(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、タンディッシュ内の溶鋼は、その下部に設けられた浸漬ノズルを介して鋳型内に供給される。Alキルド鋼等の溶鋼中には、アルミナ等の高融点介在物が溶鋼中に浮遊して存在している。そのため、これらの鋼種の連続鋳造時には、浸漬ノズル内壁にアルミナが徐々に付着し、堆積する。アルミナの付着および堆積が進行すると、浸漬ノズル内の溶鋼の流れが阻害されるため、鋳型内の溶鋼の湯面に変動が生じ、鋳片品質の悪化を招く。最悪の事態が生じた場合には、浸漬ノズルが閉塞し、連続鋳造装置の操業を停止せざるを得なくなり、生産効率の低下を招く。
【0003】
現在、広く使用されている浸漬ノズルの多くが、アルミナとカーボンを主成分としたアルミナグラファイト質で構成されている。しかし、アルミナグラファイト質で構成された浸漬ノズルの内壁にはアルミナが付着しやすく、浸漬ノズルの閉塞を招きやすい。これまでに、浸漬ノズルの閉塞を防止するため、多くの発明がなされており、例えば、下記特許文献に記載された技術が挙げられる。
【0004】
特許文献1では、浸漬ノズルを、MgO質の耐火物に金属Al、金属Ti、金属Zr、金属Ceおよび金属Caからなる金属群から選択された1種または2種以上の金属と炭素とを配合した材質で構成することによって、浸漬ノズルの閉塞を防止する技術が開示されている。この防止技術によると、耐火物中の金属元素によってMgOが還元され、耐火物内でMgガスが生成し、浸漬ノズル−溶鋼界面で溶鋼の脱硫反応が促進される。それによって、浸漬ノズル内壁近傍では溶鋼中のS濃度が低下し、S濃度に勾配が生じ、アルミナ粒子において浸漬ノズル側と溶鋼側とで溶鋼との界面張力に差が生じ、アルミナの付着を抑制できるとされている。
【0005】
しかし、溶鋼中のSが0.001mass%未満の極低硫鋼では、浸漬ノズル閉塞の防止効果が得にくい。さらに、Mgガスの溶鋼への溶解度は非常に低く、生成したMgガスの脱硫反応への寄与は小さい。そのため、連々数が増大しても浸漬ノズルの閉塞防止効果を持続させるには、MgOの還元に必要な金属の配合量が増し、耐衝撃性等、耐火物として最低限必要な物性を得にくくなる。また、金属を配合した特殊な浸漬ノズルであるため、通常の浸漬ノズルと比べてコスト面でも不利である。
【0006】
特許文献2および3では、浸漬ノズルをMgO−CaO質の耐火物で構成することによって、浸漬ノズルの閉塞を防止する技術が開示されている。これは、浸漬ノズル内壁に付着したアルミナを、浸漬ノズルを構成するCaOと反応させ、低融点化して流動性を向上させて、付着の抑制を図ったものである。
【0007】
この技術は、浸漬ノズル本体の自溶性効果を利用した、浸漬ノズルへの介在物の付着防止方法である。そのため、鋳造時間の経過にともなって、耐火物の溶損が進行し、最悪の場合には鋳型内に付着した介在物や耐火物が流出する。それゆえ、品質が厳格に要求される鋼種では、この技術を利用した浸漬ノズルを適用することは困難である。
【0008】
特許文献4では、浸漬ノズル−溶鋼間に電位差を付与することによって、アルミナグラファイト質の浸漬ノズル内壁において、アルミナの付着を防止し、浸漬ノズルの閉塞を抑制する技術が開示されている。しかし、この抑制技術では浸漬ノズルの材質として、アルミナグラファイト質を対象としており、後述する本願発明の対象とするマグネシアグラファイト質に対する効果が不明である。
【0009】
浸漬ノズルへの介在物の付着を防止する他の技術として、浸漬ノズル内からアルゴン等の不活性ガスを溶鋼流路内に吹き込む方法がある。この方法は、介在物の付着の防止に有効であると一般に言われている。しかし、吹き込まれた不活性ガスが溶鋼中に捕獲され、製品においてピンホール欠陥となる場合もあるため、この方法は必ずしも有効な方法ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、従来技術では長期間に渡って安定して浸漬ノズルの閉塞を抑制することが困難であった。本発明は、この問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、鋼の連続鋳造において、長期間に渡って安定して、アルミナ等の高融点介在物が浸漬ノズルの内壁に付着するのを防止でき、高品質の鋳片を高い生産効率で連続鋳造できる連続鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するため検討し、Al
2O
3(アルミナ)に比べて、熱力学的により安定であるというMgO(マグネシア)固有の性質に着目した。MgO系耐火物を浸漬ノズルに適用すれば、耐火物‐溶鋼間の界面反応を抑制でき、浸漬ノズルの内面における閉塞初期のアルミナ等の高融点介在物の付着を防止できる可能性に着眼した。
【0013】
さらに、浸漬ノズル‐溶鋼間に電流を印加することによって、耐火物‐溶鋼界面の物性に変化が生じ、より一層の介在物の付着防止効果が得られる可能性があることに着目した。
【0014】
そして、後述の実験を行い、従来技術の問題点を検討するとともに以下の知見を得て本発明を完成させた。
【0015】
(a)浸漬ノズルの少なくとも溶鋼流路稼働面を、マグネシアグラファイト質の耐火物で構成することにより、アルミナグラファイト質の耐火物を用いた場合と比較して介在物の付着を抑制できる。
【0016】
(b)溶鋼中の酸可溶Al(sol.Al)含有率[%Al]およびトータル酸素含有率T.[ppm O]と、前記耐火物中のMgO含有率(%MgO)、Al
2O
3含有率(%Al
2O
3)およびSiO
2含有率(%SiO
2)が、下記(1)式を満足する条件で連続鋳造を行うことにより、マグネシアグラファイト質の耐火物の有する浸漬ノズルの溶鋼流路稼働面への介在物の付着抑制効果を
極めて顕著に維持することができる。
0<{(%Al
2O
3+%SiO
2)×[%Al]×T.[ppm O]}/(%MgO)<
0.005 …(1)
【0017】
(c)さらに、耐火物‐溶鋼間に、耐火物側が負極となる直流電流を、または周期的に極性が切り替わり、耐火物側の平均電位が負となるパルス状の電圧を、それぞれ所定の平均電流密度で印加することによって、耐火物の溶損を抑制するとともに、介在物の付着抑制効果を向上させることができる。
【0018】
(d)sol.Al含有率が0.01%未満の鋼を連続鋳造した際に、浸漬ノズルの内壁に介在物が付着して生ずるノズル閉塞が問題となることは稀である。
【0019】
本発明は、以上の知見に基づいて完成されたものであり、下記(3)のAlキルド鋼の連続鋳造方法を要旨としている。その他の(1)および(2)のAlキルド鋼の連続鋳造方法は、本願明細書では本発明の参考方法として説明している。
【0020】
(1)連続鋳造装置において浸漬ノズルを用いて鋳型に溶鋼を注入するAlキルド鋼の連続鋳造方法であって、前記浸漬ノズルの少なくとも溶鋼流路稼働面を、MgO含有率:60〜85mass%、カーボン含有率の換算値:15〜40mass%を満たす耐火物で構成し、前記溶鋼中のsol.Al含有率[%Al]およびトータル酸素含有率T.[ppm O]と、前記耐火物中のMgO含有率(%MgO)、Al
2O
3含有率(%Al
2O
3)およびSiO
2含有率(%SiO
2)とが、質量分率で上記(1)式を満足する条件で連続鋳造を行い、鋳造されたAlキルド鋼のsol.Al含有率が0.01mass%以上であることを特徴とする、Alキルド鋼の連続鋳造方法。
【0021】
(2)浸漬ノズルが負極、溶鋼が正極となる電圧を付加して、O
2-(酸素イオン)の移動を抑制する平均電流密度の絶対値が0.5〜20mA/cm
2となるよう通電することを特徴とする、前記(1)に記載のAlキルド鋼の連続鋳造方法。
【0022】
(3)連続鋳造装置において浸漬ノズルを用いて鋳型に溶鋼を注入するAlキルド鋼の連続鋳造方法であって、前記浸漬ノズルの少なくとも溶鋼流路稼働面を、MgO含有率:60〜85mass%、カーボン含有率の換算値:15〜40mass%を満たす耐火物で構成し、前記溶鋼中のsol.Al含有率[%Al]およびトータル酸素含有率T.[ppm O]と、前記耐火物中のMgO含有率(%MgO)、Al
2O
3含有率(%Al
2O
3)およびSiO
2含有率(%SiO
2)とが、質量分率で下記(1)式を満足する条件で連続鋳造を行い、極性が、パルス周期
9〜45msの範囲で周期的に切り替わるパルス状の電圧を、浸漬ノズルと溶鋼との間に印加し、浸漬ノズルが負極となるパルス周期の時間を、浸漬ノズルが正極となるパルス周期の時間よりも大きくすることによって、浸漬ノズルの電位をパルス周期の1周期において平均した電位が負極側になるようにし、浸漬ノズルが負極となる期間における電流密度の絶対値を10〜
120mA/cm
2とし、鋳造されたAlキルド鋼のsol.Al含有率が0.01mass%以上であ
り、当該浸漬ノズルへの介在物の付着防止に優れることを特徴とする、Alキルド鋼の連続鋳造方法。
【0023】
本発明において、浸漬ノズルの溶鋼流路稼働面とは、浸漬ノズルの内面のうち、流動する溶鋼の接する部分をいう。または、耐火物中のカーボン含有率の換算値とは、耐火物中に純カーボンとして含有される炭素および化合物として含有される炭素を合計した炭素の含有率をいう。
【0024】
以下の記述において、鋼および耐火物の成分組成を表す「mass%」および「mass ppm」を、単に「%」および「ppm」とも表記する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の連続鋳造方法によれば、長期間に渡って安定して、アルミナ等の高融点介在物が浸漬ノズルの内壁に付着するのを防止でき、高品質の鋳片を高い生産効率で連続鋳造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、上記(1)〜(3)の本発明の方法を上述のとおり規定した理由および本発明の方法の好ましい態様について説明する。
【0028】
1.連続鋳造装置の基本構成
図1は、本発明の方法を実施するための連続鋳造装置の概略を示す図である。
【0029】
タンディッシュ3には、取鍋1から溶鋼2が供給される。タンディッシュ3から浸漬ノズル8を経て、鋳型9内に注入された溶鋼2は、鋳型9およびその下方の図示しない二次冷却スプレーノズルから噴射されるスプレー水により冷却され、凝固シェル10を形成して鋳片となる。
【0030】
また、溶鋼と浸漬ノズルとの間に電圧を印加するため、連続鋳造装置には電源装置7が設けられている。電源装置7にはケーブル6aおよび6bの一端が接続されている。ケーブル6aの他端は浸漬ノズル8の側面に設けられた電極に接続されており、ケーブル6bの他端はタンディッシュ3内の溶鋼2に一端が浸漬されたアルミナグラファイト質からなる対極4の他端に接続されている。対極4とタンディッシュ3の本体との間には絶縁用耐火物5を配置し、絶縁を確保する。浸漬ノズル8とタンディッシュ3の本体との間でも同様に絶縁を確保する。
【0031】
2.本発明の方法の規定理由
2−1.耐火物の組成とアルミナの付着性との関係
2−1−1.実験条件
表1に示す成分組成のAlキルド鋼3.5kgを、内径90mmのMgO坩堝内で溶製した。溶製した溶鋼中に、表2に示す成分組成の耐火物Aおよび耐火物Bからなる、直径15mmの円柱状耐火物を浸漬した。耐火物Aは従来のアルミナグラファイト、耐火物Bはマグネシアグラファイトである。表2中のF.Cは、耐火物中のカーボン含有率の換算値である。
【0034】
円柱状耐火物は、溶鋼中に45mm浸漬した状態において100rpmで回転させた。円柱状耐火物を、この状態で90分間保持した後、溶鋼から取り出し、耐火物表面に付着したアルミナの厚さを測定した。
【0035】
2−1−2.実験結果
耐火物A(アルミナグラファイト)からなる円柱状耐火物には、厚さ約3〜6mmの網目状のアルミナが表面全体に付着していた。
【0036】
一方、耐火物B(マグネシアグラファイト)からなる円柱状耐火物には、アルミナの付着はほとんど観察されなかった。観察されたものでも局所的にアルミナが付着している程度であり、絶対量としては非常に少なかった。
【0037】
2−1−3.考察
マグネシアグラファイトは、固有の性質として、アルミナグラファイトと比較して、耐食性に優れ、溶鋼への浸漬時間が増大しても、溶鋼と接触するその表面は平滑な状態を保持しやすい。
【0038】
さらに、浸漬ノズルの耐火物を構成するSiO
2やAl
2O
3は、溶鋼中合金元素であるAl、Ti、ZrおよびREM等の強還元性の元素によって容易に還元される。一方、MgOは、溶鋼中合金元素によっては還元されにくい。
【0039】
これらの2つの要因によって、アルミナグラファイトからなる耐火物と比較して、マグネシアグラファイトからなる耐火物の表面には介在物の付着が生じにくいと考えられる。
【0040】
以上の実験結果および考察に基づいて、本発明者らは、マグネシアグラファイトを少なくとも浸漬ノズルの溶鋼流路稼働面の構成材料として適用すれば、従来技術と比較して、劇的にAlキルド鋼を連続鋳造した際の浸漬ノズルの閉塞を防止できる可能性があることを見出した。
【0041】
2−1−4.耐火物の組成
耐火物を構成するマグネシアグラファイト中のカーボン含有率の換算値は、15〜40%の範囲とする。カーボン含有率換算値が15%未満であると熱衝撃性に劣り、40%を超えると耐火物としての強度や耐食性が低下する。
【0042】
MgOの含有率は、60〜85%の範囲とし、70〜85%の範囲が好ましい。MgOの含有率が低下して、Al
2O
3やSiO
2等の耐火物成分の含有率が20%を超えることは好ましくない。特にSiO
2は、溶鋼と反応して浸漬ノズルを構成する耐火物上への介在物の付着が助長され、浸漬ノズルの閉塞が生じやすくなるため、含有率の増加が好ましくない。さらに、SiO
2の含有量が増大するにつれ、MgOが有する耐火物上への介在物の付着抑制効果そのものが得にくくなる。溶鋼と耐火物の反応によって、一部の耐火物が浸漬ノズルから剥離し、溶鋼中に巻きこまれると、鋳片品質の悪化を招く。Al
2O
3の含有率が増加すると、MgOが有する耐火物上への介在物の付着抑制効果そのものが得にくくなる。
【0043】
浸漬ノズルを構成する耐火物は、不可避的な成分として、CaO、ZrO
2、TiO
2およびSiC等を含有してもよい。
【0044】
2−2.(1)式の規定理由
上述のように、耐火物中のSiO
2およびAl
2O
3の含有量は、増大するにつれ、MgOが有する耐火物上への介在物の付着抑制効果が得にくくなる。そのため、本発明者らの検討の結果に基づいて、耐火物中のMgO含有率(%MgO)、Al
2O
3含有率(%Al
2O
3)およびSiO
2含有率(%SiO
2)を、溶鋼中のsol.Alの含有率[%Al]およびトータル酸素T.[O]の含有率T.[ppm O]に応じた値として、下記(1)式によって規定した。下記(1)式を満足する条件で連続鋳造を行うことにより、MgOが有する耐火物上への介在物の付着抑制効果を
極めて顕著に維持することができる。
0<{(%Al
2O
3+%SiO
2)×[%Al]×T.[ppm O]}/(%MgO)<
0.005 …(1)
【0045】
2−3.本発明が対象とする鋼種
sol.Al含有率が0.01%未満の鋼を連続鋳造した際に、浸漬ノズルの内壁に介在物が付着して生ずるノズル閉塞が問題となることは稀である。そのため、本発明では、対象とする鋼種をsol.Al含有率が0.01%以上のAlキルド鋼に限定した。
【0046】
以上、2−1〜2−3の検討結果に基づいて、前記(1)の本発明の方法を規定した。
【0047】
2−4.通電の有無とアルミナの付着性との関係
2−4−1.実験条件
上記2−1の実験と同様の構成に加えて、円柱状耐火物と溶鋼との間に直流電流を印加した。印加条件は、円柱状耐火物側を負極とし、平均電流密度の絶対値を2.5mA/cm
2に設定した。定電流制御は、出力電圧をコントロールすることによって実施した。ここで、平均電流密度とは、耐火物と溶鋼との間を流れる平均電流値を、溶鋼と接する耐火物の表面積で除した値に相当する。
【0048】
2−4−2.実験結果
耐火物A(アルミナグラファイト)からなる円柱状耐火物に通電した場合には、円柱状耐火物の表面全体にアルミナが付着した。付着したアルミナの厚さは、最大で2〜4mm程度であった。
【0049】
一方、耐火物B(マグネシアグラファイト)からなる円柱状耐火物には、アルミナの付着は全く認められなかった。
【0050】
耐火物Aからなる円柱状耐火物の場合には、定電流制御を実施した際の電圧が単調に増加した。これは、円柱状耐火物の表面に付着するアルミナが増加するにしたがって、円柱状耐火物と溶鋼からなる回路全体の見かけ上の電気抵抗が増大したことに起因する。
【0051】
一方、耐火物Bからなる円柱状耐火物の場合には、実験開始から終了までの過程において、電圧が増大することなく、ほぼ一定の値であった。溶鋼への円柱状耐火物の浸漬中の電圧のトレンドデータからも、円柱状耐火物の構成材料として耐火物Bを適用した際には、耐火物表面へのアルミナの付着防止効果を維持できたことを確認できた。
【0052】
上述のように、耐火物Bからなる円柱状耐火物では、通電した場合には、その表面にアルミナが付着していなかった。しかし、厚さ数百μm以下の鋼が均一に付着しており、溶鋼への円柱状耐火物の浸漬中に、溶鋼と耐火物が濡れていた形跡を確認できた。一般に、溶鋼とアルミナ系およびマグネシア系耐火物との間の濡れ性は悪く、測定者によってばらつきはあるものの、溶鋼とこれらの耐火物との間の接触角は約130〜150°であることが知られている。しかし、マグネシアグラファイト質の耐火物に電流を付加したことによって、溶鋼‐耐火物間の界面物性に変化が生じ、耐火物と溶鋼との間の濡れ性が向上したことが確認できた。
【0053】
2−4−3.考察
アルミナ等の高融点介在物は、溶鋼との間の濡れ性が悪く、一般には、溶鋼中を浮遊するアルミナには浸漬ノズルを構成する耐火物の表面側へ排斥する力が作用する。そのため、時間の経過とともに、浸漬ノズルの閉塞の進行を避けることが難しくなる。しかし、溶鋼と耐火物との間の濡れ性が向上し、溶鋼と耐火物とが濡れるようになれば、溶鋼中の介在物が耐火物の表面側に排斥される力が抑制される。この場合、溶鋼と耐火物とが濡れない場合と比較して、浸漬ノズルを構成する耐火物の表面上へのアルミナの付着頻度が大幅に減少することとなり、浸漬ノズルの閉塞の防止に繋がる。
【0054】
以上の実験結果および考察に基づいて、本発明者らは、耐食性および耐反応性に優れたマグネシアグラファイト質耐火物を、少なくとも浸漬ノズルの溶鋼流路稼働面の構成材料として適用し、かつ耐火物が負極となるように溶鋼‐耐火物間に通電を与えれば、従来技術では見られない非常に優れたアルミナの付着防止効果を持続させることができることを新たに見出した。
【0055】
2−5.平均電流密度の範囲
浸漬ノズルの構成材料としてマグネシアグラファイト質耐火物を適用した場合、マグネシアグラファイトの溶損を抑制するとともに、溶鋼‐耐火物間の濡れ性を向上させるには、0.5mA/cm
2以上の平均電流密度を確保することが好ましい。
【0056】
平均電流密度が増加するに従って、電荷キャリアである電子およびイオンの移動量が増大する。特に、電荷キャリアの一つであるO
2-(酸素イオン)が、耐火物の内部から浸漬ノズルと溶鋼の界面に到達すると、溶鋼中のAl(アルミニウム)と反応し、浸漬ノズルの内壁においてAl
2O
3(アルミナ)が生成するため、浸漬ノズルの閉塞を助長する一因となる。このような、電子キャリアの一つであるO
2-の移動に起因したアルミナの浸漬ノズル内壁における生成が顕在化するのを抑制する観点から、平均電流密度は20mA/cm
2未満とすることが好ましい。
【0057】
以上のことから、耐火物と溶鋼との間に直流電流を印加する場合、平均電流密度は0.5〜20mA/cm
2の範囲で制御することとする。平均電流密度は0.8〜15mA/cm
2の範囲で制御することがより好ましい。
【0058】
2−6.電流を印加する場合の耐火物の極性
以上、円柱状耐火物を負極として円柱状耐火物と溶鋼との間に直流電流を印加した場合について説明した。一方、円柱状耐火物を正極として、溶鋼‐耐火物間に通電を付与した場合、電気化学反応を通じて、下記(1)式の反応により、マグネシアグラファイト中のCからCO(g)が生成する。すなわち、耐火物が溶損する方向に電気化学反応が進行する。
C+O
2- → CO(g)+e
- …(1)
【0059】
そのため、耐火物の溶損の抑制と、浸漬ノズル内壁へのアルミナ付着の防止とを両立させる観点から、上述のように、耐火物を負極とすることを提案する。
【0060】
以上、2−4〜2−6の検討結果に基づいて、前記(2)の本発明の方法を規定した。
【0061】
2−7.アルミナの付着抑制効果を持続的に得る方法
耐火物を長時間溶鋼中に浸漬した場合に、アルミナの付着抑制効果を持続的に得るには、耐火物と溶鋼との間に印加する電流の実効電流が大きくすることが好ましい。実効電流を大きくする方法としては、適正な平均電流密度を保ったまま、実効電流値を高める方法が挙げられる。
【0062】
2−8.パルス状の電位差を印加する場合
周期的に極性が正と負に切り替わるパルス状の電位差(ここでは耐火物の電位の基準を溶鋼とする。)を、浸漬ノズルを構成する耐火物と溶鋼との間に印加する場合においても、アルミナの付着抑制効果を得ることができる。この場合、耐火物側が負極となるパルス周期の時間を長くすること、もしくは耐火物側が負極となる期間における耐火物の電位の絶対値を大きくすること、または、耐火物側が正極となるパルス周期の時間を短くすること、もしくは耐火物側が正極となる期間における耐火物の電位の絶対値を小さくすることによって、1周期分のパルスにおける、耐火物側が負極となるパルス周期の時間で耐火物の電位の絶対値を積分した値を耐火物側が正極となるパルス周期の時間で耐火物の電位の絶対値を積分した値よりも大きくすること、すなわち耐火物の時間平均電位を負極側とすることができる。
【0063】
2−8−1.パルス周期
パルス周期は3〜200msの範囲とする
のが好ましい。3ms未満の場合、安定して電流を流すことが難しい。200msを超えると、O
2-の移動に起因して耐火物の表面にアルミナが生成するとともに、耐火物が正極に偏倚した期間においては耐火物の溶損が進行する。
本発明のパルス周期は、
9〜45msの範囲とす
る。
【0064】
2−8−2.電流密度の絶対値
耐火物が負極となる期間における電流密度の絶対値は、10〜200mA/cm
2の範囲とする
のが好ましい。電流密度の絶対値が10mA/cm
2未満では、耐火物‐溶鋼間の濡れ性を十分に高めることが困難である。一方、200mA/cm
2を超える電流密度では、大容量の電源装置が必要となり、コスト増が見込まれ、また、配線ケーブルが発熱しやすく、通電中に断線する等の種々の弊害が生じ、安定した通電を確保することが困難である。以上の検討結果に基づき、本発明
の電流密度の絶対値は、
10〜120mA/cm
2の範囲とす
る。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明の効果を確認するために行った試験について説明する。
【0066】
1.実施例1
1−1.試験方法
前記
図1に示した連続鋳造装置を用いて鋳造試験を行った。鋳造試験に用いた鋼種は、溶鋼としてC:0.0010〜0.0050%、Si:0.01〜0.05%、Mn:0.10〜0.20%、P:0.01〜0.02%、S:0.003〜0.006%、Ti:0.01〜0.03%、sol.Al:0.01〜0.03mass%の範囲の組成を有する鋼とした。連続鋳造時のタンディッシュ内の溶鋼の過熱度(溶鋼の温度からこの組成の鋼の液相線温度を減じた値)は10〜60℃の範囲であった。溶鋼のスループット(単位時間当たりの鋳造溶鋼量)は3.5〜6.0ton/minの範囲であった。
【0067】
表3には、試験条件として、試験に用いた浸漬ノズルの溶鋼流路稼働面を構成する耐火物の組成、溶鋼中のsol.Al含有率[%Al]、トータル酸素T.[O]の含有率T.[ppm O]、および{(%Al
2O
3+%SiO
2)×[%Al]×T.[ppm O]}/(%MgO)の値を示す。
【0068】
【表3】
【0069】
表3に示すように、
本発明例1は、耐火物がマグネシアグラファイト質からなり、前記(1)の本発明の方法の規定を満足する実施例である。比較例1は耐火物がアルミナグラファイト質からなる実施例であり、比較例2は耐火物がマグネシアグラファイト質からなるものの、前記(1)式を満足しない実施例である。比較例1および2は、いずれも前記(1)の本発明の方法の規定を満足しない実施例である。
【0070】
1−2.試験結果
表3には、試験条件と併せて、評価項目として浸漬ノズル内の介在物付着速度指数を示す。浸漬ノズル内の介在物付着速度指数とは、鋳造後の浸漬ノズル内の平均介在物付着厚さを鋳造時間で除した介在物付着速度 a、比較例1の場合を10として指数で示したものである。浸漬ノズル内の平均介在物付着厚さとは、浸漬ノズルの上端から吐出口上端までの、介在物付着厚さの溶鋼流れ方向の平均値である。
【0071】
本発明例1は、鋳造中に浸漬ノズル内壁の平滑さが保たれ、かつ溶鋼と耐火物との間の反応を抑制できるため、アルミナを含む介在物の付着が抑制された。
【0072】
比較例1は、耐火物中にMgOを含有しないため、浸漬ノズル内壁の平滑さを保つことができず、アルミナを含む介在物の付着が進行した。
【0073】
比較例2は、溶鋼のsol.Alおよびトータル酸素の含有率が高く、介在物の付着による浸漬ノズルの閉塞が容易に生じる溶鋼組成であった。さらに、浸漬ノズルへの介在物の付着抑制効果を有するMgOの含有率が、Al
2O
3およびSiOの含有率に比べて低いため、浸漬ノズル内壁へのアルミナの付着が容易に進行した。
【0074】
2.実施例2
2−1.試験方法
前記実施例1の本発明例1と同様の条件に加えて、浸漬ノズルと溶鋼との間に電位差を与えて連続鋳造試験を行った。表4には、試験条件として与えた電位差の条件を示す。
【0075】
【表4】
【0076】
2−1−1.直流電流を付与した場合
表4に示すように、本発明例4および5は、浸漬ノズルが負極となるように直流電流を流した実施例であり、平均電流密度を含めて前記(2)の本発明の方法の規定を満足する。比較例3は、浸漬ノズルが負極となるように直流電流を流したものの、平均電流密度の絶対値が大きく、前記(2)の本発明の方法の規定を満足しない実施例である。平均電流密度とは、実効電流値を、浸漬ノズルの溶鋼に接触する部位の総面積で除した値である。
【0077】
2−1−2.パルス状の電位差を付与した場合
図2は、本発明例6〜8ならびに比較例4および5に付与したパルス状の電位差を示す図である。本発明例6〜8は、
図2に示すパルス状に浸漬ノズル‐溶鋼間に電位差を付与した実施例であり、電流密度を含めて前記(3)の本発明の方法の規定を満足する。
【0078】
比較例4および5も、
図2に示すパルス状に浸漬ノズル‐溶鋼間に電位差を付与した実施例である。しかし、比較例4はパルス周期が長く、比較例5は浸漬ノズルが負極となる期間の電流密度の絶対値が小さく、いずれも前記(3)の本発明の方法の規定を満足しない実施例である。
【0079】
本発明例6〜8ならびに比較例4および5は、いずれも浸漬ノズルが負極となる期間と正極となる期間での電流密度の絶対値が同じであり、パルスの1周期において浸漬ノズルが負極となる期間が正極となる期間よりも長いため、パルスの1周期における時間平均電流は、浸漬ノズルが負極となる方向に流れた。すなわち浸漬ノズルの時間平均電位は負極側であった。
【0080】
2−2.試験結果
表4には、試験条件と併せて、評価項目として浸漬ノズル内の介在物付着速度指数を示す。浸漬ノズル内の介在物付着速度指数は、前記実施例1と同様の評価指数である。
【0081】
2−2−1.直流電流を付与した場合
本発明例4および5は、平均電流密度が前記(2)の本発明の方法の規定を満足するため、通電を行わない場合に比べてアルミナを含む介在物の付着が抑制された。
【0082】
比較例3は、平均電流密度の絶対値が前記(2)の本発明の方法の規定よりも大きいため、O
2-の移動に起因すると推定されるアルミナの付着量が多かった。そのため、本発明例4および5と比較して、浸漬ノズルの閉塞が容易に生じると考えられる。
【0083】
2−2−2.パルス状の電位差を付与した場合
本発明例6〜8は、パルス周期および浸漬ノズルが負極となるパルス期間の電流密度の絶対値が前記(3)の本発明の方法の規定を満足するため、比較例4および5と比較してアルミナを含む介在物の付着の抑制効果が大きかった。
【0084】
比較例4は、パルス周期が前記(3)の本発明の方法の規定よりも長いため、O
2-の移動に起因すると推定されるアルミナの付着量が多かった。そのため、本発明例6〜8と比較して、浸漬ノズルの閉塞が容易に生じると考えられる。
【0085】
比較例5は、浸漬ノズルが負極となるパルス期間の電流密度の絶対値が前記(3)の本発明の方法の規定よりも小さいため、耐火物の溶鋼との接触面での濡れ性を十分に高めることができなかった。そのため、本発明例6〜8と比較して、浸漬ノズルの閉塞が容易に生じると考えられる。