過小では、二種以上の金属塩の接触が不十分となり、焼成工程における拡散の促進を十分には図れない。成形圧力の上限は問わないが、300MPa以下さらには150MPa以下とすると生産性がよい。また成形工程は、潮解を避けるために、水分濃度が0.3%以下、100ppm以下、10ppm以下さらには1ppm以下の低湿度環境下で行うと好ましい。
【0036】
(3)焼成工程
焼成工程は、上記の混合金属塩を焼成する工程であり、複金属塩の構成元素を拡散させて原子レベルで複合化させるために必須な工程である。本工程前に成形工程を行う場合、焼成工程は上記の成形体を焼成した焼成体を得る工程となる。焼成温度は300〜800℃、500〜700℃さらには550〜650℃であると好ましい。焼成温度が過小では各元素の拡散が不十分となり、焼成温度が過大では生産性が低下し得る。また焼成工程は、大気成分との反応による化学蓄熱材の劣化を防ぐため、真空度1000Pa以下、100Pa以下さらには10Pa以下でなされると好ましい。
【0037】
(4)その他
焼成工程で焼成体が得られる場合、それをそのまま化学蓄熱材として用いても良いが、適宜、解砕、粉砕等して化学蓄熱材として用いてもよい。さらには、複金属塩の粉末粒子を造粒したものを化学蓄熱材としてもよい。
【0038】
《化学蓄熱構造体》
本発明の化学蓄熱構造体は、基本的に上述した複金属塩からなる化学蓄熱材とこの化学蓄熱材を保持するバインダーとからなり、適宜、高熱伝導材を含む。
【0039】
(1)化学蓄熱材
原料となる化学蓄熱材(蓄熱粒子)は、上述した複金属塩の水和物やアンミン錯体でも良い。この化学蓄熱材は、粉末状または顆粒状であるが、その粒形や粒径等は問わない。もっとも、バインダーとの混合性や成形性等を考慮して、その粒径は電子顕微鏡で観察して1μm〜1mmであると好ましい。
【0040】
(2)バインダー
バインダーは、その種類を問わないが、無機材料が好ましい。また、ケイ酸塩や低融点ガラスなどを用いると好ましい。このケイ酸塩は、アルカリケイ酸塩が好ましく、例えば、メタケイ酸ナトリウム(NaSiO)、メタケイ酸リチウム(LiSiO)、メタケイ酸カリウム(KSiO)、オルトケイ酸ナトリウム(NaSiO)、メタニケイ酸ナトリウム(NaSi)などのいずれかであると好ましい。また低融点ガラスには、ホウ珪酸(鉛)ガラス、鉛酸化物系ガラス、ビスマス酸化物系ガラス、バナジウム酸化物系ガラスなどがある。さらには、炭素繊維をバインダーとして用いることも可能である。このときの炭素繊維は、高熱伝導材としても機能すると共に、化学蓄熱構造体の骨格構造を形成して、その機械的強度を向上させる。
【0041】
(3)高熱伝導材
高熱伝導材を混在させることにより、化学蓄熱構造体中に熱伝導パスが形成され、その熱伝導性が向上する。高熱伝導材は、その種類を問わないが、例えば、炭素繊維や高熱伝導率のセラミックスなどである。炭素繊維は、アクリル繊維から作ったPAN系炭素繊維でも、ピッチから作ったPITCH系炭素繊維でも良い。セラミックスには、例えば、炭化ケイ素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)などがある。いずれの場合も、アンモニア等の熱媒中で安定なものが好ましい。
【0042】
ちなみに、化学蓄熱構造体の熱伝導性が高いほど好ましい理由は次の通りである。化学蓄熱システムの性能は、化学蓄熱構造体と熱媒(水またはアンモニア等)との反応速度に左右される。この反応速度は、(i)熱媒の化学蓄熱構造体への浸透速度(吸収速度、放出速度)、(ii)水和物やアンミン錯体等の生成速度、(iii)化学蓄熱構造体と外部との熱交換速度による影響を受ける。この中でも熱交換速度が律速的であり、化学蓄熱システムの性能に大きく影響する。従って化学蓄熱構造体中に、熱伝導性や熱伝達性に優れる高熱伝導材(炭素繊維等)が適量存在すると、その熱交換速度が向上し、ひいては化学蓄熱システムの性能が向上し得る。
【0043】
《化学蓄熱構造体の製造方法》
本発明の化学蓄熱構造体の製造方法は、基本的に、上述した化学蓄熱材(蓄熱粒子)とバインダーさらには任意の高熱伝導材を混合する構造体混合工程と、得られた混合物を加圧成形する構造体成形工程とからなり、さらにその成形体を加熱して焼成体とする構造体焼成工程を備えると好適である。
【0044】
(1)構造体混合工程
構造体混合工程は、例えば、化学蓄熱材とバインダーさらには高熱伝導材とを混合(または分散)させた混合物を得る工程である。混合方法は問わないが、損傷し易い炭素繊維等を含む場合は、原料を分散媒中に分散させた分散液から、その分散媒を除去して、混合物を得るとよい。なお、化学蓄熱材を構成する金属塩化物は水と反応して潮解等し易い。このため、その分散媒は、有機分散媒のように水分を含まないもの、例えば、アセトン、ヘプタン、ヘキサン、トルエン等が好ましい。いずれにしろ本工程は、低湿度環境下でなされるのが好ましい。この「低湿度環境下」は、雰囲気中の水分濃度が0.7%以下、0.3%以下さらには0.1%以下であると好ましい。
【0045】
(2)構造体成形工程
構造体成形工程は、化学蓄熱材とバインダー等の混合物を成形型のキャビティへ投入して加圧成形してもよいし、成形型を用いるまでもなくローラ等で圧縮成形してもよい。所望する化学蓄熱構造体の形状に応じた方法を採用するとよい。この際の成形圧力は、例えば、40〜300MPaさらには60〜250MPaであると好ましい。成形圧力が過小では、化学蓄熱構造体の体積あたりの熱出力や機械的強度の低下を招き、それが過大では、熱媒の吸脱に必要となる空孔率の確保が困難となる。本工程も低湿度環境下で行うのがよい。
【0046】
(3)構造体焼成工程
構造体焼成工程は、必須ではないが、本工程を行うことにより、化学蓄熱材とバインダー等が強固に結合した化学蓄熱構造体が得られる。焼成温度は、100〜300℃さらには150〜250℃であると好ましい。焼成温度が過小では強固な焼成体(化学蓄熱構造体)が得られず、焼成温度が過大では化学蓄熱材同士の焼結が過度に進行し、化学蓄熱構造体への熱媒の浸透が阻害されて好ましくない。焼成工程は、真空度1000Pa以下さらには100Pa以下でなされると好ましい。大気成分との反応による化学蓄熱材の劣化を防ぐためである。
【実施例】
【0047】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
《試料の製造》
〈第一実施例:試料No.1〉
(1)混合工程
原料として、金属ハロゲン化物(アルカリ土類金属塩化物)である塩化カルシウムの水和物(CaCl・2HO)の粉末(アルドリッチ社製C5080)と塩化ストロンチウムの水和物(SrCl・6HO)の粉末(和光純薬工業社製197−04185)を用意した。これら粉末をモル比が1:1となるように秤量し、メノウ鉢で混合して混合粉末を得た。なお、この混合工程は、(株)美和製作所のグローブボックスを用いて水分濃度:1ppm以下の低湿度環境下で行った。
【0048】
(2)成形工程
混合粉末を0.7tonf/cm(68.6MPa)で加圧して、15×15×2mmのシート状の成形体を得た。この成形工程は、前述したグローブボックスを用いて、水分濃度:1ppm以下の低湿度環境下で行った。
【0049】
(3)焼成工程
この成形体を600℃で焼成した焼成体を得た。この焼成工程は1Pa以下の真空処理炉内で行った。こうして得られた焼成体を試料No.1として、後述する各種の測定に供した。なお、X線回折測定用サンプルには、この焼成体を粉砕したものを用いた。
【0050】
〈比較例:試料No.C1〜C3〉
(1)試料No.C1
CaClの粉末(アルドリッチ社製のC4901)とSrClの粉末(アルドリッチ社製439665)を、モル比が1:1となるように秤量して、薬さじを用いて混合した。こうして得られた混合粉末を試料No.C1とした。なお、原料粉末の混合は、前述したグローブボックスを用いて、水分濃度:1ppm以下の低湿度環境下で行った。
【0051】
(2)試料No.C2および試料No.C3
上記のCaClの粉末自体を試料No.C2、 上記のSrClの粉末自体を試料No.C3とした。試料No.C1〜C3についても、試料No.1と同様の測定に供した。
【0052】
《測定》
(1)X線回折
試料No.1および試料No.C1の化学蓄熱材(粉末)についてX線回折測定を行った。こうして得られた各X線回折パターンを図1に示す。なお、測定はリガク社製RINT−TTRにより、CuKα線源を用いて、室温・大気中で行った。測定中の試料と大気成分との反応を防ぐため、簡易的な密封処理を行った。
【0053】
(2)格子定数
各試料のV/Zに係る単位格子体積(V)を特定するため、X線回折測定から得られたプロファイルから試料の結晶糸と各回折線の回折指数を同定し、最小2乗法を用いて、各試料の結晶の格子定数を算出した。
【0054】
(3)圧力-組成等温線測定
試料No.1〜C3の化学蓄熱材を反応器に充填して、容量法に基づき、等温(69℃)下における圧力(150〜600kPa)と組成(アンモニア配位数)の関係を調べた。各試料の結果を図2に重ねて示した。この測定は、具体的には次のようにして行った。試料を水分濃度1ppm以下の低湿度環境下で反応器(内容積約5cc)に充填して密封した。反応器をハンドメイドのジーベルツ型装置に接続し、反応器内を真空排気した。ウォータバスを用いて、反応器の試料充填部を69℃に加熱し、NHを570kPaまで加圧した。その後、69℃で100kPaまで減圧し、その状態から測定を開始した。
【0055】
ちなみに、ここで用いた反応器はステンレス製で、アンモニアガスの供給脱気のためのバルブや圧力計を具備している。
【0056】
なお、試料No.1については、この測定を5回繰り返して行ったが、毎回、同様な圧力変化と配位数変化を示した。つまり、アンモニアの吸蔵・放出を繰り返しても、試料No.1の化学蓄熱材の劣化は観られなかった。
【0057】
《評価》
(1)結晶構造
図1に示すX線回折パターンから明らかなように、試料No.C1は原料であるCaCl粉末とSrCl粉末にそれぞれ対応したCaCl型結晶構造とSrCl型結晶構造が観測された。
【0058】
一方、原料粉末を混合、成形および焼成した試料No.1は、CaCl やSrCl の結晶構造とは異なるSrI型結晶構造からなることがわかった。以上のことから、試料No.1は、CaCl やSrCl とは異なり、構成元素が原子レベルで結合した新たな複金属塩化物(Ca0.5Sr0.5Cl)であるといえる。参考までに、試料No.1に係るCa0.5Sr0.5Clとその原料であるCaClおよび SrClとに係る結晶構造図をそれぞれ図3A図3Cに示した。これらの結晶構造図は、図1に示したX線回折パターンに基づきリートベルト解析法により導出したものである。これらの結果からも、試料No.1に係るCa0.5Sr0.5Clは、その原料であるCaCl(CaCl型結晶構造)やSrCl(CaF型結晶構造)とは異なるSrI型結晶構造をしていることが確認された。
【0059】
(2)V/Z
各試料について格子定数から求めた単位格子体積(V)を、各試料の化学単位数(Z)で除して結晶指標値(V/Z)を求めた。試料No.1のV/Zは81.3Å(V:650.4Å/Z:8)であった。一方、試料No.C2(CaCl)のV/Zは83.9Å(V:167.8Å/Z:2)であり、試料No.C3(SrCl)のV/Zは84.7Å(V:338.7Å/Z:4)であった。これらのことから、試料No.1は試料No.C2や試料No.C3よりV/Zが小さいことがわかる。また試料No.1のV/Zが、試料No.C2のV/Zと試料No.C3のV/Zの中間値でない要因として、別の結晶構造(SrI型結晶構造)であることが挙げられる。
【0060】
以上のことから、CaClとSrClの混合物を成形、焼成することにより、カルシウムイオン(Ca2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)および塩素イオン(Cl)の拡散が促進されて、単なるCaClとSrClの混合物よりも、熱力学的に安定な結晶構造の複金属塩化物(Ca0.5Sr0.5Cl)が生成されたといえる。
【0061】
(3)圧力変化と配位数変化
図2からわかるように、試料No.1のCa0.5Sr0.5Clは、アンモニア圧力(平衡圧力):490kPaのときに平衡状態となり、次のようなアンモニア吸放出反応(熱媒吸放出反応)が生じる。
(反応1−1/アンモニア圧力:490kPa)
Ca0.5Sr0.5Cl・2NH+6NH ⇔ Ca0.5Sr0.5Cl・8NH
【0062】
従って、試料No.1の化学蓄熱材を用いると、特定の圧力下(平衡圧力下)における一回のアンモニア吸放出反応で、アンモニアの配位数が6も変化し、大きな吸熱または放熱が可能となり、大きな蓄熱密度が得られることがわかる。しかも、前述したように、この化学蓄熱材は繰り返し使用可能で、耐久性に優れる。
【0063】
一方、試料No.C1の場合、図2からわかるように、アンモニア吸放出反応が平衡状態となる平衡アンモニア圧力に応じて、次のような4ステップの反応となった。
(反応C1−1/アンモニア圧力:340kPa)
0.5SrCl・NH+0.5NH ⇔ 0.5SrCl・2NH
(反応C1−2/アンモニア圧力:350kPa)
0.5CaCl・2NH+NH ⇔ 0.5CaCl・4NH
(反応C1−3/アンモニア圧力:460kPa)
0.5SrCl・2NH+3NH ⇔ 0.5SrCl・8NH
(反応C1−4/アンモニア圧力:560kPa)
0.5CaCl・4NH+2NH ⇔ 0.5CaCl・8NH
【0064】
試料No.C1の化学蓄熱材を用いると、一つの平衡圧力下で生じるアンモニア吸放出反応に伴う配位数変化が0.5〜3に過ぎない。つまり、アンモニア吸放出反応一回あたりの吸熱または放熱が小さく、蓄熱密度も小さくなる。また、大きな配位数変化(6.5)を得るためには、アンモニア圧力を少なくとも340〜560kPaの広範囲(圧力差220kPa)で変化させて、反応C1−1〜反応C1−4を連続的に進行させる必要があり、効率的ではない。
【0065】
また試料No.C2の場合、図2からわかるように、アンモニア吸放出反応が平衡アンモニア圧力に応じて次のような2ステップの反応となる。
(反応C2−1/アンモニア圧力:350kPa)
CaCl・2NH+2NH ⇔ CaCl・4NH
(反応C2−2/アンモニア圧力:560kPa)
CaCl・4NH+4NH ⇔ CaCl・8NH
【0066】
この場合も同様に、一つの平衡圧力下で生じるアンモニア吸放出反応に伴う配位数変化が2または4であり、アンモニア吸放出反応一回あたりの吸熱または放熱が小さい。また、大きな配位数変化(6)を得るためには、アンモニア圧力を少なくとも350〜560kPaの広範囲(圧力差210kPa)で変化させて、反応C2−1および反応C2−2を連続的に進行させる必要があり、やはり効率的ではない。
【0067】
さらに試料No.C3の場合、図2からわかるように、アンモニア吸放出反応が平衡アンモニア圧力に応じて次のような2ステップの反応となる。
(反応C3−1/アンモニア圧力:340kPa)
SrCl・NH +NH ⇔ SrCl・2NH
(反応C3−2/アンモニア圧力:460kPa)
SrCl・2NH+6NH ⇔ SrCl・8NH
【0068】
この場合、一つの平衡圧力下で生じるアンモニア吸放出反応に伴う配位数変化が1または6であるが、さらに大きな配位数変化(7)を得るために、アンモニア圧力を少なくとも340〜460kPaの広範囲(圧力差120kPa)で変化させて、反応C3−1および反応C3−2を連続的に進行させる必要がある。
【0069】
このように、試料No.1のような複金属塩からなる化学蓄熱材は、従来の単金属塩やそれらの混合金属塩とは異なり、平衡アンモニア圧力の近傍で大きな配位数変化を生じる。従って本発明の化学蓄熱材を用いることにより、化学蓄熱システムの効率の向上を図ることが可能となる。また、単金属塩とは異なる平衡アンモニア圧力を示すため、従来の単金属塩では整合性が低かった熱媒貯蔵材との整合性が向上する。
【0070】
《第二実施例:試料No.2》
(1)試料の製造
第一実施例の場合と同じ原料粉末を用いつつ、それらの混合モル比を試料No.1から変更した化学蓄熱材(試料No.2)を製造した。すなわち、試料No.2の混合モル比はCaCl・2HO:SrCl・6HO=3:7とした。その他、混合、成形および焼成の各工程は試料No.1の場合と同様にして試料No.2を製造した。
【0071】
(2)測定
こうして得られた試料No.2を、試料No.1と同様に圧力-組成等温線測定に供した。但し、この測定時の圧力範囲は200〜600kPaとした。この場合、試料No.2はアンモニアガス圧力:485kPa(平衡圧力)を境として、配位数変化が6となる次のようなアンモニア吸放出反応(熱媒吸放出反応)を生じた。
Ca0.3Sr0.7Cl・2NH+6NH ⇔ Ca0.3Sr0.7Cl・8NH
【0072】
(3)評価
試料No.1および試料No.2から明らかなように、複金属塩化物CaSr1−xCl(0<x<1)の複合比xが変動しても、その比率に応じた特定の圧力下(平衡圧力下)であれば、一回のアンモニア吸放出反応でアンモニアの配位数を大きく変化させることができた。逆に言えば、複金属塩化物の組成を調整することにより、熱媒貯蔵材と整合(マッチング)した化学蓄熱材を得ることができ、化学蓄熱システムの効率化を幅広く図れることが確認できた。
図1
図2
図3A
図3B
図3C