特許第5768926号(P5768926)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5768926ポリイミド前駆体組成物、ポリイミド前駆体組成物の製造方法、ポリイミド成形体の製造方法、ポリイミド成形体、液晶配向膜、パッシベーション膜、電線被覆材、及び接着膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5768926
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体組成物、ポリイミド前駆体組成物の製造方法、ポリイミド成形体の製造方法、ポリイミド成形体、液晶配向膜、パッシベーション膜、電線被覆材、及び接着膜
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20150806BHJP
   C08K 5/34 20060101ALI20150806BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20150806BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20150806BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20150806BHJP
   C09J 179/08 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   C08L79/08 A
   C08K5/34
   C08K5/17
   C08G73/10
   C09D179/08 B
   C09J179/08 B
【請求項の数】11
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-248064(P2014-248064)
(22)【出願日】2014年12月8日
(62)【分割の表示】特願2013-259408(P2013-259408)の分割
【原出願日】2013年12月16日
(65)【公開番号】特開2015-120904(P2015-120904A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2014年12月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士ゼロックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 剛
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 佳奈
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭45−040673(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性溶媒に、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有し、且つイミド化率が0.2以下である樹脂と、環状3級アミン化合物と、脂肪族非環状3級アミン化合物と、が溶解しているポリイミド前駆体組成物。
【化1】


(一般式(I)中、Aは4価の有機基を示し、Bは2価の有機基を示す。)
【請求項2】
前記環状3級アミン化合物が、イミダゾール類、モルホリン類、ピペリジン類、ピペラジン類、ピロリジン類、及びピラゾリジン類よりなる群から選択される少なくとも一種の化合物である請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項3】
前記樹脂が、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン化合物と、から合成されてなる請求項1又は2に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項4】
前記樹脂が、末端にアミノ基を有する樹脂を含む請求項1〜のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項5】
水性溶媒中で、環状3級アミン化合物と脂肪族非環状3級アミン化合物との存在下、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂を生成するポリイミド前駆体組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物を加熱処理して成形するポリイミド成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のポリイミド成形体の製造方法により製造されたポリイミド成形体。
【請求項8】
請求項6に記載のポリイミド成形体の製造方法により製造されたポリイミド成形体からなる液晶配向膜。
【請求項9】
請求項6に記載のポリイミド成形体の製造方法により製造されたポリイミド成形体からなるパッシベーション膜。
【請求項10】
請求項6に記載のポリイミド成形体の製造方法により製造されたポリイミド成形体からなる電線被覆材。
【請求項11】
請求項6に記載のポリイミド成形体の製造方法により製造されたポリイミド成形体からなる接着膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体組成物、ポリイミド前駆体組成物の製造方法、ポリイミド成形体の製造方法、ポリイミド成形体、液晶配向膜、パッシベーション膜、電線被覆材、及び接着膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、高耐久性、耐熱性に優れた特性を有する材料であり、電子材料用途に広く使用されている。
ポリイミド樹脂の成形体を製造する方法として、その前駆体であるポリアミック酸を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の非プロトン系極性溶剤に溶解したポリイミド前駆体組成物を基材上に塗布して、熱処理によって、乾燥・イミド化することでポリイミド成形体を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ポリイミド前駆体組成物の製造において、NMP等の非プロトン系極性溶剤中でポリイミド前駆体樹脂を重合し、再沈殿法によりポリイミド前駆体樹脂を取り出した後にアミン塩を作用させて水に溶解させるプロセスを経ることも知られている(例えば、特許文献2〜5参照)。
【0004】
なお、ポリアミック酸を溶解する溶剤としては、NMPの他、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)などが挙げられる(例えば非特許文献1参照)。
【0005】
一方、非プロトン系極性溶媒として、水溶性アルコール系溶剤化合物、及び/又は水溶性エーテル系溶剤化合物を用いて、具体的には、テトラヒドロフラン(THF)及びメタノールの混合溶媒中、又はTHF及び水の混合溶媒中の反応系に3級アミンを添加することで、析出させないでポリイミド前駆体組成物を得ることが知られている(例えば、特許文献6参照)。
【0006】
アミン化合物として特定構造のイミダゾールの共存下、水中でポリイミド前駆体を重合して水系ポリイミド前駆体組成物を得ることも知られている(例えば、特許文献7〜8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4238528号公報
【特許文献2】特開平08−120077号公報
【特許文献3】特開平08−015519号公報
【特許文献4】特開2003−13351号公報
【特許文献5】特開平08−059832号公報
【特許文献6】特開平08−157599号公報
【特許文献7】特開2012−036382号公報
【特許文献8】特開2012−140582号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Polymer Science. Macromolecular Reviews, Vol.11, P164(1976)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、保存安定性に優れ、且つポリイミド成形体の成形の際にイミド化が効率的に促進されるポリイミド前駆体組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の手段により解決される。
【0011】
請求項1に係る発明は、
水性溶媒に、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有し、且つイミド化率が0.2以下である樹脂と、環状3級アミン化合物と、脂肪族非環状3級アミン化合物と、が溶解しているポリイミド前駆体組成物。
【0012】
【化1】

【0013】
(一般式(I)中、Aは4価の有機基を示し、Bは2価の有機基を示す。)
【0014】
請求項2に係る発明は、
前記環状3級アミン化合物が、イミダゾール類、モルホリン類、ピペリジン類、ピペラジン類、ピロリジン類、及びピラゾリジン類よりなる群から選択される少なくとも一種の化合物である請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0016】
請求項に係る発明は、
前記樹脂が、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン化合物と、から合成されてなる請求項1又は2に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0017】
請求項に係る発明は、
前記樹脂が、末端にアミノ基を有する樹脂を含む請求項1〜のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0018】
請求項に係る発明は、
水性溶媒中で、環状3級アミン化合物と脂肪族非環状3級アミン化合物との存在下、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂を生成するポリイミド前駆体組成物の製造方法。
【0019】
請求項に係る発明は、
請求項1〜のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物を加熱処理して成形するポリイミド成形体の製造方法。
【0020】
請求項に係る発明は、
請求項に記載のポリイミド成形体の製造方法により製造されたポリイミド成形体。
【0021】
請求項に係る発明は、
請求項に記載のポリイミド成形体の製造方法により製造されたポリイミド成形体からなる液晶配向膜。
【0022】
請求項に係る発明は、
請求項に記載のポリイミド成形体の製造方法により製造されたポリイミド成形体からなるパッシベーション膜。
【0023】
請求項10に係る発明は、
請求項に記載のポリイミド成形体の製造方法により製造されたポリイミド成形体からなる電線被覆材。
【0024】
請求項11に係る発明は、
請求項に記載のポリイミド成形体の製造方法により製造されたポリイミド成形体からなる接着膜。
【発明の効果】
【0025】
請求項1、又は2に係る発明によれば、水性溶媒に環状アミン化合物のみが溶解している場合に比べ、又は、脂肪族非環状アミン化合物が1級又は2級アミン化合物である場合に比べ、保存安定性に優れ、且つポリイミド成形体の成形の際にイミド化が効率的に促進されるポリイミド前駆体組成物が提供される。
【0026】
請求項に係る発明によれば、環状アミン化合物が、1級又は2級アミン化合物である場合に比べ、製膜性に優れたポリイミド前駆体組成物が提供される。
【0027】
請求項に係る発明によれば、水性溶媒に環状アミン化合物のみが溶解している場合に比べ、芳香族系のモノマーを用いて合成した樹脂を適用しても、保存安定性に優れ、且つポリイミド成形体の成形の際にイミド化が効率的に促進されるポリイミド前駆体組成物が提供される。
請求項に係る発明によれば、樹脂の全末端にカルボキシル基を有する場合に比べ、製膜性に優れたポリイミド前駆体組成物が提供される。
【0028】
請求項に係る発明によれば、環状アミン化合物のみを使用した場合に比へ、保存安定性に優れ、且つポリイミド成形体の成形の際にイミド化が効率的に促進されるポリイミド前駆体組成物の製造方法が提供される。
【0029】
請求項に係る発明によれば、水性溶媒に環状アミン化合物のみが溶解しているポリイミド前駆体組成物を用いた場合に比べ、機械的強度が高いポリイミド成形体の製造方法が提供される。
請求項に係る発明によれば、水性溶媒に環状アミン化合物のみが溶解しているポリイミド前駆体組成物を用いて成形されている場合に比べ、機械的強度の高いポリイミド成形体が提供される。
【0030】
請求項に係る発明によれば、水性溶媒に環状アミン化合物のみが溶解しているポリイミド前駆体組成物を用いて成形されている場合に比べ、機械的強度の高い液晶配向膜が提供される。
請求項に係る発明によれば、水性溶媒に環状アミン化合物のみが溶解しているポリイミド前駆体組成物を用いて成形されている場合に比べ、機械的強度の高いパッシベーション膜が提供される。
請求項10に係る発明によれば、水性溶媒に環状アミン化合物のみが溶解しているポリイミド前駆体組成物を用いて成形されている場合に比べ、機械的強度の高い電線被覆材が提供される。
請求項11に係る発明によれば、水性溶媒に環状アミン化合物のみが溶解しているポリイミド前駆体組成物を用いて成形されている場合に比べ、機械的強度の高い接着膜が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0032】
<ポリイミド前駆体組成物>
本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物は、水性溶媒に、一般式(I)で表される繰り返し単位を有し、且つイミド化率が0.2以下である樹脂(以下、「特定ポリイミド前駆体」と称する)と、環状アミン化合物と、脂肪族非環状アミン化合物と、が溶解している組成物である。つまり、特定ポリイミド前駆体、環状アミン化合物、及び脂肪族非環状アミン化合物は、水性溶媒に溶解した状態で組成物中に含まれる。ただし、環状アミン化合物は環状3級アミン化合物が適用され、脂肪族非環状アミン化合物は脂肪族非環状3級アミン化合物が適用される。なお、溶解とは、溶解物の残存が目視にて確認でない状態を示す。
【0033】
本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物では、環状アミン化合物及び脂肪族非環状アミン化合物が溶解している。そのため、特定ポリイミド前駆体(そのカルボキシル基)がアミン化合物によりアミン塩化された状態となり、特定ポリイミド前駆体の水性溶媒に対する溶解性が高められている。このため、本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物は、製膜性が高く、ポリイミド成形体形成用の組成物として適する。
【0034】
これに加え、環状アミン化合物及び脂肪族非環状アミン化合物は、ポリイミド前駆体組成物を用いてポリイミド成形体を成形するとき、優れたイミド化促進作用を発揮する。
【0035】
ここで、環状アミン化合物は、アミン塩化により特定ポリイミド前駆体を水溶性溶媒へ溶解化する効果が小さいものの、ポリイミド前駆体組成物の保存安定性が低下する傾向がある。つまり、特定ポリイミド前駆体を水性溶媒に溶解せしめる量の環状アミン化合物だけを配合したポリイミド前駆体組成物は、室温(例えば25℃)環境下で、粘度減少を起こし易い傾向がある。
一方、脂肪族非環状アミン化合物は、環状アミン化合物に比べて、アミン塩化により特定ポリイミド前駆体を水溶性溶媒へ溶解化する効果が大きいものの、ポリイミド前駆体組成物の保存安定性が低下し難い傾向がある。つまり、特定ポリイミド前駆体を水性溶媒に溶解せしめる量の環状アミン化合物だけを配合したポリイミド前駆体組成物は、室温(例えば25℃)環境下で、粘度増加を起こし難い傾向がある。
このため、環状アミン化合物及び脂肪族非環状アミン化合物を共に溶解させると、長期間にわたってもポリイミド前駆体組成物の粘度変化が少なくなり、保存安定性が高まる。
【0036】
したがって、本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物は、保存安定性(以下「ポットライフ」とも称する)に優れ、且つポリイミド成形体の成形の際にイミド化が効率的に促進されるポリイミド前駆体組成物である。
【0037】
そして、本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物を用いて成形したポリイミド成形体は、機械的強度が高まる。また、耐熱性、電気特性、耐溶剤性などの諸特性も高まる。更に、イミド化促進作用により生産性も向上する。また、ポリイミド前駆体組成物が保存安定性に優れるため、ポリイミド前駆体組成物の塗工性能が高く維持され易くなり、ポリイミド成形体の品質のバラツキも抑制される。
【0038】
ここで、ポリイミド成形体に環状アミン化合物が含まれると、成形時の加熱により環状アミン化合物が揮発し難いことから、ポリイミド成形体の表面に空隙(ボイド)が発生し易くなり、成形体の外観品質を低下させる。また、ポリイミド成形体の絶縁性も低下し易くなる。これに対して、環状アミン化合物と共に、成形時の加熱により揮発し易い脂肪族非環状アミン化合物を併用し、環状アミン化合物の使用量を低減することにより、ポリイミド成形体の表面の空隙(ボイド)、及び絶縁性の低下が抑制される。
【0039】
本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物において、環状アミン化合物及び脂肪族非環状アミン化合物は、特定ポリイミド前駆体(そのカルボキシル基)にアミン塩化した状態で溶媒に溶解していることから、ポリイミド前駆体組成物におけるアミン化合物特有の臭気も抑えられる。
更に、環状アミン化合物は、脂肪族非環状アミン化合物に比べ、特有の臭気を有する傾向があり、ポリイミド前駆体組成物を用いてポリイミド成形体を加熱成形するとき、その加熱により環状アミン化合物の臭気が放たれることがある。しかし、環状アミン化合物と共に脂肪族非環状アミン化合物を併用して、環状アミン化合物の使用量を低減することにより、加熱成形するときでも低臭気で作業者の負荷が抑制される。
【0040】
本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物において、水性溶媒に特定ポリイミド前駆体と環状アミン化合物及び脂肪族非環状アミン化合物とが溶解していることから、ポリイミド成形体の成形のとき、下地となる基材の腐食が抑制される。これは、特定ポリイミド前駆体のカルボキシル基の酸性が共存する環状アミン化合物及び脂肪族非環状アミン化合物の塩基性によって抑制されるためと考えられる。
【0041】
本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物において、一般式(I)中、Aが4価の芳香族系有機基を示し、Bが2価の芳香族系有機基を示す特定ポリイミド前駆体(つまり、芳香族系ポリイミド前駆体)を適用した場合、通常、溶媒に溶解し難い傾向があるものの、溶媒として水性溶媒を適用し、これに特定ポリイミド前駆体が環状アミン化合物及び脂肪族非環状アミン化合物によりアミン塩化された状態で溶解する。このため、特定ポリイミド前駆体として、芳香族系ポリイミド前駆体を適用した場合であっても、製膜性が高く、環境適性に優れる。
【0042】
本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物において、水性溶媒とは、少なくとも水を70質量%以上含有する溶媒を指す。このため、本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物は、環境適性に優れる。また、本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物を用いてポリイミド成形体を成形するとき、溶媒留去のための加熱温度の低減、及び加熱時間の短縮化が実現される。
【0043】
本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物において、溶媒として水性溶媒を適用するが、該水性溶媒には非プロトン系極性溶剤を含まないことが好ましい。
なお、非プロトン系極性溶剤とは、沸点150℃以上300℃以下で、双極子モーメントが3.0D以上5.0D以下の溶剤である。非プロトン系極性溶剤として具体的には、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチレンホスホルアミド(HMPA)、N−メチルカプロラクタム、N−アセチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0044】
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に代表される非プロトン系極性溶剤は、沸点が150℃以上と高く、ポリイミド成形体の製造における乾燥工程後も、組成物中の溶剤が成形体中に残留することが多い。この非プロトン系極性溶剤が、ポリイミド成形体中に残留すると、ポリイミド前駆体の高分子鎖の再配向を引き起こし、高分子鎖のパッキング性を損なうため、得られるポリイミド成形体の機械的強度の低下を引き起こすことがある。
【0045】
これに対して、水性溶媒に非プロトン系極性溶剤を含まないことにより、得られるポリイミド成形体中においても、非プロトン系極性溶剤が含まれない。その結果、本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物によるポリイミド成形体は機械的強度の低下が抑制される。
ポリイミド前駆体としての特定ポリイミド前駆体は、低分子化合物ではなく、また、一次構造に屈曲鎖や脂肪族環状構造等を導入して高分子鎖間の相互作用力を下げて、溶媒への溶解性を高めた構造ではなく、溶媒として水性溶媒を適用し、特定ポリイミド前駆体(そのカルボキシル基)は、環状アミン化合物及び脂肪族非環状アミン化合物によりアミン塩化して溶解している。このため、従来のポリイミド前駆体樹脂において溶解性を改善するための方法に見られるポリイミド前駆体の低分子化、ポリイミド前駆体の分子構造変更により生じるポリイミド成形体の機械的強度の低下を起こさず、ポリイミド前駆体の水溶化が図られる。
また、水性溶媒に非プロトン系極性溶剤を含まないことにより、機械的強度に加え、耐熱性、電気特性、耐溶剤性等の諸特性に優れたポリイミド樹脂成形体が得られ易い。
【0046】
以下、本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物の各成分について説明する。
【0047】
(特定ポリイミド前駆体)
特定ポリイミド前駆体は、一般式(I)で表される繰り返し単位を有し、且つイミド化率が0.2以下である樹脂(ポリアミック酸)である。
【0048】
【化2】

【0049】
(一般式(I)中、Aは4価の有機基を示し、Bは2価の有機基を示す。)
【0050】
ここで、一般式(I)中、Aが表す4価の有機基としては、原料となるテトラカルボン酸二無水物より4つのカルボキシル基を除いたその残基である。
一方、Bが表す2価の有機基としては、原料となるジアミン化合物から2つのアミノ基を除いたその残基である。
【0051】
つまり、一般式(I)で表される繰り返し単位を有する特定ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体である。
【0052】
テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Aが表す4価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
【0053】
芳香族系テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3‘,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルメタン二無水物等を挙げられる。
【0054】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボナン−2−酢酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸二無水物;1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン等の芳香環を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0055】
これらの中でも、テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系テトラカルボン酸二無水物がよく、具体的には、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物がよく、更に、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物がよく、特に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がよい。
【0056】
なお、テトラカルボン酸二無水物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。
また、2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族テトラカルボン酸、又は脂肪族テトラカルボン酸を各々併用しても、芳香族テトラカルボン酸と脂肪族テトラカルボン酸とを組み合わせてもよい。
【0057】
一方、ジアミン化合物は、分子構造中に2つのアミノ基を有するジアミン化合物である。ジアミン化合物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Bが表す2価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
【0058】
ジアミン化合物としては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、5−アミノ−1−(4’−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、6−アミノ−1−(4’−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,5−ジアミノ−3’−トリフルオロメチルベンズアニリド、3,5−ジアミノ−4’−トリフルオロメチルベンズアニリド、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,7−ジアミノフルオレン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)−ビフェニル、1,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−(p−フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’−ビス[4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチル)フェノキシ]−オクタフルオロビフェニル等の芳香族ジアミン;ジアミノテトラフェニルチオフェン等の芳香環に結合された2個のアミノ基と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4−ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]−ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族ジアミン及び脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0059】
これらの中でも、ジアミン化合物としては、芳香族系ジアミン化合物がよく、具体的には、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォンがよく、特に、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンがよい。
【0060】
なお、ジアミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。また、2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族ジアミン化合物、又は脂肪族ジアミン化合物を各々併用しても、芳香族ジアミン化合物と脂肪族ジアミン化合物とを組み合わせてもよい。
【0061】
特定ポリイミド前駆体は、イミド化率が0.2以下の樹脂である。つまり、特定ポリイミド前駆体は、一部がイミド化された樹脂であってもよい。
具体的には、特定ポリイミド前駆体としては、例えば、一般式(I−1)、一般式(I−2)及び一般式(I−3)で表される繰り返し単位を有する樹脂が挙げられる。
【0062】
【化3】


【0063】
一般式(I−1)、一般式(I−2)及び一般式(I−3)中、Aは4価の有機基を示し、Bは2価の有機基を示す。なお、A及びBは、一般式(I)中のA及びBと同義である。
lは1以上の整数を示し、m及びnは、各々独立に0又は1以上の整数を示し、且つ(2n+m)/(2l+2m+2n)≦0.2の関係を満たす。
【0064】
一般式(I−1)〜(I−3)中、lは1以上の整数を示すが、好ましくは1以上200以下の整数、より好ましくは1以上100以下の整数を示すことがよい。m及びnは、各々独立に0又は1以上の整数を示すが、好ましくは各々独立に0又は1以上200以下の整数、より好ましくは0又は1以上100以下の整数を示すことがよい。
そして、l、m及びnは、(2n+m)/(2l+2m+2n)≦0.2の関係を満たすが、好ましくは(2n+m)/(2l+2m+2n)≦0.15の関係、より好ましくは(2n+m)/(2l+2m+2n)≦0.10を満たすことである。
【0065】
ここで、「(2n+m)/(2l+2m+2n)」は、特定ポリイミド前駆体の結合部(テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との反応部)において、イミド閉環している結合部数(2n+m)の全結合部数(2l+2m+2n)に対する割合を示している。つまり、「(2n+m)/(2l+2m+2n)」は特定ポリイミド前駆体のイミド化率を示している。
そして、特定ポリイミド前駆体のイミド化率(「(2n+m)/(2l+2m+2n)」の値)を0.2以下(好ましくは0.15以下、より好ましくは0.10以下)とすることにより、特定ポリイミド前駆体のゲル化や析出分離を引き起こすことが抑制される。
【0066】
特定ポリイミド前駆体のイミド化率(「(2n+m)/(2l+2m+2n)」の値)は、次の方法により測定される。
【0067】
−ポリイミド前駆体のイミド化率の測定−
・ポリイミド前駆体試料の作製
(i)測定対象となるポリイミド前駆体組成物を、シリコーンウェハー上に、膜厚1μm以上10μm以下の範囲で塗布して、塗膜試料を作製する。
(ii)塗膜試料をテトラヒドロフラン(THF)中に20分間浸漬させて、塗膜試料中の溶剤をテトラヒドロフラン(THF)に置換する。浸漬させる溶媒は、THFに限定されることなく、ポリイミド前駆体を溶解せず、ポリイミド前駆体組成物に含まれている溶媒成分と混和し得る溶剤より選択できる。具体的には、メタノール、エタノールなどのアルコール溶媒、ジオキサンなどのエーテル化合物が使用できる。
(iii)塗膜試料を、THF中より取り出し、塗膜試料表面に付着しているTHFにNガスを吹き付け、取り除く。10mmHg以下の減圧下、5℃以上25℃以下の範囲にて12時間以上処理して塗膜試料を乾燥させ、ポリイミド前駆体試料を作製する。
【0068】
・100%イミド化標準試料の作製
(iv)上記(i)と同様に、測定対象となるポリイミド前駆体組成物をシリコーンウェハー上に塗布して、塗膜試料を作製する。
(v)塗膜試料を380℃にて60分間加熱してイミド化反応を行い、100%イミド化標準試料を作製する。
【0069】
・測定と解析
(vi)フーリエ変換赤外分光光度計(堀場製作所製FT−730)を用いて、100%イミド化標準試料、ポリイミド前駆体試料の赤外吸光スペクトルを測定する。100%イミド化標準試料の1500cm−1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab’(1500cm−1))に対する、1780cm−1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab’(1780cm−1))の比I’(100)を求める。
(vii)同様にして、ポリイミド前駆体試料について測定を行い、1500cm−1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab(1500cm−1))に対する、1780cm−1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab(1780cm−1))の比I(x)を求める。
【0070】
そして、測定した各吸光ピークI’(100)、I(x)を使用し、下記式に基づき、ポリイミド前駆体のイミド化率を算出する。
・式: ポリイミド前駆体のイミド化率=I(x)/I’(100)
・式: I’(100)=(Ab’(1780cm−1))/(Ab’(1500cm−1))
・式: I(x)=(Ab(1780cm−1))/(Ab(1500cm−1))
【0071】
なお、このポリイミド前駆体のイミド化率の測定は、芳香族系ポリイミド前駆体のイミド化率の測定に適用される。脂肪族ポリイミド前駆体のイミド化率を測定する場合、芳香環の吸収ピークに代えて、イミド化反応前後で変化のない構造由来のピークを内部標準ピークとして使用する。
【0072】
−ポリイミド前駆体の末端アミノ基−
特定ポリイミド前駆体は、末端にアミノ基を有するポリイミド前駆体(樹脂)を含むことがよく、好ましくは全ての末端にアミノ基を有するポリイミド前駆体とすることがよい。
ポリイミド前駆体の分子末端にアミノ基を持たせるには、例えば、重合反応の際に使用するジアミン化合物のモル当量を、テトラカルボン酸二無水物のモル当量より過剰に添加することで実現される。ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とのモル当量の比は、テトラカルボン酸のモル当量を1に対して、1.0001以上1.2以下の範囲とすることが好ましく、より好ましくは、1.001以上1.2以下の範囲である。
ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とのモル当量の比が1.0001以上であれば、分子末端のアミノ基の効果が大きく、良好な分散性が得られる。また、モル当量の比が1.2以下であれば、得られるポリイミド前駆体の分子量が大きく、例えば、フィルム状のポリイミド成形体としたときに、十分なフィルム強度(引裂き強度、引張り強度)が得られ易い。
【0073】
特定ポリイミド前駆体の末端アミノ基は、ポリイミド前駆体組成物にトリフルオロ酢酸無水物(アミノ基に対して定量的に反応)を作用させることによって検出される。すなわち、特定ポリイミド前駆体の末端アミノ基をトリフルオロ酢酸によりアミド化する。処理後、特定ポリイミド前駆体を再沈殿などで精製して過剰のトリフルオロ酢酸無水物、トリフルオロ酢酸残渣を除去する。処理後の特定ポリイミド前駆体について、核磁気共鳴(NMR)法によって定量することで、特定ポリイミド前駆体の末端アミノ基量が測定される。
【0074】
特定ポリイミド前駆体の数平均分子量は、1000以上100000以下であることがよく、より好ましくは5000以上50000以下、更に好ましくは10000以上30000以下である。
特定ポリイミド前駆体の数平均分子量を上記範囲とすると、特定ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性の低下が抑制され、製膜性が確保され易くなる。特に、末端にアミノ基を有する樹脂を含む特定ポリイミド前駆体を適用した場合、分子量が低くなると、末端アミノ基の存在率が高まり、ポリイミド前駆体組成物中の共存する環状アミン化合物の影響を受けて溶解性が低下し易いが、特定ポリイミド前駆体の数平均分子量の範囲を上記範囲にすることで、溶解性の低下を抑制することができる。
なお、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とのモル当量の比を、調整することで、目的とする数平均分子量の特定ポリイミド前駆体が得られる。
【0075】
特定ポリイミド前駆体の数平均分子量は、下記測定条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法で測定される。
・カラム:東ソーTSKgelα−M(7.8mm I.D×30cm)
・溶離液:DMF(ジメチルホルムアミド)/30mMLiBr/60mMリン酸
・流速:0.6mL/min
・注入量:60μL
・検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0076】
特定ポリイミド前駆体の含有量(濃度)は、全ポリイミド前駆体組成物に対して、0.1質量%以上40質量%以下であることがよく、好ましくは0.5質量%以上25質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下である。
【0077】
(環状アミン化合物)
環状アミン化合物は、特定ポリイミド前駆体(そのカルボキシル基)をアミン塩化して、水性溶媒に対する溶解性を高めると共に、イミド化促進剤としても機能する化合物である。
なお、環状アミン化合物は、水溶性の化合物であることがよい。ここで、水溶性とは、25℃において、対象物質が水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0078】
環状アミン化合物は、窒素原子を含む環状構造を有するアミン化合物であり、2級アミン化合物、3級アミン化合物が挙げられる。
これらの中でも、環状アミン化合物としては、3級アミン化合物がよい。環状アミン化合物として、3級アミン化合物を適用すると、特定ポリイミド前駆体の水性溶媒に対する溶解性が高まり易くなり、製膜性が向上し易くなる。
【0079】
また、環状アミン化合物としては、1価のアミン化合物以外にも、2価以上の多価アミン化合物も挙げられる。2価以上の多価アミン化合物を適用すると、特定ポリイミド前駆体の分子間に疑似架橋構造を形成し易くなり、特定ポリイミド前駆体が低分子量体でも、ポリイミド組成物粘度を上げられ、製膜性が向上し易くなる。
【0080】
環状アミン化合物としては、例えば、芳香族環状アミン化合物、脂肪族環状アミン化合物が挙げられる。
【0081】
芳香族環状アミン化合物としては、例えば、ピリジン類(ピリジン骨格を有するアミン化合物)、ピリミジン類(ピリミジン骨格を有するアミン化合物)、ピラジン類(ピラジン骨格を有するアミン化合物)、キノリン類(キノリン骨格を有するアミン化合物)、イミダゾール類(イミダゾール骨格を有するアミン化合物)、等が挙げられる。
これらの中でも、芳香族環状アミン化合物としては、ポリイミド前駆体の合成効率、イミド化促進等の点から、ピリジン類、イミダゾール類が好ましく、イミダゾール類がより好ましい。
【0082】
ここで、イミダゾール類としては、下記式(0)で表されるイミダゾール類が好ましい。ただし、下記式(0)において、R11、R12、R13、及びR14は、各々独立に、水素原子、又はアルキル基を示す。
【0083】
【化4】

【0084】
式(0)で表されるイミダゾール類において、R11、R12、R13、及びR14が示すアルキル基は、直鎖状、又は分岐状の炭素数1以上5以下のアルキル基(具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等)がよい。
【0085】
イミダゾール類は、2個以上のアルキル基で置換されたイミダゾールが好ましい。つまり、イミダゾール類は、式(0)において、R11、R12、R13、及びR14のうち、2つ以上がアルキル基であるイミダゾール類であることが好ましい。
【0086】
イミダゾール類として具体的には、例えば、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、4−エチル−2−メチルイミダゾール、1−メチル−4−エチルイミダゾール等が挙げられる。
【0087】
芳香族環状アミン化合物は、沸点が100℃以上(好ましくは100℃以上300℃以下、より好ましくは100℃以上200℃以下)の化合物であることがよい。芳香族環状アミン化合物の沸点を100℃以上とすると、保管時に、ポリイミド前駆体組成物から環状アミン化合物が揮発するのを抑制し、特定ポリイミド前駆体の水性溶媒に対する溶解性の低下が抑制され易くなる。
【0088】
一方、脂肪族環状アミン化合物としては、例えば、ピペリジン類(ピペリジン骨格を有するアミン化合物)、ピペラジン類(ピペラジン骨格を有するアミン化合物)、モルホリン類(モルホリン骨格を有するアミン化合物)、ピロリジン類(ピロリジン骨格を有するアミン化合物)、ピラゾリジン類(ピラゾリジン骨格を有するアミン化合物)等が挙げられる。
これらの中でも、脂肪族環状アミン化合物としては、ポリイミド前駆体の合成効率、イミド化促進等の点から、下記式(1)で表されるピペリジン類、下記式(2)で表されるピペラジン類、下記式(3)で表されるモルホリン類、下記式(4)で表されるピロリジン類、下記式(5)で表されるピラゾリジン類が好ましい。
【0089】
【化5】

【0090】
上記式(1)〜(5)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、又はフェニル基を表す。
なお、R及びRとしては、更に、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、又はフェニル基がよい。
【0091】
ここで、環状アミン化合物としては、ポリイミド前駆体の合成効率、イミド化促進等の点から、イミダゾール類、モルホリン類、ピペリジン類、ピペラジン類、ピロリジン類、及びピラゾリジン類よりなる群から選択される少なくとも一種の化合物であることが好ましく、モルホリン類がより好ましく、モルホリン、メチルモルホリン、エチルモルホリンが更に好ましい。
【0092】
脂肪族環状アミン化合物としては、沸点が60℃以上(好ましくは60℃以上200℃以下、より好ましくは70℃以上150℃以下)の化合物であることがよい。環状アミン化合物の沸点を60℃以上とすると、保管時に、ポリイミド前駆体組成物から環状アミン化合物が揮発するのを抑制し、特定ポリイミド前駆体の水性溶媒に対する溶解性の低下が抑制され易くなる。
【0093】
環状アミン化合物の含有量は、ポリイミド前駆体組成物中の特定ポリイミド前駆体樹脂のカルボキシル基(−COOH)に対して、例えば、1モル%以上200モル%以下であることがよく、好ましくは1モル%以上100モル%以下、より好ましくは1モル%以上10モル%以下である。環状アミン化合物の含有量が、1モル%未満であると、特定ポリイミド前駆体が溶解し難くなり、200モル%を超えると、ポリイミド前駆体組成物の保存安定性が低下し、臭気が強くなりすぎることがある。
【0094】
(脂肪族非環状アミン化合物)
脂肪族非環状アミン化合物は、環状アミン化合物に比べて劣るものの、特定ポリイミド前駆体(そのカルボキシル基)をアミン塩化して、水性溶媒に対する溶解性を高めると共に、イミド化促進剤としても機能する化合物である。
なお、脂肪族非環状アミン化合物は、水溶性の化合物であることがよい。ここで、水溶性とは、25℃において、対象物質が水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0095】
脂肪族非環状アミン化合物は、直鎖状又は分岐状で、アミノ基及び脂肪族基を有するアミン化合物であり、1級アミン化合物、2級アミン化合物、3級アミン化合物が挙げられる。
これらの中でも、脂肪族非環状アミン化合物としては、2級アミン化合物、及び3級アミン化合物から選択される少なくとも一種(特に、3級アミン化合物)がよい。脂肪族非環状アミン化合物として、3級アミン化合物又は2級アミン化合物を適用すると、特定ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性が高まり易くなり、製膜性が向上し易くなり、また、ポリイミド前駆体組成物の保存安定性を向上できる。
【0096】
脂肪族非環状アミン化合物としては、1価のアミン化合物以外にも、2価以上の多価アミン化合物も挙げられる。2価以上の多価アミン化合物を適用すると、特定ポリイミド前駆体の分子間に疑似架橋構造を形成し易くなり、特定ポリイミド前駆体が低分子量体でも、ポリイミド組成物粘度を上げられ、製膜性が向上し易くなる。
【0097】
1級アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、2−エタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等が挙げられる。
2級アミン化合物としては、例えば、ジメチルアミン、2−(メチルアミノ)エタノール、2−(エチルアミノ)エタノール等が挙げられる。
3級アミン化合物としては、例えば、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジメチルアミノプロパノール、トリエチルアミン等が挙げられる。
多価アミン化合物としては、例えば、ポリアミンなどが挙げられる。
【0098】
脂肪族非環状アミン化合物としては、沸点が60℃以上(好ましくは60℃以上200℃以下、より好ましくは70℃以上150℃以下)の化合物であることがよい。脂肪族非環状アミン化合物の沸点を60℃以上とすると、保管時に、ポリイミド前駆体組成物から脂肪族非環状アミン化合物が揮発するのを抑制し、特定ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性の低下が抑制され易くなる。
【0099】
脂肪族非環状アミン化合物の含有量は、ポリイミド前駆体組成物中の特定ポリイミド前駆体樹脂のカルボキシル基(−COOH)に対して、30モル%以上200モル%以下であるがよく、好ましくは50モル%以上150モル%以下、より好ましくは100モル%以上150モル%以下である。脂肪族非環状アミン化合物の含有量を上記範囲とすると、ポリイミド前駆体組成物の保存安定性が向上し、製膜性が向上し易くなる。また、臭気も低く抑えられ、作業者に対する負荷が低減され易くなる。
【0100】
ここで、環状アミン化合物と脂肪族非環状アミン化合物との比率(モル比:環状アミン化合物/脂肪族非環状アミン化合物)は、ポリイミド前駆体組成物の保存安定性、ポリイミド前駆体の合成効率、イミド化促進等の点から、1/100以上200/100以下であることがよく、好ましくは1/100以上100/100以下、より好ましくは1/100以上10/100以下である。
【0101】
(水性溶媒)
本実施形態における水性溶媒は、少なくとも水を70質量%以上含有する溶媒である。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、限外濾過水、純水等が挙げられる。
【0102】
水は、水性溶媒において70質量%以上100質量%以下で含有され、好ましくは80質量%以上100質量%以下、より好ましくは90質量%以上100質量%以下で含有され、水以外の溶媒を含まないことが特に好ましい。
【0103】
なお、水性溶媒として水以外の溶媒を含有する場合、例えば水溶性の有機溶剤が好適に用いられる。
水溶性の有機溶剤としては、例えば、水溶性エーテル系溶剤、水溶性ケトン系溶剤、水溶性アルコール系溶剤等が挙げられる。ここで、水溶性とは、25℃において、対象物質が水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0104】
上記水溶性有機溶剤は、1種単独で用いてもよいが、2種以上併用する場合、例えば、水溶性エーテル系溶剤と水溶性アルコール系溶剤との組合せ、水溶性ケトン系溶剤と水溶性アルコール系溶剤との組合せ、水溶性エーテル系溶剤と水溶性ケトン系溶剤と水溶性アルコール系溶剤との組合せが挙げられる。
【0105】
水溶性エーテル系溶剤は、一分子中にエーテル結合を持つ水溶性の溶剤である。水溶性エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、トリオキサン、1,2 ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、水溶性エーテル系溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジオキサンが好ましい。
【0106】
水溶性ケトン系溶剤は、一分子中にケトン基を持つ水溶性の溶剤である。水溶性ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。これらの中でも、水溶性ケトン系溶剤としては、アセトンが好ましい。
【0107】
水溶性アルコール系溶剤は、一分子中にアルコール性水酸基を持つ水溶性の溶剤である。水溶性アルコール系溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセリン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等が挙げられる。これらの中でも、水溶性アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール、エチレングリコールが好ましい。
【0108】
水性溶媒として水以外の溶媒を含有する場合、併用される溶媒は、沸点が160℃以下であることがよく、好ましくは40℃以上150℃以下、より好ましくは50℃以上120℃以下である。併用される溶媒の沸点を上記範囲とすると、その溶媒がポリイミド成形体に残留し難くなり、機械的強度の高いポリイミド成形体が得られ易くなる。
【0109】
(その他の添加剤)
本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物は、これを用いて製造するポリイミド成形体に導電性や、機械強度などの各種機能を付与することを目的として、各種フィラーなどを含んでもよいし、また、イミド化反応促進のための触媒や、製膜品質向上のためのレベリング材などを含んでもよい。
【0110】
導電性付与のため添加される導電材料としては、導電性(例えば体積抵抗率10Ω・cm未満、以下同様である)又は半導電性(例えば体積抵抗率10Ω・cm以上1013Ω・cm以下、以下同様である)のものが挙げられ、使用目的により選択される。
導電剤としては、例えば、カーボンブラック(例えばpH5.0以下の酸性カーボンブラック)、金属(例えばアルミニウムやニッケル等)、金属酸化物(例えば酸化イットリウム、酸化錫等)、イオン導電性物質(例えばチタン酸カリウム、LiCl等)、導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリサルフォン、ポリアセチレンなど)等が挙げられる。
これら導電材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
また、導電材料が粒子状の場合、その一次粒径が10μm未満、好ましくは1μm以下の粒子であることがよい。
【0111】
機械強度向上のため添加されるフィラーとしては、シリカ粉、アルミナ粉、硫酸バリウム粉、酸化チタン粉、マイカ、タルクなどの粒子状材料が挙げられる。また、ポリイミド成形体表面の撥水性、離型性改善のためには、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂粉末などを添加してもよい。
【0112】
イミド化反応促進のための触媒には、酸無水物など脱水剤、フェノール誘導体、スルホン酸誘導体、安息香酸誘導体などの酸触媒などを使用してもよい。
【0113】
ポリイミド成形体の製膜品質の向上には、界面活性剤を添加してもよい。使用する界面活性剤は、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、のいずれを用いてもよい。
【0114】
その他の添加剤の含有量は、製造するポリイミド成形体の使用目的に応じて選択すればよい。
【0115】
<ポリイミド前駆体組成物の製造方法>
本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物の製造方法としては、特に限定されるものではないが、下記(1)又は(2)に示す製造方法が挙げられる。
【0116】
(1): 水性溶媒中で、環状アミン化合物と脂肪族非環状アミン化合物との存在下、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(つまり「ポリイミド前駆体」)を生成するポリイミド前駆体組成物の製造方法。
【0117】
(1)に示す製造方法は、例えば、環状アミン化合物及び脂肪族非環状アミン化合物を水性溶媒に溶解し、その水性溶媒にテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを加えて重合を行って、ポリイミド前駆体組成物の製造する方法である。
【0118】
(2): 水性溶媒中で、環状アミン化合物の存在下、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(つまり「ポリイミド前駆体」)を生成した後、生成した前記樹脂を含む前記水性溶媒と脂肪族非環状アミン化合物とを混合する、又は、生成した前記樹脂と水性溶媒と脂肪族非環状アミン化合物とを混合するポリイミド前駆体組成物の製造方法。
【0119】
(2)に示す製造方法は、例えば、環状アミン化合物を水性溶媒に溶解し、その水性溶媒にテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを加えて重合を行った後、脂肪族非環状アミン化合物を加えるポリイミド前駆体組成物の製造する方法である。
【0120】
(2)に示す製造方法において、生成した樹脂を含む水性溶媒と脂肪族非環状アミン化合物とを混合する方法は、例えば、水性溶媒中で樹脂を生成後、その水性溶媒に脂肪族非環状アミン化合物を添加する方法である。
【0121】
一方、(2)に示す製造方法において、生成した樹脂と水性溶媒と脂肪族非環状アミン化合物とを混合する方法は、例えば、水性溶媒中で樹脂を生成後、その水性溶媒から樹脂を取り出し、取り出した樹脂と水性溶媒と脂肪族非環状アミン化合物とを混合する方法である。具体的には、水性溶媒中で樹脂を生成後、その水性溶媒に酸性水溶液を添加して、水性溶媒中に樹脂を析出させる。次に、樹脂を水性溶媒から濾別する。次に、濾別した樹脂と、脂肪族非環状アミン化合物及び新たな水性溶媒とを混合する。なお、環状アミン化合物の濃度調整の目的で、この混合の後の組成物に、更に、環状アミン化合物及び新たな水性溶媒を混合してもよい。以下、この工程を「アミン置換工程」と称することがある。
【0122】
このアミン置換工程では、生成した樹脂を水性溶媒から濾別するとき、環状アミン化合物の一部が水性溶媒と共に濾別される。つまり、アミン置換工程を経ると、樹脂中に含まれる環状アミン化合物の量が低減される。
このため、(2)に示す製造方法では、樹脂を重合するときには、各モノマーの溶解及び重合反応に必要な十分な量の環状アミン化合物を配合して、安定で高効率な重合が実現される。一方で、重合後、アミン置換工程を経ることで、ポリイミド前駆体組成物の保存安定性を損なう原因又は臭気原因となる環状アミン化合物の量を低減し、脂肪族非環状アミン化合物に置換する。これにより、得られるポリイミド前駆体組成物の保存安定性を担保し、かつ、臭気も抑えられる。
【0123】
なお、アミン置換工程に使用される酸性水溶液としては、例えば、無機酸の水溶液(例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等)、有機酸の水溶液(例えば酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、フタル酸、スルホン酸等)が挙げられる、これらの中でも、酸性水溶液としては、製造されるポリイミド前駆体組成物中に残留しても特性低下に影響の少ない、酢酸、プロピオン酸が好ましい。
【0124】
本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物の製造方法では、非プロトン系極性溶剤を含まないか、又は少なくとも非プロトン系極性溶剤の含有量が低減された水性溶媒中で、環状アミン化合物の存在下、ポリイミド前駆体の生成を行う。
【0125】
本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物の製造方法は、水性溶媒として、ポリイミド成形体の機械的強度の低下の原因となる非プロトン系極性溶剤を使用しないか又は低減され、また、環状アミン化合物を添加することから、環状アミン化合物によりポリイミド前駆体の生成阻害(重合反応の阻害)が抑制される。
このため、本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物の製造方法では、機械的強度の高いポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体組成物が製造される。
また、本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物の製造方法では、機械的強度に加え、耐熱性、電気特性、耐溶剤性等の諸特性に優れたポリイミド成形体が得られ易いポリイミド前駆体組成物が製造される。
【0126】
また、本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物の製造方法では、溶媒として、水性溶媒を適用しているため、生産性も高く、ポリイミド前駆体組成物が製造される。
【0127】
ポリイミド前駆体の重合反応時の反応温度は、例えば、0℃以上70℃以下であることがよく、好ましくは10℃以上60℃以下、より好ましくは20℃以上55℃以下である。この反応温度を0℃以上とすることで、重合反応の進行を促進し、反応に要する時間が短時間化され、生産性が向上し易くなる。一方、反応温度を70℃以下とすると、生成したポリイミド前駆体の分子内で生じるイミド化反応の進行が抑制され、ポリイミド前駆体の溶解性低下に伴う析出、又はゲル化が抑制され易くなる。
なお、ポリイミド前駆体の重合反応時の時間は、反応温度により1時間以上24時間以下の範囲とすることがよい。
【0128】
<ポリイミド成形体及びその製造方法>
本実施形態に係るポリイミド成形体の製造方法は、本実施形態に係るポリイミド前駆体組成物(以下、「特定ポリイミド前駆体組成物」とも称する)を加熱処理して成形するポリイミド成形体の製造方法である。
【0129】
具体的には、本実施形態に係るポリイミド成形体の製造方法は、例えば、特定ポリイミド前駆体組成物を被塗布物上に塗布して塗膜を形成する工程(以下「塗膜形成工程」と称する)と、塗膜を加熱処理してポリイミド樹脂層を形成する工程(以下「加熱工程」称する)と、を有する。
【0130】
(塗膜形成工程)
まず、被塗布物を準備する。この被塗布物は、製造するポリイミド成形体の用途に応じて選択される。
具体的には、ポリイミド成形体として液晶配向膜を製造する場合、被塗布物としては、液晶素子に適用される各種基板が挙げられ、例えば、シリコン基板、ガラス基板又はこれら表面に金属又は合金膜が形成された基板等が挙げられる。
また、ポリイミド成形体としてパッシベーション膜を製造する場合、被塗布物としては、例えば、集積回路が形成された半導体基板、配線が形成された配線基板、電子部品及び配線が設けられたプリント基板等から選択される。
また、ポリイミド成形体として電線被覆材を製造する場合、被塗布物としては、例えば、各種の電線(軟銅、硬銅、無酸素銅、クロム鉱、アルミニウム等の金属又は合金製の線材、棒材、又は板材)が挙げられる。なお、ポリイミド成形体をテープ状に成形・加工し、これを電線に巻き付けるテープ状の電線被覆材として利用する場合、各種の平面基板又は円筒状基体が被塗布物として利用される。
また、ポリイミド成形体として接着膜を製造する場合、例えば、接着対象となる各種の成形体(例えば、半導体チップ、プリント基板等の種々の電器部品等)が挙げられる。
【0131】
次に、特定ポリイミド前駆体組成物を目的とする被塗布物に塗布し、特定ポリイミド前駆体組成物の塗膜を形成する。
特定ポリイミド前駆体組成物の塗布方法は、特に制限はなく、例えば、スプレー塗布、回転塗布法、ロール塗布法、バー塗布法、スリットダイ塗布法、インクジェット塗布法等の各種の塗布法が挙げられる。
【0132】
(加熱工程)
次に、特定ポリイミド前駆体組成物の塗膜に対して、乾燥処理を行う。この乾燥処理により、乾燥膜(乾燥したイミド化前の皮膜)を形成する。
乾燥処理の加熱条件は、例えば80℃以上200℃以下の温度で10分間以上60分間以下がよく、温度が高いほど加熱時間は短くてよい。加熱の際、熱風を当てることも有効である。加熱のときは、温度を段階的に上昇させたり、速度を変化させずに上昇させてもよい。
【0133】
次に、乾燥膜に対して、イミド化処理を行う。これにより、ポリイミド樹脂層が形成される。
イミド化処理の加熱条件としては、例えば150℃以上400℃以下(好ましくは200℃以上300℃以下)で、20分間以上60分間以下加熱することで、イミド化反応が起こり、ポリイミド樹脂層が形成される。加熱反応の際、加熱の最終温度に達する前に、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱することがよい。
【0134】
以上の工程を経て、ポリイミド成形体が形成される。そして、必要に応じて、ポリイミド成形体を被塗布物から取り出し、後加工が施される。
【0135】
<ポリイミド成形体>
本実施形態に係るポリイミド成形体は、上記本実施形態に係るポリイミド成形体の製造方法により得られるポリイミド成形体である。このポリイミド成形体としては、例えば、液晶配向膜、パッシベーション膜、電線被覆材、接着膜等の各種のポリイミド成形体が例示される。その他、ポリイミド成形体としては、例えば、フレキシブル電子基板フィルム、銅張積層フィルム、ラミネートフィルム、電気絶縁フィルム、燃料電池用多孔質フィルム、分離フィルム、耐熱性皮膜、ICパッケージ、レジスト膜、平坦化膜、マイクロレンズアレイ膜、光ファイバー被覆膜等も例示される。
ポリイミド成形体としては、ベルト部材も挙げられる。ベルト部材としては、駆動ベルト、電子写真方式の画像形成装置用のベルト(例えば、中間転写ベルト、転写ベルト、定着ベルト、搬送ベルト)等が例示される。
つまり、本実施形態に係るポリイミド成形体の製造方法は、上記例示された各種のポリイミド成形体の製造方法に適用され得る。
【0136】
本実施形態にかかるポリイミド成形体には、特定ポリイミド前駆体組成物に含まれる水性溶媒、環状アミン化合物及び脂肪族非環状アミン化合物が含有される。
本実施形態にかかるポリイミド成形体に含有される水性溶媒は、ポリイミド成形体中、1ppb以上1%未満である。ポリイミド成形体中に含有される水性溶媒の量は、ポリイミド成形体を加熱して発生するガス分をガスクロマトグラフィー法により定量される。また、ポリイミド成形体中に含まれる、環状アミン化合物及び脂肪族非環状アミン化合物の量についても、ポリイミド成形体を加熱して発生するガス分をガスクロマトグラフィー法により定量される。
【実施例】
【0137】
以下に実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0138】
<実施例1>
[ポリイミド前駆体組成物(A−1)の作製]
攪拌棒、温度計、滴下ロートを取り付けたフラスコに、水900gを充填した。ここに、p−フェニレンジアミン(以下、PDAと表記:分子量108.14)27.28g(252.27ミリモル:ジアミン化合物)と、メチルモルホリン(以下、MMOと表記:環状アミン化合物)76.55g(756.81ミリモル)とを添加し、20℃で10分間攪拌して分散させた。この溶液に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと表記:分子量294.22:テトラカルボン酸二無水物)72.72g(247.16ミリモル)を添加し、反応温度20℃に保持しながら、24時間攪拌して溶解、反応を行った。なお、表1〜4中、ここまでの工程を「重合工程」と表記する。
反応後、酢酸45.45g(756.81ミリモル)を添加してポリイミド前駆体(樹脂)を析出させた。100メシュフィルターでろ別後、ポリイミド前駆体をフラスコに戻し、水(添加溶媒)550g、ジメチルアミノエタノール(以下、DMAEtと表記:分子量89.14:脂肪族非環状アミン化合物)44.97g(504.54ミリモル)を添加し、20℃にて12時間撹拌溶解を行い、ポリイミド前駆体を溶解させた。
乾燥重量法にて固形分を測定したところ、13.5%であった。また、MMOを定量したところ、0.05%であった。
MMO 0.13g(1.29ミリモル)、水(添加溶媒)45.27gを添加して、固形分10%、ポリイミド前駆体に対してMMO濃度5モル%となるように調整して、ポリイミド前駆体組成物(A−1)を得た。なお、表1〜5中、この酢酸を添加してから、環状アミン化合物としてのMMO、及び添加溶媒としての水を添加するまでの工程を「アミン置換工程」と表記する。
ここで、生成したポリイミド前駆体のイミド化率は0.02%であり、末端アミノ基量の測定の結果、少なくとも末端にアミノ基を有するものを含有するものであった。
【0139】
なお、各測定は以下の通りである。
【0140】
(粘度測定方法)
粘度は、E型粘度計を用いて下記条件で測定を行った。
・測定装置: E型回転粘度計TV−20H(東機産業株式会社)
・測定プローブ: No.3型ローター3°×R14
・測定温度: 22℃
【0141】
(固形分測定方法)
固形分は、示差熱熱重量同時測定装置を用いて下記条件で測定した。なお、380℃の測定値をもって、固形分はポリイミドとしての固形分率として測定した。
・測定装置: 示差熱熱重量同時測定装置TG/DTA6200(セイコーインスツルメンツ株式会社)
・測定範囲: 20℃以上400℃以下
・昇温速度: 20℃/分
【0142】
(アミン化合物の含有量の測定)
環状アミン化合物、脂肪族非環状アミン化合物等のアミン化合物の含有量は、発生ガス質量分析法により下記装置装置で定量し、測定した。
・測定装置: GCMS−QP2010SE(島津製作所株式会社製)
・カラム: Agilent J&W DB(25mmφ:30m)
【0143】
<評価>
得られたポリイミド前駆体組成物(A−1)を用いて製膜を行って、フィルムを作製し、その製膜性について評価した。また、得られた製膜フィルムの力学特性(引張り強度、引張り伸び)を測定した。
【0144】
(製膜性)
ポリイミド前駆体組成物(A−1)を用い、下記操作により製膜を行った。製膜フィルムについて、(1)ボイド痕、(2)表面ムラ・模様を評価した。
・塗布方法: 塗布厚100μmとなるようにスペーサーを設置した塗布ブレードを用いたバーコート法。
・塗布基材: 1.1mmtガラス板
・乾燥温度: 60℃×10分
・焼成温度: 250℃×30分
【0145】
(1)ボイド痕
製膜フィルム表面のボイド痕の有無を評価した。評価基準は以下の通りである。
◎: ボイド痕の発生が見られない。
○: 製膜フィルム表面に1個以上10個未満のボイド痕が確認できる。
△: 製膜フィルム表面に10個以上50個未満のボイド痕が点在する。
×: 製膜フィルム表面に無数のボイド痕が一様に発生している。
【0146】
(2)表面ムラ・模様
製膜フィルム表面に発生する表面ムラ、模様の有無を評価した。評価基準は以下の通りである。
◎: 表面ムラ、模様の発生が見られない。
○: 製膜フィルム表面の一部に表面ムラ、模様が僅かに確認できる(製膜フィルム表面面積の10%未満)。
△: 製膜フィルム表面の一部に表面ムラ、模様が確認できる。
×: 製膜フィルム表面に表面ムラ、模様が一様に発生している(製膜フィルム表面面積の10%以上)。
【0147】
(引張り強度・伸び)
作製した製膜フィルムより、ダンベル3号を用いて試料片を打ち抜き成形した。試料片を引張り試験機に設置し、下記条件で、試料片が引張り破断する印加荷重(引張り強度)、破断伸び(引張り伸び)を測定した。
・試験装置 : アイコーエンジニアリング社製引張り試験機1605型
・試料長さ :30mm
・試料幅 : 5mm
・引張り速度 :10mm/min
【0148】
(絶縁性)
製膜フィルムの絶縁性について、次のように評価した。フィルム試料の体積抵抗値にて評価判定を行った。測定方法は、下記装置等を用いて、JIS K6911,JIS K6271に従った。
装置本体:超絶縁計 R−503 (株)川口電機製作所製
電極装置:測定電極 P−616 (株)川口電機製作所製
評価基準は以下の通りである。
◎: 1013 Ω・m以上
○: 1012以上1013 Ω・m未満
△: 1011以上1012 Ω・m未満
×: 1011Ω・m未満
【0149】
(ポットライフ)
ポリイミド前駆体組成物を常温常湿(22℃、55%RH)環境下で240時間保存し、保存前後のポリアミック酸組成物の粘度をE型粘度計で測定した。E型粘度計の詳細は以下の通りである。
−E型粘度計の詳細−
・E型粘度計:(東機産業社製TV−22型又はTV−25型)、循環恒温槽
・ローター:3°×R14
・ロータ回転数:50rpm
・測定温度:22±0.5℃
【0150】
−ポットライフの評価基準−
◎:保存前後のポリアミック酸組成物の粘度差が3%以内
○:保存前後のポリアミック酸組成物の粘度差が3%超え10%以内
△:保存前後のポリアミック酸組成物の粘度差が10%超え15%以内
×:保存前後のポリアミック酸組成物の粘度差が15%超える
【0151】
<実施例2〜9>
[ポリイミド前駆体組成物(A−2)〜(A−9)の作製]
ポリイミド前駆体組成物の製造条件を、表1〜表2に記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体組成物(A−2)〜(A−9)を作製した。
そして、実施例1と同様にして、製膜フィルムを作製し、評価をした。評価結果を表1〜表2に示す。
【0152】
<実施例10>
[ポリイミド前駆体組成物(B−1)の作製]
攪拌棒、温度計、滴下ロートを取り付けたフラスコに、水900gを充填した。ここに、PDA 27.28g(252.27ミリモル)と、MMO 2.55g(25.23ミリモル)、DMAEt 44.97g(504.54ミリモル)、とを添加し、20℃で10分間攪拌して分散させた。この溶液にBPDA 72.72g(247.16ミリモル)を添加し、反応温度20℃に保持しながら、48時間攪拌して溶解、反応を行い、ポリイミド前駆体組成物(B−1)を得た。なお、表2中、この工程を「重合工程」と表記する。
なお、生成したポリイミド前駆体のイミド化率は0.04であり、既述の末端アミノ基量の測定の結果、少なくとも末端にアミノ基を有するものを含有するものであった。
そして、実施例1と同様にして、製膜フィルムを作製し、評価をした。評価結果を表2に示す。
【0153】
<実施例11〜13>
[ポリイミド前駆体組成物(A−10)〜(A−14)の作製]
ポリイミド前駆体組成物の製造条件を、表3〜表4に記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体組成物(A−10)〜(A−14)を作製した。
そして、実施例1と同様にして、製膜フィルムを作製し、評価をした。評価結果を表3〜表4に示す。
【0154】
<比較例1>
[ポリイミド前駆体組成物(X−1)の作製]
攪拌棒、温度計、滴下ロートを取り付けたフラスコに、水853.73gを充填した。ここに、PDA 27.28g(252.27ミリモル)と、MMO 52.51g(519.04ミリモル)、とを添加し、20℃で10分間攪拌して分散させた。この溶液に、BPDA72.72g(247.16ミリモル)を添加し、反応温度20℃に保持しながら、24時間攪拌して溶解、反応を行い、ポリイミド前駆体組成物(X−1)を得た。
なお、生成したポリイミド前駆体のイミド化率は0.04であり、既述の末端アミノ基量の測定の結果、少なくとも末端にアミノ基を有するものを含有するものであった。
そして、実施例1と同様にして、製膜フィルムを作製し、評価をした。評価結果を表5に示す。
【0155】
<比較例2>
[ポリイミド前駆体組成物(X−2)の作製]
攪拌棒、温度計、滴下ロートを取り付けたフラスコに、水847.49gを充填した。ここに、PDA 27.28g(252.27ミリモル)と、DMAEt 46.27g(519.04ミリモル)、とを添加し、20℃で10分間攪拌して分散させた。この溶液に、BPDA72.72g(247.16ミリモル)を添加し、反応温度20℃に保持しながら、48時間攪拌したが、モノマーを溶解することができなかった。
【0156】
<比較例3>
[ポリイミド前駆体組成物(X−3)の作製]
攪拌棒、温度計、滴下ロートを取り付けたフラスコに、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す。)900.00gを充填した。ここに、PDA 27.28g(252.27ミリモル)、を添加し、20℃で10分間攪拌して分散させた。この溶液に、BPDA72.72g(247.16ミリモル)を添加し、反応温度20℃に保持しながら、24時間攪拌して溶解、反応を行った。
反応後、メタノール10リットルを添加してポリイミド前駆体(樹脂)を析出させた。100メシュフィルターでろ別後、ポリイミド前駆体をフラスコに戻し、水853.73g、DMAEt 44.97g(504.54ミリモル)を添加し、20℃にて12時間撹拌溶解を行い、ポリイミド前駆体を溶解させ、ポリイミド前駆体組成物(X−3)を得た。
そして、実施例1と同様にして、製膜フィルムを作製し、評価をした。評価結果を表5に示す。
【0157】
<比較例4>
[ポリイミド前駆体組成物(X−4)の作製]
ポリイミド前駆体組成物の合成条件を、下記表1に記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体組成物(X−4)を作製した。
そして、実施例1と同様にして、製膜フィルムを作製し、評価をした。評価結果を表5に示す。
【0158】
<臭気検査>
各例で得られたポリイミド前駆体組成物の臭気について、試験者A〜Jの計10名による検査を行った。試験者A〜Jは無作為に抽出した男女5名で、試料素性を隠し試料番号により最も悪臭のする試料を選定する方法で行った。
臭気検査は、ポリイミド前駆体組成物(A−1)及び(X−1)の2つの試料を用いて行った臭気検査(1)と、ポリイミド前駆体組成物(A−1)及び(X−3)の2つの試料を用いて行った臭気検査(2)と、の2回に分けて行った。各臭気検査の結果を表6に各々示す。
【0159】
【表1】
【0160】
【表2】
【0161】
【表3】
【0162】
【表4】
【0163】
【表5】
【0164】
【表6】
【0165】
上記結果から、本実施例では、比較例に比べ、製膜性、力学特性の評価について良好な結果が得られたことがわかる。
また、本実施例では、比較例1に比べ、ポットライフも良好であり、また、絶縁性に富むポリイミド成形体が得られることもわかる。
また、本実施例では、比較例に比べ、同等のアミン化合物の配合量でも臭気が抑制されていることもわかる。
【0166】
なお、表1〜表5中の略称については、以下の通りである。また、表1〜表5中、「−」は未添加又は未実施を意味している。
【0167】
−テトラカルボン酸二無水物−
・BPDA(3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物;分子量294.22)
・PMDA(ピロメリット酸二無水物:分子量218.12)
【0168】
−ジアミン化合物−
・PDA(p−フェニレンジアミン:分子量108.14)
・ODA(4,4’−ジアミノジフェニルエーテル:分子量200.24)
【0169】
−環状アミン化合物−
・MMO(メチルモルホリン:分子量101.15)
・EMO(エチルモルホリン:分子量115.17)
・DMZ(1,2−ジメチルイミダゾール:分子量96.13)
・HMP(4−ヒドロキシメチルピペリジン)
【0170】
−脂肪族非環状アミン化合物−
・DMAEt(ジメチルアミノエタノール:分子量89.14)
・DMAPr(ジメチルアミノプロパノール)
【0171】
−溶媒−
・THF(テトラヒドロフラン)
【0172】
<実施例A>
ポリイミド前駆体組成物(A−1)をITO電極付きガラス基板の電極面にスピンコートし、60℃×10分で乾燥後、250℃×30分で焼成を行って、厚み70nmのポリイミド膜を形成し、その表面にラビング処理を施した。これにより、ITO電極付きガラス基板の電極面に、ポリイミド膜からなる液晶配向膜を形成した。
この液晶配向膜が形成されたITO電極付き基板を一対作製し、互いのラビング方向が直交し、スペーサを介して互いの液晶配向膜が対向するように一対の基板を重ね合わせた。そして、互いの液晶配向膜の間隙に液晶「WLC−2003(メルク社製)」を注入した後、一対の基板の周囲を封止して、液晶セルを作製した。
偏光顕微鏡により、得られた液晶セルの配向状態を観察したところ、液晶が配向していることが確認された。
なお、ポリイミド前駆体組成物(A−1)に代えて、ポリイミド前駆体組成物(A−2)〜(A−14)及び(B−1)を用いて、各々、同様にして、液晶セルを作製したところ、得られた液晶セルでは液晶が配向していることが確認された。
【0173】
<実施例B>
ポリイミド樹脂基板上に、銅箔の配線パターンが形成されたフレキシブル配線基板を準備した。
このフレキシブル配線基板の配線面に、ポリイミド前駆体組成物(A−1)を印刷塗布し、60℃×10分で乾燥後、250℃×30分で焼成を行って、厚み5μmのポリイミド膜を形成した。これにより、フレキシブル配線基板の配線面に、ポリイミド膜からなるパッシベーション膜(層間絶縁膜)を形成した。
このパッシベーション膜付きフレキシブル配線基板の配線パターンとパッシベーション膜の間で、導通試験を行ったところ、導通せず、パッシベーション膜が絶縁被覆膜として機能していることが確認された。
なお、ポリイミド前駆体組成物(A−1)に代えて、ポリイミド前駆体組成物(A−2)〜(A−14)及び(B−1)を用いて、各々、同様にして、パッシベーション膜付きフレキシブル配線基板を作製したこところ、パッシベーション膜が絶縁被覆膜として機能していることが確認された。
【0174】
<実施例C>
ポリイミド前駆体組成物(A−1)をアルミ箔の表面に厚さ350μmで流延塗布した後、形成された塗膜を60℃×10分で乾燥した。得られた乾燥膜をアルミ箔から剥離し、フレームに固定した状態で、250℃×30分で焼成を行って、厚み25μmのポリイミドフィルムを作製した。
得られたポリイミドフィルムの両面に、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体水性塗料(EPA水性ディスパージョン)を塗布し、150℃1分間乾燥、415℃15秒間焼成して、厚み25μmのフッ素樹脂層(熱融着層)を形成した。このフッ素樹脂層が形成されたポリイミドフィルム積層体をテープ状に加工して、電線被覆テープを作製した。得られた電線被覆テープを銅製の電線に巻き付け、加熱処理を施して、電線被覆テープのフッ素樹脂層(熱融着層)を溶融させ、電線被覆テープを電線に熱融着した。
この電線被覆テープ付き電線の電線と電線被覆テープとの間で、導通試験を行ったところ、導通せず、電線被覆テープが絶縁被覆膜として機能していることが確認された。
なお、ポリイミド前駆体組成物(A−1)に代えて、ポリイミド前駆体組成物(A−2)〜(A−14)及び(B−1)を用いて、各々、同様にして、電線被覆テープ付き電線を作製したところ、電線被覆テープが絶縁被覆膜として機能していることが確認された。
【0175】
<実施例D>
ポリイミド前駆体組成物(A−1)をポリイミドフィルムの表面にスピンコートした。次に、ポリイミドフィルムの塗膜形成面に別のポリイミドフィルムを重ね合わせた。そして、この状態で、ポリイミド前駆体組成物(A−1)の塗膜に対して、60℃×10分で乾燥後、250℃×30分で焼成を行って、厚み70μmのポリイミド膜を形成した。
得られたポリイミドフィルムの積層体から一方のポリイミドフィルムを引き剥がそうとしたところ、容易には剥がれず、2つのポリイミドフィルム間に形成したポリイミド膜が接着膜として機能していることが確認された。
なお、ポリイミド前駆体組成物(A−1)に代えて、ポリイミド前駆体組成物(A−2)〜(A−14)及び(B−1)を用いて、各々、同様にして、ポリイミドフィルムの積層体を作製したところ、2つのポリイミドフィルム間に形成したポリイミド膜が接着膜として機能していることが確認された。
【0176】
以上説明した実施例1〜15と共に、実施例A〜Dの結果から、実施例1〜15のポリイミド前駆体組成物により、機械的強度の高い各種のポリイミド成形体(液晶配向膜、パッシベーション膜、電線被覆テープ(電線被覆材)、接着膜)が得られることがわかる。また、製膜性が高く、表面性状に優れた各種のポリイミド成形体が得られることがわかる。