【実施例】
【0065】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく説明する。尚、各実施例にて示された技術内容は、別の実施例にて示された技術内容と適宜組み合わせて用いることができる。
【0066】
〔実施例1〕
レドックスフロー型電池の性能評価を下記方法にて行った。
【0067】
負極電解液を、下記方法によって調製した。即ち、先ず、蒸留水50mlに、0.02モル(7.87g)のDTPA(5H)と0.1モル(4.0g)のNaOHとを加えて溶解させた。続いて、この水溶液に、0.02モル(5.56g)のFeSO
4・7H
2Oを加えて溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4(導電塩)を加えて溶解させた。次いで、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、Fe(II)−DTPA錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製した。
【0068】
続いて、下記方法によって上記水溶液の電解酸化を行った。即ち、
図1に示す構成を有するレドックスフロー型電池を用いて水溶液の電解酸化を行った。但し、電解酸化(および後述する充放電試験)に用いたレドックスフロー型電池は、試験用の小規模の電池である。正極および負極として、カーボンフェルトの一種であるSGL社製のGFA5を用い、電極面積を10cm
2 とした。隔膜として、イオン交換膜の一種であるアストム社製のCMSを用いた。集電板として、ガラス状カーボン板の一種である昭和電工株式会社製のSGカーボン(厚さ0.6mm)を用いた。充放電セルとして、プラスチック容器を用い、上記正極、負極、隔膜、集電板を装填した状態で、正極側および負極側の容量(電解液の容量)がそれぞれ3mlとなるように調節した。
【0069】
正極電解液タンクおよび負極電解液タンクとして、容量30mlのガラス容器を用いた。供給管、回収管、不活性ガス供給管、排気管等の各種配管として、シリコーン製のチューブを用いた。ポンプとして、東京理科器械株式会社製のマイクロチューブポンプMP−1000を用いた。そして、充放電装置として、菊水電子工業株式会社製の充放電バッテリテストシステムPFX200を用いた。
【0070】
上記構成のレドックスフロー型電池の、正極電解液タンクにFe(II)−DTPA錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液20mlを入れ、負極電解液タンクにNa
2SO
4の濃度が0.5モル/Lである水溶液20mlを入れた。そして、200mAの定電流で32分間、充電(計384クーロン)を行った。充電の開始前および期間中、不活性ガス供給管から窒素ガスを供給して、充放電セル並びに正極電解液タンクおよび負極電解液タンクの気相部分から酸素を追い出すと共に、水溶液中の溶存酸素も追い出した。これにより、正極電解液タンクに入れた水溶液に含まれるFe(II)−DTPA錯体を電解酸化して、Fe(III) −DTPA錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製し、負極電解液とした。尚、充電中、負極側では水素ガスが発生した。
【0071】
一方、正極電解液を、下記方法によって調製した。即ち、先ず、蒸留水50mlに、0.02モル(0.86g)のポリエチレンイミンを加えて溶解させた。当該ポリエチレンイミンとして、平均分子量が600のポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製)を用いた。
【0072】
続いて、この水溶液に、濃度が2.5モル/Lの希硫酸約2mlを滴下してpHを7に調節した。その後、上記水溶液に、0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを加えて溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4(導電塩)を加えて溶解させた。次いで、濃度が2.5モル/Lの希硫酸を滴下してpHを6に調節した後、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、Mn(II)−ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製した。
【0073】
続いて、負極電解液の電解酸化の方法と同様の方法によって上記水溶液の電解酸化を行った。即ち、上記構成のレドックスフロー型電池の、正極電解液タンクにMn(II)−ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液20mlを入れ、負極電解液タンクにFe(III) −DTPA錯体の濃度が0.2モル/Lである前記水溶液20mlを入れた。そして、200mAの定電流で32分間、充電(計384クーロン)を行った。充電の開始前および期間中、不活性ガス供給管から窒素ガスを供給して、充放電セル並びに正極電解液タンクおよび負極電解液タンクの気相部分から酸素を追い出すと共に、水溶液中の溶存酸素も追い出した。これにより、正極電解液タンクに入れた水溶液に含まれるMn(II)−ポリエチレンイミン錯体を電解酸化して、Mn(III) −ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製し、正極電解液とした。但し、電解酸化したMn−ポリエチレンイミン錯体の正確な価数(価数の分布)は不明である。
【0074】
上記正極電解液および負極電解液を用いて、上記構成のレドックスフロー型電池の充放電試験を下記条件で行った。
【0075】
即ち、上記構成のレドックスフロー型電池の、正極電解液タンクにMn(III) −ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液20mlを入れ、負極電解液タンクにFe(III) −DTPA錯体の濃度が0.2モル/Lである前記水溶液20mlを入れた。充放電試験は、100mAの定電流で40分間、充電(計240クーロン)を行い、放電を100mAの定電流で行った。放電終止電圧は0.0Vに設定した。そして、充電から始めて、充放電を五回(5サイクル)繰り返した。尚、充放電試験の開始前および期間中、不活性ガス供給管から窒素ガスを供給して、充放電セル並びに正極電解液タンクおよび負極電解液タンクの気相部分から酸素を追い出すと共に、電解液中の溶存酸素を追い出した。
【0076】
正極側のレドックス反応は「Mn(III) −ポリエチレンイミン錯体 ⇔ Mn(IV)−ポリエチレンイミン錯体 + e
−」であり、負極側のレドックス反応は「Fe(III) −DTPA錯体 + e
− ⇔ Fe(II)−DTPA錯体」であると考えられる。
【0077】
充放電試験の結果(電池電圧の推移)を
図2にグラフとして示す。当該グラフから、上記レドックスフロー型電池の各種性能、即ち、「充放電サイクル特性(可逆性)」、「クーロン効率」、「電圧効率」、「エネルギー効率」および「電解液の利用率」を算出した。また、1サイクル目の充放電において、充電から放電に切り替わるとき(電流が0mAのとき)の端子電圧を読み取って「起電力」とした。
【0078】
上記「充放電サイクル特性(可逆性)」は、2サイクル目の充放電における放電時のクーロン量bと、3サイクル目の充放電における放電時のクーロン量eとを求め、式「(e/b)×100」(%)を用いて算出した。そして、算出した数値が80%以上である場合を「○」(繰り返しの充放電可能)、80%未満である場合を「×」(繰り返しの充放電不可能)と評価した。
【0079】
上記「クーロン効率」は、2サイクル目の充放電における充電時のクーロン量aおよび放電時のクーロン量bを求め、式「(b/a)×100」(%)を用いて算出した。
【0080】
上記「電圧効率」は、2サイクル目の充放電における充電時の平均の端子電圧aおよび放電時の平均の端子電圧bを求め、式「(b/a)×100」(%)を用いて算出した。
【0081】
上記「エネルギー効率」は、2サイクル目の充放電における充電時の電力量aおよび放電時の電力量bを求め、式「(b/a)×100」(%)を用いて算出した。
【0082】
上記「電解液の利用率」は、正極側または負極側に供給される電解液の活物質の量(モル数)にファラデー定数(96500クーロン/モル)を乗じてクーロン量cを求めると共に、1サイクル目の充放電における放電時のクーロン量dを求め、式「(d/c)×100」(%)を用いて算出した。尚、いわゆる二液式で、正極側に供給される電解液の活物質の量と、負極側に供給される電解液の活物質の量とに差がある場合には、少ない量の方を採用して算出することとした。
【0083】
その結果、「起電力」は1.2V、「充放電サイクル特性(可逆性)」は「○」(103%)、「クーロン効率」は85%、「電圧効率」は85%、「エネルギー効率」は72%、「電解液の利用率」は53%であった。従って、上記構成のレドックスフロー型電池は、電力貯蔵電池として好適に使用することができることが判った。
【0084】
また、「電解液の電位」を下記方法で評価した。即ち、レドックスフロー型電池の正極電解液タンクおよび負極電解液タンクに予め黒鉛電極と銀/塩化銀(飽和塩化カリウム水溶液)電極とを各々挿入し、充放電時の銀/塩化銀(飽和塩化カリウム水溶液)電極に対する黒鉛電極の電位を測定することによって評価した。その結果、正極電解液の電位は、放電終止時が0.94V、充電終止時が1.06Vであった。また、負極電解液の電位は、放電終止時が0.00V、充電終止時が−0.13Vであった。
【0085】
尚、上記各種性能(充放電サイクル特性(可逆性)、クーロン効率、電圧効率、エネルギー効率、電解液の利用率、および電解液の電位)の具体的な算出方法については、公知の方法を採用することもできる。
【0086】
次に、上記正極電解液および負極電解液を用いて、上記構成のレドックスフロー型電池の自己放電試験を下記条件で行った。
【0087】
即ち、上記構成のレドックスフロー型電池の、正極電解液タンクにMn(III) −ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液20mlを入れ、負極電解液タンクにFe(III) −DTPA錯体の濃度が0.2モル/Lである前記水溶液20mlを入れた。また、上記正極電解液タンクおよび負極電解液タンクに予め黒鉛電極と銀/塩化銀(飽和塩化カリウム水溶液)電極とを各々挿入した。自己放電試験は、100mAの定電流で30分間、充電(計180クーロン)を行って、充電後の銀/塩化銀(飽和塩化カリウム水溶液)電極に対する黒鉛電極の電圧を測定した後、レドックスフロー型電池を室温(約25℃)で一晩(約18時間)静置して、そのときの銀/塩化銀(飽和塩化カリウム水溶液)電極に対する黒鉛電極の電圧を測定し、両電圧を比較することによって行った。上記条件で充電したときの充電後の正極電解液には、Mn(III) −ポリエチレンイミン錯体が約0.1モル/Lの濃度、および、Mn(IV)−ポリエチレンイミン錯体が約0.1モル/Lの濃度で(凡そ50%:50%で)含まれており、充電後の負極電解液には、Fe(III) −DTPA錯体が約0.1モル/Lの濃度、および、Fe(II)−DTPA錯体が約0.1モル/Lの濃度で(凡そ50%:50%で)含まれていると考えた。尚、自己放電試験の開始前および期間中、不活性ガス供給管から窒素ガスを供給して、充放電セル並びに正極電解液タンクおよび負極電解液タンクの気相部分から酸素を追い出すと共に、電解液中の溶存酸素を追い出した。
【0088】
その結果、正極電解液の充電後の電圧は1.00Vであり、一晩静置後の電圧は1.00Vであった。また、負極電解液の充電後の電圧は−0.07Vであり、一晩静置後の電圧は−0.07であった。従って、上記構成のレドックスフロー型電池は、実質的に自己放電しない(自己放電が充分に遅い)ことが判った。
【0089】
〔実施例2〕
負極電解液を、下記方法によって調製した。即ち、先ず、蒸留水50mlに、0.02モル(0.86g)のポリエチレンイミンを加えて溶解させた。当該ポリエチレンイミンとして、平均分子量が600のポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製)を用いた。
【0090】
続いて、この水溶液に、濃度が2.5モル/Lの希硫酸約3mlを滴下してpHを6に調節した。その後、上記水溶液に、0.02モル(3.19g)のCuSO
4を加えて溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4(導電塩)を加えて溶解させた。次いで、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、Cu(II)−ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製した。当該水溶液のpHは3であった。
【0091】
一方、正極電解液を、下記方法によって調製した。即ち、先ず、蒸留水50mlに、0.02モル(0.86g)のポリエチレンイミンを加えて溶解させた。当該ポリエチレンイミンとして、平均分子量が600のポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製)を用いた。
【0092】
続いて、この水溶液に、濃度が2.5モル/Lの希硫酸約3mlを滴下してpHを6に調節した。その後、上記水溶液に、0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを加えて溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4(導電塩)を加えて溶解させた。次いで、濃度が2.5モル/Lの希硫酸を滴下してpHを5に調節した後、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、Mn(II)−ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製した。
【0093】
続いて、実施例1の電解酸化の方法と同様の方法によって上記水溶液の電解酸化と電解還元とを行った。即ち、上記構成のレドックスフロー型電池の、正極電解液タンクにMn(II)−ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液15mlを入れ、負極電解液タンクにCu(II)−ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである前記水溶液15mlを入れた。但し、集電板として、正極側の集電板には純チタン(厚さ0.6mm)を用い、負極側の集電板にはガラス状カーボン板の一種である昭和電工株式会社製のSGカーボン(厚さ0.6mm)を用いた。
【0094】
そして、100mAの定電流で50分間、充電(計300クーロン)を行った。充電の開始前および期間中、不活性ガス供給管から窒素ガスを供給して、充放電セル並びに正極電解液タンクおよび負極電解液タンクの気相部分から酸素を追い出すと共に、水溶液中の溶存酸素も追い出した。これにより、正極電解液タンクに入れた水溶液に含まれるMn(II)−ポリエチレンイミン錯体を電解酸化して、Mn(III) −ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製し、正極電解液とした。但し、電解酸化したMn−ポリエチレンイミン錯体の正確な価数(価数の分布)は不明である。
【0095】
一方、充電中、負極電解液タンクのCu(II)−ポリエチレンイミン錯体は還元されて、Cu(I) −ポリエチレンイミン錯体となり、従って水溶液はCu(I) −ポリエチレンイミン錯体の水溶液となった。但し、電解還元したCu−ポリエチレンイミン錯体の正確な価数(価数の分布)は不明である。
【0096】
上記正極電解液および負極電解液を用いて、実施例1に記載したレドックスフロー型電池と同様の構成を備えたレドックスフロー型電池の充放電試験を下記条件で行った。
【0097】
即ち、上記構成のレドックスフロー型電池の、正極電解液タンクにMn(III) −ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液15mlを入れ、負極電解液タンクにCu(I) −ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである前記水溶液15mlを入れた。充放電試験は、100mAの定電流で40分間、充電(計240クーロン)を行い、放電を100mAの定電流で行った。放電終止電圧は0.0Vに設定した。そして、充電から始めて、充放電を三十回(30サイクル)繰り返す前試験を行った後、本試験として充放電を二十回(20サイクル、計50サイクル)繰り返した。尚、充放電試験の開始前および期間中、不活性ガス供給管から窒素ガスを供給して、充放電セル並びに正極電解液タンクおよび負極電解液タンクの気相部分から酸素を追い出すと共に、電解液中の溶存酸素を追い出した。
【0098】
正極側のレドックス反応は「Mn(III) −ポリエチレンイミン錯体 ⇔ Mn(IV)−ポリエチレンイミン錯体 + e
−」であり、負極側のレドックス反応は「Cu(II)−ポリエチレンイミン錯体 + e
− ⇔ Cu(I) −ポリエチレンイミン錯体」であると考えられる。尚、前試験においては、濃度が0.2モル/LであるCu(II)−ポリエチレンイミン錯体が形成(再生)されていると考えられる。
【0099】
充放電試験の本試験(31サイクル目〜50サイクル目)の結果(電池電圧の推移)を
図3にグラフとして示す。当該グラフから、実施例1と同様にして、上記レドックスフロー型電池の各種性能、即ち、「充放電サイクル特性(可逆性)」、「クーロン効率」、「電圧効率」、「エネルギー効率」および「電解液の利用率」を算出した。但し、各算出方法は下記方法とした。また、31サイクル目の充放電において、充電から放電に切り替わるとき(電流が0mAのとき)の端子電圧を読み取って「起電力」とした。
【0100】
上記「充放電サイクル特性(可逆性)」は、31サイクル目の充放電における放電時のクーロン量bと、50サイクル目の充放電における放電時のクーロン量eとを求め、式「(e/b)×100」(%)を用いて算出した。
【0101】
上記「クーロン効率」は、50サイクル目の充放電における充電時のクーロン量aおよび放電時のクーロン量bを求め、式「(b/a)×100」(%)を用いて算出した。
【0102】
上記「電圧効率」は、32サイクル目の充放電における充電時の平均の端子電圧aおよび放電時の平均の端子電圧bを求め、式「(b/a)×100」(%)を用いて算出した。
【0103】
上記「エネルギー効率」は、32サイクル目の充放電における充電時の電力量aおよび放電時の電力量bを求め、式「(b/a)×100」(%)を用いて算出した。
【0104】
上記「電解液の利用率」は、正極側または負極側に供給される電解液の活物質の量(モル数)にファラデー定数を乗じてクーロン量cを求めると共に、31サイクル目の充放電における放電時のクーロン量dを求め、式「(d/c)×100」(%)を用いて算出した。尚、いわゆる二液式で、正極側に供給される電解液の活物質の量と、負極側に供給される電解液の活物質の量とに差がある場合には、少ない量の方を採用して算出することとした。
【0105】
その結果、「起電力」は1.08V、「充放電サイクル特性(可逆性)」は「○」(101%)、「クーロン効率」は94%、「電圧効率」は55%、「エネルギー効率」は51%、「電解液の利用率」は78%であった。従って、上記構成のレドックスフロー型電池は、電力貯蔵電池として好適に使用することができることが判った。
【0106】
また、「電解液の電位」を実施例1と同様にして評価した。その結果、正極電解液の電位は、放電終止時が0.94V、充電終止時が1.06Vであった。また、負極電解液の電位は、放電終止時が0.14V、充電終止時が0.06Vであった。
【0107】
〔実施例3〕
マンガンイオンとポリエチレンイミンに含まれる窒素原子とのモル比を変更したときの正極電解液の性能評価を、サイクリックボルタンメトリーを用いて下記方法にて行った。即ち、正極電解液の性能を評価するために、測定装置として下記構成のサイクリックボルタンメトリーを用いて、正極電解液に浸漬した電極の電極特性を測定(電気化学測定)した。サイクリックボルタンメトリー(CV)の概略の構成を、
図12に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0108】
図12に示すように、サイクリックボルタンメトリー20は、フッ素樹脂からなる環状の上ブロック27aおよび板状の下ブロック27bを備えており、これら上ブロック27aおよび下ブロック27b間にO−リング25を介して、グラッシーカーボン(東海カーボン株式会社製)からなる電極23を作用電極として挟み込み、ボルト26a・26bで固定することによって、セル29を構成するようになっている。セル29には正極電解液が被測定電解液24として満たされている。サイクリックボルタンメトリー20は、当該セル29内に、銀/塩化銀(飽和塩化カリウム水溶液)電極からなる参照電極21、および白金線からなる対極22を被測定電解液24に浸漬するように備えると共に、セル29を覆う蓋30を有している。対極22は参照電極21に巻回するように一定の間隔を空けて配置されている。蓋30には参照電極21、対極22、およびチューブ28を通す孔が形成されている。チューブ28は、図示しない供給装置からセル29内における被測定電解液24の上方に窒素ガスを供給するようになっており、供給した窒素ガスで被測定電解液24を大気中の酸素と遮断し、酸素の影響を排除するようになっている。
【0109】
上記構成のサイクリックボルタンメトリー20を用いて、正極電解液に浸漬した電極の電極特性を測定(電気化学測定)して、正極電解液の性能を評価した。具体的には、サイクリックボルタンメトリー20を電気化学測定システム(HZ−5000;北斗電工株式会社製)に電気的に接続し、測定温度を20℃または60℃、被測定電解液24に接触する電極23の表面積を0.44cm
2 、掃引速度(走査速度)を100mV/s、掃引範囲(走査範囲)を−1.0V〜1.5V(対銀/塩化銀(飽和塩化カリウム水溶液)電極)、掃引回数(充放電の繰り返しサイクル数)を50回にして、電極23の電極特性を測定した。
【0110】
上記被測定電解液として、マンガンイオンとポリエチレンイミンに含まれる窒素原子とのモル比が1:1の正極電解液を、下記方法によって調製した。即ち、先ず、蒸留水50mlに、0.02モル(0.86g)のポリエチレンイミンを加えて溶解させた。当該ポリエチレンイミンとして、平均分子量が600のポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製)を用いた。
【0111】
続いて、この水溶液に、濃度が2.5モル/Lの希硫酸約2mlを滴下してpHを7に調節した。その後、上記水溶液に、0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを加えて溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4を加えて溶解させた。次いで、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、マンガンイオンとポリエチレンイミンに含まれる窒素原子とのモル比が1:1の、Mn(II)−ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製し、正極電解液aとした。
【0112】
そして、上記構成のサイクリックボルタンメトリーを用いて、上記正極電解液aに浸漬した電極の電極特性を、上記条件にて測定(電気化学測定)した。得られた電極特性をグラフにして
図4,5に示す。
図4は測定温度が20℃の場合のグラフであり、
図5は測定温度が60℃の場合のグラフである。当該グラフにおいては、横軸を電極電位(V VS Ag/AgCl)、縦軸を応答電流値(mA)とした。グラフに描かれている曲線(サイクリックボルタモグラム)の形状から、正極電解液aの充放電サイクル特性(可逆性)を評価することができる。
【0113】
当該グラフに描かれている特有の形状を有する曲線(サイクリックボルタモグラム)において、下側の曲線が還元波、上側の曲線が酸化波を示す。電極電位を1.5Vから−1.0Vへ掃引することにより、下側の曲線である還元波が右側から左側に向かって描かれる。このとき、被測定電解液24において電極23近傍に存在する酸化体であるMn(IV)−ポリエチレンイミン錯体は、還元体であるMn(III) −ポリエチレンイミン錯体へと還元される。逆に、電極電位を−1.0Vから1.5Vへ掃引することにより、上側の曲線である酸化波が左側から右側に向かって描かれる。このとき、被測定電解液24において電極23近傍に存在する還元体であるMn(III) −ポリエチレンイミン錯体は、酸化体であるMn(IV)−ポリエチレンイミン錯体へと酸化される。そして、還元波および酸化波における応答電流値は、ぞれぞれ、被測定電解液24において電極23近傍にて生じた酸化還元反応でよって発生した微弱電流を示す。また、還元波および酸化波両方におけるピーク電位(Ep)の平均値から、Mn−ポリエチレンイミン錯体の酸化還元反応系の酸化還元電位が判る。
【0114】
グラフに描かれている曲線の形状から、Mn−ポリエチレンイミン錯体の三価−四価間の酸化還元反応が安定して繰り返され、再現性に優れていることが判った。
【0115】
次に、上記被測定電解液として、マンガンイオンとポリエチレンイミンに含まれる窒素原子とのモル比が1:5の正極電解液を、下記方法によって調製した。即ち、先ず、蒸留水50mlに、0.10モル(4.30g)のポリエチレンイミンを加えて溶解させた。当該ポリエチレンイミンとして、平均分子量が600のポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製)を用いた。
【0116】
続いて、この水溶液に、濃度が2.5モル/Lの希硫酸約10mlを滴下してpHを7に調節した。その後、上記水溶液に、0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを加えて溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4を加えて溶解させた。次いで、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、マンガンイオンとポリエチレンイミンに含まれる窒素原子とのモル比が1:5の、Mn(II)−ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製し、正極電解液bとした。
【0117】
そして、正極電解液aと同様にして、上記正極電解液bに浸漬した電極の電極特性を、上記条件にて測定(電気化学測定)した。得られた電極特性をグラフにして
図6,7に示す。
図6は測定温度が20℃の場合のグラフであり、
図7は測定温度が60℃の場合のグラフである。
【0118】
グラフに描かれている曲線の形状から、Mn−ポリエチレンイミン錯体の三価−四価間の酸化還元反応が安定して繰り返され、再現性に優れていることが判った。
【0119】
そして、
図4のグラフと
図6のグラフとの比較から、20℃においては、マンガンイオンとポリエチレンイミンに含まれる窒素原子とのモル比が1:1の正極電解液aの方が、充放電サイクル特性(可逆性)に優れ、マンガンイオンの反応性が向上することが判った。また、
図5のグラフと
図7のグラフとの比較から、60℃においては、マンガンイオンとポリエチレンイミンに含まれる窒素原子とのモル比が1:5の正極電解液bの方が、充放電サイクル特性(可逆性)に優れ、マンガンイオンの反応性が向上することが判った。
【0120】
上記性能評価の結果から、レドックスフロー型電池の使用温度(運転温度)に応じて、正極電解液におけるマンガンイオンとポリエチレンイミンに含まれる窒素原子とのモル比を変更することにより、充放電サイクル特性(可逆性)に優れ、マンガンイオンの反応性がより一層向上したレドックスフロー型電池を提供することができることが判った。
【0121】
〔実施例4〕
pHを変更したときの正極電解液の性能評価を、実施例3で用いたサイクリックボルタンメトリーと同様のサイクリックボルタンメトリーを用いて、同様の方法にて行った。
【0122】
被測定電解液として、pHが1.28〜6.80の範囲の正極電解液を、下記方法によって調製した。即ち、先ず、蒸留水50mlに、0.02モル(0.86g)のポリエチレンイミンを加えて溶解させた。当該ポリエチレンイミンとして、平均分子量が600のポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製)を用いた。
【0123】
続いて、この水溶液に、濃度が2.5モル/Lの希硫酸約2mlを滴下してpHを7に調節した。その後、上記水溶液に、0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを加えて溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4を加えて溶解させた。次いで、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、Mn(II)−ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製した。
【0124】
その後、当該水溶液を四等分し、それぞれの水溶液に、濃度が2.5モル/Lの希硫酸を滴下してpHを1.28,3.01,5.80,6.80に調節し、正極電解液c−1〜c−4とした。
【0125】
そして、上記サイクリックボルタンメトリーを用いて、上記正極電解液c−1〜c−4に浸漬した電極の電極特性を、実施例3と同様の条件にて測定(電気化学測定)した。但し、測定温度は20℃とした。得られた電極特性をグラフにして
図8〜11に示す。
図8はpHが1.28の場合(正極電解液c−1)のグラフであり、
図9はpHが3.01の場合(正極電解液c−2)のグラフであり、
図10はpHが5.80の場合(正極電解液c−3)のグラフであり、
図11はpHが6.80の場合(正極電解液c−4)のグラフである。
【0126】
グラフに描かれている曲線の形状から、正極電解液のpHが2〜7の範囲内である正極電解液c−2〜c−4では、Mn−ポリエチレンイミン錯体の三価−四価間の酸化還元反応が安定して繰り返され、再現性に優れていることが判った。一方、正極電解液のpHが2〜7の範囲外である正極電解液c−1では、正極電解液c−2〜c−4と比較して、上記三価−四価間の酸化還元反応の反応性に劣ることが判った。
【0127】
上記性能評価の結果から、正極電解液のpHが2〜7の範囲内である正極電解液を用いることにより、性能がより一層優れたレドックスフロー型電池を提供することができることが判った。
【0128】
〔実施例5〕
正極電解液に含まれるMn(II)−ポリエチレンイミン錯体の溶解度を、下記方法にて確認した。
【0129】
即ち、先ず、蒸留水50mlに、0.02モル(0.86g)のポリエチレンイミンを加えて溶解させた。当該ポリエチレンイミンとして、平均分子量が600のポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製)を用いた。
【0130】
続いて、この水溶液に、濃度が2.5モル/Lの希硫酸約2mlを滴下してpHを7に調節した。次いで、上記水溶液に、0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを加えて溶解させた後、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、マンガンイオンとポリエチレンイミンに含まれる窒素原子とのモル比が1:1の、Mn(II)−ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製した。
【0131】
そして、マグネティックスターラーを用いて攪拌しながら、全量が8mlになるまで当該水溶液の水分を蒸発させた後、室温(約25℃)まで冷却した。上記水溶液を全量が8mlになるまで濃縮したことにより、Mn(II)−ポリエチレンイミン錯体の濃度は2.5モル/Lになったものの、マンガン化合物の析出は室温(約25℃)でも認められなかった。つまり、Mn(II)−ポリエチレンイミン錯体の溶解度は2.5モル/L以上であることが判り、正極電解液に含まれるマンガン−ポリエチレンイミン錯体の濃度を、0.2モル/L以上、2.5モル/L以下に調節することができることが判った。これにより、Mn(II)−ポリエチレンイミン錯体を含む正極電解液は、レドックスフロー型電池に好適に使用することができることが判った。
【0132】
さらに、上記濃縮後の水溶液(全量8ml)に、0.02モル(2.84g)のNa
2SO
4を加え、全量が15mlになるように蒸留水を加えた後、マグネティックスターラーを用いて攪拌したところ、Na
2SO
4は溶解した。従って、全量が15mlの水溶液に0.02モルのMn(II)−ポリエチレンイミン錯体と0.02モルのNa
2SO
4とが溶解したことになるので、Mn(II)−ポリエチレンイミン錯体と導電塩であるNa
2SO
4とをモル比1:1で溶解させた水溶液におけるMn(II)−ポリエチレンイミン錯体の溶解度は1.33モル/L以上であることが判った。これにより、導電塩を用いた場合においても、Mn(II)−ポリエチレンイミン錯体を含む正極電解液は、レドックスフロー型電池に好適に使用することができることが判った。
【0133】
〔比較例1〕
導電塩としてNa
2SO
4の替わりに0.10モル(5.85g)のNaClを加えた以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、Mn(II)−ポリエチレンイミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製した。
【0134】
続いて、この水溶液を電解酸化して正極電解液を調製しようとしたところ、水溶液から塩素ガスが発生した。従って、正極電解液に塩素イオンが多く含まれている(この場合は1モル/L)と、マンガンイオンが酸化されるときに、マンガンの酸化反応が妨げられて塩素ガスが発生することが判った。
【0135】
〔比較例2〕
自己放電試験において充電後に、充放電セル並びに正極電解液タンクおよび負極電解液タンクを大気中に暴露した以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、自己放電試験を行った。その結果、レドックスフロー型電池は、正極電解液の液面に接するガスに酸素が多く含まれている(大気では約20%)と、自己放電する(自己放電が非常に速い)ことが判った。
【0136】
〔比較例3〕
正極電解液として下記水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、自己放電試験を行った。
【0137】
即ち、先ず、蒸留水50mlに、0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを加えて溶解させた。続いて、この水溶液に、0.02モル(8.32g)のEDTA(4Na)・2H
2O(EDTAの四ナトリウム塩)を加えて溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4を加えて溶解させた。次いで、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、Mn(II)−EDTA錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製した。そして、上記水溶液を正極電解液として用いて、実施例1と同様の操作を行うことにより、自己放電試験を行った。
【0138】
その結果、正極電解液の充電後の電圧は0.55Vであり、一晩静置後の電圧は0.30Vであった。従って、ポリエチレンイミンの替わりにポリアミノカルボン酸であるEDTA(4Na)・2H
2Oを含む正極電解液を用いたレドックスフロー型電池は、自己放電する(自己放電が非常に速い)ことが判った。
【0139】
また、一晩静置している間に、正極電解液では炭酸ガスの発生(気泡の発生)が認められた。当該現象は非特許文献2に記載されている現象と一致しているので、配位子であるEDTAが酸化され、自己分解したと考えられる。
【0140】
〔比較例4〕
正極電解液として下記水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、自己放電試験を行った。
【0141】
即ち、先ず、蒸留水70mlに、0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを加えて溶解させた。続いて、この水溶液に、0.02モル(5.56g)のEDTA−OHと、0.06モル(2.4g)のNaOHとを少量ずつ添加して溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4を加えて溶解させた。次いで、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、Mn(II)−EDTA−OH錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製した。そして、上記水溶液を正極電解液として用いて、実施例1と同様の操作を行うことにより、自己放電試験を行った。
【0142】
その結果、正極電解液の充電後の電圧は0.48Vであり、一晩静置後の電圧は0.40Vであった。従って、ポリエチレンイミンの替わりにポリアミノカルボン酸であるEDTA−OHを含む正極電解液を用いたレドックスフロー型電池は、自己放電する(自己放電が速い)ことが判った。
【0143】
〔比較例5〕
先ず、蒸留水70mlに、0.02モル(2.96g)のマロン酸二ナトリウムを加えて溶解させた後、濃度が2.5モル/Lの希硫酸を滴下してpHを7に調節した。続いて、上記水溶液に、0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを加えて溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4を加えて溶解させた。次いで、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、Mn(II)−マロン酸錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製しようとしたが、マンガン化合物が直ちに析出することが判った。従って、ポリエチレンイミンの替わりにポリカルボン酸であるマロン酸を用いて、Mn(II)−マロン酸錯体を充分な濃度で含む正極電解液を調製することができないことが判った。
【0144】
〔比較例6〕
先ず、蒸留水70mlに、0.02モル(3.24g)のコハク酸二ナトリウムを加えて溶解させた後、濃度が2.5モル/Lの希硫酸を滴下してpHを7に調節した。続いて、上記水溶液に、0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを加えて溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4を加えて溶解させた。次いで、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、Mn(II)−コハク酸錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製しようとしたが、マンガン化合物が直ちに析出することが判った。従って、ポリエチレンイミンの替わりにポリカルボン酸であるコハク酸を用いて、Mn(II)−コハク酸錯体を充分な濃度で含む正極電解液を調製することができないことが判った。
【0145】
〔比較例7〕
正極電解液として下記水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、自己放電試験を行った。
【0146】
即ち、先ず、蒸留水70mlに、0.02モル(2.68g)のDL−リンゴ酸を加えて溶解させた後、0.04モル(1.6g)のNaOHを加えて溶解させた。続いて、この水溶液に、濃度が2.5モル/Lの希硫酸を滴下してpHを7に調節した。その後、上記水溶液に、0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを加えて溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4を加えて溶解させた。次いで、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、Mn(II)−DL−リンゴ酸錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製した。そして、上記水溶液を正極電解液として用いて、実施例1と同様の操作を行うことにより、自己放電試験を行った。
【0147】
その結果、正極電解液の充電後の電圧は0.54Vであり、一晩静置後の電圧は0.27Vであった。従って、ポリエチレンイミンの替わりにオキシ酸であるDL−リンゴ酸を含む正極電解液を用いたレドックスフロー型電池は、自己放電する(自己放電が非常に速い)ことが判った。
【0148】
〔比較例8〕
正極電解液として下記水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、自己放電試験を行った。
【0149】
即ち、先ず、蒸留水70mlに、0.02モル(4.20g)のクエン酸を加えて溶解させた後、0.06モル(2.4g)のNaOHを加えて溶解させた。続いて、この水溶液に、濃度が2.5モル/Lの希硫酸を滴下してpHを7に調節した。その後、上記水溶液に、0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを加えて溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4を加えて溶解させた。次いで、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、Mn(II)−クエン酸錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製した。そして、上記水溶液を正極電解液として用いて、実施例1と同様の操作を行うことにより、自己放電試験を行った。
【0150】
その結果、正極電解液の充電後の電圧は0.51Vであり、一晩静置後の電圧は0.20Vであった。従って、ポリエチレンイミンの替わりにオキシ酸であるクエン酸を含む正極電解液を用いたレドックスフロー型電池は、自己放電する(自己放電が非常に速い)ことが判った。
【0151】
〔比較例9〕
先ず、蒸留水70mlに、0.02モル(1.2g)のエチレンジアミンを加えて溶解させた後、濃度が2.5モル/Lの希硫酸を滴下してpHを7に調節した。続いて、上記水溶液に、0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを加えて溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4を加えて溶解させた。次いで、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、マンガンとエチレンジアミンとのモル比が1:1の、Mn(II)−エチレンジアミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製しようとしたが、マンガン化合物が直ちに析出することが判った。従って、ポリエチレンイミンの替わりにエチレンジアミンを用いて、Mn(II)−エチレンジアミン錯体を充分な濃度で含む正極電解液を調製することができないことが判った。
【0152】
〔比較例10〕
負極電解液および正極電解液として下記水溶液を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行うことにより、自己放電試験を行った。
【0153】
負極電解液を、下記方法によって調製した。即ち、先ず、蒸留水70mlに、0.1モル(6.0g)のエチレンジアミンを加えて溶解させた。続いて、この水溶液に、濃度が2.5モル/Lの希硫酸を滴下してpHを7に調節した。その後、上記水溶液に、0.02モル(3.19g)のCuSO
4を加えて溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4(導電塩)を加えて溶解させた。次いで、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、銅とエチレンジアミンとのモル比が1:5の、Cu(II)−エチレンジアミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製した。
【0154】
一方、正極電解液を、下記方法によって調製した。即ち、先ず、蒸留水70mlに、0.1モル(6.0g)のエチレンジアミンを加えて溶解させた。続いて、この水溶液に、濃度が2.5モル/Lの希硫酸を滴下してpHを7に調節した。その後、上記水溶液に、0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを加えて溶解させた後、0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4(導電塩)を加えて溶解させた。次いで、全量が100mlになるように蒸留水を加えた。これにより、マンガンとエチレンジアミンとのモル比が1:5の、Mn(II)−エチレンジアミン錯体の濃度が0.2モル/Lである水溶液を調製した。尚、マンガン化合物は析出しなかった。
【0155】
上記正極電解液および負極電解液を用いて、実施例2の充放電試験の条件と同様の条件で、レドックスフロー型電池の充放電試験を行った。但し、充放電試験は、充電を100mAの定電流で行った。充電終止電圧は2.0Vに設定した。また、放電を100mAの定電流で行った。放電終止電圧は0.3Vに設定した。
【0156】
正極側のレドックス反応は「Mn(II)−エチレンジアミン錯体 ⇔ Mn(III) −エチレンジアミン錯体 + e
−」であり、負極側のレドックス反応は「Cu(II)−エチレンジアミン錯体 + e
− ⇔ Cu(I) −エチレンジアミン錯体」であると考えられる。
【0157】
その結果、「起電力」、「クーロン効率」、「電圧効率」および「エネルギー効率」の各数値は、何れも実施例2における各数値と大差が無かった。しかしながら、実施例2のレドックスフロー型電池は、充放電を五十回(50サイクル)繰り返した後においても、電池の容量が実質的に減少しなかったのに対して、比較例10のレドックスフロー型電池は、充放電を五十回(50サイクル)繰り返すと、電池の容量が減少した。即ち、
図13に示すように、実施例2のレドックスフロー型電池の「電解液の利用率」は、充放電を五十回(50サイクル)繰り返した後においても実質的に変化しなかったのに対して、比較例10のレドックスフロー型電池の「電解液の利用率」は、充放電を繰り返すに従って著しく低下した。つまり、比較例10のレドックスフロー型電池は、実施例2のレドックスフロー型電池と比較して、「充放電サイクル特性(可逆性)」および「電解液の利用率」に劣っていた。従って、比較例10のレドックスフロー型電池は、電力貯蔵電池として広く一般に実用化されるために充分な耐久性を備えていないことが判った。
【0158】
また、充放電試験の終了後、レドックスフロー型電池の充放電セルを分解して、正極および負極であるカーボンフェルト(SGL社製のGFA5)と、集電板とを観察した。その結果、正極側ではマンガン化合物の析出が多く認められ、負極側では銅化合物の析出が多く認められた。このことからも、比較例10のレドックスフロー型電池は、電力貯蔵電池として広く一般に実用化されるために充分な耐久性を備えていないことが判った。尚、実施例2のレドックスフロー型電池では、上記析出は殆ど認められなかった。
【0159】
さらに、ポリエチレンイミン(平均分子量が600のポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製))およびエチレンジアミンの安全性を比較すると、非特許文献3,4に記載されているように、ポリエチレンイミンは危険物第4類第4石油類に属し、引火点が248℃(クリーブランド開放式)、急性毒性(経口 ラット LD50)が1350mg/kgであるのに対して、エチレンジアミンは危険物第4類第2石油類に属し、引火点が34℃(密閉式)、急性毒性(経口 ラット LD50)が500mg/kgである。従って、危険物としての取り扱い性の面や急性毒性の面で、比較例10のレドックスフロー型電池は、実施例2のレドックスフロー型電池よりも劣っていることは明らかである。
【0160】
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。